スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

雪の日にはこんなことも

2010-01-31 10:04:08 | コラム
今年の冬はやっぱり寒い。でも、寒いからといって雪が必ずしもたくさん降って積もるわけではない。

とはいえ一晩中、雪が舞っていた次の日の朝は、車にどっさりと雪が積もっていることもある。

下の写真は、かつてストックホルム県警が路上で見つけて、停車させた乗用車の写真。いくら朝、時間がなかったといっても、これはさすがに危なすぎる!


不死身のサーブ (いつまで続くのか・・・?)

2010-01-27 09:54:37 | スウェーデン・その他の経済
サーブが生き返った! 廃業ではなく、売却されることになったのだ。



GMと買収契約を交わしたのは、オランダのスポーツカーのメーカーである、スパイカー・カーズ(Spyker Cars)。これによって、これまでの清算・廃業手続きは中止され、新しい資本のもとでの経営再建が図られていくことになる。

スパイカー・カーズだけでは買収に必要な全額を工面できないため、ヨーロッパ投資銀行から多額の融資を受けることになるが、その条件となる信用保証をスウェーデン政府は行うと発表している。

ニュース動画
(GMとSpyker、SAABの記者会見はストックホルムの「カフェ・オペラ」で行われた)

でも、確か昨年6月にスウェーデンの同じくスポーツカーのメーカー、ケーニグセッグが買収契約を結んだときも、みんな大喜びしたけれど、それも束の間。その年の11月にケーニグセッグは買収を撤回したのだった。その二の舞にならないとも限らない。

今日、たまたまストックホルムで講演をしたフィアットの社長は、かなり否定的な見解をしている。
ニュース動画

EUの厳しいヒアリング(2)

2010-01-26 10:38:44 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデン政府が指名した欧州委員会の委員候補41歳のセシリア・マルムストローム(Cecilia Malmström)という女性だったが、彼女は3時間に及ぶ欧州議会の口頭尋問をうまくクリアすることが出来た。

ただ、彼女が着任することになる内務担当委員というポストは、難民保護や人権問題、犯罪防止、テロ対策といった政策領域を担当するため、欧州議会の議員から投げかけられる質問にはデリケートなものが多かった。EU加盟国によっても見方が大きく分かれる事柄も多いからだ。たとえば、スウェーデンのように途上国や戦地からの難民を積極的に受け入れてきた国もあれば、厳しすぎる基準を設けて強制送還している国もある。テロ対策にしても、市民の自由や基本的人権とのバランスが難しい問題だ。

しかし、彼女は機転を利かせながらうまく答えていた。リベラルな立場からこれらの問題に長年携わってきた自分自身の考えや見方も、強く主張していたようだった。

答えは事前に用意していたのであろうが、自分の言葉で喋るから意欲が伝わってくるところもよかった。しかも、スウェーデン語・英語に加え、フランス語やスペイン語と、多言語を即座に切り替えて、相手の追及を流暢に切り返せるのも魅力の一つだ。さらにドイツ語やイタリア語も出来るという。(彼女は子供の頃にはフランスとヨーテボリに住んでいた。だから、もちろんスウェーデン語はヨーテボリ方言。)




彼女は、実は1999年から2006年まで欧州議会の議員をしていたのだった。だから、EUの機能や立法手続き、行政のシステムについては熟知している。この時は、とりわけ売春目的の人身売買によって貧しい国からEU内へ人を移動させるトラフィキングという問題への対策に力を入れていた。

ただ、彼女のEUに関する知識というのは、この時の議員経験からだけではない。彼女はその前には、ヨーテボリ大学政治学部博士課程に在籍しており、ヨーロッパ政治を研究していたのだった。1998年に博士号を取得しているが、それ以前から博士課程の研究生として大学の講義を担当したり、ヨーロッパ政治に関する様々な講演やパネルディスカッションに参加し、経験を積んできたようだ。特に、寛大な難民・移民の受け入れ政策やテロ対策・人権保護などといったテーマに強い関心を持っていた。だから、今回の内務担当委員のポストにはまさに適任者だといえるだろう。

ただし、博士課程時代は、彼女は政治的な意欲をあまり表には出さず、むしろ地味で、注意深く精確な研究者というイメージが強かったという。政治家になるよりも、むしろ官僚が向いていた。「彼女なら、閣議決定の一つ一つに脚注と参考文献リストを付け加えることも容易だと思えたよ」と党の同僚は語ったという。


さて、1999年の欧州議会議員の選挙のときに面白いことが起きた。彼女は当時30歳だった。スウェーデンでは、政治家として特に若いというわけではない。それまでの学術界での経験や知識、そしてヨーロッパ政治に対する熱意が評価されたため、比例代表の候補者順位を決めるための党員による事前投票で、彼女は第3位につけていた。しかし、党内でもそれほど名は知られていなかった。

