スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

秋学期を前にし、大学教育定員割れ

2007-08-31 07:15:59 | スウェーデン・その他の社会
現在の好景気は、大学教育にも大きな影響を与えている。スウェーデンの大学学部教育の多くが定員割れしているのだ。その結果、各種コースの10分の1が秋学期はキャンセルされるという。

ヨーテボリ大学本館

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スウェーデンの大学教育の近年の傾向から簡単に。

スウェーデンの大学教育は、80年代後半から徐々に拡大していき、2000年代前半には大学生の数が拡大以前の2倍にも膨れ上がったのだ。労働市場において、より高度な技能を身につけた労働力が必要とされるようになった(なるだろうと予想された)ことに加え、「知識社会」への転換を促進するために、政府が大学教育の拡大に力を注いだためだ。「知識社会」への転換とは、つまり、単純な製造業などは機械化が進んだり、どんどん東欧やアジアなど賃金の安い国へ流出していくため、スウェーデンが生き残っていくためには、より高い付加価値を生み出す産業の育成が不可欠だ、それが「知識集約的産業(kunskapsintensiv industri)」と考えられたのだ。

ちょうど、大学教育の拡大が続いた90年代はバブルがはじけた後で、雇用があまり伸びなかった。特に、若い人が就職に苦労した。だから、高校を卒業しても職がない、もしくはこれまで高卒で働いてきたけれど、解雇された。それなら、大学で勉強しようか! と多くの若者が考えた。(もちろん、大学に進学した者の中には、将来の夢を叶えるために、大学でしっかり技能をつけたい熱心な若者もいただろう)

だから、90年代以降の大学教育拡大は、国の社会・産業戦略と国民の意向がうまくかみ合う形で、実現して行ったのだった。(ここでの国民とは主に若者のことだが、彼らに限らず、30代・40代の人が大学で勉強するのは珍しいことではない。)

結果として、それまでは、高校を卒業してからしばらく働いたり、旅行をしたりしてから、自分の本当にしたいことが頭の中である程度形になってから、大学に進学するというスタイルが多かったが、近年では高校卒業後、すぐに大学進学するケースが非常に増えた。大学生も全体としてみると随分若くなったのだ。


しかし、やはり若者は正直だ。今のように雇用が伸びていて(以前の書き込みの通り、今年の就業者数は1990年の水準を上回った)、就職が比較的容易になると、大学にはあまり見向きもせず、とりあえず働いてお金を稼ぎたい、と多くの若者が考えているようだ。高校卒業まで何年も勉強してきたのだから、今は別のことをしたい、というのが本音ではなかろうか?(知り合いの高校生もそう言っていた) だから、現状を見ていると、少しずつ以前の大学進学スタイルに戻りつつあるのかもしれない。

その結果として、上記の通り、各種コースの10分の1が秋学期はキャンセルされることになった。特に小さな地方大学の定員割れがひどく、カルマル(Kalmar)大学などに至っては4分の1のコースをキャンセルせざるを得ないとか。(地方大学の多くは、大学予算を国から得るべく、需要以上に大学を拡大してきたツケが回ってきたともいえる)

就きたい職業を得るために、大学教育を受ける。それなしでも就職が可能なら、大学教育は受けない、という考え方は悪くないと思う。ただ、社会全体で長い目で見た場合には、もしかしたら労働力の技能の低下につながるかもしれない。心配なことに、定員割れが激しいのは、技術系、理科・生物系のコースだというではないか! 産業立国としては危機感を持ったほうがよさそうだ。

経済は好調! でも、政府は頭が痛い・・・

2007-08-29 11:02:03 | スウェーデン・その他の経済
これだけ景気がよければ、今の政権は手放しで喜べるかというと、そう簡単にはいかないようだ。むしろ、雇用が伸び悩んでいた頃とは一転、今ではむしろ労働力不足と景気の過熱しすぎが、問題になっている。今後、絶好調の経済を、いかにソフト・ランディングさせて、持続させるかが課題である。

業種の一部では人手不足に陥っているところも出始め、それが今後の経済発展のボトルネックになりかねないという。また、今年の春は各業界とも労使間で賃金交渉(だいたい3年に一度)が行われたが、雇用の伸びと景気の過熱に伴って、今後3年の賃金が10~12%も引き上げられることが決められた。だから、今後、労働生産性がそれに応じて伸びなければ、労働コストがかさむわけで、景気の足を引っ張りかねない、という懸念も出始めている。

また、賃金が上昇すれば、物価も上昇する。すると、スウェーデンの中央銀行は利上げを余儀なくされる。そのため、これから1・2年内に公定歩合は4.5%に達すると見られおり、それが経済に重くのしかかってくる恐れがある。(多くの先進国同様、スウェーデンでも1990年代に中央銀行が政府から切り離され、公定歩合は政府の意向や景気情勢と関係なく、インフレのみを考慮して決められることになった。目標インフレ率は2%)

