スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンにおける発電コストの比較

2011-07-29 06:39:47 | スウェーデン・その他の環境政策
異なる発電形態における発電コストの優劣について世界的にも様々な議論があるが、スウェーデンでも新規で発電所を建設した場合の1kWhあたりのコストについて、だいたい3年おきに報告書が発表されている。最新の報告書は今年5月に発表された。作成している機関は「スウェーデン電力研究所」という、電力業界の各社が出資して設立された研究所だ。

ただ、電力業界の各社といっても、日本のように東北電力や東京電力、関西電力など、それぞれの地域で独占を維持している「殿様企業」の集まりではない。ヴァッテンファル、E-on、フォートゥムといった原発を所有・運転している大手電力会社だけでなく、水力発電所しか持たない地方の電力会社や、風力発電所を所有・運転する企業・組合の連合体、発電と暖房用熱水供給を併せておこなっている地方のエネルギー公社ゴミ処理施設で発電する公社など様々だ。そのため、原発一辺倒ではなく、客観的で公平な評価をしてくれることが期待できる。

その報告書で比較されているのは、これから新規の発電施設を建設した場合の発電コストの比較である。既に運転し、減価償却の大部分を終えたような施設の発電コストの比較ではない。電力会社をはじめとする投資主体がこれから新たな発電施設を建設したい場合に、コストの面からどの発電形態を選ぶだろうか?というのが比較の目的だからである。

そのため比較の対象となっているのは、現時点で最新鋭と考えられる発電施設である。詳しくは以下の通り。


【 原子力発電所 】
第3(+)世代と呼ばれ、現在フィンランドやフランスなどで建設が進む、発電出力160万キロワット(kW)の原子炉。発電効率36%。

この報告書の発表は2011年5月である。福島原発の大惨事を受けて、既存および今後建設される原子炉は今まで以上の安全対策が講じられると考えられ、そのためのコストが追加的にかかると見られている。しかし、今回のこの報告書では、そのコストを十分に吟味する時間がなく、今回の調査では加味されていない。(報告書上では、一応「限界的な(=わずかな)上昇に過ぎないと考えられる」としている。)

参考のために、160万キロワット(kW)という規模がどのものかを理解してもらうために、日本にある既存の原子炉と比較すると、福島第一原発の1号機(1971年運転開始)が46万kW、2~5号機(74年~78年運転開始)がそれぞれ78.4万kWであるのに対し、現在建設中の島根原発3号機は137.3万kWである。スウェーデンの既存の原子炉を見てみると、一番小さいものが50万kW、一番大きいものが123万kWである。


【石炭火力発電所】
ヨーロッパで最新の石炭火力発電施設である、発電出力74万kWの発電所。粉末状にした石炭を280気圧・620度の炉で燃焼させる。発電効率は46%。

参考のために、東京電力の常陸那珂火力発電所の1号機(石炭・2003年運転開始)が100万kW。北海道電力の苫東厚真発電所4号機(石炭・2002年運転開始)が70万kW。中国電力も三隅火力発電所(島根県)に出力100万kWの発電機(石炭・1998年運転開始)を持っている。


【天然ガス火力発電所】
発電出力42万kW。発電効率は58%。


【水力発電所】
スウェーデンもかつては100万kW級の大規模な水力発電所を建設したこともあったが、河川の生態系への影響も大きく、今後は新設するとすれば小規模な水力発電所に限定されると考えられている。

そのため、今回の報告書においては、新規建設は5000kWの水力発電所のみが考慮されている。スウェーデンの電力業界の定義では、小水力発電は出力が200kW~5400kWまでのものとされているため、小水力発電に分類されることになる。

それに加え、償却の終わった既存の9万kW級の水力発電所に、大規模な改良・メンテナンスを行って、今後も数十年間使えるようにした場合の、コストについても比較対象としている。