その前の欧州議会選挙では、彼女の所属する自由党1議席を獲得していた。しかし、党に対する支持率の推移から推測すれば、2議席は取れそうな勢いだった。でも、彼女は第3位。第2位にはベテラン議員で当時66歳の男性がいた。

しかし、比例代表名簿の順位を最終的に決める党執行部の会議で同党の青年部会が反論を行った。「若い議員の力を政治に生かすべきだ!」と。たしかに、比例名簿の第1位には、これまたベテラン議員で当時60歳の女性マーリット・ポールセン(Marit Paulsen)がいた。「2議席獲得できるチャンスがあるなら、そのうち一つは若い力に託そうではないか!」というわけだ。

議論は紛糾し、最終的には会議に出席していた人たちの間で多数決にかけられることになった。結果は26対26。同数となったのだった。

こういう場合は、くじで決めることになる。早速、2枚の紙切れが用意され、帽子の中に入れられた。そして、比例名簿第2位という順位を手にしたのは30歳のセシリア・マルムストロームだったのだ。

彼女が選挙名簿の第2位についたことも功を奏しただろうし、第1位のマーリット・ポールセンの人気も高かったおかげで、1999年の選挙では自由党は大躍進し、結局は3議席も獲得することとなったのだった。

ちなみに、1998年から2001年まではヨーテボリのあるヴェストラ・ヨータランド県の県議会議員をしていた。つまり、1999年からは欧州議会議員と兼職ということになる。すごいパワーの持ち主だ。

昨日の日経新聞に水産資源の話

2010-01-25 09:46:52 | コラム
昨日(日曜日)の日本経済新聞の『今を読み解く』というコーナーに
「水産資源 枯渇の懸念 - 国際管理の提案も」という記事が書かれています。

その中で、『沈黙の海』を含む3冊の本が紹介されています。


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今週末は時間がありませんでしたが、これだけでは物足りないので、もう一つ話題を紹介。今、スウェーデンの民放で流れているCMです。




頑丈な現金輸送車が森を駆け抜け、農村地帯へやってきた・・・。

最後に「し尿は今や黄金の価値を持つ」と書かれている。
何のことかといえば、家畜のし尿を利用したバイオガス生産のこと。

生ゴミやし尿を発酵させればメタンガスが発生し、それをエネルギー源として用いるやり方がスウェーデンでは10年以上も前から始まっている。特に地方自治体の取り組みが積極的で、市バスの多くがバイオガスで走っている街が今ではたくさんある。

し尿の処分に多額の費用をかけるのではなく、それを有効利用する。すると、経費削減だけではなく、化石燃料依存を減らすことにもつながるという一石二鳥だ。

このCMは大手の電力会社のもの。電力会社もこのような事業に力を入れるようになったのだ。

EUの厳しいヒアリング(1)

2010-01-21 09:19:38 | スウェーデン・その他の政治
EU(欧州連合)の制度というのはかなり複雑だ。複数の国からなる協力機構として最初は始まったものの、次第に超国家的な立法機能や行政・司法機能を持ち備えるようになり、今に至っている。

三権分立の「三権」とは、立法・行政・司法のことだ。まず、EUの司法機関にあたるのが欧州裁判所だ。

では、EUの立法機関はというと、欧州議会(下院に相当)と閣僚理事会(上院に相当)の二つからなっている。この説明は今回は省くことにする。ちなみに、2009年6月に選挙があったのは、この欧州議会の議員を選ぶためだった。

さて、EUの行政機関が欧州委員会である。つまりEUの政府であり内閣なのだ。そして、この欧州委員会には、27加盟国のそれぞれから一人ずつ委員が選出されており、彼らは各政策分野を担当する大臣にあたる。彼らの任期は5年なのだが、これまでの任期が切れるため、新しい委員が選出され、ちょうど今、欧州議会の承認を受けようとしている。


加盟国各国はすでに自国から一人ずつ委員候補を指名しており、また、どの国の委員がどの政策領域を担当するかは、加盟国の首脳の間ですでに協議済みだ。ちなみに、27人の委員のうち一人は委員長を務め、これがEUの首相に相当するわけだが、このポストは前任者でポルトガル政府から指名されたバローゾが継続することは既に決定済みで、欧州議会の承認を受けている。

だから、現在は残る26人の委員候補を欧州議会が承認するかどうかが焦点なのだが、そのためには3時間に及ぶヒアリングという難関が待ち構えている。ヒアリングというと響きはソフトだが、内実は口頭尋問そのものだ。左派や右派の様々な欧州議会議員から厳しい質問を突きつけられ、それに対して自分なりの見解や委員としての職務を全うする意欲を明確にできなければ、欧州議会の承認を得ることは難しい。

