スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

福祉国家は経済効率が本当に悪いのか? (1)

2009-04-29 05:35:54 | スウェーデン・その他の経済
前回はアメリカのコメディー番組から「The Stockholm Syndrome」を紹介した。この映像はスウェーデン国内でも、このブログ上でもずいぶん評判が良かった。「社会主義」という言葉だけを独り歩きさせ、実情を伝えることなく、ネガティブなイメージだけを広めるのは恐ろしいことだ。

スウェーデンを語る上で、よく見受けられる大きな間違いもう一つある。福祉国家の経済効率は一般的に良くない、というものだ。

経済もしくは経済効率が良くない、と言うとき、比較の対象は多くの場合アメリカ合衆国だ。各先進国の国民一人あたりのGDP(国内総生産)をOECDのデータを使って比較してみよう。


単位は米ドル。PPP(購買力平価)レートを用いて換算。current price

上の表は2000年、2005年、2007年の国民一人あたりのGDP(GDP per capita)を比較したものだ。金融セクターが大きな比重を占めるルクセンブルグや、石油収入の大きいノルウェーを除けば、確かにアメリカが優等生であることが分かる。

スウェーデンは10~13位につけている。なるほど、スウェーデンの経済力はアメリカよりも20%ほど低い。程度の差はあれ、多かれ少なかれ福祉国家といえる西ヨーロッパを見てみても、EU-15の経済力はアメリカよりも27%低い

しかし、まず考えなければならないのは労働時間の差。つまり、たとえ経済効率は同じでも、労働時間が長ければ、労働活動から生み出される付加価値はそれだけ大きくなる。つまり、GDP per capitaだけをみて経済効率を論議するのは危険だ。

年に5週間以上の有給休暇があるスウェーデンに対し、アメリカは休暇の数が少ないことはよく知られている。週あたりの労働時間も若干長いようだ。労働者一人あたりの1年間の総労働時間をOECDのデータで比較してみると、スウェーデンが1562時間であるのに対し、アメリカは1798時間。つまり、スウェーデン人は平均的な労働時間はアメリカ人よりも13%ほど短い。だから、一人あたりのGDPがアメリカよりもそのぶん低いことは、驚くことでもない。(つまり、20%の違いのうち、約13%は説明がつく)

労働時間が短い、という事実だけを取り上げて「スウェーデン人は怠け者だから」と安易な説明をしたがる人もいるだろう。しかし、スウェーデン人の平均的労働時間がアメリカよりも短いのは、長時間働いてお金を稼ぐことだけでなく、余暇や充実した家庭生活にも、より大きな価値を見出しているから、つまり、「労働から得られる所得」と「余暇の楽しみ」という2つの間のトレードオフの中で、余暇のほうにより大きな重きをおいているから、と見るほうが妥当だろう。もちろん、労働者個人が一人で「自分はこれだけ余暇が欲しい」と言って自由に決められるわけではない。スウェーデンでは(そして、他のヨーロッパの多くでも)働く者はブルーカラーやホワイトカラーを問わず労働組合を通じて、労働時間の短縮を実現してきたという歴史がある。

(スウェーデンとアメリカの間で労働時間に差が生じる要因としてもう一つ考えられるのは、フルタイム労働者パートタイム労働者の比率の違いだ。つまり、パートタイム労働者の比率が高い国ほど、全体としてみた場合に労働者一人あたりの労働時間は短くなる。しかし、OECDの統計を見てみると、パートタイム労働者の割合はスウェーデンで14%、アメリカで13%と大きな差はない。)

ちなみに、他のヨーロッパ諸国も年間の平均労働時間もアメリカよりもはるかに短い。
(日本は統計上ではアメリカと同じくらいだが、申告されていないサービス残業などを含めると、もっと長いのではないか、という気がする)


労働者一人あたりの年間平均総労働時間

次回は、もう一つ別の点を考慮に入れた上で、労働時間あたりでみたGDPランキングを作成してみたい。(続く・・・)

「社会主義国」スウェーデンの恐怖!? (2)

2009-04-26 18:57:19 | スウェーデン・その他の政治
前回のスウェーデン・ルポ続編。そして、社会保障の本質についての世界で最も分かりやすい説明も。
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「社会主義」に向かおうとしているアメリカの将来がどのようなものなのか? それを探るためにWyatt Cenacが身の毛もよだつような恐ろしいスウェーデンの旅をさらに続けることに・・・

この不可思議な社会を作った責任は誰にあるのか? その責任を追及すべく、社会民主党の国会議員にインタビューすることになった。


(↑ 画像をクリック)

この髭面のおじさんはレイフ・パグロツキー(Leif Pagrotsky)愛称はパッガン。中央銀行の職員をスタートに、財務省の政務次官など経て、外相・産業相・教育相などを歴任する。今でも社会民主党の国会議員。


「これまで国民を社会主義によって痛めつけてきたことを謝罪する気はあるのか?」
「謝罪することは何もない。むしろ、俺たちはアメリカに勝ったんだよ。」


それでも納得しないWyatt Cenac。社会全体によって国民の生活を支えるシステムも、イケア(IKEA)の家具のように壊れてしまうんじゃないのか!?


