スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

A pint of beer? No, no, no!

2008-11-30 00:57:49 | コラム
「曲がったキュウリもOK!」のところで、EUは必要以上に細かい規定をブリュッセルでたくさん作って、加盟国に従わせる傾向がある、と書いたけれど、それに関連して、こんなこともあった。

ヨーロッパのほとんどの国では、日本と同じメートル、グラム、リットルといった単位が使われているのだが、例外はイギリスアイルランドであり、ここではマイル、ポンド、パイントといった単位が使われている。


A pint of beer


ちなみに「メートル」「グラム」「リットル」といった単位システムのことをメートル法と呼ぶ。

しかし、EU委員会は既に1980年の段階で「2009年以降は、メートル法がEU内で唯一許される単位システムとする」というEU指令を出していた。単位を統一して、EUの統一市場内での人や物の行き来を円滑にするのが目的だった。

これまで昔ながらの単位を使ってきたイギリスやアイルランドでは、単位の移行に対する反発が強かった。しかし、EUからの圧力を受けて、イギリス政府は2000年に「古い」単位の使用を禁止する法律を制定した。道路標識の単位をキロメートルに変えたり、野菜や飲み物などの商品の値段を「グラム・キログラム」や「リットル」の単位で表示したりしなくてはならなくなったのだ。しかし、一般の商店などではほとんど守られておらず、実質的な効果を伴わない法だと言われてきた。(アイルランドでも2年ほど前に道路標識の変更などを行っている)

しかし、完全移行の期限であった2009年が近づくなか、EU委員会は2007年9月に若干の譲歩を示したのだった。「マイル」「ポンド」「パイント」という単位もイギリスやアイルランドが望むならば、補完的な単位として今後も用いてもよい、というものだった。その理由は「これらの単位はイギリスやアイルランドの地元の市場でしか使われておらず、EUの統一市場創設を阻むとは考えられにくい」からであった。ただし、あくまでメートル法を基本単位とすることには変わりはない。つまり、例えば牛乳を「パイント」で売っても構わないのだけど、「リットル」あたりの値段もちゃんと併記しなさい、ということなのである。

イギリスのある八百屋さんは今年11月、キログラムで野菜の値段を表示していなかったとして、罰金を課せられることになった。この店を第二次世界大戦中に始めた母親から経営を引き継いだ女性店主(65歳)はラジオの取材に対してこんなコメントをしていた。

「そんなバカなことがあるのか。うちのお客さんはみんな地元の人で、ポンドやパイントしか使わない。もし誰かがキログラムで量って売ってくれといえば、もちろんそうしてあげる。でも、そんなことは今までにまだないよ。」

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なんだか理不尽なEU指令だな、と思う。その一方で、このような上からの強制がなければ、世界の各国はそれぞれ独自の単位を今まで使い続けてきたかもしれない。日本も今頃は尺貫法を用いていたかも・・・?
http://ja.wikipedia.org/wiki

ただ、他の多くの国がある共通の制度を用いるようになれば、それに合わせたほうが合理的、と考える人も出てくるだろうから、国外からの強制がなくても何らかの共通単位に遅かれ少なかれ収斂していたかもしれない。イギリスやアイルランドがこれまで独自のシステムを維持してきたのは、アメリカという大きな国が似たような制度を持っていたことが一つの理由だろうか?(ややこしいことに、英パイントと米パイントは若干違う)

ともかく、単位なんてその国にしばらく住めば、ある程度慣れてくるものだと思う。通貨がそのいい例だ。だから、果たして強制的に押し付ける必要がどこまであるのか、疑問に思う。

ヨーテボリ空港

2008-11-27 20:31:37 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ヨーテボリ空港から携帯電話を使っての書き込み。

先週末はストックホルムを中心に寒波が猛威を振るったおかげでアーランダ空港の滑走路の一部が閉鎖されたり、バスや鉄道が麻痺したりしたようだ。

気温は氷点下10度を下回っていたようだ。

西海岸に面するヨーテボリはストックホルムよりも少し暖かい。雪が本格的に降るのはもう少ししてからだ。

脱出!

