スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

沿岸部・内陸部の原発がそれぞれ抱える様々なリスク

2011-05-30 01:23:24 | コラム
原子炉の冷却には大量の水が必要であるため、原子炉の多くは海に近いところに建てられているが、他の原発でも津波などの自然災害を受けたことがあるようだ。

例えば、2004年12月のインドネシア・スマトラ島沖での大地震に伴う津波では、マドラスにあるインドで2番目に大きな原発が浸水などの被害を受けたそうだ。しかし、電気系統を制御する設備は原子炉よりも高い場所に設置されていたために、原子炉の運転が停止し、その後の冷却もうまく行われた。

1992年にはアメリア・フロリダ州のビスケーン湾(Biscayne bay)の原発が、ハリケーン「アンドリュー」によって大きな被害を受けたものの、システムの根本の部分は無事であったため、大事を免れたという。

イギリスを始めとする他の国でも、海の近くに建てられた原発は、海抜からわずか数メートルの場所に設置されていることが多く、気候変動によって嵐やハリケーンなどの頻度が高まったり、海面上昇が顕著となっていけば、浸水などのリスクも必然と高くなるだろう。

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では、内陸に建てられ、河川や湖沼の水を冷却水として使用している原発はどうだろう? たしかに、海岸部の原発が抱えるようなリスクは少ないが、別の問題も抱えている。私がまず考えたのは、万が一、放射性物質が漏洩し、それが温排水を通じて外部に垂れ流れてしまった場合に、下流域の広い範囲が汚染される可能性があるということだ。

しかし、実際にはそれだけでなく、気温が高いときには冷却水が十分に確保できないという問題もあるようだ。気温が高くなれば当然ながら冷却水として使うための河川・湖沼の水温が高くなるため、原子炉から発生する熱量は同じでも、冷却のためにより多くの水が必要になる。内陸部に原子炉をたくさん保有するフランスでは、淡水の取水量の実に半分が原発の冷却を目的としたものであるという。世界の一部の地域では、温暖化や人口増加、工業化などによって淡水が枯渇しつつある地域もあるが、そのような地域では水の奪い合いが加速しかねない。


ヨーロッパにある原子力発電所の多くは内陸部に建設されている

ヨーロッパでは2003年夏、気温が異常に高い日が続き、暑さのために多くの死者が出る事態となった。この時、フランスの原子炉のうち17基では、冷却水として取り入れる河川・湖沼の水温が上がりすぎ、原子炉を十分に冷却できなくなったために、原子炉の出力を低下させたり、停止したりする措置が取られたという。

2006年夏も異常に暑かったが、この際にも同様の理由でフランスやドイツ、スペインの原子炉の一部で出力が抑制されたり、停止された。また、温排水として河川や湖沼に放出できる水の温度には本来は上限が設けられており、自然界の水温を一定以上うわまわる水の放出はできないことになっているが、この夏は冷却水が十分に確保できなかったために、西欧の一部の国ではその規制からの例外措置が取られ、通常よりも熱い温排水の放出が許されたという。

ヨーロッパも南部のほうに行けば、日本と同様に夏が暑く、エアコンが頻繁に用いられる場所も多いために、電力需要は夏にピークとなる傾向がある(これに対し北欧では冬がピーク)。しかし、上に示した例から分かるように、あまりに暑さが深刻だと、原発が稼動できず、電力需要のピーク時に逆に発電量を低下させるという皮肉な結果となる。

実際のところ、原発への依存率が78%と高く、通常は周辺の国々へ電力を輸出しているフランスも、猛暑だった2003年と2006年の夏は電力を他の国から高額で輸入する羽目になったそうだ。

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夏の暑さに伴って冷却水の確保が困難になるという問題は、河川や湖沼の水を冷媒として使用している内陸部の原発が抱える問題であり、海水を冷却に使用している日本の原発とは状況が異なる。しかし、この話から分かるように、海岸沿いの原発は津波や嵐に伴う浸水などのトラブル、内陸部の原発は冷却水の確保の問題、というように、いろんな問題を潜在的に抱えており、「地震や津波がなければ大丈夫」とは簡単に言えないものだと感じる。


ここで紹介したデータや情報などは
Fukushima blast shows nuclear is not the answer

2011年5月17日 干ばつのフランス 原発停止でブラックアウトの恐れ
2006年7月24日 猛暑のフランス 政府が基準水温を上回る原発冷却水排水を容認
2005年7月12日 フランス 猛暑と干ばつで原発操業停止の恐れ 温暖化が原発利用能力を減らす

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