そして、非常に分かりやすい社会保障の講義。
「Say these five average Swedish women chosen randomly from the street represent my income.」(← やっぱりこれが、アメリカ人がスウェーデンに対して持っているステレオタイプ)


税金として3人持っていかれたとしても、政府はそれを自分のふところに入れてしまうわけじゃないんだよ。必要に応じて、サービスとして現物給付で戻してくれる。

なるほど、つまりこれはgovernment-fundedということなんだね。

「Frodo Baggins couldn't see how broken his country was!」


最後の頼みの綱は、Abbaのビョーン(Björn)。Abbaは「Money money money」「The winner takes it all」などの資本主義賛歌(Capitalist anthem)を作ってきた。大金持ちの彼は、富の再配分の危険性を理解してくれる、世界で唯一のスウェーデン人かもしれない。

しかし、ここでも期待は大外れ。American-inspired hitsを作ってきたビョーンが言うには、資本主義の絶賛ではなく、「非常にアイロニックな視点から“お金”を描写しているんだよ。」資本主義賛歌だと認めさせてインタビューを先に進めようとしても、頑なに拒む。


極めつけは「Baconnaise」。ベーコンとマヨネーズを合わせた、この脂っこい食品が資本主義の恩恵だと説得しようとするが・・・。(こんなもの食べているから太るんだよ)

「I couldn't stay in a country that turns women into statues as pleasure creatures and men into bearded gnomes.」
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この2回にわたる短いエピソードには、もちろん誇張もあるのだけど、伝えようとしたメッセージとは結局、「FOX NEWSなどが描いている“社会主義国スウェーデンの恐怖”というプロパガンダがいかに根拠のないもので、スウェーデンという国でも人々は普通に生活しているし、むしろ満足している人もたくさんいるし、経済もアメリカと少なくとも同じくらい豊かなんだよ。」ということだと思う。

アメリカの保守派が槍玉に挙げているのは、オバマ政権の大規模な経済介入や社会保障の改善などだが、これからの4年間、もしくは8年間のうちに、アメリカの社会が“まるでスウェーデンみたいに”なるわけでもないし、なれるわけでもない。だから、杞憂に過ぎないことを認めるべきだろう。

「社会主義国」スウェーデンの恐怖!? (1)

2009-04-24 06:18:23 | スウェーデン・その他の政治
民間企業への大規模な公的支援、各種銀行への資金注入、そして、保険会社の国有化・・・。アメリカではここ数ヶ月の間に、市場自由主義・資本主義を標榜する国とは思えないくらい大胆な市場介入策が行われてきた。金融危機に対処するためではあるが、市場に対する国の関与とコントロールは着実に拡大している。

銀行や金融機関への公的資本の注入や国有化は、スウェーデンが1990年代初めに行い、当時の金融危機・経済危機を3-4年のうちに最悪の状態から立て直すことに成功した教訓がある。このことは昨年秋にもこのブログで「the Stockholm Solution」として特集した。
2008-09-15: The Stockholm Solution (1)
2008-09-17: The Stockholm Solution (2)
2008-09-19: The Stockholm Solution (3)
2008-09-21: The Stockholm Solution (4)

当時、財務副大臣としてその舵取りを行ったボー・ルンドグレーン(Bo Lundgren)は、現在は国債管理庁の長官を務めるが、アメリカ発の金融危機の懸念が囁かれるようになった昨年春からIMFなどに招かれて、スウェーデンの教訓を説いて回っていた。今年の3月にも、アメリカ議会に招かれて、演説を行っている

また、世界の新聞や雑誌にもたびたびインタビューを受けてきた。下のリンクは、そのほんの一部を紹介。
2008-09-22 (New York Times): ”Stopping a Financial Crisis, the Swedish Way”
2009-01-22 (New York Times): Sweden’s Fix for Banks: Nationalize Them
2009-02-15 (the Washington Post): "Nationalize the Banks! We're all Swedes Now" (by Matthew Richardson and Nouriel Roubini)

(注:ただし「the Stockholm Solution」はあくまで金融システムのメルトダウンを防ぐ措置であり、アメリカ政府が自動車産業に対して行っているような民間企業への積極的支援は含まれない。これまで書いたように、スウェーデンは企業の救済をすることには非常に消極的だ。また、アメリカやフランスなどで見られるような保護貿易主義経済ナショナリズムも、スウェーデンの過去の教訓とは関係がない。)
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とはいえ、政府による大規模な経済介入を懸念する声も、さすがアメリカとあって根強い。オバマ政権の緊急経済プランを批判したい人たちにとって、アメリカ世論を震え上がらせるためには、ある一単語を叫ぶだけで十分。その単語とは、socialism

そう「自由経済への介入は、社会主義への第一歩だ!」というわけだ。しかも「このままだと、スウェーデンみたいな社会主義国になってしまうぞ!」と叫んでいる人もいる。アメリカでは「社会主義」という言葉に対する拒否反応が強いらしく、このような大袈裟な主張もまことしやかに議論されているようだ。


そんな中、アメリカのコメディー番組「The Daily Show」が、スウェーデン特集を放映した。「社会主義国」スウェーデンがどんなに恐ろしい国で、人々が惨めな暮らしをしているのかを調査するために、スタンドアップ・コメディアンのWyatt Cenacがスウェーデンに渡った!


(↑画像をクリック)


高い税金のおかげでお先真っ暗なスウェーデンでは、車までもが海に身投げするほど。


と、ここまでの出だしは良かったのだけど、次第に明らかになるのは全く予期しなかったスウェーデン像・・・。あれっ、人々は普通に生活しているし、何だか幸せそうではないか・・・!