2008-11-26 08:02:37 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今日は全くついていない日だった。

朝はストックホルムからの特急X2000が18分ほど遅れたために、ローカル線への乗り継ぎに失敗して、最後の区間はバスで運ばれることに。

帰りに乗ったのも特急X2000。乗換駅まであと20km程というところで、先行していた別のX2000が事故のため立ち往生。しばらく停車して様子を見るものの、復旧の見込みが立たないらしく、代替バスが用意され、ほんの10kmの区間をバスで移動して、その先で待っていたさらに別のX2000で残りの10km区間を行くことになった。

X2000はかなり満員。一両に70人としても全部で350人くらいはいただろうか。急遽代替バスを呼ぶといっても、すぐに手配できるわけではない。でも、意外と早く、停車から20分くらいで3、4台の大型バスが横付けされていた。

「Nu ska vi evakuera!(さあ、脱出しよう!)」

という車掌の合図で、号車ごとに順番に線路に降りていく。手荷物の移動に時間がかかったりして、全体では結局2時間ほどのロス。

とにかく、スウェーデンで線路を歩くのは初めてだった。


事故を起こしたというX2000は2時間半遅れくらいで、そのまま再び走っていたからたいした事故ではなかったようだ。

住民投票: 自然を守るか? 経済と雇用を重視するか?

2008-11-24 09:18:02 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンでは国民投票が過去に6回行われたことがある。一方、市や県といった地方レベルでの住民投票はもう少し頻繁に行われている。過去10年ほどの統計を見ると、スウェーデン全体でだいたい年に2件から8件ほどのようだ。橋や道路、病院、ショッピングセンターの建設、市(コミューン)の分割などの問題が扱われている。2006年にストックホルム県で行われたストックホルム市中心部の「乗り入れ税・渋滞税」の導入をめぐる住民投票も記憶に新しいところ。

先週日曜日にもある町で住民投票が行われた。スウェーデン北部のラップランドのVilmelmina(ヴィルヘルミーナ)と呼ばれる町で、町を流れるvojmån(ヴォイモーン)川の存続をめぐって票が投じられた。

写真の出典:Dagens Nyheter

この町には、国営の電力会社Vattenfall(ヴァッテンファル)vojmån川から導水トンネルを引き、24km離れた水力発電所に水を送って発電に利用する、という計画を打ち立てていたのだ。24kmに及ぶ導水トンネルが建設され、vojmån川から水が送られるようになると、この川を流れる水の8割は消えてしまい、川はこれまでとは全く違う姿になってしまうという。

この計画自体は1980年代に持ち上がったものだが、地元の強い反対で棚上げされていた。

写真の出典:Dagens Nyheter

そして今、再び計画が持ち上がったのだ。

電力会社の側は、vojmån川が半ば干上がってしまう代償として、この町に4000万クローナ(5~6億円)のお金をかけてインフラを整備すること、また風力発電所を建設することを提示している。風力発電所は、完成すれば年間500~700万クローナ(6000~9000万円)の収益を上げると試算されている。また、導水トンネルの建設に伴って合計600人分の雇用が4年半に分けて提供されるという。

日本語で書かれたスウェーデンに関する本には「スウェーデンには地域格差の問題はない」などと現実に即さないことを書いているものもあるが、実際は過疎・過密問題は大きな問題だ。この町Vilhelminaもあまり産業がないため、若い人の流出が多く、高齢化が進んでいる。現在の人口は7000人ほどで、10年前と比べると1000人以上減少している。

そのため、電力会社からの代償案に対して、市議会の議員は与野党を問わず、ほとんどの議員が「寛大だ」と、それを受け入れる態度を示している。もちろん、電力会社が支払ってくれる代償だけでなく、導水トンネル建設に伴う経済効果という面でもこの町は恩恵を受けることになる。また、住民の間でも少なからずの人がこの導水トンネル建設計画を支持している。「特に今は不景気だから、このプロジェクトがこの町には必要なんだ。」とある住民は言う。

一方、手つかずの自然を失ってしまうことに対する懸念も大きい。大金が町に降り注ぎ、そして建設による経済効果の恩恵を受けるのは、わずか数年のことに過ぎない。そんな目先の利益に目をくらまして、貴重な自然を手放してもいいものか。ある住民は「電力会社はお金を撒くことで、天然資源を安く手に入れようとしている。そして、安く手に入れた資源で大きな利益を掠め取って行く。まるで植民地みたいではないか。」と批判する。

vojmån(ヴォイモーン)川は全長65kmの川で、Vilmelmina(ヴィルヘルミーナ)の北側を流れている。ここはフライフィシングなど、釣りには絶好の場で、夏には多くの釣り客が訪れる。そのため、観光収入という形でこの町の経済に貢献してもいる。(例えばこの川の年間の「釣り許可証」の売り上げは1300近く。)