今回は既に一人、脱落者が出た。ブルガリア政府から指名を受けて、国際協力・人道援助・危機対応担当委員のポストに就くはずだった女性(本国ではこれまで外相を務める)が、このヒアリングのなかで、個人資産の過去のやり取りをきちんと公表していなかったことを追及されたうえ、担当することになる人道援助に関しての質問にきちんと答えることが出来ず、知識や熱意を欠いていることが明るみになってしまったのだ。さらに、夫が汚職やマフィアとのつながりを持つ疑いがかけられ、さらには未熟な英語力が問題視され、結局、欧州議会の承認を得ることができなかった。そのため、ブルガリア政府は急遽、別の人物を指名してEUに送ることとなった。


ついでだが、ちょうど5年前のヒアリングでも脱落者が出た。イタリア政府から任命され、法務・自由・安全担当委員の候補だった男性が、ヒアリングの席上で女性や同性愛者に対する深刻な差別発言を行ったために、欧州議会が大反発し、イタリア政府は結局、別の人物を立てるという事態に至った。

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では、今回スウェーデン政府が指名した委員の候補とは誰かというと、自由党所属でこれまでスウェーデン政府の中ではEU担当大臣を務めてきたセシリア・マルムストローム(Cecilia Malmström)という41歳の女性だ。彼女は、内務担当委員の候補として今週火曜日にヒアリングを受けたのだが、大成功に終わった。頭の回転が速く、ヨーテボリと関係が深い彼女については、次回に書く予定。


サーブの町トロルヘッタンにも明るいニュース

2010-01-19 09:28:11 | スウェーデン・その他の経済
乗用車メーカー・サーブ(SAAB)は、GMが廃業を決定したものの、先行きはまだ定かではない。GMがオランダのスポーツカー・メーカーであるスパイカー・カーズとの売却交渉を打ち切り、廃業決定に踏み切った理由は、スパイカー・カーズの資金力や長期的な経営力を疑問視していたからだと言われる。しかし、廃業決定のあともスパイカー・カーズがGM側により有利な新しい条件を提示したため、現在も売却協議が再び続けられている(特に、GM側が技術流出を恐れていたロシア新興財閥をグループから外した)。

しかし、他方では廃業決定にもとづく清算手続きも始められている。そして、さらに興味深いことにサーブ車の新車生産も再開されている。クリスマスから年末にかけて休暇に入り、生産活動がストップしていたものが再び始められたのだ。だから、下請けの部品企業からは部品が続々と運び込まれるようになっている。つまり、廃業にするといってもすぐに生産活動を停止するわけではないようなのだ。精算人が停止を命ずるまで、あと1ヶ月ほどは続けられるのだという。実際に廃業となった場合、生産された車はどうなり、部品メーカーに対する代金の支払いはどうなるのだろうか?

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さて、サーブの本拠地があるトロルヘッタン(Trollhättan)だが、サーブがなくなればその工場で働く従業員3500人と部品メーカーで働く4500人の職がなくなると言われている。大した数ではないかもしれないが、これらの仕事の多くがトロルヘッタンやその周辺地域にあることを考えれば、人口が46000人ほどのトロルヘッタンにとっては大きな痛手であることに変わりはない。

しかし、トロルヘッタンにあるのは暗いニュースだけではない。実は、この町にはボルボ・グループの航空エンジン部門の工場がある。ボルボ・グループとは、乗用車部門(フォードが所有)を除く、トラック・バス部門、航空エンジン部門、船舶エンジン部門などからなっている。

そして、この航空エンジン部門は景気が良いのだ。

その理由の一つは、ボーイング社の最新鋭機ドリームライナー(ボーイング787)だ。現行のモデルより燃費を向上させたこの最新モデルの開発には、当初の予定よりも2年の年月がかかったものの、最初の飛行実験が昨年末から開始されており、2010年の秋ごろには製品の第一号が、最初の発注者である全日空(ANA)に引き渡される見込みだという。


そして、この最新鋭機のエンジンの部品を作っているのが、トロルヘッタンにあるボルボ航空エンジン部門なのだ。

いや、正確に言えば、ドリームライナーにはGE社製のGEnxというエンジンか、ロールスロイス社製のTrent 1000というエンジンを搭載することが出来るのだが、発注者がいずれのエンジンを選ぶにしろ、両方のエンジンに欠かせない部品を生産し、納入しているのがボルボなのだ。

このドリームライナーには、既に56カ国から合計840機の注文が入っており、第一号機に続いて、生産が順次行われていく。エンジン部品を生産するボルボは、交換のための部品の生産も含めて、今後30年から40年にわたって400億から500億クローナの売り上げが期待できると見ている。

ちなみに、航空機市場ではボーイング社のドリームライナーだけでなく、エアバス社の超ジャンボ機であるA380も注目されており、両社が熾烈な争いが繰り広げているが、実はこのエアバス機のエンジンGP7000(GE社やPratt&Whitney社などからなるEngine Alliance製)やTrent 900(ロールスロイス社製)の部品を生産しているのもボルボであるため、競争の勝敗がどのような展開になっても、ボルボとしては安心していられるようなのだ。

また、このエアバス機のエンジンでは、軽量化のための技術開発がボルボにおいて着々と進めれられており、今後もこの業界では競争力を維持していくものと見られている。

今年のスウェーデンはなぜ寒い?

