スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ヨーテボリ市の『国際環境賞』

2006-11-30 07:33:51 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨーテボリ市は1999年から「国際環境賞」を設け、環境問題解決や持続可能な社会発展への取り組みにより大きな活力を与えるために、スウェーデン内外においてこの分野で貢献があった人や団体に賞を贈っている。ヨーテボリ市とともにいくつかの企業がお金を出し合い、毎年計100万クローナ(1600万円)を贈呈する。


授賞式の会場である『Storan』前に並べられたPrius

今年は、日本のトヨタが誇るハイブリッド・カーPriusが選ばれ、その開発に「ユニークで、目的意識を持ち、決定的な貢献をした」という理由で、
Takehisa Yaegashi氏(Toyota Technical Development Corporation)
Yuichi Fujii氏(Panasonic EV Energy Co.Ltd)
Takeshi Uchiyamada氏(Toyota Motor Cooperation)が受賞した。(出席は最初の二人のみ)

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さて、日本から受賞者の方が遥々来られる。それに、スウェーデン新政権の環境大臣Andreas Carldrenも出席する、という。なので、今日の授賞式典を覗いてみたい。しかし、関係者でもメディアでもない者が入れるのか? それを問い合わせるべく、主催関係者に電話をしてみる。

しかし、どういうわけか、私の掛ける問い合わせ電話が最初にたどり着いたのは、何を血迷ったのか、環境大臣の広報秘書の携帯。「ウチは賞の授与はするが、開催自体はヨーテボリ市なので市に聞いてくれ」との返事。しかし、興味深いことに、この会話の途中、携帯が途切れたり、特急X2000の車内アナウンスが背後で聞こえていたから、ちょうどこの時、環境大臣はヨーテボリに向かって移動中だったことが分かった。大臣とあっても飛行機を使わず、「環境マーク」つきの鉄道で来るとはさすが環境大臣!

その後、繋がったのは、今回の賞の審査委員長の携帯。彼が言うには、私でも授賞式に潜り込めるということ。ちなみに、この審査委員長は、環境の分野では有名な人で、かつての首相Göran Perssonのアドバイザーだったとか。

こんな人と携帯で気軽に会話ができてしまうところがスウェーデンらしい。夕方から行われた授賞式のほうは、ヨーテボリ・オペラ座からオペラ歌手もよばれ、声楽のある和やかな式典だった。受賞者のうち出席された日本人2人は、プリウスの技術や開発までの苦労を英語で紹介。それに対し、ヨーテボリ・シャルマシュ工科大学のもと学長で、今はヨーテボリに大きな工場を構えるVolvoのトラック部門の技術部長を務める教授も記念講演。Volvoのトラック・バス・ゴミ収集車もあと数年すればハイブリッドになる!と、闘争意識(協力の意思表示?)を燃やしていたのが面白かった(確かに、彼のいうように、発信と停車をこまめに繰り返すバスやゴミ収集車こそ、ハイブリッド技術を適用すべきかもしれない)。

授賞式後、場を後にする聴衆に逆らい、ステージへ。そして、受賞者の一人、八重樫氏にあいさつをさせてもらう。それから、今日午後、電話で話した前首相の環境アドバイザーとも直接あいさつ。肩の力の抜けて、とても話しやすい人だった。それから、ラジオのインタビューを終えたばかりの環境大臣Andreas Carlgrenともあいさつをし、Lycka till med miljöarbete(環境への取り組みを頑張れ)とささやかな声援を送る。

通りがかりのジャーナリスト?に撮ってもらった


有意義なひとときだった。
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このヨーテボリ市の「国際環境賞」。過去の受賞者を見てみると、

2005年 アフリカ・ルワンダのMaraba生産者協同組合。社会的・経済的・エコロジー的に持続可能な方法でコーヒー生産を行う、という先駆的な活動。
2004年 Joan Bavaria (USA)、Tessa Tennant(イギリス)。投資会社や投資信託基金を設立し、これを通して、企業が経済的責任とともに社会的・環境的な配慮を行うことを促進した。
2003年 Hans Ek(スウェーデン)、Wolfgang Feist(ドイツ)。太陽熱と体温を利用した省エネ屋内暖房システムの開発。
2002年 Gro Harlem Brundtland(ノルウェー)。持続可能な発展に向けた、斬新的でビジョンを持った活動
2001年 Forest Stewardship CouncilとKRAV(スウェーデンのエコロジー食品の認定機関)。前者は木材製品、後者は食品・農産物のエコロジー認定機関
2000年 Geoffrey Ballard(カナダ)
燃料電池の開発とその応用

