スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

企業幹部のボーナスを巡る論争(2)

2010-03-30 08:10:30 | スウェーデン・その他の経済
ボルボ・カーズ(乗用車部門)は、フォードから中国の吉利(Geely)に正式に売却されました。脱力してしまいます。ニュースを見る気にもなりません・・・。また、のちほど。

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2009年はスウェーデンのほとんどの株式企業が業績赤字を記録し、株価も大幅に下落した。しかし、大企業の多くでは経営陣や役員などにボーナスが支払われただけでなく、その額も前年を上回ることになった。

これと同時期、金属工の労組「減産のために労働時間が短縮した場合、給与を2割までならカットしてもよい」という発表を行った。減産にもかかわらず月給がそのままであれば、製品一単位あたりの労働コストが高くつき、経営陣が従業員の解雇に踏み切ってしまう、という苦渋の決断だった。金属工だけでなく、その他のブルーカラーやエンジニアなどのホワイトカラーでも同様の給与カットが多くの職場で相次いで行われた(このおかげで一部の解雇は撤回され、失業の増大に歯止めをかけることとなった)。

そんな矢先だったから、大企業の幹部や役員が高額のボーナスをもらうことに対して、スウェーデン国内では批判が相次いだ。労働組合や社会民主党、左党はもちろんのこと、中道右派の連立政権ボーナス批判に回った。ここには、本来、財界や経営者連盟と密接な関係にある(はず)の保守・穏健党やキリスト教民主党なども含まれていた。

財界や経営者連盟は、連立政権のそのような態度に不快感を表し「人気取りのポーズだ」と批判した。確かに、連立与党は当初、ボーナスを認めるような発言をしていたものの、支持率の低下を恐れて、次第に企業批判を繰り返すようになっていった。

ともかく、穏健党を中心とする中道保守政権の最初の攻撃対象は、金融機関のボーナスだった。スウェーデンの4大銀行のうち、Handelsbankenを除く3行は金融危機を受けて、特にバルト三国での融資が焦げ付き、資金繰りに苦しんでいた。スウェーデン政府からの救済策のお世話になる銀行もあったものの、例えばその一つであるSEBでさえ、頭取を筆頭とする経営陣へのボーナスが引き上げられるという。その是非を巡って政府とSEBは対立。4月初め、銀行のボーナスのあり方や経営倫理について討議するため、政府は4大銀行の頭取を呼びつけた。しかし、件のSEBの頭取が現れなかった。政府は無視されたことになり、結局、面目丸つぶれとなってしまった。

ボーナス論争の第2ラウンドは、国有企業のボーナスだ。ここには、完全国有だけでなく、政府が部分的に株式を保有する企業も含まれる。政府・産業省は国営企業の各社に経営陣に対するボーナスの支給やその引き上げをしないように要請した。2009年3月24日付の日刊紙のオピニオン記事で、中央党の産業相が「国有企業のすべてのボーナスを停止させる」という意気込みを発表した。しかし、実際にはあまりうまく行かなかったようだ。国有企業の経営を公式に規定しているのは、政府からの毎年定期的に与えられる指令なのだが、そこではボーナスに関して明確な規定がそもそも設けられていなかったようなのだ。その指令を急遽変えることはできず、産業相のポーズも空振りに終わった。

さて、第3ラウンドは、民間企業のボーナスだ。エリクソンやボルボをはじめとする多くの民間企業の経営陣には国有企業以上にボーナスが降り注がれていた。世論の支持を得るために、それを何とでも阻止したい。国有企業でも難しかったことが、民間企業でうまく行くはずがないのだが、スウェーデン政府はここで大きな武器を持ち出した。公的年金基金だ!