しかし、資本主義の魅力とは、成功した者が報われること。スウェーデンのお金持ちはきっと贅沢な暮らしをして、大きな家やテレビをいくつも所有し、「社会主義」の社会に不満を漏らしているに違いない。というわけで、スウェーデンのポップスター、ロビン(Robyn)の自宅を訪ねることに。

だが、ここでも期待が外れる。しかも、最後の極めつけはロビンの台所で見つけたあるもの。「スウェーデンではポップスターも、こまめに牛乳パックを洗って、リサイクルしていた!」


頭の中がすっかり混乱してしまったこのWyatt Cenacは、最後にスウェーデン人に向かってこう叫ぶ。
「Wake up, people! You are living in a socialist nightmare!」

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今日はこのリンクをスウェーデン人の同僚に送って、みんなで大爆笑していた。
「Do you really want to change America into Sweden!?」 とマジな顔をして警告しているオッサン(上のほうの写真)に対抗するためには、これくらいな軽いタッチのルポタージュのほうが、むしろ効果があるかもしれない。

歴史的な低金利 と スウェーデン経済の将来に対する期待

2009-04-22 07:20:35 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデン中央銀行がさらなる利下げを行った。歴史的に見ても最低水準だった1%から0.5%に下げ、記録をさらに更新することになった。経済の悪化が予想を大きく上回っていたことは間違いない。


しかし一方で、スウェーデン経済は不況に突入する直前の昨年9月の段階で4.75%という高金利であったおかげで、わずか7ヶ月ほどの間に合計4.25%ポイント減という大規模な金融政策を講じることができた。これは、ある意味「ショック療法」として大きな効果を持っているのではないか、と私は思う。スウェーデンの家計の半分が住宅ローンを持っているというが、そのうちの平均的な家庭の場合、これまでの利下げのおかげで月々のローン返済額が数万円も少なくなったという。これが消費につながる可能性は大きい。また、利下げが住宅投資や企業の設備投資に与える効果も一定程度あるだろう。


記者会見で利下げを発表する中央銀行総裁

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これまでこのブログには、スウェーデン経済に関する様々な懸念を書いてきた。細かい問題はたくさんある。しかし、全体としてみた場合、実は私はそこまで悲観的ではない。

4月に入ってから株価が上昇し始めている。このまま持続的に上昇していくかというと、そこまで楽観的にはなれないが、少なくとも今年の終わりか来年の頭までにはスウェーデンの経済は上向きに転じているのではないかと予想する。

今のスウェーデン経済にとってプラスの要素は、クローナ安だ。自国の通貨が安くなったおかげで、今年の夏休みは多くのスウェーデン人が国外旅行を諦め、国内でバカンスを過ごす傾向にあるという調査結果がでている。国内のキャンピング場やサマーハウスなどは、既に予約が殺到しているとか。クローナが安いおかげで、ドイツなどの大陸ヨーロッパやユーロ圏をはじめとする国外からの旅行客が、今年はスウェーデンに例年以上に押し寄せてくるだろうと見られている。

スウェーデンの製造業も今でこそ真っ暗闇だが、世界的な景気がひとたび持ち直せば、輸出産業はクローナ安のおかげで大いに潤うだろう。状況は1992-93年頃のスウェーデンに似ている。バブル崩壊に苦しんでいた当時のスウェーデンは固定相場を維持していたが、通貨攻撃を受けて変動相場制に移行した結果、クローナは1年ほどのうちに主要通貨に対して4割も下落した。そして、ちょうどそれと時を同じくして、輸出高が急激に上向きになっていき、これがその後の景気回復と経済成長への引き金になったと言える。

もう一つは失業者が置かれた状況。現在の政権になってから、確かに失業保険の給付水準の抑制や保険料の大幅な引き上げなどの変化があった。その結果、失業保険から離脱する人も増えたことも確かだ。

しかし、日本で3月に「スウェーデンの経済と雇用情勢」について講演させてもらった時にも説明したように、日本とスウェーデンの失業者が置かれた状況を比較すると、スウェーデンの社会保障がいかに充実しているかが良く分かる。現在の厳しい経済状況は、世界中どこの先進国も似たようなものだろう。この苦境から一国だけが逃れる術はない。しかし、スウェーデンにはこの厳しい「冬」を乗り切る体勢が比較的整っているといえるだろう。失業者や苦境に陥った人々を社会全体で一定期間、保護し、来るべき「春」に備える

保護する手段としては、比較的手厚い失業保険給付に加えて、最近書いた積極的労働市場政策や、家賃の支払いが困難な家庭に支払われる家賃支払い補助金、そして最後の頼みの綱としての生活保護などだ。また、授業料が無料であり生活費の支給もある大学教育成人高校なども、失業者(特に若者の失業者)を吸収する一種のバッファーとなっている。ちょうど今、今年の秋学期の大学課程の応募の締め切りが近づいているが、今年は応募者が急増している。

だから、今年をどうにか乗り切れば、スウェーデンの将来は明るいだろう。GDPも来年はプラスに転じるだろう。輸出産業も今年末あたりから、大きく業績を伸ばしてくれるだろう(ただし、雇用が回復するには2、3年はかかるかもしれない)。スウェーデンの新聞各紙は、毎日のように暗いニュースを大きく書いてはいるが、その行間に実は記者や解説者のオプティミズムを感じるのは私だけだろうか?

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中央銀行総裁Stefan Ingves(ステファン・イングヴェス)の顔を見るたびに、何かに似ているといつも思うのだけど・・・


もしかして、これかな?

