大嘗祭は日本国憲法の下で、国民から憲法違反であると異議を唱えられながら、既に平成天皇の即位の際、国事行為として実施を強行し、そしてまたこの度の新天皇(令和天皇)の即位に際しても国事行為として、安倍自公政府は実施を強行し始めている。大嘗祭は、神聖天皇主権大日本帝国政府が作った国家神道の核である、天皇を最高祭祀者とする皇室神道(天皇教)の宗教儀式のなかで最も重要とされるものである。
この皇室神道については、敗戦後の1945年12月15日、GHQが、「神道指令」=「国家神道、神社神道に対する政府の保証、支援、保全、監督ならびに弘布の廃止に関する件」を発令したのに対し、宮内省は皇室祭祀令の大祭、小祭にある「天皇、皇族及び官僚を率いて」(8条、20条)の文言を削除し、19条1項「皇室又は国家の大事を神宮、宮中三殿、神武天皇山陵、先帝山陵に親告する」儀式を中止し、例祭の際、天皇の勅使が奉幣する勅祭社の扱いを取り止めた。そして、1947年の新憲法施行とともに、皇室典範は改正され、一連の皇室令(皇室祭祀)も憲法違反の扱いとなり廃止されたのである。しかし、1947年5月2日の日本国憲法施行の翌日である5月3日、宮内府長官官房文書課長名の「依命通牒」の「皇室令及び付属法令は、5月2日限り廃止せられる事になったについては、事務は概ね左記により取り扱う事になったから、命によって通牒する」、又その3項の「従前の規定が廃止となり、新しい規定ができていないものは、従前の例に準じて事務を処理する事」にもとづいて、憲法違反(非合法)の状態のまま現在まで、続けられてきたのである。「従前の規定」とは神聖天皇主権大日本帝国政府が1908年9月の「皇室令」第1号で制定した「皇室祭祀令」であり、新嘗祭(大嘗祭)はその内の「大祭」に含まれていた。また、先の「皇族、官僚を率いて」行ってきたのは、春秋の皇霊祭、神殿祭及び新嘗祭で、その際には下記の「官僚」に賞典長名で案内状が出されてきた。
①内閣総理大臣、国務大臣、国会議員、衆参両院議長、同副議長、同両院事務総長、最高裁長官、同判事、同事務総長、認証官、国会図書館長、内閣法制局長官
②宮内庁職員、皇宮警察本部職員
などである。案内状の内容は「来る23日に新嘗祭神嘉殿の儀を行われますからご参列の向きは、午後〇時〇分までに賢所参集所に参集されますようご案内申し上げます。なお、モーニングコートを御着用…」である。
※宮中三殿(賢所、皇霊殿、神殿)の成立は1872年である。
新嘗祭は、天皇家で毎年11月に行っているが、天皇が最高祭祀者である「天皇教」とも呼ぶべき皇室神道の宗教行事であり、それも非合法の憲法違反の宗教行事である。「新嘗祭」は宮下矩雄の論文(『瑞垣』1975年10月号)によると、「11月23日の夕刻、神嘉殿に皇祖天照大神始め諸神を招じ、天皇陛下親しく新穀の御飯・御酒を神々に御饗し、また御自身も大神と御対座で召し上がられ、更に八重薦の寝座に一夜、大神の御寝を願った後、再び暁の御饗を共食あらせられる。即ち国土のいのちの稔りを神々と共に主上みずからきこしめされる神聖な一夜である」との意味づけをしている宗教儀式である。そして、儀式の内容は毎年行っている新嘗祭と同じであるが、新天皇が即位した場合、即位後の最初の新嘗祭を大嘗祭と呼ぶのである。大嘗祭は7世紀末の天武天皇(初の天皇称号使用)の頃に確立したといわれる。しかし、大嘗祭を行わない天皇もおり、中世の戦乱などで皇室が衰微した220年間は行われていない。東山天皇のとき再興したが次の中御門天皇の時は行わず、次の桜町天皇以後復活した。
その大嘗祭(新嘗祭)で、皇室がその祖先であるとしている天照大神などの神々に供える米を作る都道府県を選ぶ「斎田点定の儀」を5月13日、皇居の宮中三殿の神殿前庭に設けられた「斎舎」で古式装束を身に着けた賞典職(皇室の私的使用人)が行った。
