スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

9月のノルウェー農業視察(その2)

2014-10-30 23:13:15 | コラム
今年9月上旬にノルウェーを訪ね、1986年のチェルノブイリ原発事故で高い濃度の放射性物質が降下した2つの地域を訪ねた。

【前回の記事】
2014-10-24: 9月のノルウェー農業視察(その1)

これらの地域は丘陵・山岳地帯であり、土地が非常に痩せているので、有効な活用の仕方として歴史的に牛・羊・ヤギ・トナカイの放牧が行われてきた地域である。チェルノブイリ原発事故にともない土壌や牧草が放射性セシウムで汚染されたため、1986年はこの地域で生産されたほとんどの畜産・酪農品(牛肉、牛乳、羊肉、ヤギ乳、トナカイ肉)が廃棄処分になった。その後、様々な対策が試行錯誤の中で実行され、効果が上がったものはその後も続け、また、その効果を最大にするための実験が行われていった。

ノルウェーで実際に取られた主な対策は以下のようにまとめられる。(スウェーデンにおけるチェルノブイリ事故後の反省・経験をまとめた報告書を、2012年1月に『スウェーデンは放射能汚染からどう社会をまもっているのか』として翻訳出版したが、そこで紹介されている対策とよく似ている)

○ 飼料や岩塩へのプルシアンブルーの添加
・牛、羊、ヤギの飼育において

○ プルシアンブルーを含む胃タブレットの投与
・牛、羊、ヤギの第二胃に投与。放牧期間中の数ヶ月間、効果が持続(しない場合もあり、いかに効果を放牧期の終わりまで持続させるかが課題)。

○ 牧草栽培地での耕起とカリウム肥料の撒布
・秋から春にかけて家畜に食べさせるための牧草の栽培における対策。

○ 生体検査
・羊とトナカイを前に生きた状態でセンサーを当て、肉のセシウム濃度を測定。流通基準値を下回ったもののみを。

○ クリーンフィード
・生体検査で基準値を上回ったものは、その後、汚染の少ない飼料を一定期間、与えることで肉のセシウム濃度を減らした上でする。物理学的半減期と比べて、生物学的半減期はずっと短いことを利用している。

○ トナカイのの時期を冬から秋にずらす
・トナカイは放牧飼育であり、通常は冬になってからし、肉として販売するものの、秋に放牧地に生えてくる大量のキノコをトナカイが食べてしまい、セシウム濃度が秋の間に上昇するので、キノコのシーズンが始まる前にする。ただ、そうするとトナカイに肉がまだ付ききっていない状態でのとなるので、経済的価値は減少してしまう。

◯ 農家に対する経済的補償
以上の様々な対策には費用が掛かるが、農家がその経済的な負担を負うことが無いように追加費用はすべて国が肩代わりする。トナカイにしても、クリーンフィードの費用はもちろんのこと、秋ののために肉の量が少なく、そのために発生する経済的損失については国が補填している。ただし、これはあくまで経済面での負担であり、対策のために費やす追加的な時間や労力についてまでは補償されない。また、補償されるのは、国が認めた流通基準値を超えないようにするための対策に対してであって、それよりもさらにセシウム値を下げようと農家が自主的に講じる対策に対しては基本的に補償されない。


羊の生体検査


プルシアンブルーが既に添加された配合飼料(黄色の袋に入ったもの。その外側にあるのは通常の配合飼料。プルシアンブルー入りは若干、灰色)


プルシアンブルーが添加された岩塩(家畜のナトリウム補給に。通常は白色)


※ ※ ※ ※ ※


ノルウェーはスウェーデンに同様、少ない人口の割に国土は広大な国であり、今回の視察でも丘陵地や高原地帯を毎日、車で長時間移動。日によっては、要所々々で視察をしながら一日500km移動したこともあった。しかも、移動手段は運転手付きの貸切バスでも貸切タクシーでもなく、ノルウェー放射線防護庁の職員二人が2台のレンタカーを借り、自ら運転するという節約ぶり(笑)。

訪問先ではいろいろな農家(トナカイ、羊、ヤギ、牛)の人から説明を聞き、移動中は2台それぞれの車の中で、ノルウェー放射線防護庁の職員(兼 運転手)と福島の農家や住民が盛んに議論。

いろいろな議論をしたが、日本の行政による対応とノルウェーのそれとを比較する上で、重要な点は次の2点だと感じた。


○ 意味のない基準

ノルウェーの畜産・酪農の現場で行われた対策は上に挙げた通りだが、これらの対策は、最終製品におけるセシウム濃度を流通基準値以内に抑えることを目的としている。流通基準値を満たしているかどうかの検査も、最終製品だけを対象としている(すでに説明したように、羊・トナカイに関しては前の段階で生体検査を行ってチェックすることで、せっかくしても基準値超えで廃棄処分にせざるをえないような状況を防いでいる)。

これに対し、日本では本来は最終製品に対して決められた流通基準(1kgあたり100Bq)が、家畜に与える牧草にも適用されているし、牧草地に散布する家畜の糞尿(堆肥)にも適用されているという。つまり、100Bq/kgを超える堆肥は肥料として使えないし、100Bq/kgを超える牧草は家畜に与えてはいけない、ということになっているのである。

もし、
糞尿(堆肥)→ 土壌 → 牧草 → 家畜 → 最終製品(肉・乳)

というプロセスのそれぞれのステップにおいて移行係数がすべて1であるのであれば、最終製品に対する基準と同じ基準を、それぞれのステップにおいて適用するのは意味があるかもしれないが、実際にはそのようなことはない。

農地の耕起の仕方土壌のカリウム濃度によって、土壌 → 牧草 への移行は大きく異なるし、牧草 → 家畜 →最終製品 への移行も、家畜や製品の種類によって異なるし、飼料にプルシアンブルーを添加することで大幅に減少させることも可能である。

つまり、農地に撒布する糞尿のセシウム濃度が基準値をはるかに超えていても、それよりも汚染の少ない牧草を栽培することは可能だし、仮に、この牧草のセシウム濃度も基準値を大きく超えていたとしても、最終製品ではセシウム濃度を基準値以下に抑えることは十分に可能である。

しかし、日本では糞尿や牧草にまで、最終製品と同じ基準値を適用しているばかりに、本来なら十分に堆肥として使える糞尿や、飼料として使える牧草が、廃棄物として処分されているのである。これほど非科学的で馬鹿げたことはない、というのはノルウェー放射線防護庁の人の率直な感想であるし、私もそのとおりだと思う。

「ノルウェーでは、放射性セシウムが降下した地域の牧場で出た糞尿はどこで処分したのか?」という質問は、私が2012年にノルウェーを視察した後に日本の方から頂いたが、「ノルウェーではそのまま農地に戻す」というのがその問に対する答えである。通常通り、肥料として使うが、その際に農地をしっかりと耕して、セシウムが土中の粘土鉱物に吸着しやすくしたり、カリウム肥料を散布することでセシウムが植物に移行するのを抑えている。既に触れたとおり、家畜には牧草と一緒にプルシアンブルー入りの配合飼料を与えることで体内でのセシウム吸収を妨げている。

もちろん、糞尿のセシウム濃度が極度に高く、どんな対策を講じても最終製品が基準値をオーバーしてしまうような場合には、糞尿にも何らかの基準値を設けることには正当性があるかもしれない。しかし、この場合も、糞尿から牧草、牧草から最終製品への移行係数をきちんと計測した上で、最も合理的な糞尿基準値を設けるべきであろう。すべて単一基準なんてありえない。


○ 行政と生産者の継続的な人間関係

日本の行政システムでは担当者が3年毎にかわってしまうが、これが様々な弊害を生んでいると思う。

・生産者との長期的な信頼関係を築けない。
・行政の担当者が、その分野のことをやっと理解できるようになった頃に異動がある。
・そのため、その分野の業務に取り組む際の意欲が低くなる。特に、結果が出るまでに長時間かかり、その頃には自分はもう異動しているようなプロジェクトに対するイニシアティブが低くなる。
・そもそも、その分野の専門性を持たないので、自分で判断できず、すべて「持ち帰って検討」となる。
・その結果、農家の人たちと向き合うというよりも、上司と向き合って、むしろ彼らの目を気にしながら業務をせざるを得ない。
・しかも、決定権を握っているその上司も3年毎に異動する人。自分がそのポストに就いている3年間に実績を残さなければ、次の移動でどこに飛ばされるかわからないから、業務において自分の「足跡」を残そうとする。前任者と同じことをしていては自分がリーダーシップを発揮したことにはならない。だから、思いつきで、それまでとは大きく異なる決定を下したりする。その結果、部下は現場への説明に追われるし、一番困るのはそれまでのやり方が突如として変えざるを得ない現場の生産者である。

(これは、あくまでStylizedした記述であり、これに当てはまらないケースももちろんあるが、大きな傾向は掴めていると思う)

2012年秋のノルウェー訪問でも、今回の視察でも、ノルウェー放射線防護庁の職員とこの問題点について長時間にわたって議論した。ノルウェーの行政職員の働き方はまさに「適材適所」である(同じことはスウェーデンにも当てはまる)。行政業務の専門性ごとに求人が出され、そのポジションには大学で関連分野を学んだ人材が応募してくる。そして、そのポジションがなくなるか、本人が自分から辞めたり、他の仕事をするために別のポジションに応募したり、転職しない限り、そのポジションで同じ分野の仕事に従事し続けられる。定期的な配置換えはないから仕事への取り組み方が違う。専門性に基づきながら、現場の農家の人と協議しながら「今、何が必要か」を自分で判断して、イニシアティブを発揮し、新たなプロジェクトを始めやすい。

実際のところ、2012年の視察では私たちをトナカイ・羊農家に案内してくれたノルウェー放射線防護庁の職員が、視察の後にその農家と雑談しながら、最近の世間話や牧場の家畜の様子について話をしていたが、その中で放射能汚染対策についての面白いアイデアが出てきて、農家の人と互いに意気投合しながら、今日は時間がないから、詳しい話は今度しようと約束して、その牧場を後にした光景を目撃した。この職員は大学でもその分野のことを学んでいるし、その分野の行政にも長年携わってきたので、今、何が必要かが判断できるし、自分の組織に持ち返ってからも周りの同僚や上司を説得しやすいだろうし、そもそも現場を回る職員にかなり多くの決定権が下りているケースも多い。もし、この職員が放射線防護とはほとんど関係のない、例えば、法学部卒の人間だったら、そのような判断ができただろうか?