【風力発電所】
洋上の発電所は、以下の2つのケースを対象とする。
・羽の直径が126mで出力5000kWの発電機 × 75基=37.5万kW
・羽の直径が90mで出力3000kWの発電機 × 50基=15万kW

陸上の発電所は、以下の3つのケースを対象とする。
・羽の直径が110mで出力3000kWの発電機 × 20基=6万kW
・羽の直径が90mで出力2000kWの発電機 × 5基=1万kW
・羽の直径が64mで出力1000kWの発電機 × 1基=1000kW

複数の風力発電機を集中して設置すると効率が若干低下する(例えば、1列にたくさんの風力発電機を並べた場合、1基目の羽によって風のエネルギーが少し弱まり、2基目は1基目ほど発電できない)。この報告書では、その影響も考慮に入れた上でコスト計算をしている。


【各種コジェネ発電所】
コジェネとは、発電熱水供給を同時に行う施設である。通常の火力発電では、燃料の持つエネルギーの3割か4割ほどしか電力に変えることができない(ただし上記のように、最新技術を駆使した大型施設であれば5割から6割まで高めることができる)。残りのエネルギーは熱として本来なら煙突から放出されるため、その熱をうまく回収して温水を作り、それを一般家庭やオフィスビルなどに配管を通じて供給し、暖房として使うのである。燃料は石油、石炭、天然ガスやバイオマス、ゴミなど燃えるものなら何でも使える。発電と熱利用を合わせたエネルギー効率は90%を超える。

この報告書では、天然ガスバイオマスを使うコジェネ発電施設について、それぞれ規模の異なる施設の発電コストを比較している。

ゴミを燃料とするコジェネ発電所も調査し、それに加え、ゴミを他国から輸入するケースについても比較している。


さて、結果はどうか?(以下、コストの単位は。もともとはスウェーデン・クローナだったが、私が1クローナ=13円で換算した)

まず、税や補助金を含めない場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)


次に、税や補助金を含めた場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)


参考までに、上記の両方を一つのグラフで同時に示してみます。


このグラフを基にした私なりの考察や、計算に使われている様々な仮定・条件については、次回書くことにします。

ぱっと見て、ゴミ発電(コジェネ)が非常に低コストであることにビックリされる方もおられるでしょう。これは、ゴミ収集のためにスウェーデンの自治体が手数料を住民から徴収しているため、燃料費が実質的に「マイナス」であるためです。

これに対し、輸入ゴミを利用したコジェネ発電は、ゴミを外国から買わなければならないため、発電コストが他の発電形態と同じくらい高くなるわけです。

スウェーデンを訪れるスタディーツアー【8月20日(土)~28日(日)】

2011-07-28 03:06:45 | コラム
更新が滞っていますが、明日くらいに大きな更新をする予定です。(今、更新に使うデータ等を整理しているところです)

今回もイベント案内です。スウェーデンで一緒に活動しているレーナ・リンダルさんやバルブロ・カッラさんの企画したツアーです。



子どもたちに希望を! 新エネルギーに取り組むスウェーデンの人々と出会う旅

■日程
2011年8月20日(土)~28日(日)9日間
■場所
スウェーデン(ストックホルム、ウーメオ、オーベルトーネオなど)

詳しい情報はここをクリック

ツアーで訪れるオーベルトーネオという町は、ドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』に登場した町です。(リンク

日本だけが非核兵器のもとで原発技術開発?

2011-07-18 03:07:35 | コラム
2011年7月17日(毎日新聞)
海江田経産相:インタビュー 菅首相の「脱原発」を批判

「核兵器を持たずに原子力技術を本格開発したのは日本ぐらいなのに人材も育たなくなる」などと述べているが、果たしてそうか? 日本の独自性・唯一性を訴え、「それが廃れてしまう!」と主張することは確かに国民の感情にうまく訴えるが、頭を冷やして事実を吟味する必要がある。

