スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

沿岸部・内陸部の原発がそれぞれ抱える様々なリスク

2011-05-30 01:23:24 | コラム
原子炉の冷却には大量の水が必要であるため、原子炉の多くは海に近いところに建てられているが、他の原発でも津波などの自然災害を受けたことがあるようだ。

例えば、2004年12月のインドネシア・スマトラ島沖での大地震に伴う津波では、マドラスにあるインドで2番目に大きな原発が浸水などの被害を受けたそうだ。しかし、電気系統を制御する設備は原子炉よりも高い場所に設置されていたために、原子炉の運転が停止し、その後の冷却もうまく行われた。

1992年にはアメリア・フロリダ州のビスケーン湾(Biscayne bay)の原発が、ハリケーン「アンドリュー」によって大きな被害を受けたものの、システムの根本の部分は無事であったため、大事を免れたという。

イギリスを始めとする他の国でも、海の近くに建てられた原発は、海抜からわずか数メートルの場所に設置されていることが多く、気候変動によって嵐やハリケーンなどの頻度が高まったり、海面上昇が顕著となっていけば、浸水などのリスクも必然と高くなるだろう。

※ ※ ※

では、内陸に建てられ、河川や湖沼の水を冷却水として使用している原発はどうだろう? たしかに、海岸部の原発が抱えるようなリスクは少ないが、別の問題も抱えている。私がまず考えたのは、万が一、放射性物質が漏洩し、それが温排水を通じて外部に垂れ流れてしまった場合に、下流域の広い範囲が汚染される可能性があるということだ。

しかし、実際にはそれだけでなく、気温が高いときには冷却水が十分に確保できないという問題もあるようだ。気温が高くなれば当然ながら冷却水として使うための河川・湖沼の水温が高くなるため、原子炉から発生する熱量は同じでも、冷却のためにより多くの水が必要になる。内陸部に原子炉をたくさん保有するフランスでは、淡水の取水量の実に半分が原発の冷却を目的としたものであるという。世界の一部の地域では、温暖化や人口増加、工業化などによって淡水が枯渇しつつある地域もあるが、そのような地域では水の奪い合いが加速しかねない。


ヨーロッパにある原子力発電所の多くは内陸部に建設されている

ヨーロッパでは2003年夏、気温が異常に高い日が続き、暑さのために多くの死者が出る事態となった。この時、フランスの原子炉のうち17基では、冷却水として取り入れる河川・湖沼の水温が上がりすぎ、原子炉を十分に冷却できなくなったために、原子炉の出力を低下させたり、停止したりする措置が取られたという。

2006年夏も異常に暑かったが、この際にも同様の理由でフランスやドイツ、スペインの原子炉の一部で出力が抑制されたり、停止された。また、温排水として河川や湖沼に放出できる水の温度には本来は上限が設けられており、自然界の水温を一定以上うわまわる水の放出はできないことになっているが、この夏は冷却水が十分に確保できなかったために、西欧の一部の国ではその規制からの例外措置が取られ、通常よりも熱い温排水の放出が許されたという。

ヨーロッパも南部のほうに行けば、日本と同様に夏が暑く、エアコンが頻繁に用いられる場所も多いために、電力需要は夏にピークとなる傾向がある(これに対し北欧では冬がピーク)。しかし、上に示した例から分かるように、あまりに暑さが深刻だと、原発が稼動できず、電力需要のピーク時に逆に発電量を低下させるという皮肉な結果となる。

実際のところ、原発への依存率が78%と高く、通常は周辺の国々へ電力を輸出しているフランスも、猛暑だった2003年と2006年の夏は電力を他の国から高額で輸入する羽目になったそうだ。

※ ※ ※

夏の暑さに伴って冷却水の確保が困難になるという問題は、河川や湖沼の水を冷媒として使用している内陸部の原発が抱える問題であり、海水を冷却に使用している日本の原発とは状況が異なる。しかし、この話から分かるように、海岸沿いの原発は津波や嵐に伴う浸水などのトラブル、内陸部の原発は冷却水の確保の問題、というように、いろんな問題を潜在的に抱えており、「地震や津波がなければ大丈夫」とは簡単に言えないものだと感じる。


ここで紹介したデータや情報などは
Fukushima blast shows nuclear is not the answer

2011年5月17日 干ばつのフランス 原発停止でブラックアウトの恐れ
2006年7月24日 猛暑のフランス 政府が基準水温を上回る原発冷却水排水を容認
2005年7月12日 フランス 猛暑と干ばつで原発操業停止の恐れ 温暖化が原発利用能力を減らす

スイスが2034年までに脱原発することを政治決定

2011-05-26 01:13:24 | コラム
原発推進路線を大きく転換したドイツに続き、スイス脱原発への歩みを加速させることになりそうだ。

スウェーデン時間で水曜日の20時台にスウェーデンラジオが伝えるところによると、スイス政府既存の5基の原子炉が古くなった際に、新しい原子炉に更新しないことを決定したという。今ある5基は2019年から2034年にかけて順次寿命を向かえ閉鎖されていく予定であるため、遅くとも2034年には脱原発が完了することとなる。スイス政府のこの決定は、6月初めに議会で審議されたあとに、最終的に決定される見通しらしい。スウェーデンテレビが21時のニュースで伝えるところでは、今週日曜日には2万人からなる反原発デモが国内で開催されていたという。

スイスは近年、原発推進の動きを強め、原子炉を3基新設する予定だったが、福島原発の事故を受けてその計画を撤回していた。日本を含め、世界中の原子力業界はフクシマ以降の「脱原発」の動きは一時的なものに過ぎないことを願っていただろう。「嵐」はしばらく続くがそのうち人々は原発に対する否定的なイメージを忘れて、再び原発推進に戻るだろうと期待していたかもしれないが、一部の国ではこうして着実に「脱原発」が政治決定され、実行されようとしている。

今日のもう一つ別のニュースは、菅首相がパリで開催されたOECDの会合において、2020年までに電力の20%を再生可能なエネルギーで賄う、という目標を発表したことだ。

2009年の統計を見ると、日本で発電された電力のうち、水力が7.3%新エネルギーが1.1%を占めているから、2020年までに再生可能な電力の割合を12%ポイント弱増やすことを意味するのだろう。確かに相当な努力を要する大きな目標ではあるが、今後、脱原発を目指しながら化石燃料への依存を抑制していくためには、もっと意欲的な目標が必要となるのではないだろうか。

ヨーテボリ・ハーフマラソン 2011

2011-05-23 23:40:30 | コラム
このブログでも毎年のように書いている「ヨーテボリ・ハーフマラソン」。ハーフマラソン大会の中では世界最大の規模を誇る大会で、今年は昨年をさらに上回る59417人が申し込みをした。うち、女性の割合は32%で、去年よりも1%ポイント上昇。

