ボルボ・カーズ(乗用車部門)は、フォードから中国の吉利(Geely)に正式に売却されました。脱力してしまいます。ニュースを見る気にもなりません・・・。また、のちほど。
----------
2009年はスウェーデンのほとんどの株式企業が業績赤字を記録し、株価も大幅に下落した。しかし、大企業の多くでは経営陣や役員などにボーナスが支払われただけでなく、その額も前年を上回ることになった。
これと同時期、金属工の労組は「減産のために労働時間が短縮した場合、給与を2割までならカットしてもよい」という発表を行った。減産にもかかわらず月給がそのままであれば、製品一単位あたりの労働コストが高くつき、経営陣が従業員の解雇に踏み切ってしまう、という苦渋の決断だった。金属工だけでなく、その他のブルーカラーやエンジニアなどのホワイトカラーでも同様の給与カットが多くの職場で相次いで行われた(このおかげで一部の解雇は撤回され、失業の増大に歯止めをかけることとなった)。
そんな矢先だったから、大企業の幹部や役員が高額のボーナスをもらうことに対して、スウェーデン国内では批判が相次いだ。労働組合や社会民主党、左党はもちろんのこと、中道右派の連立政権もボーナス批判に回った。ここには、本来、財界や経営者連盟と密接な関係にある(はず)の保守・穏健党やキリスト教民主党なども含まれていた。
財界や経営者連盟は、連立政権のそのような態度に不快感を表し「人気取りのポーズだ」と批判した。確かに、連立与党は当初、ボーナスを認めるような発言をしていたものの、支持率の低下を恐れて、次第に企業批判を繰り返すようになっていった。
ともかく、穏健党を中心とする中道保守政権の最初の攻撃対象は、金融機関のボーナスだった。スウェーデンの4大銀行のうち、Handelsbankenを除く3行は金融危機を受けて、特にバルト三国での融資が焦げ付き、資金繰りに苦しんでいた。スウェーデン政府からの救済策のお世話になる銀行もあったものの、例えばその一つであるSEBでさえ、頭取を筆頭とする経営陣へのボーナスが引き上げられるという。その是非を巡って政府とSEBは対立。4月初め、銀行のボーナスのあり方や経営倫理について討議するため、政府は4大銀行の頭取を呼びつけた。しかし、件のSEBの頭取が現れなかった。政府は無視されたことになり、結局、面目丸つぶれとなってしまった。
ボーナス論争の第2ラウンドは、国有企業のボーナスだ。ここには、完全国有だけでなく、政府が部分的に株式を保有する企業も含まれる。政府・産業省は国営企業の各社に経営陣に対するボーナスの支給やその引き上げをしないように要請した。2009年3月24日付の日刊紙のオピニオン記事で、中央党の産業相が「国有企業のすべてのボーナスを停止させる」という意気込みを発表した。しかし、実際にはあまりうまく行かなかったようだ。国有企業の経営を公式に規定しているのは、政府からの毎年定期的に与えられる指令なのだが、そこではボーナスに関して明確な規定がそもそも設けられていなかったようなのだ。その指令を急遽変えることはできず、産業相のポーズも空振りに終わった。
さて、第3ラウンドは、民間企業のボーナスだ。エリクソンやボルボをはじめとする多くの民間企業の経営陣には国有企業以上にボーナスが降り注がれていた。世論の支持を得るために、それを何とでも阻止したい。国有企業でも難しかったことが、民間企業でうまく行くはずがないのだが、スウェーデン政府はここで大きな武器を持ち出した。公的年金基金だ!
公的年金基金は複数の基金に分割されて、国債などの債券だけでなく、企業の株式にも投資をしている。機関投資家としては、スウェーデン企業の株式のかなりの部分を所有している。だから、その株主の権利を株主総会で行使することで、企業のボーナスをストップできるのではないか、そう考えたのだ。
政府は直ちに公的年金基金の各基金に通達を出して、企業の経営陣に対するボーナス案を株主総会で否決するように要請した。しかし、公的年金側も反論した。公的年金基金の投資活動を規定しているのも、政府から定期的に与えられる指令であるが、そこには「年金基金の長期的な利回りを安定的に増大させることを第一の目標とすること」と書かれていた。つまり、利回りが長期的に見て増大すると年金基金が判断すれば、ボーナスの是非は年金基金の関心外ということになる。
それだけでなく、年金基金側には時の政権が年金運用に口を挟むことを防ぎたい、という意向もあったようだ。例えば、このボーナス論争と同時期には、スウェーデンの自動車産業をどうするか、ということが政治の舞台でも大きく取り上げられていた。そんなときに、野党・社会民主党などからは経営不振に陥ったボルボなどに新株を発行させて、公的年金基金が買い受け、資本を注入すべきだ、というような提案もあったが、もちろんこの時は公的年金基金もそんなリスクの高い話は問題外とはねつけたのだった。
それは無理な話としても、では公的年金基金が株主総会でボーナスの是非に関して、政府の意向を受けて発言権を行使すべきなのか? という点には注目が集まって、昨年春は大いに議論された。
しかし、結果はどうだったかというと、例えば、テレコム大手のエリクソンの株主総会では、公的年金基金のうち第1基金と第2基金は総会に全く出席しなかった。総会で立場を選択することを避けてのことだった。一方、第3基金と第4基金は総会に出席したものの、さて重要な投票の際には何と棄権してしまった。そして、他の株主の賛成票が過半数を得たために、ボーナス案は可決してしまったのだ。
政府にとっては、何とも痛い話だった。それとも、最初からこうなることを知りつつも、有権者の支持を得るための一応のポーズをしたということなのだろうか・・・?