暗闇の中の小さな希望

2009-04-20 07:49:13 | スウェーデン・その他の経済
今年の2月に、GM傘下のSAABが窮地に陥り、スウェーデン政府に救済を求めたとき、産業大臣は「トロルヘッタン(SAABの本社がある町)は、これからは自動車生産以外のことに従事する、そういう心積もりを今からしておきなさい」と冷たく言い放した。

スウェーデンの産業政策の一つの基本は、斜陽産業や倒産しかかった企業は救済するよりも淘汰し、溢れた労働力をより生産性の高い産業や成長企業へ移動させていくべき、という考え方だ。そして、このプロセスで発生する失業に対しては、寛大な失業保険給付や職業訓練(または大学教育)を国が責任を持って行う。経済全体で見た場合、非効率な産業・企業が淘汰されることで生産性が向上するうえ、社会全体で失業者を一定期間、保護するため、経済の構造転換に対する抵抗が緩和され、転換がスムーズになる。

しかし、これがうまくためには、溢れた労働力を吸収してくれる「活発な」成長産業・成長企業が存在する、もしくは生まれてくることが大きな条件となる。

では、仮にSAABがなくなった場合、それに代わる新しい産業って何なのだろうか? これについては、SAAB、Volvoやその他の自動車関連産業が集まるヴェストラヨータランド地方(Västra Götaland、ヨーテボリが中心)の行政府やスウェーデン政府も様々な楽観的憶測を提示してきた。環境技術、風力発電、波力発電etc、いわゆるクリーンテク(clean tech)といわれる産業だ。

他方、自動車業界の側も、生き残りのためには、省エネ・環境車に力を入れていかなければならない、という危機感をますます強めてきた。バイオガス・カー、電気カー、ハイブリッド・・・。これらの技術は以前から開発が進められ、スウェーデン政府も研究開発に公的なお金を注いできたものの、すぐに目玉商品の生産が始まり、溢れた労働力を吸収してくれるわけではない。何事も時間がかかる・・・。

と思っていたら、興味深いニュースが飛び込んできた。変革は意外と早くやってくるかもしれないことを示唆するニュースだった。
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「ヨーテボリ近郊に新しいバッテリー工場がオープン。この一帯の自動車関連産業に希望を与えてくれるかもしれない」

出典:Dagens Nyheter

ヨーテボリから北に20kmほど行ったところにAle(アーレ)という市(コミューン)があるが、ここに新しいバッテリー工場が完成したのだ。しかも、バッテリーを作るだけでなく、それをFiatの小型車に埋め込み、電気自動車として販売もするのだそうだ。

バッテリー工場はAlelion Batteriesという地元の小さな企業が建設したもの。この企業は、アメリカや中国からバッテリーのコンポーネントを輸入し、それを組み合わせて大型バッテリーを製造する。そして、この工場の隣には、Autoadaptという別の会社が工場を建設中で、ここで電気自動車が作られる、という仕組みになっている。

電気自動車の車体はFiat 500という既成モデルで、これまでガソリン仕様だったものを、電気仕様にするということなのだ。ポーランドにあるFiatの工場から、ガソリンエンジンを取り付ける前のFiat 500の車体を輸入し、これにAlelionが製造したバッテリーを装着し、その他の関連部品も取り付ける。

この新しいプロジェクトは、新型のバッテリー生産に力を注いできた地元の小さな企業Alelion BatteriesとFiatがうまく協力関係を築くことで可能になったという。Fiatがこの小さな企業をパートナーに選んだ理由は「Alelionはリチウム・イオンによる新世代バッテリーを製造するノウハウを持っているから」という。

この企業にはこれまで20人ほどの技術エンジニアが研究開発に携わってきた。近いうちにバッテリー製造で30人、電気自動車製造で30人の新規雇用を行っていく予定だという。電気自動車の生産台数は今年は100台ほどだが、来年は300台、その後はさらに規模を拡大していく見込みだ。

暗いニュースばかりだったヴェストラヨータランド地方をほっとさせてくれるニュースだ。バッテリー工場の完成記念式に立ち会った県知事は、願いを込めてこう祝辞を述べている。

京都会議から、次のコペンハーゲン会議までの道程は、実はこのAle(アーレ)を経由しているんだと、私は確信しているよ。私たちは環境によい再生可能な電力の発電に力を入れてきたのだから、これからは電気自動車の生産にも力を注いでいこうではないか!」


上機嫌のヴェストラヨータランド県知事
出典:Göteborgs Posten

春真っ盛り。

2009-04-18 05:05:43 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ヨーテボリから南に向かったところに、お気に入りの自転車コースがある。廃線になった鉄道の路線を歩行者・自転車道にしたところだ。起伏がほとんど無い上、海沿いを走るので景色は最高。散歩している人が多いので、スピードを出すのは禁物だが、のんびりウオーミングアップするにはいい所。

先週後半はイースター休暇だった。冬の間はジムでの屋内トレーニングだったが、やっとのことで自転車をきれいに掃除し整備して、今年初めて外を走ってみる。この廃線コースでウオーミングアップを終えた後、自動車道に出てさらに南下。

冬の間は雪が降るたびに、滑り止めとして道路に砂利が撒かれる。そんな砂利も毎年、だいたいこの時期までに市の専用車がきれいにかき集めてくれているはずなのに、今年は路肩にまだたくさん残っている。不況による市の財政難の影響がこんなところにも? なんて考えが頭をよぎるが、そんなことより自転車に乗ることに集中していないと、変なところでスリップしてしまいそうだ。




3月半ばにはまだ雪が降っていたことを思うと、ほんの1ヶ月の間にまるで別世界に様変わりしたかのような気さえしてくる。これから5月にかけて、木々には緑が爆発するように生い茂っていく。それもほんの2週間ほどのうちに。