釣り客向けの観光パンフレットより

ともかく、この小さな町が賛成派と反対派で二分してしまい、町で見かけても挨拶しないなど、住民の間の雰囲気も重苦しいものになってしまったらしい。

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そして、先週日曜日に行われた住民投票の結果は「Ja」が47%、「Nej」が53%。投票率は74%。

僅差だが、反対派が勝ったのだ。スウェーデンの住民投票は、原則としては「結果が拘束力を持たない」のだが、この住民投票をするにあたって市の執行委員会も電力会社も「結果を尊重する」と言っていたから、プロジェクトは行われないことになる。

電力会社Vattenfallはこの結果に落胆しているが、ラジオのニュースでは次のようなコメントを残していた。「もちろん残念だが、電力会社としてこのプロジェクトを巡って町や住民たちと活発な議論ができたのは良かった。地元住民や市とのコミュニケーションの重要性という点で、我々の今後の活動のお手本となるだろう。

ハードな一週間が終了・・・

2008-11-22 08:14:46 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今週は建築の専門家の方々に付いて通訳の仕事をさせてもらった。今回は今までやってきた通訳の中でも相当大口の注文だった。

かなりハードなスケジュール。連日、日が昇る前から夜遅くまで、あちこちへ移動しながら複数の視察を行った。多い日で6ヶ所をこなした(+会食)。

依頼してくださった方の迷惑になっては困るので、詳しいことは書けないけれど、通訳者である私自身、今回の視察でも多くのことを学ばせてもらった。こういう機会がなければ絶対に訪ねることができないような場所にも足を運んだ。

連日、かなりの高テンションを朝から晩まで維持してきたから、これから疲れがどっと出てくるんだろうな。


夜明け前の空と月

カールスクローナ

2008-11-19 07:21:47 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今日はKarlskrona(カールスクローナ)というスウェーデン南部の町に滞在。ここは、Blekinge(ブレーキンゲ)という地方の中心地。スウェーデンは北から南までほとんどの地方へ足を運んできたつもりだったのだけど、このブレーキンゲ地方を訪れるのは今回が初めて。

ちょっと交通の便が悪く、特急X2000が走る鉄道の幹線から外れたところにあるため、ヨーテボリからは鉄道で4時間半、ストックホルムからも5時間以上はかかるところ。

ここは、昔から海軍の基地が置かれてきたところで、今でも規模はかなり縮小されたものの海軍基地が存在する他、要塞の外壁が残されている。スウェーデン海軍向けに艦艇や潜水艦を作る造船工場もある。


この小さな町には、住宅行政庁(Boverket)の本部が置かれている。今日、仕事の関係で話をした住宅行政庁の幹部級の職員は「スウェーデンの潜水艦は国際的にも評価が高く、例えば、探知が難しいため、アメリカ海軍に貸し出されて、演習するときの目標艦としても使われている」と説明してくれた。(スウェーデンの潜水艦はディーゼル艦)

この町はとにかく風が強い、というのが私の第一印象だ。別の職員の話だと「1年のうち360日は風が強い」のらしい。では、残りの5日はどうなのかというと「嵐だ」という答えが帰ってきた。(この町定番の“自嘲の笑い話”らしい)

町の中心部には、なぜか不思議なイタリア、ピアッツァ風の広場があった。




天気がいいときにまた来たいな。

曲がったキュウリもOK!

2008-11-17 06:23:45 | コラム
キュウリが曲がっているのはそもそも当たり前のことなのだけど、EUは改めて「曲がっていてもOK!」という決定を下そうとしている。何の話かって?


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2004年3月から8月までの半年間、私はOSCE(ヨーロッパ安全保障協力機構)という国際機関(日本は非加盟だがオブザーバー参加)のクロアチア支部でインターンシップをしていたことがある。

ちょうどその時、正確にいえば2004年5月1日にある歴史的なこと東欧では起こった。ポーランドやチェコなど東欧諸国を始めとする10カ国が新たにEUの加盟国となったのである。

クロアチアはというと、将来のEU加盟の可能性を協議する交渉を当時開始したばかりで、その10カ国には含まれていなかった。一方、クロアチアと同じ旧ユーゴスラヴィア諸国の中では一番西側にあるスロヴェニアがこの時、早くもEU加盟を果たした。そのため、クロアチアも早くEU加盟を達成すべきという機運が国内で感じられていた。

