スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ヨーテボリ市議会 - 余暇を使った議員職とは・・・?

2008-02-29 08:25:37 | スウェーデン・その他の政治
今日はヨーテボリ市議会夕方17:15から会議を開くことになっていたので、初めて傍聴してみた。

3月に地方政治の調査をお手伝いすることになっており、ヨーテボリ市の議員や政策決定に携わる人々にインタビューする予定なので、その予習と下見のため。


市議会が夕方から開催? どうして日中に市議会を行わないのか? と思われるかもしれない。その答えはというと・・・、ほとんどの議員が本職を持っており、日中は忙しいから。

そうなのです。地方議会の議員のほとんどは「fritidspolitiker (free-time politician)」と呼ばれ、本業の片手間で市会議員としての仕事をしている。仕事・家事以外の時間(free-time・余暇)を利用して、地域の政治に関与しているから「余暇政治家」とでも訳せるのだろうか? ともかく、政治だけを本職としているわけではないことを強調したい。

ここヨーテボリ市の市議会は、議席数が81。このうち、13人はkommunalråd(市執行部メンバー)と呼ばれるフルタイムの政治家であり、市の内閣にあたる「市執行部」の構成している。ちなみに、日本にように直接選挙によって選ばれる「市長」はいない。市執行部の議長になった人が「市長」にあたるのではないかと思う。

そして、この13人の市執行部メンバーを除いた他の議員のほとんどが、「fritidspolitiker (free-time politician)」なのだ。どのような仕事を、市会議員としての職務と兼務しているのだろうか? 81人すべてを見ていくのは大変なので、社会民主党、穏健党(保守党)、自由党の議員に絞って見てみよう。(社会民主党は数が多いので、第1選挙区と第2選挙区の議員のみを挙げた。ヨーテボリ市は全部で4つの選挙区からなる)

<社会民主党>
Klara Martinsson, 25 歳、女性、看護婦
Anders Hernborg, 35歳、男性、タバコ売店経営
Anna Johansson, 35 歳、女性、オンブズマン
Abdullahi Hassan, 36 歳、男性、教育者
Henrik Johansson, 36 歳、男性、オンブズマン
Gunilla Dörner-Buskas, 39歳、女性、市の部長級
Ann Lundgren, 40 歳、女性、教員
Ann-Sofie Hermansson, 41 歳、女性、党政策秘書
Lena Malm, 47 歳、女性、コミュニケーション・コンサルタント
Pija Ekström, 49 歳、女性、大学教官
Mats Karlsson, 49 歳、男性、鉄道機関士
Abbas Zarrinpour, 52 歳、男性、技術コンサルタント
Per Berglund, 52 歳、男性、市執行部(フルタイムの議員)
Eshag Kia, 53 歳、女性、エコノミスト
Humayun Kaisar, 54 歳、男性、ITデザイナー
Ann-Margreth Rydén, 54 歳、女性、医療関係秘書
Britt Solberg, 62 歳、女性、保険会社勤務
Arne Hasselgren, 66 歳、男性、元学習オンブズマン

<穏健党(保守党)>
Henrik Nilsson, 35 歳、男性、市職員(予算課)
Jonas Ransgård, 35 歳、男性、エコノミスト
Marie-Louise Hänel Sandström, 37 歳、女性、医師
Åsa Hartzell, 43 歳、女性、自営業/会社経営
Bahram Atabeyli, 43 歳、男性、研究ラボ室長
Pär-Ola Mannefred, 45 歳、男性、自営業/会社経営
Maria Rydén, 45 歳、女性、看護婦
Kristina Tharing, 45 歳、女性、イベント企画リーダー
Ingela Ferneborg, 46 歳、女性、手術看護婦
Elisabet Rothenberg, 46 歳、女性、栄養士
Susanna Haby, 49 歳、女性、市執行部(フルタイムの議員)/看護婦
Åke Björk, 49 歳、男性、銀行員
Agneta Granberg, 55 歳、女性、市執行部(フルタイムの議員)/ソーシャルワーカー
Lisbeth Boethius, 57 歳、自営業/会社経営
Roland Rydin, 58 歳、男性、大学教官
Jan Hallberg, 60 歳、男性、市執行部(フルタイムの議員)
Lars Bergsten, 61 歳、男性、市の部長級
Roger Björn, 61 歳、男性、国防軍 士官
Lennart Widing, 63 歳、男性、牧師/聖職者
Gunnar Ek, 65 歳、男性、経営コンサルタント

<自由党>
Axel Darvik, 24 歳、男性、大学生(元国会議員)
Stefan Landberg, 34 歳、男性、市職員(事務方の上級職)
Helena Holmberg, 36 歳、女性、政治学者
Mikael Janson, 41歳、男性、市執行部の代理人
Helene Odenjung, 41歳、女性, 市執行部(フルタイムの議員)
Piotr Kiszkiel, 57 歳、男性、ソーシャルワーカー
Ann Catrine Fogelgren, 52 歳、女性、自営業/会社経営
Kjell Björkqvist, 65 歳、男性、市執行部(フルタイムの議員)
Kerstin Ekman, 77 歳、女性、エンジニア

と、このように幅広い職業に就いている人が市議会に議席を持ち、市の政策議論に関与しているのだ。(年齢は2006年9月の総選挙時のもの)

自らの社会経験や勤務経験を生かして、地域の政治に関与したいと思えば、それまで働いてきた会社を辞めることなく、市の議員になれる。社会生活の一部として議員職を担当できるのは面白いと思う。

余暇政治家「fritidspolitiker (free-time politician)」といえども、どのくらいかは知らないが若干の議員報酬が市から出るようだ。

(続く)

争いの始まりと集団的アイデンティティー

2008-02-28 08:46:29 | コラム
コソヴォの独立について1980年代からの流れを書いたけれど、コソヴォにしろ、クロアチアやボスニアにしろ、異なるアイデンティティーを持つ人々がそれまで共生してきた社会が次第に分裂していく過程には、決まったパターンがあると思う。これは、昨年末から内紛になっているケニアやその他の国の紛争にも当てはまると思う。

写真の出展:The New York Times
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集団的アイデンティティーが異なる人々が共生してきた一つの社会がある。アイデンティティーの違いもほとんどの人にとっては大きな問題とは感じられず、これまでは社会がうまく機能してきていたとする。

ある時、一方の側に属する一部の人々が強圧的な態度を取り始める。それに対し、もう一方の側に属する一部の人々が対抗措置を取り始める。その社会の大部分の人は「くだらない争いだ」と最初のうちは相手にしないのだけれど、そのうち自分たちの集団にケガ人や犠牲者が出始めると、「彼ら」に対する「私たち」という集団意識が芽生え始める。俺たちのグループが攻撃を受けている、という危機意識とともに、俺たちのメンツを守らなければ!、という願望が生まれる。たとえ、相手側の住民の中で強圧的な態度を取っているのは、本当は一握りの人々に過ぎないとしても、全部ひっくるめて「奴ら」と捉えるようになる。こうなってくると、この社会は、集団アイデンティティーをよりどころにして分断が始まっていく。事態はエスカレートする一方で、手の施しようがなくなってくる。

