スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

キプロスの預金課税 (その後 3)

2013-03-26 03:13:59 | スウェーデン・その他の経済

週末のギリシャ政府とIMF・EU・EMUとの間の交渉で交わされた合意の一部は、以下のようなもの。

債務超過に陥った大手銀行3行を統合・解体し「優良部分」と「不良部分」に分割。預金額10万ユーロ以上の口座は、不良債権とともに「不良部分」に組み入れられ、不良債権の処理に充てられる。その額は、これらの口座の預金額の3割から4割と見られ、それが「預金課税」という形で政府に差し押さえられるようだ。

一方、預金額10万ユーロ以下の小額口座は「優良部分」に組み込まれ、国が手をつけることはないので、保証されることになる。見方によれば、本来、銀行が破綻したために失っていたであろう預金が、10万ユーロを限度として保護される、事実上の預金保険ということになるだろう。

預金課税の案が浮上してから、これまで10日間にわたって銀行は業務を停止していたが、果たして今日(火曜日)に営業を再開できるかはまだ分からないとのこと。準備が不十分な状態で再開しても、取り付け騒ぎにつながりかねず、キプロス当局は万全な状態で営業再開を決定する必要がある。

キプロスの預金課税 (その後 2)

2013-03-25 02:45:27 | スウェーデン・その他の経済
以下、スウェーデンの新聞、ニュースなどの情報をまとめます。

EU・欧州中銀は木曜日、キプロスに対して「月曜日までに58億ユーロを自前で調達する案を提出できなければ救済はしない」と最終通告を言い渡していた。一方、ロシアからの支援を期待して、キプロス政府はロシアに財務大臣を送って交渉していたが、そちらも難航。昨秋にロシア政府が供与した融資の延長や、キプロスの天然ガス採掘権、銀行の売却によって新たな資金確保の案を提示したものの、ロシア側はともに拒否。

キプロス国内では、新たな案として、政府資産や年金基金、天然ガス資源、教会資産などからなる「救済基金」を作り、経営破綻した銀行救済に充てることが検討されてきた。ただし、年金基金にまで手を付ける案に対してEU・ECBは難色を示しており、この案を拒否する可能性も高い。

ちなみに、教会資産、と書いたが、キプロスでは正教会が巨大な財産を所有しており、土地のほか、銀行資本、醸造所も所有しており、総額は数億ユーロにのぼるとのこと。この背景には、オスマントルコ時代にキリスト教会が資産所有の特権を認められていたという歴史的事情があるようだ。

この他、一度潰えた預金課税の新たな案として、先週の段階では10万ユーロ以上の預金口座に15%の課税を行うことも検討されていた。

先週木曜日の動きとしては、キプロスの大手銀行3行がギリシャに持つ資産をギリシャの銀行に売却することを、キプロス政府が発表(この3行はギリシャ金融市場に進出しており、ギリシャ国内の貸 出・預金の約1割のシェアを持つ)。経営破綻した3行はこの売却で資金を部分的に確保できる。それに伴い、キプロス政府がこれら3行の救済に必要とする資金額も若干減る。

キプロス国内の銀行は休業したまま。しかし、現金がなければ生活にも支障が出るため、ATMには現金が補充され、1日あたり最大500ユーロまでの引出しが認められているとのこと。銀行営業が再開されるのは休日明けの来週火曜日だが、EUからの支援がなければ取付騒ぎによる連鎖倒産となる。また、財政危機に陥っている他のユーロ加盟国でも、同様の預金課税が実行されるのではないかとの懸念が広がれば、預金の一斉引出しに繋がり、金融システム全体の信頼失墜をもたらす可能性が高い。

(キプロス経済に占める金融部門の割合が大きいことは知っていたが、GDPの実に45%を占めているとのこと。)

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以上は先週末に私がこちらでのニュースをまとめたものだが、先ほど(スウェーデン時間、月曜日朝1時)の情報によると、キプロス政府とEU・ECB・IMF(トロイカ)との間で週末に続けられてきた協議の末、大まかな合意に至ったとのこと。

合意の一つは、10万ユーロ以上の預金がある口座に対し、40%の課税を行うことらしい。言い換えれ ば、民間主体の預金の4割を国が差し押さえるということ。10万という境界が設けられたことで、一般の庶民の負担は軽減されたようだが、それまで議論されていた税率がせいぜい15%であったから、40%という税率に大きく跳ね上がったことは驚きだ。

キプロス議会の各政党党首との協議や議会での採決はこれからになるらしい。EU・ECB・IMFのトロイカが突きつけた最終期限は月曜日であるため、のこり1日足らずである。

キプロスの預金課税 (その後)

2013-03-21 01:57:02 | スウェーデン・その他の経済
キプロスの預金課税案は火曜日に議会で否決。その後、ユーロ加盟国・欧州中銀・IMFとの協議が続けられているが「100億ユーロの支援を得るためには58億ユーロをキプロスが自前で捻出すべき」という条件に今のところ変化はない。キプロス救済策の負担の大部分を負うことになるドイツのメルケル首相は、今日も「キプロスは打開策の新たな案を自ら打ち出してほしい。10万ユーロ以上の預金を持つ者は、財政負担に協力すべきだ」と強調していた。

ユーロ加盟国・欧州中銀・IMFとの交渉と並行して、キプロス財務相はロシアを訪問している。実は、キプロスは2012年夏の段階でEU・ユーロ加盟国に対し財政支援を要請していたが、交渉に失敗。ロシアはこの時、25億ユーロの特別融資をキプロスに提供している。