公的年金基金は複数の基金に分割されて、国債などの債券だけでなく、企業の株式にも投資をしている。機関投資家としては、スウェーデン企業の株式のかなりの部分を所有している。だから、その株主の権利を株主総会で行使することで、企業のボーナスをストップできるのではないか、そう考えたのだ。

政府は直ちに公的年金基金の各基金に通達を出して、企業の経営陣に対するボーナス案株主総会で否決するように要請した。しかし、公的年金側も反論した。公的年金基金の投資活動を規定しているのも、政府から定期的に与えられる指令であるが、そこには「年金基金の長期的な利回りを安定的に増大させることを第一の目標とすること」と書かれていた。つまり、利回りが長期的に見て増大すると年金基金が判断すれば、ボーナスの是非は年金基金の関心外ということになる。

それだけでなく、年金基金側には時の政権が年金運用に口を挟むことを防ぎたい、という意向もあったようだ。例えば、このボーナス論争と同時期には、スウェーデンの自動車産業をどうするか、ということが政治の舞台でも大きく取り上げられていた。そんなときに、野党・社会民主党などからは経営不振に陥ったボルボなどに新株を発行させて、公的年金基金が買い受け、資本を注入すべきだ、というような提案もあったが、もちろんこの時は公的年金基金もそんなリスクの高い話は問題外とはねつけたのだった。

それは無理な話としても、では公的年金基金が株主総会でボーナスの是非に関して、政府の意向を受けて発言権を行使すべきなのか? という点には注目が集まって、昨年春は大いに議論された。

しかし、結果はどうだったかというと、例えば、テレコム大手のエリクソンの株主総会では、公的年金基金のうち第1基金第2基金は総会に全く出席しなかった。総会で立場を選択することを避けてのことだった。一方、第3基金第4基金は総会に出席したものの、さて重要な投票の際には何と棄権してしまった。そして、他の株主の賛成票が過半数を得たために、ボーナス案は可決してしまったのだ。

政府にとっては、何とも痛い話だった。それとも、最初からこうなることを知りつつも、有権者の支持を得るための一応のポーズをしたということなのだろうか・・・?

ともかく、この議論は今でも続けられている。

企業幹部のボーナスを巡る論争

2010-03-26 09:17:11 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンでは、現在、労使間の団体交渉が各業界・各職能ごとに行われている。製造業のホワイトカラー従業員が経営者側と早くも合意に至ったのに対し、ブルーカラー従業員の団体交渉が難航。それに加え、小売・流通業の団体交渉もうまくまとまらない。現在結ばれている3年満期の団体協約は今年3月で期限が切れるため、イースター休暇がやってくる4月初めには大型スーパーマーケットなどでストライキになるかもしれない(おそらくギリギリのところで経営者側が妥協すると思うが)。

団体交渉の焦点の一つは、もちろん賃上げ幅だ。すでに景気回復期にあるとはいえ、昨年はGDPが大きく落ち込んだ。失業率も上昇した。そんな中で、どれだけの賃上げ水準が妥当なのか? この点について、これまでスウェーデン社会では熱く議論されてきた。

需要減退を受けて利潤が大幅に落ち込んだ経営者の側「賃上げは認めない」と言ってきた。これに対し、労働組合側は、現在の不況の原因が、人件費の高騰やそれに伴う国際競争力の低下といったサプライサイド要因ではなく、あくまで需要が世界的に落ち込んだというデマンドサイド要因である点を指摘し、いくら不況とはいえ、労働生産性の上昇分に見合った賃上げはできると主張してきた。

労働組合と経営者側との見解の相違点は、これだけではない。経営者側「労働者の賃上げを認めてしまうと、雇用が抑制され、スウェーデン経済の回復の足を引っ張ってしまう」と訴えているのに対し、労働組合側「足を引っ張っているのは、従業員の賃上げ要求ではなく、上級管理職や取締り役員の報酬(ボーナス)だ」と、こう切り返してきたのである。

おそらく労使双方の言い分にはそれぞれ正当性があるだろう。それでも、労働組合側が指摘するように、従業員の賃上げだけを問題視するのではなく、役員や幹部に対する報酬についても考えてみるべきではないかと思う。

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スウェーデンの企業もアメリカほどではないにしろ、ここ十数年は役員報酬の伸び率がスウェーデン経済全体の成長率や被雇用者の平均的な給与上昇率よりも大幅に上回ってきた。しかも、金融危機以降の不況の真っ只中であった2009年にも、企業や金融機関の中には、業績が落ち込んだり従業員の解雇を行ったにもかかわらず、幹部職員や役員への報酬を逆に引き上げるところもあった。そして、その是非について、スウェーデンではこれまで熱い議論が闘わされてきた。