ドイツは核兵器を自前で持っていないが、ジーメンスなどが原子力技術の開発を行い、国内での原発建設を行ってきたし、スウェーデンも国内にこれまで建設された商業用原子炉12基(うち2基は既に廃炉)のうち9基は自国の大手機械メーカーであるASEA(現ABB)の原子力部門であったASEA-Atomが手がけてきた(残りの3基は、アメリカのウェスティングハウスによる)。

スウェーデンも戦後の間もない頃は、東西両陣営の狭間で中立を維持するために核兵器を持つ野望もあったが、60年代に入った頃に既にその路線は放棄。1968年の核拡散防止条約への署名によって完全に終止符が打たれることとなった。

また、日本が「本格開発した」という部分も注意が必要だ。少なくとも当初はアメリカの技術が相当部分を占めていただろうから。


海江田大臣が自分でチェックし確認したことだとは思えないので、おそらく経済産業省のお役人が書いた原稿を読んでいるだけだろう。しかし、官僚機構もときにはタチの悪い広告代理店と化して、自分達の都合の良いように事実を歪めたり、情報を隠したりするから注意が必要だ。鵜呑みすれば、この海江田大臣のように恥ずかしい事態になる。インタビューするメディア側もきちんと勉強して、間違いを指摘して欲しかった。

ヨーロッパの自然エネルギー普及を支える「縁の下の力持ち」

2011-07-15 00:36:44 | スウェーデン・その他の環境政策
EU温室効果ガスを20年までに2005年比で20%削減することを数年前に打ち出した。そして今、ドイツスイスなどは脱原発に踏み切ることを決定した。そのため、風力や太陽光、バイオマスなどの自然エネルギー・再生可能エネルギーの急速な普及と発電量の拡大が推進されていくことになる。

しかし、この動きに対する懐疑派の批判の一つは、「発電量が安定しないから、風が吹かない間や太陽が照らない夜間の発電量を補うために火力発電などによるバックアップが必要となり、温室効果ガスの排出がむしろ高まってしまう」というものだ。スウェーデンの原発推進派の自由党議員もこの点を何度も取り上げて、自然エネルギーを批判してきた。

このような指摘に対しては、例えば、スマートグリッドの発達によって複数の自然エネルギー発電所や蓄電池、電気自動車を相互に連結させて、電力供給を安定させる、といった解決策が考えられる。しかし、それ以上にもっと大きな解決策となりうるのは、水力発電所である。

水力発電所にも、流入式貯水式揚水式など様々なタイプがあるが、貯水式や揚水式であれば、水の流れを調節することで発電量を上下させることができる。さらに、揚水式であれば電力が比較的豊富にあるときに他の発電所からの電力によって水を上方に汲み上げて、必要なときに水を流し発電を行うことができる。

一般に「電気は貯めることができない」と言われるが、蓄電池(バッテリー)以外にもこのように水力発電所を活用することによって「位置エネルギー」として「電気を貯める」ことが可能だ。その結果、自然エネルギーの発電量の変動に合わせて、全体としての発電量を一定に保つことができるし、需要側の変動にも対応することができる。


最後に示すリンクにある動画より

スウェーデンに目を向けてみよう。スウェーデンは、国内の発電量の50%弱が水力、37%が原子力、7%がバイオマス、2%が風力であり、化石燃料に頼る部分はわずかでしかない(2009年実績)が、一日および一年を通しての需要変動(つまり、昼間は電力需要が高く、夜間は低いし、寒い冬場は電力需要が高く、夏になると電力需要は低い)に合わせて発電量を調節しているのは主に水力発電である(これに対し、ご存知のように原子力発電は発電量の細かな調整が難しい)。

今後、スウェーデン国内でも風力発電が大幅に伸びていくと予想される中、発電量の変動に対するバックアップとしての機能も水力発電が担ってくれると期待されている。もちろん限度はあるが、風力発電がスウェーデンの電力需要の20%くらいを占めるようになるくらいまでは、国内の水力発電所だけで発電調整ができると見られている。(例の自由党議員は「自然エネルギーのために逆に化石燃料使用が増える」という言葉を使わなくなった。少なくともスウェーデンでそれを主張することに無理があると判断するようになったのだろうか?)