キプロスが現在続けいるロシアとの交渉議案の一つは、間もなく期限を迎える、この時の融資の延長。

もう一つは、預金課税によって捻出する予定だった58億ユーロをどうにかして手に入れること。しかし、これ以上の融資はロシアからも期待できないため、資金を得るためには、キプロスは国営銀行や天然資源の採掘権をロシアに販売するといった方法しかないと見られている。

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低い法人税率(現行10%)を利用し、キプロスを「タックスヘイブン(租税回避地)」に使っている企業はスウェーデンにも少なくないようだ。租税回避だけを目的としてキプロスに登録されたスウェーデン系持ち株会社は4000にのぼるという。

スウェーデン国税庁によると、過去5年間にキプロスのためにスウェーデンが失った税収は約12億ユーロにおよぶ。(ただし、だからといって、スウェーデンの法人税がEU諸国や先進国の中で高いというわけではなく、90年代以降は比較的低くなっていることに注意。91年:28%→ その後:26.3%→ 今年から:22%で、EU平均以下か同じくらい。)

課税逃れを少しでも防ぐため、スウェーデンとキプロスの間には企業情報を共有する協定が結ばれているものの、スウェーデン国税庁によると、キプロス側はその義務を十分に果たしていない、とスウェーデンの国税庁は不満を述べている。

いずれにしろ、今回の預金課税をめぐる混乱のため、タックスヘイブンとしてのキプロスの魅力は大きく低下することになるだろう。そうなれば、金融部門が大きな割合を占めてきたキプロス経済の低迷に拍車が掛かることになり、皮肉なことに自助努力を強調しているEU・IMFの意図とは裏腹な結果になってしまうだろう。

スウェーデンはユーロ加盟国ではないため、キプロス支援において直接的な負担を負うことはない。そのため、スウェーデンのボリ財相も「キプロスに残るのはいずれ綺麗な砂浜だけになるだろう」と少し他人事にも感じられるコメントをしていた。

キプロスの預金課税

2013-03-18 02:23:22 | スウェーデン・その他の経済
なかなか更新できませんが、この週末に発表された、キプロスの預金課税のニュースが気になったので、簡単にまとめてみます。


財政危機に陥っているEMU(欧州通貨同盟)加盟国のキプロスは土曜日、他の加盟国からの100億ユーロに及ぶ支援を受ける条件として、国内の銀行預金に対する一度限りの課税を発表した。税率は、預金10万ユーロ以下で6.75%、それ以上だと9.9%の税率となる。これにより58億ユーロを捻出する考えだ。

キプロスは低い法人税(10%)のために外国投資家の預金が多く、またロシア富裕層をはじめ租税回避のためにキプロスが利用されてきた結果、金融セクターが肥大化していた。預金全体の37%を外国人が占め、そのうちの大部分がロシア富裕層とのことだ。

そんなキプロスの金融セクターの主要投資先の一つがギリシャだった。しかし、財政危機に伴うギリシャ国債の部分的帳消しにより、多額の損失を抱えることになった。その結果、政府の資本注入がなければ大手2行が破綻しかねない事態となっている。また、それに伴う信用不安や、金融システムの崩壊による企業の連鎖倒産も懸念されている。そのため、他のユーロ加盟国からの支援が欠かせないものとなった。また、キプロス政府は6月に満期を迎える国債の償還のために70億ユーロを必要としており、総額170億ユーロの支援を当初、ユーロ加盟国に求めた。しかし、それでは、キプロスの国債残高がGDPの130%を上回り、財政再建が危うくなることをEUやIMFが懸念し、70億ユーロ分の捻出をキプロス政府に要求したようだ。

総額100億ユーロになる支援の条件は、法人税引き上げ(10%→12.5%)、資本課税強化、そして、この預金課税が盛り込まれている。国が預金の一部を、財政再建のために差し押さえたと見ることもできる。キプロスの財政危機の引き金となっている金融セクターに財政再建の負担を負わせるという論理だが、外国の富裕層だけでなく、国内の中小預金者も負担を負わねばならず、国内では大きな反発が広がっている。

週末にはATMに長い行列ができ、現金がすぐに空となった。また、土曜日に営業していた信用組合系の金融機関には、預金の払い戻しを求める顧客が殺到し、1時間に及ぶ混乱の末、閉店。日曜日に予定されていた議会での投票は翌日に延期。(未確認情報だが、月曜日は休日であるため、決定後初めての平日となり、金融機関が営業を開始する火曜日までに課税を実行したいようだ)

キプロスには、ロシアの富裕層だけでなく、年金生活者をはじめとするイギリス人6万人が居住するほか、イギリス兵3万人も駐屯。今回の預金課税によって英兵士がこうむる損失に対して、イギリス政府は補償を約束すると発表している。

預金課税という過激なアイデアが出た背景には、財政支援の大部分を負担することになるドイツの要求があったようだ。ユーロ加盟国によるキプロス支援は、ドイツ連邦議会での可決を経ねばならない。その審議に際し、特に野党である社会民主党が厳しい要求を突きつけたようだ。また、これまでマネーロンダリングを認めていたキプロスの金融機関に対する支援に、オランダやフィンランドも反発していた。

ちなみに、EUはこれがキプロスだけに限った特別な解決策であり、財政危機に陥った他の国では同様の預金課税を要求することはないと強調している。将来、そのような国々で、取り付け騒ぎが発生することを考えた配慮であるが、どこまで有効だろうか。