問題とされた役員報酬は変動性ボーナスとも言われ、企業の業績に応じて変動する。つまり、幹部の努力に対するご褒美であり、インセンティブを与える目的があるわけだ。しかし、それが逆に目先の利潤だけを追い求める短期的行動に駆り立てるとして、特に金融危機に際して問題視されてもきた。しかも、そのような報酬を業績が大きく落ち込んだ2009年になぜ引き上げる必要があるのか、スウェーデンでは疑問の声が上がってきた。

(ちなみに、スウェーデンでは一般の従業員を対象にした日本のようなボーナス制度は、金融・証券や不動産などのごく一部の業界を除いてはほとんど存在しない。だから、多くの従業員の年収は月収×12と等しい)

報酬を引き上げようとする取締役会側の言い分もある。一つは、優秀な人材を引き止めるためには、いくら不況であれ高い報酬を支払う必要がある、というもの。そして二つ目は、そのような決定は経営者や株主が行う資本サイドの問題であり、労働者の解雇や給与などの議論とは分けて考えるべきもの、というもの。

そのような言い分に対して、労働組合や社会民主党などはもちろん納得しない。しかし、スウェーデンにおける議論で面白かったのは、本来は財界や経営者連盟などと密接な連携をもっている保守政党の穏健党やキリスト教民主党が彼らと一線を画し、ボーナス批判をしてきたことだった。(続く・・・)

緊急告知: 労働市場政策に関するセミナーのご案内

2010-03-23 22:30:31 | スウェーデン・その他の経済
直前の告知で申し訳ありませんが、ストックホルムで月曜日に開催される半日セミナーのご案内です。一般公開ですので、ご関心のある方参加してみてください。

労働問題に関する日本・スウェーデン共同セミナー


日時:2010年5月24日 13時から17時
場所:ABF-huset (Sveavagen 41, Stockholm), Katasalen
参加費:無料
言語:日本語とスウェーデン語による随時通訳


司会・モデレーター:佐藤(私)
通訳:レーナ・リンダル


プログラム

第一部
13:15 - 13:50
マティアス・ランドグレーン氏による講演
(ビュッグナーズ・建設労働者労働組合、チーフ・リーガル・アドバイザー)
・スウェーデン型の団体交渉の手続きについて
・スウェーデンのEU加盟に伴う変化
・EU域内の労働争議について(最近のラヴァルの事例についても)

13:50 - 14:10
日本の弁護士による報告1
『経済危機のもとでの日本の労働市場の現状について』

14:10 - 14:30
日本の弁護士による報告2
『日本における派遣労働を中心とする非正規雇用労働者の現状』

14:30 - 15:00
日本の弁護士による報告3
『「過労死」問題について』

15:00 - 15:30
休憩

第二部
「積極的労働市場政策が現代の経済において果たす役割と意義についてのディスカッション」

15:30 - 15:45
日本の弁護士の方による問題提起

15:45 - 16:30
参加者によるディスカッション

新生サーブの工場始動

2010-03-23 08:25:15 | スウェーデン・その他の経済
サーブトロルヘッタン工場は月曜日の9時17分、稼動を再開した。まずは、1日あたり100台のペースで生産をはじめ、3週間後には1日200台へと次第に引き上げていく。今年は生産目標は6万台だ。


ニュース動画(画像をクリック)


工場の生産ラインは動き始めたばかりなので、ラインの前半部分以外の組み立て工はまだ何もすることがない。

動画の2:00に登場する女性従業員。時間を持て余している。

レポーター 「あと何日したら仕事ができるの?」
従業員 「うーん、水曜日くらいかな。私たちが担当しているのは、ラインの最後の部分、工場のずっと向こうのほうだからね。でも、こうやってラインが動き始めたから、確実に仕事がやってくることが目に見えるんだ。楽しみだよ。」

新生サーブの幕開け

2010-03-22 07:23:11 | スウェーデン・その他の経済
サーブ(SAAB)1月下旬にアメリカのGMからオランダのスポーツカー・メーカーであるスパイカー・カーズに売却されることが決まった。12月半ばの段階で、GMサーブを廃業・清算すると発表していたが、一転して売却・存続の道が再び開かれることとなった。

