政府が4月8日に議会に提出した春予算について書こうと思いながら、時間が経ってしまった。
スウェーデンでは毎年9月に本予算が国会に提出され、審議を経て可決される。これが次の年の予算年度(1月~12月)に実行されるわけだが、これに対し、毎年4月に議会に提出される春予算は、その年の秋の本予算に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台の役割を持つものである。(経済危機などのために景気状況が深刻な場合には、年内に追加的な財政支出を行うための補正予算の役割を持つことがあるが、今回はそれはない)
以前のブログ記事において、今年に入ってから左派政党だけでなく与党の第一党である穏健党(保守党)も増税を主張するようになった、と書いた。そして、その具体的な増税案は2月20日に発表された。
今回の春予算は、その時の発表に基づくものであった。
【 中道保守連立政権の予算案(現行税制の変更による歳入の変化分) 】
○ 自動車税の増税: 15億クローナ
○ 酒税の増税: 6億クローナ
○ たばこ税の増税: 7億クローナ
○ 個人年金貯蓄の税額控除制度の廃止による税収増: 46億クローナ
○ 大学生ローンの返済ルールや罰則の変更にともなう歳入増: 6億クローナ
○ 消費税の制度の変更に伴う税収増: 5億クローナ
○ 省庁の予算削減: 9億クローナ
これら合計92億クローナの税収増を毎年見込み、教育や医療制度の改革に充てていくというものである。(ただし、個人年金貯蓄の税額控除廃止は段階的に行われるため、2015年の税収増は70クローナにとどまる。また、一番最後の項目は増税ではないが、支出を削減することでその分、財政的余裕を増やすということである)
大学生ローンの返済ルールや罰則を変更することで税収を増やそうというアイデアについては、実は一悶着あった。
現在、大学生の生活費として国が毎月(4週間)支給する額は、返済の必要がない補助金部分が2,820クローナ(42,300円)、返済義務のあるローン部分が6184クローナ(92,760円)である。(1クローナ=15円で計算)
しかし、穏健党は当初、この補助金部分を300クローナ減額し、逆にローン部分を1300クローナ増額することで、毎年僅かながらの歳入を捻出しようという提案をしたのである。全体としては、大学生の生活費が毎月1000クローナ増えることになるわけだが、学生の多くは喜ぶどころか激しく反発。大学生自治会連合会は長い間、補助金部分の増額を政府に訴えてきたが、それとは全く逆の政策だったのである。
また、国は高等教育の方針として、なるべく多くの人々が、生まれた家庭の所得や職業にかかわらず、大学で学べるようにすることを掲げているが、ローン部分が増え、返済義務が増えるとそれを経済リスクと捉えて大学への進学を思い留まる人が増えるだろうし、その傾向は低所得家庭で育った人ほど大きいと考えられるから、国の方針にも逆行する政策である。大学生からの強い反発を受けて、穏健党はこの提案を再考することを余儀なくされた。その結果、春予算では補助金部分の減額がなくなった一方、ローン部分の増額が1000クローナに抑えられることとなった。
しかし、現在の政権は大学生に冷たく、また、ここ数年の所得税減税によって減った税収の穴埋めを、大学生の生活費をいじることで捻出しようとしている、というネガティブな印象と不信感は拭い切れないものとなった。そのため、若い有権者の票を少なからず失うこととなっただろう。
【 社会民主党の予算案 】
現政権の発表した春予算に続いて、その3日後の4月11日には、野党第一党である社会民主党が、自分たちの予算案を発表した。
◯ 上記の現政権の増税案をほぼそのまま踏襲: 93億クローナ
◯ 殺虫剤に対する環境税: 5億クローナ
◯ 高所得者に対する増税、家事労働サービス購入に対する税額控除の上限引き下げによる税収増: 19億クローナ
◯ レストランでの飲食にかかる消費税を12%から25%に戻すことによる税収増: 53億クローナ
◯ 若年者を雇う雇用者が支払う社会保険料の減額措置の廃止による税収増: 148億クローナ
以上、合計すると毎年318億クローナの税収増になる。これを、教育や雇用政策、医療、そして、失業保険の給付水準引き上げなどに充てると社会民主党は主張している。
【 環境党の予算案 】
社会民主党に続き、野党の他の党も自分たちの予算案を相次いで発表した。例として、4月16日に発表された環境党の予算案を簡単に紹介する。
◯ 高所得者に対する増税: 50億クローナ
◯ 環境税の増税: 123億クローナ
◯ 若年者を雇う雇用者が支払う社会保険料の減額措置の引き下げによる税収増: 73億クローナ
◯ 中小企業向けの減税: マイナス54億クローナ
◯ その他: 83億クローナ
合計、毎年274億クローナ(増税とは関係ない中小企業減税を除くと328億クローナ)の税収増となる。(時間の都合で、引き上げられる環境税の内訳やその他の項目など、詳細は割愛した)
このように、政治主導で予算の大枠が提案され、その是非を巡って議会だけでなく、メディアを通じて激しく議論が行われるのは見ていて非常に面白いものだ。今年9月の国政・地方同時選挙は、現政権を担う連立与党と、野党各党の間で増税とその上手な使い方を巡って、激しい争いになってきた。