スウェーデンの隣国ノルウェーは水力発電の割合がさらに高い。起伏の激しい土地が多く、発電に使える河川もたくさんある。そのため、大小の水力発電所がこれまで無数に建設されてきた。今では国内の発電量の98.5%が水力によるもの(2008年実績)である上、国内で余った電力をスウェーデンやデンマークなど他国へ輸出している。その量はネット(つまり、輸入量を差し引いて)で見ると、国内発電量の1割近くに上る。


ノルウェーの発電量の内訳(2008年)。IEAの統計より

実は、このノルウェーの水力発電がヨーロッパの自然エネルギー普及の鍵を握っていると言われる。送電線が国境をまたぎ、海底にも送電ケーブルが敷設されているため、ドイツやイギリスなどヨーロッパの北側の部分における自然エネルギーの発電量の変動をうまく補ってくれることが期待されているのだ。

下のリンクは、ノルウェーの国営の電力会社のサイトだが、動画ではそのことが端的にアピールされている(英語版)。この説明によると、ヨーロッパの水力発電の水瓶の半分がノルウェーにあるとのこと。

http://www.statkraft.com/energy-sources/hydropower/pumped-storage-hydropower/

高い安全性が求められる電子データ保管場所 (2)

2011-07-10 18:11:50 | スウェーデン・その他の経済
前回の続き。

さて、サーバーセンターがたとえ地震など自然災害に耐えたとしても、原発と同じで、外部からの電力供給が途絶えてしまえばどうしようもない。電気がなければ、サーバーセンターは機能を果たさない。トラブルが発生してサイトにアクセスできなくなれば、信用問題になる。そのために、原発と同様に予備電源を準備することが不可欠だが、このサーバーセンターではその数が半端ではない

たしか、原発の原子炉1つあたりに備え付けられているディーゼル発電機の数が4個とか8個とか、一桁の数字だったと思うが、このサーバーセンターでは何と30個のディーゼル発電機が設置され、発電出力の総量は240MW(=24万kW)になるという。平均的な原子炉1つの出力を100~120万kWとすれば、その5分の1に相当する。そして、万が一のときにきちんと作動するように、普段から稼動点検が行われる。1日に1つのディーゼル発電機を1時間から2時間ほど動かし、ちょうど1ヶ月で30機すべての点検が終了し、その翌日からは再び1機目から稼動点検が繰り返されていく。

原発とサーバーセンターでは、技術も操業内容も全く異なるので単純な比較は難しい。サーバーセンターの予備電源は、外部の電源が途切れた時にそれをすべてカバーすることを目的としているため、発電機の数もその出力の合計も非常に大きいが、原発の予備電源は原発が止まったときにその発電量のすべてを賄うためのものではなく、あくまで冷却水の循環ポンプに必要な電力を確保することが目的だ。だから、発電機の数も多くはいらない。

それでも、原発にも予備電源システムを何重にも用意し、その一部が動かなくても残りの部分で循環ポンプを動かせるというような万全の構えをしてこなかったことが、今回の事故では致命的となった。国策のもとでぬくぬくと育てられた地域独占企業と、国際的な激しい競争に支えられたIT産業との、リスク管理に対する考え方の違いを表していると解釈できるかもしれない。


ルレオの町(市のホームページより)。
ただし、サーバーの建設は郊外の森の中

では、寒冷な気候のほうが冷却のためのエネルギーが少なくて済むなら、なぜもっと北の、例えば北極圏に作らないのか?という疑問も出てくるかもしれない。実は、この地が選ばれた3つ目の理由は地元にルレオ工科大学があり、優秀な若い人材の供給や、技術開発のための提携が期待できるという点だったのだ。

