スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデン環境党の女性党首、晴れて博士号取得

2012-04-22 02:01:45 | コラム
先ほど、Twitterに連投したことをここにまとめておきます。後ほど、もう少し中身を増やすかも。

スウェーデン環境党(緑の党)の女性党首 Asa Romson(オーサ・ロムソン)は40歳(環境党は二人党首制でもう一人は男性)。2000年代半ばからストックホルム大学法学部の博士課程に在籍し、昨年党首に就任(2002-10年はストックホルム市議会議員、それ以降国会議員)。一昨日、論文ディフェンスを行い、博士号取得。

博士論文のタイトルは”Environmental Policy Space and International Investment Law”。環境保全と天然資源の持続可能な活用のために、多国間投資を規定する国際法が個別の国家にどのような可能性や余地を与えているかを分析。

スウェーデンでは地方議会はほとんどが兼職議員なので、博士課程の研究生が議員、というパターンも珍しくない。さすがに国会議員になると兼職は難しいので、彼女は論文の目処をつけて10年総選挙で国会議員、そして、その翌年に党首に。アカデミックな知識と思考を持つ党首に期待。

博士号を持つ国会議員は珍しくはないだろうが党首となると例が少ない。例えば、国際貿易論の比較優位・国際分業で知られるヘクシャーとオリーンは、それぞれ保守党と自由党の党首だった。また、ユーロ懐疑派の経済学者は2004年に小政党の党首。欧州議会で議席獲得するが国政選挙は失敗。


女性党首オーサ・ロムソン
(ディフェンスの写真ではなくて国会での論戦の時の写真。彼女は「ディフェンス」よりも現政権をずばずばと追い込む「オフェンス」が似合っている)

ノルウェーのテロ事件の裁判についてのメモ

2012-04-16 23:01:16 | コラム
ノルウェーのオスロ官庁街とウトヤ島で昨年7月に起きたテロ事件の裁判が始まった。ノルウェーの史上、最大となる裁判だ。世界中からメディアが駆けつけ、日本でも伝えられていると思うので詳しい話は書かない。

主にラジオで中継や報道を聞きながら、メモしておきたいと思ったことだけ書く。

負傷者・生存者のほとんどは10・20代の若者。中には裁判を傍聴している人もいるが、世界中から駆けつけた多数のメディアが彼らを待ち構え、彼らにコメントを求めようとすることは容易に想像できる。生存者や遺族にとって非常に辛いことだろう。だから、裁判所はインタビューに応じたくない人に「No interviews, please」と書かれたバッジを胸に付けてもらい、メディア関係者にはその意思を尊重するように呼びかけているという。



・長期にわたるこの裁判を傍聴する生存者や遺族のために、彼らの心理的・精神的サポートを目的としたカウンセラーが裁判所に多数配置されている。

・この裁判のニュースは本国ノルウェーでは当然ながらトップニュースとして扱われ、詳細な報道がなされているが、事件から今日までの9ヶ月間にメディアが何度も伝えてきた話題であるから、もう聞きたくないという人もいるだろう。特に、遺族や生存者の中には裁判のニュースを一切見聞きしたくない、という人もいると思われる。そんな人のために、ある新聞社は自社のウェブ上のニュース・サイトのはじめに「7月22日事件の関連ニュースは表示しない」というアイコンを設けている。このアイコンを押せば、それ以外のニュースだけが表示されるようになる。実際に試してみると、トップニュースが「アメリカとメキシコ国境の密輸」に関するルポタージュに変わったという。新聞社は「読者に自由選択の権利があるから」と説明する。

・裁判は各国のメディアが詰めかけ、世界中に大々的に報道されている。まるでサーカスか劇場のようだ。こうして、世界中の注目の的になることは、むしろテロを通じて自身の政治的イデオロギーを世間に発信したかった容疑者の思う壺ではないか、という批判もある。ある遺族もそれは望ましくない、と口にしていた。これは私もそう思う。密室で行うのではなく、メディアを交えた公開の場で行うことの意味はあると思うが、撮影の制限などはもっとあっても良いのではないかと感じる。難しいところだ。

・一方、印象的だったのはスウェーデンの公共テレビが「法廷ではこれから数日にわたって容疑者が自ら発言する機会を与えられ、注目も浴びるだろうが、どう思うか?」と尋ねたときの答えだ。質問を受けたのはある父親で、二人の子どものうち一人を失い、もう一人が負傷したが「それは嫌なことだけど、民主主義の基本だから仕方がない」と答えていたことだ。容疑者であっても発言の機会が与えられるのは当然のことなのだけど、民主主義、という言葉が改めて身に染みた。

動画:傍聴する生存者のインタビュー(英語):画像をクリックして再生

「(ノルウェー史上稀で多数の犠牲者を生んだ事件だが)この裁判はできる限り通常の手続きに則って行われるべきだ。私たちの社会の基礎をなす法治国家の原則をこの裁判でも貫くべきだと思う。」