などだ。技術開発の分野もあれば、2005年のように生産者の社会的・エコロジー的取り組みに注目したものもある。

ちなみに選考基準は、以下の点を満たす商品やサービス、新技術らしい。
・資源利用を効率化したり、再生可能な原材料やリサイクルを奨励するもの
・ある分野での問題を解決し、さらに、それが技術革新やシステム転換につながる可能性を持つもの
・問題解決に向けてのプロセスを動かすもので、ヨーテボリ地域、及びそれ以上の地域で意味を持つもの
・世界規模で公正・正義の改善に貢献するもの

らしい。

早くも自転車レースの申し込み

2006-11-26 08:42:14 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ブログ上のコメントも、直接メールへのコメントも、どうもありがとうございます。なかなか時間が無くて、返事がきちんとかけませんが、時間のあるときに書きたいと思います。

スウェーデンについてブログに書きたいことや、自分なりに調査してから書きたいことが溜まっていく一方ですが、なかなかまとまった時間が取れませんが、やる気は満々なので、気長にお待ちくださいませ。

ともあれ、来年の予定が一つ既に決まりました。

6月半ばにある全長300kmの自転車レース「Vätternrundan」に既に申し込みました。これで4回目になります。毎年毎年、大会開催者側もキャパシティーを上げて、より多くの参加者が出場できるようにしているのですが(去年は16000人程度)、それでも毎年毎年、参加者側の申し込みペースが上がっているようで、去年は2月始めに定員一杯になり締め切られた申し込みが、おそらく今年は年明けあたりには一杯になる見込み。なので、来年の予定もほとんど見当がつかない今の時点で、この大会だけは、申し込んでおかなければならないのです。(現に、2004年にはせっかく申し込んでいたのに3月になってから旧ユーゴ行きが決まり、キャンセルせざるを得なかった。)

2007年の大会は、今までのマウンテンバイク系ではなく、父から譲ってもらったロードレーサー(細いタイヤの)で出場予定。冬の間から、練習に燃えます。

去年の出場日記は左のカテゴリーの「自転車レース」をご覧ください。(そういえば、まだ完結していなかった・・・)

社会民主党党首の後任は・・・?

2006-11-24 09:22:25 | スウェーデン・その他の政治
社民党の党首Göran Perssonは名実ともに「重く」、1996年以来、党首及び首相の座に、どっしりと座ってきたけれど、自らキャンペーンを率いた総選挙の敗退をもって、党首の座も自ら辞任を表明した。

さて、社会民主党の新しい党首には誰が就くのか?もちろんこれは、彼の辞任直後から、騒がれていた。


Margot Wallström(52歳)
一番人気は、この彼女。1990年代に社会民主党政権で文化大臣と社会大臣を担当した後は、1999年から活躍の舞台をEUに移す。EUの行政をつかさどる最高行政府であるEU委員会(欧州委員会)で環境問題担当委員を担当した後、2004年からはEU委員会副委員長に就き、敏腕を振るわせている。本国スウェーデンで要職大臣ポストが空くたびに、首相Perssonが「戻ってきてくれないか?」とうかがいを立てた。国民に幅広く人気だったので、彼としても政権の人気挽回を図りたかったのだ。しかし、どうやらPerssonと折り合いが悪いと噂され、いつもNejの返事。今もEUでの仕事が気に入っているらしく、今回も返事はNej。


Carin Jämtin(42歳)
今年の春、スキャンダルで辞職した外務大臣の後任選びの際に、名前が挙がったが、結局選ばれたのは当時、国連総会議長を務めていたJan Eliassonだった。彼女は、2003年から2006年まで外務省下の国際援助担当大臣に就いている。それを除けば、国会の場での活躍や経験はあまり見られないが、この大臣職の以前には、暗殺されたOlof Palmeを記念して作った「パルメ国際センター」の国際援助部長をやっており、実務と管理職の経験がありそうだ。今は国会議員ではなく、ストックホルム市の市会議員。今回はストックホルム市でも政権交代があり、右派ブロックに政権が移った。彼女は、野党の代表の一人として市の執行部に席を持っている。


Wanja Lundby-Wedin(54歳)
社会民主党の支持母体である、ブルーカラー系労働組合LOの代表を2000年以来務める。准看護婦としてまず働き始め、そのうち職場の労働組合を手始めに、地方公務員系の労組Kommunalでオンブズマンなどをした後、LOに移り、今に至っている。ただ、議員としての経験は全くなし。