放射線防護をめぐる行政活動には、もちろん、放射線防護の知識だけではなく、社会への影響や社会経済学的な分析をする能力、もしくは、心理やリスクコミュニケーションについての専門性、あるいは、トナカイ放牧をするサーミ人の文化継承についての理解、といった幅広い専門性が要求されから、「日本のようなジェネラリストを育てる制度のほうがよいのでは」という人がいるかもしれないが、いや違う。それぞれの専門性ごとに人を雇えば良いのである。大学でそのような専門分野を学んだ人はいるだろうに、実際の行政にはそれとは関係ない専門性を持つ職員(そもそも大学でちゃんと学んでいればの話だが)がそのポストに就いている、という「不適材不適所」が日本において様々な問題をもたらしているように思う。

9月のノルウェー農業視察(その1)

2014-10-24 20:42:27 | コラム
9月7日から11日にかけて、ノルウェーへ視察に行ってきた。ノルウェーは1986年のチェルノブイリ事故によって、スウェーデン同様、局所的に高い濃度の放射性セシウムが降下し、その後の対応に追われた。セシウムが降下した地域は畜産・酪農の盛んな地域であったため、農産品の汚染を減らすための様々な対策が試行錯誤の中で考案され、その結果や経験は時間とともに蓄積されていった。その経験や知識をぜひ福島の復興に生かしてほしいということで、ノルウェー政府ノルウェー放射線防護庁は、福島とノルウェーの住民・農業生産者同士の交流を進めており、その一環の視察だった。

私は、通訳のサポートして同行。ノルウェー語の通訳は別にいるものの、視察が大人数のため2つの車に分かれて移動することも多く、もう一人通訳がいたほうがよいことで加えてもらった。私は2年前の2012年にもノルウェー放射線防護庁の人と一緒に、ノルウェーの被災地域の農家を訪ねたことがあったので、チェルノブイリ事故後のノルウェーの状況や、畜産・酪農における対策についてはある程度、把握しているつもりで、今回の視察では通訳以外のサポートとしても同行した。

スウェーデン語ノルウェー語は言語的に近いため、基本的な違いを把握しておけば、ノルウェー人は私にノルウェー語でしゃべり、私は彼らにスウェーデン語でしゃべることで会話が成り立つ。ただし、放射線防護庁の職員などオスロの標準語をしゃべるノルウェー人は分かりやすいが、今回の視察はNynorskの地域が多く、地元の農家の人がしゃべる独特の訛りと語彙には少し苦労した。

ちなみに、ノルウェーには原発はなく、電力は97%以上を水力に頼っている。だから、ノルウェーの放射線防護庁は「原子力ムラ」の一部ではないし、今回の視察も原子力・放射線の安全性を強調したい勢力が背後にあるわけではないことは、強調しておきたい。

※ ※ ※ ※ ※

チェルノブイリ事故直後、ノルウェーで高い濃度の放射性セシウムが降下した地域は、主に下の地図で赤丸で囲んだ2地域。スウェーデンでは、イェーヴレ(Gävle)からスンスヴァル(Sundsvall)にかけて放射性物質を含む雨が降り、比較的高い汚染をこれらの地域にもたらしたが、同じ雲はそのまま西に流れ、ノルウェーでも赤丸で囲んだ地域に雨を降らしたのである。2012年に私がノルウェーを訪れた時は、ヴァルドレス地方のみの訪問だったが、今回の視察ではこの両方の地域へ足を運ぶことができた。



詳しい話は次回書くとして、今回は視察中に撮った写真と動画をいくつか紹介したい。


ヴァルドレス地方。人気のハイキング・登山コースの入り口にある山荘で宿泊。


同上。船が写っているが海ではなく湖。標高が高いところにある。


乳牛を飼うヨールンさん。


広大な高原でヤギを放牧。写真の中ほどから、山羊の群れが一列になってこちらに向かってきているのが分かるだろうか?


ヤギの搾乳小屋。ヤギの乳はそのまま飲むのではなく、人気のある山羊チーズに加工して販売。



羊農家。農家の人の笛に合わせて、犬が走り回り、羊の群れを柵の中に追い込む様子はとてもおもしろい。



夏の間、高原に放していたトナカイの群れ(3500頭)をヘリコプターと馬・犬を使って一箇所に集めます。集められたトナカイは台風か洗濯機のようにクルクル回っています。その中から40匹のサンプルを選び、前の生体検査を行います。生きたままの状態で肉のセシウム濃度を測り、基準値を下回ったものだけをするのですが、今年はキノコが豊富だったので予想以上にセシウム濃度が高く、翌日に群れを半分にわけて、片方の群れを全数検査し、基準値以下のものだけをしました。トナカイの生体検査は10秒です。テキパキと効率的に作業が続きますが、トナカイが暴れるので大変です。おそらくトナカイ所有者の家族だろうと思われる若者たちも格闘しています。


詳細は次回。


いまだにバンダジェフスキーとは・・・(トホホ)

2014-10-23 14:54:56 | コラム
昨日、ストックホルムにて、東京大学の教授とヨーテボリ大学・シャルマシュ大学の教授の講演があった。

東京大学の中西友子教授は、様々な核種の放射性同位体を用いて植物の水分や栄養の吸収を画像化する技術の説明や、福島における水田除染や農業復興の取り組みを紹介しておられ、非常に興味深かった。また、ヨーテボリの教授は、これまでの様々な検査・測定結果から判断するに、福島での原発事故の結果として健康被害が出るとは考えにくいこと、そして、むしろ社会的な側面での問題が大きいことを説明しておられ、全くその通りだと感じた。

その後の質疑応答では、聴衆の中にいた日本人の一人が「健康被害は出ている。バンダジェフスキーも心臓の専門家で警鐘を鳴らしている」などと発言しており、この期に及んでバンダジェフスキーの名前を耳にし、正直なところ呆れてしまった。他の研究やチェルノブイリ事故後のスウェーデンの経験と照らしあわせても全く整合性がない彼の主張を持ちだしたこの方は、当然ながらあっさりと否定されていた。

もし彼の説が正しければ、スウェーデンでどのような状況になっていたか考えて見れば良いだろう。また、甲状腺検査の結果も、そこで見つかった「ガン」とされるものが何なのか、日本の他の地域との比較はどうか、事故直後の放射性ヨウ素による被曝量(推計)がどれだけでそれがチェルノブイリ事故の際に甲状腺がんを発症した人たちの被曝量と比較した場合にどうなのかを考えてみれば、福島において異常が多発しているとはいえないし、その可能性が考えにくいことは明らかであろう。

震災から3年半。しかし、震災直後に得た情報の呪縛にしばられたまま、そこから全く前に進めない人もいる。当事者なら仕方がないかもしれないが、遠く離れたスウェーデンにいながら全く学ぼうとしないのは大変に残念である。

ストックホルム沖の群島海域における領海侵犯疑惑 (その2)

2014-10-22 00:13:03 | スウェーデン・その他の政治
2014-10-20: ストックホルム沖の群島海域における領海侵犯疑惑 (その1)の続き

(追記:【 10月21日(火)夜 】の項を加筆しました)


【 10月20日(月)日中 】

金・土の捜索活動ではKanholmsfjärdenが中心だったが、日曜日に捜索範囲が拡大した後、徐々に南へと移っている。スウェーデン国防軍はおそらく何らかの手がかりは得ており、それが南に移動していることを把握はしているようだ。日曜日に国防軍が公開した目撃写真(前回の記事を参照のこと)は、地図上のJungfrufjärden(ユングフルー・フィヤルデン)付近の海域で撮影されたものだった。

月曜日の捜索活動の中心はMysingen(ミューシンゲン)。午後には、海軍が捜索活動に専念できるように、この海域の民間船の行き来が数時間にわたって禁止された。海軍の艦艇から10km離れるように指示が出たほか、上空も1300mよりも下の高度の飛行が禁止された。海域封鎖は今回の作戦が始まってから初めてのことであり、国防軍はかなり強い手がかりを得ているのではないかと思われたが、その後、国防軍からの詳しい結果発表はなかった。

2日前から話題になっている石油タンカーだが、その所有会社であるNovoship「スウェーデンや世界の注目がNS Concord号の動向に集まっていることを知り、非常に光栄に思うが、この船の動向は特に変わったものではない」と発表し、事件とは関係がないことを強調した。10月23日にPrimorskで荷物を積み、航海に出る予定になっており、それまで公海上で待機していると説明した。(ただし、これで疑いが晴れたわけではない)

前日に国防軍が一般公開した目撃写真を撮った男性が、この日、タブロイド紙Aftonbladet(アフトンブラーデット)のインタビューで「あれは間違いなく潜水艦だったと確信している」と答えた。この20代の男性は、タバコを吸おうと家の庭に出た所、静かな水面上に何かが突き出ており、それが5ノットほどの速さでゆっくりと5、6mほど進んだ後、水の中に消えていった、と説明している。