大会当日は毎年のように天気がよく、今年もとてもよい天気となった。しかも、昨年のように暑すぎるということがなく、適度に涼しかったため、31年におよぶこの大会の記録が更新された(1時間00分50秒)。


申し込みをした59417人のうち、実際にゼッケンを受け取ってスタートラインに立ったのは43541人。そのうち、43026人が完走した。天候と気温がちょうど良かったため、途中リタイアした人の割合も例年よりかなり低かったようだ。

スタートは、前年もしくはその前の年の成績に基づいて、速さごとにスタートグループが分けられており、全部で20以上のグループがある。そして、午後1時半から5分から7分間隔で順番にスタートしていき、最後のスタートグループがスタートするのは午後4時。

私は最初から2番目の1Bというグループでスタート(最初のグループから3分遅れのスタート)。回りは私と同じペースの人ばかりなので、スムーズに流れて行き、非常に走りやすかった。最初は混雑するものの、5km地点を過ぎる頃にはある程度まばらになっており、追い越しも無理なくできるようになった。1kmをだいたい4分18秒から27秒のペースで順調に走ることができたものの、17km地点からゴールにかけての緩やかな上り坂でペースが落ちてしまい、1時間34分台でゴール。去年よりも良かったものの、自己記録には到達しなかった。天候や気温が良かったために、参加者全体で見ると記録が伸びたようで、私の順位は去年よりも若干後退。

スタートする直前に、最初のスタートグループにブタがいるのを発見。私よりも3分早いスタートだったので、その差を縮めて途中で追いつこうと頑張ったけれど、コース上で捕捉することができなかった。結果を見てみると、私よりも30秒ほど速い記録でゴールしていたので、悔しい。


2本足よりも4本足のほうが速いということなのだろうか? 後ろの人は、どうやって前方を見ていたのだろう? それとも前の人にずっとしがみついて、必死に走ることだけに専念したのだろうか?

下は10分ほどの動画(10分40秒のところでブタが走っている)。


ヨーテボリ新聞(地方紙)のサイトには写真がたくさん。

<昨年の記事>
2010-05-27:ヨーテボリ・ハーフマラソン 2010

遠隔操作が可能な解体用重機

2011-05-20 23:34:58 | コラム
以前、スウェーデンから福島原発に向けて発送された、放射線に耐えられる特殊カメラについて書いたが、それとは別にスウェーデンの企業から福島原発に向けて発送された物がある。遠隔操作が可能な解体用重機だ。

スウェーデンの北部フェレフテオの町にあるBrokk建物解体のための重機を製造している比較的小さな企業だが、特に原発の解体放射線の高い場所での作業を目的とした、遠隔操作が可能な重機が世界の市場で高く評価されている。チェルノブイリ原発での事故のあとの処理にも、この会社の製品が使われている。

福島原発での作業にあたり、特に3号機の建屋の内部は放射線が非常に強く、人が入って作業を行うことが困難だ。そのため、東京電力からがれき処理などの委託を受けている大成工業は、スウェーデンのBrokk製の重機4台を購入することに決めた。

このBrokkは様々なサイズの解体用重機を製造・販売しているが、大成工業が発注した4台とは、まず、狭い場所にも入っていくことのできる小型の重機が1台。そして、その重機が前進するために邪魔ながれきを取り除く中型の重機が2台。そして最後の1台は、Brokkの最新鋭の製品であり、まだ公式にはリリースされていない大型の重機だ。分厚いコンクリートや鉄筋の砕いて運ぶことが可能だという。また、遠隔操作は1km離れた場所からも可能だという。

下はその一例。ストックホルムにあるカロリンスカ医科大学の建物の解体にBrokkの遠隔操作の重機が使われている。



大成工業が購入した4台の重機は、手の先を取り替えることで様々な用途に使うことができる。油圧ハンマーを取り付けてコンクリートを叩き砕いたり、カニのようなはさみを付けて鉄筋を切ったり、シャベルを付ければがれきを取り除いたりすることができる。

スウェーデンの新聞でこのニュースが取り上げられたのは5月初めのことだった。小型機の1台は、中国の顧客が購入し発送されていたものの急遽、福島原発のために振り向けられたという。また、残る3台はスウェーデンから空輸で日本に到着した、報じていた。日本に到着後は、日本人の作業員に操作の方法を教えるのにだいたい1週間が必要であり、実際の作業に投入されるのはそれから、ということだった。


しかし、先日の朝日新聞の記事にも登場。現場での使用も間近か?

がれき撤去へロボット集結 3号機へ次々投入(朝日新聞 2011年5月17日)

2006年7月のフォッシュマルク原発のトラブル

2011-05-19 00:29:58 | コラム
地震や津波の恐れのないスウェーデンであるが、人的なミスによる人災の可能性はある。そのことを端的に示し、スウェーデンの原発の安全管理に大きな疑問を投げかけることになったのが2006年7月25日フォッシュマルク原発1号機で発生したトラブルであった。

この事件についてはスウェーデンのいくつかの新聞や雑誌が状況を説明しているので、まとめてみたい。

※ ※ ※

この日はフォッシュマルク原発と外部の送電線とを結ぶ変電所においてメンテナンス作業が行われていたが、その作業中に予期せぬ放電が電線の間で生じ、ショートが起きてしまった。その結果、フォッシュマルク原発1号機と変電所の間の電線が遮断されしまった。

これだけであれば、原発ではその後も発電が行われ続けるため、炉心冷却のための電源喪失という事態に至る危険性は小さかった。しかし、このショートと電線の遮断がきっかけとなって複数のトラブルが連鎖的に発生することになった。

まず、ショートに伴って電線を流れる電流の電圧が低下を始めたため、原発のタービンの回転から電気を生み出している発電機が自動的に反応して電圧を元に戻そうした。しかし、この時の反応が急激だったために、通常の2.2倍も高い電圧パルスとして瞬間的に電線を流れ、原発施設内の電力供給システムをダウンしてしまった。

これに加えて、発電タービンの油圧系統がトラブルを起こしたため、第1タービンと第2タービンが相次いでストップしてしまった。そのストップの際に、通常よりも周波数の低い電流が電力供給システム内を流れてしまった。本来はそれを防ぐためのブレーカーがタービンの発電機に取り付けられていたものの、2005年(事故の前年)の取り付けのときに間違った設定がなされていたため、ブレーカーが作動しなかった。そのため、低い周波数の電流から機器を防護するために、別の場所のブレーカーが作動してしまった。