Mona Sahlin(49歳)
東京経済大学のKyotonC先生が「スウェーデンの八代亜紀」と呼ぶのはこの人。1982年に25歳で国会議員に選出されたときは、この時点で史上最年少だった。男女共同参画などに力を入れており、90年代に日本で書かれたスウェーデンについての本を見れば、スウェーデンの男女平等社会を推し進めるキラ星のごとく書かれているはず。大臣職としては、労働市場大臣、副大臣を務めたほか、90年代前半に社民党が野に下った時には、党官房職についているのだ。Göran Perssonの前任者で首相でもあったIngvar Karlssonが1995年辞任を表明したときには、後任として名前が唯一挙がったのは、実は彼女だけだった。だから、この時点で、彼女が社会民主党党首になり、首相になっていてもおかしくなかった。しかし、スキャンダルがメディアに流され、その夢ははかなくも消えてしまった。その悪いイメージが消え去らないのか、今でも本国スウェーデンでの人気はかなり低い。


Pär Nuder(43歳)
1994年以来、社民党の国会議員。2004年秋に財務大臣に抜擢される。予算案発表の際に、USBメモリーを首からぶら下げて、財務省から国会議事堂まで行進したのは彼。テレビのインタビューや国会の答弁は冴えない。台本を読み上げているだけの感じで、同じことばかりを繰り返す。私のつけたニックネームは「テープレコーダー」君。


Thomas Bodström(44歳)
ストックホルム大学で法律専門コースを履修していた時代にもサッカーに打ち込み、80年代終わりにはAIK(ストックホルムのプロ・チーム)の選手として、Allsvenskan(スウェーデン・トップリーグ)でサッカーをプレーしていたという異色の経歴。それだけでなく、その後、ちゃんと大学で学位を取得し(jul. kand.)、弁護士として90年代は過ごす。2000年に法務大臣が突然辞職(なんと、今年の春、外務大臣を辞職したのと同じ女性大臣。このときもスキャンダル)。このとき当時の首相Göran Perssonから突然彼のもとに電話がかかり、彼は法務大臣職を快諾。その日に、同時に彼は社民党の入党届を提出して、社民党員となる。なぜ、彼が選ばれたのか? 彼は社民党員でこそなかったが、かつて社民党政権の下で外務大臣を務めた議員の御曹司だったこと。それから、90年代終わりにスウェーデンを騒がせたヨーテボリ・ディスコ放火事件で被害者の弁護をしたこともあり、世論に少しは顔が知れていたことも関係しているだろう。首相Göranも法律の専門家で若い人材を確保したかったのかもしれない。ちなみに、無料新聞Metroが一年ほど前に若者を対象にアンケートしたところ、一番人気のある政治家は彼で、Göran Perssonの後任に最適だとされた。ただ現実問題として、政界での経験が浅い。

と、このような名前が挙がっている。初の女性社民党党首の誕生を、という声が高く、男性二人はチャンスがないと見ていいだろう。今のところ、EU委員会の副委員長を務めるMargot Wallströmが党内では一番人気らしいが、彼女はブリュッセルが気に入っているらしく、帰ってくる気配がない。そこで、次に人気が高いCarin Jämtinに焦点が絞られつつあるようだ。社民党系のタブロイド紙Aftonbladetは、彼女を推したがっているようだし、「ヨーテボリのドン」と呼ばれる市会議員Göran Johanssonも彼女が適任、と後押ししている。しかし、こちらも本人にはその気がないようで・・・。

1995年から96年にかけての党首選びでは、勝ち馬と見られたMona Sahlinが失脚した後、仕方なく挙がった名前の中にGöran Perssonがいた。あまりパッとしない上に、本人もやりたくない、といっていたのだが、度重なるNejがしまいにはJaに変わった。だから、今回もMargot Wallströmにしても、Carin Jämtinにしても、最後にはJaというのではないか、と皆が見ている。

正式に後任が決まるのは来年3月の臨時党大会で。もし、今Anna Lindhが生きていたなら、即決だっただろうにね。

来た!”新しい”保守党の予算案(失業保険 編) (2)

2006-11-20 08:39:40 | スウェーデン・その他の政治
最新の世論調査によると、なんと新政権への支持率は既に低下を見せ始めている。右派ブロックが43.8%の支持を集めているのに対し、左派ブロックが51.2%と盛り返しを始めている。

以前も書いたように、選挙で勝利した右派ブロック、特に“新しい”保守党に票を投じた人の中には、本来は社会民主党を支持していたものも多かった。前首相パーションに愛想を尽かし、なんだかナウそうな(死語?)保守党に期待を託してみたのだった。だが、保守党を中心とした新政権が具体的な改革案を出すにつれ「こんなつもりで彼らに投票したのではなかった」と後悔を始める人も現れているようだ。