昨年7月のノルウェー無差別テロのルポタージュ: 人生を大きく変えたあの瞬間

2012-04-15 01:15:15 | コラム
ノルウェーのオスロ官庁街とウトヤ島で昨年7月に起きた無差別テロの裁判が月曜日から始まるのを前に、今日(土曜日)のスウェーデンの日刊紙は大きなルポタージュを掲載している。オスロの官庁街に仕掛けられた爆弾の爆発直後に撮られた写真が、事件の生々しさを伝えている。



写真に映っているのは、男性を抱えながら携帯を手にする女性。二人は実は夫婦だ。

事件の当日は、この夫婦は息子の家で一緒に夕食を食べる予定だった。夫は自宅を出て、法務省に勤務する妻を迎えに車で官庁街へやって来た。金曜日だったので、妻は早めに職場を後にするつもりで、夕方3時半に落ち合う約束をしていた。少し早く着いたので、しばらく官庁街の付近を車で走って時間つぶしをした後、官庁街のいつもの場所に車を止めて、外に出た。爆発が起きたのは、その数秒後だった。爆風でなぎ倒された。「建物全体が大きく浮き上がったようだった。地上に倒れ伏したとき、とっさに頭をよぎったのは妻のことだった。ああ、巻き込まれてしまったかもしれない。妻を失ってしまったかもしれない、と思った」

一方、妻はこの日、法務省の地階にある書庫で書類を探していた。しかし、いつまで経っても見つからない。仕方なしに、建物の12階にある自分のオフィスに戻って、再び検索を行っていた。そのとき、大きな爆発音とともに建物が揺れた。地階の書庫は大破し、あのままあの場所にいたら生きていなかっただろう。「爆発の後、とっさに考えたのは夫のことだった。建物の外で私を待ってくれているはずだったが、大丈夫だろうか」

彼女が一階に降り、建物から飛び出すと、夫は血を流しながら法務省の入口下の階段で横になっていた。爆風で倒された場所から、肘を付いて這ってきたようだった。付近にいた警官が既に応急処置を施していた。この警官はベルゲンの警官だったが、休暇中でたまたまオスロにおり、官庁街にいたときに事件に遭遇した。妻は「夫が一命を取りとめたのは、この警官のおかげだったと思う」と語る。妻は負傷した夫を抱きかかえ、救急車が来るまでの間、必死に励まし続けた。

その間、自分たちの写真を撮るカメラマンがいることに気づいた。夫は、その時は良い気分がしなかった、と振り返る。しかし、時間が経つにつれ、あの時の状況を記録に収める人がいてくれたのは良かったと思うようになった、と語る。

夫は爆発で飛んできた4cmの金属片が鼻から目の近くまで深く突き刺さり、脳まであと数mmの所に達していた。顔全体が打撲し、胸に突き刺さった金属片は心臓まであと僅かの所で止まっていた。右足は数度にわたる手術の甲斐なく義足になった。現在は理学療法士の下でリハビリを続けている。車を再び運転できるようになるのが目標だという。同じリハビリセンターでは、彼と同じようにあの日、負傷しながら幸いにも一命を取りとめた人達がリハビリを行ってきた。

写真:Dagens Nyheter

ストックホルムでも広域処理(でも、イタリア・ナポリのゴミの受け入れ)

2012-04-07 19:27:10 | コラム
先日、帰宅途中にラジオでニュースを聞いていたら、ゴミの広域処理の話をしていたので、「うん? 日本のことか?」と思ったら、イタリアで処理に困っている大量のゴミをストックホルムの電力・エネルギー会社が引き受ける、というニュースだった。

イタリアのナポリでは、マフィア・カモッラが金儲けのためにゴミ処理事業に関与し、それがうまく行かなくなり大量のゴミがナポリの路上に放置されるという大問題が近年発生した。現在は行政が動き出し、ゴミ処理がうまく行われるように努力しているところだというが、貯まりに貯まったゴミの処分を行おうにも、埋立て処分場が一杯で引き受けてもらえるあてがない。このままでは、いい加減な形で処理されてしまう恐れもある。


そんな問題に目をつけたのが、ストックホルムゴミ焼却によるコジェネ発電施設を持つフォートゥム(フィンランド系電力・エネルギー会社)だ。この会社が持つゴミ焼却施設は、スウェーデンにある他の大多数のゴミ焼却施設と同じように、まず発電を行い、残る排熱を利用して温水を作り、オフィスや家庭に配給している。オフィスや家庭では、この温水を使って、暖房や台所、浴室の温水に活用する。

さて、このフォートゥムという企業だが、ナポリから6000トンのゴミを輸入し、自分達の施設で処理することを発表した。「イタリアで、きちんと処理が行われるのかが保障できず、環境汚染への懸念があるのであれば、きちんと管理された我が社の施設で焼却処分したい」というのが、理由の一つだ。