2010-01-15 09:16:24 | コラム
スウェーデンで10度目の冬だが、これほど寒い冬を経験をしたのは初めてではないだろうか。確かに2003年と2006年の年が明けたあとの2月3月もかなり寒かったが、クリスマスの前から大きな寒波がやってきて、ヨーテボリですら氷点下15度を下回ったのは珍しいことだと思う。

地球温暖化の進行が止まったのならよかったけれど、残念ながら気象気候は別物なのでそういうわけではないようだ。つまり、気象というのはそれぞれの場所において一時間ごとに刻々と変わっていく天気ことであり、気候というのは地球の大気システム全体における、5年とか10年とかそれ以上の時間的スパンで進行している変化のことだ。だから、もし温暖化(気候変動)が着実に進行していたとしても、ある年やある月、もしくはある場所だけ極端に寒くなる、ということは起きうるのだ。

実際のところ、北欧やイギリス、中欧、アメリカ、中国などは例年の気温を大きく下回っている一方で、ロシアの沿海州やカナダ西部、グリーンランドなどは例年の気温を大きく上回っているという。場所によっては10度も上回っているところがあるとか。オリンピックの開かれるバンクーバーでは気温が高すぎ、雪不足が深刻になっているらしい。


表記は、左から北アメリカ、グリーンランド、ヨーロッパ、ロシア


ではこの原因は何かというと、北極を中心とした気候サイクルである北極振動(Arctic Oscillation)のためだという説が有力らしい。この説によると、北極部の気圧中緯度(北緯37~45度)のあたりの気圧は逆の関係にあるのだという。

つまり、北極振動のサイクルが「正」の時には北極部の気圧が低く、寒冷になり、他方でスウェーデンなどがある中緯度の気圧は逆に高くなり、温暖になる。これに対し、北極振動のサイクルが「負」の時に北極部が温暖になり、中緯度の地域では寒冷になるらしい。

そして、現在は「負」の状態だという。しかも、かなり強い「負」であって、ここまで極端に強いのは1950年代以来、初めてのことらしい。

イサベラ・ロヴィーンの決意

2010-01-13 10:16:44 | コラム
今回の記事は、私の姉妹ブログ『沈黙の海』で掲載していますが、政治と政治家、社会との関係について考えさせられる内容を含むものでもあるので、こちらのブログにも掲載します。

『沈黙の海』を2007年8月に出版したイサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)は、スウェーデン国内の各種メディアの注目を浴び、本が高く評価された結果、10を超える数の賞を受賞することとなった。そのうち、代表的なものが「スウェーデン・ジャーナリスト大賞」であり「環境ジャーナリスト賞」だった。

その後も、彼女はジャーナリストとしての活動や執筆を続けていたのだが、2008年の11月、大きな決断をすることになった。その翌年6月に開催される欧州議会選挙に立候補することを決めたのだった。


ジャーナリストから政治家への転身という思い切った決断を行ったわけだが、彼女はその心境をジャーナリスト新聞(Journalisten)で語っている。ジャーナリスト新聞は、スウェーデンのジャーナリスト協会が会員向けに発行している機関紙だが、彼女はそれまで定期的にコラムを連載していた。その連載の最後となるコラム(2008年11月24日付)に心のうちを語っていた。

ちなみにこのジャーナリスト協会は、ジャーナリストを代表する団体であると同時に、ジャーナリストのための労働組合でもある。

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2008年11月24日
さようなら、ジャーナリスト新聞!
もとの文章はこちら](和文の強調および脚注は私が加えたもの)

「ジャーナリストから政治家に転身するのは難しい決断だった?」

環境党(緑の党)の欧州議会選挙の立候補者リストに私の名前があることについて、日刊紙ダーゲンス・ニューヘーテルからこんな質問を受けた。私は「難しくはなかったと思う」と答えた。

しかし、実際はというと、私の人生のなかで最も厳しい決断の一つだった。いや、離婚や解雇だったらもっと大変だろうから、最も厳しいというのは言いすぎだけれど、それでもジャーナリストとしてのタブーを犯してしまうような感じがした。自分の意見を主張するだけならまだしも、政治家になることを選んでしまったのだから。