政権交代とはなったものの、保守党がかつての社民党の福祉国家イデオロギーを大幅に受け入れたため、そう大きな変化はないだろう、と書いた。確かに、今のところは大筋ではそのような感じだが、個別の政策を見てみると、大きな変革も生まれつつあるようだ。新政権が支持率を大きく落とすことになった一つの原因は、失業保険の改革だろう。ということで、前回の続き。

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改革の要点は以下のようだ。

・失業保険の給付額、給付期間の削減、給付条件の厳格化
・大学生は新卒後すぐ失業した場合には、雇用期間がなくても失業保険の給付権があったのだが、それを撤廃し、大学生であろうと一般の社会人であろうと、一定の期間の雇用がそれまでになければ、給付権を認めないとする。
・失業保険の毎月の保険料を引き上げる。
・失業率の違いによって、各業界の失業保険の保険料に差をつける。つまり、失業率が高い業界の保険組合の保険料は高くし、逆に低い業界では低く設定する。
・パートで働く従業員も、失業保険の保険料は100%丸まる払わなければいけない。

一般の人々にとって大きな負担となるのは、保険料の大幅な引き上げだが、実際、引き上げられるのはそれだけでない。彼らの案をよく見てみると保守党は、保険組合の事務にかかる費用という名目で、追加費用を保険料とは別に徴収する予定だ

つまり、現在はだいたい月100クローナ(1600円)程度の保険料が、150~200クローナ、業界によっては300クローナ(4800円)も上乗せされた上、事務関係費も150クローナほど納めなければならなくなる。さらに重要な点は、これまでは所得から控除ができた「労働組合費」と「失業保険の保険料」を、今後は控除不可にするのだ。そのため、負担はこれ以上に重くなる。

引き上げ額が最大300クローナというのは、業界によって上げ幅が異なるということ。これまでは業界間でほぼ横並びだった毎月の保険料の額を改め、失業率が高い業界での保険料を高くするという。そのため「音楽家」「芸術家」や「漁業関係者」などがもろに痛手を食らうことになる。

つまり、これまでの失業保険制度は“保険”というよりも、財政支出を大幅に伴ったある種の“所得再配分”の性格が強かった。ここでの再配分は、職のある人から失業者へ、また、失業率の低い業界から高い業界への所得移転、という意味。しかし、今後はそれを本来の“保険”により近づけたいようだ。(つまり、失業保険組合ごとの収支をなるべく合わせる)

このような負担の増大に対し、ある種の増税だ、との批判がもちろんある。それに対し、労働市場大臣Sven Otto Littorinは、同時におこなう所得税減税を持ち出して、「所得税減税の一つとして、労働所得がある人は所得控除によって1000クローナ手取りが増えるから、差し引きするとプラスになる」と切り返す(いわゆるjobbavdragと呼ばれる所得控除)。

そう、この減税を考慮すれば、フルタイムで働いている人には確かにプラスになると計算されるのだが、問題はパートで働く人や失業者や疾病保険受給者には大きなマイナスということ(所得税減税の恩恵を受けられないため)。それに、パートで働こうが、これからは保険料を丸々払わなければならなくなる。やはりスウェーデンでもパートは比較的女性が多い。結果的に、新制度は女性に不利に働くと考えられる。

保守党側の狙いは、この新制度(失業給付の削減、失業保険の保険料引き上げ、職のある人には所得税減税)によってフルタイム労働の価値を高め、それを奨励することで、人々を失業保険や生活保護など、各種の手当てや補助金漬けから押し出したいのだが、果たしてそう単純なものか。働いていた会社が倒産し、その後、一生懸命に職探しをするけれど、なかなか職が見つからない人もたくさんいる。パート職しか見つからない人もいるし、むしろ、生活スタイルの選択で自分からパートを選んでいる人もいる。

さらに、興味深い指摘もある。路線変更をした“新しい”保守党は、労働者や労働組合の権利を尊重し、それを改悪するようなことはしない、と訴えてきた。しかし、本音はやはり「労働組合の解体」ではないかとも言われるのだ。上で見たように、毎月の負担がこれだけ引き上げられれば、これからは労働組合にも失業保険にも加入しない、という人も出てくるかもしれない。すると、いざ失業したときには生活保護の給付を受ける者が急増する恐れもある。また、労働組合の組織率も低下を招く恐れもある

世界最北のIKEA開店

2006-11-16 06:06:49 | コラム
世界を舞台に拡大を続けるIKEAだが、今日、スウェーデン国内で新たな店舗が開店した。この新店舗、「世界で最北に位置するIKEAの店舗」なのだ。場所はHaparanda(ハパランダ)市。スウェーデンの最北部で、東にはすぐフィンランド国境が迫っている。人口は5000人弱。周囲の市もかなり小さい。Luleå(56000人)、Piteå(22000人)といったすこし大きい市が比較的近くにあり、300km以上離れたところにやっとKiruna(19000人)がある。現在、日は非常に短く、早くも氷で凍てつく暗黒の世界だ。こんなところに大きな店舗を作ったIKEA。拡張の勢いに、気でも狂ったのか?