しかも、多くの場合、相互の応酬が激化して行く背後には、その対立をうまく利用して政治的な力を手に入れようとする人々がいる。つまり、自分の属するグループが感じている危機意識やメンツ喪失、憎悪などの感情にシックリくる安易な政策を掲げて、そのグループの間で権力を手に入れようとする人気取り政治家(ポピュリスト)だ。「相手が悪いのだから、やり返して何が悪い」というのは、応酬の連鎖が進行していくそれぞれの時点では正論かもしれない。しかし、対立のそもそものきっかけが何だったのか? なんてことは誰も考えなくなってしまう。相手グループも同じ論拠で対抗しているのであれば、収拾がつかなくなる。

それから、人々がグループとしてまとまり、排他的なアイデンティティーを意識するようになる背景には、多くの場合、経済的・社会的な問題もあるようだ。経済が疲弊し、失業率が上昇し始めると、社会に不満が溜まり始める社会からの疎外感を感じる人々も出始める。それが一定のレベルを超えると、人々は不満のはけ口を求めるようになる。政策の失敗を指摘し、政治を変えようという動きにつながることもあるだろう。しかし、そうではなく、社会の中で「叩きやすい者」を見つけて、彼らのせいにする、という安易なやり方もある。そして、日々の生活における「やるせなさ」をこの一部の人々に集中させる。そうすれば、問題の所在が本当はどこなのか、を真剣に考るというような面倒なことをせずに「憂さ晴らし」ができる。政治家の側も、人々のこの感情に訴えれば、比較的簡単に支持を獲得できる上、人々の目を本当の問題から逸らすことができるので、むしろそれを助長する。

もちろん、これはあくまで抽象化なので、本当はもっと多くの様々な要因があるのは確かなのだけど、民族紛争にしろ、国と国のいがみ合いにしろ、はたまた夫婦喧嘩やネット上の喧嘩にしろ、事態の悪化を推し進めているのは、実は単純なメカニズムなのではないかと思う。

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1980年代のユーゴスラヴィアも経済的に停滞していた。国民の所得の少なからずの部分が、西欧への出稼ぎ労働者からの国際送金によって支えられていたという。社会不満が溜まっていき、それが排他的な民族主義という形で顕在化し、他の民族に対する批判が不満のはけ口として機能したのではないかと思う。そして、人々の危機感をうまく利用したのが、ミロシェヴィッチだったのではないだろうか。

スウェーデンでも、反イスラムを掲げ、移民排斥を掲げる「スウェーデン民主党」が徐々に支持を拡大しつつあるが、この党が着実な基盤を築きつつある地域の多くは、工場閉鎖などによって地域経済が疲弊し、失業率が上昇しつつある地域らしい。しかも、失業者や生活保護受給者を始めとする、社会からの疎外感を感じているスウェーデン系住民がこの党を支持する傾向にあるようだ。

今から振り返ってみれば、ミロシェヴィッチの掲げた「大セルビア主義」のもとで、かつてのユーゴスラヴィア内で優位な立場に立とうと夢見たセルビアだが、泥沼化した紛争の末に国はバラバラになってしまい、経済的にもさらに疲弊してしまった。民族主義に沸き立ったために、その野望が目指した結果とはまさに正反対の結果になってしまったというのは何とも皮肉な話だ。

発車時刻の30秒前に既にドア閉めます!

2008-02-25 09:27:14 | コラム
今年に入ってからストックホルムやウプサラに3回ほど行くことがあったのだけど、SJ(スウェーデンの国鉄)の切符のシステムが変わったことに気づいた。今まで2段階だった「正規運賃」と「just nu価格」が統合されて一つになり、その上でキャンセルの可・不可を自分で選べるようになった(発車直前までキャンセルを可能にするとその分追加料金がかかる)。

若者や学生、65歳以上向けに売れ残った座席を減額して販売する「sista minuten (last minute)」はちゃんと残っているが、「sista minuten」として販売される座席数が減らされたせいか、それとも旅客数が増えて空席があまりなくなったせいか、ヨーテボリ-ストックホルム間のX2000はほとんど売れ切れ状態だ。しかも残っていたとしても、以前よりも値段が高い。


それから、今年の2月以降、ネット予約時にこんなメッセージが表示されるようになった。

”Som en av flera åtgärder för att förbättra punktligheten stängs därför tågdörrarna 30 sekunder före avgång.”

「定刻通りの運行を促進する措置の一つとして、(これからは)出発時刻の30秒前には列車のドアを閉めることにしました」

スウェーデンの幹線鉄道は、伸び続ける旅客量に対して、線路の輸送容量(キャパシティ)がほとんど伸びておらず、線路上の列車の密度が限界に達している。そのため、一つの電車が遅れると、その後のほかの列車に大きな遅れが出てしまう。だから、そのような遅れを少しでも減らすための措置だろうが、定刻の出発時刻の30秒前にドアを閉めてしまう、だから、皆さん余裕を持って駅に来ましょう、というのもちょっと強引ではないかい?

本来なら、切符や時刻表に示した発車時刻の30秒後を、従業員のみが知る本当の発車時刻にすれば、もっと分かりやすいと思うのに・・・。

ともあれ、僕はてっきり、暢気なスウェーデン人なら鉄道の関係者でも分刻みでしかモノを考えていないのでは、と思っていたから、少なくとも30秒刻みでもモノを考えていることが分かって、ちょっと嬉しくなった。日本は10秒刻み、いや5秒刻みかな・・・?


<注>
上の写真は国鉄のホームページから。
雪景色の中を颯爽と駆け抜ける特急X2000。いかにも北欧らしい写真だ、と思われるかもしれないが、この冬はこのような雪景色はほとんど見かけなかった。これから先、雪が積もる日も毎年減っていくのだろうか?

コソヴォの独立

2008-02-23 11:11:43 | コラム
今週日曜日、セルビア共和国南部のコソヴォ(コソボ)自治州が独立を宣言した。
ユーゴスラヴィア連邦が解体してから7つ目の新しい国家の誕生だ。

コソヴォは、主にアルバニア系住民(多数)とセルビア系住民(少数)からなる。前者はイスラム教を信仰しアルバニア語を話すのに対し、後者はセルビア正教のキリスト教を信仰しセルビア語を話す。セルビア語はスラブ系言語だが、アルバニア語はそれとは系統が異なる言語だ(両者ともインド=ヨーロッパ語族ではあるものの)。

- ユーゴスラヴィアの解体とコソヴォ -

1980年にティトー大統領が死去した後、ユーゴスラヴィア連邦の崩壊が徐々に始まる。それはまずコソヴォで起こった。アルバニア系住民はユーゴ連邦内におけるコソヴォの共和国化を望み、一方でセルビア系住民は迫害されていると感じるようになり、住民間の緊張が強まっていく。当時、ユーゴ連邦のセルビア共和国において若い政治家であったミロシェヴィッチ(Milošević)は、セルビア系住民の後ろ盾になることを約束することで、本国セルビアでも政治的な力を獲得していく。