昨年末の廃業決定を受けて、トロルヘッタンにあるサーブの工場は生産活動を停止していたが、存続することが決まった直後から代理店には注文が殺到するようになった。しかし、生産活動をすぐに再開しようにも下請会社に部品を発注しなければならず、1月末の時点では生産の再開までに少なくとも数週間はかかると伝えられていた。

では、工場はもう動き始めているのか?と思い調べてみると、実は今日、月曜日 9時15分から始動することが分かった。下請会社への発注や工場従業員の再編成に時間がかかったとか。これから、9-39-5の新型モデルが生産されていく。新生サーブとしての幕開けだ。ただ、今年の生産台数は5万台から6万台程度に留まる見通しだ。そして、2年後には年間10万台から12万台ほどに増やしていくという。ちなみに採算とるためにはこの水準が最低ラインだといわれている。

テレビCMも再開している。最後までサーブを見放さずに応援してくれた人たちに対してThank youというメッセージが込められている。



今スウェーデンで流れているCMの英語版


これまで十数ヶ月にわたって続いてきた売却交渉のドタバタで、サーブの将来はもうないものと思われたため、客離れが相当進んだだろう。だから、失った客を再びサーブに引き戻すだけでなく、新たな顧客をいかに惹きつけることができるかに、サーブの将来がかかっている。

電気自動車の研究開発も遅ればせながら着々と進行しているようだ。スウェーデンのエネルギー庁から多額の研究開発費を支援してもらいながら、9-3モデルを完全な電気仕様にするプロジェクトが進められている。バッテリーはアメリカの企業から購入し、バッテリー制御システムや動力系統はウプサラにある小さな企業が開発、その他にはサーブの地元トロルヘッタンにある地方大学併設のサイエンス・パーク(産学連携で研究開発を行ったり、起業を支援するための施設)もかかわっている。

正直なところ、金融危機になるまで、私はサーブに対して興味がほとんどなかったけれど、GMからもスウェーデン政府からも見捨てられて、崖っぷちに立ちながらも、相変わらずのマイペースでテレビに登場し、のらりくらりとインタビューに応じるサーブの社長の姿が妙に気に入ってしまった。スウェーデン語にDet ordnar sig.(どうにかなるさ)という表現があるが、そんなオプティミズムをまさに体現している人だった。



12月下旬にGMがサーブ廃業を決定した直後のインタビュー


ある日刊紙の記者はこう表現していた。「これでもか、と言うくらいボコボコに殴られながら、それでもギブアップせず、耐え続ける社長が今までにいただろうか!?」 まだまだ難関はあるし、もしかしたら、数ヵ月後には新しい所有者であるスパイカーからぼろが出て、資金繰りに苦しみ、つぶれてしまうかもしれないけれど、サーブには大きな愛着が沸いてきたので、これからの動きを注目したいと思う。

いや、私以上に大きな期待を持っている人もいる。ストックホルム商科大学で商品のブランド力について研究するある教授は、今回の危機のおかげで「サーブ」というブランド名が逆に強化された、と語っている。サーブは世界では小さなマーケットシェアしか持たないが、それが故に、他の車ブランドでは満足しない、熱狂的なファンも多く、一種のセクトと化している。そんな彼らが、サーブを救え(SAVE SAAB)と世界的なアクションを起こしたし、世界中のメディアがサーブの売却交渉を記事に取り上げたりした。今までサーブを知らなかった人も、その存在を知るようになった(私も多かれ少なかれ、その一人かも)。つまり、危機が「サーブ」の名を広める絶好の機会となった、というのだ。

数千におよぶサーブ・ファンは、今年1月に世界同時アクションを起こした


彼は、倒産寸前だったパソコン・メーカーが苦難を乗り越えて、再建を果たし、今ではMicrosoftに真っ向から対抗する大企業になったAppleの例を持ち出していた。もしかしたら、同じような道をたどるのではないか?