さて、好景気の受けて、税収も大きく伸びている。現政権は9月に来年2008年の予算を提出するが、ここでも大きな問題が出ている。景気が良すぎるために、下手に財政規模を拡大すれば、火に油を注ぐがごとく、経済をオーバーヒートさせることになるからだ。だから、増え続ける税収も思う存分は使えない。一方、今の新政権は政権に就くにあたって、段階的な所得税の減税と住宅税や資産税の減税を約束している。だから、それをしなければ公約違反になるが、それをやれば、オーバーヒート。すると、別のところで歳出の引き締めをしなければいけなくなる。(どこで・・・?)でも、低迷している支持率の回復のためには、歳出の引き締めは好ましくない・・・。

と、まぁ、にっちもさっちも行かない有様。

日本や景気低迷の続く南欧から見れば、なんとも贅沢な悩みを抱えている、と言われそうだ。

スウェーデン経済、猛牛のごとく・・・

2007-08-27 05:12:20 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデン経済が今、とても熱い!

2006年は年間成長率が4~5%と非常に高い経済成長を記録した年だった。今年2007年は去年よりも成長が遅いものの、それでも3%はキープしている。

GDPの成長率の推移(年率換算)

今年のスウェーデン経済の特徴は、雇用が大きく回復していること。スウェーデン統計局(SCB)は1959年以来、サンプル抽出型の雇用調査を毎月実施しているが、職に就いている「就業者」の数は2007年7月の時点で466万人で、過去最高を記録したという。去年の7月に比べ、11.6万人も伸びている。

就業者数の推移

しかも、伸びが顕著なのは、近年の日本のように「非正規雇用(パート・派遣・有期限)」ではなく、「正規雇用(フルタイム・無期限)」というから嬉しい。これまで大きな問題であった若者の雇用も大きく回復している。大卒だけでなく、高卒でも比較的容易に仕事が見つかるようになった。

スウェーデンは1980年代後半のバブル景気のおかげで、1990年に過去最高の就業者数を記録したあと、バブルがはじけ、その後、なかなか雇用が回復しない状況が続いてきたが、今回、やっとその記録を塗り替えたわけだ。

失業率は、4~5%に下降。また、労働力人口(16~64歳)に占める就業者の割合である「雇用率」は、79.3%に達し、政府の目標である80%まであと少しだ。(ちなみに1990年の雇用率85%まではまだ遠い。それは、雇用の回復以上に労働力人口が増えたため)

一方で、失業期間6ヶ月以上の長期失業者は減るどころか若干増えているという。なので、今後の課題はこの長期失業者をいかに減らしていけるか、ということだ。
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さて、私がスウェーデンへやって来た2000年はITバブルが翌年にはじけ、経済が冷え込んだ時だった。その後、ゆっくりと回復し始め、2004年以降は3%前後の成長率を記録するようになった。しかし、なぜか雇用は低迷したままで「雇用なき成長(jobbless growth)」という言葉がメディアで何度も使われた。大学の友達の中にもなかなか就職できない友達が沢山いた。だから、そんな時代を思えば、なんだか信じられないくらいだ。

さて、ではこの高成長および雇用回復は、2006年秋に誕生した中道右派政権の新しい政策の賜物なのか・・・? その評価は大きく分かれるところだ。失業保険などの社会給付の削減と労働所得の減税による「アメとムチ」政策が功を奏した、という意見もあるが、むしろ、2004年以来回復してきた景気に、雇用のほうがタイムラグ(時間差)を持ちながら追いついてきただけ、つまり、新政権の政策とはあまり関係がない、という見方のほうが説得力を持っているように思われる。

超肥満のための最後の手段 - 胃のバイパス手術

2007-08-24 23:33:58 | スウェーデン・その他の社会
アメリカほどではないにしろ、肥満はスウェーデンでも大きな問題。運動療法や食事療法などが行われているが、BMI(body mass index)が40を越えるような超肥満の場合には、ほとんど効果がないという。

そこで最近使われているのが、「胃のバイパス」と呼ばれる外科手術。食べすぎを防ぐためには、胃の容量を減らせばいい、という考えらしい。まず、胃の上部を切り取り、その端を縫い合わせて小さな胃袋を作る。そして、小腸を下から引き上げて新しい胃袋につなげる、というものだ。こうすると一度にたくさん食べることはできなくなるし、食べたものはすぐ小腸のほうへ流れていくという。

この写真をある日本人の友達に見せたら「エープリル・フールかなんかの冗談記事でしょ!?」と最初は信じてもらえなかった・・・。いや、冗談ではなく、本当の外科療法です!