1980年代のユーゴは、それぞれの民族が排他的な民族主義を掲げ始めた時代だった。ミロシェヴィッチは、その波に敏感に反応し、分かりやすいレトリックを使ってセルビア人の民族意識を煽ることでのし上がって行ったのだった。それが次第に「ユーゴ内の他の民族に対するセルビア人の優位性」の主張にまで発展していく。それまでコソヴォが持っていた自治権を廃止し、セルビア共和国の直接統治とした。また、1389年にセルビア人がオスマン・トルコに敗北したコソヴォの戦いの600年を記念する祭典を開き、イスラム教の支配からセルビア人が完全に独立することを訴える、扇動的な演説を行ったのだった。アルバニア系住民は自治権の剥奪に対し、当初は非暴力による分離独立闘争を開始していく。

このような「大セルビア主義」と時を同じくして、同じユーゴ連邦内のスロヴェニア共和国クロアチア共和国でも彼らの民族主義が強まり、特にクロアチアではトゥジマンという政治家が、クロアチア民族の優位性を分かりやすい言葉で訴えて、勢力を伸ばしていく。西欧に近く経済的にも比較的豊かであったこの2国は、セルビアなどの貧しい地域を抱えるユーゴ連邦からの離脱を推し進め、1991年に独立を宣言する。民族的な問題があまり無かったスロヴェニアは短期間で独立を達成したものの、クロアチアは国内にセルビア系住民を多数抱えており、クロアチアの独立に際して、クロアチア領域内のセルビア系住民がクロアチアからの独立を宣言する、という事態になった。さらには、同じくユーゴ連邦に属していたボスニア=ヘルツェゴヴィナにおいても、多数を占めるイスラム系住民(ボスニアーク)がボスニア=ヘルツェゴヴィナの独立を宣言。これに対し、領域内のセルビア系住民とクロアチア系住民がそれぞれボスニアからの分離独立を宣言し、3つどもえの戦いになった。クロアチアとボスニアでの紛争は1995年秋の「デイトン合意」まで続くことになる。

コソヴォでは、1990年代に入ってからも両住民の間で緊迫が続いていたものの、本格的な武力衝突は1996年に始まるアルバニア系住民が武器を手にし、武力闘争に出たのだった。それに対して、セルビア側は政府軍や民兵を投入する。その結果、戦闘要員だけでなく、セルビア系・アルバニア系双方の一般市民にも大きな被害が出た。停戦に向けた協議は1999年春に失敗に終わってしまう。アメリカを中心とするNATO軍は、セルビア軍を撤退させるため、セルビア空爆を行う。ミロシェヴィッチ率いるセルビアは対抗措置として、80万人のアルバニア系住民を彼らの居住地から追放する。しかし、3ヶ月に及ぶ空爆の末についにコソヴォからの撤退を行った。

それ以降、コソヴォは国連の統治下に入り、セルビア共和国の手を事実上離れていたのだった。国連統治下、というのは、国連軍による停戦監視だけでなく、行政や社会サービス、公共交通、徴税、国境管理などのほとんどを国連が暫定的に組織して行う、ということ。

しかし、その後も2004年春には、アルバニア系住民とセルビア系住民の小競り合いが発生し、村や民家の焼き討ちなどが局所的に起こった。
(当時、私はクロアチアのOSCE(欧州安全保障協力機構)でインターンシップを始めたところだったが、民生部門の監視を行っていたコソヴォのOSCEからも日々の状況を伝える速報や、「OSCEのセルビア系現地職員の家も襲撃にあった」などの生々しいメールで届いていた。)

事実上の国連統治下という状況を今後どうするのか? セルビア共和国内の一つの州に留めるのか、それとも、完全な独立国とするのか・・・? 国連の全権委任であったフィンランドの元大統領の仲介のもとで、妥協策が練られたが、セルビア系住民とセルビア本国、そしてアルバニア系住民が双方の主張を譲らず、交渉は決裂。痺れをきらしたアルバニア系住民側がついに一方的な独立を宣言したのであった。

こうして振り返ってみると、コソボで始まった民族間の緊張をきっかけにして、1990年代にスロヴェニアクロアチアボスニアが独立をし、それと前後して、マケドニアが平和的に独立、さらに2006年にモンテネグロが平和的に独立し、そして、最後のコソヴォがいま独立する。ユーゴスラヴィアの解体は、まさに「コソヴォで始まりコソヴォで終わる(?)」と表現できるかもしれない。

(?マークを付けたのは、今後もしかしたらセルビア共和国北部のヴォイヴォディナ自治州も独立するかもしれないため。こちらは、大きな紛争の火種があるわけではないが)

上の地図をクリックすれば拡大されます


民族対立と武力衝突に際して、スウェーデンに難民として逃れたアルバニア系住民も多く、現在35000人がスウェーデンで暮らしている。

温暖化対策に「原発」をどう位置づけるか?

2008-02-20 08:57:28 | スウェーデン・その他の環境政策
これまで「温暖化対策準備委員会」について書いて来た。スウェーデンでは温暖化対策のために厳しい抑制目標を自らに課し、税・補助金制度や排出権取引制度などを活用してこの目標を達成していく合意が、与野党を問わずすべての政党の間で出来上がって来たことを説明した。

とはいえ、すべての点で合意に至っているわけではない。前回書いたように、2020年までの削減目標にしても30%減40%減の間で折衝が続き、そして、スウェーデン国外での抑制分をカウントするのかどうか、という点についても議論が続いている。

一方で、面白いことに、2050年までの削減目標に関しては、既に75-90%減で合意に至っているというではないか!
Göteborgs Posten
(つまり、遠い先のことは皆「どうにかなる」と思っているのかもしれない。一方で、10数年先のことは、これから毎年毎年の取り組みの仕方によって成果が大きく異なってくるので、合意が難しいのだろう)

――――――
意見が割れているのは目標だけではない。果たしてどのような手段でその目標をクリアするのか、についても異論も多い。特に与党である中道右派政党の間で意見が分裂している。

例えば、原子力発電について。スウェーデンは1970年代から80年代にかけて原発を12基建設し、現在では電力の半分を賄うまでに至っている(グラフはここをクリック)が、1970年代は同時に反原発運動が盛んだった時代であり、1980年の国民投票では「段階的廃止」が選択された。1999年と2005年に1基ずつ閉鎖され、現在は10基が稼働中である。

しかし、温暖化の議論の中で再び原子力発電が注目されるようになった。二酸化炭素を排出せず、安価な電力を供給可能であると考えられるためだ。現在議論されている厳しい排出抑制目標をスウェーデンがクリアすると同時に、スウェーデン産業の国際競争力の維持を図るためには、原発の意義を再検討する必要がある、との声も挙がっている。


原発新設を主張している自由党のCarl B. Hamilton

そんな声を挙げているのは産業界自由党だ。彼らは、高コストといわれる風力発電やバイオマス発電、さらには二酸化炭素税などによって電力価格が上昇すればスウェーデンの基幹産業、特に電力消費の多いパルプ・製紙や鉄鋼に大きな影響を与えることを懸念しているのだ。それに、高価な電力のために国内の事業所が閉鎖され、これらが温暖化規制の緩い国に移り、その国において発電効率が悪く、二酸化炭素の大量排出を伴う電力で生産活動を続けるのなら、元もこうもない、と考えている。