2009年の春予算

2009-04-16 05:17:37 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデン政府が春予算を発表した。


スウェーデンでは毎年9月に本予算が国会に提出され、審議を経て可決される。これが次の年の予算年度(1月~12月)に実行される。ではこの春予算は何なのかというと、本来は日本の補正予算ではなく、(1)その年の秋の本予算に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台の役割を持つものだ。しかし、現在のように経済状況が刻々と変化するような場合には、(2)年内に追加的な財政支出を行うという、補正予算の役割を持たされることもある。

では、2009年の春予算の内容はどうだったかというと、大きな柱は2つ

一つは、既にこのブログでも紹介した、地方自治体への財政支援策。自治体の財政の大きな部分を占めている所得税の税収が大幅に減少する中、その税収減を穴埋めするために、国が特別の予算を計上し、特別地方交付金として地方自治体に配分するものだ。

ただし、これも既に触れたように、この財政支援策は来年からであり、今年は一切行われない。だから、春予算に関する上の説明で言うと(1)のほうであり、「秋の本予算で必ず盛り込みますよ」ということを今の時点で約束しているに過ぎない。(10年:7億クローナ、11年:5億クローナ、12年:5億クローナ)

一方、もう一つの柱は、今年から既に支出が行われるもので(2)の補正予算的なものに該当する。では、対象は何かというと積極的労働市場政策。つまり、失業者が受身的に失業給付を受け取るのではなく、彼らを積極的に家の外に出して、職業訓練を受けさせたり、そのために必要な基礎教育を提供したり、人手不足の産業で職場インターンシップを受けさせて、産業間の転職をよりスムーズにするものだ。このために、今年分の労働市場政策関係費10億クローナ(130億円)上乗せするという。

ちなみに、スウェーデン政府は昨年12月の段階で補正予算(83億クローナ)を計上していたから、この10億クローナ分は言ってみれば第2次補正予算と見ることもできるだろう。

2008-12-23:緊急財政出動プラン
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さて、春予算を提出した財務大臣アンデシュ・ボリ(Anders Borg:保守党)は二方向から叩かれている。一つはもちろん野党だが、もう一つは経営者・産業界団体だ。彼らは「ボリ財務省は、積極的労働市場政策にお金をつぎ込むとはいっているが、失業者を給付漬けにすることに関しては、社会民主党の財務大臣そっくりだ。」と批判する。

確かに、この批判の最初と最後の部分については頷ける所もある。彼の属する保守党は、数年前は「積極的労働市場政策なんていらない。労働市場庁も廃止してしまえ。」という主張を繰り返していたから、そのような時と比べると、積極的労働市場政策の意義を認めるようになった現在の保守党は様変わりしたとも言える。

野党は、社会民主党を筆頭に「積極的労働市場政策にお金を投じるのはいいが、内容が不十分であり、この規模では意味のある職業訓練や職場インターンシップは行えない。失業者をせいぜい教室に座らせて、履歴書の書き方だとか、求職活動の仕方を講義することくらいしかできない。」と批判する。また、現政権が2007年以降、減税を行うと同時に、失業保険の給付水準を抑制したり、失業保険組合への国庫補助を削減してきたことを批判し、「失業が増えている今やるべきことは、全く逆のことだ。」と非難している。
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私としては、積極的労働市場政策によって、失業者の雇用能力(employability)を向上させ、職業・産業間の移動をスムーズにすることはとてもよいことだと思う。しかし、これも要は何を行うかであり、あまりケチなことをやっても、それこそ教室に座って履歴書の書き方を学ぶような安上がりなことしかできない。90年代の経済危機に際して失業者が大幅に増加したときに、積極的労働市場政策は無駄だ、という批判の声も聞かれたが、結局は何をするかであり、積極的労働市場政策、それ自体がダメというわけではない。いくつかの事後評価によると、実践的で現場とリンクした職業訓練プログラムなどは、失業者の失業期間を短縮させる有意な効果があるという。

現在、不況が続くとはいえ、一部の産業は人手不足であり、求人を行っているから、そのような産業へ失業者がうまく移動できるようなコーディネートが必要だ。一方で、求人の絶対数が格段に少ない現在、積極的労働市場政策にも限界がある。結局、この政策は求人がある場合には有効だが、そうでない場合には、別の方法で労働需要の喚起を図る必要がある。そして、それでも限界がある場合には、失業者を一定の期間、手厚い失業給付などで保護し、世界的な景気が回復して、スウェーデンの産業活動が上向きになるのを待つしかない。

日本のデフレと失われた15年

2009-04-13 20:45:39 | スウェーデン・その他の経済
前回は、購買力平価(PPP)レートが両国の物価上昇の違いによって変化することを書いた。

日本はインフレが低かったおかげで、クローナに対しても、その他の通貨に対しても購買力が上昇して、強くなってきた。しかし、本当によいことなのだろうか?