でも、そのためには、独自性を見出していかなければならない。これまではGM傘下にあり、サーブならではの技術力や独自性が十分に生かされなかったという見方も強い。だから、GMから独立した今、それを生かしていく必要がある。それに、そのような将来ビジョンを様々な形で世の中に打ち出していかなければならない。

難しい安楽死の問題

2010-03-20 21:12:35 | スウェーデン・その他の社会
ストックホルムの病院で入院する31歳の女性。先天的な神経の病を患い、6歳の時から人工呼吸器に頼る入院生活を送っていた。全身が麻痺し、病状は年々悪化していた。そして、思い悩んだあげく、手紙を書くことにした。

「私の身体と脳が機能しているうちに、尊厳のある死を選びたい。睡眠薬で眠りに陥った状態で、人工呼吸器の電源を切って欲しい。私の意志として、明確にこう表明したい。」

全身が麻痺しているので、2人の代理人に書き取ってもらったという。手紙の送り先は、社会庁。医療の全般を管轄している行政機関だ。

彼女を担当する現場の医師たちは彼女の意思を尊重したいと考えていた。しかし、安楽死はスウェーデンでは認められていないため、現場の医師の判断でそれを行うことができないのだった。そのため、彼女は自分の声として社会庁に訴えることにしたのだった。


ここでは2つの原則が対立している。1つは、患者は自分の意思で治療の是非を決められるべきだという原則。今回の場合では、現在続けられている延命措置を拒否する権利のことだ。そして、もう一つは、医師の義務は命を救うことであるという原則。つまり、延命措置を意図的に中断することは医者の役目ではない、ということだ。

社会庁は、これまで後者の原則に重きを置き、前者である患者の権利については明確な判断を避けてきた。しかし、それでは現場の医師が困惑してしまうため、医師たちは明確なガイドラインを作るよう、社会庁に働きかけている。そのため、社会庁どのような判断を下すのかが注目されている。

しかし、私の理解した限りでは、社会庁は安楽死の是非について新たな検討をするつもりはなく、従来の「死の積極的な手助け(active euthanasia)は認めない」という決定には手をつけないようだ。その一方で、社会庁は何が「死の積極的な手助け」にあたるのか?という部分の解釈問題を掘り下げて、これまでよりも明確なガイドラインを発表するつもりのようだ。

では、解釈問題によって、果たしてどのような判断が下されることになるのだろうか?

例えば、末期状態にある高齢の人の延命治療を続けるか、続けないか、というケースでは、
   ・積極的な行動を取る = 延命治療を続ける
   ・積極的な行動を取らない =延命治療を続けない → 死
という構図になる。この場合は、「延命治療を続けないこと」と「死の積極的な手助け」が直結する可能性は小さい。

これに対し、今回のように患者が既に人工呼吸器による支援を受けているケースでは、
   ・積極的な行動を取る = 人工呼吸器の電源を落とす = 延命治療を続けない → 死
   ・積極的な行動を取らない = 延命治療を続ける
という構図になるため、どうしても「死の積極的な手助け」という定義から逃れることは難しいのではないかと思う。

ともかく、社会庁は現行法のもとでの解釈の余地と、もし解釈を変更した場合の法的帰結について検討を始めたところであり、4月か5月頃に結論を発表するとしている。現場の医師たちにとっては、たとえ本人の同意があった上での決断だとしても、死という重大な帰結をもたらす決断であるため精神的な重みも大きいだろうし、逆に患者本人の意思を無視し続けることも辛いことだと思う。だから、社会庁が明確なガイドラインを示してくれるかどうかが、現場の職員にとっては重要なのではないかと思う。

ちなみに、メディア等を通じてスウェーデン社会に対して様々な意見発信を行っているスウェーデン医師研究会は、安楽死について以前から調査研究を続けており、患者が(1) 意思決定する能力を持っている、(2) 十分な情報を与えられている、(3) その決断の帰結を理解している場合に限って、末期かどうかに関わらず、そして、それが積極的な行動を伴うかどうかに関わらず、延命措置を中断できるようにすべき、という提案を行ってきた。

ユーロ・プロジェクトの致命的な問題

2010-03-17 18:11:02 | スウェーデン・その他の経済
ギリシャだけでなく、スペインポルトガルなども財政危機に瀕しており、抜本的な財政緊縮政策を求められている。年金の給付水準の引き下げや、退職年齢の引き上げ、公務員の給与カットなどが発表されており、反発が強まっている。