一方で、EU加盟に対する反発もかなり強くあった。一番大きな理由は、EU側がクロアチアが加盟するための条件として要求していた、クロアチア軍の元将校の引渡しだった。(この将校は、90年代前半のユーゴ紛争中にクロアチア軍の司令官を務めていたが、国内のセルビア系住民の殺害などの戦争犯罪に責任を持つとされ、オランダ・ハーグにある旧ユーゴ国際戦犯法廷(ICTY)が起訴状を出していた。しかし、国内では彼を英雄視する傾向が強かった。ちなみに彼は2005年にスペインで逮捕されている。)

そんな議論の傍らで、こんな理由によるEU反対の声も上がっていた。

EUに加盟してしまうと、曲がったキュウリは生産できなくなる。毎年、美味しいキュウリを私たちに提供しているクロアチアの農村地帯は大打撃を受ける!」

そんな馬鹿な話があるのか、と最初は思ったけれど、EUは本当に「EU内で販売するためには、キュウリはまっすぐでなければならない」という規定を設けていたのだ。様々な形のキュウリが市場に出回ると、商品の規格がまちまちになってしまい、EU内での自由な競争を阻み、統一市場の形成を阻害するから、というのが、理由だった。

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よく考えてみると、スウェーデンの店先に並ぶキュウリは、すべてまっすぐだ。しかし、そんな規定があるなんて、クロアチアでそんな議論を聞いた時に初めて知ったのだった。

このほかに、トマトの形だとか、バナナの曲がり方とか、ニンジンは真っ直ぐでなければならない、とか、玉ねぎは左右対称でなければならない、などなど、34の果物・野菜に対して、細かい分類規定があった。そして最良クラスに分類されたものだけが優先的にEU市場で取引されていた。規格を満たしていない生産農家は、EU市場に売ることが難しいし、EUからの農業補助金も得にくかった。

EU委員会は、34品目に与えられた分類規定を10品目にまで減らすという。規定が今後も残るのは、リンゴ、洋ナシ、かんきつ類、桃、トマトなどらしい。(なるほど、丸いものだけね!)

無事決定がなされれば、2009年7月1日から実施されるという。

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私は、EUもヨーロッパの発展のためによい側面をたくさん持っていると思うのだけど、その一方で、とかく官僚主義、というか必要以上に細かい規定をブリュッセルでたくさん作って、加盟国に従わせる傾向があるのが大きな問題だと思う。


規格通りの野菜がきれいに並んで機械にかけられている光景を見ると、
これはもはや自然の産物ではなく工業製品だという気もしてくる。

『タバコが歩き出すのを阻止せよ!』

2008-11-14 07:55:06 | コラム
少し以前に、日刊紙に掲載された読者の投稿写真。福山のホテルのエレベーターの中に貼られていた「注意書き」らしい。

思わず笑ってしまった。



日本語の下に書いてあるのは、
・Please stop the cigarette excluding the place with the ashtray.
・Please stop the cigarette of walking.
・Please entrust the key to the room to the reception desk when you go out.
・I will refuse entering a room in one other than the staying customer hard.


今どき、自動翻訳ソフトでもここまで酷い英訳はしないと思うけれど・・・。
「いや、完璧な英語でなくても言いたいことは伝わっているんじゃないの」って?

私もこれをスウェーデン人の同僚に見せてみるけれど、意味が全く分からないか、意図されていることとは全く別の意味に取ってしまうようだ・・・。もともと意図されている内容が分からなければ、笑うことすらできない。

この写真を投稿したスウェーデン人の旅行者も「この注意書きが何を意味しているのか、本当に考え込んでしまう。」と書き添えている。新聞の編集部も「おそらく、タバコが何かをするのを阻止しろ、といいたいのだろうけど、それが何かが分からない。」と付け加えている。

投資銀行Carnegieの営業停止(2)

2008-11-13 08:37:14 | スウェーデン・その他の経済
月曜日の朝に、ラジオのニュースで聞いたところでは、新株発行による13億クローナの増資が行われるという見通しだと伝えられていた。しかし、その日のうちに金融監督庁は銀行としての営業許可を取り消し、カネーギェ投資銀行の存続を認めないとする決定を行ったのである。


問題は、カネーギェ投資銀行リスク管理マッツ・スンドクヴィスト(Maths O Sundqvist)氏というたった一人の投資家に対して、銀行の資産とは不釣合いな膨大な額を何度も貸し出してきたのだ。スウェーデンの法律によると、銀行の自己資本の25%以上を一人の相手に貸し出すことは禁止されているらしいのだが、それを上回る貸し出しが行われていた。また、貸し出しに見合う担保を確保していなかった。彼への貸し出しにおけるリスク総額(貸し出し額と担保の資産との差額)は、一時は13,4億クローナを超えていたとされる(実際は3,8億クローナまでしか許されていない)。