不幸なことに、そのブレーカーというのは原発施設と外部電源とを結ぶ電線を制御するものでもあったため、外部から電源を確保することができなくなってしまった

イラストの出典:NyTeknik

このような事態に対処するために複数の安全装置が準備されているわけだが、最初の安全装置であるバッテリー(本来は2時間持つ)が機能しなかった。高電圧のパルスが流れた際に、バッテリーがシステムから遮断されてしまったためだ。また、本来はこのような事態に起動するはずのガスタービンが動かなかった。

このように、外部電源もダメ、バッテリーもダメ、ガスタービンもダメ、ということで、中央制御室は停電し、原子炉の状況を伝えるモニターや計器がダウンしてしまった。暗くなった中央制御室内では、赤色のランプが点滅し異常事態を警告していた。

中央制御室では停電の中、職員が緊急時のチェックリストに従って作業を行っていた。しかし、停電のために原子炉の状況が分からない。トラブルに伴って原子炉の運転が停止したものの、核分裂を止めるための制御棒がきちんと炉内に挿入されたかどうかが分からない。手探りの中、原子炉が今どのような状況にあるのかについて、想像されるシナリオを頭に描きながら事態に対処していったという。

では、炉心冷却のほうはどうなったのだろうか? 電源喪失という事態に備えて、炉心冷却のためにデーゼル発電機が1炉につき4台設置されていた。しかし、そのうち2台が機能しなかったのだ。実はこの2台のディーゼル発電機に取り付けられた周波数制御装置は上記のバッテリーと同じシステムに接続されており、高圧パルスが流れた際に、電力供給システムから遮断されたためだ。周波数制御装置が機能しないため、電力を供給できなくなったのである。残る2台は作動し、炉心冷却のための電力を供給し始めたものの、必要とされる電力を十分に満たすことはできず、注水ポンプをフル稼働させることができなかった。注水量の不足のために炉心内の水位が徐々に低下し始めていた。

トラブルの発生から22分後、原発施設と外部の電線網を結ぶブレーカーを現場の作業員が手動で切り替えたおかげで、外部から電流が流れるようになった。それに伴い、中央制御室の電力も回復し、炉心冷却も外部電源で行うことが可能になり、危機を脱することができた。

この22分の間に原子炉圧力容器の内部では、それまで燃料棒の上端から上4mのところにあった水位が上2mまで低下していた。

※ ※ ※

このように複数のトラブルが重なり、事態が深刻になっていった。非常時に備えるための安全装置は本来は独立して存在すべきなのに、このトラブルの際には、互いに依存しあっている部分が多く、一つの安全装置が動かなくなると、別の安全装置も動かなくなったり、もしくは、ある同じ要因が複数の安全装置をダメにしてしまう、という事態が発生した。

結局、現場の作業員が冷静に判断して、外部電源を手動で回復させたために大事に至らなかった。しかし、たった22分で炉心内の水位が2mも減少しており、そのままの状態が続いていたならば、メルトダウン(炉心溶融)に至っていたと専門家は言う。福島原発に比べて幸いだったのは、外部電源が途絶えたものの電線は物理的に存在しており、ブレーカーを戻せば通電できたということ、それから、もしそれがダメでも、隣の2号機や3号機が健在なのでそこから何らかの形で電力を引くことができたということだろう。

しかし、スウェーデン政府および原子力業界はこの事態を重く見て、その後、安全装置の総点検と再設計を行うことになった。スウェーデンの原子力利用における最大の事故だったと認識されており、INESの深刻度レベルでは「レベル2」に分類されている。

フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その4)-世論調査

2011-05-17 01:44:55 | コラム
では、スウェーデンの世論はどのように変化しただろうか?
大震災の直後である3月中旬から下旬にかけて、スウェーデンの大手日刊紙などがそれぞれサンプル数1000人規模の世論調査を実施している。

※ ※ ※

まず、日刊紙SvDの世論調査では「あなたがスウェーデンの原発に対して持っている信頼は?」という質問がなされた。

回答は、
非常に大きい:17%
かなり大きい:55%
少し、もしくは全くない:合わせて 25%

傾向としては、女性よりも男性のほうが原発に対して大きな信頼を持っている(「非常に大きい」では、男性は4人に1人、女性は10人に1人)。また、年代別では30歳から49歳までが最も高い信頼を抱いていたという。

支持政党別で見ると、保守政党である穏健党やリベラル・原発推進派の自由党の支持者がより大きな信頼を持つ傾向にあり、彼らの4分の1が「非常に大きな信頼を持っている」と答えている。一方、信頼が一番低いのは左党(旧共産党)や環境党の支持者であるのは予想されたとおりだ。しかし、興味深いことにそれでも彼らのうちの半数が「非常に大きい」もしくは「かなり大きい」と答えている

※ ※ ※

一方、通信社TTが行った世論調査で使われた質問は「日本での原発事故を受けて、あなたがスウェーデンの原発に対して持っている信頼が変化したか?」というものであった。
これに対する答えは、
上昇した:3%
変化なし:82%
減少した:13%
分からない:3%
このように大部分の人々はスウェーデン国内の原発に対する考え方を変えてはいない。一方で、13%の人(8人に1人)は、スウェーデンの原発に対する信頼が低下した、と答えている。さて、この数字を大きいと見るか、小さいと見るか・・・?

また、このTTの世論調査では同時に次の質問も投げかけられている。「日本で起きた事故と同じように放射性物質が放出されるような大きな事故がスウェーデンの原発で起こる危険性はどれくらいだと思うか?」

それに対する答えは以下の通りだった。
非常に小さい:39%
かなり小さい:35%
大きいとも小さいともいえない:15%
かなり大きい:8%
非常に大きい:1%
分からない:2%

これは予想された結果であろう。福島原発の事故は地震津波といった自然災害が主な原因だとする見方に基づけば、そのようなリスクがまったくと言って良いほどないスウェーデンにおいて、福島原発のような事故が起こるリスクは小さいと見られても仕方がない。74%もの人が最初の2つの選択肢を選んでいるのも頷ける。しかし、安全対策や原発の設計・建設における人的なミスという側面に着目するなら、そのようなリスクはスウェーデンでもあるわけだから、そう考える人たちが3番目から5番目の選択肢を選んだのであろう。(一番最初に紹介したSvDの世論調査で「少し」もしくは「全くない」と答えた人の割合25%とほぼ一致する。)

※ ※ ※

3つ目に紹介するのは、別の大手日刊紙であるDNが行った世論調査だ。この調査ではよりストレートに「スウェーデンにおいて原子力をエネルギー源として今後とも利用することをどう思うか?」と聞いている。