一方、明らかに誤りである目撃情報もあった。土曜日の午前中、Kanholmsfjärden海域に面した国道を車で走っていた民間人が、水面上に潜水艇が浮上しているのを見つけた。その潜水艇は静止しており、上部半分が水面上に出ているようだったという。この民間人は写真を撮ったものの、日刊紙Dagens Nyheter(ダーゲンス・ニューヘーテル)が詳しく確認した所、スウェーデンの民間会社が所有する観光用の潜水艇であることが明らかにあった。海軍が付近で大規模な捜索活動を行っている時に、この会社は通常通り、お客を乗せて群島海域の入江を潜行して、お客を楽しませていたのだという。「スウェーデン国防軍にも居場所は伝えているから問題ない」とのことだが、付近を通りがかる一般人にしてみれば、国籍不明の小型潜水艇と間違えても仕方がない。人騒がせな話である(笑)。


目撃写真



観光用潜水艇を所有するイベント会社のホームページより


【 10月20日(月)夜 】

再び、Jungfrufjärden付近の海域で撮影された目撃写真の話に戻る。国防軍はこの写真の信憑性が高いと考え、撮影場所を丸で囲んだ地図とともに一般に公開したわけだが、公共テレビSVTが月曜日午後、その写真と地図をたよりに撮影場所を突き止めようとしたものの、そのような場所が見つからなかったという。


一番下の赤丸が撮影場所だと説明された

国防軍が公開した地図とは別の場所で撮影された疑いが出てきたため、SVTが国防軍にその真相を追求したところ、地図で示した場所は完全に正しいものではなく、大まかな場所にすぎないことを認めた。正確な情報を公開しなかった理由として「こちらが手にしている情報を敵にすべて知らせたくなかった。公開した位置情報は正確なものではなく、あくまで大まかなものであることを説明すべきだった」と述べ、なかば意図的なものであることを認めた。しかし、その数時間後「いや、意図的なものではなく、こちらの手違いだった」と見解を改めている。

この晩のニュースはもう一つ。日曜日に住民が撮影し、国防軍諜報局と公安警察が探していた不審人物(前回の記事を参照のこと)の正体が明らかになった。水辺でマスを釣りに来ていたOve(オーヴェ)というおじいさんだった。「新聞に載った写真に私が写っていると、友人が教えてくれた。このストレートのジーンズは私に間違いない」とタブロイド紙Expressen(エクスプレッセン)のインタビューに答えている。公安警察に指名手配された感想は?との問いには「面白いね(Kul)」との答え。


私、怪しい人じゃないっす


【 10月21日(火) 】

この日は再び捜索海域が拡大され、Nämdöfjärden(ネムドー・フィヤルデン)からDanziger gatt(ダンジーゲル・ガット)にかけて広範囲で捜索活動が展開された。民間船の通行は禁止されなかったものの、海軍の艦艇から1km離れるように指示が出された。

昼過ぎ、日刊紙Dagens Nyheter(ダーゲンス・ニューヘーテル)が内部筋の情報として「当たり」があったことを報じた。ただ、それが何を意味するのかは明らかにされなかった。「当たり」があったとされた場所には、実際に複数の艦艇が集まってきた。海軍のダイバー数人が海に入ったことが確認されたものの、艦艇は2時間ほど後、再び散らばっていった。国防軍からはこの動きについての詳しい発表はなかった。

夕方に開かれた国防軍の記者会見では、これまでに発表された3件の目撃情報のほかに、新たに2件の目撃情報があることが明らかにされた。



【 10月21日(火)夜 】

タブロイド紙Expressenによると、件の石油タンカーはロシアのPrimorsk港に向かって東進を始め、スウェーデンから遠ざかっているという。この石油タンカーが果たして小型潜水艇の母艦かどうか、つまり、外見は石油タンカーの形をしているが中は別の構造になっているのではないか、という疑問については、海運業界の専門家は「ありえない」という意見が多い一方で、防衛大学校の専門家は、これまでの動きはやはり怪しく、事件との関連性がやはりあるのではないか、との見方をしている。

一方、日曜日にロシアのサンクトペテルブルグを出港した調査船Professor Logachevは、海中調査や海底探査を専門とする船であり、目的地はスペインのカナリア諸島にあるラスパルマスに設定されていたことは前回の記事で書いた。この船はその後、ストックホルム沖合いを通過し、ポーランドカリーニングラード(ロシアの飛び地)の沖合いまで達した後、そこでしばらく停泊していたものの、火曜日の晩になぜか北上を始めたとタブロイド紙Expressenは伝えている。(この調査船には出港直後からオランダ海軍の艦艇が3隻、張り付くように付近を航行しているとの情報があるが、オランダ海軍は「それはたまたまの偶然だ」と答えているという。)


以上が、これまでの動き。

今回の軍事行動が始まった当初から、スウェーデン国防軍「これはあくまで外国勢力の海中行動に対する情報収集活動であって、潜水艦狩りではない」と強調している。つまり、潜水艦もしくは何らかの人工物の存在と、その動きを確認することが目的であって、それを強制浮上させたり、破壊することは目的には含まない、ということであろう。今晩の記者会見では、国防軍が敵の潜水艦や潜水艇を見つけた場合は、武力を使って強制浮上させることになるとの見解を示していた。しかし、仮に存在が認められたとしても、状況によっては手は出さず、暗黙のうちに領海外に追い出す可能性もあるのではないかと思う。例えば、外務省や国防軍が、ロシアとの外交問題になることを恐れた場合などだ。いずれにしろ、この数日中にどのような展開になるのかが気になる。


○ 領海侵犯の目的はなにか?

さて、この未確認物体の目的はなにか? 国防軍が捜索を開始した金曜日以降、様々な説が議論されている。もし、ロシアの潜水艇であれば、これはロシアとNATOの対立が強まる中で、バルト海で存在感を誇示し、覇権を維持しようとするロシア軍が活動を活発させていることの一つの結果であろう。防衛大学校の専門家は、海中での侵入が疑われる事件はここ2年ほどの間に複数あったと語っている。

ロシア軍による威圧行動は、海の中だけではなく、空でも近年、頻繁に発生している。昨年のイースター休暇の深夜には、ロシア軍の爆撃機が戦闘機の護衛を引き連れながら、スウェーデンの首都ストックホルムを標的とした軍事演習をスウェーデン領空の間近で行っている。この時、(イースター休暇中のため?笑)スウェーデン空軍は無防備で、戦闘機をスクランブル発進させなかったため、国防軍の危機管理体制が大きく批判された。一方、NATOはロシア軍機の動きをちゃんと察知しており(たしかポーランドかバルト三国あたりから)戦闘機が緊急発進していた。

また、今年の6月にはバルト海の公海上で、通信傍受などの情報収集活動を行っていたアメリカ軍の偵察機RC-135が、スクランブル発進してきたロシア機に威圧されたため、恐れをなして進路変更。目の前にスウェーデン領ゴットランド島があったため、スウェーデン領空を飛ぶことで危機から脱しようとしたものの、スウェーデンはNATO加盟国ではなく、その米軍機はまず領空進入許可を得る必要があった。慌ててスウェーデンの航空管制当局に許可を求めたものの、拒絶されたため、「仕方なく」領空を侵犯する結果となった。(領空侵犯であるものの、スウェーデン空軍はそれまでのやりとりをすべて把握しており、米軍機であれば問題ないとして、スクランブル発進はしていない) その後、スウェーデン外務省はアメリカ大使館に抗議している。


7月には、領空進入許可を持たないポーランドの戦闘機が、スウェーデン領空の10kmほど内側を飛行する出来事もあった。(詳細は軍事機密を理由に明らかにされていないが、米軍機と同じようにロシア機に威圧された可能性もある)


また、スウェーデンの空軍機も、バルト海の公海上で通信傍受を行っている時に、ロシア軍機に大いに威圧される出来事が今年に入ってから複数回あった。近年、ロシア機は非常に好戦的で、スウェーデン機の数メートルのところまで接近することが多いという。国防軍通信傍受局(FRA)は、その時に撮影されたSu-27の写真をホームページ上で公開している。


また、つい最近も、国籍不明機に対してスクランブル発進したスウェーデンの戦闘機が超音速で飛んだために、スウェーデンの沿岸部に衝撃波が走り、ニュースになった記憶がある。

今回の事件も、活発になるロシア軍の対外活動の一環かもしれない。スウェーデンを標的にする理由としては、スウェーデンに脅威を与え、NATOへの加盟を思いとどまらせる意図があるのではないかとも憶測されている。(NATOへの加盟は、現在はスウェーデンの政治のアジェンダになっていないし、新政権も今のところはこれまでの非同盟中立を維持する考えだが、近年はNATOとの協力関係もますます強化されており、いっそのこと正式な加盟国になるべきだという考えも国内にはある) また、スウェーデンの領海に潜水艇を使って潜入することで、スウェーデン国防軍の反応を観察し、どの程度の防衛力があるのかを確認する意図があるのではないかという声もある。

さらに、スウェーデン空軍の少佐であり、軍事ネタに関するブログを、職務とは関係なく趣味で開設し、それなりの評判と信頼を集めているCarl Bergqvistによると、ロシアは90年代にスウェーデン領海内の海底にソナーや機雷・魚雷などを遠隔操作で扱うための施設を極秘に設置しており(ロシア側にそれを裏付けるものがあるという)、その機器の寿命が来たため、新しいものに取り替える目的でスウェーデン領海への侵入を活発化させているのではないか、との説を述べている。(どこまで信憑性があるのか私は知らないが、とりあえず紹介しておく)

また、スウェーデン軍による今回の捜索活動が発表された直後は、ロシアではなく、NATO軍の潜水艦という説もあった。というのも、その直前まで、NATO軍による大規模な軍事演習がバルト海のスウェーデン近海で行われていたからである(この演習には非加盟国のスウェーデンも参加している)。その時に参加したNATOの潜水艦がスウェーデン近海に潜んでいるのではないか、とか、ロシアの潜水艦を装ってスウェーデンに脅威を与えることで、スウェーデンの世論をNATO加盟に傾倒させようとしているのではないか、などといった陰謀論もあった。