(注:但し、スウェーデンにしろ、EUにしろこの点はある程度、考慮されており、二酸化炭素税の課税も産業部門に関しては民生や運輸部門よりも軽減されている)

これに対し、左派の政党や中道右派の中でも中央党などは「原発ありきで議論をするのではなく、再生可能なエネルギーの開発や省エネ技術、道路輸送の抑制、二酸化炭素税などの税制を大いに活用することをまず考えるべき」と、原発に関する議論は拒否してきたのであった。(ちなみに、反原発の嵐が吹いた1970年代にこの運動を主導していたのは中央党(農業従事者を支持母体)だった。環境党はまだ存在していなかった。)

左派3党のうち、原発の即時閉鎖を主張している環境党を除く2党は、新設は認めないものの現在稼動中の原発は寿命が来るまで使い続けることを主張している。また、中道右派4党も連立政権を築くにあたって、次の選挙まではこの現状維持という立場を貫く、という合意をしていたのであった。

だから、前回の記事に書いたように、“この期に及んで”自由党が「原発を最終報告に盛り込め」と要求してきたのに対して、他の与党3党が苛立ったのも無理もない。
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原発に関しては、私自身はどうにも判断がつかない。温暖化対策だけを考えて、その即効性に着目すれば、原発の活用も仕方がない気がする。ただ、これはどう努力したところでエネルギーの消費量が爆発的に増えるであろう中国やインドなどでは妥当するかもしれない。一方で、高度な技術開発が今後さらに進むであろう先進国では、原発なしでもやっていける可能性もあるかもしれないと思う。

2020年の削減目標が40%減に...!

2008-02-18 07:24:50 | スウェーデン・その他の環境政策
3月に最終報告を国会に提出することになっている「温暖化対策準備委員会」だが、先週も新たな展開が見られた。


まず、2020年までの削減目標について。それまでの報道では30%減に落ち着くと見られていたのだが、何が起こったのか、40%減という数字が浮上し、この水準を軸に議論が進んでいるというではないか!

30%減から40%減へと削減目標が飛躍的に進んだ背景にあるのは、スウェーデンが外国で取り組んだ排出抑制努力を、スウェーデンの抑制達成量にカウントするかどうか、という議論のようだ。外国での努力とは、おそらく産業・民生部門における技術移転や植林などによる吸収源の拡大などであろう。現在の予想によると7%減に相当する温暖化ガス抑制が2020年までにこれらの取り組みで達成できると考えられている。

与党である保守党・自由党・中央党・キリスト教民主党は、外国での取り組みによる削減分もカウントすれば40%減を達成可能、と考えている。一方、野党である社会民主党・環境党・左党は、あくまで国内だけで40%減を達成すべき、と主張している。ただし、彼らは議論がここまで深まっただけでも十分、と与党側に歩み寄る構えのようだ。

いずれにしろ、各党が30%減から40%減の付近で落とし所を模索しているのはスゴイことだと思う。

もう一つの展開は、原子力発電の位置づけ。先週の会合では、自由党が原発を持ち出し、「委員会の最終報告書の中に、温暖化ガス排出抑制における原発の意義を盛り込むべき」と主張し、議論が紛糾したそうだ。与党の他の3党は「なんでまた今になってそんなことを持ち出すのか!」と苛立ったという。そして、自由党をなだめようと努力し、しまいには環境大臣(中央党)も議論に加わって妥協点を見出そうとしたものの、無理だった。

議論は今週もさらに続く。

なんだか、最終報告書を読むのが今から楽しみになってきた!

<注記>
写真は本文とは直接は関係ありませんが、4年程前にヨンショーピンで撮った写真です。

財政に予想以上の余裕

2008-02-15 07:13:24 | スウェーデン・その他の経済
夜の経済ニュースより:

「昨年までの好景気に伴って、失業率が大きく減少し、雇用率が大きく伸びたため、失業保険の給付総額が減少。職場の病欠も減ったため、国の支払う疾病保険の給付総額も減少。その結果、2007年の歳出が当初の予定よりも100億クローナも多く抑制されたことが分かった。」

景気の下向きへの懸念とは裏腹に、昨日は公定歩合が4.25%へと0.25%ポイント引き上げられただけに、これはスウェーデン経済にとっては嬉しいニュースとなった。


インタビューに答える財務大臣Anders Borg。相変わらずのポニーテールピアス。現在40歳だが、38歳でこのポストに就く。

写真の出展:SVT

以下は、私なりの解説。
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2006年、2007年はスウェーデンは大きな好景気を経験した。製造業関連の輸出産業が大きく伸び、さらに建設やサービス業も国内需要の伸びに支えられて、一部の職では人手不足となる事態にもなった。2006年秋に政権を奪取した中道右派政権は減税を公約に掲げていたため、所得税などの減税を実際に行ったが、家計の可処分所得がその分増えたことによって、経済がさらに過熱するのを防ぐ必要が出てきた。そのため、国家財政に余裕があったにもかかわらず、公的支出を抑えざるを得なくなった。「そんなに余裕があるのなら、学校教育・育児・高齢者福祉・医療にもっと投資をすべきだ」との不満の声が上がっていた。

景気循環国家財政の関係で面白いのは、景気は財政に対してダブルの効果を持っていること。景気がよくなると税収が増えることによって歳入が大きくなるだけでなく、失業保険や生活保護などの社会給付の額が減少することにより国の歳出が抑えられるために、この両方の効果で黒字が膨らむことになる。

今回のニュースは、2007年におけるこの歳出面での抑制が予想以上であったため、当初の計算よりも100億クローナ大きい余裕が国の財政に生まれた、ということ。(年間の国家予算規模は7900億クローナなので、1.3%に相当。子供の数に応じて全世帯に給付される育児給付総額の半分に相当するらしい。)

昨年とは違い、特にアメリカ経済の影響によって、今後は景気に歯止めがかかり、徐々に下向きになると考えられているため、次の予算編成である春の補正予算(4月中旬に提出)では、景気の過熱を懸念する必要はあまりなく、国としてはむしろ景気に刺激を与えたいところ。

なので、この100億クローナ分は、社会インフラ整備幼児保育に充てる意向を財務大臣が示している。国家予算の1.3%に相当するお金が経済全体に対してどこまでの意味を持つのか私には正直分からないが、タイミングとしてはバッチリだ。

ムハンマド風刺画騒動、再び?