しかも、この調査の有意義な点は、2008年にも同じ質問による世論調査を行っているため、2つの時点の間の変化を観察することができるという点だ。

結果を見ると

原子力利用はやめるべき:15%(2008年)→ 36%(2011年)
原子力利用は現状を維持すべき:33%(2008年)→ 36%(2011年)
原子力利用は拡大すべき:47%(2008年)→ 21%(2011年)

このように原子力に否定的な考え方をする人が2倍以上になった一方で、利用拡大を主張する人々は半分以下になっていることが分かる。

性別による意識の違いは、この調査でも顕著だ。「原子力利用はやめるべき」と答えているのは男性の24%、女性の47%であるのに対し、「原子力利用は拡大すべき」と答えているのは男性の35%、女性の8%だ

上から2番目に紹介したTTによる世論調査「日本での原発事故を受けて、あなたがスウェーデンの原発に対して持っている信頼が変化したか?」に対する回答に比べると、このDNはそれ以上の変化を示している。留意しなければいけないのは、このDNの調査はここで紹介した3つの世論調査の中で一番早い時期、つまり、福島原発の事故が世界的に大きく取りざたされた直後に行われたものである、という点である。そのため、世論の意識の変動が過度に捉えられた可能性もある。


以上の調査をまとめれば、スウェーデンでは大部分の人が少なくとも国内の原発の安全性に対しては大きな信頼を抱いているといえる。ただ、その一方で原発に対して否定的な考え方を持つ人が増えていることも確かである。

ヴェストラ・ヨータランド県の県議会選挙の再投票

2011-05-15 12:38:50 | 2010年9月総選挙
昨年9月の国政・地方同時選挙の際に、いくつかの投票区や選挙区では票の扱いが不適切だったために、「選挙審査委員会」による審査の結果、2つの選挙区で再投票が行われることになった。

<以前の記事>
2011-02-14:地方選挙で再投票(オーレブロー市&ヴェストラ・ヨータランド県)

再投票となったのはオーレブロー市の市議会選挙の一部の投票区と、ヴェストラ・ヨータランド県の県議会選挙のすべての投票区だ。そして、その再投票が今日行われた。

私の住むヨーテボリは、ヴェストラ・ヨータランド県に含まれるため、4月下旬に投票用紙が送付されてきた(外国人であってもスウェーデンに3年以上住む人であれば地方参政権が付与される)。

選挙後の再投票はこれまでも行われたことがあったが、今回のヴェストラ・ヨータランド県のように130万人近くの有権者が再び投票を行うようなケースは過去にない。ただ、地方選挙は国政選挙ほどの盛り上がりに欠けるし、今日はあいにく雨ということもあり、投票率が低くなることが懸念されている。(2010年9月の国政・地方同時選挙では国政選挙の投票率が84.63%、地方選挙では例えばヴェストラ・ヨータランド県議会選挙の投票率が80.57%だった。)


投票用紙(これと身分証明書(IDカード)を持って投票所へ行く)

スウェーデンの県は、管轄する行政業務が主に「医療」と「地域公共交通」に限られるため、再投票に向けた選挙キャンペーンもこの2つに焦点を絞ったものがほとんどだった。


社会民主党


社会民主党の新党首


環境党(聴診器と線路が描かれている)

福島第一原発1号機のメルトダウン

2011-05-14 00:58:32 | コラム
スウェーデンの放射線安全庁「福島第一原発1号機でメルトダウン(炉心溶融)が起きたことを東京電力が認めた」ことをプレスリリースで発表している。


そこでは
「私たち放射線安全庁はこれまで常に、メルトダウン(炉心溶融)が実際に発生し、施設から周囲に水が漏れ出していることを前提として(事態の経過を見守って)きた。(従って)放射線安全庁が自国民に対して発令してきた『福島第一原発の周囲80km圏内への立ち入りはしないように』という勧告は今後も変化しない。」
と付け加えられている。

震災以降のスウェーデンの放射線安全庁のプレスリリースや庁で勤務する専門家の見解を思い起こせば、彼らがこれまで最悪の事態として最も恐れてきたのは、溶融した炉心が圧力容器の底を突き破り、格納容器の底に溜まった水と高温の状態で接して大爆発を起こしたり、再び臨界に達して核反応が始まるなどして放射性物質が大気中に大量に放出されることであった。避難の範囲を80kmとしただけでなく、一時は東京を含む250km圏渡航自粛の対象としていた理由も、そのような事態を恐れてのことであったが、そのような事態に至る可能性は現在どれくらい高いのか気になるところだ。

朝日新聞(5月12日)「原発を突き放す国の『常識』」

2011-05-13 00:43:56 | コラム
5月12日付の朝日新聞・朝刊をご覧ください。
14ページ目の社説余滴という欄に「原発を突き放す国の『常識』」という記事が掲載されています。スウェーデンで取材された論説委員の記者の方の記事です。

スウェーデンの現在のエネルギー政策のあり方として、再生可能エネルギーを国が経済的にも積極的に後押ししながら「持続可能な社会」の構築に向けた道しるべを示し、一方で原子力に関しては「国は一切支援はしないけれど、電力会社がコストの面で割に合うと考えるのであれば、新規原子炉の建設を政府として止めはしないよ」という、冷めた態度を取っていることが分かりやすく説明されていると思います。

※ ※ ※

以下は、この記事に関連して私が考えたこと。

原子炉の新設の是非に関する議論とは少し離れるが、このように国が市場の枠組みを整備した上で、実際の行動の判断は各経済主体に任せるというやり方は、スウェーデンの様々な政策に一貫している哲学とでも呼べるものかもしれない。

環境税(二酸化炭素税)や、所得税をはじめとする各種税制、さらには空き缶・ペットボトルのデポジット制度などもそうであるが、国がまず望ましい社会のあり方(持続可能な社会、とか、化石燃料をなるべく使わない社会、とか、より多くの人が労働市場で働く社会、etc)を示し、人々がそのような行動を取ればその人にとって経済的に得になるような誘因(インセンティブ)を制度の中に埋め込んだ上で、あとは各経済主体の判断に任せる、というやり方はスウェーデンが非常に得意とするところだ。

上記のエネルギー政策においても、原発を絶対作ってはだめとか、既存のものをすぐに廃炉にしろ、とは言っていない。そうではなく、スウェーデン政府は、原子力産業には一切お金を与えない一方で、再生可能なエネルギーには積極的な経済的支援を行っているのである。つまり、市場における価格やコスト構造に国として手を加えて「望ましい」フレームワークを整備したうえで、あとは各経済主体(この場合、電力会社や新規参入者など)のコスト意識に任せて行動を選ばせる、というものだ。

