スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

冬時間の戸惑いとハプニング

2006-10-31 08:05:24 | スウェーデン・その他の社会
先週、土曜日から日曜日に掛けての深夜に「夏時間」が「冬時間(標準時間)」に戻った。真夜中の3時になった瞬間、2時に戻される。そして、1時間後に再び3時が来て、後は今までどおりの生活が始まっていく。つまり、この夜は1時間おトクなのだ。

3時がもう一度2時に!(数年前のAftonbladetから)


私もスウェーデンに来た最初の頃は、知らずにうっかりして、予約しておいた電車に乗ったら、自分の指定席に人が座っているではないか! よくよく列車番号を見ると、自分が乗るはずだった電車より1時間早いやつに乗ってしまったことが分かった、なんてこともあった。

実は、私だけでなく、スウェーデン人でもたまに忘れている人を見ることがある。学生寮に長らくすんでいたけれど、「夏時間」から「冬時間」への切り替えや、その逆の時には、必ず誰か寝坊したり、遅刻したりと、あたふたしている人がいるのは面白い。

実はスウェーデンにこの夏時間(サマータイム)制度が導入されたのは1980年と、そんなに昔の話ではない。だから、未だに少なからずのスウェーデン人が、「あれっ、冬時間に戻る、ということは、時計の針を一時間先に進めるんだっけ?後に戻すんだっけ?」と首をかしげながら、周りの人に聞いているみたいだ。(時間が変わる、ということに気づいているだけでもマシだけれど・・・。気づいていない人も結構います。)

いい覚え方としては、ある新聞がこんな提案をしている。「バーベキュー(BBQ)用のグリル」と一緒、と考えるといいのらしい。「庭に出しているBBQ用グリルは、冬になると使わないから、屋内に戻してしまう(ställa tillbaka)。だから、冬時間になると、時計の針も戻す(tillbaka)。逆に、夏になると屋内から庭に運び出す(ställa fram)。だから時計の針も先に(fram)進める。」ということだそうだ。
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ともあれ、サマータイム制に慣れていない、われわれ日本人には思いもしないハプニングや戸惑いもあるようだ。

スウェーデンでは、深夜営業のレストランやパブ・ディスコなどは、何時まで開けてもいい、という許可証を市から取得しないといけない。だから、ストックホルム市当局には「うちは3時までの営業許可をもらっているけれど、3時というのは“最初の3時”か“二回目の3時”か?」という戸惑いの質問が来るという。この場合は実際は“2回目の3時”でよく、レストラン・パブ・ディスコも1時間長くオープンできる、という。

警察もこの夜は大変。夜が1時間長くなるだけで、酔っ払いや、障害・暴行事件が急増するらしい。だから、この夜は余分な人員が必要になる。

乳牛には、夏時間が冬時間に変わったなんて、知る余地もない。だから、酪農家の人が“人間の時間”で見て、朝6時なら6時にやってきて、乳絞りを始めようと思っても、牛にとっては既に1時間遅いわけだから、体のリズムが狂ってしまい、うまく乳を出してくれないという。だから、むしろ人間の方が“牛の時間”に合わせて、早起きして仕事を始めないといけないらしい。牛のほうが体内時計を人間の時間に合わせて一時間ずらしてくれるまで、1週間ほどかかるという。

新聞配達の中にも、この朝は営業所に1時間早く来てしまう人が毎年必ずいるという。早く来てくれる分には営業所のほうは困らないけれど、冬時間から夏時間に変わるときには、1時間遅れてくる人がいて、このときは困りものらしい。

最後の極めつけ。
あるお母さんが、この日曜日の2時から3時にかけて双子を産んだとしよう。最初の子が、例えば2時55分に生まれたとする。そして、次の子が生まれる前に、時刻は3時になって、それが新しい冬時間の2時となる。そして、二人目の子供が見事誕生したときの時刻は、2時10分。あれ? 先に生まれた子供の出生時刻が、後に生まれた子供の出生時刻よりも遅い? そんなことが、あるのか? ・・・そう、こんな形で、あってもおかしくないのです。(実際にあったかどうかは知りませんが・・・)

外務大臣Carl Bildtの油ぎった懐(ふところ)

2006-10-29 04:05:53 | スウェーデン・その他の政治

Bill Gates? Nej, Carl Bildt!
Nörd? Nej, utrikesminister!

新内閣の外務大臣には、国際舞台での経験が豊富で、保守党の元党首だったCarl Bildt(カール・ビルト)が就任したことは、以前に書いた。国際舞台で敏腕を振るってくれることが期待される彼だが、危険要因としては、首相を始めとする現在の保守党の執行部と、一線を画しているために、内閣のなかで内部対立が起こりかねないか、ということだ。それから、もう一つ、大きな問題があるのだ。品正のある背広とネクタイ姿の彼の背中には、実は真っ黒な原油がベッタリとひっついているのだ。
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スウェーデン内外の財界と太いパイプを持つことで知られる彼は、いくつかの企業の役員に就いていたり、株式を保有したりしていた。外務大臣に就任するにあたり、彼はそれまで就いていた企業役員を辞任した。一方、現職の閣僚が株式を保有することは、認められている。もちろん、保有額や売買の履歴についてはしっかり開示せねばならない。閣僚という立場を利用した不正な利益取得がなかったことを示さなければならない。だから、彼も株の保有を続けようとした。

だが、Carl Bildtはちょっと厄介な問題を抱えていたのだ。Vostok Naftaという、スウェーデン人の石油資本家Lundin一族が設立した石油会社の株式を大量に保有しているのだ。このVostok Naftaは石油やガス資源に投資をしている会社なのだが、その一番の投資先がGazpromなのだ。Gazpromというと、ロシアの半国営石油・天然ガス企業で、規模はその業界で世界一と言われている。ただ、半国営なので、なかばロシアのプーチン政権の支配下にある。この企業の収益によって、プーチン政権は巨額の収益を得ており、民主主義国家の形をした独裁国家と呼ばれる自らの政権の基盤を確固たるものにしている。石油による収益は、国内メディアの支配にも手を出すようになり、プーチンの国内メディア規制政策と共に、言論の自由の抑圧がますます強まっていることが西側では懸念されている。ついこの間も、プーチン政権の裏側や人権冒涜を勇敢にも批判してきた女性ジャーナリストAnna Politkovskajaが暗殺されたが、ここでもプーチン政権が間接的に関わっているといわれている。

さらに、プーチン政権は、このGazpromの石油・天然ガス資源を武器に、強引な外交政策も展開している。冷戦崩壊後に独立した旧ソ連諸国、例えばウクライナなどは、その後、かつての宗主国ロシアのもとを離れ、西欧のEUやNATOにより近づこうとしている。民主化運動も(平坦な道ではないものの)それなりに盛んだ。それが気に入らないロシアは、ウクライナに対する天然ガス供給を今年の初めに一時、打ち切ったことがあった。国民生活の基本であるエネルギーで首を絞められてしまえば、ウクライナもなす術がない。

さらに言えば、民主主義を掲げ、新規に加盟してきた東欧諸国の民主化に励んでいるEUも、実はエネルギー資源の4分の1をロシアから輸入しているのだ。だから、独裁的傾向と人権違反がますます強くなるプーチン政権に対して、表向きは批判する、という態度を取っているものの、あまり機嫌を損ねてしまうと、エネルギーの供給を止められてしまうので、厳しいことが言えない、そんな状況にもなっているのだ。

