スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書 in Stockholm

2013-09-21 21:39:30 | スウェーデン・その他の環境政策
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は今週23日から26日までストックホルムにおいて国際会合を開催する。目的は、第5次評価報告書の第1作業部会報告書(Working Group I: テーマ The Physical Science Basis)の内容について最終調整することであり、確定の後、27日(金)に報告書を発表する。

この評価報告書は気候変動についての現時点での科学的知見を集めたものであり、数年ごとに発表されているが、前回、つまり第4次評価報告書が発表されたのは2007年であり、その後の研究によって複雑な気候変動メカニズムがどれだけ明らかにされ、また、気候変動の現状がどうなのかに注目が集まっている。


会合が開催される建物: Münchenbryggeriet (真ん中のレンガ造りの建物)
昨日撮影。天気が良かった


ちなみに、このIPCCは1990年にもスウェーデンのSundsvall(スンスヴァル)で第4回会合を開いている。この時はIPCCが設立されて間もない頃だった。

IPCCのこれまでの会合

さて、第5次評価報告書の中身であるが、すでにその一部は関係者によってリークされている。それによると、2007年に発表された第4次評価報告書の内容は、その後の研究でも概ね正しいことが明らかになっており、第5次評価報告書においては、人間の活動による温室効果ガスの排出が過去半世紀の気候変動をもたらしている可能性が「非常に濃厚だ」、と結論づけられているという。

(「非常に濃厚だ」の部分は、スウェーデンの科学メディアが使っている訳は"ytterst sannolikt" であり、それは少なくとも95%の可能性があることを意味するらしい。英語の原典ではどのような表現が使われているのだろう?)

これについては、科学誌Natureも最新号の社説(editorial)で触れている。
それについて日本語で書かれたブログ
(「新着論文」と書かれているが、実際にはNatureのeditorialに書かれている文章を参照している)
※ ※ ※ ※ ※


第5次評価報告書は、世界中の数百人の研究者が執筆しているが、スウェーデンからも9人の研究者が加わっており、スウェーデンの科学メディアでも、彼らへのインタビューを特集している。それらの(断片的な)情報をまとめると以下のようになる。

・第4次評価報告書の内容はおおむね正しかったが間違いもあった。まず、北極の氷の減少スピードは、2005年までの状況を基に行った第4次評価報告書での予測よりも早く、エスカレートしていることが明らかになった。

・一方で、地球上の気温の上昇スピードは第4次報告書の予想よりも遅かった。これは、海洋の熱吸収の機能が過小評価されていたためかもしれない。

・第4次評価報告書以降の研究活動によって、気候変動に関するデータがさらに蓄積されてきた。例えば、雲や森林が気候変動に与える影響など。また、大気-土壌-海洋における炭素の循環や、凍土からのメタンガスの放出についても詳細なデータが集まり始めた。

・煤(すす)など、大気中の黒色エアロゾル(空中微粒子)による気温上昇効果がこれまで過小評価されてきたことも分かった。二酸化炭素の抑制に加え、煤の削減(特に中国など途上国で)が温暖化対策として大きな意味を持つ。

・一方、硫黄酸化物のエアロゾルは色が薄いため、日光を反射するので、温暖化抑制の効果を持つことが分かった。

・以上のような様々な要素を取り込んだ大気モデルの改良・精緻化が、世界各地で進められてきた。


ところで第4次評価報告書では、科学的とは言えない見解(例えば、ヒマラヤ山脈の氷河の解ける速度)が一部に盛り込まれており、物議を醸したのは記憶に新しい。そのため、IPCCは今回の第5次評価報告書において、間違いが指摘された場合の対処・訂正について新たなプロセスを導入し、IPCCという組織に対する信頼性が損なわれないようにする構えだという。

また、IPCCは評価報告書の内容に対して寄せられた査読コメントを十分に考慮してこなかった、という批判もあるため、査読コメントには報告書の執筆者がきちんと対応し、それらのやりとりは報告書の最終的な内容に影響を与えなかったものも含めて、すべて公開し、後から外部の者が評価報告書の作成過程をきちんとチェックできるようにするのだそうだ。

EUとモロッコの漁業協定。予想に反して環境派の勝利!

2011-12-15 02:16:57 | スウェーデン・その他の環境政策
EUの欧州議会で今日(水曜日)行われたある議決で、当初の予想を覆す結果となった。ユーロ危機に関する議決ではない。モロッコ沿岸での漁業権に関する二国間協定についての議決だ。

EUモロッコと漁業協定を結びEUの漁船がモロッコの排他的経済水域内で操業できるようにしてきた。現在の協定は2006年に締結されている。しかし、その海域には西サハラの沿岸部も含まれていることが問題になってきた。西サハラ1976年モロッコが軍事力で制圧し、それ以来、占領してきた。国連をはじめ様々な機関が、国際法に反した占領だと批判してきた。国連はモロッコに対し、西サハラの主権を尊重し、国の将来を彼らが自分たちで決められるように国民投票を実施すべきだと、国連決議を通じて要求してきたものの、何の改善も行われてこなかった。

占領下にある西サハラの沿岸海域は、モロッコ本国ほど漁船監視が行われていないため、EUからやってくる漁船(主にスペインとポルトガル)は西サハラ沿岸で無制限に操業を行っているようだ。モロッコにしてみれば、占領下の海域の漁業権をEUに売っているのと同然であり、また、そうすることで自分たちの占領行為をEUに黙認させようとする意図があるようだ。乱獲を指摘をする声も強い。EUとモロッコの漁業協定には「西サハラの人々の利益になるように配慮すること」という条項が盛り込まれているが、ほとんど守られてこなかった。このことはEUも認めている。

さて、このモロッコとの漁業協定は来年2月で期限切れとなるため、その延長が今年の春からEUで議論されてきた。EUの立法機関のひとつである理事会(閣僚理事会)では、スウェーデンをはじめイギリスデンマークが延長に反対したものの、賛成する加盟国が多数で勝つことになった。(ちなみに、スウェーデンはEUが2006年にモロッコと漁業協定を結んだ際に、唯一反対した国だった)

EUは立法機関を二つ持つため、欧州議会でも可決される必要がある。その議決が今日(水曜日)あったのである。その準備として行われてきた関連委員会での審議では、予算委員会開発委員会が延長に反対するよう欧州議会に要請したのに対し、漁業委員会は賛成の立場を表明した。

今日の議決に先駆けては、スペインやポルトガルの水産業界や在ブリュッセル大使館などがロビー活動を盛んに行ったようで、議決では延長賛成派が勝つものと見られていた。スウェーデンのメディアも、今日の午前中はそのように伝えていた。

『沈黙の海』の著者であり、現在は欧州議会議員(スウェーデン選出・環境党)であるイサベラ・ロヴィーン氏は午前中にFacebookでこう書いていた。
「あと2時間ほどで決着がつく。賛成派がプロパガンダ攻勢を盛んに仕掛けており、メールボックス一杯に溢れている。私たちも反撃している。」
彼女は個人のページでは普段はあまり書き込みをしないので、よほど緊張していたのだろう。

しかし、昼過ぎに行われた欧州議会での議決は、賛成296、反対326、棄権58と、意外にも反対派が勝ったのである。環境・緑グループや、左派グループ、リベラル派グループが反対に回り、保守系やキリスト教民主系に勝ることになった。

ただし、賛否はむしろ北と南でより明確に分かれたようだ。イギリスや北欧などの北ヨーロッパ選出の議員が反対し、イタリアやスペイン、ポルトガル、フランスなどの南ヨーロッパ選出議員が賛成に回るという、北vs南の構図が色濃く現れた議決になったという。まさに現在のユーロ危機と同じだ。

反対派を率いてきたロヴィーン議員のコメントが印象的だ。
「アラブの春が起きたことで、EUの中には非民主・独裁政権と仲良くしてきたことを咎められるという苦い経験をした国もある。EUは、非民主国の肩を持つようなことはしてはならない。今日の議決結果は歴史的なものだ。欧州議会は西サハラの主権を擁護していることを世界に発信したことになる」

ちなみに、彼女によるとこの協定はEUにとってもマイナスらしい。EUはこの協定を通して毎年3600万ユーロをモロッコに支払って漁業権を買ってきたが、その海域での漁業によってEUが受ける経済的恩恵はその65%でしかないという。スペインやポルトガルの漁師に対する補助金と化しているわけだが、それがEUにとって非常に高くつくものになっているのである。

現在の漁業協定は来年の2月に期限切れになる。今日の議決結果を受けて、これから協定内容の再検討がなされ、新しい案が再び欧州議会に提出されることになるという。

モロッコは今日の議決結果にすばやく反応し、自国の沿岸で操業するEU漁船は木曜日午前0時までに退去するように勧告した。




12月12日に欧州議会で発言するイサベラ・ロヴィーン議員(英語)

Nordic Green Japan (その3)

2011-12-02 01:33:37 | スウェーデン・その他の環境政策
シンポジウム初日の基調講演をネット中継で見ていた私の友人が、東大の元総長で現在は三菱総研の顧問を務める小宮山氏の講演について以下のようなコメントを後で送ってくれた。
小宮山氏が「日本には技術がある、北欧には政治力がある、お互い強みを持ち合えば良いパートナーになれる」みたいな話をしていましたが、それを聞きながら、政治力がないことを自認して、しかもそれを他国の政治力でどう補うというのだろうか?と呆れてしまった。