「個人」の意思決定に主眼を置いた政策設計とでも言えるだろうか。

定期検査中のスウェーデンの原子炉にて小規模の火災

2011-05-12 00:17:27 | コラム
ヨーテボリの南60kmにあるリングハルス原子力発電所の2号機で小規模の火災があったと、原子炉を所有する企業(大手電力会社が共同出資)および原子力の監督機関である放射線安全庁が伝えている。


リングハルス原子力発電所(4基)

リングハルス原発2号機は定期検査のために4月2日以降、運転を停止しており、炉内のウラン燃料も別の建物に保管されていた。定期検査の項目の一つとして、原子炉格納容器内に圧力をかけ、容器の機密性を確認する作業が5月10日から行われていたが、11日未明に格納容器内の温度計が通常よりも数℃ほど高い値を示していることが確認されたため、作業が中断された。

原子炉を共同で所有しているヴァッテンファルは、火災が発生したか、高温のために何かが光を放っているためではないか、としている。一方、放射線安全庁は格納容器内で煙が発生したとの報告を原子炉の所有企業から受けた、とホームページに書いている。

また通信社TTは、格納容器内で一酸化炭素が検出され、さらに容器内に設置されたカメラが内壁に付着したすすを捉えたと伝えている。温度はその後、下降したため、火災は収まったものとみられる。原子炉内から屋外へ排気される空気はフィルターにかけられているが、火災が原因と見られる微粒子が付着しているという。

原子炉所有企業および放射線安全庁によると、格納容器内での放射能の上昇は確認されていないという。念のために、今後も原子炉内からのすべての排気がフィルターにかけられた上で放出されるという。

格納容器内に人が入って検証を行うためには、まず格納容器内の圧力を下げる必要があるため、早くとも金曜日まで待たなければならず、それまで原因は分からない。原子炉所有企業の広報担当者は「格納容器内にあるものといえばコンクリートや鉄くらいで、燃えそうなものは何もないのに」とコメントしている。


原子炉を共同で所有しているヴァッテンファルのHP
原子力の監督機関である放射線安全庁のHP
通信社TTの報道

フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その3)

2011-05-11 02:50:01 | コラム
福島第一原発の事故によってどのような議論がスウェーデンで起こっているかを説明したいが、まず、震災・事故以前におけるスウェーデンでの原発論争を以下にまとめてみたい。
(わたしがこれまで見聞きしてきた情報や私の目を通して感じてきたことをもとにまとめてみます。)

【原発反対派】
再生可能な電力源(風力・バイオマス発電)などの発電量を増やすと同時に、節電エネルギー利用の効率化を進めながら、段階的に原発を廃止していくべき。
原子炉の寿命を60年とする前提のもとでは、既存の原子炉が寿命を迎えるのは2032年から2045年にかけてであるため、原子力によって現在賄われている電力の部分(総発電量の35%~40%)を再生可能な電力に置き換えたり、節電を行うことで電力需要を抑制するための時間的な余裕は十分にある。
○ ただし、原子炉はたとえ60年使えるとしても、可能であればそれよりももっと早い段階で廃炉にしたい
○ 原子力の意義を仮に認めるとしても、それはあくまで持続可能な社会を築くまでの「過渡期のエネルギー」に過ぎない。

【原発賛成派】
安価で安定した電力の供給のために、原子力は欠かせない。
○ 原子力は「過渡期のエネルギー」ではなく、今後もかなり長い間、主要な電力源となり続けるであろう。
既存の10基を超えて増設を行い、国内の電力集約的産業(鉄鋼・紙パルプ)や消費者に電気を安く提供するべき。
○ 現行の「グリーン電力証書」制度を通じた再生可能な電力生産者への経済的支援は、経済的に見ると非効率な補助金であるため、廃止すべき。現時点では原子力水力に次いで発電量あたりのコストが一番低い(石炭火力もコストは低いが温暖化の観点から除外)。
○ 本音は「増設」を積極的に主張したいところだが、ひとまず2009年2月の連立与党合意の内容(下記参照)である「古くなった原子炉の更新」で我慢しておく。
○ 寿命がたとえ60年だとしても、更新のための新しい原子炉の建設の準備は既に2010年代のうちに始めておく必要がある。


ついでに、電力業界がとってきた行動国の方針についても書いておこう。

【電力業界】
○ 原子炉の新規建設が政治的に難しい中、既存の原発の出力アップに投資し、発電量を上昇させてきた。
(たとえばオスカシュハムン3号機の場合は、原子炉が運転を開始した1985年当時は105万kWの出力であったが、80年代末に出力が増強され120万kWとなり、さらに数年前にはタービンの近代化などが行われた結果、現在は出力が145万kWになっている。他の原発でも似たような出力アップのための改良工事が近年盛んに行われている(100万kW=1GW))


【国としての方針】
これは既に書いたように2009年2月の中道保守連立政権による合意である。これは上に示した原発推進派反対派折衷と見ることもできる。

○ 原子力はあくまで持続社会を実現するための「過渡的なエネルギー」に過ぎないと位置づける。
○ しかし、その「過渡期」が長くなり、既存の原子炉が寿命を迎えたあとも原子力に頼る必要がある場合に備えて、既存の原子炉の更新は許可することにする。ただし、国としてそれを推し進めるつもりはなく、あくまで電力会社の経済的な判断に任せる。
○ 一方、国としては再生可能エネルギーへの投資に対して、積極的な経済支援を行っていき、2020年や2030年には発電量のうちのかなりの部分がこれらのエネルギー源によって賄われることを目指す。

さて、各主体の考え方が福島原発の事故によってどう変化しただろうか?


賛成派と反対派の双方は、福島原発の事故を自分たちの主張にうまく結び付けようとしている点が興味深い。まずは賛成派から。

【原発賛成派】
○ スウェーデンでは地震のリスクが全くと言っていいほどなく、よって津波の心配もないので、福島原発での事故を根拠に「原発は危険だからスウェーデンも脱原発をおこなうべき」と主張するのは間違い。
○ それでも福島原発の事故から学ぶことがあるとすれば、それは古くなった原子炉の安全性であろう。古い原子炉が60年を迎えるまで使い続けるという現在のシナリオは危険であり、もっと早期に更新を行うべきであろう。新型の原子炉は60年代や70年代に開発された原子炉と比べると安全性がはるかに向上している。


原発推進を強く主張する自由党のビョルクルンド党首(右)が原発反対派とテレビで討論(3月17日)