話をVostok Naftaに戻そう。この一番の投資先がGazpromということは、Gazpromの業績がよくなればなるほど、Vostok Naftaの収益も上がるということ。なので、Carl Bildtの問題としては、名実ともに世界で最も進んだ民主主義国の一つであるスウェーデンの外務大臣が、独裁国の石油権益と繋がっていては、自立した外交政策が取れなくなってしまうのではないか、という信用の問題だ。スウェーデンもロシアからの天然資源を必要としている。だから、Carl Bildtもスウェーデンの代表として、もしくはEUの一員として、ロシアとの通商交渉に携わることになるのだが、果たして冷静な判断ができるのか? 本人にその気はなくても、周囲からは常に「自分の利益のために××の協定を結んだのではないか」との疑惑を持たれてしまう。

さらに、EU諸国はGaspromからの天然ガス供給が欲しいために、ロシアからバルト海(スウェーデンの東側の内海)の海底にパイプラインを敷く計画を立てている。計画ではGotland島のすぐ南にパイプが敷かれる。しかし、環境の被害を懸念する声があとを絶たず、この計画は暗礁に乗り上げている。スウェーデンの外相もこの問題に大きく関わっていけなければならないが、上に挙げた個人的利益とのジレンマがここでも生じることになる。

Carl Bildtの動画です

厳しく追及を受けたCarl Bildtは、1週間ほど前にVostok Naftaの株式を売却した。残る買いオプションのほうも、今年12月に売却が可能になるので、できるだけ早く売却するという。いっそのこと破棄してしまえば、というジャーナリストの問いに対し、それはできない、と突っぱねた。
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Carl Bildtは以前にも大きな批判を受けたことがある。同じくLundin一族が経営する別の会社Lundin Petroliumの役員にも就いていたが、その当時である2000年(確か)、この会社はスーダンの軍事政権と手を組み、石油の採掘を行った。それによって土地を追われた住民が飢餓の危機に瀕するという事態にもなり、Carl Bildtも倫理的責任を追及された。

国際派Carl Bildtの外務大臣就任を手放しで喜べない理由はこんなところにあったのだ!

自由党管轄の「教育省」による教育改革案

2006-10-28 05:29:57 | スウェーデン・その他の政治

教育省の大臣職をうまく狙い撃ちした自由党。
左:Lars Leijonborg(教育大臣)、右:Jan Björklund(学校教育担当大臣)

スウェーデンの学校では、子供の自立心と子供自身のやる気を尊重する。一方で、自由奔放とは異なり、自分がとった行動の結果の責任は自分で負わなければいけないことも同時に教わる。権威(威厳)や罰則によって、子供に無理やり従わせるのはなるべく避け、逆に、なぜそうしてはいけないのか、を言葉で伝え、自分の頭で考えさせ、分からせる。体罰は絶対に禁止。いわゆる「リベラルな教育」という理念に基づいている。

ただ、できる子はこの自由な環境の中で、伸び伸びと自分の能力を高めていくが、一方で、向上心も自分を律する力もなく、脱落してしまう生徒も出てくる。まだ、子供なのだからそれも当然かもしれない。スウェーデンの学校教育も、そういう児童や生徒に対する指導に手をこまねいているようだ。

授業中に騒いで注目を集めようとしたり、携帯電話で授業を妨害する子。学校で暴力事件を起こす子供。教員が嫌がるのが分かっていて、ワザといたずらをする生徒。授業をサボる頻度も高くなりつつある、といわれる。1、2年前には学級崩壊を扱ったドキュメンタリー映画「Vikarien」が、注目を集めたこともある。教員の権威の弱さが問題だ、という人もいる。高校にもなると教員と生徒の立場がより対等に近くなるので、叱ったところでなかなか効果を発揮しない(高校生も、一人の人間として教員と対等に尊重されなければいけない)。

問題のある生徒や児童にどう対処していくか?
「授業についていけない子供や学校に来ない子供、問題のある子供をより密にサポートしていくことでべきだ」という意見もある一方で、「今の教育現場の現状は、まさに大混乱。秩序と学習に適した環境を取り戻すために、教員がより権威(威厳)を持って、そして時にはさらに厳しい罰則で生徒や児童に対処すべき」という声もある。

今回の選挙で政権を獲得した中道右派ブロックに加わっている自由党は、以前から教育分野で様々な提言をしてきており、新内閣でも教育大臣ポストとその下の学校教育担当大臣ポストを狙い通り獲得した。この自由党が掲げてきた方針は端的に言えば「秩序を取り戻そう!」だ。

そして、自由党による新しい「教育省」のもとで、学校教育法が改正案が提出される。その中の主な点は
• MP3プレーヤーや携帯電話などの使用ために、授業が乱されたり、生徒が学習に専念できない場合には、1日、もしくは1週間、生徒から取り上げる権限を教員に持たせる。現行法では、不可能だった。
• 授業を乱したり、他の生徒の学習に悪い影響を与える行為を行う生徒には罰として、居残りや先駆け登校をさせる。現行法では、小・中学校でしか認められていなかったこの罰を、高校にも導入する。(高校は義務教育ではないので、無理やり居残りをさせる、という方法は、妥当ではない、と考えられていた)
• さらに、授業中に該当の生徒に退席を求めることもできるようにする。
• 親には書類によって警告する。
• 問題の生徒には、本人と親の同意を得た上で、他の学校に移ってもらうことも可能にする。
• 最大2週間の停学処分を小・中学校で可能にする。高校では、退学処分も可能にする。現行法では、小・中学校では停学処分が行えず(義務教育なので)、また高校でも停学処分は最大2週間とされていた。
• 成績表の中に「学校サボり」の項目を設け、学校サボりがひどい生徒に対しては、成績表にそのことを明記できるようにする。

これを見れば分かるように、これまでの「リベラルな教育」が抱えてきた問題点を、より厳しい罰則と、学校や教員の権限の強化、そして、ディシプリン(しつけ・規律)によって解決していきたい考えだ。特に、学校教育担当大臣Jan Björklundが強調するのが「教員の権限の強化と明確化」だ。彼によると、今までの問題点の一つは、個々の教員が自分がどこまで生徒に対して叱ったり、強制したりできるかという限度が明確でないために、問題をあえて傍観してしまうこと、だという。(うかつに生徒に介入すれば、逆に生徒の側から教員の過剰反応だの職権乱用と言われかねない、ということ。)だから、それが明確化されることで、教員は確固たる態度で、問題のある生徒に対処できる、というわけだ。

自由党が提出しようとしているこれらの提案の中には、1985年までには実際に行われていたけれど、当時の社会民主党政権が「学校は生徒や児童を罰するところではない」との考えのもと、廃止してしまったものもあるらしい。

これらの提案に対して、現場の教員はどう思っているのか?(続き・・・)

2閣僚の穴埋め

2006-10-25 07:31:00 | スウェーデン・その他の政治
超短い期間で辞任した二人の後任が決まった。
通商担当大臣(外務省):Sten Tolgfors(保守党)


文化大臣(文化省):Lena Adelsohn Liljeroth(保守党)


辞任に追い込まれた前閣僚は、二人とも政治家としての経験がほとんどなく、法律を守らなければいけない、という意識も薄かった。それに、ホトホト懲りた首相ラインフェルトは、今回はベテラン議員を選んだ。選抜の際も、スキャンダルの種がないかどうか、しらみつぶしに問いただしたという。(スウェーデン語の表現として、スキャンダルの種がふとした所から飛び出すことを"lik i garderoben"、つまり"押入れから死体が出てくる"という。なんともグロテスク。)