でもきっと、日本経済のリーダー達はそういう認識なんだろうなぁ、政治は愚かな方がいいと思っているのでしょう。しかし、そのことを恥ずかしげも無く海外にアピールすることの愚かさに思いを致していない点で、結局、日本経済自体もいずれ同じような評価をされることになるのではないでしょうか。
これはその通りだと思う。そして「日本経済のリーダー達はそういう認識なんだろうなぁ」ということを改めて実感する機会が、2日目の最後のパネルディスカッションであった。

自然エネルギー財団の業務執行理事(兼・東京大学総長室 アドバイザー)である村沢義久氏が日本で自然エネルギーの普及させていくための戦略について語った時だった。彼は例として、太陽光パネルを挙げ、流通における現行のビジネスモデルを改め、購買コーディネーターを通じて一括大量発注を行うことで、パネルの費用を大きく抑えることができると説明した。このようなビジネス革新や技術革新を通じて自然エネルギーの発電コストを下げ、同時にスマートグリッドの普及を推し進めていけば、意欲次第では2030年に現在の電力消費量の半分を自然エネルギーで賄うことは可能だという。

これに対して、観客から質問が上がった。
「先ほど、社会変革をもたらすためには政治による意思決定が必要だという話が出てきたと思うんですけど、政治がうまく機能せず、有権者の政治に対する関心は下がる一方である日本で、どのようにして政治による変革を起こしていけばいいと思いますか?
それに対して、村沢氏はこう答えた。
政治のリーダーシップやイニシアティブがあれば、自然エネルギーの普及はもっと楽にできる。しかし、それが今は難しい。だから、私は自分の得意分野であるビジネスやベンチャーのノウハウを生かして、ビジネスと技術のイノベーションで、自然エネルギーの発電コストを下げて、普及を実現しようとしているのです」
つまり、本来は政治が強力なイニシアティブを持って社会を動かしていくべきなのだけれど、日本の政治には期待できない。だから、ビジネスベースで理想社会の実現を図るしかない、ということなのだ。スウェーデンを含めヨーロッパの国々では、大きな改革が必要なときに強力なイニシアティブを発揮するのは政治だ。ビジネス界の人にとっては非常に現実的な考え方なのかもしれないが、正直言ってため息が出てくる(村沢氏に対してではなく、日本の社会や政治のそういう現状に対して。村沢氏には非常に良い印象を持った)。

結局、日本の政治家が「あんた達には期待なんかしていないよ」と言われて、そっぽを向かれているのと同じこと。政治家には、これをしっかり屈辱と感じて欲しいと思う。それすらできなくなれば、日本の政治は完全に終わりだと思う。

※ ※ ※


最後のパネルディスカッションでは、発電コストの議論も飛び出した。日本でも電力が卸売市場で取引され、そこで限界費用に基づく価格決定が行なわれるようになれば、電力の価格はどれぐらい下がるか? 逆に言えば、日本の電力市場が垂直統合・地域独占であり、電力の原価が外部者に全く分からないことによって、どれだけ余分なマージンが現在の電力価格に上乗せされているのか? こんな質問をした人が観客の中にいた。

ただし、どの電力価格に着目するか、つまり、電力の原価(発電の限界費用)の部分だけか、それとも送電・配電コスト(施設の固定費用)を含んだ全体の電力価格なのかによって答えも変わってくる。

この質問に対して、東京電力の元社員で現在はスウェーデンとスイスの企業であるABBで働く部長級の人が、観客席から発言した。「具体的なデータはないが感触としては半分になるのではないか。あ、これはオフレコでね。」(実はしっかりネット中継されていた! 笑)

しかし、彼の発言からは全体の電力価格を言っているのか、電力の原価だけを指して言っているのかが明らかではなかった。

パネラーの村沢氏によると、現行のシステムでは一般消費者にとっての電力価格が1kWhあたり24円、小口事業者向けが16円、大口事業者向けが11円くらいだという。一番低いこの11円にという数字に含まれる限界費用と固定費用の割合がよく分からないし、場合によっては大口事業者は限界費用しか払っておらず、一般家庭を含む他のユーザーに固定費用をすべて負担させている可能性もある。いずれにしろ、電力の原価(発電の限界費用)は11円以下ということになるだろう。それに適正な固定価格を加味した全体の電力価格が果たしていくらになるのか? 少なくとも、現行の垂直統合・地域独占のシステム下よりは低くなるだろう。ステージ上の根津氏(富士通総研)は「具体的な根拠はないが10%ぐらい低くなるのではないか」と答えていた。これから、もっと明らかにされるべき問題だと思う。

そう、電力自由化がもたらす大きな効果とは、電力価格の内訳が明確になるという点なのだ。

※ ※ ※


このシンポジウムに2日間出席して、ふと2030年のヨーロッパを垣間見た気がした。ああ、私たちの未来はこうなるんだと。

風力、太陽光、バイオマス、地熱、波力、潮力、浸透圧など様々なタイプの小規模分散型発電所が普及し、それがスマートグリッドによって縦横無尽に連結して、電力を供給している。一方、原子力はフィンランドなど一部の国ではいまだに重要な役割を担っているケースもあるが、ほとんどの国ではその依存度がますます減少している・・・

日本がその流れにうまく乗ることができるのか? それとも、旧態依然とした大規模集中型・垂直統合の閉鎖的なシステムを維持し、取り残されていくことになるのか。今がその重要な分岐点のような気がする。

Nordic Green Japan (その2)

2011-11-27 00:14:13 | スウェーデン・その他の環境政策
飯田哲也氏(ISEP・環境エネルギー政策研究所 所長)の基調講演の概要】

○ 日本の今の状況は、北欧で言えば1970年代に原子力の是非について社会を真っ二つにして議論した時代と良く似ている。

○ その後、スウェーデンではバイオマスの活用、デンマークでは風力発電、その他の国でも自然エネルギーを着実に増やしていった。

○ 1990年代のノルウェーから始まる電力市場改革。同じ頃、スウェーデンは環境税(二酸化炭素税)を導入し、それを巧みに経済と環境保全に結び付けていく。

○ そして、とりわけ地域からのデモクラシー。ボトムアップの中で、地域主導でエネルギーシフトを実現する。

○混沌を極め、進路の見出せない今の日本の状況の中で、北欧の辿った道程から学んで、日本のエネルギーの信頼と安心と安全を取り戻していく。とりわけ、人々が自分たちの意思によって、エネルギー社会を作っていく。その動きを起こしていくために、北欧との協力に期待したい。


テーマごとに分かれた分科会では、Geothermal and Tidal Energy、Wind Energy and Osmotic Energy、Bio Energy、Hydrogen and Transportation、Clean Maritime Transportation、Energy Policy and Energy Markets、Smart City - Sustainable Urban Development、Smart-Grid and use of Advanced ICT Solutionsなど多彩なテーマのプレゼンテーションがあった。

この中でOsmotic Energyという言葉を初めて耳にする方もおられるかもしれないが、これは淡水と海水との間の塩分濃度の違いから生まれる浸透圧を利用した発電方法だ(浸透圧発電・浸透膜発電・塩分濃度差発電などいろんな訳語があるようだ)。小規模分散型の発電技術の一つとして注目されている。



私がこのシンポジウムで初めて耳にした言葉はBiomass-CCSだ。CCSというと化石燃料(石炭・石油・ガス)を使った火力発電で生まれた二酸化炭素を地下空間に貯蔵する技術だ。もともと地中にあった炭素をエネルギーとして活用して再び地中に戻すので、大気中の二酸化炭素濃度に与えるネットの影響はプラス・マイナス・ゼロということになる。

この技術の信頼性は、議論の余地のあるところだが、それはさておき、Biomass-CCSとはこの技術をバイオマス発電に応用するということだ。つまり、農業・林業廃棄物などのバイオマスを活用して発電(できればコジェネ発電で温水も供給)を行い、そこで発生する二酸化炭素を地下に貯蔵するのである。バイオマスは植物が起源であり、その生成の過程で大気中から二酸化炭素を吸収している。だから、この場合、大気中の二酸化炭素濃度に与えるネットの影響はマイナスということになる。これがうまく行けば、非常に画期的な技術になりそうだ。

※ ※ ※


このシンポジウムを通して、日本人の専門家が様々な場で認めていたことは「日本の住宅の断熱性の悪さ」だ。確かに、日本の住宅は伝統的に暑さをしのぐために風通しをよくするよう作られている、という説明が反射的に聞かれるが、オフィスでは夏に冷房、冬に暖房を当然のごとく使い、一般家庭の多くでも冷暖房が常日頃使われている今の時代に、そんな言い訳は通用しないのではないだろうか? 新規建設の建物に要求する断熱基準、あるいは省エネ基準を高く設定してくるべきだったのに、それがほとんど行われずに、住宅やオフィスにおけるエネルギーの無駄が放置されてきたという現状は、なんとも情けない。政治や行政が率先してイニシアティブを取るべきだった分野だが、「日本の省エネ技術は素晴らしい」とか「環境対策は企業の自主性に任せる」などと触れ回って、そこで思考停止に陥ってしまったのではないか?


行政や政治に関連して言えば、初日のトーマス・コバリエル氏の基調講演の後に、こんな質問をした人がいた。

「様々なエネルギー形態の最適な利用は、一つの工場内では円滑に進められるが、一般消費者にとってはガスや電力が縦割りであるため、容易ではない。地域暖房のシステムもない。電力をそのまま暖房に使うという無駄が平気で行なわれている。どうやったら、発電排熱を暖房に活用できるようになるのか? エネルギー全体を考えて、社会にとっての統合化を図る鍵は?