しかし、今回の問題は、統一通貨ユーロというプロジェクトが潜在的に抱え持っていた問題であり、起こるべくして起こったともいえる。

一つの理由は、既に何回か書いたように、経済基盤が大きく異なる国々が同じ通貨を用いるため、経済力がもともと弱かった国にとっては通貨が過大評価されることになり、その結果、国際競争力が損なわれ、他のユーロ参加国との経済格差がさらに広がってしまうことだ。経済力の割に人件費が高すぎ、国際競争力が弱くなっている国であれば、為替レートが変動することで外貨建てにした場合の人件費が抑えられ、国際競争力が回復したであろうが、統一通貨の下ではその調整メカニズムが働かない。

もう一つの理由は、ユーロ参加諸国全体をカバーする「財政政策」が存在しないことだ。現状のように、一部の国が経済的に落ち込んでしまい、財政赤字が大きく、国債残高も累積してしまうと、統一通貨ユーロの信頼性を揺るがす恐れがあるから、他の国が財政支援などを行って、遅れた国を支援してやる必要がある。しかし、今のところ、ユーロ内でそのようなシステムはない。ギリシャを巡る論争でも「加盟国それぞれが自助努力で危機から抜け出すべき」という原則論が叫ばれてきた。

ユーロ圏全体の財政政策がないのにはもっともな理由もある。ある加盟国が後先考えずに財政支出だけを拡大して、国債をバンバン発行した結果、窮地に陥ってしまったときに、他の国がレスキュー隊のように駆けつけて後始末をしてくれるのであれば、深刻なモラルハザードを引き起こす可能性がある。だから、財政赤字はGDPの3%までに抑えるように、というルールが設けられてきた。

しかし、残念ながらその先のことはあまり考えられてこなかった。つまり、ある国がこのルールを違反したときはどう対応するのか? ルールとして課す以上、加盟国には守ってもらいたい。とすれば、違反したときには何らかのペナルティーを与える必要がある。その国に深刻な帰結をもたらしかねない、何か重大な罰則がいい。罰金? 国の資産の差し押さえ?

でも、財政難に陥ってルール違反を犯す国というのは、多くの場合、経済的にうまくいっておらず、ユーロ圏全体の足を引っ張っている国だ。そのような国に、高額の罰金を課したりすれば、経済がさらに疲弊して、財政的にさらに厳しくなるという悪循環に陥りかねない。

だから、モラルハザードを引き起こさないような形で財政支援を行うような制度が必要となる。

先週はドイツやフランスの財務大臣が間接的にギリシャを支援することを発表した。直接お金を融資すると「自助努力を行う」という原則に反してしまうので、あくまで、ギリシャ政府が発行する国債を直接引き受ける、もしくは信用保証をおこなう(ギリシャが支払不能に陥ったときには代わりに支払いを行うという約束)という形だ。とにかく、今の大きな問題は、ギリシャが新規に国債を発行しようとしても、リスクが高いために利子率が高騰しているということなのだ。

一方で、ペナルティーについても議論されている。欧州中央銀行(ECB)における議決権を1年間停止するとか、場合によっては、ユーロから追放する、つまり、再び自国の通貨を導入させる、という案も検討されているとか。

ランドマーク合戦。ヨーテボリは?

2010-03-14 10:49:39 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデン第三の町マルメは、5年ほど前にターニング・トルソ(Turning Turso)という高層ビルを建設した。54階建てで高さ190メートルのこのビルは、150戸のアパートと貸オフィスからなっており、住宅として使われる建物としてはヨーロッパで2番目に高い建物だという(第一位はロシア・モスクワ)。


オフィスとして使われる部分は12階ほどまでで、それよりも上の階はアパート、さらに最上の2階分は会議施設となっている。デンマークとの海峡に面したマルメとあって、海を眺めながら日々の生活を送るのはさぞかし快適だろうと思う。

さて、このターニング・トルソは、この町マルメにとって町のシンボル、つまりランドマークとしての役割も果たしてくれる。また、高い省エネ技術や環境技術なども備え付けており、そのような技術の活用例を展示する場としても大きな意味を持っている。