さらに、前閣僚2人が、保守党の中でも「守旧派」であり、彼女らの極端な新自由主義的見方が党内の一部で批判されていたが、今回選ばれた新閣僚は「刷新派」と「守旧派」の中間に位置するといわれ、首相ラインフェルトも、党内のバランスを考えながら無難なカードを選んだ、と思われる。

新しい文化大臣は、国会や保守党の文化委員会での活動経験があるため、前任者とは違って、ちゃんとした知識と経験、そして文化活動に対する理解があるようだ。そのため、左派に属する文化人の間からも、今回の任命に拍手が上がっている。

新しい通商担当大臣も、議員としての経験は豊富なようだ。リスクとしては、彼は人権侵害を理由に中国には批判的で、むしろ台湾寄り、と言われ、この態度が何かの拍子に中国の機嫌を損ね、スウェーデンの貿易に影響を与えるかもしれない、という声もある。(貿易のために、相手がどんな国であろうと機嫌取りをするというのも、どうかと思うが・・・)

ここまで広がったか、日本の所得格差

2006-10-24 07:37:34 | コラム
先週のスウェーデンの新聞に、日本の社会・経済に関するレポタージュが掲載されていた。時代の波は今や中国で、西欧のメディアの関心も自然と中国にばかり向けられるため、日本の話題が新聞に登場することなんて、あまりないのだけれど、2ヶ月に一度くらいの割合でまとまった特集記事が載る。

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「経済ブームは一般国民を跡形もなく迂回している」

90年代からの長期にわたる不景気も、2002年辺りから回復に向かい、その後は平均年2%の経済成長を続けている。大企業も最近になって記録的な収益を上げるようになり、政府・与党もホッと胸を撫で下ろしている。

しかし、問題はこの好景気が一般の人々のもとに恩恵をもたらしていないこと。これまでのリストラなどでスリムになった大企業は、大きな利潤を獲得し、そのおかげで、これらの企業の株価は上昇していている。そのため、一般の人々も、株式所有者は恩恵を受けているが、従業員や労働者は一方で大きな敗者になった。

2002年から続くといわれる景気上昇は、統計上では事実であるが、国民経済のすべて映し出しているわけではない。ようやく達成された“デフレからの脱出”を政府・与党は大いに誇っているが、そのような経済の好転が実生活の中で感じられないのはなぜか?

同志社大学のNoriko Hama教授によると、この経済成長による恩恵の分配が驚くほどアンバランスであるため、だという。ある一部の人々が大きな恩恵を受けるために、別の一部の人々が大きく損をしなければならない、という「ゼロ・サム ゲーム」に半ば陥ってしまっている。

彼女によると、過去5年のうちに、高所得者と低所得者、都市部と農村部、大企業と中小企業の間の格差が、歴史的に類を見ない速さで拡大した、という。ジニ係数という、一国の不平等の度合いを示す値も上昇してきている。

大企業が記録的な業績を上げている一方で、一般の従業員や労働者がその恩恵に与っていないのは、実質賃金にも現われている。1997年から2005年の間に、実質賃金は10%も減少しているのだ。人々は日々をやりくりするために、貯金を減らす。そのため、所得の中からどれだけの割合を貯蓄に回すかを示す貯蓄率も、1997年の10.4%から、2005年には2.4%にまで低下している。
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日本の経済が上向き基調なのに、様々な問題にぶちあっているのは聞いていたけれど、人々の間の格差拡大がここまで深刻なのを知って、危機感を持った。この記事には具体的な原因は書かれてはいなかったけれど、考えられるものとしては、企業が正職員の代わりに、安上がりですぐにクビにできるパートや派遣職員などの非正規職員を多用するようになった反面、これらの職員にたいする社会保障制度が不十分であるために、人々の生活が不安定になったこと。とくに、非正規職員は、給料が安く、解雇しやすい上に、社会保障費などの企業の負担がないので、企業にとっては二重の意味でおトク。その一方で、しわ寄せの多くは一般の人々のに降りかかってくる、といったことが大きな影響を与えているのではないかと思う。

ジニ係数

上の記事とともに、ジニ係数(一国の不平等の度合いを示す値)の国際比較(2004年)が掲載されていた。アメリカのジニ係数が大きいのは予想通りだが、日本も先進国の中では0.30を超える「比較的不平等な国」に属している。一方、オランダ、スウェーデン、デンマークなどの北ヨーロッパはかなり下のほうに位置している。スウェーデンでも、格差が拡大しつつあることが国内では問題になっているが、国際的に見たら、まだまだ落ち着いていられそうだ。

スウェーデンの メンタリティー

2006-10-22 06:28:57 | スウェーデン・その他の社会
小学校の高学年の時、担任の先生が「高校に入ると『倫理』という科目がある」といって、説明をしていたのを思い出す。小学校のときは『道徳』という科目はあったけれど、『倫理』なんて知っている児童はいなかった。

そこで、その担任が言った。
『倫理』とはこんなこと。居酒屋でビールを頼んだときに、出てきたビールに蠅が入っていたとしよう。そのときにどんな反応をするか?

ロシア人なら、ウォッカの飲みすぎで普段から酔っ払っているので、蠅に気づかずに飲んでしまう。中国人なら、アルコールで既に消毒されている蠅は珍味だ、と言ってつまんで食べてしまう。アメリカ人なら、ウェーターを呼んで厳しく抗議し、それで気が済まないものだから、マネージャーも呼びつけて文句を言い、しまいには経営者を訴え、裁判沙汰にしてしまう。日本人なら、はじめは驚くが顔には出さず、周りを見渡して様子を見ながら、そのうちこっそりと店員を呼んでビールを替えてもらう。『倫理』ではこんなことを勉強するんだ。・・・」

今から思えば、ナントいい加減な教師だったかと思う(笑)。『倫理』は実際は、こんなステレオタイプの国民性を学ぶ場でもないし、しかも、まだ世界を知らない無垢な子供たちに変な誤解と偏見と色眼鏡を与えてしまう。そんなものは、それぞれの子供が大人になる中で自分で培っていけばよいもの。担任の方は、なるべく分かりやすく、面白おかしく話そうと思ってこうなってしまったのだろうけれど。
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ともあれ、それぞれの国や文化には、何かしらの共通メンタリティーみたいなものが存在する。先日、日本のSさんから、スウェーデン人は、こういうときにどういう反応をするのか、というご質問を戴いた(その方の質問では、ビールではなくスープだったけれど)。

そこで、同じ研究棟にいるスウェーデン人の友人数人にメールを送ったところ、学内メールを舞台に大議論になった! ある人が・・・といえば、別の人が、いや、・・・だろ、といった感じで。最終的にまとめるとこうなる。

Q:「注文したビールに蠅が入っていたとき、スウェーデン人ならどう反応するか…?」

A1:「蠅を取り除くものの、店員にはひとことも言わず、そのまま飲んでしまう。」
A2:「その場に居合わせた仲間には“ひっでー話だぜ!”とグチグチ文句をたらすものの、店員にはひとことも言わず、ビールだけを飲んでしまう。」


スウェーデン人のメンタリティーのポイントは、
わざわざ店員に文句を言って楽しい場にサザ波を立てるよりは、簡単なことなら自分で片付けてしまう。
でも、仲間内では、自分がいかに悲惨な目に遭ったか、どんな小さなことでもさんざん文句を言う 。(そして、自分にスポットライトを当てようとする。)
ということなのだ。