これに対する、コバリエル氏の答えは、スウェーデンの例として「地域暖房(district heating)を整備し管理するのは主に地方自治体。そして、排熱などの熱源を持つのは製造業の工場だし、バイオマス発電を行い排熱を持っているのは林業や紙パルプ産業。自治体としては安価な熱源を活用したいし、産業側は無駄になるエネルギーを売ることで少しでも利益を得たい。この間で話し合いが行われ、利益がうまく分配できる。両者が得をすることになる」

では、それがなぜスウェーデンで可能だったか? という点に関しては、「スウェーデンは小さい国だから、お互い顔をあわせる頻度が多くある。だから、あるミーティングで交渉相手であった担当者と、全く別のミーティングでも顔を合わせる機会が頻繁にある。そのために、品位を保った交渉をする必要があり、話し合いがうまく行きやすい」と説明した。

ここでランチの時間となり、このやり取りはここで終わったが、私自身は「お互い顔をあわせる頻度が多くある」ことが重要な点だとは全く思わない。むしろ、自治体担当者のやる気と専門性の違いだろうと思う。

日本の自治体職員は、専門性が問われないまま新卒で一括採用され、その後、様々な部署を定期的にローテーションしながら、現場の仕事を少しずつ覚えていくが、スウェーデンの自治体職員は基本的にすべてのポストが専門職だ。そして、そのポジションの空きができるたびに求人が出され、専門性を持つ人が応募してくる。だから、自治体のリサイクル課や環境課で働く人たちの多くは大学でそれに関連した勉強をしているし、それは教育や高齢者福祉などの他の部署でも同じことだ。一方、それぞれの部署で経理やアドミニストレーションを担当する人は、それ専門の人を雇う。定期的なローテーションはない。ただし、その専門分野内における昇進などはもちろんある。だから、本人が自分からその職を辞めて別の職や企業に移ろうとしない限り、基本的にその分野で働き続けられる。そうすると、仕事に対するやる気も違うし、自分の専門性を生かしてその自治体の発展に貢献することができる

先ほどの地域暖房やエネルギーの分野でも、そこで働く自治体職員はその分野の現状や最新技術、世界のトレンドなどをきちんと把握しているから、自治体にとって効率的で利益になる(金銭的な意味に限らず)と思ったことを実現しようという意欲がわく。そのための知識やネットワークも持ち備えている。

これに比べて、もしその部署で働く職員の大部分が、他の部署から移ってきた人で占められ、そして3年後にはまた別の部署に移動させられる、というような職場だったらどうだろう? やる気は全く異なるだろう。その3年間、無難に仕事をこなせばよい、という保身的な考えをしがちになるのではないだろうか? それにそもそも大きなことを実現するための専門性もない。

このような、働き方・雇用慣行の違いによる生産性(非金銭的な面も含めて)や全体としてのパフォーマンスの違いは、このエネルギーの問題に限らず、私が今後もっと取り上げて行きたいと思っている。が、今回はこの辺で。

シンポジウムについて、あともう少し書きたいことがあるが、それは次回。

Nordic Green Japan (その1)

2011-11-24 01:23:15 | スウェーデン・その他の環境政策
10月、11月と日本を2度往復しました。少々の長旅は大丈夫だと思っていたものの、時差が体にこたえ、しかも日本滞在中のネット環境が良くなかったため、ブログの更新が滞ってしまいました。さらに、日本滞在中にヨーテボリ大学の同僚に不幸がありました。いろいろな場で私のことを推してくれた人だったので非常に悲しかったと同時に、スウェーデンに戻ってみたら仕事がたくさんあり、また、先日はストックホルムを訪れた日本の元大臣のヒアリングの通訳もお引き受けしたため、今日まで全く更新できませんでした。

どこから始めようかと迷ったものの、まずは東京で11月7~8日に開催されたNordic Green Japanという北欧5カ国の在日大使館が主催した環境技術シンポジウムについて。私もスピーカーの一人として参加しました。以下はその時のメモ。

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環境技術といってもこのシンポジウムの焦点は、自然・再生可能エネルギーの技術や、それを支えるインフラ面での技術や制度設計だ。このシンポジウムの企画そのものは1年前から始められたというが、その後、東日本大震災とそれに続く原発の大惨事があったため、結果として、今後の日本のエネルギーをどうして行くかを考える上で、非常にタイムリーな企画となった。シンポジウムが意図するのは、環境技術(グリーンテク)の分野での日本と北欧諸国の企業や研究機関のビジネスや連携を促進することだ。

さて、通常は北欧というと4カ国を考えるが、今回は北欧5カ国の大使館による主催イベント。5つ目の国とはどこかというと、アイスランドだ。人口30万人の小国だが、自然・再生可能エネルギーという面では、地熱エネルギーの大々的な活用を忘れてはいけない。

ただし、やはりシンポジウムでの関連講演の数を見ると、他の4カ国と比べて存在感は薄い。そのため、バランスを少しでも保つためだろうか、開会の挨拶はアイスランドの駐日大使だった。「日本は原子力なしでは絶対にやっていけない、と専門家は言ってきた。しかし、原子力への依存を減らすための選択肢はたくさんある」と彼は始める。

(訂正:開会の挨拶がアイスランドの駐日大使だったのは、一番駐日大使として長いことが理由だったそうです。)

その上で彼は、北欧5カ国それぞれの自然・再生可能エネルギーへの積極的な取り組みを一つ一つ紹介していく。アイスランドは地熱エネルギーの活用、デンマークは風力エネルギー、フィンランドはバイオエネルギー技術、ノルウェーは水力と風力と太陽光の発電技術、そしてスウェーデンはバイオエネルギー、スマートシティー、そしてスマートグリッド。

しかし、興味深いことにスウェーデンにはまだ原発がたくさんあり、フィンランドに至っては原子炉を新たに建設中であることは、一言も触れない。彼に続いてウェルカムセッションの基調講演をした北欧からのスピーカーもその点には全く触れない。もちろん、このシンポジウムのテーマは自然エネルギーを中心とした環境技術なのだけど、原子力については全く素通りなので、傍からみているとそのテーマを敢えて避けているようで滑稽にも思えた。

しかし、休憩を挟んだ後半のウェルカムセッションで、スウェーデンの元エネルギー長官であるトーマス・コバリエル氏がズバッと一言、指摘してくれた。

「フィンランドは原子力発電所の増設を積極的に行っているが、彼らはその行動を通じて、原発の新規建設コストが実は非常に高いものであることを、非常に明確な形で私たちに示してくれた」

彼の英語のスピーチは皮肉たっぷりだったが、後で動画録画を確認したところ、同時通訳ではこのアイロニーがうまく訳しきれていない様子だった。


トーマス・コバリエル氏(元スウェーデン・エネルギー庁長官、現・孫正義の自然エネルギー財団の理事長)の基調講演の概要】(私のメモより)

○ 風力・太陽光・バイオマスといった自然エネルギーの積極的な普及と、つなぎとして天然ガスの活用

○ 日本における地熱エネルギーの大きな潜在性。エネルギー庁長官時代にアイスランドを訪れたとき、同国のエネルギー庁長官は「地震国・火山国に住んでいる短所を逆に生かして、そのエネルギーをうまく活用しているんだ」と説明してくれた。地震があると地下活動が活発になり、地熱の発電量が増えるから、発電者は「地震をむしろ楽しんでいる」と表現していた。

○ 風力発電の急速な伸び。中国は過去2年間を通して、1時間当たり1.5基の風力発電所(風車)を建設してきた。
スウェーデンは、1日あたり1基を建設してきた。しかし、小国なので建設数で見た競争で世界有数になることはない。ただし、スウェーデンの人口を中国の人口に換算してみると、1時間当たり5基に相当(コバリエル氏、小さくガッツポーズ!)
日本は、中国の人口に換算すれば2時間に1基


○ スウェーデンは経済的にみても効率的に自然エネルギーの普及を進めてきた。林業や農業の廃棄物や家庭ごみを有効活用し、それを用いて発電するだけでなく、熱の有効利用も行っている。同時に、これらの産業の競争力も高めてきた。バイオマスの活用度合いを人口比で見れば、おそらく世界一になるだろう。

フィンランドについても言及しておきたい。
フィンランドは原子力発電所の増設を積極的に行ってきたが、彼らはその行動を通じて、原発の新規建設コストが実は非常に高くつくものであるということを、非常に明確な形で私たちに示してくれた。

電力の送電線網を各国間で統合することによって、発電者間の競争を促し、発電コストを抑えることができるし、供給安定性を高めることも可能となる。
自然エネルギー(風力・バイオマス・水力)の供給量が増え続けていく中、様々なタイプの自然エネルギーを共有し、融通しあうことで導入可能量が大きく伸びる。送電線網で統合された各地域がそれぞれの特性を生かす。風が強い地域からは風力発電の電力、日照時間の長い地域からは太陽光発電の電力、林業廃棄物のある地域からはバイオマスによる電力、といった具合に。

(続きは次回に)

ストックホルムでの木を守る運動(ニレ1971年・オーク2011年)

2011-10-28 07:10:05 | スウェーデン・その他の環境政策
先日のスウェーデンツアー報告会(三軒茶屋)でも、レーナ・リンダルさんの講演会(スウェーデン大使館)でも話に出た、ストックホルムの「ニレの木を守る運動」

これは1971年5月のこと。ストックホルムの中心部にある王立公園地下鉄駅への出入り口をつくるため、13本のニレの木を切り倒すことが決まった。これに対して、数千人の住民が反発し、1週間にわたって木の周辺を占領した。