これはスウェーデンに限ったことではないだろうが、規模の大きな町はこのようなランドマークを作って、イメージ向上や観光客への売り込みを図ろうと必死だ。

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ストックホルムが計画している新たなランドマークは、トーシュ・トーン(Tors Torn)Tor(トール)とは北欧神話に登場する雷の神様。Tornはタワーの意味。現在の計画では、高さ140メートルの双子ビルを、ストックホルム中央駅から北へ少し行ったところに建設する予定だとか。40階建てで大部分がアパートになるという。


なぜTorという神様の名前が登場するかというと、建設が予定されている場所にたまたまTorsplan(トールの広場)という名がつけられていたからだが、現在上がっている案を見るとまさに北欧神話とか「ロード・オブ・ザ・リング」を思わせそう(?)なイメージだ。

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では、ヨーテボリはどんなランドマークを作ろうとしているのだろうか?中央駅からオペラ座・ヨータ川岸にかけての部分は自動車道路がトンネル化されたおかげで、地上部分がずいぶんすっきりとし、広場の整備が行われてきた。その部分に何と高さ60メートルの大観覧車を建設しようというのだ。


このアイデアは1年前に上がったものだが、激しい意見が賛否の双方から出されてきた。隣接する住宅地に住む住人からは「景観が台無し」「観覧車から家が覗き見される」「観覧車の騒音が問題となる」などの声が上がったほか、それ以外の市民からも「もっと創造的なアイデアはないのか?」「他のヨーロッパ都市のまねごとか」とか「町の景観が壊される」「費用は誰が負担?」といった疑問の声が上げられている。

しかし、アイデアが出されてから1年もしないうちに正式な決定がなされ、4月か5月には完成する予定だ。高層ビルとは違って、観覧車の骨組みと車輪を船で輸送してその場で組み立てるだけなので、時間はかからない。

発注するのは、ヨーテボリ市が出資者の一つであるヨーテボリ観光・イベント公社Liseberg(リセベリ遊園地)。だから、収益が予想をもし下回ったときには地方税から補填がなされる可能性も高い。

もっとマシなアイデアはなかったのか? と思う。ありきたり過ぎて、最初にアイデアを耳にしたときは「ヨーテボリ的なジョーク?」と思ってしまった。まぁ、評判が悪かったり、実際に景観を壊すことが明らかになれば、高層ビルとは違って取り外すのも楽だろうから、よいかもしれないが・・・。実際のところ、現在の建設予定地であるヨータ川岸の部分に設置されるのは2年ほどで、その後はリセベリ遊園地の中に移設して、園内のアトラクションとして使う予定なのだという。

嵐のあとの良い天気

2010-03-11 07:45:46 | Yoshiの生活 (mitt liv)
2月20日にスウェーデンを襲った吹雪。
ストックホルム発の特急列車が10時間前後かかって到着した体験談は、ここでも紹介した。

その翌日は、とてもいい天気。
嵐が吹いたあとのヨーテボリの町がどうなっているのか? この町で暮らすたくさんの人々が、興味津々で外に出て散歩していた。カメラを持っていた人も意外と多かった。


上の写真をクリックするとスライドショーになります。



鉄道の次は、海上交通でも

2010-03-07 18:21:44 | コラム
この冬は例年以上の寒波のために、鉄道が麻痺していることは以前、書いた。ストックホルムとヨーテボリを結ぶ幹線は、既に再開されているものの、切り替えポイントの多いHallsberg(ハルスベリ)駅付近では修復工事が今でも続いているため、特急X2000は2時間おきの間引き運転が行われている。

交通麻痺は、鉄道だけではない。海運交通もストックホルムとオーランド島(フィンランド)の間で麻痺している。3月に入ってずいぶん暖かくなり、地域によっては春の兆候すら見られる時期なのになぜ? 答えは、流氷だ。

気温が少しずつ上昇していくにつれ、バルト海北部のほうで海面を厚く覆っていた氷に亀裂が入り、流れ出すようになる。そして、その氷の大軍が北風に押されて南下をし、ストックホルム沖合いの群島海域に到達している。その力は相当なもので、大型フェリーですら立ち往生してしまうという。