スウェーデン北東端のHaparanda(北極圏まであとわずか)


いやいや、いくら過疎の辺鄙な町といえども、実は国際的な町でもある。Torneåという川を東に越えればすぐフィンランド、北西に向かってヨーロッパ国道E10を走ればノルウェーのナルヴィーク、北に向かってE8を走ればこれまたノルウェーのトロムソー。フィンランド北部を跨げば、ロシアにも行ける。

Haparanda(ハパランダ)なんて、耳慣れない名前。もちろんスウェーデン語ではなく、フィンランド語の地名が起源だ。アジア系(ウラル・アルタイ)であるフィン人とゲルマン語系であるバイキングが以前から交じり合ってきた場所。今でもここに住むスウェーデン人の中には、家ではフィンランド語(の方言)を話し、学校でスウェーデン語を学ぶという人もたくさんいるようだ。

第1次世界大戦では、ヨーロッパ本土が戦場となった。Haparandaはヨーロッパの西と東を結ぶ唯一の架け橋となり、スパイや密売人の楽園となったという。捕虜となったトルコ兵、ドイツ兵、ロシア兵の交換もここで行われたらしい。

かつては、そんな国際舞台だったHaparanda。この新しいIKEAにも周辺のスウェーデン人だけでなく、隣国のフィンランド人、ノルウェー人、そして、ロシア人までもが訪ねてくれると見込まれているのだ。IKEAのブランドはこれらの人々にももちろん魅力がある。特に、スウェーデンよりも物価が3割は高いといわれるノルウェーの人々が挙ってやって来てくれるのではないかと期待している。 だから、IKEAの周囲にはSystembolaget(スウェーデン国営酒店)を始めとするショッピングセンターも立ち並ぶ予定だ。

ニュースからの映像(IKEA創設者Ingvar Kampradも登場)

Haparandaの地元経済にもとても重要な意味を持つ。70年代以降は過疎化が深刻となり、若者はこぞって南下して行った。このIKEAの進出によって、少なくとも1500人の職が生まれると言う。小さな町だけに、インパクトは大きい。このアイデアを持ちかけたのはHaparanda市長(相当)。彼がIKEAの創設者Ingvar Kampradを説得したという。

さて、成功するのか・・・?

IKEAスウェーデンのホームページから

世界でもっとも国際的なIKEAへようこそ!


ようこそ!
(上から、スウェーデン語・フィンランド語・ロシア語・サーメ語?・ノルウェー語)


差別から市民を守る「オンブズマン」

2006-11-13 08:55:21 | スウェーデン・その他の社会

スウェーデンはオンブズマン(ombudsman)の発祥の地とあり、各種多様なオンブズマンがいる。性別を理由に差別を受けたら「男女平等オンブズマン」が助けてくれ、肌の色や人種のために差別を受けた人のために「人種(民族)差別オンブズマン」が存在し、障害のために差別を受けたら「ハンディキャップ・オンブズマン」に助けを求め、ホモセクシャルを理由に差別を受けたなら「性に関わる自己認識を理由とした差別に対するオンブズマン」に訴えることができる。

以上4つのオンブズマンは、特に労働市場での差別や、社会の中での差別、例えば、レストランへの入場を断られた、とか、大学への入学を断られた、と言った場合に、該当するオンブズマンに対して個人が訴えて調査してもらったり、その結果、差別した相手を裁判に引き出すことができるのだ。

オンブズマン(ombudsman)ombudとはスウェーデン語でそもそも「代理人」と言う意味。例えば、銀行でお金を受け取るはずの本人が何らかの理由で出向くことができず、代理を派遣する場合にこの代理人のことをombudと呼ぶ。または、選挙の投票日に、有権者本人が出向けないときに、別の人に全権委託して、その人に投票してもらうときも、この人のことをombudと呼び、委託投票のことをombudsröstningという。または、ある団体(政党、NPO、その他もろもろ)が全国集会を開き、ここで団体の方針や各種事項について投票によって決めるときに、各地域(県)の支部を代表して投票する人のこともombud (distriktsombud)と呼んだりする。