従来の運動療法や食事療法に比べて、効果は抜群、という結果がスウェーデンやアメリカの調査で出ているという。体重は平均25%減り、心臓や動脈関連の病気、糖尿病、ガンにかかるリスクが最大で60%も減るという。

スウェーデンでは1987年に「胃のバイパス」手術がはじまり、現在では、年間1000件の手術が行われているという。しかし、効果があることが示されたので、今後は手術数もこの数倍に増えるのではないか、ということだ。

胃の役割といえば、食べたものを溶かして消化すること。こうやってバイパスを作ってしまうと、ほとんど消化されずに腸のほうへ流れ込んでしまうと思うのだけれど、問題は無いのだろうか? それとも、きちんと消化されていなければ、腸での栄養の吸収も少なくなり、これまた肥満対策になるということなのだろうか・・・?

「超」肥満対策には、このバイパス手術のほかにも、いくつかの外科手術があるようだ。しかし、胃の容量を小さくするという点では共通しているようだ。

でもまぁ、一番いい療法は手遅れになるまでに、食生活を直して、運動をするよう心がけることだと思う。

ガンの生存率の国際比較

2007-08-23 06:52:52 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンの医療はどうも需要に対して供給が追いついて行ってないようで、日々の報道を見ていると、手術のための順番待ちが数ヶ月以上だ(夏休みの間はさらに長くなる)とか、初診までの待ち時間も病種によっては半年以上だ、といった話をよく耳ににする。待ち時間を少しでも短くするため、医療を管轄する県議会や県行政は様々なプランを立てて、医療供給の効率化や医者の確保、さらに、地域によっては民営診療所のさらなる活用などに取り組んでいる。中央議会でも、vårdgarantiという国レベルの指針を設けて、初診や手術までの待ち時間に上限を設けようとする議論も聞かれる。

そんな状態だから、重大な病気にかかって手術を待つ間に、命を落とすケースもかなりあるのではないか? なんて、傍から見ていると、思えてしょうがない。実際に、そういう統計があるのか、その国際比較はあるのか、気になるところ。あれば見てみたい。(今思い出した最近の例では、鬱病にかかり自殺願望を持つ子供が、精神科の診察をすぐに受けられず、何ヶ月か待つうちに命を絶った、という親の話をニュースで耳にした。)

だから、下のニュースを聞いて、ちょっとビックリした。

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癌にかかった後の生存率は、ヨーロッパの中では北欧(スウェーデン・フィンランド・ノルウェー)が一番高い

ヨーロッパ諸国23カ国の癌による生存率の比較がなされた。5大がん(肺がん・乳がん・前立腺がん・大腸がん・子宮がん)のどれかが発見された5年後の生存率は、スウェーデン・フィンランド・ノルウェーが57%と一番高いのに対し、ヨーロッパの平均は男性45%、女性55%であることが分かった。

北欧の後に、中欧(おそらくここではドイツ・フランス・オランダ・ベルギーなどのことと思われる)が続く。南欧は平均付近。逆に東欧諸国は下位を占め、イギリスやアイルランド、デンマークもそれに続いて低い。

イギリスが低いのはガンの予防検診があまり発達していないためだ、と思われる。

比較の結果、それぞれの国の生存率は、その国でどれだけのお金がガン医療につぎ込まれているかと密接な関係にあることも分かった。

SVTのニュースより

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さて、この研究はThe Lancet Oncologyの最新号に掲載されるとのこと。今回の研究は、ヨーロッパ諸国の比較だが、それに比べて、アメリカの生存率は、男性66%、女性63%と、ヨーロッパよりもはるかに高いという。アメリカの医療費が高いことは世界的にも知られているが、もしかしたら、ガン医療につぎ込まれるお金の額も多く、それがアメリカの生存率の高さを説明しているのかもしれない。(定かではありませんが)

ストックホルム県では、今後、60~65歳のすべての住民を対象にガン検診を実施するという。

「疾病給付制度」 その2

2007-08-21 06:43:43 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンの寛大な「疾病給付」制度はその理念自体は素晴らしく、人々の生活にゆとりを与えてくれるものの、現実には様々な問題がありそうだ。理念としては、就業能力の低下の度合いに応じて、患者に「疾病給付」の受給権を与え、しかも一方的な給付を防ぐために、リハビリの可能性があればその参加を受給者に強制する、ということが規定されてはいるが、実際には、医者によって判断が大きく異なることや、必要以上の日数を医者が認めがちであること、モラルハザード(ズル休み)の可能性があること、そして、長い間の病欠のための社会や勤労生活からの疎外などの問題点が指摘されてきた。また、リハビリにしても、待ち時間が長くなかなか受けられず、ズルズルと疾病給付期間の延長ばかりが目立つ、という指摘もある。