地元ルレオ市としては、新しい雇用を期待している。3つのサーバーセンターの立地によって、運転のために技術者など少なくとも50人の職がまず生まれる。また、フェイスブックは関連するサポートセンターを、サーバーセンターの近くに建てることも予定している。今後、他のIT企業などがこのルレオの街に着目して、サーバーセンターなどを建設していけば、クラスターとして成長する可能性もある。市の関係者は「1000人ほどの雇用につながるかも」とかなり楽観的な見方をしている。

だから、このフェイスブックのサーバー建設の話は、ルレオ市にとっては非常に嬉しい話であり、環境影響評価などの審査をクリアしさえすれば、認可を拒む理由は見当たらない。ある地元紙は、「フェイスブックが大きなサーバーセンターを建設」という見出しのあとに、サブタイトルとして「県の認可当局は、迷うことなく『いいね!』ボタンを押した」と、気の利いたジョークを書いていた。

高い安全性が求められる電子データ保管場所

2011-07-08 03:06:53 | スウェーデン・その他の経済
地震や津波、洪水、山火事といった自然災害は、様々な形で予期せぬ被害をもたらす。日本の震災のあとでも話題になったのが、電子情報の保管場所だ。データを保管するサーバーを複数設けて別々の場所におき、随時コピーを取っておくことはおそらく今の時代は当然のことだろうが、たとえサーバーを複数持ってリスク分散を図るとしても、できるだけ安全な場所に置きたい。

スウェーデンでは地殻変動があまりなく地震もほとんど起きないが、まさにこの点が注目を受け、一つの新ビジネススウェーデン北部で起こりつつある。データを保管するサーバーセンターを建設し運転する、というビジネスだ。

実のところ、既にFacebook(フェイスブック)が巨大なサーバーセンターをスウェーデン北部のルレオ市に建設する計画を立て、その許可申請を今年5月に地元自治体や認可当局に提出している。


フェイスブックの計画はかなり壮大なもので、1つあたり3万平方メートルのサーバーセンターを3つ建設し、電力供給のために送電線を新たにひき、変電所を2つ設置するというものだ。

サーバーをはじめとする大量の電子機器が一ヶ所に集積すれば、発生する熱の量も相当大きい。だから、サーバーの運転に必要な電力以上に、サーバーや関連機器の冷却のために必要とされる電力が膨大なものとなる。現在の計画によると、この3つのサーバーセンターが完成しフル稼働に必要とされる電力は、1万6000世帯が消費する電力量に匹敵するという。

より正確に言えば年間の電力消費量は473 000 MWh、スウェーデンの電力需要や電力市場について話しをするときによく使われるTWh(テラ・ワット時)という単位に直せば、0.473TWhとなる。スウェーデン全体の年間の電力消費量は135TWhくらいだから、その0.35%に相当する。

年間の電気料金は4億クローナ(52億円)になると予想される。かなりの高額だが、それでもスウェーデン北部のこの地を選んだことで、電気料金も低く抑えられているという。実はフェイスブックがこの場所を選んだ理由は、何も地震がない、ということだけでない。寒冷な気候であるため、サーバー冷却の必要性が少なく済むからでもあるのだ。冬はご存知の通り寒いため、ヒートポンプなどの冷却装置の稼動は春から秋にかけての6ヶ月間だけでよいという。

また、この3つのサーバーセンターと地元ルレオ市の間で、ある契約が交わされることになるという。それは、ルレオ市の水道局が毎日90万リットルの水道水をこのサーバーセンターに供給し、逆に23万リットルの下水を受け取ることだという。これほど大量の水道水がなぜ必要なのかはよく分からないが、もしかしたら湖水や河川の冷たさを、ヒートポンプなどを介して水を媒体として施設内に取り込み、冷却に使うのかもしれない(地域冷房といわれる冷房の方法)。

ちなみに、サーバーが発する熱は冷却装置によって外部へ放出されるわけだが、そのために、周囲の温度が1度から4度くらい上昇すると考えられる。そのため、現在は環境影響評価(アセスメント)が行われている。その熱をうまく回収して、地域暖房の熱源として用いて、周辺の住宅へ熱供給すればよいと思うのだけれど、難しいのだろうか?