2008-02-14 07:10:04 | スウェーデン・その他の社会
デンマークのムハンマド風刺画が再び話題になっている。

2005年から2006年に掛けてヨーロッパと中東を騒がせた「ムハンマド風刺画」だが、これを書いた数人の作家のうちの一人の殺害計画がデンマーク警察によって暴かれたのだった。逮捕されたのはモロッコ出身のデンマーク人と、チュニジア人2人の合わせて3人。

この逮捕に呼応して、デンマークの17の新聞が「表現の自由」を擁護するマニフェストとして、再びムハンマド風刺画を掲載した(スウェーデン南部の1紙も)。場合によっては、再び騒動に発展する可能性もあるようだ。


風刺画騒動の発端となったJyllands-Postenの記事。特に右の風刺画が反感を買った。

この記事の全体:Jyllands-Posten(ユランズ・ポステン):「ムハンマドの顔(Muhammeds ansigt)」

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デンマーク発の「ムハンマド風刺画」騒動は以前ここでも触れた。また、昨年はスウェーデン発の「風刺画騒動」も起きたが、この時は騒動の拡大が幸いにも未然に防がれた。

<以前の書き込み>
2007-09-07:ムハンマド論争、今度はスウェーデンで・・・(1)
2007-09-09:ムハンマド論争、今度はスウェーデンで・・・(2)
2007-09-12:ムハンマド論争、今度はスウェーデンで・・・(3)
2007-09-17:風刺画の作者殺害に懸賞金

この問題は、欧米(そして日本も!)の民主主義が依拠している言論・表現の自由と、それが理解できないイスラム社会との“文明の対立”として解釈されることが多いようだが、私はむしろ ①言論・表現の自由②他文化に対する敬意や尊重、配慮 とのバランスの取り方、という実はもっと単純なことに着目すべきではないか、と思ってきた。

つまり、私は言論・表現の自由は、一人ひとりの個人が社会の中で自分の権利を守るために必要なものだと思うから、これはしっかり擁護すべきだということは認める。それに、デンマークやスウェーデンでの騒動の際に、イスラム教関係者がそれぞれの政府に抗議を行い、宗教の冒涜を公権力によって罰するよう要求したが、これは言論・表現の自由に基づく両国にとって到底受け入れられるものではない。

しかし、言論・表現の自由があるからといって、何を書いてもよい、芸術の名の下に何を表現してもよい、というわけではないと思う。他人を不愉快にしたり、傷つけたりするような配慮に欠けた発言・表現をしたところで、警察や公権力が介入して罰するわけでないが、様々な人との共生で成り立っているこの社会に生きていく上でのマナーや倫理には反している。他文化に対する配慮は、様々な民族や文化的・宗教的背景を持つ人々から成っている欧米社会では、特に気を付けなければならないことだ。相手がイスラム教徒であるから、何を言っても構わない、というのでは、理解想像力に欠けているのではないだろうか?

この騒動を果たして“文明の対立”という大袈裟な形で捉えるべきなのか疑問だ。むしろ、基本的な配慮が欠けていたことを問題視すべきではないかと思う。“文明の対立”という大きな捉え方をしようとする「急進派」は中東にもデンマークにもいる(つまり、イスラム過激派やデンマークの民族主義勢力など)が、この側面を必要以上に強調することで、政治的な人気を得ようとしている点も見逃してはならないと思う。

「これは人種差別。これは反ユダヤ的。これは表現の自由。」

写真の出展:Catholic Voice

P.S.
日本でも他者に対する配慮を欠いた発言は、人々の心を傷つけ、批判を受けることは、最近の例を見れば明らかだと思う。同様に、ネット上でも他人を嘲笑ったり、誹謗中傷するようなことを平気で書くのは御法度であるべきだ。

芸能人や有名人が軽はずみな発言をしたことに対し、本人のブログに批判が殺到することを「ネット炎上」と呼ぶらしいけど、批判を書く側も自分がネット上の様々な場所で同じように配慮を欠いた発言や人を不快にする中傷をしていないか、振り返ってしっかり考えてみる必要がある。芸能人や有名人がそういう事をするのは許せないけど、「無名」である自分がやるのは一向に構わない、というのであれば、おかしいと思う。

(日本のネット上のマナーが悪すぎるのではないか、と最近、特に感じています。)

「温暖化対策準備委員会」(4)- 各政党の認識

2008-02-12 09:17:56 | スウェーデン・その他の環境政策
さて、温暖化対策に対する各政党の考え方はどのように変化してきたのか?(長くなりますが、一気に書き切ってしまいます!)

まず、2006年秋の総選挙で敗北するまで政権を担当してきた社会民主党と、これに閣外協力してきた環境党左党は、温暖化対策を含めた環境政策全般に積極的に取り組んでいくことを従来から主張してきた。名前からも想像がつくように、環境党がもっとも急進的な主張を繰り返し、予算編成にあたっての左派3党間の協議では、常に社会民主党をせかして、環境税制の拡張や環境対策予算の増額を強いてきたのだった。

一方、中道右派の4政党はどうだったのか? 2006年までの各党の主張を簡単にまとめてみるとこういう風になる。(以下ではディーゼル税は省いたが、ガソリン税と同様に考えられている)

保守党(穏健党):EU全体との協働で温暖化対策を行うことには賛成。ただ、あくまでホドホドに。ガソリン税は引き下げるべき
自由党ガソリン税は引き上げるべき。原発の増設。「ガソリン税の引き下げを主張するような党は、温暖化対策を真剣に考えているとは到底思えない」との発言
中央党ガソリン税は引き上げるべき。新しい燃料の技術開発にも力を入れるべき。
キリスト教民主党ガソリン税は引き下げるべき。それに加え、燃料にかかる一般消費税(25%)も12%に下げるべき。

と、このようにガソリン税や二酸化炭素税に関しては意見が二分していたのであった。2006年9月の総選挙が近づくにつれ、この4党で共同の「政策マニフェスト」を作成し、連立による政権の奪取を目論むことになるのだが、温暖化対策に関しては意見がまとまることはなかった。

保守党は経済界とつながりがあるものの、党としては環境政策にもある程度は力を入れることを公約に掲げていたため、ガソリン税の減税までを公約に明記してしまうと、党の環境政策の信憑性に傷がついてしまう。そのことを恐れたのか、自党の公約ではガソリン税減税をトーンダウンさせた。

一方、キリスト教民主党は、弱小政党であり、存続が危ぶまれていた。スウェーデンでは「4%ハードル」があり、全国での得票率がこれを超えなければ1議席も獲得できないことになっている。支持率が常に4%-6%を浮き沈みしていたこの党は、従来の「保守的家族観」の主張に加え、「ガソリン税減税」と「住宅資産税撤廃」を盛んに主張することで、新たな支持層の獲得を試みたのだった。

選挙前の討論番組でガソリン税減税を主張するキリスト教民主党の党首Göran Hägglund

時は折りしも原油価格の高騰が深刻になってきた頃。上記のように保守党がガソリン税減税のトーンを下げた今、このキリスト教民主党が唯一の「ガソリン税減税」政党になったのだ。「我々は燃料費の高騰に苦しむ一般家庭のことを考えている真剣な党だ!」 このことを大々的に売り込んで、支持率の巻き返しを図ったのだった。

キリスト教民主党のキャンペーン「ガソリン税を今すぐにでも下げよう!」

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さて、2006年総選挙の結果は、中道右派4党左派3党を打倒した。中道右派の第一党である保守党が中心となって、4党による連立政権が発足することになった。環境大臣中央党から選ばれることになった。