前回は、鬱病や燃え尽き病、腰痛の際に認められている疾病給付期間の平均を挙げてみたが、他の病気の例も挙げてみたい。

心筋梗塞:118日
妊娠の際の気分不調:85日
盲腸:27日
肺炎:35日
などとなっている。

現在の時点で「疾病給付」の受給者は18万人、そのうち精神的な疾患(鬱、燃え尽き、ストレス、その他)を理由にしたものが6万人、さらにそのうち燃え尽き症候群が2万人(大部分が女性)、という統計が出ている。

(比較のために言えば、スウェーデンの労働者人口は約350万人)

また、他の先進諸国30カ国と比較しても、スウェーデンの疾病給付の期間は長いという統計が出ている。特に、鬱病や燃え尽き症候群などの精神疾患に対して認められている疾病給付の期間の平均は、他の国の平均の2倍だという。

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他のヨーロッパ諸国と比較してもスウェーデンの「疾病給付」の日数は長すぎ、国庫を圧迫している、という事で、前社民党政権は改革に向けた調査委員会を社会庁(Socialstyrelsen)の中に立ち上げ、その後の新政権もその調査をバックアップしてきた。そして、先日、大きな改革案が発表された。ここでは、症状ごとに妥当だと思われる「疾病給付」の日数について、社会庁がガイドライン(指針)を示しているだ。多くの症状において現在認められている日数の半分に抑えることが提案されている。その中でも大きく注目を集めているのは、

「今後は“鬱病”や“燃え尽き症候群”には原則として、疾病給付を一日も認めない。重度の不眠症の場合に限り3週間、また、中度・重度の鬱病の場合に限り、それぞれ3ヶ月と6ヶ月を認める。」

という部分。その理由は、普通の“鬱病”や“燃え尽き症候群”であれば、家にこもるよりも、少々無理でも、社会に出続けたほうが回復が早いのではないか、という主張。

この改革案は、スウェーデンの疾病給付の制度を大きく変えようとする抜本的なものでありそうだ。この新たな指針が、実際に社会庁(Socialstyrelsen)から発せられれば、早くもこの秋から適用されるという。しかし「今後は“鬱病”や“燃え尽き症候群”には原則として、疾病給付を一日も認めない」という提案には反発も激しくおきている。

(続く・・・)

Al Gore、ヨーテボリ国際環境賞を受賞

2007-08-17 06:28:40 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨーテボリ市が2000年に設立した「ヨーテボリ国際環境賞」は、地球を取り巻く環境問題に警鐘を鳴らしたり、その解決の第一歩に貢献した人、または、持続可能な発展の実現に努力した人などに授与される。審査員長は、前社民党政権時代に首相パーションの環境政策アドバイザーであったStefan Edmanが務める。去年の受賞者は、ハイブリッド車の開発に貢献したトヨタのエンジニアだったことは、記憶に新しいところ。

Stefan Edman

以前の書き込み:ヨーテボリ市の『国際環境賞』(2006-11-30)

この賞は今年から「Göteborgspriset för hållbar utveckling(持続可能な発展のためのヨーテボリ賞)」と名前を一新した。そして、今年の受賞者が昨日、審査委員長から発表された。アメリカ民主党の元副大統領および大統領候補だったAl Gore(アル・ゴア)。地球温暖化・気候変動の深刻さを世論に訴えて大きくヒットしたドキュメンタリー映画「An Inconvenient Truth」(ス語タイトル「En Obekväm Sanning」)の功績が讃えられたのだ。

さて、授賞式は来年1月22日、本人がヨーテボリにやって来るのだ。昨年の授賞式会場は小さな劇場「Storan」だったが、今回は世間のより大きな注目を集めることが予想されるので、関係者としては大きな屋内スタジアムがある「Scandinavium」で授賞式を行いたいのらしい。

しかし、当日、そのスタジアムでは、アイスホッケー第1リーグに属する地元ヨーテボリのFrölundaが試合をすることが既に決まっている。なので、これからアイスホッケー側と交渉して、どうにか試合会場を移してもらえるように交渉に入るとか。

わがヨーテボリ大学経済学部は環境経済学も専門領域の一つだ。だから、経済学部のつてで、どうにか授賞式のチケットを手に入れたいものだ。(去年は招待客を装って会場に入れたが、今回はさすがに無理だろうな・・・)

「疾病給付制度」 その1

2007-08-14 06:03:05 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンの社会保険制度の一つの柱は、病気のために仕事を休まざるを得なくなった際に所得補填を目的として支給される「疾病給付(sjukpenning)」である。仕事を休んでいる間、人によっては家計を支えていくのが困難になるかもしれない。そんなときに助けになるのが、この「疾病給付」なのだ。