①なんかは、かなり日本人に近い気がする。でも、②はスウェーデン語で言うところのgnällというやつで、その場に仲間がいない場合は、おそらく、携帯で誰かを捕まえでもして、その場がどこであろうとお構いなく、ベラベラと捲くし立てて、話を聞いてもらうんでしょうね。

さらに笑えたのが次の回答。

A3:「自分だけに蠅が入っているのは不公平だ、(スウェーデン型福祉国家の観点からすると)皆が平等に扱われるべきで、それなら皆のビールに蠅が入るべきだ、と店員に文句を言う。」

これはもちろん大袈裟なジョークだけれど、公平・平等感は、スウェーデンのメンタリティーには欠かせないようです。


<番外編>
さらに爆笑したのは次の答え。これが分かる人はかなりスウェーデン通。
A4: 「Man kallar servitören för *****skalle innan man nitar honom, och sen anlitar man Silbersky som advokat.」

新しい保守党(穏健党)? (3)

2006-10-20 08:05:45 | 2006年9月総選挙
受信料不払いスキャンダルで二人の閣僚が辞任に追い込まれた。不払いの閣僚は、警察に訴えられることにまで発展した。一般の人々もここまで大きな政治問題に発展したのを見て、恐怖心に駆られたのか、テレビの所有を申告して、これまで無視していた受信料の支払いを始める人が、先週一週間で数千世帯にも上ったとか。

公共放送の存在が嫌いな文化大臣だったが、彼女のスキャンダルのお陰で、公共放送はより多くの視聴者に受信料を払ってもらえることになった。あまり適任とは思えない文化大臣だったけれど、在任わずか10日の間に、思いがけない功績を残してくれたことに拍手。もしかして、これもラインフェルト首相の綿密な計算だったのか・・・?

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大きく路線変更をした保守(穏健)党について書いた。これまでの保守主義、新自由主義の路線から離脱して、ある意味、これまでの社会民主党の政策に近づくことになった。2004年以降、「新しい保守(穏健)党」「新しい“労働党”」といったキャッチフレーズを使うようになっただけでなく、社会民主党を批判する際にも「彼らの政策では、福祉国家、日々の生活の中の安心感、そして経済の安定性に大きな危機をもたらすことになりかねない」と、あたかも自分たちのほうが福祉・安心感・安定性の守護者であるかのレトリックまで使い始めた。

それでも、両者の間には違いが見られる。主な相違点は、

◎ 社会保険の保険料の引き上げ
例えば、失業保険の保険料の引き上げや、これまで所得申告の際に控除できたこの保険料や労働組合の組合費を今後は控除不可にする。

◎ 社会保障手当の削減
失業保険や疾病保険の給付額は所得に比例するが、その割合を下げ、また上限も下げる。育児保険の適用期間も若干短くする。早期退職者の手当も減額する。

◎ ガソリン税の減税、航空税の不導入
ガソリン価格の大きな部分が税金であるため、それを下げることでガソリン価格を抑えたい。これに対し、環境党と手を組んできた社会民主党政権はさらなる増税を主張していた。また、環境の観点から彼らの主張する航空税の導入も、保守党はしない、という。

などだ。これまでの保守党が主張してきた規模でないにしろ、減税は行う。その結果、減った税収を補うためには、別の形の歳入を作り、また歳出面も抑えなければならない。最初の2点はそのためでもある。1990年前半に4年間、保守党は政権を担当するが、時悪く、恐慌に見舞われ、社会保障費の支出がかさんだ。さらには、減税を行うと同時に、国防費を始めとする歳出を増やしたために、その4年間で財政赤字が急激に膨らむことになった。その時の苦い経験から、今度こそはその二の舞にしたくないのだ。

・失業者は怠け者か・・・?
減税のしわ寄せは、社会保障にやってくる。新しい保守党のモットーは「失業保険や疾病保険、早期退職保険などによる福祉漬けを改め、働くインセンティブを与えよう」なのだ。失業保険の水準や期間を短くすれば、失業者はより真面目に仕事探しをするようになり、失業率が減る。疾病保険や早期退職保険を削減すれば、仮病や怠け者が減る、と言う。

確かに、手厚い社会保障制度が失業者を堕落させたり、まだ働けるのに働けない、といって、国から手当をもらうケースはある。しかし、仕事を探せども探せども見つからない人(特に中高年)や、病気や労働災害で体が不自由になってしまった人も一方ではおり、彼らはやはり社会保障制度を必要としている。だから、一方的に給付水準を下げれば、人々は“追い立てられて”仕事を見つけるようになる、という単純な見方は、納得できない人もたくさんいる。(この点については、また別の機会に)

・新しい保守党と“守旧派”
この「新しい保守党」の仕掛け人は、2003年に党首に選ばれたReinfeldtと、彼の側近のMikael Odenberg(当時:党経済問題担当、現:国防大臣)、Anders Borg(当時:党参謀、現:財務大臣)そして、Sven Otto Littorin(当時:党官房、現:労働市場大臣)だ。(10日ほど前の書き込みで写真を確認できます)

しかし、彼らのイニシアティブも、党内ですんなり受け入れられたわけではない。2004年に党の路線変更が正式に発表されたときも「もはや保守党じゃなくなった。これまで我々を支えてきてくれた支持者(財界・高所得者)を見捨てる気か」とか「自分の党が乗っ取られてしまった」とあくまで“刷新派”に対抗姿勢を見せる“守旧派”の党員(特に中高年で地方出身)が多くいたのだ。

それをうまく押し切って今回の総選挙に挑み、見事、世論のシンパシーを得て、政権を獲得できたのだから“刷新派”の大勝利か、というと、必ずしもそうとはいえない。新内閣の閣僚メンバーを見ても、Reinfeldtの片腕として働いてきた刷新派だけでなく、Carl Bidlt(外相)や通商担当大臣(辞職)、文化大臣(辞職)、移民担当大臣など、守旧派(保守主義・新自由主義)も多く名を連ねることになった

新首相Reinfeldtとしても、党内のバランスを保つために、彼らにも顔を持たせる必要があったのだろう。また、彼の弱点である外交面を穴埋めするために、乞ってカムバックしてもらったCarl Bildtが、外相になる条件として、自分の気に入った守旧派を入閣させた、という噂もある。これらの閣僚からは、すでに「労働者の権利の弱体化させろ」「より多くの民営化を行え」「規制緩和を促進しろ」といった、Reinfeldtが既に放棄した主張が、再び議題に上がっている。さて、「新しい保守党」も路線変更を維持できるのか、それとも、やはり守旧派に引っ張り戻されていくのか・・・?

また、Reinfeldt自身の頭の中も、大きな謎だと言われる。というのも、彼がまだ20代の若かりし頃は、現在の守旧派と同様、市場自由主義や新自由主義の論客で、スウェーデン型福祉国家そのものに疑いを投げかける主張をしていたのだ。だから「新しい保守党」の路線変更も、むしろ、政権獲得のためのプラグマティズム(現実主義)であって、本心ではない、という噂も頷ける。かつての彼の同僚曰く「彼は主張を玉虫のように変えるので、本心が分からない」のらしい。

果たして「新しい保守党」は単なる“羊の皮をかぶったオオカミ”なのかどうか、今後の進展が楽しみだ!