「我が家は、フェイスブックのおかげで温かいシャワーも出るし、家の中が冬でも暖かい」なんて、自慢できたらいいのにね。聞いた人は、おそらく何のことかチンプンカンプンだろうけど。
(長くなるので、続きは次回に)

タイムリーな切手の発売

2011-07-05 12:03:00 | コラム
スウェーデンの郵政公社は今年3月24日に自然エネルギーをモチーフにした切手を発売していた。




太陽光・風力エネルギーに加え、バイオエネルギー波力エネルギーだ。
波力発電に関しては、スウェーデンの中でも私の住むヨーテボリのシャルマシュ工科大学で研究開発が続けられてきており、スウェーデン沿岸で既に大規模な実証実験が行われたり、もっと強い波が期待できるイギリス沿岸でも実験が行われている。

スウェーデンは東はバルト海という内海であるし、西はデンマークとの海峡であるために波の力が弱いが、専門家によるとそれでも西海岸の波をうまく利用すればスウェーデンの電力需要の最大8%くらいは電力を得ることが可能だとしている。

(友人のレーナ・リンダルさんから情報を得ました)

<余談>
スウェーデンの郵政公社は、もともと郵政庁という形で国の行政の一部であったが1990年代に国が全株を保有する株式会社へと形を変え、さらに数年前からはスウェーデン政府デンマーク政府が共同出資して持ち株会社を設立し、その会社がスウェーデンの郵政公社とデンマークの郵政公社の株を保有するという形態をとっている。

これも彼なりの「リーダーシップ」?

2011-07-04 20:09:07 | コラム
再びとんでもない人間が現れた。「リーダーとはどうあるべきか」について様々な意見があるなか、この人物にとってはこれが「リーダーのあるべき姿」なのだろうか?




日経新聞: 松本復興相「突き放すことも」 被災地知事に相次ぎ注文

 松本龍復興担当相は3日、岩手県の達増拓也知事、宮城県の村井嘉浩知事と両県庁でそれぞれ会談し、東日本大震災からの復興をめぐり「知恵を出さないやつ(自治体)は助けないぐらいの気持ちを持って」「こっちも突き放すところは突き放す」などと厳しい口調を交えて注文を付けた。被災地の知事を激励する意味があったとみられるが、野党が国会で追及する可能性もありそうだ。

 松本氏は達増知事に「あれが欲しいこれが欲しいはだめだぞ、知恵を出せということだ」と話した。村井知事には県内の漁港を集約する構想について「県で意見集約をちゃんとやれ。やらなかったらこっちも何もしない」と述べた。〔共同〕

朝日新聞: 松本復興相、岩手・宮城両知事にきわどい発言連発

 松本龍復興担当相は3日、東日本大震災の被災地である岩手・宮城両県を訪ね、両県知事と会談した。前日の福島県に続く就任後初めての被災地訪問だが、被災者の感情を逆なでしかねない発言を連発した。週明けの国会で野党が追及する可能性もある。

 最初に訪れた岩手県庁の玄関前では、衛藤征士郎・衆院副議長からもらったというサッカーボールを持ち出し、「キックオフだ」と達増拓也知事に蹴り込んだが、達増氏は取り損ねた。

 会談では、仮設住宅の要望をしようとする達増知事の言葉を遮り、「本当は仮設はあなた方の仕事だ」と指摘。仮設住宅での孤独死対策などの国の施策を挙げ、「国は進んだことをやっている。(被災自治体は)そこに追いついてこないといけない。知恵を出したところは助けるが、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持って」と述べた。また、「九州の人間だから、東北の何市がどこの県とか分からない」と冗談めかして話した。