政治家への転身を決断した瞬間、ある考えが頭をよぎった。「私がこの新聞に連載してきたコラムは続けられるのだろうか?」私はもうジャーナリストでなくなるわけだし、ジャーナリストとしての最も重要な原則、つまり「中立性」を放棄してしまったわけだから、難しいかもしれない。さあ困った。でも、よく考えてみれば、あの本を出版してからというもの、私はジャーナリストの同僚からもはやジャーナリスト扱いされなくなり、むしろ専門家だとか評論家だとかオピニオンリーダーと見なされるようになったのも確かだ。

ジャーナリズムを通じて私が環境問題への関心を示してきたおかげで、ついに思いがけない申し出を受けることになった。それは私の人生を根本から変えてしまう申し出だった。

「欧州議会の議員になってみないか?」

しかも、EUのあの悲惨な漁業政策が改革されようとする、まさにその期間に欧州議会議員をやってみないかというのだ。欧州議会は今でこそ権限が小さいが、もしリスボン条約[注1]が発効すれば、農業分野と漁業分野における政策決定には閣僚理事会の議決だけでなく欧州議会の議決も必要となる。ということは、漁業政策改革の決定に議員として直接関与できるということなのだ。それまでの私の願いは『沈黙の海』を英訳出版して、スウェーデン以外の国々でも乱獲に対する関心を呼び起こしたいということだったが、それと同時に議員にもなれば、ヨーロッパ全土で乱獲問題の議論に火をつけることができる。つまり、私の武器は一つじゃなくて、いきなり二つになるってことだ。それならば、申し出はなおさら断り切れないでしょ?

私はジャーナリストから政治家へと立場を180度、替えてしまったのだろうか? そうだとすれば、それはこの世で一番素晴らしい職業から足を洗ったということになる。だって、ジャーナリストという職業は、どんな物事でも自分から進んで分析したり考察したりできるし、時には鋭く、時には親身に、時には娯楽的に、時には批判的に、主観的に、客観的になったりというように様々なスタンスを持つことができるし、世論に影響を与えたり、社会の惨めな問題に光を当てたり、興味深い人に何人もインタビューしたり、権力を持つ者を厳しく追及したり、コラムを書いたり、言ってみれば何でもできる職業なのだ。でも、唯一の例外がある。それは、政治的な活動は行えないということ。でも、今まで私にはその気がなかったから、それは全く問題にならなかった。

でも、私のかつての同僚は、私がたまに民主主義のありがたさを実感して上機嫌になっていたのを覚えているだろう。例えば、イェルズィー・エインホーン(Jerzy Einhorn)[注2]マーリット・ポールセン(Marit Paulsen)[注3]といった人が政治の世界に突然足を踏み入れたときも、私は大喜びした。なぜなら、やる気と能力を持って何かに情熱を燃やしている人には、機会さえあれば、持てる力を生かして社会に貢献してほしい、と私は考えていたからだ。逆に、グスタフ・フリドリーン(Gustav Fridolin)[注4]オーサ・ドメイ(Åsa Domeij)[注5]が政治の世界から退いて、別の分野で活躍することを決めたときにも、私は同じくらいに共感した。そう、フリドリーンはジャーナリストになる決意をしたのだった。

民主主義はそうやって活性化されていく。つまり、政治から離れた世界で長いあいだ経験を積んだ人は、政治に必要とされる新しい視点を政治の世界に持ち込み、一方で、政治の世界で長いあいだ経験を積んだ人は一般社会に再び戻って政治経験を生かしていくべきなのだ。だから、私自身は立場を永久に替えてしまったとは思っていない。

私はまたとないこの機会に賭けてみようと思う。そして、すべてがうまく行ったあかつきには、20年以上にわたってスウェーデンのジャーナリスト協会に所属し、ヨーロッパ政治のなかで明らかに狂っているこの漁業問題を改める強い意志を持ち、その問題を描き伝える数多くの経験を積んだ一人の議員が欧州議会に乗り込んでくることになる。

さらば、ジャーナリスト新聞! いつの日かまた会えるといいな。



[注1]
リスボン条約はEUの27加盟国すべての批准を受けて、2009年12月より発効。

[注2]
イェルズィー・エインホーン(Jerzy Einhorn)
1925年生まれ、2000年死去。ポーランド系ユダヤ人として生まれ、1943年にナチスの強制収用所に入れられるが九死に一生を得る(その時の体験はChosen to liveにまとめられている)。大戦後に医者としてスウェーデンへ移住。1991年から94年まで国会議員(キリスト教民主党)として医療改革に携わる。ノーベル医学賞の選考委員も務める。