やっぱり辞任

2006-10-18 21:08:55 | スウェーデン・その他の政治

保守党を始めとする新政権は、嵐の中の船出となった。先日書いたように、通商担当大臣文化大臣が、かつて闇でベビーシッターを雇っていたこと、そして、公共テレビ・ラジオの受信料を長期にわたって払ってこなかったことが明らかになった。さらに通商担当大臣のほうは、自分の経営する会社の税金の未納や、外国のペーパーカンパニーを通じた脱税まで明らかになった。

メディアにとことん追及され、最初に痺れを切らしたのは、通商担当大臣。土曜日に辞任を表明。任命から8日での辞任となった。それに引き続き、文化大臣も月曜日に辞任。任命から10日しか経っていなかった。

二人とも産業界や論壇などではそれなりの経験があったようだが、政界では全くの素人だった。通商担当大臣は、今回初めて議員になったばかりの1年生。文化大臣は、国会外からの引き抜きだった(Timbroという新自由主義シンクタンクの代表)。ベテランの議員であれば、私生活での合法性やスキャンダルの種には常に気を使ってきたところであろうが、彼女らはそういう意識が薄かったようだ。

私個人的には、人は誰でもちょっとした過失から過ちを起こしてしまうこともあるだろうから、一生そのことばかりを追及するのは酷だと思う。その過ちを認めて、きちんと反省しているのならば、もう一度チャンスを与えてあげてもいいと思う。しかし、限度ももちろんあり、今回の例はそれを大きく超えていた気がする。

文化大臣に至っては以前「公共放送なんてなくなればいい」と言っていたらしいし、任命後のインタビューでも「私に文化のことを訊かれても困る」だとか、文化大臣の管轄下にスポーツ振興が含まれていたのに「スポーツ? 誰か別の大臣の管轄でしょ?」と、あまり自分の仕事に真面目さが見られなかったから、辞任は当然だと私は思っている。
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これで、火種がすべて無くなった訳ではない。移民担当大臣も、受信料を今まで一度も払ったことがない(意図的に)。それから、財務大臣も90年代に、自宅のお掃除さんを闇で雇っていたことが明らかになった。しかも、うち一人はポーランド人で労働ビザがなかったのにも関わらず。環境大臣も、税金のがれの疑いがあるとか・・・?

とにかく、完全潔癖な人間なんてそう簡単にいるものではないだろうから、はっきりと清算するなり、反省するなりして、スッキリとさせてほしいものだ。そして、本題である政策議論に焦点をうつしてほしい・・・・

スウェーデンの警察モノ

2006-10-17 05:31:25 | Yoshiの生活 (mitt liv)
またもや、スウェーデンの生活ネタ。あしからず。

週末日曜日に体調が思わしくなくて、ソファーで横になっていたけれど、時間を持て余していたので、テレビ局SVTのホームページ上でTVドラマを見た。

「Poliser」という警察官を扱ったドラマ。舞台がヨーテボリというのが嬉しい。市内のある署で働く数人の警察官を主人公にして、そのそれぞれに独特の個性が設定されてある。日々の荒れた職務のなかで、正義感と欲望のはざまの中で切羽詰った選択を強いられながら頑張っている。そして、時たま公私を混同しながら、みなが多かれ少なかれ、二つの顔を持ち合わせながら生きているのが面白く描かれている。追い込まれた状況に置かれると、誰でもつい犯してしまいかねない過ちを、結構リアルに描いており、SVTのドラマ部門もなかなかやるな、と思ってしまった。

POLISER
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1回1時間弱のシリーズで、最初の4回分を一気に見てしまった。
SVTのホームページのいい所は、放送された番組が、その後30日間、サイト上で再び見られること。だから、見逃したって、後で自分の好きなときに見ることができるし、スウェーデンにいなくても見ることができる。画像はテレビに比べれば多少劣るが、そんなに悪くない。

「Idol 2006」に出たHiroki君

2006-10-16 21:11:59 | コラム
スウェーデンに住んでいる人向けのネタです。
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「Idol」と言えばスウェーデンでも数年前から始まった、素人の中からポップスターを生み出すという若者向けの番組。スウェーデン各地で地方オーディションを行って、数千人の応募者の中から十数人を選び出す。そして、2、3ヶ月にわたって毎週一人ずつ落として行き、最後の決勝を勝ち残った人をレコード・デビューさせるのだ。近年の例では、途中で脱落しても、独特の才能と個性があれば、どこかのレコード会社が目をつけてデビューさせたりすることもあるみたい。

ところでこの間、私の日本語教室の高校生たちが「今年の地方オーディションに何だか日本人が出てて、注目を受けていたよ」という。しかも、何でも「典型的な日本人っぽいことをしたから」という。

早速、テレビ局のホームページで、過去の番組のクリップを見つけた。北部の町ウメオ(Umeå)でのオーディションに参加した、Hanösand在住のOchiai Hiroki君。

番組からのクリップ

挑戦者一人一人に与えられる時間は1分ほど。その中でいかに審査員4人をアッと言わせられるか・・・。でも、緊張気味の彼。途中ではずしちゃって、審査員は呆れた様子。驚いたことに、この女性審査員が日本語で叱っているじゃないか!
「ダメだな~。ナンでかな~。」が、武田鉄也っぽくて笑えた。金八先生でも見て勉強したのだろうか・・・?

彼女の名前はKishti Tomita。なんと、旦那が日本人Takeji Tomitaという空手の師範なのだ。だから、日本語が少しできたわけだ。ちなみに彼女は、歌手の声のインストラクターなどをやってきており、スウェーデンではRobynなどを指導してきたのだそうだ。
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それにしてもHiroki君。テレビに映りたくてワザとカメラを取り出したのか…?それとも、日本人の血が思わず彼をそうさせたのか…? スウェーデン人にしてみれば「やっぱり、日本人!」と笑ってしまうんだろうな。

先日も、日本から来られた方をヨーテボリ市内に案内しているときに、大学前の人通りの真っ只中で、その方々がヨーテボリ名物「自転車警察」と記念写真をお撮りになったので、傍を通り過ぎる学生が口々に「Typiska japaner」と言っているのが聞こえ、恥ずかしい思いをしたもの。まぁ、ああいう機会でもなきゃ、自転車警察との記念写真におさまることはなかったので、よかったのですが…。

新しい保守党(穏健党)? (2)

2006-10-15 08:25:55 | 2006年9月総選挙
前回の続きです。

党首Reinfeldt
あれ? 右派? いや、もっと真ん中寄り?


1991年に右派ブロックが総選挙で勝利すると、右派ブロックの第一党として、当時の保守党 党首Carl Bildt(カール・ビルト)が首相を務める。しかし、続く1994年と1998年の総選挙では、保守党としては1991年総選挙と同水準の22~23%の得票率を維持するものの、右派ブロック内の他の党が支持を下げたため、政権を獲るには至らなかった。

そして、2002年の総選挙。ここで保守党は大敗北を期す。得票率は15%に急落。原因はいくつか考えられるが、党の掲げた「1300億クローナの大減税」という公約が、あまりに非現実的で、単なる人気取り政党、と思われたことが大きい。また、Carl Bildtの後を1998年に継いだ、当時の党首Bo Lundgren(ボー・ルンドグレン)は、あまり魅力のない銀行マンタイプの人間で、そんな彼がテレビ討論でも「減税、減税、減税」とばかり繰り返す一方で、「そんなに減税したら、福祉政策や雇用政策の財源はどうするのか?これらの政策はどの程度、削減するつもりか?」という質問には説得力のある答えをすることができなかったのが、かなりマイナス要因だったようだ。