だから、manが「人」を表すことを考慮すれば、ombudsmanとは純粋に「法的手続きや交渉などにおいて、ある人の代理をする人」という意味なのだ。この純粋な意味は、もちろん今でも日常の中で使われるが、現代ではより大きな意味合いで使われるようになった。英語を手始めに、日本語を含む様々な言語に取り入れられることになった「オンブズマン」はむしろ、こちらのほうだ。

つまり、現代では「違法行為から市民の権利を守る任務を持った人(主に公務員)」という意味でも使われるのだ。

ただ“オンブズマン”といっても訴えられた事項について、調査から判断から告訴まですべて一人でこなすのではなく、それぞれのオンブズマンは弁護士や専門家、事務職員など多数の職員を抱えているから、むしろ、オンブズマンという代表を筆頭とする一つの組織、もしくは行政機関、と考えたほうがいい。

最初に挙げた、差別に関わる4つのオンブズマンは政府の機関。設立年と職員の数を整理してみよう。
「男女平等オンブズマン」 (Jämställdhetsombudsmannen):略称JämO。1980年設立、職員33名
「人種(民族)差別オンブズマン」 (Ombudsmannen mot etnisk diskriminering):略称 DO。1986年設立、職員35名
「ハンディキャップ・オンブズマン」(Handikapsombudsmannen):略称 HO。1994年設立、職員12名
「性に関わる自己認識を理由とした差別に対するオンブズマン」(Ombudsmannen mot diskriminering på grund av sexuell läggning)・・・名前長すぎ!:略称 HomO。1999年設立、職員8名

差別に関わるオンブズマンは、このように新しい時代の要請に合わせて新設されてきたのだ。しかし、縦割り行政の不効率も見られるようになり、近いうちに4オンブズマンが統合されて、1つになる見込みだ。例えば、車椅子に乗った黒人のレズビアンの女性は、現状だと4オンブズマンの間でたらいまわしにされる可能性もあるが、統合されれば1つのオンブズマンに訴えを申し出ればよいことになる(この例はある新聞から)。

ちなみに、冒頭の写真はJämOのホームページから。4つのオンブズマンのサイトを比較したら、JämOが一番綺麗だった。
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以上は、差別に関するオンブズマンだが、他にはどのようなオンブズマンがいるのだろうか。

「国会オンブズマン」(Justitieombudsmannen):略称JO
「内閣オンブズマン」(Justitiekanslern):略称JK。ombudsmanという名前が入っていないがこれも事実上、オンブズマン
「消費者オンブズマン」(Konsumentombudsmannen):略称KO。現在は消費者保護庁(Konsumentverket)に統合されている。

このほかに、国の機関とは関係ないものとしては
「Allmänhetens Pressombudsman」(一般世論のメディア・オンブズマン)が、メディア業界によって自らを律する目的で設立された。メディア倫理に関する各種メディアの監視を行っている。

それから、最近よく耳にするものとしては
「tittarnas ombudsman」(視聴者オンブズマン)。これは各放送局が勝手に設けているもので、視聴者からの意見に応えたり、番組作成に反映させたりするのが、狙いらしい。

来た!”新しい”保守党の予算案(失業保険 編)

2006-11-12 09:13:22 | スウェーデン・その他の政治
保守党率いる「右派ブロック」連立政権の来年度の予算案が10月半ばに発表された。所得税や土地・住宅税の減税をまず打ち出して、その一方でそれに伴う税収減をどうするか、そこに苦労の跡が窺える。つまり、社会保障制度の一部削減という「歳出面」での対策と、手数料や自己負担料を増やして事実上新たな負担を強いるという「歳入面」での対策といった小ワザを利かせているのだ。

まずはその中でも、失業保険(雇用保険)から見ていこう。ここでは、減税のしわ寄せがモロに見られるからだ。

・失業保険の給付額、給付期間の削減、給付条件の厳格化
・大学生は新卒後すぐ失業した場合には、雇用期間がなくても失業保険の給付権があったのだが、それを撤廃し、大学生であろうと一般の社会人であろうと、一定の期間の雇用がそれまでになければ、給付権を認めないとする。

それから、予備知識として、スウェーデンの失業保険は国ではなく労働組合が運営していて、業界ごとにそれぞれ失業保険組合があるのだ。しかし、それぞれの保険組合は徴収する保険料だけでは、収支をとてもやりくりできず、国の歳出の中の一分野「労働市場関連費」から運営費の大部分を支援してもらっている。(そして、その財源は企業が国に支払う「社会保障費」から拠出される)ちなみに、スウェーデン・フィンランド・デンマークの労働組合加盟率は80~90%と高いが、その理由の一つは、失業保険が労働組合によって運営されているためだといわれる(失業保険に加盟しても、労働組合への加盟は必須ではないが)。一方、お隣のノルウェーは労組ではなく国が失業保険を運営し、全入が義務付けられている。しかし、ここでは組合加盟率は55%と低いことからも、上記の理由もある程度正しいようだ。