【原発反対派】
○ たしかにスウェーデンでは地震や津波のリスクはないものの、人的な要因によるリスクはある。福島原発の事故は、確かに津波が大きな原因ではあるものの、十分な対策を怠ってきたり、安全性に対する十分な議論をしてこなかったという「人災」の側面も相当大きい。
人災に関連して言えば、スウェーデンのフォッシュマルク原発でも2006年に電源がショートした際に冷却のための予備電源が予定通り作動しないという事故があり、メルトダウンに至る恐れもあった。(INESのスケールのレベル2
○ 古い原子炉が60年を迎えるまで使い続けるという現在のシナリオは危険である。もっと早期に廃炉を行うべきであろう。


原発反対派である環境党のヴェッテルシュトランド党首によるオピニオン記事(3月17日)


以上のように、両者とも原子炉の寿命60年という前提を問題視して、自分たちの主張に結び付けている点は面白い。


【政府の反応】
○ スウェーデンの原発の監督機関である放射線安全庁環境省の管轄下にあり、福島原発の事故や今後のスウェーデンのエネルギー政策に関しても、カールグレーン環境大臣がメディアに登場しコメントを述べていた。彼は、3月17日に環境省を通じて以下のようなプレスリリースを発表している。


カールグレーン環境大臣

「現在の中道保守政権が議会に提出したエネルギー法案に明記されているように、原子力はスウェーデンにおけるエネルギー供給の歴史の一幕に過ぎない(en parentes i Sveriges energihistoria)。中道保守政権の連立4党による合意が示しているように、スウェーデンは風力やバイオマスなどによる再生可能な電力の発電を急激に増やしていくことによって原子力発電への依存を減らしていく考えである。」

また、新聞などでも以下のように発言している。
「私個人は原子力は廃止していくべきだと考えている。私や私の属する中央党は、中道保守政権の連立4党による合意がスウェーデン国内の原発を閉鎖していくための大きな前進を意味するものだと解釈している。確かに、この連立4党の合意を、スウェーデンが原発の増設を選んだ証(あかし)だと解釈する連中もいることは理解はしているが、そういう人たちには『あの合意が採択され、将来の長期的なエネルギー生産の道筋が明確にされた後に再生可能な電力の生産量がいかに伸びてきたかを注視すべきだ』と言いたい。」

すでに触れたように【国としての方針】には変化はないが、その点については政府が「すでに段階的な脱原発を選んでいるから」だということは、この発言からも理解できるであろう。

”福島第一原発、8日未明の黒煙は「もや」”

2011-05-10 01:15:11 | コラム
「オルタナ」2011年5月9日(月)より

福島第一原発、8日未明の黒煙は「もや」

8日午前1時過ぎ、TBSなどJNN系列による福島第一原発の定置カメラ情報で、第一原発3号機付近から黒煙のようなものが立ち上る様子が確認され、ブログやツイッターなどソーシャルメディアで「新たな爆発など何かの異変が起きたのでは」と書き込みが相次ぐ騒ぎがあった。

黒煙のようなものが観測されたのは午前1時16分から33分の間。オルタナS編集部が東京電力広報部に電話で取材をしたところ、「靄(もや)と思われるものが発生し、照明の影となって黒く見えた」との返答があった。

同社広報部は「もやは(5月3日ごろから続く)3号機の原子炉内温度上昇との関連性はなく、1号機から4号機までを覆うような水蒸気が3号機から発生することは有り得ず、水蒸気発生の事実もない」という。

福島第一原発の夜間の照明に関しては、「現場の安全確保および緊急時への即時対応のため、夜間は常時点灯しており、同時間帯に作業をした事実はない」としている。(オルタナS 高橋遼)


あれが「もや」だとは、信じがたいが・・・。「怪奇現象だ」と答えたほうがまだ良かったのでは?
もちろん、本当にもやである可能性も消しきれないので何ともいえないが。

夜陰にまぎれて不可解な煙

2011-05-09 00:53:11 | コラム
福島第一原発の状況をライブで映し出すカメラをTBSが設置し、ネット上で放映されていた。
TBSは、JNN系列のTUF(テレビユー福島)と協力し、東京電力福島第一原子力発電所の近くに、発電所の模様を定点でウオッチする情報カメラを新たに設置し、運用を開始したのに伴い、この映像の多くのユーザーにも供する為、webでライブ配信を開始いたしました。

ライブ配信は、Google社の運営する動画サイト「YouTube」にある「TBS News-i」チャンネル(リンク)で、2日午後9時より、無料にてご覧頂けます。

今回設置された情報カメラは、放送用の高感度HDカメラで、発電所を山側から24時間無人でウオッチし、映像を伝送してくるものです。

刻々と変化する原発の様子をチェックしたいという視聴者の要請や、日本の原発に世界的な関心が集まっている中で、TBSテレビ報道局は、こうした映像を多くの方々に供するのも報道機関の役割と判断し、公開に踏み切ることになりました。

なお、映像配信は、予告無く中断することがある他、気象状況やネットワークの状況で、見えにくくなる場合がありますが、予めご了承下さい。

TBSテレビ報道局
しかし、日曜日未明に白煙や黒煙が確認された




不可解なことに、それから間もなくして配信が中断されてしまった。水蒸気なのか火災等による煙なのかは分からない。日曜日のニュースでは何の発表もなかった。

圧力容器や格納容器の圧力を下げるために容器内の気体を放出したのか? それならば、きちんと事前通告や事後説明があるべきだろうが。それとも、夜陰にまぎれて放射性物質を放出したというような、やましいことがあるのか? 情報を伝えないということは様々な憶測を呼んでしまう。

このサイト(フィリピン在住のアメリカ人で"medical dosimetrist"とのこと)は、たまたま風が海向きに吹いた時を選んで、何かを放出したのでは、と書いている。しかも、夜!

急に中断されたことも非常に不可解だ。東京電力や政府にとって不都合な内容を含むために、配信を中断するように要請があったのか? それとも、TBSが自粛をしたのか? まさか民間テレビ局のカメラに監視されていると知らず、何かを放出した東京電力がカメラの存在を知り、慌てふためいたのか?

幸いにも誰かが映像を録画し、ネットにアップしている。



これまで散々、情報隠蔽のために一般社会からの信頼を失っておきながら、今またこうして不利な情報を隠しているとすれば、信頼を再構築する意図は全くないのだろうか? 頭を下げれば済むと思っているのだろうか?