<疾病給付(sjukpenning)>
給付は病欠の2日目から。14 日目までは雇用主の負担となり、給付額は給料の80%である(年間所得のうち302250 SEK (529 万円)を超える分は考慮されない)。また、15 日目以降(自営業の場合は2 日目以降)は社会保険事務所(Försäkringskassan)が給付を引き継ぐ。医者の診断書の提出は8 日目以降に必要となる。病欠が4 週間以上続いた場合は、雇用主と本人との協議のもと、リハビリ計画を策定し、職場復帰に向けた努力が必要とされる。長期にわたる場合には、給付額が過去の給料の64%に減額される。(よく耳にするsjukskrivningとは疾病給付を受けながら病欠すること)

社会保険事務所(Försäkringskassan)

この疾病給付を受けるのは、短期的な病気のほか、労働災害のケースや、職場での肉体労働や立ち仕事のために、腰を痛めたり、それまでの仕事が困難になった人などが多い。特に、重労働で知られる福祉・介護系の職員の割合が高いという。(割合が高いもう一つの理由は、民間企業よりも公的機関のほうが病欠を申請しやすい、という理由もある)

「疾病給付」の理念は、病気による就業能力の低下に応じて、職場からの病欠を認め、所得補填をするというもの。しかも、一方的な給付ではなく、リハビリによって就業能力の回復が可能なら、リハビリを受けることが義務付けられる。社会保険事務所が“妥当”と判断したリハビリを、受給者が拒んだ場合には、給付額が減額または全額給付停止となる。

しかし、実際のところ、どれだけの日数の病欠と疾病給付を認めてもらえるか、医者による客観的な判断は難しいため、医者によって判断がマチマチになりがちだ。1993年のある実験では、全く同じ症状のカルテを異なる医者に見せて、何日間の疾病給付が妥当か、判断を仰いだところ、極端なケースではある医者は8日間が妥当としたのに対し、別の医者は71日間が妥当という全く異なる判断をしたという。

また、スウェーデンの制度で特徴的なのは、身体的な病気だけでなく、鬱病や燃え尽き症候群などの精神的な疾患でも、病欠が認められ、疾病給付の対象となることである。仕事と生活の両立を無理せずに成り立たせる、という点では優れた制度ではあるが、身体的な病気に比べて客観的な評価がさらに難しい。医者もなるべく客観的な判断をするように努めるが、最終的には患者本人の症状の自己申告に頼る部分が大きくなってしまう。そのため、モラルハザード(ズル休み)が生まれているのではないか?、という指摘がこれまでもあった。

さて、例として「燃え尽き症候群」「鬱病」「腰痛」において、実際に医者が判断を下した病欠、および疾病給付の期間の平均は2005年の時点で以下の通り。
燃え尽き症候群: 119日(約7ヶ月)
鬱病: 341日(約17ヶ月)
腰痛: 200日(約10ヶ月)
(但し、この統計には14日以下の疾病給付のケースは含まれていないので、実際の平均はこれよりも若干小さくなると思われる。)

日本人の目からすれば「そんなに長い間、仕事を休めるの! しかも、有給(給料の最大80%)付きで!?」とビックリするだろう。人間、誰しもある日突然、“壁”にぶち当たるかもしれない。そんなときに、上の燃え尽き症候群や鬱病のように、精神的なショックを理由に仕事を休むことができ、しかも生活の糧まで得られるのなら、どんなに救われるだろうか。

日本で今「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がよく聞かれる。仕事と家庭生活との無理のない両立、ということだと思うが、スウェーデンでこのバランスがうまく取れている一つの理由は、この様にある意味“寛大な”疾病給付制度だと私は思う。

また、職場の勤務環境が悪く、従業員が体に支障をきたすようになると、病欠を取ってしまう。だから、企業の側には、労働環境の改善に常に気を使い、病欠を少しでも減らすよう努力する、というインセンティブが働く。働く側にとっては、大変嬉しい副次的効果だ。

(続く・・・)

「アルバイト募集! 王宮近衛兵」

2007-08-11 05:17:30 | スウェーデン・その他の社会
ストックホルム観光のアトラクションの一つは、Gamla Stan(旧市街)に位置する王宮。ここでは、毎日お昼ごろに近衛兵(Högvakten)のパレードが行われる。

近衛兵を構成しているのは、徴兵を受け、兵役についている若者。スウェーデン各地にある陸・空・海軍の各連隊から交代でストックホルムに派遣され、一定期間、近衛兵として王宮の警護をする。そのうち、衛兵交代の儀式が一つの観光アトラクションとなり、年とともにその儀式の部分がどんどん豪華にされていった。