スウェーデンでは毎年9月に本予算が国会に提出され、審議を経て可決される。これが次の年の予算年度(1月~12月)に実行されるわけだが、これに対し、毎年4月に議会に提出される春予算は、その年の秋の本予算に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台の役割を持つものである。(経済危機などのために景気状況が深刻な場合には、年内に追加的な財政支出を行うための補正予算の役割を持つことがあるが、今回はそれはない)
以前のブログ記事において、今年に入ってから左派政党だけでなく与党の第一党である穏健党(保守党)も増税を主張するようになった、と書いた。そして、その具体的な増税案は2月20日に発表された。
今回の春予算は、その時の発表に基づくものであった。
【 中道保守連立政権の予算案(現行税制の変更による歳入の変化分) 】
○ 自動車税の増税: 15億クローナ
○ 酒税の増税: 6億クローナ
○ たばこ税の増税: 7億クローナ
○ 個人年金貯蓄の税額控除制度の廃止による税収増: 46億クローナ
○ 大学生ローンの返済ルールや罰則の変更にともなう歳入増: 6億クローナ
○ 消費税の制度の変更に伴う税収増: 5億クローナ
○ 省庁の予算削減: 9億クローナ
これら合計92億クローナの税収増を毎年見込み、教育や医療制度の改革に充てていくというものである。(ただし、個人年金貯蓄の税額控除廃止は段階的に行われるため、2015年の税収増は70クローナにとどまる。また、一番最後の項目は増税ではないが、支出を削減することでその分、財政的余裕を増やすということである)
大学生ローンの返済ルールや罰則を変更することで税収を増やそうというアイデアについては、実は一悶着あった。
現在、大学生の生活費として国が毎月(4週間)支給する額は、返済の必要がない補助金部分が2,820クローナ(42,300円)、返済義務のあるローン部分が6184クローナ(92,760円)である。(1クローナ=15円で計算)
しかし、穏健党は当初、この補助金部分を300クローナ減額し、逆にローン部分を1300クローナ増額することで、毎年僅かながらの歳入を捻出しようという提案をしたのである。全体としては、大学生の生活費が毎月1000クローナ増えることになるわけだが、学生の多くは喜ぶどころか激しく反発。大学生自治会連合会は長い間、補助金部分の増額を政府に訴えてきたが、それとは全く逆の政策だったのである。
また、国は高等教育の方針として、なるべく多くの人々が、生まれた家庭の所得や職業にかかわらず、大学で学べるようにすることを掲げているが、ローン部分が増え、返済義務が増えるとそれを経済リスクと捉えて大学への進学を思い留まる人が増えるだろうし、その傾向は低所得家庭で育った人ほど大きいと考えられるから、国の方針にも逆行する政策である。大学生からの強い反発を受けて、穏健党はこの提案を再考することを余儀なくされた。その結果、春予算では補助金部分の減額がなくなった一方、ローン部分の増額が1000クローナに抑えられることとなった。
しかし、現在の政権は大学生に冷たく、また、ここ数年の所得税減税によって減った税収の穴埋めを、大学生の生活費をいじることで捻出しようとしている、というネガティブな印象と不信感は拭い切れないものとなった。そのため、若い有権者の票を少なからず失うこととなっただろう。
【 社会民主党の予算案 】
現政権の発表した春予算に続いて、その3日後の4月11日には、野党第一党である社会民主党が、自分たちの予算案を発表した。
◯ 上記の現政権の増税案をほぼそのまま踏襲: 93億クローナ
◯ 殺虫剤に対する環境税: 5億クローナ
◯ 高所得者に対する増税、家事労働サービス購入に対する税額控除の上限引き下げによる税収増: 19億クローナ
◯ レストランでの飲食にかかる消費税を12%から25%に戻すことによる税収増: 53億クローナ
◯ 若年者を雇う雇用者が支払う社会保険料の減額措置の廃止による税収増: 148億クローナ
以上、合計すると毎年318億クローナの税収増になる。これを、教育や雇用政策、医療、そして、失業保険の給付水準引き上げなどに充てると社会民主党は主張している。
【 環境党の予算案 】
社会民主党に続き、野党の他の党も自分たちの予算案を相次いで発表した。例として、4月16日に発表された環境党の予算案を簡単に紹介する。
◯ 高所得者に対する増税: 50億クローナ
◯ 環境税の増税: 123億クローナ
◯ 若年者を雇う雇用者が支払う社会保険料の減額措置の引き下げによる税収増: 73億クローナ
◯ 中小企業向けの減税: マイナス54億クローナ
◯ その他: 83億クローナ
合計、毎年274億クローナ(増税とは関係ない中小企業減税を除くと328億クローナ)の税収増となる。(時間の都合で、引き上げられる環境税の内訳やその他の項目など、詳細は割愛した)
このように、政治主導で予算の大枠が提案され、その是非を巡って議会だけでなく、メディアを通じて激しく議論が行われるのは見ていて非常に面白いものだ。今年9月の国政・地方同時選挙は、現政権を担う連立与党と、野党各党の間で増税とその上手な使い方を巡って、激しい争いになってきた。