前回はアメリカのコメディー番組から「The Stockholm Syndrome」を紹介した。この映像はスウェーデン国内でも、このブログ上でもずいぶん評判が良かった。「社会主義」という言葉だけを独り歩きさせ、実情を伝えることなく、ネガティブなイメージだけを広めるのは恐ろしいことだ。
スウェーデンを語る上で、よく見受けられる大きな間違いがもう一つある。福祉国家の経済効率は一般的に良くない、というものだ。
経済もしくは経済効率が良くない、と言うとき、比較の対象は多くの場合アメリカ合衆国だ。各先進国の国民一人あたりのGDP(国内総生産)をOECDのデータを使って比較してみよう。
単位は米ドル。PPP(購買力平価)レートを用いて換算。current price
上の表は2000年、2005年、2007年の国民一人あたりのGDP(GDP per capita)を比較したものだ。金融セクターが大きな比重を占めるルクセンブルグや、石油収入の大きいノルウェーを除けば、確かにアメリカが優等生であることが分かる。
スウェーデンは10~13位につけている。なるほど、スウェーデンの経済力はアメリカよりも20%ほど低い。程度の差はあれ、多かれ少なかれ福祉国家といえる西ヨーロッパを見てみても、EU-15の経済力はアメリカよりも27%低い。
しかし、まず考えなければならないのは労働時間の差。つまり、たとえ経済効率は同じでも、労働時間が長ければ、労働活動から生み出される付加価値はそれだけ大きくなる。つまり、GDP per capitaだけをみて経済効率を論議するのは危険だ。
年に5週間以上の有給休暇があるスウェーデンに対し、アメリカは休暇の数が少ないことはよく知られている。週あたりの労働時間も若干長いようだ。労働者一人あたりの1年間の総労働時間をOECDのデータで比較してみると、スウェーデンが1562時間であるのに対し、アメリカは1798時間。つまり、スウェーデン人は平均的な労働時間はアメリカ人よりも13%ほど短い。だから、一人あたりのGDPがアメリカよりもそのぶん低いことは、驚くことでもない。(つまり、20%の違いのうち、約13%は説明がつく)
労働時間が短い、という事実だけを取り上げて「スウェーデン人は怠け者だから」と安易な説明をしたがる人もいるだろう。しかし、スウェーデン人の平均的労働時間がアメリカよりも短いのは、長時間働いてお金を稼ぐことだけでなく、余暇や充実した家庭生活にも、より大きな価値を見出しているから、つまり、「労働から得られる所得」と「余暇の楽しみ」という2つの間のトレードオフの中で、余暇のほうにより大きな重きをおいているから、と見るほうが妥当だろう。もちろん、労働者個人が一人で「自分はこれだけ余暇が欲しい」と言って自由に決められるわけではない。スウェーデンでは(そして、他のヨーロッパの多くでも)働く者はブルーカラーやホワイトカラーを問わず労働組合を通じて、労働時間の短縮を実現してきたという歴史がある。
(スウェーデンとアメリカの間で労働時間に差が生じる要因としてもう一つ考えられるのは、フルタイム労働者とパートタイム労働者の比率の違いだ。つまり、パートタイム労働者の比率が高い国ほど、全体としてみた場合に労働者一人あたりの労働時間は短くなる。しかし、OECDの統計を見てみると、パートタイム労働者の割合はスウェーデンで14%、アメリカで13%と大きな差はない。)
ちなみに、他のヨーロッパ諸国も年間の平均労働時間もアメリカよりもはるかに短い。
(日本は統計上ではアメリカと同じくらいだが、申告されていないサービス残業などを含めると、もっと長いのではないか、という気がする)
労働者一人あたりの年間平均総労働時間
次回は、もう一つ別の点を考慮に入れた上で、労働時間あたりでみたGDPランキングを作成してみたい。(続く・・・)
スウェーデンを語る上で、よく見受けられる大きな間違いがもう一つある。福祉国家の経済効率は一般的に良くない、というものだ。
経済もしくは経済効率が良くない、と言うとき、比較の対象は多くの場合アメリカ合衆国だ。各先進国の国民一人あたりのGDP(国内総生産)をOECDのデータを使って比較してみよう。
単位は米ドル。PPP(購買力平価)レートを用いて換算。current price
上の表は2000年、2005年、2007年の国民一人あたりのGDP(GDP per capita)を比較したものだ。金融セクターが大きな比重を占めるルクセンブルグや、石油収入の大きいノルウェーを除けば、確かにアメリカが優等生であることが分かる。
スウェーデンは10~13位につけている。なるほど、スウェーデンの経済力はアメリカよりも20%ほど低い。程度の差はあれ、多かれ少なかれ福祉国家といえる西ヨーロッパを見てみても、EU-15の経済力はアメリカよりも27%低い。
しかし、まず考えなければならないのは労働時間の差。つまり、たとえ経済効率は同じでも、労働時間が長ければ、労働活動から生み出される付加価値はそれだけ大きくなる。つまり、GDP per capitaだけをみて経済効率を論議するのは危険だ。
年に5週間以上の有給休暇があるスウェーデンに対し、アメリカは休暇の数が少ないことはよく知られている。週あたりの労働時間も若干長いようだ。労働者一人あたりの1年間の総労働時間をOECDのデータで比較してみると、スウェーデンが1562時間であるのに対し、アメリカは1798時間。つまり、スウェーデン人は平均的な労働時間はアメリカ人よりも13%ほど短い。だから、一人あたりのGDPがアメリカよりもそのぶん低いことは、驚くことでもない。(つまり、20%の違いのうち、約13%は説明がつく)
労働時間が短い、という事実だけを取り上げて「スウェーデン人は怠け者だから」と安易な説明をしたがる人もいるだろう。しかし、スウェーデン人の平均的労働時間がアメリカよりも短いのは、長時間働いてお金を稼ぐことだけでなく、余暇や充実した家庭生活にも、より大きな価値を見出しているから、つまり、「労働から得られる所得」と「余暇の楽しみ」という2つの間のトレードオフの中で、余暇のほうにより大きな重きをおいているから、と見るほうが妥当だろう。もちろん、労働者個人が一人で「自分はこれだけ余暇が欲しい」と言って自由に決められるわけではない。スウェーデンでは(そして、他のヨーロッパの多くでも)働く者はブルーカラーやホワイトカラーを問わず労働組合を通じて、労働時間の短縮を実現してきたという歴史がある。
(スウェーデンとアメリカの間で労働時間に差が生じる要因としてもう一つ考えられるのは、フルタイム労働者とパートタイム労働者の比率の違いだ。つまり、パートタイム労働者の比率が高い国ほど、全体としてみた場合に労働者一人あたりの労働時間は短くなる。しかし、OECDの統計を見てみると、パートタイム労働者の割合はスウェーデンで14%、アメリカで13%と大きな差はない。)
ちなみに、他のヨーロッパ諸国も年間の平均労働時間もアメリカよりもはるかに短い。
(日本は統計上ではアメリカと同じくらいだが、申告されていないサービス残業などを含めると、もっと長いのではないか、という気がする)
労働者一人あたりの年間平均総労働時間
次回は、もう一つ別の点を考慮に入れた上で、労働時間あたりでみたGDPランキングを作成してみたい。(続く・・・)