(近衛兵を意味するHögvaktenはもともと王宮警護を目的としてグスタフ・ヴァーサ王の時代に設立された一つの連隊だったらしい。しかし、19世紀にはストックホルムの治安維持や消防活動もやっていたとか。しかし、1960年代以降は、国中に散らばっている各連隊に交代で担当されるようになったのらしい。)

でも、過去15年ほどの国防軍縮小の中で、各地の連隊は次々と閉鎖され、今では数少ない。残り少ない国内の兵隊も、国際平和維持活動で国外(特にコソヴォやアフガニスタン)に行かなければならない。なので、これまでのように徴兵中の若者だけでこの近衛兵を組織していくのが困難になってきた。特に、問題なのは、クリスマスと新年の頃だという。そこで国防軍は求人広告で「近衛兵のアルバイト募集!」に出たわけだ。「130人の兵隊と15~20人の上官」 もちろん、スウェーデン人で、以前に兵役の経験がある者しか応募できない。
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スウェーデンはこれまで一般徴兵制度を採ってきており、職業軍人は上官を除いては基本的に存在しなかった。しかし、一般徴兵制度が実質的に崩壊している現状に対して、国防軍の構成を、一つの職業として雇われた兵隊(yrkessoldater)に切り替えていくべきではないか、という議論が聞こえる。

このアルバイト募集も、もしかしたら、その動きに向けた一歩かもしれない。

コーヒーやお茶の思わぬ効用…、でも女性にだけ…

2007-08-08 05:10:51 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデン人はとにかくコーヒーをよく飲む。かなり濃いコーヒーを、大きなマグカップで。アメリカン・コーヒーなんて飲ませた日にゃ「薄すぎて水みたいで飲めない」と言うだろうし、イタリアンのエスプレッソなんて飲ませた日にゃ「おいおい、たった一口で終わりですか…?」とこれまた、ひんしゅくモノ。統計によると、スウェーデン人の一日の平均は440ml、コーヒー・カップに換算すると3.4杯、年にすると156リットルも飲むのらしい。(たしか、一人当たりのコーヒー豆の消費量も世界でトップを争っているはず)

そんなスウェーデン人に、朗報が飛び込んできた。しかし、女性にだけ。

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フランスのある研究チームは、コーヒーやお茶を飲んだ効果を調べるために、4年間にわたって7000人の個人のコーヒーやお茶の習慣を追跡調査した。その結果、65歳以上の女性がコーヒーやお茶を一日に3杯以上飲む場合、せいぜい1杯しか飲まない場合に比べて、老化による言語的な記憶力、および視覚的な記憶力低下の可能性が小さいことが分かった。しかも、この効用は歳を取るにつれて大きくなるため、3杯以上飲む人とせいぜい1杯しか飲まない人の記憶力低下の差は歳とともに大きくなることも分かった。(コーヒーやお茶を1日に3杯以上飲むことによって、65歳の女性は記憶力低下の確率が30%減るのに対し、80歳以上の女性はその確率が70%も減ることが分かったのだ。)

しかし、この効果は女性に対してだけで、男性に対しては大きな効果は観察されなかったという。

ネズミを使った実験では、カフェインが記憶低下の原因となる脳内たんぱく質の生成を抑えてくれることが分かっている。しかし、今回この調査を行ったフランスの研究チームは、なぜ女性にのみ効果が観察されたのか、その理由は分からないのだそうだ。

しかも、今回の調査は、コーヒー・お茶飲用と記憶力低下との関係性のみで、果たして、カフェインが痴呆症(認知症)の予防に効果があるのか、というところまでは解明されておらず、今後の課題だという。

DNの記事より
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ここからは余談。

さて、この話題が経済学部・研究棟の喫茶ルームで、昼食のときに話題になった。(日ごろから、各種統計を扱い、回帰分析などを行っている人々が多いので、この様な調査結果を聞くと、果たして回帰分析のモデルが正しいのか、とか、得られた有意性は非説明変数と説明変数の直接の因果関係を反映しているのか、それとも、背後に他の要因があるのではないか、などなど、気になって仕方がないのだ・・・)

そこで出た意見によると、おそらく因果関係は、コーヒーやお茶を飲むことと記憶力低下防止ではなく、フィーカ(喫茶)タイムに社交的な団欒を楽しむことと記憶力低下防止にむしろあるのではないか? ということ。つまり、コーヒーやお茶を飲むときには、たいてい職場や近所の人々、芸能人などのゴシップや噂ネタが出るもの。歳を取ってからもおしゃべり好きで、そんなゴシップばかり意見交換していれば、記憶力の低下が抑えられても不思議ではないのでは、ということだ。その推論で行けば、女性にだけ効果が観察された理由も、おのずから明らかになるではないか!