これに対し、市側はある晩、警察を用いて強制退去を行い、実力行使で木を切り倒そうとし、警察と活動家双方にケガ人が出る事態となった。その後、市の側は計画を撤回し、地下鉄の出口の位置をずらすことで問題は解決した。市民が市や政府の強硬的なやり方に反対し勝利したという象徴的な出来事であると同時に、行政側も都市計画や公共事業の実施において市民との対話を重視する必要性を認識する契機となった。





実は今、新たな反対運動ストックホルムで起きている。立派な住宅街が立ち並ぶオステルマルム地区の片隅に公共テレビSVTの本部あるが、その前の通りにオーク(セイヨウナラ)の巨木が立っている。樹齢は500年とも1000年とも言われ、ストックホルムの町よりも古いのではないかと考えられる老木だ。テレビ局の前にあることから「テレビ・オーク」もしくは「テレビ局前のオーク」(TV-eken)という愛称で親しまれてきた。



150年前に描かれたこの巨木。当時、周りには何もなかった。

10月12日、ストックホルム市交通課はこの大きな老木の切り倒しを決定した。理由は、菌や腐敗による根の侵食が激しく、健康状態が良くないこと、そして、いつか倒れることになれば通行人に危害を与える危険があるため、としている。早くも10月24日に切り倒す予定だと発表した。

市は老木にもそのことを伝える告知文を掲げた。この巨木のもとを訪れる市民は日増しに多くなり、名残惜しみながら最後の別れを告げていた。一方、市の決定に異議を唱える人々も増えていった。彼らはこの決定が政治決定ではなく、あくまで市の役人レベルで決定されたものであることをまず批判した。また、木の状態が悪いにしろ、適切な対策を施すことによって、その大部分を残すことは可能だと指摘。さらに、本当は現在進められているストックホルム市の路面電車の延伸の邪魔になるからではないか、と伐採の理由そのものに異議を投げかけ始めた。

ある市民は「千年近くもこの場所に立ち続けた木の切り倒しを、たった2週間の間に発表から実行に移すなんておかしな話だ」と新聞記者に述べている。また、市が巨木に掲げた告知文には誰かが「くだらん話だ。本当は路面電車が目的だろ?」とか「(王立公園の)ニレの木だって(健康状態が悪いから)伐採しなければならないと言ったくせに、40年経った今でもちゃんと立っているじゃないか」と落書きをしている。さらに「確かに老木だが、私たちが敬意を持って適切な処置を施せば、あと数百年は花を咲かせ続けるだろうに」と述べる市民をいる。


先週末の日曜日には大勢の市民がこの木の周りに集まってデモ集会を行った。中には、1971年のニレの木をめぐる運動に関わった「ベテラン」もいた。伐採当日に警察がやって来て、木の周りから人々を追い払い、伐採を実行するかもしれないと危惧して、「ハンモックなどを持って木の上に陣取ろう」と提案したりした。そして、人々の一部は伐採が予定された月曜日まで居座った。市が予告した朝8時30分がやって来たが、市の作業員は現れず、実施の延期を発表した。

ストックホルム市は現在、ノルウェーからも樹木の専門家を呼んで、この老木の健康状態を判断してもらうことを予定している(セカンド・オピニオンということだろうか?)。また、伐採に反対する人々はこの地区を管轄する市議会の地区委員会に働きかけて、政治問題化させ、政治的な決定によって老木を保存することを狙っている。地区委員会を構成する市議会議員のうち、社会民主党環境党の市議会議員は老木の保存に積極的だが、ストックホルム市議会の連立与党を構成する保守系政党は「これは市の交通局が決定すべき問題であり、彼らに再度調査を行うように指示した」として、現在のところ政治的に取り上げることは考えていないようだ。

現在、伐採に反対する人々は木の保存と交通の安全確保を両立する道を模索するとともに、計画が正式に撤回されるまでは24時間体制で監視を続けている。

<写真がいくつか・1>
<写真がいくつか・2>
<地区委員会での協議>

1時間ごとの電気料金の課金が来年からスウェーデンで可能に

2011-10-11 00:38:57 | スウェーデン・その他の環境政策
電力需要のピークをいかに抑えるか?

日本の今年の夏の課題はまさにこれであったが、大口顧客に対する節電の要請や罰金制度、そして、各家庭に対する呼びかけなどによって、今年の夏は乗り切った。

しかし、節電を行って電力需要のピークを抑えるために一番効率的な方法は、強制呼びかけに頼るのではなく、利用者一人ひとりの経済勘定に訴えることであろう。例えば、電気の単価が一時間ごとに変化し、需要のピークに差し掛かるにつれて高くなっていくのであれば、単価の高い時間帯はなるべく電気を使わないようにしようとするインセンティブが利用者に働くようになる。


電力市場のこれまでの常識は、需要側の変動に合わせて供給量を調節する、というものであった。だから、電力需要が大きく増える平日・日中は、日本であれば火力発電所を稼動させてピーク需要を何とかして賄おうと努力してきたし、スウェーデンであれば水力発電所(貯水型)の流水量を増やすことによって、発電量を需要側の変動に合わせるという方法が取られてきた。

しかし、この制度の問題点は、ピーク時の電力需要が伸び放題であれば夏季の1日わずか数時間の間のピークを賄うだけのために電力会社はわざわざ発電所を新設しなければならない、ということだ。たとえ、その施設の一年を通した稼働率がわずか数%であったとしてもだ。

また、電気料金が一日もしくは一ヶ月を通して一定であれば、仮に利用者のほうが需要ピーク時には電気を使わず、代わりに電気が比較的豊富にある時間帯(例えば夜や早朝)に使うという努力をしたとしても何も報われないことになる。

だから、これからは需要側を電力の供給状況に柔軟にあわせていくための制度も必要となってくる。

日本では深夜料金昼間料金を分けて課金する制度が導入され、電気温水器などの電気製品は電気代の安い夜間に動かすなどの工夫が取られている。しかし、もし1時間ごとに電気代が異なるようになれば、どうだろう? つまり、電力需要電力供給のバランスによって1時間ごとに電気の単価を変えるというシステムである。そうすれば、朝から日中にかけて徐々に電気代が上がっていくようになり、13時~14時に単価が最も高くなり、その後、夕方にかけて減少していき、炊事の17時~20時頃に再び高くなって、再び減少し、夜中が最も安くなるだろう。利用する側は、単価の違いに合わせた電気の使い方を意識するようになるだろう。

スウェーデンではこれまで深夜料金と昼間料金との区別はなく、月間を通して、もしくは年間を通して一定の単価が課せられてきた。(←月ごとに変動するか、それとも1年もしくは2年という長い期間にわたって固定かは利用者が選ぶ契約の種類による。)

しかし、数年前から時間単位の課金を可能にする準備が始められ、2010年までにスマートメーター(1時間ごとの使用量を記録できる電気メーター)大口・小口利用者の91%に設置された。そして、今年6月23日に来年から時間単位の課金を始めるための法案がスウェーデン議会に提出され、可決した。(続く・・・)


法案提出の日に日刊紙に掲載された産業大臣自身によるオピニオン記事。
「持続可能なエネルギーには、積極的に選ぼうとする消費者のためを考えた新しいツールが必要となる」

スウェーデン放射線安全庁の機関紙(2)- 事故後の監視体制とはるばる到達した放射能

2011-10-08 23:28:31 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨンショーピン大学の経済学部で勉強していたときの友人で、現在は民生災害対策庁で働く人が、3月11日の大震災やそれに続く福島原発の惨事の直後、「スウェーデンの民生災害対策庁でも通常の24時間警戒体制を増強しながら日本の事態の推移を見守っている。夫が育児休暇中だから子どもの面倒を見てくれている」と連絡をくれたことがある(この夫も私の同級生)。

彼女が働くこの民生災害対策庁は、民生部門のさまざまな側面における防災計画を策定したり、訓練を行ったり、実際に災害が発生したときには援助・救助活動のコーディネートを行う機関だ(防衛省の管轄下にある)。3月11日の日本の大震災に際しては、EUの枠組みの中でスウェーデンが日本に対して行う援助活動をコーディネートしたり、原発事故を含むさまざまな災害対策として、スウェーデンが日本の今回の経験から学べることは何かを分析していた。日本から英語で発表された資料や記事の中に日本語が混じっているときには、訳を手伝ってあげたりした。

ただし、原発事故に関しては、この庁よりも専門性が高い放射線安全庁が存在するため、放射線安全庁との協力関係のもとで事態の推移を分析していたようだ。


【放射性安全庁が直ちに敷いた緊急監視体制】

前回紹介した放射線安全庁の機関紙の中では、事故発生直後の放射線安全庁の様子が描かれている。庁内では3週間にわたって緊急監視体制が敷かれたという。仕事場を庁内の指令センターに移動させ、職員総数の半分である130人が3シフトで事態の推移を見守った。主に国内での事故に備えて、このような緊急監視体制の準備が通常からされているが、今回の日本の事故に際しても、その手順に則った指令センターの設置が数時間ほどで行われたようだ。

(スウェーデン国内では今年の2月から、上に示した民生災害対策庁や放射線安全庁などの中央官庁や自治体などの職員、電力会社、業界団体、保険会社、中央銀行、金融機関、警察、メディアなど、総勢6000人が関与する大規模な原子力事故訓練が開始されていた(4月に終了)。そのため、つい数週間前に訓練したことが実践できた、とこの訓練に関わった担当者は述べている)