[注3]
マーリット・ポールセン(Marit Paulsen)
1939年生まれ、女性。ノルウェーに生まれ、若いときにスウェーデンへ移住。工場労働者として働いたり、小説を書いたりしながら、環境問題や動物虐待に関する啓蒙活動も行う。1999年から2004年まで欧州議会議員(自由党)を務める。2009年の欧州議会選挙に先駆けて、政治への復帰を表明し、当選を果たした。

[注4]
グスタフ・フリドリーン(Gustav Fridolin)
1983年生まれ、男性。環境問題に関心を持ち11歳で環境党に入党。同党の青年部会の代表として活躍し、2002年の議会選挙では19歳で当選。スウェーデンで最年少の国会議員が誕生することになった。議員は一般社会との接点を持たなければならず、議員職が生涯の職であってはならない、という考えから2006年の総選挙には出馬せず、その後、ジャーナリストに転身して、民放TV局でドキュメンタリー番組の作成に携わる。

[注5]
オーサ・ドメイ(Åsa Domeij)
1962年生まれ、女性、農業専門家。環境党に所属し、国会議員を2006年まで務め、現在は大手スーパーマーケットAxfood(Hemköpを経営)の環境部長を務める。

日経新聞より 「地方自治法を抜本改正 総務省、議員を行政要職に」

2010-01-11 10:23:07 | コラム
おお、面白くなってきた! と思わず、ペーストしてしまいました。
詳しい内容を吟味したわけではありませんが、地方議会を機能させ、やる気のある議員の方の力をうまく活用するための、大きな制度改革になるかもしれません。


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(日本経済新聞)
地方自治法を抜本改正 総務省、議員を行政要職に

 総務省は地方議会のあり方を見直すなど地方自治法を抜本改正する。都道府県や市町村の首長が議員を在職のまま副知事や副市長、各部局のトップに起用できるようにする。地方議会の多くは無所属の首長を与野党相乗りで支える総与党化で本来のチェック機能が働かず、存在感が薄れている。議員を政策決定や執行に参加させることなどで議会を活性化し、民主党が掲げる「地域主権」の実現に向けた基盤を整備する。今月下旬に発足する「地方行財政検討会議」で議論し、2011年の通常国会に関連法案を提出したい考えだ。

 現行の地方自治制度は首長と議員がそれぞれ住民の直接選挙で選ばれる「二元代表制」。首長と議会はほぼ同等の権限を持つが、議会は審議の形骸化で多様な民意の反映や執行機関の監視などの役割を十分果たせていないのが実情だ。 (07:00)

寒波と電力価格の高騰 - いろんな憶測

2010-01-09 06:33:34 | スウェーデン・その他の社会
クリスマスの頃から続いていた寒波は年を明けてからさらに勢いを増し、ここヨーテボリでも零下15度に達するほどの寒さとなっている。雪も10~20cmほど積もっているが、寒さのために解けることがなく、小麦粉のように乾燥している。

スウェーデンでは、寒さは大きな問題ではない。建物の中は屋内全体を暖めるセントラルヒーティングだから屋内にいる限りは暖かいし、外に出るときの寒さも多くの人が慣れている。

それに対し、いま一番の問題は電力価格の高騰だ。スウェーデンの家庭では電気を直接熱に変えるタイプの暖房は90年代以降かなり減ったものの、いまだに使い続けている家庭もあり、寒さとともに電気の使用量が大きくなる。もしくは、熱源に電気を使わなくても暖房の空調を動かすために電気がいる。だから、今の厳しい寒波にあわせて電力需要が増え、価格が高騰している。

いや、正確に言えば、クリスマスから新年の最初の頃まではよかった。家庭の電力需要は高かったものの、鉄鋼や紙パルプなどの産業が休みだったために工業部門の電気需要が低かったからだ。しかし、今週月曜日に工業の生産活動が再び動き始めてから、電力の供給が需要に追いつかなくなってきた。結果として、電力価格が高騰する。昨年12月の平均電力価格が1KWhあたり0.50クローナだったが、今週水曜日には1.26クローナまで急騰した。


例年、ここまで大きな価格上昇はない。しかし、この冬は原発の一部が稼動を停止したり出力を落としているために、発電量が大きく減少しているのだ。スウェーデンには原発が10機あり、電力供給の約40%を賄っているため、原発の停止や出力低下は、国内の電力供給量に大きな影響を及ぼす。クリスマスの頃には複数の原子炉が停止していたために、10機の出力合計が通常の55%しかなかったというし、現在も2機が完全停止、そしてさらに2機が出力を大幅に落として運転している。

では、停止や出力抑制の原因は何かというと、メンテナンスや改良工事のためというではないか! 冬の寒さのために電力需要が増えると分かっているこの時期になぜ?と耳を疑ってしまう。スウェーデンやノルウェーでは毎年、春先に雪解け水のおかげで水量が増えて水力発電の発電量が大幅に上昇するから、その時期に原発のメンテナンスを行うものなのだけど。