新嘗祭で使用する新穀は明治以前には、山城国宇治郡から献上させていた。全国の農家からその年の新穀を献上させるようになったのは、1882年12月の地方官会議での岩倉具視の提案によるもので、1892年から各地方の農家が「米粟」を献上させられた。その「斎田」(大田といい、所有者を大田主という)決定は神聖天皇主権大日本帝国政府が定めた「登極令」にもとづいて行われた。登極令8条では「京都以東以南を悠紀の地方」「以西以北を主基の地方」としている。しかし、今回は東京(皇居)を中心に変更し両地方を分けた。決定手段はこれまた新憲法施行と同時に廃止された「登極令」を基に、亀甲を利用した占い(古墳時代に行われていた太占の法に似せたもの)で決めている。これも違法違憲行為であるにもかかわらずそんな事はまったく無視して行っているのである。ついでながら、アオウミガメを含むすべてのウミガメは、国際的な商取引を制限するワシントン条約の対象となっている。国内でも環境省のリストで絶滅危惧Ⅱ類に分類されているものでありながらそれを使用するという、この国際的にも非常識な宗教儀礼を現在もなお行うという面からも皇室や宮内庁、安倍自公政権を非難し、この時代錯誤の大嘗祭(新嘗祭)を廃止させるべきである。
今回の「斎田」には秋田県と大分県を選んだようだ。ところで新憲法施行後のこれまでもそうであったが今回も、宮内庁(皇室)・安倍自公政府は自治体首長(知事市町村長)職員などの公務員や県民住民に、自己の非合法行為、憲法違反(政教分離原則違反)行為への加担を強いている。つまり、人権侵害行為を強制している。皇室の賞典長から都道府県知事に対し、「本年度の大嘗祭(新嘗祭)に献穀を希望する者がある場合は、別紙のような方法で受納しますから、よろしくお取り計らい願います」との文書が届けられるだろう。「希望する者」という表現であるが、それを「協力依頼」と変えても同じで、実態は憲法が保障する「思想良心信教の自由」をまったく無視した行為の強制で人権侵害人権無視でしかない。憲法第20条は1項で「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と定め、2項で「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加する事を強制されない」と定めている。にもかかわらずこれまで知事は市町村長を介して地元農協(JA)に伝え、献穀者(担当農家)を決定してきたのであり、今回もするであろう。斎田に選ばれた両県の知事は、非合法、憲法違反の皇室神道に基づく大嘗祭を国民の権利保障以上に権利を侵害してまでも尊重すべきものとの考えに立ち、それを当たり前のように、「農業者の皆さんと共に、秋には滞りなくお納めできるようしっかり取り組みたい」「県民にとって大きな励みとなる」と歓迎し、「JAなす南」も担当農家の推薦に意欲を燃やしている。また、新嘗祭や大嘗祭には国や自治体から公金が支出されてきたが、憲法の政教分離原則は第20条3項で、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない」と定め、第89条では、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公けの支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と定めている事を尊重すべきである。皇室神道(宮中祭祀、神聖天皇主権大日本帝国政府が作った国家神道の中核)は天皇を祭祀長とする一つの宗教であり、「天皇教」なるものであるから。
このままでは今年の秋の献穀行事は、「農業祭」などの名称で、自治体(県、市町村)の首長や職員など公務員が中心となって行うだろう。その事についての彼らの理屈はおそらく、「大嘗祭(新嘗祭)と献穀行事は関連するが、両者は性質を異にする。祭りに神式の行事を伴うとしても、地鎮祭や神式の結婚式と同様の習俗的行事といえる。行事の主催者は新穀献納奉賛会で、地方公共団体ではない。奉賛会への補助金は農業振興であり、その性質は『農業まつり』である。自治体の支出は献穀者(担当農家)の栄誉をたたえ、生産の成功を祈る祝い金である」とするのであろう。今回、この大嘗祭に関連する「斎田点定の儀」を日本国民の多くが注目し歓迎したとするならば、日本の国はすでに、国民が限りなく、皇室を扶翼し、神聖天皇主権大日本帝国回帰を狙う安倍自公政府の翼賛団体化したファシズム体制に入ってしまったという事である。
(2019年5月17日投稿)