それを頭に入れた上で、保守党の改革案をさらに見ていこう。

・失業保険の毎月の保険料を引き上げる。
・失業率の違いによって、各業界の失業保険の保険料に差をつける。
つまり、失業率が高い業界の保険組合の保険料は高くし、逆に低い業界では低く設定する。
・パートで働く従業員も、失業保険の保険料は100%丸まる払わなければいけない。

ここで顕著なのは、経済メカニズムを使って、人々に経済的インセンティブを与えることを狙っていることだ。つまり、上の改革案が意図しているのは、

① 国からの財政支援を減らすかわりに、保険加盟者からの保険料を引き上げる。
失業者が、失業率の高い業界から低い業界へと移動するインセンティブを持つようにする。
労働組合が賃金交渉のときに無理な賃上げ要求を抑えてくれるようになる。というのも、賃金が上がりすぎて、企業にとっての労働コストが高くなれば、企業は従業員を減らしたり、新規雇用を控えたりするようになり、その業界の失業率も高くなる。上記のように新制度では、その業界で失業率が高くなれば、保険料も高くなるわけだから、働く側にとっても不利になる。このような経済的帰結に対する責任を労働組合側はより意識しながら、賃金交渉をするようになるだろう、との期待がある。

保険料の引き上げといっても、その幅がかなり大きいのだ。これまではどの失業保険組合もだいたい100~140クローナ(1600~2200円)程度の保険料を毎月徴収していたのだけれど、それが一気に300~700クローナ(4800~11200円)に引き上げられ、しかも、業界間の差が大きく拡大されるのだ。(一番、高くなるのは漁師と芸術家の失業保険)

しかし、この案の発表直後から、抗議が相次ぎ、結局、保守党は「引き上げ幅は最大300クローナ」と、当初の計画の変更を余儀なくされた。(それでも、月300クローナ(4800円)の引き上げはかなり大きい)

(続く・・・)

国連開発計画の『人間の豊かさ』指数

2006-11-10 08:03:33 | スウェーデン・その他の社会
国連開発計画(UNDP)は2006年版の「人間開発報告書」を発表した。毎年発表されるこの報告書、注目の的は、経済力に教育や健康を総合して「人間の豊かさ」を示す人間開発指数だ。

まずは、「人間の豊かさ指数(HDI: Human Development Index)」の総合評価から。このHDIは、平均寿命、教育水準、国民所得を用いて、基本的な人間の能力がどこまで伸びたかを算出した指数だ。つまり、上表の右三行のLife Expectancy Index(平均寿命指数), Education Index(教育水準指数), GDP Index(国内総生産指数)を総合したものがHDIとして表されているのだ。平均寿命に関しては、実際の数値が真ん中の行に示されている。

ノルウェーは、教育水準と経済のおかげで1位に輝く。ノルウェーよりも経済の調子がよい、アイルランド、アメリカは平均寿命で遅れをとり、全体としての順位を落としている。

北欧(ノルウェー・アイスランド・スウェーデン・△フィンランド・△デンマーク)、北米(カナダ・アメリカ)、中北部ヨーロッパ(アイルランド・スイス・オランダ・△ルクセンブルグ・△ベルギー・△オーストリア)、そして、日本とオーストラリアが上位を占めている。

スウェーデンは5位と健闘(去年は6位)。日本は7位につけ、初めてベスト10から転落した去年の11位から再浮上した。景気の回復も反映していると言われる。

平均寿命は相変わらず日本が1番。


次は、HDIの逆の「人間の貧しさ指数(Human Poverty Index)」。こちらは、60歳までに亡くなる確率、文盲率、長期失業率、低所得層の割合などを総合したものだ。こちらではスウェーデンが1位に輝く。(順位はRankを参照)

スウェーデンの強みは、最終行の「全所得の中間値の半分以下に位置する国民の割合」が比較的低いことであろう。それだけ、所得配分のばらつき(分散)が小さいということだ。アメリカを見てみれば、やはり高いことが分かる。アイルランドも近年の経済自由化のおかげで景気は好調だといわれるが、一方で所得格差がアメリカに匹敵するくらい広がっていることが分かる。

日本はというと、この値が高い(つまり、所得格差が大きい)上に、労働力に占める長期失業率が少し高めだ。そういうことを含めた結果、全体では11位に落ちている。(ちなみに、ここに挙げた項目は抜粋であって、すべてではない)