今回の騒動の犯人として名指しされているロシア「NATOの軍事演習に参加したオランダの潜水艦の仕業だろ。多額の金を使って潜水艦探しをするよりも、とっととオランダ政府に問い合わせたほうが、費用がかからないし、納税者のためになるんじゃね?」との声明を発表している。(スウェーデン国防軍は、現在続く捜索活動の対象がロシアの潜水艦もしくは小型潜水艇だとは言っていないが、スウェーデンのメディアは、軍の内部筋から得た情報をもとに「ロシアの可能性が高い」と報じている)

しかし、オランダなどNATO加盟国の潜水艦であれば、スウェーデン軍は情報を持っているはずであるし、演習に参加したオランダ艦の居場所は分かっているので、その可能性は考えにくいだろう。無論のこと、オランダもロシアの主張をすぐに否定している。

ストックホルム沖の群島海域における領海侵犯疑惑 (その1)

2014-10-20 03:50:13 | スウェーデン・その他の政治
ストックホルム沖の群島海域における領海侵犯疑惑について、国内外で大きなニュースになっている。私もニュースを追っているうちに、サスペンス小説を読んでいるかのようにワクワクしてきたので、これまでの流れを簡単にまとめてみたい。時間がないので、走り書きであることをご了承いただきたい。

◯ 事件の流れ

【 10月17日(金)夕方 】

スウェーデン国防軍は、ストックホルム沖の群島海域の一つ、Kanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)において大規模な軍事作戦を始めたと発表。その海域において「外国勢力による海中活動が行われているという情報を入手したため」であり、その情報は「信頼のおける情報源から得られた」と説明した。


Kanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)


作戦には海軍の新型艦Visbyや旧型艦Sundsvallなど、対潜哨戒や爆雷投下の能力を持つ艦船や小型艇などが参加。参加部隊は海軍の海戦部隊や沿岸作戦部隊、予備役のほか、空軍のヘリコプター部隊などであり、総勢200人ほど。投光機などを用いながら夜を徹した捜索活動が続けられた。

ロシアの潜水艦や小型潜水艦の可能性が最初の段階から指摘されたが、国防軍は「国籍は不明」と答えた


【 10月18日(土)午前 】

日刊紙Svenska Dagbladet(スベンスカ・ダーグブラーデット)が、大規模な軍事作戦のきっかけとなった「信頼のおける情報源」とは群島に住む民間人である、との報道を、国防軍の内部筋の情報を元に伝えた。この民間人は17日(金)の昼過ぎにKanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)の海域において不審物を目撃し、それを国防軍に通報したという。


【 10月18日(土)午後 】

国防軍は、この日の朝から兵力と対潜哨戒能力を増強して、外国勢力の海中活動を捜査していると発表。また、海中活動が行われている可能性のある海域を絞り込み、その海域に捜査活動を集中させているとも伝えた。








スウェーデン海軍の中では最も新しいコルベット艦 Visby


【 10月18日(土)夜 】

日刊紙Svenska Dagbladet(スベンスカ・ダーグブラーデット)が、さらなるスクープを発表。大規模な軍事作戦が展開される前日の16日(木)の深夜スウェーデン国防軍の通信傍受局ロシア語による通信を傍受したという。この通信は、ロシア軍が緊急連絡用に用いる周波数で発信されたものだった。

その翌日に、ある「信頼のおける情報源からの目撃情報」があり、大規模な捜索活動が始まったわけだが、その日(17日)の22時に国防軍通信傍受局は再び同じ回線を使った通信を傍受している。ただ、前日の通信とは異なり、この時は暗号化されており、内容は把握できなかった。一方、交信双方の発信場所は突き止めることができたという。それによると、一つはKanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)であり、もう一つはバルト三国とポーランドの間にロシアが飛び地として領有しているカリーニングラードだった。ここにはロシア海軍の軍港がある。

日刊紙Svenska Dagbladetは、この情報の出どころは「スウェーデンの諜報活動に関わる人」とし、それが国防軍通信傍受局なのか諜報局なのか、それとも各部隊付きの諜報担当者なのかは明かしていない。しかし、この情報は現在の捜索活動に携わる複数の関係者にも確認を取り、信頼性が高いと判断したという。

17日(金)の午後に始まった軍事作戦(捜索活動)は、昼過ぎの目撃情報から2時間も経たないうちに開始されたわけだが、このスクープ情報が正しいとすれば、国防軍はその目撃情報が入る前から、「外国勢力による海中活動」を察知していたわけで、その素早さの説明がつくことになる。

また、ロシア軍の緊急連絡用回線を使ったロシア語による通信だったという点から、ストックホルムの群島海域において、ロシアの潜水艦もしくは小型潜水艇が事故を起こして潜水活動に支障をきたし、コントロールを失っている可能性が考えられるが、このスクープ情報をもたらした筋は、そこまでの確証はないと答えていたそうだ。一方、そのスクープ情報に対するスウェーデン国防軍の公式見解「ノーコメント」だった。


この晩の日刊紙Svenska Dagbladetのスクープはこれだけではなかった。国防軍が捜索している対象が仮に「外国勢力の小型潜水艇」だとすれば、近くの海域に母艦が存在する可能性があるが、それと思わしき艦艇が実際にストックホルム沖合いのバルト海に待機しているというのである。船名はNS Concordであり、リベリア船籍だがロシアのノヴォロシースク(黒海沿岸)にあるNovoshipという企業が所有しているという。この船は全長244メートル、幅42メートルで排水量が10万トンを超える石油タンカーであり、15日(水)からバルト海の公海上で待機し、錨を下ろすことなく、付近を行ったり来たりしているのだという。目的地はデンマーク海峡として登録されている。





この謎の石油タンカーは、スウェーデン軍が捜索活動を始めた17日(金)午後スウェーデンの沿岸から40海里の所にいたものの、日刊紙Svenska Dagbladetこのタンカーの存在を報じた直後の22時頃、東に進路を取り、遠ざかっていったという。また、それまではネット上の海上交通情報サイトMarinetraffic.comで確認できていたものの、突然姿を消したともいう。船に取り付けられた発信機を切った可能性が考えられる。

ただし、スウェーデンの海上交通庁の広報担当者によると、ただ単に発信機の電波の届かない海域に入ったためだという可能性もあり、今回の「外国勢力の海中活動」との関連を断定するのは早計だ、とコメントしている。また、石油タンカーが港の外や公海上でしばらく停泊することは珍しいことではなく、例えば、石油価格の動向を見ながら、利益が上がるタイミングを見計らって売買契約を結び、入港するというケースはあることだ、とも説明し、慎重に判断しなければいけないとしている。

一方で、このタンカーの目的地は「デンマーク海峡」と登録されているのに、それからかなり離れたバルト海のストックホルム沖合いで数日間も何を屯(たむろ)しているのか。それになぜ錨を下ろさないのか、という疑問点もあり、不信感が拭えない。

(ちなみに、このタンカーを所有するNovoshipという会社は、Sovcomflotというロシア国営企業グループに属すが、この社長はSergej Frankといい、2000年代初めのプーチンの第一政権において運輸大臣をしていた男であり、プーチンを取り巻く権力グループの1人だという。彼の息子は、プーチンの親友であり石油商社Gunvorで巨額の富を築いたGennadij Timtjenkoの娘と結婚しているという報道があるが、これだけでは今回の事件との関連性はなんとも言えない。さらに再び「ちなみに」だが、Timtjenkoはクリミア半島併合にともなうアメリカのロシア制裁の対象となっている男で、制裁が発表される前日に自分が持つGunvorの株をスウェーデン人のビジネスパートナーに売却している。)


【 10月19日(日)午前 】

スウェーデン国防軍による捜索活動は、規模がさらに拡大する。前日には、捜索海域が狭められたという発表があったものの、この日の捜索では前日よりも海域が拡大された。


【 10月19日(日)午後 】

スウェーデン国防軍は、メディアで報じられているロシア潜水艇の可能性について、「そのように断じることはできない」としながらも、「しかし、その可能性も現時点では排除できない」と答えた。

この日の午後は、新たな情報がメディアで報じられた。

まず、2週間前の出来事について。スウェーデン海軍の沿岸作戦部隊が小型艇で訓練をしていた所、海中の何らかの物体と衝突し、小型艇が大破。4人の兵士が海に放り出される事件が2週間前に起きていたという。小型艇は沈没したものの、兵士は近くの島に泳ぎ着くことができ、無事だった。場所は現在まさに捜索活動が続くKanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)の海域であった。この時は、海中の大型ブイに衝突した可能性が指摘されたものの、もしかしたら外国の潜水艇であったかもしれないという。

また、日刊紙Dagens Nyheter(ダーゲンス・ニューヘーテル)は、該当海域の島にて黒い服を来てリュックサックを背負った不審人物が目撃され、国防軍諜報部と公安警察が手配中だと伝えた。この不審人物は、島に住む一般住民が目撃し、写真に撮っている。



さらに、この前日話題になった石油タンカーについてだが、東進をやめて、南に向かい始めた。そして、この日の午後、目的地をそれまでのデンマーク海峡からロシアのプリモルスクに変更したと、スウェーデンの海上交通庁が伝えた。また、日刊紙Dagens Nyheterの記者がヘリコプターでこの石油タンカーの上空まで飛び、様子を報道した。「2度ほど旋回してみたが、甲板には誰も見当たらなかった。しかし、操縦席にオレンジ色の服を着た男の姿が最後に見えた」と伝えた。タンカーは海面上に大きく浮いており、積み荷がないことが分かったという。



そして、ニュースがもう一つ。ロシアの調査船Professor Logachevが、昨夜、バルト海に面したサンクトペテルブルクの港を出港したというのである。この調査船は、海中調査や海底探査を得意とする船だという。航海の目的地はスペインのカナリア諸島にあるラスパルマスに設定されているとのことだが、今回の事件との関連性も考えられる。


【 10月19日(日)夜 】

スウェーデン国防軍は記者会見を開き、過去数日の間に不審物体の目撃情報が3件あったことを発表した。一つは、この前日にSvenska Dagbladetがスクープした、群島に住む民間人による17日(金)の昼過ぎの目撃情報だが、同じ日の午前中にも別の目撃情報があったという。また、19日(日)の朝10:15にも群島の間の海域で不審物が目撃されたことがわかった。水面上に何かがあり、この目撃者が写真に収めた直後に、海面下に沈んで姿を消したというのである。

国防軍は、その時の写真の一つを一般に公開した。



とりあえず、今はここまで。

「スウェーデンの電力会社の本社は原発の敷地内にある」は本当か?