この点を指摘されたカネーギェ投資銀行は、「リスクを減らす措置を取った」と金融監督庁に報告していた。しかし、その実態は、その投資家がカネーギェ投資銀行からの借入金によって購入していた株式の一部を、自分の息子に売却しただけだった。一人に対する貸し出し額とリスク総額を「形の上」で減少させただけだったのだ。しかしそれ以降も、今や息子が投資銀行に対して持つことになった債務を、父親が息子とのオプション契約などを通じて事実上維持していたために、実際は何も変わっていなかったのである。

このカネーギェ投資銀行は、1年前にも金融監督庁から「リスク管理がいい加減だ」と警告を受け、5000万クローナの罰金を課せられ、社長が辞任に追い込まれている。過去15年間の記録を見てみると、この投資銀行は、訴えられたり、犯罪の疑いがもたれたり、重大な事件を起こしたりといったことが17件もあり、かなりの乱脈経営を繰り返していたようだ。

今回の金融監督庁の決定を受けて、この投資銀行のすべての業務活動は、普段は国債を発行や償還を管理している国債管理庁が引き継ぐことになった。国が経営を引き継ぐことになったのは、これまで特別融資などの形でこの銀行に合計50億クローナの貸付を行ってきたため、「担保」として業務活動を「差し押さえ」たからである。これから、業務を整理していき、売却できる部分は買い手を見つけて売り払い、最終的に解体して行くのだという。

そのまま倒産・解体させてもよかったのだろうに、なぜ国は業務活動だけでも存続させようとするのだろうか? 実は、金融監督庁としてはそれも選択肢の一つだったという。しかしそうすると、国庫から拠出された50億クローナの貸付は返ってこないことになり、国にとっては全くの損失になってしまう。それに、スウェーデンではかなり大手の投資銀行であるため、倒産させると金融システムの安定性に再び揺らぎが生じかねないという恐れもあっただろう。

国に業務活動を奪われた後、この銀行にはほとんど資産が残っていない。マッツ・スンドクヴィスト(Maths O Sundqvist)氏に対する貸し出しで既に10億クローナの損失が出ている。現在、担保が実際にどれだけの価値を持っているのか、見積もりがなされている。しかし、彼には複数の別の大手銀行も貸し出しを行っており、その担保権があまり明確ではないらしく、金融機関の間で奪い合いになる可能性が高いという。ともかく、カネーギェ投資銀行の株式はほとんど価値を失うことになりそうだ。


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マッツ・O・スンドクヴィスト(Maths O Sundqvist)氏は、スウェーデン北西部のイェムトランド(Jämtland)地方と呼ばれる辺鄙な地域の出身だ。この地方の中心地はオステシュンド(Östersund)という町だが、彼はこの町に大きな資産を築いており「オステシュンドの町の半分は彼の物」と言われるくらいの資産家だ。


今年の7月に、日刊紙DNはこの『イェムトランド地方の王様(Jämtlandskungen)』について特集記事を書き、彼の普段の一日を細かく追っている。この中で「彼はスウェーデンで最も無名な億万長者であるが、スウェーデンの産業界では重要な地位を占めている。」と説明している。また彼は、あまりメディアに出たがらない起業家(エントレプレナー)であり、お城(というか邸宅)(Högfors slott)の所有者でもあるという。

彼は、父親が経営していたバス会社を弱冠20歳にして引き継ぎ、事業を拡大した後に、地元自治体(コミューン)に売却。その売却益によって、様々な企業を買収したり、株式を大量に取得して経営権を握ったり、不動産業に手を出して大儲けをするなどして、次第に資産を築いていった

現在57歳。現在でも不動産企業をいくつか所有し、また計量技術・エンジニアを専門にした企業グループHexagonの株式の多くを所有してもいる。地元紙の株式を大量に所有していたこともある。

投資銀行Carnegieの営業停止

2008-11-11 06:39:24 | スウェーデン・その他の経済
数週間前に、スウェーデンの大手投資銀行カネーギェ(Carnegie)国が特別融資を行ったというニュースをこのブログで紹介した。

国際的な金融危機の中で、金融機関の間での資本の流動性が極端に低下している中、通常であれば自分で資金をやりくりして営業活動をやっていける金融機関までもが倒れてしまうのを防ぐためだった。