 午後に訪問した宮城県庁では、応接室に後から入ってきた村井嘉浩知事に「お客さんが来る時は、自分が入ってから呼べ。しっかりやれよ」と語った。被災した漁港を集約するという県独自の計画に対しては「県でコンセンサスをとれよ。そうしないと、我々は何もしないぞ」などと厳しい口調で注文をつけた。

 松本氏は防災相から引き続き震災対応に当たることもあって村井氏は面会後、記者団に「地元のことをよく分かっている方が大臣に就任して喜んでいます」と述べた。しかし、ある県幹部は「被災地に来て、あの言動はない」と憤っていた。(山下剛、高橋昌宏)


もう、がっかりだ。呆れて返す言葉もない。
この人にとっての「リーダーシップ」とは、自分より下だと思っている他人をこのような横柄な口の利き方で「突き放す」ことなのだろうか? とんでもない勘違い君だ。

この人は適当な発言を数日前にも行っている。

日経新聞: 松本復興相が陳謝 「民・自・公嫌い」発言

 松本龍復興対策担当相は1日の閣議後の記者会見で、自身が6月28日に「3月11日以来、民主党も自民党も公明党も嫌いだ」と発言したことについて「被災者に寄り添うとの意が伝わらなかったらおわび申し上げたい」と陳謝した。復興相の発言をめぐっては自民党や公明党が反発し、釈明を求めていた。

 復興相は先月28日の発言の趣旨に関して「私は政局的なことを好まないタイプであり、今の局面では被災者に寄り添うことが使命であることを言いたかった」と説明した。


発言の背景にある本心が、仮にまっとうなものであったとしても、それが相手に伝わなければ意味がない。政治家という職がねじれた人格を造るのか? 見ていてむしろ哀れに思えてくる。

知事の側が遅れて部屋に入ってきたことにしたって、重要なことだとは思えない。上下関係や年功序列での礼儀作法は、一つの美徳と捉えることもできるが、日本のそれはやり過ぎであり、無駄である部分が多いと思う。周りの者や部下の者、若い者は常に上の者の目を気にしなければならないし、お偉いさんの行動の段取りや儀典の世話をする担当者は些細なことにまで気を配らなければならない。そう努めていても、やはりミスは起こりうる。それをすかさず見つけて叱責するような連中がいるから、下の者は失礼が絶対にないようにと、神経を擦り減らしている。日本の官庁・役所で働いたり、そういった所と取引をしている企業で働いたりしている人からそのような苦労話を何度も聞いてきた。そのエネルギーをもっと別の、生産的なことに向けることができたら、無駄な雑務も減るし、職場も社会ももっと明るくなるだろうに

この「勘違い君」は、政治家としてのこれまでの人生の中で「持ち上げられる」ことだけに慣れてしまい、そういった周りの人の苦労も全然分からないのだろう。政治家・政治への信頼を高めるためには、こういった連中の「特権意識」をなくす取り組みも必要だろう。例えば「先生」という呼称をやめるとか。たとえ大臣であろうと、こういう輩にはファーストクラスやビジネスクラス、グリーン車に乗せないとか。

地元の自治体の人々や他県から応援に来た職員、それからボランティアの人々が現場で復興に努力しているときに、トップにこのような人間を立ててしまえば、復興が捗るどころか、その人間への対応だけで相当な労力を裂かれてしまいそうだ。他に良い人材がいなかったのだろうか?

国営電力企業ヴァッテンファルは原子炉の建設を見送る

2011-07-02 01:00:06 | コラム
現在の中道右派政権が2009年2月「既存の原子炉が寿命を迎えた場合にはその更新を認める」と同時に「再生可能エネルギーへのさらなる投資を政府として支援していく」という内容の連立合意を発表したことは以前触れた。

<以前の記事>
2011-05-04:フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その1)
2011-05-07:フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その2)
2011-05-11:フクシマ以降のスウェーデンにおける原発議論(その3)