環境大臣 Andreas Carlgren(アンドレアス・カールグレーン)中央党。後ろに見えるのはストックホルム市庁舎

ただし、キリスト教民主党は「4%ハードル」こそ超えたものの得票率は6.5%と、前回の選挙での得票率(9.1%)よりも落ち込んでしまった。「ガソリン税減税」の公約は期待したほど支持を集めなかったようだ。(安い油に惹かれて票を入れるほど有権者も単純ではなかったのだ!
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前回のブログに書いたように、この総選挙の後から、温暖化問題が盛んにメディアで取り上げられるようになり、人々の関心も高まっていく。そのため、新政権としても活発な政策を打ち出していく必要が出てきた。(様々な要因が重なり、選挙直後から新政権の支持率は低下の一途をたどる。そのため、環境政策分野でポイントを稼ぐ必要も出てきたのだった。)

新政権が感じた圧力は世論だけからではなかった。温暖化の専門家を始め、国の機関である環境保護庁(Naturvårdsverket)エネルギー庁(Energimyndigheten)などが「スウェーデンの民生・運輸部門の排出量を抑制するためにはガソリン税をはじめとする経済インセンティブのさらなる活用が必要」と、独自の提言をし、それをメディアに発表したりしたのである。(スウェーデンで面白いのは「省」と「庁」が分離しているため、「庁」が比較的自由に活動できるところ)

そんなこともあり、2007年秋予算の策定にあたっては、ガソリンに対する二酸化炭素税の引き上げと、ディーゼルに対するエネルギー税の引き上げに踏み切ることが、連立与党4党の党首の合意で決まったのだ。保守党は与党第一党という責任ある立場にあるため、方針の転換を余儀なくされたようだ。一方、キリスト教民主党のほうは「しぶしぶ」という態度を見せ、あくまでも「ガソリン税減税」に向けてこれからも努力する姿勢を続けた。

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しかし、そんなキリスト教民主党も昨年12月についに音を上げた。従来の公約はもはや追求できない。温暖化対策への取り組みに党として責任ある立場で参加するためには、ガソリン税減税ではなく、むしろ増税を行う必要がある、との結論に達し、これまでの方針を180度転換したのだった。

党の政策転換の鍵となったは、伸び悩む支持率という外的要因の他に、党内部の要因も大きかった。EU議会の議員をしておりEUの環境政策に詳しく、さらにはこれまで私が連載してきた「温暖化対策準備委員会」にキリスト教民主党の代表として加わっていたAnders Wijkmanという党員がいた。「委員会」で他党と足並みを揃えた活動を行っていくうえで、自党の環境プロフィールの弱さが大きな障害だと感じたようだ。それまでも温暖化対策に積極的だった彼は、ついに党首や党執行部を動かして、党全体の路線転換に成功したのだった。

そして、この結果、国政政党7党のすべてが、温暖化対策に積極的に取り組んでいく姿勢を見せることになったのである。「温暖化対策準備委員会」での合意達成が比較的容易である背景には、このような長~い経緯があったのです。

(終わり)

「温暖化対策準備委員会」(3)- 世論とメディア

2008-02-10 08:16:56 | スウェーデン・その他の環境政策
さて、日本であれば環境対策について国政政党すべての間で合意形成などしようとすれば、それぞれが自分たちの立場を主張し、議論が紛糾してまとまらないだろうに、スウェーデンでは、どうしてこうもラディカルな取り組みに関する合意が幅広くなされるのか?

日本と比べると驚くべきことに「環境問題、特に温暖化問題への対策は急を要する」という認識は与党(中道右派)にも野党(社民・環境・左党)にも広く共有されている。また、国民一般の側にも、メディア(テレビ・ラジオ・新聞など)における議論や専門家の意見などを通じて、温暖化問題が深刻な帰結をもたらしかねない、ということが広く認識されているようだ。

今回は、この世論について書き、次回、各政党の認識について書きたいと思う。

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温暖化問題を取り扱ったドキュメンタリー番組「Planeten」(スウェーデン・テレビ(SVT)の作成)が2006年終わりにテレビで放送されたり、また、アル・ゴア氏の映画上映もあったことにより、それまでは関心を持っていなかった人も何かしらの興味を持ち始めた。その後、メディアもニュースやさまざまな特集を組んで、このトピックを盛んに扱うようになった。

温暖化説に懐疑的な意見も、声が上がるたびに取り上げられ、ニュースや社会ディベート番組などで温暖化を懸念する人たちとの活発な議論が展開されたりはしたものの、様々な議論に耐えうる、強い説得力を持つ意見は稀なようだ。やはり科学的な根拠に基けば、人間の産業活動によって温暖化が引き起こされている可能性が非常に高く、積極的な対策が必要だ、という認識が現在では広く共有されているようだ。

日本では、この問題認識の段階ですら、少なからずの人が温暖化の進行や海面上昇、気候変動に対していまだに疑問を投げかけているようだ。新しい見方や、他の人とは違う斬新的な考えがメディアに取り上げられたり、本として発売されるのはいいことだと思うが、その説がきちんと吟味されないままに一人歩きし、それが鵜呑みされてしまうのは問題ではないかと思う。

まず、一人ひとりがいろいろな「説」を見聞きする段階で、ある程度、自分の頭の中で、論のつじつまや信憑性を考えて判断すべきだと思う。

ただ、もちろんほとんどの市民・国民は科学の専門家ではないので、それぞれの説の細部をしっかり吟味して、信憑性を判断できるわけではない。ならば、専門家の主張をある程度は鵜呑みしたり、受け売りしたりするのは、どこの国でも一緒ではないのか? スウェーデンにしたって、人々は温暖化問題を叫ぶ専門家の声を鵜呑みにしているだけではないか? と思われるかもしれない。

いや、そんな単純なことではない、と私は思う。

私はここでメディアの役割が重要になってくるのではないかと思う。つまり、ある新しい説が提唱されたり、新しい本が発売されたりして、話題になったときに、そのニュースだけを伝えたり、その新しい主張だけをタレ流すだけでなく、従来の定説を唱えている専門家とスタジオで議論させたり、一般の人からの疑問に答えさせたり、メディアが独自にその説の信憑性を検証したりすることで、意見の対立構造や、それぞれの意見の強さや弱さが多角的に分かる形で伝えるのだ。根拠に欠ける弱い意見であれば、そのような議論に耐えることはできず、次第に淘汰されていく。

スウェーデンでは、このようにメディアがある種の「フィルター」の役割を果たしながら、世論形成の土台を築いているように思う。「メディアにおける活発な議論が”det goda samhället”(良心的・良識的な社会)を築いていく」とある人が新聞のコラムに書いていたが、まさにこのことだと思う。

ともあれ、このようなプロセスを通じて、「温暖化対策は急を要する」という認識がスウェーデンでは広く共有されているようだ。(一方で、どのような方策を用いて温暖化対策を行うか、については意見が大きく食い違っている。)
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以上の結果、各政党も積極的な対策を打ち出さなければ、支持率を維持できない状況になっている。2006年秋に誕生した中道右派の現政権も、それまではあまり「環境政策」には熱心ではない、とは言われたものの、これを重要政策分野の一つに位置づけざるを得なくなっている(むしろ、他の政策分野で不評なので、環境政策分野でポイント稼ぎをしなければならない、という本音もあるのかもしれない)。