しかし、今日になって、同じ投資銀行カネーギェが営業停止となり、国の国債管理庁が経営を引き継ぐ、という話になった。


いよいよスウェーデンの金融機関も破綻か?と思われるかもしれないが、どうやらそうではないようだ。

この投資銀行は、不透明でリスキーな経営を繰り返しており、スウェーデンの金融監督庁から再三にわたって改善命令を受けてきた。それにもかかわらず、金融監督庁の目を半ば欺きながら、以前と変わらない経営を続けてきたために、金融監督庁も業を煮やして、金融機関としての営業許可を取り消してしまったのである。

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と続けようと思ったものの、かなり眠いので今日はこの辺で。

アブラハミアン選手に対するFILAの判決

2008-11-08 07:31:59 | コラム
スウェーデンのレスリング選手アラ・アブラハミアン北京五輪の準決勝での判定を不服として抗議行為を行い、その後の表彰式の途中に、授与された銅メダルを首から外して、レスリングマットの上に置き去った、というハプニングがあったことは、以前このブログでも伝えた。

2008-08-17:五輪レスリングのスキャンダル!
2008-08-18:五輪レスリングのスキャンダル!(2)
2008-08-20:五輪レスリングのスキャンダル!(3)

アブラハミアン選手とスウェーデン五輪委員会(SOK)は、スポーツ仲裁裁判所(CAS: Court of Arbitration for Sport)にこの事件を調査するように要請し、CASは独自の調査の後、8月23日に判断を下した。それは、準決勝後のアブラハミアン選手の抗議は正当であり、また国際レスリング協会(FILA)は、選手からの抗議があればちゃんと受け付け、判決に問題がなかったどうかを直ちに調査するよう、手続きを改善するように勧告したのであった。

五輪での結果は変わらないものの、彼のほうが正しかったと判断された点は、アブラハミアン選手や彼のファンを喜ばせた。ただ単に、自分が負けて悔しい憂さ晴らしに暴れたわけではなかったことが、認められたわけだから。


アラ・アブラハミアン

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しかし、今週は別の判決が下された。件(くだん)の国際レスリング協会(FILA)によるものである。スウェーデン側の抗議行為を「スキャンダル的な行為であり、オリンピック精神に反している」とした上で、以下のような判決を言い渡した。

Idrottsdomaren ger följande dom:

- Ara Abarahamian ådöms två års diskvalificering/avstängning från alla nationella och internationella tävlingar samt ådöms att erlägga den reducerade summan 3000 schweizerfranc i böter.
-Tränaren Leo Myllari ådöms två års diskvalificering/avstängning från alla nationella och internationella tävlingar samt ådöms att erlägga den reducerade summan 10 000 schweizerfranc i böter.
- Svenska brottningsförbundet ådöms böter på det reducerade beloppet 50 000 schweizerfranc för brott mot Internationella brottningsförbundets grundläggande ordningsregler
-Svenska brottningsförbundet förbjuds att i FILA:s namn arrangera internationella mästerskap i två år.

アラ・アブラハミアンは、国内外の大会へ2年間出場停止とする。さらに罰金3000スイス・フラン(26万円)を課す。

レオ・ミュッレリー監督は、国内外の大会へ2年間出場停止とする。さらに罰金10000スイス・フラン(86万円)を課す。

スウェーデン・レスリング協会には、FIFAの基本的なマナー規則を破ったために、罰金50000スイス・フラン(430万円)を課す。

スウェーデン・レスリング協会は、今後二年間、FILAの名前の使って国際的な大会を開催することを禁じる。


ミュッレリー監督


スウェーデン側は不服申し立てを行う構えだ。アブラハミアン選手は「FIFAは一銭すら受け取るチャンスはない。」と罰金を支払う気はないようだ。それは、ミュッレリー監督も同じようだ。スウェーデン・レスリング協会の代表も「もちろん不服申し立てをする。そうしなければ、アブラハミアンや応援してきてくれた人たちを裏切ることになる」と述べている。スウェーデン五輪委員会(SOK)もこれを支持している。

判決の中には、もし罰金を払わなかったときの罰則も書かれており、それによると、アブラハミアン選手と監督は今後一生涯、大会には出場停止とされ、スウェーデン・レスリング協会も今後は一切、国際的な活動にかかわれなくなるという。

(ただし、アブラハミアンは既に引退を表明している)


スウェーデン・レスリング協会代表

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うーん。スポーツ仲裁裁判所(CAS)は「問題があったのはアブラハミアン選手ではなくて、むしろFILAのほう」という判断を下しているのに、そのFILAが裁くのは、なんとも納得が行かない。