3シフトによる24時間体制の緊急監視では、福島原発から放出された放射性物質の量やその内訳、分散の仕方などが気象条件や日本政府や東電の記者発表をもとに分析されたという。ただし、日本から発信される情報は非常に少なかったため、放射性安全庁で勤務する専門家は、存在する情報をもとに現在の実際の状況を予測したり、影響の大きさを推計していた。

[私も放射線安全庁の専門家がかなり早い段階で「空焚きが続いた炉内の炉心(燃料棒)はもうほぼ融けている」とメディアでコメントしていたのを覚えている。当時の日本からの発表にはそのような情報はなかったし、ようやく部分的メルトダウンを認め始めていた頃だったと思う。おそらくそのようなシミュレーションや予測が根拠になっていたのだろう。諸外国がこのように事態を深刻に捉えていたことに対し、日本では「現状を知らず大げさなことを言っている」とか「不安を煽っている」などと批判があったが、結局、東京電力などがずっと後になって発表した報告書でも、空焚きが始まってわずか数時間でメルトダウンしていた可能性が高いことが判明している。]

その上で、スウェーデン外務省に対し、日本に滞在する自国民へのアドバイスを提案したり、食品庁や税関に対して輸入食品の基準値などにかんするアドバイスを提供したり、メディアに対する記者発表や市民からの問い合わせに対応していた。


【福島原発からの放射能はスウェーデンに到達したか?】

これについても、機関紙の中で少し触れられている。スウェーデン国内には6箇所に大気フィルター観測所が設置されている。これは国外で行われた大気圏内核実験の影響を感知することを目的として防衛研究所が1950年代に設置したものだが、以前にこのブログで取り上げたように、ソ連が国外に隠していたチェルノブイリ原発事故世界で最初にスウェーデンで検出されたときにも威力を発揮した。

2011-04-02:発生から2日後に発覚したチェルノブイリ原発事故

福島原発からと見られる放射性物質をこの大気フィルターが最初に検出したのは、最初の放出があった3月12日から9日後だったらしい。まず、ヨウ素131が検出され、その後、半日から1日ほどしてセシウム134や137も検出されるようになった。ただし、量はごく微量であった。ヨウ素131の最大値は1m3あたり2.15mBqセシウム134の最大値は1m3あたり0.445mBqセシウム137の最大値は1m3あたり0.557mBq。いずれもストックホルムの観測所での値が他の観測所よりも高く、また3月末に最大値に達している。ここに示した数字はそれ。機関紙によると、これらの放射能による被曝線量は全部あわせても0.1マイクロシーベルほどにしかならないという。

また、大気フィルターによる検出と平行して、国内の16地点では牧草からサンプルが採取され、放射性物質の検出が行われた(4月上旬)。その結果は以下の通り。
  • 最も高い濃度のヨウ素131が検出された場所はスコーネ地方のTorekovという場所で、牧草1kgあたり34Bqだった(ストックホルム11Bqヨーテボリ14Bq)。ヨウ素131による汚染が最も懸念されるのは牛乳だが、ヨウ素131を1kgあたり34Bqを含む牧草を乳牛が1日50kg食べたとしても、牛乳に移行するヨウ素131は1kgあたり14Bqという低い水準にとどまるという。

  • 牧草のサンプル調査から検出されたセシウム134の最大値はヴェクショーで1kgあたり4.9Bq(ストックホルム1.9Bq、ヨーテボリ2.4Bq)だった。また、セシウム137の最大値は同じくヴェクショーで6.5Bq(ストックホルム 検出されず、ヨーテボリ3.0Bq)。ただし、セシウム137は半減期が30年と長いため、ここにはチェルノブイリ事故のときに降下したセシウム137も含まれている。ヴェクショーに次いで、イェーヴレでは6.4Bqという値が検出されているが、この大部分は1986年に降下したものであろう。(これに対し、ヨウ素131の半減期は8日、セシウム134の半減期は2年であるため、チェルノブイリ事故のときに降下したこの二つの物質はもうほとんど崩壊している)
さらに、放射線安全庁は国内の28箇所にガンマ線観測所を持っており、観測結果を1時間ごとに放射線安全庁の本部に送っているが、ここでは通常よりも高い放射線量は検出されなかったという。福島原発から到達した放射性物質から出る放射線量は非常に低い値であったため、自然放射線量の変動幅内に収まったからであろう。

スウェーデン放射線安全庁の機関紙(1)- フィルター装置の説明など

2011-10-06 00:54:35 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンの原子力・放射線監督行政は、かつては原子力施設の監督をする原子力監督庁と、身の回りの放射線(原子力施設・医療現場のレントゲンや放射線治療・紫外線・レーザー光・電磁波)から人々の健康を守るための行政を司る放射線防護庁に分かれていたが、2008年半ばに合併され放射線安全庁となっている。この機関が環境省の管轄下にあることは、このブログで以前触れたが、前身となった2つの機関も同様に環境省の管轄下にあった(ただし、原子力監督庁は以前は産業省などの下に置かれていたこともあるようだ)。

<以前の書き込み>
2011-03-28:原発の安全性をどの省が監督するべきか?

この放射線安全庁は機関紙を年に4回発行しているが、今年は年初に1号目を発行して以来、新しい号の発行が止まっていた。しかし、2・3号合併号、という形で先日やっと発行された。巻頭の言葉を読むと、日本の原発事故のために当庁の行政活動(原子力監督行政)を再検討せざるを得ず、これまで職員に余力がなかったから、と書かれている。

最新号の特集テーマは、当然ながら日本の原発事故だ。特集記事のタイトルは「福島での事故はまだ終わったわけではない」というものだ。(英訳すれば、The accident in Fukushima is far from over


事故から半年が経った現在の被災地の状況や、放射線セシウムによる地表汚染、除染活動の状況について書かれているほか、スウェーデンの原子力発電所は大丈夫なのか? 地震や津波のリスクがないとしても、他にどのようなリスクが考えられるのか? 万が一、事故が発生した場合に備えてどのような安全バリアーが備え付けられているのか? などが分かりやすく説明されている。

ただ、やはり監督を行っている行政機関の発行であるので、どちらかというと、ちゃんと監督をしています、福島の事故を受けてストレステストを行っているところです、安全対策はしっかりされています、安心してね♥ という雰囲気がどことなく漂っている。しかし、それでもスウェーデンの省庁で働く公務員は基本的にジェネラリストではなく、それぞれの分野の専門家であるため、専門知識にしっかり基づいて客観的に書かれていることは確かだと思う。

私が興味深いと感じたのは、もしもスウェーデンの原子炉で外部電源からの電力供給が停止し、予備電源も機能せずに炉心溶融が起きたときはどうなるかが図解されている箇所だ。


まず、炉心が露出し始めて1時間が経てば、露出した部分から溶融が始まる。その後、4時間から7時間が経つと圧力容器内の水が完全になくなる。炉心はほぼ完全に融け、圧力容器の底を突き破る。しかし、格納容器の底には多量の水が張ってあるため、溶融した炉心はこの水によって冷却されることになる。ただし、格納容器内の水も溶融した炉心の熱によって次第に蒸気になっていくので、外部からの注水が必要になる。その場合は、消防車などの可動式装置によって注水が行われる。

耐震性があり、格納容器の土台の部分がしっかりしていれば、土壌に流れ出たり、外部に漏れる恐れは少ないと解釈してもよいのだろうか。

ただ、注水がうまく行かなかった場合はどうなるのか? 付近の放射線量が高すぎて消防士が近づけなかったら? 放射線防護機能のある消防車が本当にスウェーデンにあるのか? 何台? 注水に失敗して格納容器内の水も空になった場合は、どうなるのか? 土台を突き破ることになれば、それを阻止する対策が何かあるのか? ヘリコプターを使うことも考えているのか? このような疑問も浮かんでくる。


一方で、感心したのは、大気中への放射能の放出を抑えるフィルター装置がしっかり備え付けられている点だ。まず、圧力容器内の水がどんどん蒸発していけば、圧力を緩和するために格納容器内に蒸気を放出するわけだが、格納容器内でも圧力が高まっていけばいずれは大気中に放射能を含む水蒸気を放出せざるを得なくなる。放出しなければ、外部からの注水も難しくなる。福島第一原発ではこの時、ストレートに大気中に放出してしまった(爆発が起きて建屋そのものも吹っ飛んだ)。

このニュースがスウェーデンで報じられた直後、放射線安全庁の専門家がテレビでインタビューを受けていたが、彼がすっかりあきれていたのを私は覚えている。「先進国の原子炉に当然のごとく取り付けられているフィルター装置が福島原発には取り付けられていなかったなんて!」


では、このフィルター装置はどのようなものかというと、換気扇や空気洗浄機のフィルターみたいなものではなく、150立方メートルの水が入った大きな水槽だ(上図の右端の装置)。格納容器内の圧力が高くなりすぎると、放射性物質を大量に含む格納容器内の水蒸気が配管を通じてこの水槽に送られる。この時、水蒸気は水に戻り、水蒸気と一緒に運ばれていたヨウ素セシウムなどの微粒子は水中に留まる。また、水蒸気には固体のヨウ素だけでなく気化したヨウ素も含まれているが、これは水槽の水にあらかじめ添加してある化学薬品と反応して化合物になり、水中に留まるのだという。こうして、水蒸気にもともと含まれていた放射性物質の99.9%が濾過された上で、大気中に放出される。(ただし、99.9%という数字には希ガスは含まれていないようだ。希ガスはこの装置では捕獲できず、大気中に放出される。しかし、半減期は非常に短く、短期的な問題にすぎない、と説明されている)