これはメディアも伝えていることだが、圧力容器内の温度がここ数日でどんどん上昇し、容器の一部では300度を超えるに至っている。容器は300度までを想定して設計されているとのこと。

温度データは、上で紹介したフィリピン在住のアメリカ人のサイトにあるし、元のデータは東京電力のホームページにもある。

フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その2)

2011-05-07 21:00:22 | コラム
数日前にストックホルムにおいて、スウェーデン自然保護協会の主催による原発の是非と自然エネルギーの可能性を議論するシンポジウムが開催され、観衆の一人として参加した。大学の研究者やエネルギー庁長官、政治家など多数の講演者やパネラーが様々な角度からシンポジウムのトピックを議論し、非常に面白いものだった。

その内容はいずれこのブログで紹介したいが、その前に、前回の記事の続きとして、福島原発の事故のあと、ドイツにおける原発推進の(一時)中止といった大きな政治的動きがスウェーデンではなぜ見られなかったのか、を書いてみたい。これはシンポジウムを聞きながらずっと考えていたことでもある。

理由のまず1つ目は、前回書いたようにスウェーデンが震災以前において既に段階的な原発依存脱却と自然エネルギーへの大規模な投資を決定しており、その方針については今後も変わりないから、というものである。

しかし、ではなぜ「段階的な脱原発」ではなく「原発依存からの即時脱却」というより急進的な主張が大きく盛り上がらなかったのか?という疑問も出てくるだろう。確かに、スウェーデンにもそのような路線を主張する団体もある。しかし、彼らの声が政治的に大きく取り上げられることはなかった。そもそも、福島原発の事故を受けて、ここで「反原発」の旗を大きく振りかざして政治的なポイントを稼ごうとする政党もなかった。なぜだろう?


ヨーテボリの南60kmほどのところにあるリングハルス原子力発電所(4基)


原発に対して本来否定的な考えをしているのは、左派政党である社会民主党左党、そして環境党のほか、中道保守の連立政権の中では中央党である。

※ ※ ※

まず中央党であるが、この党は1970年代に「脱原発」を大きな政治的課題として掲げ、1980年に行われた原発の是非を問う国民投票においても「脱原発」の求心力となった党である。スウェーデンでは1976年から1982年までの6年間、社会民主党政権に代わって中道保守政党の連立が政権を獲得し、当初はこの中央党の党首が首相を務めていた。しかし、連立内において原発推進を主張する保守党や自由党との間で軋轢が生じ、非常に不安定な政治情勢となり、その後2度も首相が交代し、内閣が組み替えられる事態となった。

この中央党は2006年に再び中道保守政党が政権を獲った際にも連立の一翼をなすことになり産業相環境相などのポストを得たが、やはりエネルギー政策における原発の位置づけを巡る不協和音がこの連立政権にとって不安材料であった。連立内では特に自由党積極的な原発推進を主張してきた。だからこそ、この不安を解消するために2009年2月連立4党が議論を重ねて、エネルギー政策における共通見解を発表したのである。それが「エネルギー政策および温暖化対策に関する与党合意」であり、既存原発が寿命を迎えたときに電力会社が新しい原子炉を建設して置き換えたい場合はそれを認める(既存10基を超える増設はダメ)と同時に、再生可能エネルギーへのさらなる投資を誘導する政策が盛り込まれた。原発推進派の自由党と反対派の中央党の妥協の結果である。そして、この合意によって連立内の潜在的な火種が除去されたわけである。

だからこそ、中央党は福島原発の事故を受けて「脱原発」を叫びたくても、連立合意の足かせがある上、再び不協和音を生み出して連立政権の政策運営に影響を与えたくない。さらに、中央党もこの30年間に世代交代しており、かつてのように「反原発」に政治生命をかけるような議員や党員もあまりいなくなり、それどころか原発の必要性をむしろ一定程度認めるようになっているのだ。

※ ※ ※

では、現在は野党である社会民主党はどうか? 社会民主党は党としては原発に反対しているものの、支持母体である労働組合のうち、紙パルプ産業や鉄鋼産業など電力を大量に使う産業の労組は安価で安定した電力供給を求めて原発増設を主張してきた(この点では自由党の主張と同じ)。だから、党内で必ずしも足並みが揃っているわけではない。それでも、震災から1ヶ月あまりが経った4月中旬、元環境相など4人の社会民主党議員が連名で『社会民主主義に課せられた任務は原発を廃止すること』というオピニオン記事を日刊紙に掲載したりもした(この掲載は福島原発の事故だけでなく、その1週間後に迫っていたチェルノブイリ原発事故の25周年に合わせたマニフェステーション(立場表明)を意図してもいた)。


しかし、社会民主党のさらなる問題は、震災の直前に新しい党首が就任したばかりだったことだ。不人気で2010年の選挙において史上まれなる大敗退をもたらした前党首のあと、社会民主党をどのような方向に導いていくかが不明確であり、税制から社会保障を含めた党の方針作りのほうが最優先で、エネルギー政策・原発政策どころではなかったのである。

(左党も「反原発」を主張しているものの、エネルギー政策や環境政策については従来からあまり主張を行っていないので詳しく書かない)

※ ※ ※

さて、環境党はどうだろう? 脱原発を急進的に主張するとすればこの党をおいて他にないだろうが、環境党としては即時の原子炉閉鎖ではなく、あくまで段階的な脱原発という路線を採っている。たとえば、先述した2009年2月の中道右派連立の与党合意の1ヶ月後に、環境党と社会民主党、左党が共同でオピニオン記事を日刊紙に掲載した。そのタイトルは『新しいエネルギー源が確保されるまで原発は維持する』というものだった。つまり、再生可能エネルギーの発電力の上昇に応じて順次、原発を閉鎖していくが、それまでは原発依存もやむを得ないということである。もちろん環境党の党員や支持者のなかには「原子炉の即時閉鎖」という強い意見を持っている人もいるものの、党の路線になるまでには至っていない。福島原発の事故後に、環境党の党首を含む二人の議員がオピニオン記事を日刊紙に掲載しているが、そこでは「スウェーデンでは2020年頃には原子炉2基分の電力が余る見通しだから、今後10年間で少なくとも2基は閉鎖できる」と主張しているに過ぎない。



※ ※ ※

この最後の点、つまり、環境党が即時の脱原発を主張していない、というのは他の国の緑の党などと比較すると非常に面白いかもしれない。それは、今すぐ原子炉を閉鎖しても、その分だけ火力に頼るわけには行かない、という考えもあるだろう。

また、スウェーデンのもう一つの特徴は、社会全体を包む雰囲気として原発の是非を巡る問題は、政治的イデオロギーの問題とか、価値観の問題(例えば環境主義の立場から絶対に反対!)という捉えられているというよりも、むしろ経済的合理性の問題として捉えられているということだ。つまり、原発が他の発電手段と比べて経済的に安いのかどうかが原発の是非を巡る議論の争点となっている。