さて、この推論が正しいのか・・・?

ストックホルム「渋滞税」の正式導入

2007-08-06 07:23:05 | スウェーデン・その他の環境政策
ストックホルム市街地で、乗り入れを規制し、中心部での渋滞を解消するために「trängselskatten(渋滞税・乗入税)」が8月1日に正式に導入された。“正式に”と書いたのはなぜかというと、実は以前に試行されたからだ。2006年1月3日から同年7月31日までの半年余り、試験的に導入され、その後、2006年9月のスウェーデン国会総選挙にあわせてストックホルム市および周辺の市において、この「渋滞税」の正式導入、つまり恒久化を問う住民投票が行われたのだ。その結果は・・・、JAともNEJとも明確には判断ができない結果となったが、ゴタゴタの中で最終的には中央議会の政治決定によって「2007年8月から正式導入」が決定されたのだった。ゴタゴタといえば、試験的導入を決定するまでも、社民党を中心とする左派ブロックと、保守党を中心とする右派ブロックの間で、2002年以来、ゴタゴタの政治論争が繰り広げられた。

だから、今から思えば“よくもまぁ、ここまで漕ぎ着けたものだ、天晴れ”と言いたくなるくらいの代物だ。その辺の経緯については、今まとめている最中なので、後ほど。

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さて、この「渋滞税(乗入税)」の仕組みはこうだ。

車でストックホルムの中心部に乗り入れる際に、時間帯に応じて通行税を支払わなければならない。渋滞税が課せられる「ストックホルム中心部」というのは、以下の地図の通り。

支払わなければならない渋滞税(乗入税)は時間帯に応じて異なり、朝夕のラッシュ時に最大20クローナ(約36円)になる一方、夜や深夜、そして、週末(土・日)や祭日およびその前日は無料だ。(ただ、一日に何度も出入りする人もいるため、一日の最大課金は60クローナという上限がついている。)

「ストックホルム中心部」の入り口の路上18ヵ所にはカメラが取り付けられており、通過する車のナンバープレートを自動的に読み取る。これによって、コンピューターに「乗り入れ」が登録され、渋滞税が請求される。銀行口座からの自動引き落とし制度があるほか、キオスクで14日以内に払うこともできる。試行期間中は「車載器」も利用されていたが、正式導入後は一部(Lidingsöに住む人)を除き、撤廃された。

“環境にやさしい車”、つまり、ハイブリッド車、エタノール車、天然ガス車などには渋滞税が課せられない。また、バスなどの公共交通および、障害者の車などにも課せられない。一方、試行期間中は非課税だったタクシーには今後は課せられることになった。

この「ストックホルム中心部」の左端は高速道路のE4/E20が通過する(通称Essingeleden、上の地図の緑線の部分)。しかし、この部分を通過するだけで、市内に乗り入れないのであれば、渋滞税は課せられない。

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上の地図で見れば分かるように、ストックホルムの中心部というのは、いくつかの島から成り立っている。だから、乗り入れ可能な通路も限られており、よって、監視も比較的容易だといえよう。広範囲において「域外」と陸続きになっている所(つまり、上の地図の11~14の部分)がどうなっているのか。横道からの勝手な進入を防ぐ工夫がなされているのか、気になるところ。今度、ストックホルムへ行った際に見てきたい。

寒い夏と鬱病、早産の関係・・!?

2007-08-04 11:53:18 | スウェーデン・その他の社会
長くて暗い冬が終わりに近づく2月・3月は、日もだんだん長くなり、太陽がキラキラと輝き始める(雪に映えると何ともいえない美しさ)。すると、人々は待ちわびたように、日向ぼっこを始め、顔全体で太陽を浴びようとする。その光景が、あたかもそれまで冬眠していた動物が這い出してきて、春の到来を祝っているかのようで、面白い。

人間が生きていくのには、それだけ太陽が必要ということだろう。冬の間、日照時間が少なかった分、必死で補おうとする。だから、4月・5月のまだ肌寒いときにも、太陽が出れば、日向ぼっこをするし、6月から8月にかけては、湖水浴や海水浴をしている人が多い。特に、1ヶ月近くある夏休みでは、農村や辺鄙なところにあるサマーハウスなどで過ごす人も多いし、地中海や東南アジアなどのリゾート地でバカンスを楽しむ人もおおい。

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日光を浴びることだけに限らず、夏の間に自然に触れてリラックスすることは、それまでの日々の生活のストレスを解消し、秋が始まる8月後半から再び日常生活を始めていくのに必要らしい。それを裏付ける研究結果が出ている。