このフィルター装置が福島原発に装着されていたら、と考えると悲しくなる。

<注> イラストは放射線安全庁の機関紙15ページより

再び問題発生 - リングハルス原発

2011-10-02 03:28:19 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨーテボリの南方にあるリングハルス原発の4基の原子炉は、現在そのすべてが定期点検や火災にともなう停止のために運転が完全に止まっている。うち3基は10月初めまでに運転が再開される予定だったが、先月終わり、原子炉を監督する放射線安全庁4基すべての再稼動の禁止を命じた。

その理由は、スプリンクラーなどの冷却装置の内部で、溶接の残滓が見つかったからだという。しかも、この残滓は定期点検で発見されたものではなく、今年5月に発生した2号機の火災を受けて、内視鏡を使った綿密な検査を行っていたときに発見されたものらしい。過去の作業の記録をさかのぼると、スプリンクラー部分での溶接作業が行われたのは1980年代終わりから1990年代初めにかけてであり、残滓はおそらくその時から放置されていたようだ。

<過去の記事>
2011-05-12:定期検査中のスウェーデンの原子炉にて小規模の火災

残滓が見つかったのは2号機と4号機だが、定期点検のために停止している1号機と3号機にも念のために再稼動の禁止が発令された。放射線安全庁は、この原発を所有する電力会社に対して、新たな安全点検を行うとともに、どうしてこれまでの定期点検や安全装置の確認などで、この問題が発見されず20年近くも放置されたのかを調査するように命じた。それが発表されるまでは、再稼動の禁止が解除されることはない。

ただし、同様の安全点検はスウェーデンの他の二つの原発、フォッシュマルク原発オスカシュハムン原発にも命じられたが、こちらでは運転の停止が命じられることも、停止中の原子炉の再稼動が命じられることもなく、通常運転のかたわらでスプリンクラーの安全確認が行われるという。

スウェーデンは夏に電力需要が一番低く、暖房の必要性の高い冬に一番高くなる。だから、通常は定期点検が夏の間に行われる。この点検は秋にまで差し掛かることもあるため、現在でも国内10基の原発のうち6基(うちリングハルス原発が4基)が運転を停止しているが、放射線安全庁が今回発令した再稼動の禁止によって、リングハルス原発の運転再開はずれ込むことが予想されるため、電力需要の高い冬場にどれだけの原発が運転できるのかが不明確になってきた。

スウェーデンでは、今年初めの冬とその前の冬厳冬であった上、原子炉の多くが不調で停止を繰り返したため、需要曲線と供給曲線の双方が通常よりも大きく変動し、電力価格が高騰することになった。「この冬はそうならないように、原発をちゃんと動せるように精一杯努力する」と電力会社の代表者が意気込みを語っていた矢先の再稼動禁止となった。


原発への依存度が着実に減ってきているとはいえ、スウェーデンはまだ電力需要の4割弱を原発に頼っているから、需要が高まる冬場の原子炉の動向によって価格が大きく変動するという、非常に脆弱な電力供給システムとなっている。

「原発の調子が悪いのは古いからであって、それならば新しく建て替えればよい」という意見も国政政党の自由党を中心に根強いが、今から計画を立てたとしても完成までに少なくとも10年はかかるというから、今の問題を解決できるわけではない。また、経済的なリスクを恐れて、大手の電力会社は原子炉の新設(← 既存の更新という意味で)に尻込みしている。

だから、より現実的なのはバイオマス発電や風力発電などを着実に増やしていくとともに、省エネ・節電を総合的に行っていくことだ。そして、そのための条件をスウェーデンはきちんと整備しつつある。それについては、また別の機会に。


エネルギー庁長官へのインタビュー記事(スウェーデン語からの邦訳)

2011-08-20 17:41:57 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンの技術系新聞に掲載された記事の邦訳です。


「スウェーデンのエネルギー将軍が日本に太陽を広めていく」

トーマス・コーバリエルはエネルギー庁長官を辞任。日本における再生可能エネルギーの発展を早める目的で新たに設立される財団を、これから導いていくことになる。この財団の背後には、日本で最も裕福な事業家がいる。

スウェーデンのエネルギー庁長官を3年半務めたトーマス・コーバリエルは、そのポストを辞任し、新しく設立されるJapan Renewable Energy Foundationの理事長に就任する。この財団は、福島原発での事故を受けて、日本における再生可能エネルギーの発展を早めることを目的として設立される。

この財団の背後にひかえているのは、日本のメディア・テレコム企業であるソフトバンクの創設者であり社長である孫正義氏だ。彼は、米フォーブス紙によると80億ドルの資産を持つ日本一の資産家であり、また、社会への積極的な貢献でも知られている。

そんな彼が新しい財団の理事長として選んだのは、トーマス・コーバリエル氏だ。

【以下は、トーマス・コーバリエル氏へのインタビュー】

どのような経緯で新しい仕事が決まったのですか?

― 以前から日本とは深い付き合いがあり、例えば、日本で講演などもしてきました。スウェーデンは、日本では先駆的な国として知られています。孫正義氏は、理事長ポストへの適任者として私の名前を耳にしたのでしょう。先日、日本に招かれ、彼と会うことになりました。

再生可能エネルギーによって日本を支援して欲しいという要請を受けたときの、最初の感想はどのようなものでしたか?

― もちろん光栄に感じました。スウェーデンやヨーロッパでの教訓や経験を日本で生かしていくのは、非常にワクワクするものです。それと同時に、とてつもなく大きな課題であり、一人のスウェーデン人が日本の一組織の中でそのような役割を果たしていくことは容易なことでないとも感じます。

その財団が取り組むのはどのようなことですか?

― ― 再生可能エネルギーの活用をすばやく拡大していくために役に立つ、様々な知識や経験を集めて、それを拡散していくことです。ただし、活動の詳細について現時点で詳しく説明するのは時期尚早です。財団の最初の会合は、9月のはじめに開かれます。

その財団の資金規模はどのくらいですか?

― まだはっきりと分かりませんが、かなりの額になるでしょう。孫正義氏は再生エネルギーに非常に大きな関心を持ち、意欲にも溢れています。人間的にも堅苦しくなく付き合いやすい人物です。

日本に住むことになるのですか?

― いいえ。私の活動の拠点や家族はヨーテボリに残します。日本をたびたび訪れ、1年間に全部で3ヶ月くらい日本に滞在することになるでしょう。

福島原発の大惨事を受けて、日本のエネルギー政策はどのように変わりましたか?

― 日本政府は路線を大きく転換することになりました。あの大惨事は当然ながら、エネルギー政策を巡るそれまでの戦略や意欲に再検討をうながす転機となりました。私は、新しいエネルギー政策の策定に向けて積極的に動いている人たちに何人も会ってきました。

日本における再生エネルギーの割合は、現時点ではかなり小さなものに過ぎませんが、それを今後伸ばしていくための可能性はどういう所にあると、あなたは考えていますか?

― 日本は既に太陽光発電の分野で力を持っています。それに、風力発電やバイオ燃料の分野でも強い産業を発展させていく大きな可能性を秘めています。さらに、地熱エネルギーの分野でも日本が持つ潜在性は大きなものです。

スウェーデンの企業が活躍できる余地はありますか?

― スウェーデンの産業を売り込むことは私の役目ではありません。しかしながら、ABB(発電・送電技術、産業機械のスウェーデン・スイス企業)を始め、日本で成功を収めているスウェーデン企業がいくつかあるのは知っています。スウェーデンには太陽エネルギーやゴミ・廃棄物処理、バイオエネルギーで有名な企業もあり、ビジネスチャンスは大いにあるでしょう。

日本に滞在しない期間は、あなたはどのような活動をするのですか?

― ヨーテボリのシャルマシュ工科大学を拠点にして、研究活動や新しいエネルギー技術の商業化に携わっていくつもりです。

エネルギー庁の長官を務めた3年半の間に様々な経験や教訓を得たと思いますが、あなたがこれから日本で活動する上で参考にしたい、最も重要な経験・教訓は何ですか?

― エネルギーシステムの大きな転換をうまく達成するためには、数多くの要素が同時に動かなければならないということです。企業が新しい技術的可能性を実現するためには十分な知識がなければいけませんが、それと同時にそれに適した法制度・ルールやインフラが導入されていなくてはなりません。必要なことを正しい順番で実行していくことが重要なのです。

スウェーデンにおいて、改善していくべきことは何だと思いますか?

― エネルギー分野では、スウェーデンは世界的にもかなり進んでおり、知識や人材も十分に持っています。しかし、開発した技術を商業化して収入を得ることに、もっと頭を使うべきだと思います。

発電コストの比較(その2)

2011-08-03 10:27:05 | スウェーデン・その他の環境政策
異なる発電形態の間の発電コストの優劣の続き。

まず、このコスト計算の仮定や条件について説明したい。

【利子率】
6%を仮定(借り入れに対する利子率と、自己資本に対する利潤率)


【償却期間・寿命】
長い償却期間・寿命を設定すれば、その分だけ1kWhあたりでみた初期投資コストが小さくなる。

・原子力発電所 40年
・大型水力発電所 40年
・その他の大型発電施設(天然ガス・石炭火力発電所)25年
・風力発電所 20年
・小型施設(各種コジェネ発電所・小水力発電所)15年


【稼働率】
1年間(=24時間×365日=8760時間)のうち何時間の間、施設を運転することができるか?