しかし、それ以上の狙いは、おそらく貴重な熱源を安価に確保することではないかと思う。スウェーデンでは特に冬場に暖房のための熱需要が大きく、ゴミ焼却によるコジェネ発電施設では「燃やすためのゴミ不足」が生じているところもある。一方、基本的に焼却できるのは分別済みのゴミなので、「ゴミ不足」だからと言ってリサイクルに回せる資源ゴミまで焼却炉に放り込むわけには行かない。その結果として、国全体で年間、実に80万トンものゴミを他国から輸入している。だから、今回の6000トンという量はその1%にも満たない。

ゴミにどんなものが含まれているのかを、きちんと把握した上で引き受けるつもりなのか?という公共ラジオ局の質問に対し、フォートゥムの担当者は「安全な可燃物であるかどうかは、イタリアの現地でも確認するし、受け入れ後にストックホルムでも確認する。中身の管理が不十分だということが明らかになれば、契約を打ち切るつもりだ」と答えている。

今ホットな職業訓練: 風力発電のメンテナンス技術者養成コース

2012-04-01 15:01:48 | コラム
以前に職業訓練の一つの例として、携帯やパソコン、Ipadなどのアプリを作るプログラマーを養成する職業訓練があり、大成功しているという話を紹介したことがある。

<過去の記事>
2011-02-18:企業・市場の要望に柔軟に対応する職業訓練プログラム

これと同じくらい、スウェーデンで今熱い職業訓練は風力発電のメンテナンス技術者養成コースだ。

スウェーデンの風力発電の発電所の数、および発電量をみると、ここ3年の間に指数関数的に急上昇していることが分かる。2008年2.0TWhであった年間発電量は2009年2.5TWh2010年3.5TWh、そして2011年には6.1TWhへと上昇。10年から11年にかけての上昇率は75%にもなる。

この背景には、クローナ高や技術進歩による部品の価格低下、長い手続きの末に建設認可を得た発電所が次々と完成し稼動開始していること、消費者や電力会社の風力発電に対する高まる関心などがあげられる。また、国の再エネ電力に対する経済的支援の効果も大きい(発電量1kWhあたり約2円強)。

現在、建設中のプロジェクトに目を向けると、スウェーデン北部の森林地帯ではヨーロッパ最大の風力発電所が建設中だ。1100基の風車を2020年までに建設するという10年がかりのプロジェクトであり、投資額は総額約8400億円。設置出力の合計は4GW(400万kW)。完成すると年間12TWhの発電を行う予定だという(つまり、2011年の風力発電量の2倍。ちなみに、平均的な原発(100万kW)の1基あたりの発電量は約7-8TWhほど)。


この地図は東西(左右)が45km。点の一つひとつが風車。


しかし、風力発電所の数の急激な伸びに対して、必要とされる労働力が追いついていない。新規発電所の建設に必要な技術者もさることながら、稼動後の保守やメンテナンスを行う技術者の数が足りないために、風車が故障しても修理までに待たされるという事態も実際に発生している。

だから、風力発電を推進する自治体や、風力発電所を実際に所有していたり域内に持つ自治体の中には、国の定める職業大学の制度を使って、風力発電のメンテナンス技術者の養成に取り組むところが増えている。失業者のみを対象とした短期の職業訓練(いわゆる積極的労働市場政策)ではなく、2年間の勉学を必要とする教育課程だ。終了後は就職がほぼ保証されているため人気が非常に高く、ある自治体の養成コースには35人の定員に対し200人ほどが応募するなど、競争率がかなり高い。学生の中には、高校からそのまま進学する人もいるし、別の仕事に就いていたものの将来性のある風力発電業界への転職を考える人や、失業を契機にこの道に進もうとする人もいる。


20代から30代後半までいろいろ。女性の姿もある。
出典:スウェーデン・ラジオ

大規模な風力発電所はスウェーデン北部の過疎地域に集中しているため、地元自治体としては風力発電所の建設とその後のメンテナンスで雇用の機会を確保したい。しかし、現状では労働需給のミスマッチが生じている。だから、必要とされる技術者の養成にも躍起になっている。風力発電業界の予測によると2020年までに国内で12000-14000人の風力関連の雇用(メンテナンス技術者を含む)が生まれるだろうという。この半分以上はおそらくスウェーデン北部での雇用となるだろう。

学ぶ学生の側も地元の人が多い。安定した職につながるという期待だけでなく、身につけた技術を使って国外で働く可能性も開けてくるためだ。教育では、陸上風力とともに洋上風力の発電所についても学ぶ。2年間の教育課程のうち、3割近くは実際の企業による実地研修だという。ここで、企業・業界との接点が生まれ、コース終了前から就職が決まる人がほとんどのようだ。

風力発電のメンテナンス技術者を養成する最初の職業訓練が2006年に始まって以来、今では国内10数か所で同様の教育が行われている。また、職業大学(2年課程)だけでなく、一般大学でもよりレベルの高い風力発電技術者の養成が行われている(例えば、風力技術の修士課程など)。