日本とフランスの最新(2007年)の出生率を付け加えました
スウェーデンの最新の統計によると、2007年の
出生率は1.87だったという。
2005 年におけるEU加盟国のランキングでは、1位の
フランス(1.94)を筆頭に
アイルランド(1.88)、
フィンランド、イギリス、デンマーク(ともに1.80前後)と続き、
スウェーデン(1.77)は第6位だった。(EU外のノルウェーは1.85くらいだったはず。)
だから、スウェーデンはそれと比べて0.10ポイントの上昇となったわけだが、フランスの出生率も伸びて1.98になったという。(EUでNo.1)
日本は2007年が1.34だったという。過去最低となった2005年の1.26から2年続けて上昇してきているとは言うが、北欧・西欧と比べると極端に低い。また、EU加盟諸国の中でも
東欧や南欧、またドイツ・オーストリアなどの中欧も1.20~1.50と低迷している。これらの国々に共通しているのは、
男性は外で働いて稼ぎ、女性は家庭で家事・育児をすべき、という固定観念が強く残っていることだといわれる。また子育てにかかる費用の高いことや、晩婚化が進んでいることも共通しているのかもしれない。これに対し、
北欧や西欧の出生率が高いことの説明としては、
女性が仕事と育児を両立できることや、それを支える公的保育所の整備や経済的支援などが挙げられる。
ただ、北欧・西欧諸国の間にも差がある。女性の社会進出と子育て支援の充実さがよく引き合いに出される
スウェーデンも、2005年の時点ではこれらの国々の中では出生率がそこまで高くはない。つまり、出生率の高さを決める要因は、男女平等や子育て支援などの他にもあるのだ。
たとえば、スウェーデンについて言えば、育児休暇中に国から支給される育児休暇保険の給付額は、それまで働いて得ていた給与水準に比例する。だから、それまでの給料が高かった人には給付額も高くなるし(ただし上限があるが)、逆に給与水準が低かったり失業者だった場合は、最低限の保障水準しかもらえない。だから、
育児休暇を取るまでに、労働市場でいかに自らを確立しているかが重要になってくるし、家庭形成においても大きな鍵を握ってくる。なので、このブログで何度も触れたように、
90年代以降、若者の失業率が高止まりしたことが、出生率の上昇に歯止めを掛けてきたものと見られている。
労働市場の状況によって出生率が上下するのは日本もスウェーデンにも共通していることかもしれないが、子育てに対する公的助成の少ない
日本の場合は、失業や不安定な雇用のために子育てなどできる経済状態にない、というのが背景にあるだろうが、それに対し、スウェーデンの場合は、育児を含めた各種の社会保障制度が充実しており、ただ、これが働いて自活をすることを基本としたワークフェア型の制度であるために、本人の雇用状態によって給付額が左右される、ということが背景にあるようだ。だから、日本の場合とはちょっと事情が違うように思う。
グレーがスウェーデン、赤がフランス写真の出展:スウェーデン中央統計局の資料より
実際のところ、1980年にまで遡って見てみると、80年代にかけて急激に上昇した出生率は
90年代初めに2.1に達していることが分かる。しかし、その直後に起きた経済危機に伴う失業率の上昇に呼応するかのように急激に低下し、今再び1.87まで浮上してきているのだ。(ちなみに
人口維持に必要な出生率は2.1だと言われる)
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先日の
日刊紙の社説も、スウェーデンの出生率が再浮上していることについて書いていた。
北欧型の育児支援制度や男女平等・女性の社会進出などが主な要因としながらも、出生率の動向に影響を与えうる要因は、実際にはたくさんあり複雑だ、と述べていた。例えば、アメリカ合衆国の出生率は2.00を上回っているが、アメリカでも男女平等の考え方が強いとはいえ、北欧のような社会保障制度が整備されているわけではない。またヨーロッパでも第二次世界大戦末期から終戦後にかけて
大きなベビーブーム現象が起きたことにも触れていた。前者については、その理由まで深く追求してはいなかったが、後者に対しては
「これからやって来るであろう平和と民主主義の新しい時代に対して、人々が大きな希望を抱いていたことが一つの理由であろう」としている。
この社説の締めくくり方が良かった。
Och i det perspektivet bör vi nog vara nöjda med den svenska nativiteten. Det viktigaste med den nordiska modellen är kanske inte att den fungerar enligt principen stimuli-respons, utan att den inger framtidstro.
「このような観点からすれば、スウェーデンの出生率の高さは満足できるものだと言えるであろう。
北欧型の(育児支援・男女平等)モデルの重要な特徴とは、(よく言われるように)その制度が子供を持つことに対する動機付けを与えてくれる、ということよりも、もしかしたら、
未来に対する希望(framtidstro)を人々に与えてくれる、という点かもしれない。」
「未来に対する希望」という言葉に思わず頷いてしまった。これは育児政策に限ったことではなく、スウェーデンで暮らしていると社会の様々な側面で感じることである。
「閉塞した社会」という言葉に対義語があるとすれば
「活力のある社会」であろう。では、
スウェーデンでは何が未来に対する希望や社会の活力を生み出しているのだろうか?
それは、私なりに一言で表現しようとすれば、
一人ひとりの人間に、自分の置かれた状況を改善する可能性が与えられ、自分を取り巻く環境に影響力(inflytande)を行使することができる、ということではないかと思う。それは、職場環境であったり、仕事のやり方であったり、学校環境であったり、人生の過程で再チャレンジの機会が多く与えられていることであったり、社会問題を様々なレベルでの政治参画を通して改善していくのが比較的容易であることであったり、残業がなく家庭生活にじっくり時間を割くことができることであったり、男女に限らず自己実現ができることであったり・・・。
これらのことを考えると、「閉塞した社会」における閉塞感とは、一人ひとりの人間がそれぞれの属する職場環境や学校環境、社会構造、家庭環境、政治プロセス、人生決定などにおいて無力感に苛まれ、これらの状況において問題を解決したいのだけど、自分が動いても何も変わらないし、何をやってもいい方向に動かない、と諦めてしまっている状態ではないかと思う。
出生率を上げるためにも、人々が将来に対して何事も前向きになれるためにも、一人ひとりが主役になれる社会に変えていかなければならないと思う。