これまで、日本では「デフレ・スパイラル」という言葉がよくに耳にされてきた。マイナスインフレ(デフレーション)が起こっていることは知っていたけれど、実際にそれを統計で数字として見てみると、その程度の大きさに愕然とさせられる。


インフレ率がマイナスの年が1年ならまだしも、それが数年にわたって続いているのだ。

確かに90年代後半以降、途上国産の安い製品が入ってくるようになったし、パソコンや携帯電話などの技術革新もインフレ率を押し下げる要因にはなってきたはずだ。しかし、経済全体の物価上昇がマイナスになり、それが数年も続くことは先進国では大変珍しいことだ。

安い製品の流入や技術革新といった条件は、他の先進国も似たようなものであろうが、それらの国とインフレ率を比べてみても、大きな違いがあることが分かる。


上のグラフは、日本や主要先進国、そしてスウェーデンの物価上昇(インフレ)率を比較したものだが、他の国々のインフレがだいたい似たような傾向を示している(世界的な景気変動とか原油・原材料の価格変動のためだろう)のに対し、日本だけが大きく逸脱している。

マイナスのインフレ(デフレーション)が良くないのは、経済が年ごとに収縮していくためだ。企業が前年と同じだけのものを売っても、今年の売上げが減り、収益も減る。そうすると、設備投資などに回るお金が減るし、労働コストを低く抑えようとするから働く人々の給与が減る。そうすると、人々はなるべく安いものを買うようになり、特に国内の企業がモノを作っても、売れにくくなり、収益がさらに減る。それでもモノを売ろうと思えば、生産コストを安く抑えなければならず、人件費のカットにより、給与がさらに減る。まさに、悪循環(スパイラル)だ。

日本では、企業の経営不振や賃金カットのために、可処分所得がなかなか上昇せず、しかも年金やセーフティーネットの脆弱さのために将来不安があり、国内消費が伸び悩んだ。それが国内企業の経営難にさらに拍車をかけ、低賃金・低コストを実現するために、非正規雇用の拡大などによって無理な努力が行われてきた。国内消費が不振であった一方で、輸出産業は比較的好調だったが、この世界的な不況の中でその輸出頼みの経済構造にも大きな問題があることが分かり、やはり国内需要をいかに維持して、経済を立て直していくかが再び叫ばれるようになった・・・。

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1990年代初めスウェーデンはバブル崩壊にともなう大きな経済危機を経験するが、だいたい4年で不況を乗り越えたといわれる。では、同じ頃にバブル崩壊を経験した日本経済は、不況を脱するまでにどれだけ時間を費やしたのだろうか?

「不況を脱するまで」という定義もいろいろあるだろうが、アメリカの経済学者 Rogoff などの見方によると、日本は15年以上経っても不況から抜け出せなかったという。そして、昨年後半に新たな危機が襲ってきたというわけだ。


上のグラフは、世界の過去の主要な不況において、不況から脱するためにどれだけの年月を要したか、を示したものだ。平均的な年月はだいたい6年らしいが、日本だけが突出している。日本では2000年代に入ってから散発的に「景気回復」のニュースが聞かれはしたものの、国際的な比較から言うと、そうではなかったことがわかる。

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スウェーデンは人口925万人の小さな国で、国内の市場も小さいため、経済の多くの部分を輸出に依存している。これに対し、日本は本当は大きな国内市場を持っているのだから、これをうまく生かすことができれば、たとえ成長率は高くなくても安定した発展を達成できる条件は、スウェーデンよりもはるかに整っている。それに失敗してきたこれまでの15年間を取り戻していかなければならない。

為替レートについて

2009-04-11 19:43:09 | スウェーデン・その他の経済
久しぶりに為替レートをチェックしてみると、ここ数週間でスウェーデンクローナが若干持ち直していることが分かった。対円レートをグラフにしてみると、次のようになる。


私は昨年暮れの段階で、結構な額の円をクローナに替えておいたから、ちょっと嬉しくなる。

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為替レートというのは、ちょっと厄介だ。ここ半年ほど、あるスウェーデン語の翻訳を手がけてきたけれど、この原著の中にはクローナの表記がたくさん出てきた。翻訳する際には、なるべく円でも併記したいのだけど、さてどの時点での為替レートを使おうか?

その原書が出版された2007年時点の1クローナ=17円というレート? それとも、現在の1クローナ=11円というレート? どれを使うかで、換算される円の額が大きく異なってくる。

これは、スウェーデンの社会保障制度を日本の方に説明するときにも大きな問題になる。所得水準や、失業保険や育児休暇保険の給付額が、その時々のレートによって、円にするとかなり違ってくるからだ。

たとえば、スウェーデンのフルタイムの就業者の平均年収(2006年)32万7000クローナだというが、これを1クローナ=17円で換算すると556万円になる。一方、1クローナ=11円で計算すると(わずか)356万円になる。この差はなんと200万円!

では、どうしようか?

為替レートは時として大きく変動し、その高い(低い)水準にしばらく留まることもよくあるので、その通貨の本来の力を反映していないことが多い。「本来の力」とはたとえば、そのお金でどれだけの物を買うことができる(購買力)か、ということ。

32万7000クローナを使ってスウェーデンで買えるのと同じだけの物を、日本で356万円を使って買えるのであれば、1クローナ=11円というレートは両通貨の購買力を反映した正当なものだ、といえるだろうし、そうでなければどちらかの通貨が過小(過大)評価されているということになる。

別の考え方をすれば、たとえば、アボカド1個がスウェーデンでは10クローナ、日本では150円だったとすれば、購買力を反映した為替レートは1クローナ=15円と考えることができる(これはもちろん、アボカドだけに限って考えた場合)。

では実際のところ、この購買力を反映した為替レートはいくらなのだろうか?