心理学におけるスウェーデンとアメリカの共同研究チームは、スウェーデンのそれぞれの月の平均気温と、Apoteket(スウェーデンの薬局)の対鬱(うつ)病薬の売り上げの関係を調査したという。それによると、6月と7月の気温が低い年ほど、対鬱病薬の売り上げが伸びる傾向にあることが分かった。

彼らの推論によると、気温そのものが人々を鬱にするのではなく、天気が悪いことによって、人々が夏休みになっても家から出られないために、太陽を浴びられず、自然に接することができないことが原因だということだ。

さらに興味深いのは、6月・7月の気温と新生児の体重との関係ストレスが溜まっている妊婦ほど、予定よりも早く子供を出産する傾向にあることは、以前から知られていたという。そこで、6月・7月の気温と新生児の体重との関係を調査してみると、やはり夏の気温が低いほど、未熟児や早産の可能性が高く、よって新生児の体重も軽くなる傾向にあることが実証で裏付けられたという。やはり、天気が悪くて寒い夏には、人々がストレス発散のチャンスを逃してしまうからだろう。

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今年のスウェーデンの夏は、実際、雨が多くて寒かった。いつになったら、夏らしい夏が来るのか・・・、と待ちわびていた人々も、7月の後半になっても相変わらず嫌な天気が続くもんだから、7月の後半は国外へのチャーター旅行(主に地中海沿岸、東南アジア)に殺到。どこも満席だという。Sista minutenというと、余った空席を直前に旅行会社が安く売るチケットのことだが、今ではそのSista minutenチケットの値段も暴騰しているとか。みんな、太陽を浴びたいんだね。それから、例年なら7月に落ち込むはずの株や投資信託の取引も、今年は他の月並みに行われていたとか。雨で外に出られないとなれば、株ですか!

ブッシュも絶賛、スウェーデン製の草刈り機

2007-08-02 07:04:30 | スウェーデン・その他の政治
今年5月にスウェーデンのラインフェルト首相は、アメリカを公式訪問した。ホワイト・ハウスに招かれ、ブッシュ大統領と会談。その際にお土産を持参した。

ソラマメ君とお猿さん

何だったかというと、チェーンソーで有名なスウェーデンのメーカーHusqvarna(フースクヴァナ)の草刈り機。ブッシュ大統領は自宅の農園で庭仕事をするのが趣味だということを、ラインフェルト首相の側近が突き止めたためだった。

そして、先日、ブッシュ大統領からラインフェルト首相宛にメッセージが届いた。そこでは、5月の公式訪問に対する感謝と共に、お土産の草刈り機を使った感想が書かれていた。「既に自宅の農園で使ってみたが、とっても使いやすくて、重宝している。」

これに喜んだのは、もちろん製造元のHusqvarna。このメーカーは、チェンソーや芝刈り機、ミシン、バイクなどを作っており、本社はヨンショーピンの隣のフースクヴァナ(Huskvarna ← 綴りが違うことに注意!!)にある。このメーカーは特にアメリカではチェンソーで有名で、アメリカは大事なマーケット。草刈り機の分野ではアメリカでは少し出遅れているために、「ブッシュ大統領も使っている草刈り機」という宣伝文句で今後、売り込みができれば!、何て考えているようだ。もちろん、公式にそのような宣伝ができなくても、噂でアメリカに広まってくれるだけでも嬉しいとか。

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スウェーデンの首相の訪米の目的は、気候変動や環境政策、通商についてブッシュ大統領と協議することだった。気候変動への取り組みを頑なに拒んできたブッシュから少しでも協力の意思を取り付けることが期待されていたのだが、ラインフェルト首相はスウェーデンの立場を伝えるというよりも「気候変動に対してアメリカの戦略を頑張って理解したい」と、あくまでアメリカの考え方を汲み取ることに重きが置かれていたみたいで、スウェーデン国内では「ブッシュに対してプッシュ(押し)が足りない」と批判されていた。

ただ、会談後の記者団に対するコメントが面白い。ブッシュ大統領の印象を尋ねられたラインフェルト首相は

「… Och bilden av Bush som mindre begåvad och lite korkad är svår att förstå när man mött honom öga mot öga. Man känner kraften i hans ledarskap.
(… それから、ブッシュのイメージとして、あまり才能がなく、ちょっと馬鹿だ、と言われているが、実際に目と目をつき合わせて会ってみると、そのようなイメージは理解しがたい。彼の持つリーダーシップの力を感じさせる。)」

と答えている。一応、ブッシュの人柄を賞賛した、と解釈されているのだが、いくら巷の噂だからといっても、mindre begåvad(才能があまりない)とかlite korkad(ちょっとお馬鹿)なんて言葉を普通に(悪気もなく)使っているところが、単刀直入なスウェーデンの首相ぽくって良いと思う。(それとも、計算された皮肉!?)