2014-10-18 20:24:02 | スウェーデン・その他の経済
この記事のタイトルにある噂話を震災以降、何度か耳にしてきた。私は一部の人たちの間で広まっているに過ぎないと思い、これまでは放ってきた。しかし先日、ある新聞記者の方が「今でも日本で耳にする」とおっしゃっておられたので、その事実関係についてはっきり書いておこうと思う。


Twitterで検索してみても出てくる


「スウェーデンの電力会社の本社は原発の敷地内にある」と聞くと、なるほど、東京電力の本社福島第一、第二原発柏崎刈羽原発と同じ場所に位置していたり、中国電力の本社島根原発の敷地内に位置しているような状況を想像する人も多いだろう。しかし、そういうわけではない。

結論から言えば、この話は間違いである。ただ、そのような誤解が生まれた理由が理解できなくもない。この噂話の張本人は、スウェーデンでは電力会社原発管理会社が異なることを無視し、日本のように一つの電力会社がそれぞれの原発を直接的に管理・運転していると思い込んでいるのであろう。

「スウェーデンの原発管理会社の本社は原発の敷地内にある」と言えば正しい。しかし、それがそのまま「電力会社の本社も原発内にある」ということを意味しないことに注意しなければならない。


【 複数の電力会社で一つの原発を所有 】

スウェーデンの場合(そして、おそらく他のヨーロッパの一部でも)、複数の電力会社が出資して、原子力発電所を建設してきた。大規模で長期的な投資を必要とする原発がはらむ経済的リスクを分散させるためである。そして、その後の運転や維持管理も複数の電力会社が共同で設立した「原発管理会社」が請け負っている。

原発管理会社は、その原発の運転と維持管理に特化した会社であるから、その本社がその原発内にあることは何の不思議でもない。遠く離れた首都ストックホルムにあっても、全く意味が無い。

一方、原発に共同出資しているそれぞれの電力会社の本社は、ストックホルムなどの大きな街に立地している。電力会社は、原発だけでなく水力発電所やコジェネ、地域熱供給、一部の送電線の管理などの多様な業務も持っているからである。

スウェーデンには国内4ヶ所に合わせて12基の原子炉があるが、その運転と所有関係について図解してみた。(一番下に示したバーシェベック原発の2基は政治決定により既に運転が停止し、現在は解体に向けた準備が進められている)



クリックすると拡大できます

この図から分かるように、それぞれの原発には原発管理会社が存在し、運転や管理・維持を行っている。そして、その会社は複数の電力会社によって所有されている。図中に示したは、株式の所有割合である。ABというのはスウェーデン語では「アーべー」とよみ、Aktiebolag(株式会社)の短縮形である。間違っても、どこかの国も総理大臣のことではないw。


【 原発の所有に関わっている電力会社は4社 】

この図の右端に示したとおり、スウェーデンの原発の所有・運転に関わる電力会社は4つだが、このうち、Vattenfall(ヴァッテンファル)Fortum(フォートゥム)E.On(エーオン)の3つがスウェーデンの電力(発電)市場における主要大手である。

Vattenfallはスウェーデンの産業化にともなう電力需要の増大に応えるために、水力電源の開発を目的として1909年に設立された国策事業体であり、第二次世界大戦後の高度成長期に電力需要がさらに増大してくると、新たな電源として原子力に着目し、多数の原発を建設してきた。1992年に株式会社化されたものの、今でも株式の100%をスウェーデン政府が所有している。

Fortumフィンランドの電力会社であり、株式の過半数はフィンランド政府が所有している。スウェーデンの電力・エネルギー市場が1990年代前半に自由化されたあと、主にストックホルム地域の自治体が所有していた電力・エネルギー公社や企業の自家発電施設などを次々と買収する形でスウェーデンに進出した。

E.Onドイツの大手電力・エネルギー会社。スウェーデンにはもともとSydkraft(シードクラフト)という電力・熱供給会社があった。この会社は1906年にスウェーデン南部のスコーネ地方の自治体が共同出資して設立したものであり、高度成長期には、先述の国策事業体であるVattenfall(ヴァッテンファル)が原発の建設を議論しているのと同じ時期に、Vattenfallとは別に建設計画を立てて原発を発注。この時に発注された原発(オスカシュハムン原発1号機)はVattenfallが建設を進めていた原発よりも完成が早かったため(1972年)、スウェーデン初の商業用原子炉となった。その後、1990年代はじめに電力・エネルギー市場が自由化された後、SydkraftE.onに買収された。

4つ目のSkellefteå Kraft ABは、スウェーデン北部にあるSkellefteå(フェレフテオ/シェレフテオ)市が全株を所有する電力・エネルギー公社。小さな地方の町の公社であるものの、水力発電所をいくつか所有しているため資金力があり、1970年代の原発建設においても出資を行っている。

この電力会社4社の本社は、原発とは全く関係ない場所にある。スウェーデン企業であるVattenfallはストックホルムのソルナという地区にある。外国資本であるFortumE.Onはそれぞれの国に本社があるが、スウェーデンでの事業については子会社を設立して管理し、その本社はストックホルムやマルメに置かれている。


【 複雑な所有関係 】

スウェーデンの原発の所有関係は、この図で示したとおり非常に複雑だ。フォッシュマルク原発は3つの企業によって所有されているが、2つ目のMellansvensk Kraftgrupp ABはさらに3つの企業に所有されており、結局、図に示した電力会社4社は直接的もしくは間接的にこの原発の部分所有者になっていることがわかる。E.Onに至っては、直接的にも間接的にも出資している。

オスカシュハムン原発リングハルス原発は、電力会社2社によってそれぞれ所有されている。

既に運転が終了したバーシェベック原発は、リングハルス原発を運転しているRinghals ABによって100%所有されているが、既に書いたとおり、この会社は電力会社2社によって共同所有されている。


【 まとめ 】

ここまで読めば分かるように、原発の敷地内にあるのは原発管理会社の本社であり、電力会社の本社ではない。日本の原発だって、東京電力や東北電力、中国電力などそれぞれの電力会社には、原発の管理を担当する部署(子会社?)があり、その本部はそれぞれの原発敷地内にあるだろうから、結局同じことではないだろうか?(← 間違っていれば指摘していただきたい)

だから、私はこの噂話を聞くたびに、「最初に言い出した奴、出てこい!」と言いたくなる衝動に駆られる(笑)。

エネルギー・原発政策に関する新政権(社会民主党と環境党)の合意

2014-10-13 01:13:02 | 2014年選挙
10月3日、社会民主党と環境党の連立による新政権が誕生したわけだが、連立を組むための折衝においてこの2党はエネルギー分野に関する一つの合意にいたり、10月1日に発表した。


合意内容は次の5点である。

(1) 原発は、その社会経済的コストのより多くの部分を自ら負担すべきである。安全基準を強化するともに、原発が核廃棄物処理基金へ支払う課徴金を引き上げる。

(2) 再生可能な電力の発電量をさらに増やし、2020年までにその年間発電量を少なくとも30TWhに到達させる。2030年までの目標も新たに設定する。再生可能な電力の発電のための技術中立的な証書システムをこの目的のために活用する。それに加えて、海上風力発電や太陽光発電への支援も必要となる。自家発電を、容易で割に合うものにする。

(3) 国営電力会社ヴァッテンファル(Vattenfall)とその経営を国がしっかりと管理し、再生可能エネルギーの割合を高めるためのエネルギーシステム転換を、この会社がリードしていくように促す。ヴァッテンファルが計画していた新たな原発の建設準備は中断させる。

(4) エネルギー政策を超党派で議論するためのエネルギー委員会を設立し、長い将来を見据えた持続可能なエネルギー政策合意を策定する。

(5) 新政権は、原発を再生可能エネルギーとエネルギー効率化(省エネ)によって代替していくことを、その委員会での議論の出発点とする。


10月3日の新首相ステファン・ロヴェーンの所信表明演説でも、この合意にある脱原発・エネルギーシステムの転換への意欲が強調されたため、国外のメディアは「新政権が原発全廃を宣言した」と報じた。所信表明演説で強調するということは、新政権がこの問題を重要な政策課題の一つだと位置づけていることを意味しており、それ自体は素晴らしいことだとは思うが、では、新しい政権の誕生によってこれまでの原発政策・エネルギー政策が大きく路線変更したのかというと、そうではない

結論から先に言えば、

2006年から2014年まで政権を握っていた中道保守4党2009年にエネルギー政策に関する合意を発表しており、政府による政治判断ではなく、エネルギー市場を取り巻く各経済主体の経済合理性の判断に働きかけることで段階的な脱原発を実現し、再生可能エネルギーの導入を加速させていくという基本方針を決定していた。社会民主党と環境党が今回発表した合意は、2009年の合意を基本的に踏襲したうえで、その意欲を少し引き上げたにすぎない

ということである。以下では、選挙戦における主要政党の主張やその相違点・類似点について比較しながら、今回の合意の意味を私なりに説明してみたい。


スウェーデンのオスカシュハムン(Oskarshamn)原発



【 選挙戦における主要政党の公約 】

原発・エネルギー政策は、選挙戦においても主要な争点の一つだった。この問題について盛んに議論を展開していた諸党の主張は以下のとおり。

○ 環境党
・2030年までに発電と地域暖房に用いるエネルギーを100%、再生可能エネルギーに転換する。
・現在稼働中の10基の原子炉のうち、少なくとも2基を2018年までに閉鎖する。(環境党ですら、全原発の即時廃炉を掲げているわけではない)