ともかく、この議論は今でも続けられている。
2009年はスウェーデンのほとんどの株式企業が業績赤字を記録し、株価も大幅に下落した。しかし、大企業の多くでは経営陣や役員などにボーナスが支払われただけでなく、その額も前年を上回ることになった。
これと同時期、金属工の労組は「減産のために労働時間が短縮した場合、給与を2割までならカットしてもよい」という発表を行った。減産にもかかわらず月給がそのままであれば、製品一単位あたりの労働コストが高くつき、経営陣が従業員の解雇に踏み切ってしまう、という苦渋の決断だった。金属工だけでなく、その他のブルーカラーやエンジニアなどのホワイトカラーでも同様の給与カットが多くの職場で相次いで行われた(このおかげで一部の解雇は撤回され、失業の増大に歯止めをかけることとなった)。
そんな矢先だったから、大企業の幹部や役員が高額のボーナスをもらうことに対して、スウェーデン国内では批判が相次いだ。労働組合や社会民主党、左党はもちろんのこと、中道右派の連立政権もボーナス批判に回った。ここには、本来、財界や経営者連盟と密接な関係にある(はず)の保守・穏健党やキリスト教民主党なども含まれていた。
財界や経営者連盟は、連立政権のそのような態度に不快感を表し「人気取りのポーズだ」と批判した。確かに、連立与党は当初、ボーナスを認めるような発言をしていたものの、支持率の低下を恐れて、次第に企業批判を繰り返すようになっていった。
ともかく、穏健党を中心とする中道保守政権の最初の攻撃対象は、金融機関のボーナスだった。スウェーデンの4大銀行のうち、Handelsbankenを除く3行は金融危機を受けて、特にバルト三国での融資が焦げ付き、資金繰りに苦しんでいた。スウェーデン政府からの救済策のお世話になる銀行もあったものの、例えばその一つであるSEBでさえ、頭取を筆頭とする経営陣へのボーナスが引き上げられるという。その是非を巡って政府とSEBは対立。4月初め、銀行のボーナスのあり方や経営倫理について討議するため、政府は4大銀行の頭取を呼びつけた。しかし、件のSEBの頭取が現れなかった。政府は無視されたことになり、結局、面目丸つぶれとなってしまった。
ボーナス論争の第2ラウンドは、国有企業のボーナスだ。ここには、完全国有だけでなく、政府が部分的に株式を保有する企業も含まれる。政府・産業省は国営企業の各社に経営陣に対するボーナスの支給やその引き上げをしないように要請した。2009年3月24日付の日刊紙のオピニオン記事で、中央党の産業相が「国有企業のすべてのボーナスを停止させる」という意気込みを発表した。しかし、実際にはあまりうまく行かなかったようだ。国有企業の経営を公式に規定しているのは、政府からの毎年定期的に与えられる指令なのだが、そこではボーナスに関して明確な規定がそもそも設けられていなかったようなのだ。その指令を急遽変えることはできず、産業相のポーズも空振りに終わった。
さて、第3ラウンドは、民間企業のボーナスだ。エリクソンやボルボをはじめとする多くの民間企業の経営陣には国有企業以上にボーナスが降り注がれていた。世論の支持を得るために、それを何とでも阻止したい。国有企業でも難しかったことが、民間企業でうまく行くはずがないのだが、スウェーデン政府はここで大きな武器を持ち出した。公的年金基金だ!
公的年金基金は複数の基金に分割されて、国債などの債券だけでなく、企業の株式にも投資をしている。機関投資家としては、スウェーデン企業の株式のかなりの部分を所有している。だから、その株主の権利を株主総会で行使することで、企業のボーナスをストップできるのではないか、そう考えたのだ。
政府は直ちに公的年金基金の各基金に通達を出して、企業の経営陣に対するボーナス案を株主総会で否決するように要請した。しかし、公的年金側も反論した。公的年金基金の投資活動を規定しているのも、政府から定期的に与えられる指令であるが、そこには「年金基金の長期的な利回りを安定的に増大させることを第一の目標とすること」と書かれていた。つまり、利回りが長期的に見て増大すると年金基金が判断すれば、ボーナスの是非は年金基金の関心外ということになる。
それだけでなく、年金基金側には時の政権が年金運用に口を挟むことを防ぎたい、という意向もあったようだ。例えば、このボーナス論争と同時期には、スウェーデンの自動車産業をどうするか、ということが政治の舞台でも大きく取り上げられていた。そんなときに、野党・社会民主党などからは経営不振に陥ったボルボなどに新株を発行させて、公的年金基金が買い受け、資本を注入すべきだ、というような提案もあったが、もちろんこの時は公的年金基金もそんなリスクの高い話は問題外とはねつけたのだった。
それは無理な話としても、では公的年金基金が株主総会でボーナスの是非に関して、政府の意向を受けて発言権を行使すべきなのか? という点には注目が集まって、昨年春は大いに議論された。
しかし、結果はどうだったかというと、例えば、テレコム大手のエリクソンの株主総会では、公的年金基金のうち第1基金と第2基金は総会に全く出席しなかった。総会で立場を選択することを避けてのことだった。一方、第3基金と第4基金は総会に出席したものの、さて重要な投票の際には何と棄権してしまった。そして、他の株主の賛成票が過半数を得たために、ボーナス案は可決してしまったのだ。
政府にとっては、何とも痛い話だった。それとも、最初からこうなることを知りつつも、有権者の支持を得るための一応のポーズをしたということなのだろうか・・・?
ともかく、この議論は今でも続けられている。