先日にストックホルムで自然保護協会が開催したシンポジウムでの議論もそうだった。自然保護協会は会員数20万人というスウェーデンで最大の環境団体であり、脱原発の立場に立っているが、この自然保護協会にしても、事故が起きたときの被害が大変だ、とか、原子力は持続可能なエネルギーではない、という論拠よりも、原発の新規建設コストが上昇している一方で風力発電や太陽光発電のコストが大きく減少しており、既に陸上の風力発電所は原子力発電所とコストの面で競合できるようになっている、という論拠を前面に打ち出して脱原発を主張していた。

自然保護協会だけではなく、環境党にしてもこの「経済的合理性」を主要な論拠としており、原発は危険だからとか、事故が起これば取り返しがつかないから、という感情に訴える議論はどちらかというと影を潜めている。もちろん「反原発・脱原発」を主張するそもそもの理由には、安全性への不安や、危険回避を願う本能的な感情があるだろうが、それを前面に出さず、あくまで経済的な問題として議論していくやり方は、戦術としては分かりやすいし、業界や政策決定者などに対する説得力も強い。

ただしその一方で、世論に対するインパクトに欠けるという点は否めない。一般市民の心を動かして「反原発・脱原発」の国民的な盛り上がりを作り出すことは難しい。福島原発事故のあと、ドイツのように大勢の人が街頭に繰り出して反原発・脱原発のスローガンを叫ぶという光景はスウェーデンではほとんど見られなかった。だからこそ、外国の目にも、スウェーデンでは反原発の動きがあまりなかった、と映っても仕方がない。


ドイツのデモを報じるスウェーデンラジオのニュース

(チェルノブイリ事故から25年経った4月26日のデモでも、主催者側はストックホルムで1万人規模のデモを予定していたが、せいぜい1000~1500人ほどが集まったに過ぎなかった。ヨーテボリではわずか100人程度だった)

フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その1)

2011-05-04 00:14:48 | コラム
さて、そろそろスウェーデンにおける原発の議論について触れていきたいと思うのですが、今週はなかなか時間がありません。しかし、少しずつ始めていきます。


大まかな話から始めるとすれば、中野多摩川さんがコメントに下さったように今回の大震災に伴う福島原発事故のあと、スウェーデンではこれまでのエネルギー政策を大きく路線転換するような議論は特にない。私の思うところ、その理由は、スウェーデンのエネルギー政策では既に大震災以前の段階において「段階的な脱原発」という路線が多かれ少なかれ選択されており、福島原発の事故のあともそれが継続されているためである。

「多かれ少なかれ」という部分は少し説明が必要だ。たしかに、1980年の国民投票を受けてそれから10年以内にすべての原発を閉鎖するという政治決定が行われたものの、代替エネルギーの確保がうまく進まず、当初の10年が20年となり、そして既に30年が過ぎ、この間に閉鎖された原発も2基に留まる(残り10基)。そして、既存の原子炉が徐々に古くなりつつある中、2009年2月に中道保守政権が連立合意を行い、「既存の原子炉が寿命を迎えた場合にはその更新を認める」という内容の発表を行った。

ただ、古くなった原子炉の更新のみを認めるものであり、原発の増設によってエネルギー問題や温暖化問題の解決を図っていく、という趣旨の路線転換ではなかった(もちろん、たとえ更新でも新しい原子炉は出力が大きくなるので10基が上限だとはいえ発電量が増えることもあるが)。よって、ドイツなどで見られたような「原発ルネッサンス」と呼ばれる大規模な路線転換ではなかった。

あくまで再生可能エネルギー・自然エネルギーへの移行期間をさらに延長するというものであり、また合意の中でも原子力は「エネルギーの移行的な解決策に過ぎない」という位置づけが明確になされていた。同時に、風力発電やバイオマス発電を今後大幅に拡大していくために、へ国が積極的に支援を行うことが同意に盛り込まれていた。実際のところ、スウェーデンは風力発電の普及に本格的に取り掛かるのが遅かったものの、2000年代後半は新規の風力発電施設が相次いで建設され、出力・発電量ともに大きく上昇しているし、バイオマスを燃料とするコジェネ発電もそれ以上に伸びている。「グリーン電力証書システム」という経済インセンティブをうまく活用した制度が導入されており、その効果によって2030年には原子力で現在賄っている発電量の少なくとも半分は再生可能エネルギーで賄えるだろう、というのが一つのシナリオだ。あとは節電がどこまで成功するかが、脱原発が成功するかの鍵を握っていると言える。

つまり、日本の大震災前の段階で「原発推進」や「脱原発からの路線変更」を打ち出していたわけではないため、震災後のスウェーデンにおける議論はそれ以前とあまり変化がなく、よって前後での明確なコントラストが感じられない。それは上記の理由によるものであり、決して否定的なことではない。

一方で少し冷めた見方をすれば、スウェーデンはこれまで「脱原発」を掲げてきたものの再生エネルギーの開発・普及に本腰を入れて取り組むようになったのは過去5年か10年の間であり、今後は大きく伸びていくことが期待されているものの脱原発にはやはり時間がかかる。しかし、少しずつでもその方向に歩き続けていけば2030年ごろには原発への依存が大きく抑えられ、再生可能なエネルギーが大きく花開いているであろう、といったどちらかと言うと「カタツムリ」的な野望が日本の震災の前後におけるスウェーデンのエネルギー政策ではなかったと思う。そして、その路線に現在大きな変化は見られない。(ちなみに、スウェーデンの電力需要は1980年代後半以降ほぼ横ばいを保っていることは特筆しておきたい。)

もちろんスウェーデンにも原子力業界というものはあり、電力企業や電力を大量に使用する鉄鋼や紙パルプ産業などとともに原発の増設を主張してはいる。国政政党の中でも連立政権の一翼をなす自由党はこの路線を政治的に訴えてはきたが、彼らの路線が政府の方針となるまでには至っておらず、同じ連立政権内でもともと反原発を訴えてきた中央党などとの妥協の産物として2009年2月の合意があった。日本の大震災をうけて、スウェーデンでも原発の是非を巡る議論が少なからず再発しているので、それについては、今後触れていきたい。

もう少し詳しく知りたい人のために、スウェーデンのこれまでのエネルギー政策とその議論、今後の電力供給見通しについて、2009年夏に私がまとめたレポートがあります。スウェーデンの電力需要が横ばいに推移しているデータとその主な理由もここに掲載しています。下のリンクでダウンロードできます。
原発の増設ではなく、原発依存の抑制に取り組むスウェーデンの意欲(『えんとろぴぃ2009年7月』)
【注】ただし、ここでは原発の寿命60年を前提として議論していますが、福島原発の事故などを受けて、その前提が本当によいのかどうかについての議論もスウェーデンではあります。