2002年の大敗北のあと、保守党は党再生に乗り出す。党の中にも、これまで通りの伝統的なスローガンでは、政権獲得はおろか、支持率の維持も難しい、と危機感を感じる“刷新派”がいたのだ。それが今、首相になったばかりのReinfeldt(ラインフェルト)だ。

若くして政治に関わることになった彼は、1992~95年の間、保守(穏健)党青年部のリーダーを務める(当時20代後半)。首相だったCarl Bildtとは彼のリーダーシップを巡って次第に仲が悪くなり、党内の他の主流派ともケンカを始める。党執行部から直々に呼び出され、こっぴどく叱られた後は、しばらく水面下に隠れて、おとなしくしていた。

しかし、2002年に大敗北の後、頭角をすぐさま顕したのだ。2003年に正式に党首に選ばれる(全会一致で)と、党の大改革を発表。これまでの大規模な減税の主張を取り下げるとともに、スウェーデン型の福祉国家に対する批判のトーンを下げていく

まずは経済政策に関する保守党のプログラムの批判。「減税、減税、と訴えてきたものの、わが党の政策で得をするのは、上位10%の高所得者だけ。これでは、他の有権者の支持を集めることはできない」「国会調査局(RUT)に依頼した試算によると、保守党の党プログラムが実際に実行された場合、現在は黒字の国家財政が数年内に200億クローナも赤字になることが判明」「減税を訴える一方で、福祉や公共政策をどうするのか、きちんと示さなくては、有権者からの信頼を得ることは難しい」と考えたのだ。

つまり、大規模な減税によって税収が激減しても、福祉政策やその他の公共政策による支出をそれに応じて減らさなければ、財政赤字になる。とは言っても、スウェーデン国民の多くは福祉国家政策(医療・教育・雇用などもすべて含んだ)の大規模な削減は望んでいない労働者の権利水準の引き下げも、望まれてはいない。それなら、党のプロフィール自体を修正したほうが、政権獲得のためには現実的、と考えたのだ。

そして2004年3月に発表された保守党の新しい方針は・・・

◎ 低所得者により重点をおいた減税の提案
高所得者に有利な減税政策ではなく、すべての所得層に同じ額の減税を行うことで、低所得者に比較的有利になるようにする。限界税率の削減にしても、低所得者が恩恵をこうむるようにする。(ここでいう“税金”には、保育所の自己負担額、住宅補助金(マイナス)、なども含まれている。つまり、狭義の税金を下げる一方で、保育所の自己負担額を上げたり、住宅補助金を下げることで、低所得者にとっては結果的に損になるようなことはしない、ということ)

◎ 各種手当の給付水準の削減
福祉国家政策の重要性を認めたうえで、それでもこれまで高い水準で給付されていた失業保険や疾病保険、早期退職年金の水準を現行の80%から75%もしくは70%に下げる。それと同時に上記の減税政策を行うことで、“手当依存よりも、働くことがより得になり、魅力的になる”ようにする。減税による税収減は、この手当の給付水準の削減だけでなく、労働供給が増加する結果としての所得税収増によって賄う。

◎ 地方自治体に減税のシワ寄せをしない
地方自治体は、学校教育・育児政策・高齢者福祉・医療の担い手である。だから、中央政府として、地方自治体の収入となる地方税や、国からの移転である地方交付金が大きく減らされるような政策は行わない。

◎ 労働者の権利と福利の尊重
従来は、労働組合や労働者の結束力の弱体化や、ストライキ権、団体交渉による賃金決定方式の弱体化が、高所得者や財界を支持母体とした保守党の党是であったのだ。それを大きく改め、これらには手を出さない、と言うようになった。しかも「労働者の立場を不安定にすることが、経済問題の解決になるとは思えない」とも言っている。解雇の際の優先順位「Sist in, först ut (Last in, first out)」の制度も、これまでは雇う側の融通が利かない、という理由から、保守党は敬遠していたのだが、それも維持する。

◎ 労働市場庁(AMS)の存続
公共の職業案内所や、失業者に対する労働訓練を提供してきたのがこの機関であるが、保守党は「非効率だから、民間に任せればいい」と従来は言っていた。しかし、今では「意義のある公共機関だ」と、見方を大きく変えた。

このような大きな路線転換ともに、イメージチェンジも図るために「Nya Moderaterna(新しい保守(穏健)党)」とか「Nya arbetarpariet(新しい“労働党”)」というキャッチフレーズも多用するようになったのだ。

(続く・・・)

新しい保守党(穏健党)? (1)

2006-10-14 18:55:40 | 2006年9月総選挙

スウェーデンの総選挙では、これまでの赤い政権青い政権に変わった、つまり、左派ブロックである社会民主党・環境党・左党の(閣外協力)政権が破れ、右派ブロックである保守党・自由党・中央党・キリスト教民主党による中道保守(右派)政権が誕生したのだ。

スウェーデンといえば、歴史的に労働運動や労働組合をバックにした社会民主党が強く、これまでの福祉国家の発展も主に彼らのイニシアティブによって成り立ってきた。では、今回の政権交代は、スウェーデン国民自身が、スウェーデン型の福祉国家モデルを否定してしまった、ということなのか? これで高福祉・高負担の社会には終止符が打たれ、アメリカ並みにはならないとしても、他の平均的な先進国と違いがなくなってしまうのだろうか?

と、判断するのはちょっと時期尚早だ。というのも、

① 今回の選挙では、もともと社会民主党などの左派の支持者が、右派の保守党の支持に回ったが、それは彼らがスウェーデン型の福祉国家社会に「NO!」と言ったからではなく、長年政権に就いてきて新鮮味がなくなった社会民主党、とくに近年、傲慢な態度ばかりが目立つようになった首相Persson(パーション)に嫌気がさしたから、と見たほうがいい。

② それだけでなく、保守党のほうもガラッと衣替えし、左派(中道左派)の人々にもウケる党へとイメージ転換をすることに成功したこともかなり大きい。もともと保守党は以下に書くように、保守主義と新自由主義(市場自由主義)を掲げる政党だったのだが、Reinfeldt(ラインフェルト)首相のリーダーシップのもとで、大きく路線転換をし、税を財源とする福祉政策、社会政策、雇用政策の重要性や、労働者の各種権利や福利の重要性をおおっぴらに認め、大幅な減税や福祉国家の削減という、これまでの伝統的な保守党の主張の多くを撤回してしまったのだ。
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保守党、もしくは穏健党と呼ばれるModeraternaは、 本来は新自由主義市場自由主義を信奉する人々や、保守主義を掲げる者によって構成されてきた。

保守主義(ごく簡単に)・・・現状に満足している、もしくは、我々が生きている社会は複雑で小さな変化でもそれがもたらす帰結は予測不能という理由から、現状維持に努め、変化を好まない社会観。現代社会という文脈の中でいえば、家族内の秩序を維持しようとする家族主義や、社会の中に現存する階級を維持しようとする考え方、宗教をはじめとする各種伝統や価値観を維持しようとする考え方など。保守主義の根底にある考え方は、人間というものはそもそも能力的に不完全なものであり、その不完全さにもかかわらず日々の生活をそれなりにやっていくために、長い時間をかけて伝統や社会制度が(自然発生的に)形成されてきた、ということを重視する。そんな伝統や社会制度は完全ではないにしろ、そのおかげで社会に秩序ができ、我々人間はそのもとで曲がりにも日々を営んで来れたのなら、何故わざわざそれを壊す必要があるのか、その帰結は(フランス革命や近代ドイツ史が示したように)予測不可能で社会は大混乱に陥る、と考える。