スウェーデンでも2006年の総選挙にキリスト教民主党「ガソリン税の切り下げ」を公約に掲げた。この公約で支持率が伸ばせる、という思惑があったようだが、選挙の結果は惨めなものだった。この政党の問題は他にもあったのだが、ガソリン税減税という「人気取り公約」に人々が見向きもしない、一つの象徴的な出来事だったと思う。(続く・・・)

「温暖化対策準備委員会」(2)

2008-02-07 08:22:40 | スウェーデン・その他の環境政策
前回紹介したスウェーデン議会「温暖化対策準備委員会(Klimatberedningen)」は、与党・野党を問わず、国政政党7党すべてからの代表者によって構成されている。気候変動の対策のために党派を超えた幅広いコンセンサスを築き、具体的な政策を実行に移し(掛け声だけではなく)、さらには国際レベルでの合意形成にスウェーデンとして貢献していくことが目的なのだ。


中央の小島にある建物が「議会議事堂」。本会議場があるのは後ろの影に隠れている半円の建物

この委員会は、議会から与えられた「指令(ミッション)」に基づき、3月4日までに報告書を議会へ提出することになっている。与野党がともに参加している委員会なので、合意形成は大変なんじゃないか!?、と思われるかもしれないが、いくつかの点については既に合意に至り、早くも先週の段階で、その一部がメディアに流れたのだった。

それはまず、
(1) ガソリン税とディーゼル税のさらなる引き上げ(リットルあたり0.70クローナ=12.6円。おそらく名目は「二酸化炭素税」として)
スウェーデンでも、自家用車の使用や運輸部門からの排出量をさらに減らしていく必要がある、と考えられている。そのための一つの手段は、燃料コストを引き上げること。大気汚染や温暖化といった形で、社会全体に対して「費用」が生じているのに、それが車の利用者によってきちんと支払われていないから、「税」という形でガソリン価格に上乗せする(つまり、車の利用による社会的費用を経済システムの中に「内部化する」)と捉えることもできる。

そして、
(2) 運輸トラックに対して走行距離に応じた「キロメートル税」を課す
長距離運送のトラックの数は近年も増え続けているという。そのため、走行距離に対して直接課税することで、トラック輸送に対する需要を抑え、さらに、運送会社がより効率的にトラックを運用することを狙っている。税の徴収も制度的に難しいことではなく、スイスやドイツ、オーストリアでは既に導入されているという。1kmあたり1-2.5ユーロ(ただし、独と墺では高速道のみ)。

さらには
(3)通勤に自家用車を使う人には、一定の条件を満たす場合に、所得控除が認められていたのだが、その条件を厳しくして、公共交通の利用を増やす

(4) ストックホルムが導入している「渋滞税(都心乗り入れ税)」の制度を、他の都市でも導入しやすいように法の改正を行う。

そして、今日も新たな情報がメディアに流れた。

(5) 2020年までの排出抑制目標として、スウェーデンは「30%減」を掲げる
これは実際にはまだ合意に至ったものではなく、あくまで来週の委員会会合で採決が取られる予定の“議長案”なのだが、与野党のそれぞれ1党が既に支持を表明しており、委員会の他のメンバーの出方が注目されている。
先日も書いたように、EU全体の温暖化対策では2020年までの削減目標を20%減に定め、そのもとでスウェーデンには17%減を課しているのだが、「このEUの目標にスウェーデンとして単に追随するだけでは不十分」という認識が、委員会メンバーの一部にあるらしい。そのため、来週の会合での採決を前に、世論や専門家、メディアの反応を確認する目的で出された一種の「リーク」ではないかと私は思う。

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普段はいがみ合っている与野党のすべてが参加しているこの委員会で、なぜ、こんなにも早く意見形成が可能なのか?

(続く...)

2007年4月に設置された「温暖化対策準備委員会」(1)

2008-02-04 07:34:25 | スウェーデン・その他の環境政策
EUの新しい温暖化対策目標について、先日書いたところだが、それとは別に、スウェーデン国内でも社会の発展と温暖化対策をどのように両立させていくのか、長期的ビジョンの模索が活発に続けられている。

スウェーデン議会は昨年4月に「温暖化対策準備委員会(Klimatberedningen)」を設置した。2008-12年、およびその先を視野に入れたの自国の目標を達成していくために、スウェーデンはどのような環境政策を追求していくべきなのかを調査するとともに、現行の取り組みはどうかという評価を行うのが役目だ。

党派の利害を乗り越えて、今後のスウェーデン社会の将来像を形作るためには苦労も多いだろう。しかし、現状の認識や、目標の策定、そして、その目標に到達するための具体的な手段・・・、といったステップを踏みながら合意が形成されていく過程は面白いと思う。

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国会が設置したこの委員会は、メンバーは国政政党7党のそれぞれからの国会議員によって構成されている。ただし、代表は非政党系の識者。
写真の出典:Sveriges Radio

<代表>
Hans Jonsson

<メンバー>
自由党: Carl B. Hamilton
中央党: Claes Västerteg
キリスト教民主党: Anders Wijkman
保守党(穏健党): Sofia Arkelsten
社会民主党: Lena Hallengren
左党: Wiwi-Anne Johansson
環境党: Maria Wetterstrand
(ちなみに最初の4党は与党(中道右派連立)、残りの3党は野党(左派ブロック))

委員会が設置されると、その委員会が限られた時間内に何をすべきかを細かくあげた指令(ミッション)議会から発布される。そのミッションを詳細に見てみると・・・

- 2008-12年に向けた国としての目標に到達する可能性を評価し、さらにどのような対策が必要かを明らかにせよ。(ちなみに京都議定書における目標(4%減)は既に達成している。なので懸案はそれよりも厳しい“国としての目標”なのだ)

2020年および2050年までの国としての温暖化ガス排出抑制目標を提案せよ。

提案されたその目標を達成するために必要な措置や手段に関しての行動計画を提案せよ。(例えば、国内外における措置、技術開発、技術移転、排出権取引の活用、経済インセンティブの活用など)

-将来に向けた排出抑制の取り組みに関する国際交渉におけるスウェーデンの立場がEUや他の先進国、そして途上国に対して、どのようなものなのか、事実に基づく見解をまとめよ。

-EUで検討されている排出権取引の他産業部門への拡大に関して、他の温暖化対策手段との効率面での比較や、国家財政に与える影響、スウェーデンの産業の国際競争力に与える影響をまとめて意見を提出せよ。

-将来の効率的な気候変動対策に関して、長い将来を見据えた国際合意が達成されるために、スウェーデンはどのような形で貢献できるのか、事実に基づく見解をまとめよ。


以上が、ミッション(指令)の要点だ。国内外における温暖化対策を形作っていくために必要な様々な側面が、この指令の中に盛り込まれていると思う。

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委員会の代表Hans Jonsson(ハンス・ヨンソン)氏は、以前は農業従事者全国協議会(LRF)の代表をし、EUの農業政策にも詳しい人物らしい。

この委員会が設置された昨年(2007年)4月の段階で、「異なる政党を集めて、統一した見解をまとめるのは大変ではないか?」とのメディアの質問に対し、「いや、そんなことはない。」と答えた上で、さらにこう付け加えている。

– Min ambition är att vi ska ha en gemensam stark klimatpolitik i Sverige. Min utgångspunkt är: om vi i Sverige inte kan enas, hur ska då världen kunna göra det?