OECDの統計をもとに計算すると、PPP(購買力平価)レート2008年の時点で1クローナ=12.54円だということが分かる。


上のグラフから分かるように、PPPレート実際の為替レートほど大きく変動するものではない。通貨の購買力は、短期間にそう大きく変動するものではないからだ。

一方、2000年以降、一貫して円の購買力が強くなっていることもわかる。これは、両国の物価上昇の違いのため。つまり、日本ではデフレが続き、物価がほとんど上昇しなかったのに対し、スウェーデンでは平均で年に1.5%ほどの物価上昇が続いてきたからだ。


インフレ率

先ほどのスウェーデン人の平均年収の話に戻れば、32万7000クローナ=439万円ということになる(2006年時点でのPPPレート:1クローナ=13.41円を用いて)。

異なる国の所得水準や社会保障給付の充実度などを比較する場合、実際のレートを使うよりも、この購買力平価(PPP)レートを使ったほうが意味のある比較ができるのではないかと思う。実際、一人当たりのGDPの国際比較などをするときには、このレートが用いられている。(だから、円がいま急激に強くなったからといって、日本の一人当たりの国民所得やGDPが国際比較の上で急激に上昇するわけではない。)

そういえば、PPP(購買力平価)レートを真似たものとしては、世界中どこでも手に入る「ビッグマック」一つの値段を比較したビッグマック・インデックスというものを経済誌「Economist」が作っている。

雇用情勢のさらなる悪化を防ぐために・・・(2)

2009-04-08 17:35:00 | スウェーデン・その他の経済
現在の危機を乗り切るために、国が特別の地方交付金を計上して、地方自治体の財政の穴を埋めて欲しい、という声が上がっている。地方自治体連合会は、それによって救われる職の数は25000になるといい、一方、自治体職員の労働組合などは、35000になるともいう。また、野党である社会民主党は「国の財政支援によって、福祉サービスを守るべき!」と訴えている。

このような声に対して、スウェーデン政府を構成する中道右派4党は「2009年に新たな追加予算を計上する予定はない。地方自治体に特別交付金をつぎ込むとしても2010年以降」と冷たい反応をしてきた。地方自治体の側としては非常に不満だったようだ。

そして先日、この4党の党首はこの方針にのっとった具体的な支援策を発表した。来年2010年に70億クローナ(70%を市、30%を県へ)を、そして11年と12年にはそれぞれ50億クローナずつを地方自治体への交付金に上乗せし、税収減による財政状況の逼迫を緩和させる、というものだった。


地方自治体側との認識の相違は相変わらず大きい。地方自治体連合会は「既に今年2009年の段階で支援が必要」と要求してきたのに対し、政府は「08年の地方税収は大きく上昇していたから今年はまだ大丈夫」と答えている。また、地方自治体連合会としては地方自治体の職員の解雇を防ぐためには、直近で100億クローナが必要」と要求しているのに対し、政府からの支援は早くても2010年になってから70億クローナというものだ。

政府が強調しているのは「地方自治体は自治の原則の下、自分たちできちんと財政管理を行わなければならない」ということであり、「06年、07年、08年の好景気の間に地方の税収は大きく伸びていたのだから、地方自治体は今の経済危機に対処する能力をある程度は持っているはず」と繰り返す。

しかし、スウェーデンの地方自治も必ずしもまだ完璧ではない、ということも明らかになってきた。つまり、地方自治体は自らが徴収する比較的豊富な財源(所得税etc)と国からの自律的な交付金という制約の中で、収支が一致するように配慮しながら業務活動を計画・実行する、というのが原則であるのだけど、「収支を一致させる」という条件があまりに厳格で、各年にこの条件を満たしていかなければならないのだという。つまり、景気循環サイクルの中で、景気のよい時に余剰を大きく貯めておき、景気が悪くなって税収が不足したときにその余剰を使う、というような、長期的視野に立った財政管理が行いにくい構造なのだという。

そのような指摘に対しては、スウェーデン政府も「現行制度の問題点の検討を行い、地方自治体による長期的視点に立った財政管理が可能になるような、制度改革を進めていきたい」と発表している。

――――――
今回の政府の方針に従えば、2010年と11年の地方自治体の財政逼迫の懸念はひとまず緩和されたようだ。しかし問題は今年2009年はどうなるか、ということ。政府の認識しているように今年はまだ大丈夫なのか、それとも既に解雇が相次ぐことになるのか・・・。

テレビのニュースでは、ストックホルムから西のほうにあるある自治体の高齢者施設が取り上げられていた。この自治体は現在の経済危機になる以前から財政状況が悪く、それが今、さらに悪化しつつあるという惨めな所。ここでは、コーヒーの時間に高齢者がみんなで食べる菓子パンやケーキまで切り詰められて、今では乾パンを食べているとか。乾パンは硬くて食べにくい、というある入居者は「自分の財布からお金を出して菓子パンを買って、同じフロアの他の入居者にも振舞ってるんだよ」と健気にテレビで語っていた。

それから、私が興味があるのが、政府が打ち出している現行制度の見直しと制度改革。スウェーデンの各制度はもちろん完璧ではなく、よく欠陥が見つかり、大きな報道につながることもある(もしくはその逆で、ある報道によって欠陥が明らかになることもある)。しかし、スウェーデンの面白いところは、そのような指摘を受けて、政府なり議会が動き出すと、トントン拍子で改革プロセスが始まり、しばらくすると改革案が提出されて、それに様々な主体の意見を取り入れる形で実行される、ということだと思う。だから、今回も政府か議会で調査委員会が編成されれば、どれだけ時間がかかるかは別としても、着実に改革がなされるのではないかと期待する。

雇用情勢のさらなる悪化を防ぐために・・・(1)

2009-04-05 23:29:00 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンの雇用情勢を見てみると、昨年9月以降、製造業を中心に解雇や解雇通告が相次ぎ、現在の推計失業者数は約40万人弱と推計される。失業率は8.0%であり、これは一年前と比べて1.9%ポイントも高い水準だ。春から夏にかけては、既に解雇通告を受けていた人が、実際に首を切られるようになるため、失業率がさらに上昇していくことは必死だ。スウェーデンの行政機関の推計によると、2010年のうちに10%を上回ると見られている。