新自由主義(ごく簡単に)・・・自由主義というイデオロギーがそもそも、王権・国家・伝統・宗教的な束縛からの個人の解放や、個人の所有権の確立を訴えるところから始まったのに対し、新自由主義はその流れを汲みつつも、私的所有権の保護と、過度の規制から解放された市場経済の重要性をことさらに強調する。つまり、国家が税金を徴収して所得の再分配をおこなったり、国営企業や各種の規制などによって市場経済に介入するのではなく、国家はその役割を警察や国防、裁判所などの必要最小限にとどめるべきで、それ以外のことは人間同士の自由な合意によって成り立つ市場経済がうまく調整してくれる、というもの。小さな国家(夜警国家)、市場自由主義 (market liberal)、市場万能主義などの言葉で擁護されたり批判されたりする。自由主義の考えの中でも、社会的自由主義 (social liberal) と呼ばれる考え方と対立する。

言ってみれば、日本の自由民主党と似たイデオロギー的背景を持つ党なのだ。
(続く・・・)

新内閣に潜むジョーカー

2006-10-12 04:23:20 | スウェーデン・その他の政治
先週6日に所信表明演説をし、新内閣を発表したラインフェルト首相だが、具体的な改革の実行に入る前から、大きな苦難に立っている。彼の選んだ閣僚の中にジョーカーが混じっていたのだ!

まずは外務省配属の通商担当大臣Maria Boreliusが、過去にベビーシッターを闇で雇っていたことが明らかになった。闇で雇う、というのは、税務署に申告せず、よって雇い主が国に対して払わなければならない被雇用者の社会保険料の支払いをのがれた、ということ。彼女だけでなく、文化省の文化大臣Cecilia Stegö Chilòも、過去にベビーシッターを闇で雇っていたことが分かった。

このことをメディアに指摘された両者は「大きなミスをした。当時はまさか自分がこのような立場に立つとは思っていなかった。」と謝罪した。通商担当大臣Maria Boreliusはさらに「当時は経済的に苦しく、やむを得ず、闇で雇った。」と答えた。しかし、さっそくメディアが調べてみると、彼女は当時から大きな財産を持ち、所得も多かったことが明るみになり、ウソがすぐにばれてしまった。

ラインフェルト首相は、閣僚の選抜の段階で、この二人を含むすべての閣僚候補に、過去に犯した不正行為やスキャンダルの種にされそうな事柄について問いただしており、この時点で既に認知していた。しかし、それを考慮しても、二人がそれぞれのポストに適任だと判断し、あえて任命したのだった。「二人とも過去の過ちを認めており(そのことだけにとらわれず)新しいチャンスを与えてもよい、と考えた」のだそうだ。さらに「(長年の社民党政権による高税率のために)闇の労働市場が一般庶民の間にここまで蔓延してしまった、ということ(のいい証)。われわれの政権は、少しでも闇市場がなくなるように制度改革をしていくことを大きな目標として掲げているのだ。」と、あくまでも前向きで、二人の不正行為はあたかも社民党政権のせい、とでも言いたいようだ。
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スキャンダルの種はこれだけで終わらなかった。今度のジョーカーも、またもや同じ二人。まずは、文化大臣Cecilia Stegö Chilòが、これまで長期に渡って公共テレビ(SVT)・公共ラジオ(SR)の受信料を払ってこなかったことがスクープされた。文化大臣は、受信料によって成り立っている公共テレビ・公共ラジオ・教育放送の運営・活動の責任も負っているのだ。そんな人間が、テレビを持つ世帯すべてに法律で義務付けられている受信料の支払いを怠ってきたのは、大きなスキャンダルだ。

彼女は、文化大臣任命が発表される5日前になって初めて、テレビの所有を申告し、受信料を払い始めることにしたのだそうだ。

しかし、時すでに遅し。日刊紙DNが彼女の過去の未払いをちゃんと突き止めてスクープしたのだ。対する彼女もありきたりの言い訳:「スウェーデン内外を頻繁に引越ししていたので、うっかりしていた。」しかし、別の情報筋よると、彼女は新自由主義的な論客で、大きな政府に反対。その立場から、受信料によって成り立つ公共放送のシステムそのものに批判的で、過去に「受信料不払いで訴えられるものなら、訴えてみろ」などとも豪語していたというから、不払いも意図的だったと見られている。文化政策にしても、政府が財政支援などの形で、文化活動に関与することには批判的だったという。

個人の考えとして、それはそれで構わないが、閣僚にもなるものが、国会が決めた法律に従わず、不正行為を繰り返し、助長していたのでは、批判されてもしょうがない。それにそんな人間が文化大臣にどこまで適任者なのかも疑わしい・・・。

彼女だけでなく、例の通商担当大臣Maria Boreliusも同様に、受信料逃れをしていたことも暴かれてしまった。彼女は今朝になって、テレビの所有を申告。彼女はもともとジャーナリストで、過去に公共テレビの番組の司会もやっていたのに、である。
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というわけで、組閣からわずか数日で、窮地に追い込まれてしまった、首相ラインフェルト。なんと、上に挙げた二人うち、文化大臣は国会議員ではなく、国会外から招いて閣僚ポストに就いてもらっているのだ。それから、通商担当大臣のほうは今回の選挙で初めて議員になったばかり。だから、ラインフェルトには高くついた人選となった。

専門家に言わせれば、文化大臣のほうの辞任は時間の問題だという。ついこの間、職を追われた前首相パーションも偉そうに登場して「彼女の閣僚としての政治生命は既に尽きた」と、嫌らしげな宣告も行っている。

この手のスキャンダルはどこの国にもあるもの。でも、任期がここまで短い閣僚も珍しいのではないだろうか。

新内閣の閣僚リスト

2006-10-08 18:20:40 | スウェーデン・その他の政治
内閣府(もしくは内閣準備局)>
首相:Fredrik Reinfeldt(41歳・保守党党首)
EU担当大臣:Cecilia Malmström(38歳・自由党)


法務省
法務大臣:Beatrice Ask(50歳・保守党)
移民担当大臣:Tobias Billström(32歳・保守党)


外務省
外務大臣:Carl Bildt(57歳・保守党元党首)
通商担当大臣:Maria Borelius(46歳・保守党)
国際援助担当大臣:Gunilla Carlsson(43歳・保守党)


国防省
国防大臣:Mikael Odenberg(52歳・保守党)


社会省
社会大臣:Göran Hägglund(47歳・キリスト教民主党党首)
国民健康・社会サービス担当大臣:Maria Larsson(50歳・キリスト教民主党)
社会保険担当大臣:Cristina Husmark Pehrsson(59歳・保守党)


財務省
財務大臣:Anders Borg(38歳・保守党)
地方自治体および金融市場担当大臣:Mats Odell(59歳・キリスト教民主党)


教育省
教育大臣:Lars Leijonborg(56歳・自由党党首)
学校教育担当大臣:Jan Björklund(44歳・自由党)


農務省
農務大臣:Eskil Erlandsson(49歳・中央党)


労働市場省
労働市場大臣:Sven Otto Littorin(40歳・保守党)


文化省
文化大臣:Cecilia Stegö Chilò(47歳・保守党)


環境省
環境大臣:Andreas Carlgren(48歳・中央党)


産業省
産業大臣/兼/副首相:Maud Olofsson(51歳・中央党党首)
インフラ整備担当大臣:Åsa Torstensson(48歳・中央党)