風力発電所の場合は、複数の発電機を一ヶ所に集中して建設する場合の効率低下の影響(最大でも10%)も時間に反映されている。

また、すべてのケースでは、発電出力100%で運転した場合として時間が計算されているため、例えば出力20%で1時間発電する場合は、0.2時間としてカウントされている。よって、発電出力×24時間×365日×稼働率で年間の発電量が計算できるようになっている。(完全に確証が得られたわけではないが、計算例などを見てみるとそのように思われる)

どの施設でもメンテナンスや定期点検を行う必要があるので100%になることはない。原子力発電所の稼働率が一番高く設定されている。

発電と暖房用熱水供給を同時に行うコジェネ発電施設は、主に熱水の需要に応じて運転を行うため、暖房の必要性の少ない夏季はあまり運転されない。また、コジェネ発電施設には天然ガスバイオマス、ゴミを使うものなど多様だが、生ゴミ等も含むゴミはあまり長期にわたって保存するのを避けるために、ゴミ・コジェネを優先的に運転し、それでも熱水需要を賄えない場合に天然ガスやバイオマスなどを稼動させる、という優先順位を設けているようだ。そのため、ゴミ・コジェネ発電施設の年間稼働時間が7000時間と長いのに対し、それ以外のコジェネ発電施設は5000時間と大きく差がある。ゴミ・コジェネ発電施設の初期投資費用(建設費)が高いことも、稼働率が高い一つの理由となっている。


【燃料費】


原発で使用する核燃料については、酸化ウランの国際価格が将来上昇する可能性もあるが、酸化ウランの購入コストが核燃料コストに占める割合は約45%であるし、核燃料コストが原発の発電コスト全体に占める割合は10%以下(残りの大部分が初期投資コスト)であるため、たとえ国際価格が上昇しても発電コストに与える影響は限定的だと考えられる、としている。


【熱供給の価値】
発電と暖房用熱水供給を同時に行うコジェネ発電施設は、発電についてはたしかに他の施設同様にコストがかかるものの、排熱で熱水をつくり、家庭やオフィスビル、工場などに販売するため、この部分で収入がある。この熱水の価値を織り込んだ上で、コジェネ発電施設の発電コストが計算されている。


さて、前回紹介したグラフを再掲載したい。


ここから分かるように、税・補助金を加えるか加えないかで発電コストの優劣が大きく変わっている。化石燃料を用いる火力発電所や、原子力発電所、また、コジェネ発電の中でも天然ガスを用いる発電所は、税・補助金を考慮すると発電コストが上昇するのに対し、風力発電所や水力発電所は大きなコスト減少が見られる。

では、ここで考慮されている税や補助金とは何か? 以下で簡単に説明する。

【税など】
・エネルギー税
化石燃料のみが対象。バイオマスやゴミは対象外。

・二酸化炭素税(環境税の一つ)
化石燃料のみが対象。バイオマスやゴミは対象外。

・二酸化炭素の排出権
化石燃料が対象。バイオマスは対象外。ゴミはこれまで対象外だったが2013年から対象となる予定。ただ、制度の枠組みや費用が未定であるため、今回の報告書ではゴミについては排出権購入にかかる費用を考慮していない。

・硫黄税・窒素酸化物(NOx)課徴金
燃焼の際に硫黄酸化物や窒素酸化物を発生する化石燃料が対象。

・埋め立て処分税
燃焼後の燃えかす・灰の埋め立て処分にかかる税。

・原発税
熱出力に応じて課税。熱出力1MW(1000kW)につき1ヶ月あたり12,648クローナ(16万4000円)。年換算で151,776クローナ(197万3000円)。だから、発電出力が100万kWの原子炉の熱出力がその3倍の300万kWとすれば、原子炉の所有者は毎年59億円を国庫に納めなければならない。

・核廃棄物処理機構への積立金
(これは、もしかしたら「税・補助金を考慮しないケース」にも含まれているかも)

・固定資産税
評価額に対する税率は、水力発電所であれば2.8%、風力発電所であれば0.2%、それ以外の施設は0.5%。つまり、水力発電所が不利である反面、風力発電所が優遇されている。


【補助金など】
・グリーン電力証書を通じた再生可能な電力への支援制度
バイオマス・小水力・風力などが対象。グリーン電力証書の需給関係によって補助額が変動する(再生エネルギーの導入目標の達成度合いに応じて変動)が、過去の1年間の平均的水準から1kWhあたり0.28クローナ(3.64円)と仮定。

(注:ドイツやスペインのような固定価格買取制度とは異なる)


再び、グラフに戻って見てみると、化石燃料に対しては様々な制度によってコストをわざと押し上げて他の発電形態との競争を不利にさせ、使用を抑制しようとするメカニズムがある。

また、原発に対しては、原発税が課せられている。(ただし、グラフを見るとこの影響はあまり大きくないようだ)

一方、再生可能エネルギーに対しては、これらの税や課徴金がほとんどかからない(ただし、バイオマスやゴミが燃える場合に窒素酸化物を出す場合は課徴金がかかるし、灰の処分のために埋め立て処分税がかかる)。その上、グリーン電力証書を通じて補助金が得られる仕組みとなっている。その結果、一部の発電施設では、原発の発電コストを下回るようになっているのだ。

スウェーデンにおける発電コストの比較

2011-07-29 06:39:47 | スウェーデン・その他の環境政策
異なる発電形態における発電コストの優劣について世界的にも様々な議論があるが、スウェーデンでも新規で発電所を建設した場合の1kWhあたりのコストについて、だいたい3年おきに報告書が発表されている。最新の報告書は今年5月に発表された。作成している機関は「スウェーデン電力研究所」という、電力業界の各社が出資して設立された研究所だ。

ただ、電力業界の各社といっても、日本のように東北電力や東京電力、関西電力など、それぞれの地域で独占を維持している「殿様企業」の集まりではない。ヴァッテンファル、E-on、フォートゥムといった原発を所有・運転している大手電力会社だけでなく、水力発電所しか持たない地方の電力会社や、風力発電所を所有・運転する企業・組合の連合体、発電と暖房用熱水供給を併せておこなっている地方のエネルギー公社ゴミ処理施設で発電する公社など様々だ。そのため、原発一辺倒ではなく、客観的で公平な評価をしてくれることが期待できる。

その報告書で比較されているのは、これから新規の発電施設を建設した場合の発電コストの比較である。既に運転し、減価償却の大部分を終えたような施設の発電コストの比較ではない。電力会社をはじめとする投資主体がこれから新たな発電施設を建設したい場合に、コストの面からどの発電形態を選ぶだろうか?というのが比較の目的だからである。

そのため比較の対象となっているのは、現時点で最新鋭と考えられる発電施設である。詳しくは以下の通り。


【 原子力発電所 】
第3(+)世代と呼ばれ、現在フィンランドやフランスなどで建設が進む、発電出力160万キロワット(kW)の原子炉。発電効率36%。

この報告書の発表は2011年5月である。福島原発の大惨事を受けて、既存および今後建設される原子炉は今まで以上の安全対策が講じられると考えられ、そのためのコストが追加的にかかると見られている。しかし、今回のこの報告書では、そのコストを十分に吟味する時間がなく、今回の調査では加味されていない。(報告書上では、一応「限界的な(=わずかな)上昇に過ぎないと考えられる」としている。)

参考のために、160万キロワット(kW)という規模がどのものかを理解してもらうために、日本にある既存の原子炉と比較すると、福島第一原発の1号機(1971年運転開始)が46万kW、2~5号機(74年~78年運転開始)がそれぞれ78.4万kWであるのに対し、現在建設中の島根原発3号機は137.3万kWである。スウェーデンの既存の原子炉を見てみると、一番小さいものが50万kW、一番大きいものが123万kWである。


【石炭火力発電所】
ヨーロッパで最新の石炭火力発電施設である、発電出力74万kWの発電所。粉末状にした石炭を280気圧・620度の炉で燃焼させる。発電効率は46%。

参考のために、東京電力の常陸那珂火力発電所の1号機(石炭・2003年運転開始)が100万kW。北海道電力の苫東厚真発電所4号機(石炭・2002年運転開始)が70万kW。中国電力も三隅火力発電所(島根県)に出力100万kWの発電機(石炭・1998年運転開始)を持っている。


【天然ガス火力発電所】
発電出力42万kW。発電効率は58%。


【水力発電所】
スウェーデンもかつては100万kW級の大規模な水力発電所を建設したこともあったが、河川の生態系への影響も大きく、今後は新設するとすれば小規模な水力発電所に限定されると考えられている。

そのため、今回の報告書においては、新規建設は5000kWの水力発電所のみが考慮されている。スウェーデンの電力業界の定義では、小水力発電は出力が200kW~5400kWまでのものとされているため、小水力発電に分類されることになる。

それに加え、償却の終わった既存の9万kW級の水力発電所に、大規模な改良・メンテナンスを行って、今後も数十年間使えるようにした場合の、コストについても比較対象としている。


【風力発電所】
洋上の発電所は、以下の2つのケースを対象とする。
・羽の直径が126mで出力5000kWの発電機 × 75基=37.5万kW
・羽の直径が90mで出力3000kWの発電機 × 50基=15万kW

陸上の発電所は、以下の3つのケースを対象とする。
・羽の直径が110mで出力3000kWの発電機 × 20基=6万kW
・羽の直径が90mで出力2000kWの発電機 × 5基=1万kW
・羽の直径が64mで出力1000kWの発電機 × 1基=1000kW

複数の風力発電機を集中して設置すると効率が若干低下する(例えば、1列にたくさんの風力発電機を並べた場合、1基目の羽によって風のエネルギーが少し弱まり、2基目は1基目ほど発電できない)。この報告書では、その影響も考慮に入れた上でコスト計算をしている。