先週は、すでに火曜日の段階で、ストックホルムとフィンランドのオーランド島の間を行き交う旅客フェリーや貨物船が流氷に阻まれ、立ち往生してしまった。砕氷船が急行し、航路の「こじ開け」が行われたものの、一部のフェリーはストックホルム入りできず、オーランド島に引き返す羽目となった。

写真の出典:沿岸警備隊


そして、木曜日。この日は同じ海域で、40から50の数の旅客フェリーや貨物船が立ち往生してしまった。この中には、フィンランドとスウェーデンを結ぶ定期航路を運行するViking Line(ヴィーキング・ライン)社の「Amorella号」(乗客700人)と「Isabella号」(乗客1150人)もあった。しかも、Amorella号は流氷の力でコントロールが利かなくなり、近くで立ち往生していた貨物船と接触してしまった。幸い船体にかすり傷が付く程度で済んだようだ。

写真の出典:沿岸警備隊

スウェーデンやフィンランドの沿岸警備隊や海上交通庁などが多数の砕氷船を出して救出作業を行ったものの、この時は流氷の勢いが強く、砕氷船自体も一時は立ち往生してしまった。

砕氷船によって航路をこじ開ける作業が、夜を徹して行われた。乗客は船内で夜を明かすことになった。そして、旅客フェリー2隻は翌日になって入港することができた。

写真の出典:沿岸警備隊

海上交通庁によると、流氷の勢いがここまで強いのは14年ぶりだという。先週はフェリー各社に対して「航行を取りやめるように」との警報を発令していたものの、一部の旅客船や貨物船はそれが届いていなかったのか、もしくは、「たいした事ない」と甘く見たようで、海に乗り出してしまったのだ。大型船となると、船体も丈夫であるから「乗り切って見せるさ」と船乗りの意地が冒険に駆り立てたのかもしれないが、14年ぶりの分厚い流氷とあって、後悔したときには手遅れだったに違いない。


テレビの映像(上をクリック)

毎日新聞・3月1日朝刊

2010-03-03 09:28:19 | コラム
今週は非常に忙しく今日も更新は無理でした。
メール等、多数頂きありがとうございます。楽しく読ませていただいております。ただ、個別の質問等には残念ながらお答えする余裕がありません。申し訳ありません。

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ところで、3月1日付の毎日新聞(朝刊)の環境面に記事が載りました。
出版:ヨーロッパウナギ危機など警告 スウェーデン女性が「沈黙の海」

白熱した女子カーリング決勝

2010-03-01 07:53:29 | コラム
今年のオリンピックで特に印象に残ったのは、なぜかカーリングだった。今までカーリングを真面目に観戦したことなかったけれど、金曜日夜に酔って帰宅して、テレビを付けたら女子決勝(スウェーデン対カナダ)を中継しており、夢中になってしまった。

安定したプレーを続けるカナダ。2-2と同点に追いついたスウェーデンだが・・・


真ん中に入れたのはいいものの、自分達のコマを弾いてしまった。しかし、ごく僅差で敵よりも内側にあることが分かり、ここでさらに2点獲得。

その後カナダに1点を追加され、4-3に・・・


ここで大きなミス! 再び同点に。

そして、カナダにさらに1点取られ、4-5に・・・


9回、スウェーデンはここで1点欲しいところだが、再びミス!相手に得点を許し4-6に。



そして、最終の10回。最後の一投にかかっているが、見事に決めて2点獲得。試合は延長戦へ。



延長11回。スウェーデンの最後の一投はダメだった。これでは、カナダに最後の一投で両方とも弾き飛ばされてしまう。もう無理だと諦めかけていたそのとき、カナダが大きなミスをしてしまった。

スウェーデンは7回以降、調子が崩れ、焦りのためにミスをしてしまうという悪循環に陥り、既に10回の段階で「無理だ」と諦めかかっていたという。しかし、意外な勝利となり、おおはしゃぎする姿も印象的だったが、それ以上に映像の最後で4人で「ブチュー」としていたのが面白かった。

スウェーデンの投げ手のおばちゃんは、プレッシャーにも耐え、最後まで頑張ってくれた。カナダの投げ手もよく頑張っていた。カーリングを見ていると自然に力んでしまって、あごが痛くなった(笑)。