社会統合・平等省>新規設立予定、当面は法務省の管轄下。
社会統合平等大臣:Nyamko Sabuni(37歳・自由党)


注:保守党(Moderaterna)「穏健統一党」もしくは「穏健党」と訳されることもありますが、党のイデオロギーと英訳の“The Conservatives"を考慮し「保守党」としました。また、自由党(Folkpartiet)も直訳では「国民党」ですが、これではあまり実態が分からないため、党のイデオロギー(Liberalism)や英訳"The Liberals"を考慮して「自由党」とします。

基本的に各省に一人の大臣がつき、その下に「ミニ大臣」というか「担当大臣」といった個別問題を担当する大臣がつくことがあります。首相の属する内閣府(内閣準備局)には首相のほかに、EUとの関係の調整やスウェーデン国内でのEUの浸透に努めるEU担当大臣が配置されています。

今回の閣僚22名の平均年齢は47歳男女比は12対10。これまでの社民党の内閣は平均年齢46歳、男女比12対10だったから、それとほとんど変化はない。

今回の組閣の目玉は、保守党のかつての重鎮で国際派のCarl Bildt。それから38歳の財務大臣。彼はこれまでCarl BildtやFredrik Reinfeldt のもとで党参謀として縁の下を支えてきたのであった。財務省下のミニ大臣(地方自治体および金融市場担当大臣)よりも遥かに若く、年功序列の逆転現象がここでも見られる。それから、社会統合平等大臣は、もともと難民としてスウェーデンにやってきた黒人女性。

連立内閣なので、保守党だけでなく、他の党もパイの分け前をもらっている。普通ならポストの奪い合いになるが、今回はそれぞれの党が得意分野で住み分けをハッキリさせており、だいたいその分野での閣僚ポストに収まることになった。(自由党は学校教育、中央党は雇用・中小企業支援、キリスト教民主党は家族・社会政策や高齢者福祉など)

省庁の編成や大臣ポストの数は、固定されているわけでなく、組閣のたびに多少の変更がある。その内閣が重点を置いている分野に、新たに「担当大臣」を配置したり、省自体を新設したり、改組したりもする。

今回の組閣では、社会統合平等省が新たに設置されるという。また、これまでは産業省の下にあった労働市場担当課を独立させて「労働市場省」とした。また、教育省、文化省(以前は、教育文化省)を分離したし、ここ2年ほど環境社会構築省と呼ばれていた環境問題担当の省を、すっきりと「環境省」とした。

新内閣誕生 - 意外な人事も!

2006-10-07 08:50:48 | スウェーデン・その他の政治
今日10月6日、中道保守(右派)連合4党による連立内閣が発表された。新首相ラインフェルト(Reinfeldt:41歳)は22人の閣僚を発表。与党4党の議席数を考慮して、
保守(穏健)党・・・11閣僚
中央党・・・4閣僚
自由(国民)党・・・4閣僚
キリスト教民主党・・・3閣僚

という配分となった。

外務大臣には、ある大物。それから、財務大臣という要職に38歳の党・経済問題担当の参謀が抜擢された。また、一番若い閣僚は32歳、と、相変わらずスウェーデン政界の若々しさを見せ付けてくれる。

詳細は次回に送るとして、とても興味深い、ある人事から。

ここで以前に書いたように、これまでの社会民主党政権で春以来、外務大臣を担当してきたのはJan Eliasson(ヤン・エリアソン)というベテラン外交官だった。前任者がスキャンダルで退陣に追い込まれ、そのポストに選ばれたのが彼だったのだが、意外な人事だったために世間を驚かした。

Jan Eliassonはベテランの外務官僚であるだけでなく、(外交官には珍しく!?)しっかりとした理想とビジョンをもった外交官で、中東での和平調停や国連での活躍など、業績もあったので、誰もが納得する適任者だった。

これに比べ、今回の選挙で政権をとった中道保守(右派)ブロックには、彼に匹敵するような“きらびやか”な人材がいなかった。新首相自身も、外交問題の経験は浅いし、国際的な知名度もない。さて誰が外務大臣になるのか(なれるのか)?と噂されていた。一説には、キリスト教民主党が国際援助に力を入れていた関係で、前の党首であるAlf Svenssonという“お爺さん”がなるんじゃないか…?なんて、話もあったけれど、国際的な知名度も低く、斬新さに欠けていた。

そして、今日の人事で発表された新外相は、Carl Bildt(カール・ビルト)。そう、泣く子も黙るCarl Bildt。彼は、以前に保守党(穏健党)の党首を務め、90年代初頭の経済危機に乗じて保守党をはじめとする右派政権が誕生した1991-94年には、首相を務めているのだ。(就任時42歳

新首相ReinfeldtとCarl Bildt

彼はスウェーデンのEU加盟とEUへの統合を積極的に推進し、ヨーロッパ統合に対するビジョンを自著「Uppdrag Europa(“ヨーロッパ”という任務)」に綴っている。90年代はじめの右派政権も長続きせず、94年の総選挙で敗北したあとは、活躍の舞台をスウェーデンから国外に移す。旧ユーゴスラヴィア紛争において、EU特命の調停者という役目を1995年に引き受け、アメリカや国連との協力の末に、同年秋のデイトン合意の実現に貢献している。その後は、紛争終結後のボスニア=ヘルツェゴヴィナの内政・民生を司る最高責任者(High Representative)に就任している。また1999年には、国連事務総長による特命で、バルカン半島における国連代表の職務を果たしている。バルカン半島・旧ユーゴでのこれらの経験は、別の自著「Uppdrag Fred(“平和”という任務)」に、詳細に綴られている。(ボスニアの細かい地名が立て続けに登場し、かなりマニア向けかも…)

一方で1998年の総選挙時にはスウェーデンに舞い戻り、党首として選挙活動をするものの、自身の保守党は再び敗退を期し、それからはスウェーデンの政界からは姿を消していたのであった。

新首相Reinfeldtはそんな“国際派”の彼を起用することで、自身の弱点である国際・外交面を強力に穴埋めしようとしたのだった。

ただ、ReinfeldtとBildtは同じ党の中で仲が悪い、と噂されていただけに、今日の人事は世間にとっては寝耳に水で、Jan Eliassonの時と同じように大きなニュースとなった。二人の仲の悪さは90年代からで、Bildt政権が94年の総選挙で敗北すると、まだ若き議員だったReinfeldtはBildtのリーダーシップに対し、痛烈な内部批判を行っている。これを契機にReinfeldtは、党内で反主流派のうねりを水面下で起こして行き、最終的に主流派に打ち勝ち、党をひっくり返す形で、現在、こうして党首になり、首相になるまでに至っているのだ。だから、かつての“目の上のたんこぶ”であった元党首・元首相のBildtを外相に起用したのは意外だった。Bildt自身は2001年を最後に議員職から退いていたから、今回の起用は、議会外から、ということになる。

Carl Bildtの外交手腕と国際的なネットワークの強さは、誰もが認めるところである。しかし、スウェーデンの政治家の中ではかなりの“アメリカ寄り”であることが、批判されてもいる。また、スウェーデン国内では、財界と太いパイプを持つことが有名で、投資機関や石油・鉱山企業の執行部に名を連ねてもいる。特に、その中の一つ、スウェーデンの石油・鉱山企業であるLundin Oilがアフリカで石油開発で地元住民に強制立ち退きを強い、飢餓の問題を起こしたときなどは、彼も痛烈な批判を世論から受けたりしている。