もちろん、スウェーデン・レスリング協会はFILAに加盟しているのだから、何か問題があればFILAが判断を下し、加盟団体はそれに従わなければいけないことは理解できる。でも、スポーツ仲裁裁判所(CAS)の判断を全く加味せずに、弱いものイジメでもするかのような判決には疑問が残る。

これからスウェーデン側は不服申し立てを行うのだが、それはどこに対して行うのかというと・・・。実は、再びスポーツ仲裁裁判所(CAS)なのだ。だから、物事はスウェーデン側の期待する方向に動きそうな気がする。

しかし、CASの判断が下るまでの間、当面困ったことが出てきた。FILAの判決の結果、スウェーデン北方ハパランダで11月に行われる予定の国際大会Haparanda cupと来年3月に南部のクリッパンで行われる予定の国際大会Ladies cupが開催できなくなるらしいのだ。CASが早く介入してくれないかな・・・?

新しい時代の予感

2008-11-06 07:38:25 | スウェーデン・その他の政治
今日はVäxjö(ヴェクショー)へ行くために、朝早くから家を出て、電車に乗った。ラジオでアメリカ大統領選挙の速報をずっと聞いていた。オバマ氏の勝利宣言が1時間ほど前に行われたばかりで、彼の演説が流され、スウェーデンの国会議員やジャーナリスト、論説委員などが次々とコメントをしていた。

ラジオなので映像が見えないのだけれど、勝利演説の声と内容だけ聞いていても、このオバマ氏というのは演説がとても上手だな、と感心した。


SVTより

帰宅してから、演説の映像を改めてテレビで見たけれど、声から想像していた以上の自信に満ち溢れる態度だった。人々の心に訴えかける、希望を与えてくれる言葉。そして、時たま見せる、はにかんだ笑みがさらに人の心を掴むのだと思った。

もちろん今日の演説しろ、これまでの演説にしろ、具体的な政策の提示や議論よりも、「大きな」言葉ばかりが詰め込まれ、一種の「お祭り」的雰囲気を作り上げているだけなのだけど、暗いニュースがばかりが続き、将来になかなか希望が見出せない今だからこそ、この歴史的に新しい大統領の誕生が、人々に希望を与え、現在の危機を少しでも早く乗り越えさせてくれるのではないか、という予感さえ感じる。

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ところで、今年初めてのを見た。

ヨーテボリも明け方は0℃を下回ることが増えてきたのだけど、雪はまだまだ降らない。しかし、ヨーテボリから東に向かったスモーランド地方は、いくら同緯度でも森に囲まれた高地なので、雪が既に降っていたようだ。


線路だけでなくて、向こうのプラットホームにも雪が積まれているのが見える

これもまた民主主義・・・

2008-11-04 08:56:21 | スウェーデン・その他の政治
アメリカ大統領選挙の投票日がついにやって来た。

民主主義の実践のされ方にはいろいろなタイプがあり、アメリカの大統領選挙も民主主義の一つの形なのだろうが、スウェーデンの民主主義と比べるとかなり違う。いろいろな友人と議論したり、テレビやラジオの論説などを聞いていても、私だけでなく、スウェーデン人の多くが「異様な」感情を抱いていることが分かる。

アメリカ大統領選の大きな特徴は、具体的な政策を議論して、政治の選択肢を国民に提示して選ばせる、というよりも、むしろ候補者個人の人柄これまでもか!、というくらいスポットライトを当てて、その人間性やカリスマ性、信仰心の強さが強調される点だ。しかも、候補者自身ならまだしも、その配偶者、両親、そして彼らにまつわる「美しいエピソード」「家族主義の素晴らしさ」までが選挙戦の大きな武器となりうる。

言ってみれば「美人コンテスト」である。

いや失礼。正確に言えば、共和党民主党はそれぞれ異なる政治イデオロギーを提示しており、それを巡っての政治的論戦はもちろんある。その論戦を根拠に、支持政党を決める人もいるだろう。また、政治的信念を強く持っている人は、積極的に党を選んでいるだろう。(選べる選択肢が二つしかない、という点も、多くの州では既に色が決まっていて、選ぶ余地すらない、という点も、別の大きな問題だが。)

しかし、それ以上に重要な鍵を握るのが、流動的でどっちつかずの有権者だ。彼らを自分の党に取り込むために、建設的な政策議論を行うならまだいいのだが、そうではなく「人柄」や「カリスマ性」を使った「イメージ作戦」が選挙戦の大きな部分を占めるようになる。