○ 社会民主党
電力の安定供給と電力集約型産業(鉄鋼・紙パルプなど)の雇用を損なわないという条件のもとで、代替エネルギーの普及とともに長期的に脱原発

(社会民主党党首のロヴェーンは、もともと製造業で働くブルーカラー系の労働組合の代表を務めていた2011年に、「電力供給において原発は欠かすことのできないものであり、今後も長期にわたってそうありつづけるだろう。原発が代替エネルギーに取って代わられ、なくなることは考えにくい」と発言していたが、2012年に社会民主党の党首に就任してからは、その主張をトーンダウンさせ、上に記した社会民主党としての方針を受け入れている。)


○ 中道保守4党
2009年の4党合意の維持。正式には「環境・産業競争力・長期的安定性のための持続可能なエネルギー政策および気候変動対策」と名づけられたその合意の要点は、

2020年までに
・全使用エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を50%に高める。
・運輸部門における再生可能エネルギーの比率を10%に高める。
エネルギー効率を2005年比で20%向上させる。
温室効果ガスの排出量を1990年比で40%削減する。
再生可能な電力(既存の水力発電を除く)の発電量を25TWhに到達させる。

・再生可能な電力に対しては今後も「グリーン電力証書システム」(電力小売会社に一定割合のグリーン電力の購入を義務づけるRPS制度)を通じた支援を行っていく。
原子力は再生可能エネルギーが大々的に普及していくまでの、過渡的なエネルギーにすぎない。
・既存の原子炉10基が技術的・経済的寿命に達した場合、新しい原子炉を建設し、古いものと置き換えることは認める。
・スウェーデン政府は再生可能電力への支援とは対照的に、原発に対しては直接・間接を問わず、一切支援を行わない。既存原発を実際に更新するかどうかは、その必要性や経済性の面から各電力会社の判断に任せる。

この合意は、原発の利用を現在よりも拡大したい自由党と、歴史的に原発には否定的で脱原発を掲げていた中央党の妥協の産物である。他の2党は原発利用には賛成であるが、自由党ほど強い主張をしてはいなかった。

中道保守4党は自分たちが作ったこの合意に基づいたエネルギー政策を今後も継続していくことを選挙戦で掲げていた。


○ 自由党
自由党は上記の4党合意に加わっているが、合意に盛り込まれた「老朽化した既存原発の更新」という部分を強調し、「今後も長期にわたって原発は必要だ」という強い主張を選挙戦において掲げていた。


原発をめぐる主要政党の主張は以上のとおりである。上に書いたとおり、ロヴェーンはもともと原発推進派であったわけだが、社会民主党の党首となった今、党大会で決定した党の方針から逸脱することは考えられないし、同じく原発推進の自由党も、自らが加わった4党合意から離脱することは今のところありえない。また、社会民主党の主張は中道保守4党の合意内容と対立がない。だから、現在のスウェーデン政治における原発政策をめぐる対立軸は、社会民主党の方針&中道保守4党合意環境党の方針と言っていいだろう。

しかし、本当に対立しているのか? という点については私はこれまでずっと疑問だった。私の見るところ、それぞれの党・陣営はポーズが異なるだけで、(少なくとも2020年までの期間に関しては)言っていることはほとんど同じとしか思えなかった。そのことをブログにまとめようと思っているうちに、投票日がやってきて、選挙になってしまった。

中道保守陣営は、選挙前から左派連立(赤緑連合)を組むことを宣言していた社会民主党と環境党の間で原発をめぐる主張に食い違いがあると指摘し「この2党が連立を組んだ時に、果たしてどのようなエネルギー政策を執り行うのか? そもそも共通の合意に至れるのか?」とツッコミを入れ、激しく批判していた。だから、選挙後は、連立内閣の編成において、この2党がエネルギー政策でどのような合意に至るかに注目が集まってきた。


【 この合意についての食い違う解釈? 】

社会民主党と環境党の合意内容はこの記事の最初に示したとおりだが、この合意が記者発表された後、環境党党首のオーサ・ロムソン「安全基準が厳しくなり、核廃棄物基金への課徴金も引き上げられれば、いくつかの原子炉では収益が上がらなくなるため、今後4年間で少なくとも2基が閉鎖に追い込まれるだろう」とコメントした。

一方、社会民主党の党首で、新政権の首相となったステファン・ロヴェーン「原発については現状維持(status quo)だ」とコメントした。

んっ、この2党の解釈が異なるのではないか!? 野党となった中道保守陣営はその「不協和音」をすかさず指摘し、今回の合意を激しく批判した。

まず、原発推進の先鋒に立つ自由党の党首ヤーン・ビョルクルンドは、「この2党のエネルギー合意は ”メルトダウン” で幕を開けた。それぞれの党首の言っていることは意味が分かるが、その2つを合わせると全く意味不明だ」と冷やかした。また、中道保守陣営における ”環境党” として、環境党に激しいライバル意識を持っている中央党の党首アンニー・ローヴ「この2党がまずすべきことは、何について合意したのかをまず合意することではないか? それがなければ、私たちは今回の合意をまともに相手できない」と批判した。


【 経済合理性の判断に働きかける脱原発のやり方 】

しかし、エネルギー政策をめぐるこれまでの議論を詳しく知っていれば、環境党の解釈も社会民主党の解釈も正しいことが分かる。

2009年の4党合意が画期的だった点は、政治決定ではなく市場メカニズムに基づく経済合理性の判断によって脱原発を実現していくことを明確にしたことだった。政治の役割は、エネルギーを取り巻く市場ルールを作ること。具体的には、しっかりとした安全基準を策定し、核廃棄物の処理などを含む、あらゆるコストを電力会社にきちんと負担させるための制度や、再生可能エネルギーへの市場ベースの補助制度を作ることである。各電力会社にはその枠組みの中において自由にプレーしてもらい、原発が経済的に割に合うと思うならば今後も運転を続けたり、既存原子炉を新しく建て替えることも認めるし、一方で、再生可能な電力のほうが経済的にお得だと電力会社が思えば、そのような発電形態への投資が増えていくことになる。

電力会社が本当に脱原発の方向へ動いていくという保障はないが、電力価格の動向、電力需要の動向、再生可能エネルギーや省エネの技術革新、原発に対する安全規制強化など、現在の電力市場を取り巻く様々な条件を鑑みれば、長期的には原発が市場から淘汰されていくのは時間の問題だという見方は、4党合意の策定に携わった人々の多くが共有するところである。その意味において4党合意は、原子力を「過渡的なエネルギー」と位置づけたのである。

ちなみに、市場の経済メカニズムに任せる脱原発の手法は、一部の急進的な反原発団体などは「手ぬるい」と感じているかもしれないが、スウェーデンの環境保護活動においてメインストリームをなすスウェーデン自然保護協会(Naturskyddsföreningen)は以前からこの方法で脱原発を実現したいと考えてきた、という点は特筆しておきたい。(今回の合意に対しても、大きく歓迎すると、コメントしている)

この団体のブレーンは工学や経済学、生物学、化学などの学位取得者や専門家からなっているため冷静な議論ができるし、経済メカニズムをうまく活用するための発想がきちんとあり、そのような議論をし易いことが一つの理由であろう。

もう一つの大きな理由は、政治決定による原子炉閉鎖の場合、その決定がなければ電力会社が手にしていたであろう将来利益の損失分を国が賠償しなければならず、国や納税者に大きなコストが掛かってしまうことである。スウェーデンは1999年と2005年にバーシェベック原発1・2号機政治決定により閉鎖したが、その際に国は電力会社に対し、損失分を賠償している。(ドイツのことはよく分からないが、同様の賠償請求が電力会社からなされているのであろう。) これに対し、電力会社が経済的判断に基づいて自分で原子炉を閉鎖すれば、国にはそのような賠償義務が生じない


【 政党間の対立点は実はあまりない 】

以上のことを踏まえた上で、今回の社会民主党と環境党の合意の各点を順番に見ていけば、その大部分はあくまで2009年の4党合意を踏襲したものであるし、この合意によってスウェーデンのエネルギー政策が大きく変わるわけではないことが分かる。


(1) 原発は、その社会経済的コストのより多くの部分を自ら負担すべきである。安全基準を強化するともに、核廃棄物処理基金への課徴金を引き上げる。

これは、今回の合意がなくても実行されていたことである。というのも、福島原発の事故を受けて、EUは加盟国内にある原発のストレステストを行ってきた。そして、安全性を高める一つの方法として、例えば、系統から独立した電源によって機能する炉心冷却システムをすべての原発に備え付けることが決定し、原発を所有する電力会社は多額の費用負担を余儀なくされることとなった。

また、使用済み核燃料の処理に掛かる費用を賄うため、これまで各電力会社は原発の発電量に応じた課徴金を核廃棄物処理基金に支払ってきたが、その課徴金の額が少なすぎるために、将来の処理費用をその基金ですべて賄いきれないという問題が以前から指摘されていた。そのため、スウェーデン放射線安全庁は、発電1kwhあたり2.2クローナという現在の水準を3.8クローナに引き上げるべきだ、という提案をすでに政府に行っている。(環境党が主張している引き上げ幅もこの放射性安全庁の提案に則したものである。)

さらに、事故が起きた際に電力会社が負う責任の上限が、これまでスウェーデンでは一基あたり30億クローナ(約450億円)に設定されてきたが、EU加盟国の中には無限責任を規定している国も多く、スウェーデンもそれに倣うか、もしくは上限をもっと高くすべきだという意見は省庁の専門家などから既に上がっていた。(だから、今回の合意がなくてもそれが実行された可能性はあった。一方で、そのような提案がなされても中道保守政権のもとではそれが実行に移されないケースはあった。新政権は庁からのそのような提案はきちんと実行するつもりのようだ)