私の熱意は、スウェーデンとして皆が納得できる強力な温暖化対策の政策を築き上げることだ。スウェーデンにいる私たちですら合意に達することができないとしたら、世界はどうやって合意を達成すればいいというのだ!? 任務を始めるにあたっての私のスタートポイントは、このような考え方だ。」

このように、政党の垣根を越えて、国としての合意を作り上げるとともに、2009年12月にデンマークのコペンハーゲンで開かれる温暖化防止国際会議(COP15)に向けてスウェーデンとして準備をすることも、この委員会の具体的な任務の一つだ(上のミッション一覧参照)。このとき、スウェーデンはちょうどEUの議長国であるため、スウェーデンの果たす役割が重要になると考えられている。

「スウェーデンは研究や技術に関して大きく進んでいる。同時に、京都議定書が次のステップに移るための重大な協議が行われるときに、小さなスウェーデンが偶然にも議長国であるということは、大きな可能性を意味している」と彼は述べている。

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委員会は、以上の調査結果を今年の3月4日までに提出することになっている。

政策決定に影響力を持つ者が、本当に熱意(アンビション)を持って温暖化対策に取り組み、目標だけでなく、それに到達するための具体的な政策提言を行い、さらには後の事後評価がきちんとなされるならば、難しい問題も解決可能だという気がする。

日本の政治に対する希望も、まだまだ捨ててはいませんよ!

(続く)

ここでも中国スキャンダル

2008-02-03 08:48:25 | スウェーデン・その他の社会
中国の食品の安全性が日本では大きな話題になっている。昨年起きた、玩具や食品、飼料に毒物が使われていた(混入していた)スキャンダルは、事件の度にスウェーデンでも大きく報じられたが、今回の出来事はスウェーデンのメディアではまだ取り上げられてはいないようだ。

一方で、それとは別の中国スキャンダルが報じられている。

ニューヨークに本拠地を置く法輪功の関連団体が、今年3月にストックホルムとリンショーピンで舞台公演を計画している。しかし、それを阻止したい在ストックホルムの中国大使館が、ストックホルム市やリンショーピン市の文化委員や地方議員に電話をかけ、市の側から中止に追い込ませるよう圧力を掛けているというのだ。

ストックホルム市の自由党議員で市の文化委員会に属するMadeleine Sjöstedt氏のもとには、大使館員から電話が掛かり、「彼ら(法輪功の関連団体)は反人道的であり、彼らに対する支持など中国には存在しない。そんな団体の公演をストックホルムで許すことになれば、中国とストックホルムとの関係を損なうことになる。」と、鋭い口調で言われ、一種の脅迫とも受け取れるものだった、と述べている。リンショーピン市の文化委員であるJohan Lundgrenのもとにも同様の電話があったらしい。

写真の出典:Sveriges Radio

法輪功(ファールンゴン)がどのような宗教団体かは詳しいことは知らないが、この事件で面白いのは、中国の大使館が、公権力によるこのような圧力がスウェーデンでも通用する、と思っていたことだ。言論の自由がない本国では、政府の気に入らない文化活動が開かれるようなときには、当局が上から自治体や関係者に圧力を掛けて中止に追い込むことが可能なのだろう。しかも、そのような圧力が例え失敗したところで、圧力を掛けられた関係者がメディアで暴露するようなことは多くないだろうし、その時はメディアを封じ込めてしまえばいい。情報統制は様々なレベルで行える。

今回、中国大使館にとって誤算だったのは、圧力を掛けられたスウェーデンの議員がメディアで暴いてしまったことだ。最初のうちはコメントを拒否していた中国大使館だったが、スウェーデンのメディアの追及の末に、録音なしのインタビューにて、電話を掛けた事実を認めた。彼らの面目は丸つぶれだ。

電話で圧力を掛けられたストックホルムの議員は、中国大使館からの正式な謝罪を求めている。さらに「民主的で開かれた社会システムにおいて、公的機関が市民の活動や発言に介入して口封じをしたり、どのような文化活動が行われるべきか、監視するようなことがあってはならない。この点が専制主義民主主義とが大きく違うところだ。その違いを彼らは学ぶべきだ。」と述べている。リンショーピン市も似たような内容の「返答」を書面にて中国大使館に送付し、市としての立場を明らかにすることを検討しているという。

以前も似たようなことがあった。ブリュッセルで開かれた人権国際会議に出席する予定のスウェーデンの国会議員(保守党)のもとにも、中国大使館から電話が掛かり「出席をやめなければ、両国の友好に傷が付く」との圧力を掛けてきたのだ。彼が拒むと、その後しばらくしてから夜中に無言電話が相次いだ、という。これは半年ほど前にあった出来事だ。

ただ、今回もそうだが、スウェーデン外務省は及び腰であって、強い抗議を中国大使館に対して行うことはしない。騒ぎが発展して、中国との経済取引に影響が出ることを懸念しているのだろうか・・・?


<追加>
ちなみに、インターネット検閲のある中国では法輪功(Falungong)の関連のサイトへはアクセスできないらしい。そのとばっちりを受けているのが、スウェーデン中部のファールン(Falun)市。市のホームページのアドレスがwww.falun.seなので、法輪功の関連サイトとして、中国政府のサイバー検閲に阻止されているのらしい。

今年のスポーツ・イベント

2008-02-01 07:48:21 | Yoshiの生活 (mitt liv)
スウェーデンの新年、真夜中0時は、花火を打ち上げてパーッと祝う。そして、来たる新しい年に思いを馳せながら「新年の誓い(nyårslöften)」をする。

たとえば、今年こそ絶対に禁煙します! とか、今年はトレーニングに励んでXXキロ痩せます! とかそんな感じ。

(この時、みんな酔っぱらっているから、翌朝目が覚めたときには、これっぽっちも記憶に残っていない人も多い、という笑い話もある)

実のところ、スポーツ・ジムの会員数の統計を見てみると、年明け直後は利用者がどっと増えるらしい。(で、2月過ぎたあたりから徐々に減っていくのだとか(笑))

私が通うジムの会員証は去年の9月で期限が切れていた。それからすぐに更新して、秋の間もトレーニングするつもりだったのだけれど、来週から、いや、来週から、・・・と思っているうちに師走になり、年が暮れてしまった。だから私の「新年の誓い」は「年を明けたら絶対にトレーニングを再開します!」だった。

でも、年明け直後に会員証の更新をすれば、明らかにミーハーと思われてしまうので、年の暮れの最後の営業日(30日)に既に更新しておいた。ちなみに年会費は1年で3000クローナ(54000円)。
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今年のスポーツの目標はまずは2つ。

ヨーテボリ・ハーフマラソン(5月)
ヴェッテルンルンダン(300kmの自転車の大会)(6月)


それから、10kmの献血マラソン(5月)や自転車の他の大会も出る予定。
なので、今から少なくとも週2回、トレーニングに励んでいる。

私の同僚のNiklasはトライアスロンのスウェーデン選手権を目指して、毎日、水泳・ランニング・自転車のどれかをやっているから、凄い!