だから、スウェーデンでも「意図的なものではないか」という憶測が囁かれている。というのも、発電量をこの時期わざと減らすことで電力価格を高く吊り上げることができ、収益がその分ふえることになるからだ。

この憶測が正しいかどうかは別として、現状の需給の不足分を補うために、ドイツなどから電力を輸入せざるを得ない事態に至っている。さらに、普段は使用しない予備発電施設の稼動も始まっている。スウェーデンでは石炭・石油・天然ガスを使用する火力発電は通常ほとんど使われていないが、この予備発電施設はこれらの化石燃料で稼動されるため、CO2の排出が増えることになる。

もう一つ、私自身が思っている憶測が別にある。スウェーデンでは最近、電力業界の原発ロビーが勢いを盛り返しており、政府や世論に対して「原発を増設すべき」というようなことを主張している。しかし、実際のところ、スウェーデンの年間の電力生産量と電力消費量はほぼ一致しているため、一時的な供給不足を補うために他国から電力を若干輸入するのを除けば、電力はほぼ国内で自給できているといってよい。だから、電力供給量を今以上に増やす必要性はほとんどない。むしろ、現在は風力発電所が各地で新設され、生産量が急激に増えているため、今後は電力が供給超過の状態になると見られている。原発ロビーが時たま「原発を作れば、スウェーデンはドイツの石炭火力で作られた電力を輸入する必要がなくなる」などということを言っているが、これも根拠の薄い主張なのだ。

だからこそ彼らは、世論や政府に訴えかける強力な論拠を必要としている。もし現状のように国内での電力供給が減り、他国から電力を輸入せざるを得ず、さらに化石燃料を利用した予備発電施設を稼動させないとならなくなれば、世論は「やっぱりスウェーデンは電力が足りていないんだ」というような印象を持つようになるかもしれない。そうすると、原発増設の主張も受け入れやすくなる・・・。

果たして、そんな目論見があって、発電量を減らしているのかどうか、本当のところは分からないが、スウェーデンにおける電力需給の現状をあまり知らず、現在の高い電気料金ばかりを気にする人であれば、そのような主張に流されるようになってもおかしくないだろう。

温暖化とともに解けて無くなるか?アイスランド!

2010-01-06 06:49:27 | スウェーデン・その他の経済
アイスランドの政治・経済は、年明け早々から混乱状態だ。もちろん、国土が解けてなくなるわけではないが、この先もこの国の経済は明るくない。

2008年秋の金融危機以前は、アイスランドでは金融業が大きく潤い、国のGDPの何倍にも相当する貸付残高を誇っていた。そんな勢いに乗ってアイスランドの銀行は、国外にも進出し預金を募っていた。小国であり資本不足に悩まされていたアイスランドの銀行は、高い利息を約束することで国外の投資家から預金を集めていた。

しかし、2008年秋に金融危機がこの小国を襲い、貸し付けていた融資は多くが焦げ付き不良債権と化した。結果として、アイスランドの銀行は預金者に預金を返すことが出来なくなってしまった

特に、インターネット銀行であったアイスセーブ(Icesave)銀行オランダイギリスで10万人を超える預金者から預金を募っていた。そして、彼らの預金が煙のごとく消えてしまったのだ。

預金保険はどうだったのかというと、アイスランド政府は自国の預金保険制度ではカバーできないから、預金者の住む国の預金保険制度を頼りにするようにと伝えた。そして、これに怒ったのがイギリス政府でありオランダ政府であった。

預金をきちんと預金者に払い戻せと強くせがむイギリス政府などは、金融危機直後、何と対テロ法を適用して、国内にあったアイスランドの資産を凍結したりした。その後も、英・蘭両政府はアイスランド政府に何度も圧力をかけてきた。預金を払い戻さなければ、EUの加盟も認めないと迫った。さらに、IMFを通じて圧力もかけ、預金を返さなければ、IMFがアイスランドに供与している特別融資を凍結する、とも言ってきた。これが凍結されれば、国全体が破産してしまうことになる。

さぁ大変! アイスランドは金融危機後に保守政権から社民党政権に代わっていたが、両国の圧力に屈し、預金を両国の預金者に払い戻すための新法を制定し、議会は大晦日の前日に可決した。

しかし、この新法の内容はというと、預金の払い戻しのためにアイスランド政府が50億ドルという大きな借り入れを行い、それを今から2024年までの間、少しずつ返済していくというものだ。借り入れの利率は5.55%であり、毎年の利子の返済だけでもアイスランドの医療費の半年分に相当するという。