ただ「更新を認める」とは言っても、政府として経済的に関与することはせず、電力業界や産業界に決定を委ねる、とされていた。その一方で、風力発電やバイオマス発電などの再生可能なエネルギーによる発電に対しては、政策サイドからの支援を積極的に行っていくことを約束していた。「既存の原子炉の寿命が近づいたときに、電力業界がそれでも新しい原子炉を造りたければ自分たちでやってね」ということだった。

この連立合意の以前は、増設だけでなく古い原子炉を新しく立て替えることも脱原発法で禁じられていたから、電力業界や関連業界が大いに喜んだことは想像に難くない。

だから、この合意が法律として議会で正式に可決されると、業界側は早速、新設に向けた準備を始めようと動き出した。新設に特に前向きだったのは、電力業界よりもむしろ電力集約的産業である紙パルプ産業だった。彼らは安価で安定した電力の供給によって、国際競争力を維持したいと願っている。その結果、スウェーデンの産業界を代表する複数の製紙企業が出資しあって、原発新設の準備を行うための「Industrikraft i Sverige AB」という新企業を立ち上げたのだった。

しかし、製紙業界だけで新たな原子炉を建設するには、資金の面でもノウハウの面でも、さらにはリスクの面でも不安がたくさんある。そのため、製紙業界がお誘いの声を掛けたのは、スウェーデン国営の電力企業であるヴァッテンファル(Vattenfall)だった。スウェーデン政府が全株を所有するこの企業は、スウェーデン国内の原子炉のいくつかを部分的に所有しているだけでなく、ドイツの原子炉3基も部分的に所有している。ノウハウもあるし、資金力の面でも申し分ない。そこで、両者の間で2009年10月原子炉新設の準備を始めるための協力関係を結ぶ合意が交わされた。

しかし、それからの話し合いはうまく行かなかったようだ。何年ごろの着工や完成を目指すのか? 建設の資金は誰がどのように負担するのか? このような点において製紙産業側と国営電力企業ヴァッテンファルの間で意見の食い違いが目立ち、具体的なプロジェクトが立ち上げられることはなかった。どうやら製紙業界はなるべく早い段階で新規原子炉を完成させたいと焦っていたようだが、ヴァッテンファルの側は新規プロジェクトへの投資やリスクを負うことに慎重で、もう少し様子を見てから決定したいと考えていたのだと推測できる。

その背景として考えられるのは、フィンランドで進められている新規原子炉の建設作業が予定よりも大幅に遅れた上に、費用も予想を大きく上回ることになったことだ。さらに、福島原発の事故があったこともあり、原子炉の建設を巡る経済的な条件が世界的にさらに不確実なものとなっている。そのような状況の中で、ヴァッテンファルは今の段階で、製紙産業と一緒になって原子炉の新規建設に向けた作業を進めていくのはリスクが大きいと判断したのではないだろうか。

ヴァッテンファルとしては、むしろ既存の原子炉の改良や安全性向上に対して追加投資を行うことで、より長く使いたいと考えている(60年)。改良による出力向上はこれまでも順次行われてきたが、複数の原子炉で現在続けられている改良工事は、年間の発電量をさらに計8TWh、つまり、原子炉1基分に相当する分だけ引き上げるものだという。

そうやって、ヴァッテンファルが新規建設に対して及び腰でいる間に、2009年10月に製紙業界の共同出資企業「Industrikraft i Sverige AB」ヴァッテンファルの間で交わされた協力合意2011年6月末日をもって当初の期限が切れてしまった。製紙業界の側は新規建設の望みをまだ捨てていないが、ヴァッテンファルとしては協力合意を更新するつもりはないというから、新規建設の話しは再び振り出しに戻ってしまった。製紙業界は、ヴァッテンファルに代わる新しいパートナーを見つけたいとしている。可能性としてはFortumE-onになるだろうが、果たして彼らが誘いに乗ってくれるのかどうか・・・。

<参考記事>
2011-07-01 (NyTeknik) Vattenfall bygger inte ny reaktor at industrin