(2) 再生可能な電力の発電量をさらに増やし、2020年までにその年間発電量を少なくとも30TWhに到達させる。2030年までの目標も新たに設定する。再生可能な電力の発電のための技術中立的な証書システムをこの目的のために活用する。それに加えて、海上風力発電や太陽光発電への支援も必要となる。自家発電を、容易で割に合うものにする。

2009年の4党合意に盛り込まれた、再生可能な電力(既存の水力発電を除く)の発電量目標は「2020年までに25TWh」というものであったから、それを若干引き上げたことがわかる。ちなみに2013年の時点の実績値は18TWhである。これは主にバイオマス燃料を利用したコジェネ発電と風力発電による。

また、「技術中立的な証書システム」とは、2003年から運用されている「グリーン電力証書システム」(電力小売向け再エネ購入割当制度)のことである。新政権は、そこで設定されている購入割当率を若干引き上げて、2020年までに30TWhという目標を実現させたいつもりのようである。

「海上風力発電や太陽光発電への支援」とは補助金などの経済的な支援ではなく、認可プロセスや系統接続・買い取り制度などの部分での制度改善のことを言っていると思われる。経済的支援はあくまで技術中立的なものに限り、発電形態別に水準を変えるというやり方はしないからである。


(3) 国営電力会社ヴァッテンファル(Vattenfall)とその経営を国がしっかりと管理し、再生可能エネルギーの割合を高めるためのエネルギーシステム転換を、この会社がリードしていくように促す。ヴァッテンファルが計画していた新たな原発の建設準備は中断させる。

今回の合意の中で、目新しい点はこの項目だろう。大手電力会社であるヴァッテンファル国が全株式を所有する国営企業であるものの、株主としての国からの指令は「毎年、一定の利潤率を達成し、国に配当をもたらすこと」であり、それ以上の細かいコントロールは基本的に行ってこなかった。だから、ヴァッテンファルの経営は民間会社とほとんど変わらず、ヨーロッパの他の国の電力・エネルギー市場にどんどん進出し、石炭火力発電などにも手を染めたり、リスクの高いオランダの電力会社の買収で巨額の損失を出し、スウェーデン国内でも大きな批判を浴びてきた。今回の合意では、その批判に応えるために株主である国が、毎年発する指令を通じてヴァッテンファルの経営をコントロールし、環境に負荷をかけるような投資はせず、再生可能エネルギーの普及を推し進めていくように促していくことが盛り込まれたのである。

また、ヴァッテンファルは電力集約型産業とともに、原発の新規建設(更新)のための費用計算や建設準備などを始めていたが、それも国が株主としての権力を発動して中止させるということである。

ただ、ヴァッテンファル以外の他の電力会社が原発を建設することに対しては、今回の合意はストップを掛けていないため、2009年の4党合意通り、「更新ならOK」という方針が維持されている。


(4) エネルギー政策を超党派で議論するためのエネルギー委員会を設立し、長期的に持続可能なエネルギー政策合意を策定する。

(5) 新政権は、原発を再生可能エネルギーとエネルギー効率化(省エネ)によって代替していくことを、その委員会での議論の出発点とする。

この2点は、2009年の4党合意に代わる新たな合意を左派・右派をまたいだ超党派で策定したいということだ。ただ、既に完成度の高い合意がある今、果たして新たな合意の必要があるのか?という疑問を持つ人も多いだろう。また、「原発を再生可能エネルギーとエネルギー効率化(省エネ)によって代替していくこと」は4党合意の土台でもあったから、新しいことではない。


だから、2009年の4党合意と比べて、新しいニュースは(3)を除いてあまりない。その意味で、社会民主党のいう「現状維持(status quo)」というコメントは正しい。また、今回の合意があろうとなかろうと、原発の安全基準は引き上げられ、核廃棄物処理基金への課徴金も引き上げられる可能性は高かったから、原発の運転コストは今後大きく上昇していくと見られているうえ、スウェーデンでは電力の過剰生産が近年続いており電力価格は低迷しているため、原発の経済性がますます低下している。今後4年間で少なくとも原発2基分の過剰生産になるとも見られている。そのため、環境党のいう「今後4年間で少なくとも2基が閉鎖に追い込まれるだろう」という解釈も間違いではない。

結局、自分たちの支持者に対して、「もう一方の党に妥協せず、自分たちの主張を貫いた」ということを示したいために、それぞれポーズが異なるのだが、もともと主張に大きな食い違いがないため、同じことを言っているにすぎないのである。

ちなみに、原発の不採算性については、今回の合意が発表される1・2週間ほど前に、スウェーデンの高圧送電線網管理庁の長官(Mikael Odenberg・穏健党の元国会議員)がメディアでそれを指摘し、話題になった。スウェーデンの原発は発電量を引き上げるために、2000年代に多額の費用をつぎ込んで出力上昇工事を行ったが、現在は電力価格が低迷し、採算が取れずに困っているし、EUの安全性基準が高まれば更に大きな投資を余儀なくされる、と指摘したのである。また、計画から建設完了までに15年、運転に60年、さらに解体に20年、合計100年近くかかるため、一般の企業の投資計画からすれば長すぎ、抱えるリスクも大きい。そのため、彼は「原子炉の新たな建設はユートピア(夢物語)だ」とコメントした。

また、今回の合意が発表された日の前日は、スウェーデン国内にあるオスカシュハムン原発が2012年、2013年と多額の赤字を計上した、というニュースが流れていた。

だから、今後4年間、もしくは遅くとも2020年までに複数の原子炉が経済的な理由から閉炉に追い込まれる可能性は高いであろう。


【 産業界の反応 】

最後に。今回の合意に対する産業界の反応だが、企業連盟電力集約型産業の業界団体、そして電力会社ヴァッテンファルが予想通り、大きく反発した。「原発が閉鎖されれば、スウェーデンの基幹産業が危機に追い込まれる!」というものだ。

しかし、面白かったのは、メディアのインタビューで当初は激しく反発していたヴァッテンファルの社長が、その合意内容に詳しく目を通したあとで、別のインタビューを受け、「最初に思ったほど危険なものではないようだ」と答えていたことだ(笑)。2009年の4党合意とほとんど内容が変わっていないのだから、当然であろう。

ただ、産業界としては、市場不確実性の高い原発の新規建設に、国が公的資金を投じたり、信用保証などを通じて支援をしてくれることを長い間、期待していたようだが、その夢が2009年の4党合意で既に遠いものととなっていたところに、今回の合意でさらに遠のいてしまったことが、今回の反発と落胆の背景にあるようである。

列車の到着にあわせて動く広告

2014-10-09 20:02:08 | コラム
思わず「あっ」と声を上げ、その後、そのアイデアにとても感動してしまった動画。

ストックホルムの地下鉄駅では、今年の春、ホームに入ってくる列車に合わせて動く広告塔が登場し、話題を呼んだ。

最近、それを真似た新たな広告が登場したのだが・・・。今回は何かが違うのである。




あっ、と驚くおじさんの表情が印象的。

社会民主党・環境党連立、ロヴェーン内閣の発足

2014-10-05 02:03:55 | 2014年選挙
10月2日にスウェーデン議会において首相の選出が行われた。社会民主党の候補のステファン・ロヴェーンに対し、社会民主党と環境党の議員は賛成票(132票)、極右のスウェーデン民主党は反対票(49票)を投じ、残りの議員、つまり右派ブロック4党+左党の議員は棄権(154票)した。首相選出では、反対票が過半数(175)を上回らない限り、その候補者の首相就任を阻止することはできないため、ステファン・ロヴェーンは無事、首相に選ばれることになった。

そして、その翌日には閣僚が発表され、新内閣が発足した。


社会民主党と環境党からなる連立内閣であり、環境党は初めて入閣を果たした。閣僚ポストは24と通常より若干多い。省の数は首相府を含め12だが、主要大臣の他に担当大臣が設けられてる省も多い。

エネルギー担当大臣というポストがあるが、これは産業省ではなく、環境省に属しているところが興味深い。スウェーデンではエネルギー問題は少し前から環境省に移管された。

閣僚の数は、社会民主党が18人環境党が6人。この2党の得票比率は82:18なので、それを24の閣僚ポストに単純に当てはめれば、社会民主党が20ポストを取ってもおかしくなかったが、環境党に少し配慮する形となった。

閣僚の男女数は完全に半々。つまり、男性12人、女性12人。また、外国のバックグラウンドを持つ閣僚が5人もいる。スウェーデンが様々な背景を持つ人々からなる多文化社会であることを考えれば、これは素晴らしいことだと思う。

(スウェーデンでは「移民」という表現が近年、ますます使われなくなっている。外国生まれであったり、外国生まれの親の子供であってもスウェーデン国籍を持つ人はたくさんいる。だから、「外国人」などという呼び方は間違いであるし、「移民」という過去の一時点の出来事のレッテルをその人にいつまでも貼る続けるのはおかしいと感じる人も多いからである)

スウェーデン史上最年少の閣僚も誕生した。高校・知識向上担当大臣に任命された Aida Hadžialić(アイーダ・ハジアリッチ)27歳の女性。しかも、彼女はボスニア・ヘルツェゴヴィナの出身で、ユーゴ紛争・ボスニア戦争の際に本国を追われ、5歳の時にスウェーデンに難民として受け入れられた過去を持つ。最年少・女性・難民という、注目を集めそうなキーワード満載の政治家の大臣起用だが、話題作りを目的とした入閣かといえば、必ずしもそれだけではない。彼女は、法学部を出て法律専門家の学位jur kand(スウェーデンに司法試験はないがそれに準ずるもの)を取得しているし、若い時から市政に関わり、2010年に23歳の若さでハルムスタード市の市行政執行部(市の内閣に相当)のメンバーに選ばれているから、経験も評価されたのだと思う。