これにビックリしたのは、今度はアイスランドの国民だった。署名活動を行い、アイスランドの大統領に誓願する動きに出た。というのも、アイスランドの法によると、たとえある法案がたとえ議会で可決されたとしても、それに大統領が署名しなければ発効しないことになっているからだ。大統領が署名を拒否した場合、議会が法案を撤回するか、そうでない場合は国民投票にかけられることになる。集まった署名は6万人分で、先週末に大統領に提出された。

なーんだ、たったの6万人だって? 何をおっしゃいます、総人口30人万あまりのアイスランドでは有権者の4分の1にあたる。そして、この署名を重く見た大統領はこう語った。

「法律の正統性に関して最終的に判断を下す権利を持っているのは国民である、とわが国の憲法には書かれている。そして、国民がこの権利をきちんと行使できるようにする責任を持っているのは大統領である私だ。」

そして、今日(5日)署名を拒否することを正式に発表した。建国後65年という若いアイスランドの歴史の中で、大統領の署名拒否は過去に1度しか例がないという。アイスランド議会は法案を撤回する気はないようだから、これから国民投票にかけられることになるが、世論調査によると国民の大多数が否決に回ると見られている。

どっちに転んでも、アイスランドにとっては苦境だ。可決されれば民間銀行が他国で行っていた業務活動のツケを、今後10年以上にわたって納税者が負担させられることになるし、否決されればIMFからの融資が凍結される恐れもある。金融危機以前は国債残高がGDPの30%だったというが、それから1年余りの現在は130%に膨らんでいる。それを支えているのがIMFであり、また、スウェーデンをはじめとする北欧諸国も多額の資金を融資している。

大統領のこの決定を受けて、格付け機関の一つであるアメリカのフィッチ(Fitch)アイスランドの長期債務格付けBBB-からBB+に下げてしまった。Bの数が3つから2つに減ったことは「この国には融資しないほうがよい」を意味するのだという。


ところで、全体として感じるのは、自国の背丈に見合わないくらいに金融業の拡大を許してきたアイスランドもアイスランドだが、イギリスやオランダも、まるで弱い者イジメのようにアイスランドを吊るし上げにかかっているということだ。

そもそもアイスランドの銀行のその国における業務活動の監督責任は、イギリス・オランダ両国にあったのだろうし、預金者も自国で預けるよりもずっと高い利子を貰える裏には大きなリスクがあることは、気づいていなかったのだろうか。そんな危険性をリスク・プレミアムとして加味した上での高い利回りだということは考えなかったのだろうか? もちろん、国境をまたぐ融資であれば、外貨建てでない限り、為替リスクが常にともなうが、為替損までを政府が補え、とは誰も要求しないであろうに・・・。それに、業務の監督責任だけでなく、預金保護の責任がどの国にあるのか、果たして事前に明確であったのだろうか?

ちなみに日本の預金保険制度では、外資系銀行に対する預金であっても、日本国内に本店を置く銀行(つまり、おそらく日本に現地法人を持っているということだと思う)であれば預金保険制度の対象となると書かれている。

大晦日のシーフード

2010-01-02 02:18:03 | Yoshiの生活 (mitt liv)
大晦日のディナーは、スウェーデン西海岸で獲れたロブスター(スウェーデン語:hummer)とフランス産の牡蠣。


牡蠣はスウェーデン産のものもあるのだけれど、日本種とは異なる平べったいタイプのものであまり好みではないので、日本種と同じフランス産の牡蠣を1ダース買った。生で食べるのもいいが、殻をこじ開けるのに一苦労。オーブンで生焼きにして、殻の口を少し開けたところで殻を開いて食べるほうがいい。



ロブスターは半分に割って、その上にニンニクやサルビアなどの香料を混ぜ合わせたバターを塗って、オーブンで焼き上げる。今回は既に茹でたロブスターを使ったため身が硬かったが、生のロブスターだったらもっと美味しかったと思う。



腹の部分にはカニ味噌ならぬ、ロブスター味噌があり、これが美味しい。

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大晦日は、夕食に先駆けて17時から市内で大きな花火が上がった。地元紙のヨーテボシュ・ポステン(Göteborgsposten)が開催したもので、10分程度のものだったけれど、こちらではめったに見られない大きな花火とあって、たくさんの人がヨータ川沿いに集まった。






今年は規模が小さいような気がした。

そういえば、高台に立つアパートの窓からは、年明けのカウントダウン直後に一般の人たちが各自で打ち上げる数々の花火が見えるのだが、今年はあまり数が多くなく、0時00分から05分くらいにたくさんの花火が市内のあちこちで上がっていたが、それからすぐに下火になり静かになってしまった。去年はもっと盛大に、しかも長い時間にわたって花火が上がっていたけれど・・・。

1発、何百クローナもする打ち上げ花火。やっぱり、不況の影響がこんなところにも現れているのだろう。