さらにいえば、自分の人柄や家柄、家族の素晴らしさを訴えて、自らのイメージを売り込むだけならいいのだが、そういったネタが尽きてくると、今度は「ネガティブ・キャンペーン」と呼ばれる、相手陣営のこきおとしが始まる。

「オバマはイスラム教徒だ。その証拠に彼のミドルネームは“フセイン”だ。」
「オバマは社会主義者だ。」
「オバマはテロリストとつながっている。」

などと突然言われると、根拠のないデタラメだったとしても、それまでイメージだけで民主党のオバマ氏を支持していた人々は不安になり始める。(“フセイン”は本当。でも、それがどうしたって言うの? また、社会主義者といった場合も、先進諸国を見ればどの国にも、国による所得再配分や社会保障制度といった要素が多かれ少なかれあるので、“社会主義”と罵るだけでは相手を罵倒したことにならないと思うけれど。)

相手の些細な発言を、過大に解釈して「揚げ足を取る」のも常套手段のようだ。


スウェーデンのある日刊紙の社説の挿絵

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今晩は、ヨーテボリ大学で大統領選に関する講演があった。講演者はアメリカ人の若い社会人類学者。(彼は強い英語訛を交えながらも、スウェーデン語で講演をこなしていた)

彼が言うには、両候補者の演説やテレビキャンペーンなどを分析した研究によると、オバマ陣営のキャンペーンの70%マケイン陣営のキャンペーンの10%が自身の政策や人柄、スローガンをアピールすることに費やされ、その残りがまさに「ネガティブ・キャンペーン」だったという。

それから、近年の大統領選では「都会のエリート」vs「地方の庶民」という構図が盛んに利用されているという。例えば、民主党の候補者指名をめぐる争いでは、ヒラリー・クリントンがオバマを指して「彼はエリートであり、地方の人々を蔑んでいる。」といった印象を人々に与えて、地方の有権者の票を集めようとした。

また、かなり裕福なマケイン氏は、ペイリン氏を副大統領候補に抜擢して、彼女に「庶民らしさ」を訴えさせることで、地方の人々や、クリントンを支持していた人々を味方に付けようとしてきた。彼女が盛んに使う言葉は「Joe(典型的なアメリカ人)」「6-pack(庶民が買う、缶ビールが6本ひとまとめになったパック)」「hockey mom」などだ。これをオバマ氏は逆手にとって「マケイン陣営は、ブッシュと同様“カントリー”が好きで、あまりインテリジェントでなく、肝心の経済や政治のことになるとチンプンカンプン」などと反撃もしている。

なぜこのような構図が好まれるのか。どうやら、近年は貧富の格差がさらに進み、特に地方では都市部の裕福層・エリートに対する「cultural resentment(文化的敵意)」がじわじわと醸成しているのらしい。オバマ氏は大学出身のエリートというイメージが強いらしい。このことに対する反感をワザと植えつけて、自分のもとへ支持を引き付けようというのがマケイン陣営の作戦らしい。

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さて、どちらが勝つのか? 前回のように、得票率では優っているのに負ける、なんてことがなければいいのだが。そもそも、投票が無事に行われて、ちゃんと集計されるのかも見所だ。(国連かOSCEに選挙監視団の派遣でも頼むべきだったかも・・・!?)



<ネガティブ・キャンペーンの例>







友人の祝賀会

2008-11-02 22:58:47 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ヨーテボリ大学の博士課程で同じく研究をしてきた友人Svanteが博士号を取得し、週末はその祝賀会が開かれた。

彼は経済史学部で研究をしてきた。スウェーデンでは、経済史学部経済学部とは別に存在している。それから、経済地理学も独立した学部になっている。世界的にも少し珍しいことらしい。

彼と知り合ったのは、一年ほど前に開かれた別の友人の博士号取得の祝賀会。たまたま近くに座ったSvanteと話をしてみると、学部は違うものの、研究の関心がよく似ていることが分かり、それから昼食を一緒に取るようになった。それからしばらくして、ある環境関連のシンポジウムでも偶然出会い、釣り好きの彼とは環境に関する意識も良く似ていることを知った。


博士号取得の祝賀会は、研究者仲間や友人だけでなく、家族や親戚も出席し、これまでの長い苦労をねぎらい、学位を取得を祝う。レストランやカフェを貸し切って行われることが多い。


彼の指導教官のスピーチ。この他、父親や母親、友人や同僚のスピーチが絶え間なく続いた。
手前に写っているのはラインフェルト首相



この日の主役Svante。この頃には午前1時を回る。


<注>
写真に写っていたラインフェルト首相は偽物です。念のため。でも、本当に良く似ていた。