20代や30代の閣僚は彼女を含め、全部で5人(うち社会民主党は4人)だ。1996年から2006年まで社会民主党の首相だったヨーラン・パーションは、自らに権力とメディアのスポットライトを集めることに必死で、若手の社会民主党議員の育成に力を注がなかった。この点は、彼の前任者であるオーロフ・パルメイングヴァル・カールソンとは大違いであり、大きく批判された。そして、ヨーラン・パーションが2006年に退陣した後、社会民主党は党を引っ張っていける後継者探しで頭を大きく悩ます結果となった。だから、今回の新内閣はその反省も踏まえて、若手を積極的に起用しながら経験を積ませて育てていこうという意欲が感じられる。

私にとって一番の驚きだったのは、環境党のIsabella Lövin(イサベラ・ロヴィーン)国際援助担当大臣に起用されたことだ。ジャーナリストだった彼女は2007年に水産資源の枯渇と持続可能な漁業の必要性を訴える『沈黙の海』というドキュメンタリー本を出版し、スウェーデン国内で大きな注目を集めた(邦訳は私が担当し2009年に出版)。その後、2009年の欧州議会選挙で環境党から出馬し当選。今年5月の欧州議会選挙でも再当選していた。彼女によると、大臣起用の打診が環境党党首からあったのは先週日曜日のことだったらしく、突然の話に戸惑ったものの、これまでの経験を活かしながら、国際援助担当大臣として自分にやれることはたくさんあると考え、承諾したそうだ(欧州議会では漁業委員会だけでなく国際援助委員会のメンバーでもあった)。

以下は、新しい閣僚の紹介。


【 首相府 】

首相

Stefan Löfven (ステファン・ロヴェーン)
社会民主党 57歳
・元溶接工。金属工・組立工などの労働組合であるIF Metallの代表を2006-12年の間、務めた。
・2012年より社会民主党党首。
・2014年初当選。


戦略・未来問題および北欧協力担当大臣

Kristina Persson (クリスティーナ・パーション)
社会民主党 69歳
・大学ではエコノミストの学位。
・1991-1995年および2014年以降、国会議員。欧州議会議員も1995年の一時期務めたほか、県知事や中央銀行副総裁の経験がある。


【 財務省 】

財務大臣

Magdalena Andersson (マグダレーナ・アンデショーン)
社会民主党 47歳
・財務省の政策秘書や副大臣のほか、国税庁の上級職を務めた経験を持つ。
・ストックホルム商科大学で学び、エコノミストの学位。博士課程に在籍したこともある。
・2012年以降、社会民主党の経済政策スポークスマン。
・2014年初当選。
・夫は経済学者。ストックホルム商科大学 経済学部の教授・学部長


金融市場・消費担当大臣

Per Bolund (パー・ボールンド)
環境党 43歳
・大学では生物学専攻。
・産業省において政治任用職の経験あり。
・2006-2010年および2011年以降、国会議員。
・環境党の経済政策スポークスマン。


民生担当大臣

Ardalan Shekarabi (アルダラン・シェカラビ)
社会民主党 35歳
・イギリス生まれ。イランで育つが、1989年に母親とともにスウェーデンに移住し難民申請。
・法学部卒(jur kand)
・ウプサラ大学法学部で博士課程に在籍し、公共調達の法制度を研究したり、大学講師をした経験あり。
・2003-2005年の間、社会民主党青年部の代表
・2013年以降、国会議員。


【 外務省 】

外務大臣

Margot Wallström (マルゴット・ヴァルストロム)
社会民主党 60歳
・1979年から1985年まで国会議員(25歳で初当選)。
・閣僚経験者。1994-1996年まで文化大臣、1996-1998年まで社会大臣。
・EUの行政府の一つである欧州委員会の委員を1999年から2009年まで2期10年にわたり務めた。
・国連事務総長の特命により、戦争・紛争地域における性的暴力防止活動ための特使に2010年、任ぜられる。
・非国会議員


国際援助担当大臣

Isabella Lövin (イサベラ・ロヴィーン)
環境党 51歳
・ジャーナリスト。2007年に出版した『沈黙の海』で注目を集め、数々のジャーナリスト賞を受賞。
・2009年の欧州議会選挙で環境党から出馬し当選。今年5月の欧州議会選挙でも再び当選。
・非国会議員


【 法務省 】

法務大臣

Morgan Johansson (モルガン・ヨーハンソン)
社会民主党 44歳
・法学部卒(jur kand)。
・1998年以降、国会議員。
・閣僚経験者。首相府の政策秘書や国民健康担当大臣を歴任。


内務担当大臣

Anders Ygeman (アンデーシュ・イューゲマン)
社会民主党 44歳
・1996年以降、国会議員。


【 環境省 】

気候・環境大臣(兼 副首相)

Åsa Romson (オーサ・ロムソン)
環境党 42歳
・2006年からストックホルム大学法学部の博士課程に在籍し、2012年に博士号取得。博士論文のタイトルは”Environmental Policy Space and International Investment Law”。国際投資を規定する国際法や国際貿易協定において、それぞれの国家が環境保全と天然資源の持続可能な活用していく上での法的余地や可能性がどのくらい与えられているかを分析。
・2002-10年はストックホルム市議会議員。2010年から国会議員。
・二人代表制をとる環境党党首を2011年から務める。


エネルギー担当大臣

Ibrahim Baylan(イブラヒム・バイラン)
社会民主党 42歳
・トルコ生まれ。家族は少数民族であるキリスト教系アッシリア人に属していた。1981年にスウェーデンに移住。
・閣僚経験者。2004-2006年の間、学校教育担当大臣。
・2006年以降、国会議員。


【 産業省 】

産業・技術革新大臣

Mikael Damberg (ミカエル・ダムベリ)
社会民主党 42歳
・2002年以降、国会議員。
・社会民主党青年部の代表(1999-2003年)や首相府などの政策秘書を経験。


インフラ担当大臣

Anna Johansson (アンナ・ヨーハンソン)
社会民主党 43歳
・ヨーテボリ市議会議員(市行政執行部)の長い経験。
208年に私が市議会を傍聴した時に乳児を連れて市議会に出席していた議員。
・長い間、ヨーテボリ市長を務めた男性政治家の娘(ただ、2世議員だから入閣したわけではないと思う)


住宅・都市発展担当大臣

Mehmet Kaplan (メフメット・カプラン)
環境党 43歳
・トルコ生まれ。
・パレスチナ問題に対する活動家として知られる(Ship to Gaza)。
・2006-2014年まで国会議員(9月の国政選挙では立候補せず、代わりに市議会選挙で当選)。
・スウェーデン・ムスリム協会のスポークスマンや、スウェーデン・ムスリム青年協会の代表を務めた経験がある。


【 教育省 】

教育大臣

Gustav Fridolin (グスタフ・フリドリーン)
環境党 31歳
・2002年の国政選挙において19歳で当選し、史上最年少の議員となった。国会議員を1期務めたあと、教師やジャーナリストを務めた。2010年の国政選挙で再び議員。二人代表制をとる環境党党首を2011年から務める。


高校・知識向上担当大臣

Aida Hadžialić(アイーダ・ハジアリッチ)
社会民主党 27歳
・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ生まれ。5歳の時、ユーゴ紛争のため難民としてスウェーデンへ逃れる。
・ルンド大学 法学部卒(jur kand)
・2010年、23歳の若さでハルムスタード市の市行政執行部(内閣に相当)のメンバーに選ばれる。
・今回も史上最年少で閣僚に。
・非国会議員


高等教育・研究担当大臣

Helene Hellmark Knutsson (ヘレーン・ヘルマルク・クヌートソン)
社会民主党 46歳
・ストックホルム県議会議員(県行政執行部)を務めてきた。
・非国会議員


【 労働市場省 】

労働市場大臣

Ylva Johansson (イュルヴァ・ヨーハンソン)
社会民主党 50歳
・数学の教師。
・1988-1991年、および2006年以降、国会議員。
・閣僚経験者。学校教育担当大臣や医療・高齢者福祉担当大臣を歴任。
・社会民主党の労働市場問題のスポークスマンを務めてきた。


【 文化省 】

文化・民主主義大臣

Alice Bah Kuhnke (アーリス・バ・クンケ)
環境党 42歳
・母がスウェーデン、父がガンビア出身。
・子供向け番組やトークショーの司会などテレビで活躍したほか、フェアトレード認証団体の代表やCSRの活動などを行ってきた。
・前職は、青少年庁の長官。
・非国会議員


【 防衛省 】

防衛大臣

Peter Hultqvist (ペーテル・フルトクヴィスト)
社会民主党 55歳
・ジャーナリストや市会議員(市行政執行部メンバー)、市長を経て、2006年から国会議員。
・社会民主党の防衛スポークスマンを務めてきた。


【 社会省 】

社会保険大臣

Annika Strandhäll (アニカ・ストランドヘル)
社会民主党 39歳
・ヨーテボリ大学で心理学を学ぶ。
・ヨーテボリ市の職員や労働組合の幹部や代表を務める。
・非国会議員


子供・高齢者および男女平等担当大臣

Åsa Regnér(オーサ・レグネー)
社会民主党 50歳
国連機関 UN Womenのボリビア支部長をこれまで務める。
・スウェーデン性教育協会の代表や、首相府・法務省・国際援助庁・労働市場庁の職員、労働組合の職員などを歴任。
・非国会議員


国民健康・医療およびスポーツ担当大臣

Gabriel Wikström (ガブリエル・ヴィークストロム)
社会民主党 29歳
・2011年以降、社会民主党青年部の代表。若者の立場から、失業問題や住宅問題、教育問題に関する議論に深く関わる。
・非国会議員


【 農林水産省 】

農林水産大臣

Sven-Erik Bucht (スヴェン・エーリック・ブクト)
社会民主党 59歳
・スウェーデン北部のハパランダ市議会議員(市行政執行部)を経験。
・2010年から国会議員。
(注:省の名前を直訳すると「農村省」、大臣名は「農村大臣」)