景気刺激のために様々な対策が打ち出され、一部は既に実行されてきた。政策金利の大幅な引き下げや、財政出動などはこれまでに書いてきたとおりだ。

しかし、スウェーデンの経済構造を考えた場合、雇用情勢をこれ以上、悪化させないための重要な対策がある。それは、新たな雇用を生み出すものではないが、少なくとも今の状況がますます悪化するのを防ぐ対策であるし、効果も確実にあると考えられる。


それは、地方自治体の公的雇用の保護

スウェーデンでは、高齢者福祉・教育・育児・医療など社会的サービスの大部分が、地方自治体によって提供されている。だから、介護スタッフや保育士、医師や看護士もほとんどが地方公務員だ。

一方、彼らの雇用は地方税によって賄われている。その地方税の大きな比重を占めるのが所得税
(所得税には市税・県税という地方税分と国税分とがあるが、このうち地方税分についていえば、課税最低限以下の人を除き、所得の多寡を問わず約30~33%が課税されるフラットな税だ。一方、国税分は所得が一定水準を越える人のみが20%もしくは25%の限界税率で支払う仕組みになっている。)

しかし、地方自治体が徴収する所得税もこの経済危機の中、税収が大幅に減少すると見られている。他方で、不況のために生活保護給付の需給世帯が上昇するものと予想され、生活保護の責任を負う地方自治体にとって出費が増える要因の一つとなる。

財政難に苦しむ地方自治体にとって、取り得る手段は限られてくる。地方税率の引き上げという手もあるが、不況の今、できれば避けたい。しかも来年は選挙の年。となると残りの手は、社会的サービスおよびそれに関わる職員数の削減ということになる。実際のところ、自治体の歳出の3分の2は自治体職員のための給与コストで占められている。

このシナリオは日を追うごとに現実味を帯びてきている。もしこれが実行されれば、社会サービス(福祉・教育・育児・医療etc)の質の低下をもたらしかねず、懸念の声が上がっている。

もう一つの大きな懸念は、雇用情勢に与える影響。就業者人口が400万人強であるスウェーデンにおいて、地方自治体の雇用は約120万人を占めている。そのため、自治体の雇用が減れば、経済全体に与える影響も大きいものになる。

地方自治体のレベルでこれを防ぐための有効な手段がないとなると、最後の頼みの綱は、中央政府ということになるが・・・。(続く)

愛されたニュースキャスター

2009-04-03 02:30:30 | コラム
悲しいニュースを知ったのは、スウェーデンへ戻る飛行機の中で読んだ新聞でだった。

公共放送であるSVT(スウェーデン・テレビ)21時のニュースの顔的存在だったキャスター、Jarl Alfredius(ヤール・アルフレディウス)が亡くなったとのことだった。そんなに歳ではなかったのに、と思って調べてみると、やはり66歳という、今後もまだまだ活躍できたはずの若さで亡くなっていた。



大学でジャーナリズムを学び、公共ラジオであるSR(スウェーデン・ラジオ)の報道部で勤務した後、SVT(スウェーデン・テレビ)に転身。1986年からは21時のニュース番組『Aktuellt(アクトゥエルト)』のキャスターを務めてきた。

「彼はインタビューする相手や取り上げようとする問題に対して、常に積極的な関心を示せる人だった。自分が大切だと考える物事に対する、ジャーナリストとしての熱意は素晴らしかった。」と、彼をよく知る同僚は語っている。

1993年には包囲下にあったボスニア・サラエヴォに自身が乗り込み、現地からニュースを送ったこともあった。

サラエヴォの臨時スタジオ


サラエヴォの通称「スナイパー通り」から

22年にわたってキャスターを務めてきたニュース番組『Aktuellt』を降板したのは昨年8月のこと。前立腺がんが見つかったためだった。しかし、この時点で病状はかなり進行していたようだ。

そして、今年の3月17日、妻と息子の芸術作品の展示会にあわせてお別れ会を開いたといわれる。親しい友人や同僚に送られた招待状には「お互い、もう一度会えるチャンスだよ」と彼自身が書いていた。

がんが骨にまで転移していた彼は、歩行補助器で体を支えながら会場に現れた。会場にはキャスターの同僚や一緒に働いたカメラマン、報道部のデスクの人たちなどが集まっていた。中には、23年前に彼をラジオ局からSVT(スウェーデン・テレビ)に引き抜いた、当時の担当者もいたという。その晩は、昔話で盛り上がり、昔の記憶が次から次へと語られ、尽きることがなかった。そして、最後には本人を含め、多くの人が涙を流したという。

最後の日々は、病院からストックホルム郊外の自宅に戻り、妻と共に静かな時間を過ごした。そして、「お別れ会」からちょうど2週間たった3月31日、静かに息を引き取った。


2007年3月に生中継した社会民主党と保守党の党首論戦より


春の山陰

2009-04-01 00:02:08 | Yoshiの生活 (mitt liv)
短期ではあるが一時帰省。

71歳になるスウェーデン人の同僚が、学会のために初めて日本を訪れるため、実家のある鳥取県に招待。島根県の松江などを案内する。ぽかぽかと小春日和になった一週間前と違い、再び風が冷たくなる。



私も日本に戻ったついでに、いくつか講演をさせていただきました。

4月3日頃から再び、週2、3回ペースでの更新を目指します。