【各種コジェネ発電所】
コジェネとは、発電熱水供給を同時に行う施設である。通常の火力発電では、燃料の持つエネルギーの3割か4割ほどしか電力に変えることができない(ただし上記のように、最新技術を駆使した大型施設であれば5割から6割まで高めることができる)。残りのエネルギーは熱として本来なら煙突から放出されるため、その熱をうまく回収して温水を作り、それを一般家庭やオフィスビルなどに配管を通じて供給し、暖房として使うのである。燃料は石油、石炭、天然ガスやバイオマス、ゴミなど燃えるものなら何でも使える。発電と熱利用を合わせたエネルギー効率は90%を超える。

この報告書では、天然ガスバイオマスを使うコジェネ発電施設について、それぞれ規模の異なる施設の発電コストを比較している。

ゴミを燃料とするコジェネ発電所も調査し、それに加え、ゴミを他国から輸入するケースについても比較している。


さて、結果はどうか?(以下、コストの単位は。もともとはスウェーデン・クローナだったが、私が1クローナ=13円で換算した)

まず、税や補助金を含めない場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)


次に、税や補助金を含めた場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)


参考までに、上記の両方を一つのグラフで同時に示してみます。


このグラフを基にした私なりの考察や、計算に使われている様々な仮定・条件については、次回書くことにします。

ぱっと見て、ゴミ発電(コジェネ)が非常に低コストであることにビックリされる方もおられるでしょう。これは、ゴミ収集のためにスウェーデンの自治体が手数料を住民から徴収しているため、燃料費が実質的に「マイナス」であるためです。

これに対し、輸入ゴミを利用したコジェネ発電は、ゴミを外国から買わなければならないため、発電コストが他の発電形態と同じくらい高くなるわけです。

ヨーロッパの自然エネルギー普及を支える「縁の下の力持ち」

2011-07-15 00:36:44 | スウェーデン・その他の環境政策
EU温室効果ガスを20年までに2005年比で20%削減することを数年前に打ち出した。そして今、ドイツスイスなどは脱原発に踏み切ることを決定した。そのため、風力や太陽光、バイオマスなどの自然エネルギー・再生可能エネルギーの急速な普及と発電量の拡大が推進されていくことになる。

しかし、この動きに対する懐疑派の批判の一つは、「発電量が安定しないから、風が吹かない間や太陽が照らない夜間の発電量を補うために火力発電などによるバックアップが必要となり、温室効果ガスの排出がむしろ高まってしまう」というものだ。スウェーデンの原発推進派の自由党議員もこの点を何度も取り上げて、自然エネルギーを批判してきた。

このような指摘に対しては、例えば、スマートグリッドの発達によって複数の自然エネルギー発電所や蓄電池、電気自動車を相互に連結させて、電力供給を安定させる、といった解決策が考えられる。しかし、それ以上にもっと大きな解決策となりうるのは、水力発電所である。

水力発電所にも、流入式貯水式揚水式など様々なタイプがあるが、貯水式や揚水式であれば、水の流れを調節することで発電量を上下させることができる。さらに、揚水式であれば電力が比較的豊富にあるときに他の発電所からの電力によって水を上方に汲み上げて、必要なときに水を流し発電を行うことができる。

一般に「電気は貯めることができない」と言われるが、蓄電池(バッテリー)以外にもこのように水力発電所を活用することによって「位置エネルギー」として「電気を貯める」ことが可能だ。その結果、自然エネルギーの発電量の変動に合わせて、全体としての発電量を一定に保つことができるし、需要側の変動にも対応することができる。


最後に示すリンクにある動画より

スウェーデンに目を向けてみよう。スウェーデンは、国内の発電量の50%弱が水力、37%が原子力、7%がバイオマス、2%が風力であり、化石燃料に頼る部分はわずかでしかない(2009年実績)が、一日および一年を通しての需要変動(つまり、昼間は電力需要が高く、夜間は低いし、寒い冬場は電力需要が高く、夏になると電力需要は低い)に合わせて発電量を調節しているのは主に水力発電である(これに対し、ご存知のように原子力発電は発電量の細かな調整が難しい)。

今後、スウェーデン国内でも風力発電が大幅に伸びていくと予想される中、発電量の変動に対するバックアップとしての機能も水力発電が担ってくれると期待されている。もちろん限度はあるが、風力発電がスウェーデンの電力需要の20%くらいを占めるようになるくらいまでは、国内の水力発電所だけで発電調整ができると見られている。(例の自由党議員は「自然エネルギーのために逆に化石燃料使用が増える」という言葉を使わなくなった。少なくともスウェーデンでそれを主張することに無理があると判断するようになったのだろうか?)

スウェーデンの隣国ノルウェーは水力発電の割合がさらに高い。起伏の激しい土地が多く、発電に使える河川もたくさんある。そのため、大小の水力発電所がこれまで無数に建設されてきた。今では国内の発電量の98.5%が水力によるもの(2008年実績)である上、国内で余った電力をスウェーデンやデンマークなど他国へ輸出している。その量はネット(つまり、輸入量を差し引いて)で見ると、国内発電量の1割近くに上る。


ノルウェーの発電量の内訳(2008年)。IEAの統計より

実は、このノルウェーの水力発電がヨーロッパの自然エネルギー普及の鍵を握っていると言われる。送電線が国境をまたぎ、海底にも送電ケーブルが敷設されているため、ドイツやイギリスなどヨーロッパの北側の部分における自然エネルギーの発電量の変動をうまく補ってくれることが期待されているのだ。

下のリンクは、ノルウェーの国営の電力会社のサイトだが、動画ではそのことが端的にアピールされている(英語版)。この説明によると、ヨーロッパの水力発電の水瓶の半分がノルウェーにあるとのこと。

http://www.statkraft.com/energy-sources/hydropower/pumped-storage-hydropower/

松ヤニ由来のディーゼル燃料の販売開始

2011-02-25 01:49:06 | スウェーデン・その他の環境政策
「松ヤニでエンジンを動かす」と聞くと、日本の戦時中の話かと思われるかもしれないが、実はスウェーデンで商業化に成功したバイオ・ディーゼルの話。

森林が豊富に存在するスウェーデンの基幹産業の一つは紙パルプ・製紙産業だが、原材料の一つである松はパルプを作る過程で大量のヤニ(脂)を発生する。これまで、このヤニは工場内で燃やして熱エネルギーとして活用してきたが、もっと有効な利用ができるのではないかということで考案されたのが、ディーゼル燃料(軽油)への転換だ。

製紙産業の盛んなスウェーデン北部では、松ヤニのディーゼル化を商業ベースに乗せるべくベンチャー企業が立ち上げられ、実験プラントで効率のよい転換方法が試されてきた。私もビジネス雑誌で1年半ほど前にルポタージュを読んだことがあるが、興味をそそられたものだ。これまで6億クローナが注ぎ込まれ、そしてついに世界初の商業化に漕ぎつけた。

スウェーデンの大手石油会社や林業企業との提携で、まず第1段階の転換をスウェーデン北部のプラントで行い、濃縮松ヤニ燃料に変える。そして、それをヨーテボリにある別のプラントへ輸送して、そこでバイオ・ディーゼルへの最後の転換を行うのだそうだ。そうしてできる松ヤニ・ディーゼルは、石油由来の通常のディーゼルと全く同じ成分であるため、既存のディーゼル・エンジンでそのまま使うことができる

これまで注目を受けてきたバイオ燃料としては、例えばバイオ・エタノールがあるが、利用のためにはガソリン車の改造が必要になる。それに対し、この松ヤニ・ディーゼルは既存のディーゼル車でそのまま利用できるのが大きな長所だ。

また、菜種油から作られたディーゼル燃料(RME)は、すでにバイオ・ディーゼルとしてスウェーデンでも一部のガソリンスタンドで販売されてきた。しかし、バイオ・エタノールと同様に、食料として使えるものを燃料に変えてしまうことを問題視する声も多い。だから、原材料が食品用途と競合しないという点でも、この松ヤニ・ディーゼルは優れている。その意味で「第2世代のバイオ燃料」とも呼ばれるらしい。

さて、スウェーデン国内での販売についてだが、今年4月から長距離運輸のトラックが集まるガソリンスタンドで販売が始まる。バイオ燃料ということで、二酸化炭素税(環境税)がかからないため、通常のディーゼルと同じ価格で販売できるとのこと。年間生産量は60万トンを見込んでいるそうだ。


日刊紙にすでに丸1ページの大きな広告
「ディーゼル車に乗る人へ重要なメッセージ - あなたは賢い」


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気候変動対策のために、運輸部門においても化石燃料への依存から脱却していく必要がある。スウェーデンでも電気自動車のほか、バイオガス車に大きな期待が寄せられているし、市バスなどでもハイブリッド・バスの導入が少しずつ行われている。

これに対し、トラックによる長距離輸送については、CO2削減の方法がなかなか見つからず、スウェーデンも頭を悩ませてきた。鉄道輸送もかなり活用されているものの、もうこれ以上多くの貨物列車を走らせられないくらいに鉄道インフラがこき使われている。

だから、菜種油に由来するRME(rapsmetylester・菜種バイオディーゼル)に加えて、この松ヤニ・ディーゼルが市場に出回るようになったのは、非常に嬉しいことだ。

また、スウェーデンではこの松ヤニ・ディーゼルの開発と平行して、DME(ジメチルエーテル)と呼ばれる別のディーゼル代替燃料の商業化も進められている。これも、紙パルプ産業から産まれる副産物である「黒液」を有効活用することで作られる一つのバイオ燃料であり、近い将来の商業化が期待されている。