この報告書には、HDIに考慮されている(と思われる)数々の指標が並ぶが、詳しくはここでご覧ください

以下二つは、私が関心を持ったもの。

教育に対する公的支出の割合(対GDP比)
北欧諸国が高いのは、義務教育や高校教育、そして大学教育の財政のまでもが、ほとんど公的支出によって賄われていることによるのだろう。一方で、日本の値の低さが顕著だ。義務教育や高校教育の普及率だけでなく、大学進学率も北欧とあまり変わらないはずなのに、公的支出の割合が低いということは、個人負担による部分が全体の教育費用の半分程度を占めている、ということではないかと思う。日本の経済格差の拡大と、結び付けて考えたい問題だ。


次は、女性の社会的・経済的地位の高さを示していると思われるジェンダー・エンパワーメント指数(Gender Empowerment Index)だ。これは、議員に占める女性の割合や、立法・上級管理職などに占める女性の割合(民間も含むのか公務員だけなのかは不明)、専門的・技術的職業に就く女性の割合、男性の所得と比較した女性の所得、などを考慮しているようだ。

こちらでは、ノルウェー1位、スウェーデン2位、と北欧諸国が上位をほぼ独占しているのが嬉しい。日本は、というと・・・・、ずっとしたの42位。すべての項目において、かなり低い値だが、特にひどいのが、男女間の所得格差

ちなみに、日本の前後に位置する国は、
40位 パナマ
41位 ハンガリー
43位 マケドニア(旧ユーゴ)
44位 モルダヴィア(旧ソ連)
45位 フィリピン
と、日本も後進国の仲間入りです。

『総選挙は、社会民主党の勝利であった』

2006-11-07 19:37:00 | 2006年9月総選挙
いや、もちろん社会民主党は総選挙で負けたが、ある政治学者いわく、これは一種の「社会民主党の掲げてきた社会民主主義の勝利」と見ることができる、ということ。

以前のブログで保守党の大幅な路線転換について書いたけれど、保守党は本当に選挙で勝って政権を獲得したいのなら、これまでの新自由主義的イデオロギーを放棄して、社会民主党の築いてきた福祉国家モデルを受け入れざるを得ないと認識したのだった。つまり、スウェーデンの保守党は左傾化せざるを得なかったのだ。

以下の記事は、ヨーテボリ大学政治学部の教授であり学部長であるBo Rothsteinが、選挙の2日後に、スウェーデンの日刊紙に寄稿した論説。スウェーデンの社会民主主義は今後も健在だ、というのが彼の主張。あれから1ヵ月半が経ち、新政権の政策が次々と発表される中で、そうとは必ずしもいえない部分もあるが、それでも、スウェーデンの政治史上で、かなり面白い結果になった今回の総選挙を分析する上で、重要なポイントだと思う。保守党の左傾化に関しては、それと似たようなことがイギリスで起こったとしているが、あちらでは左派の労働党が、右派の保守党路線に右傾化してしまった、という点が面白い。

Bo Rothstein

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『総選挙は、社会民主党の勝利であった』
Bo Rothstein (訳:佐藤よしひろ)

スウェーデンの政策モデルに対する関心は、国際的に見ても国の大きさに比例しないくらい非常に大きい。特に、社会科学の研究者は、以前からスウェーデンの政策モデルに驚異の目を注いできた。とりわけ、他国と比較してもかなり広範囲にわたる福祉部門や、高い税金、それに、国の財政にとっては比較的費用のかかる家族政策や平等政策が、どのようにしたらこんなに高い経済成長と両立でき得るのか、という点に、海外の私の研究者仲間は関心を持ってきた。他の北欧諸国と共にスウェーデンは、のちに「ワシントンの共通認識」と呼ばれるようになった認識 - つまり、グローバル化経済に立ち向かうには、税金の大幅な引き下げや、福祉政策や再分配政策の切り下げをするしかない - から大きく乖離する社会・経済発展モデルを提示しているのだ。

今年春、私は研究のためにアメリカに長期滞在したが、その際に、なぜそもそもスウェーデン型の政策モデルは可能なのか、という質問だけでなく、当時迫っていた今回の総選挙の争点は何なのか? という質問も投げかけられた。これらの問いに答えるのは、そんなに容易ではない気がしてきた。そのときの問答を再現すれば、だいたいこんな風になるだろう。

Q: 新政権はスウェーデンの超高税率を引き下げるのか?
-A: 非常に極わずかだろう。我々は多くの分野において、今と同じくらいの税金を納め続けることになるだろう。
Q: 右派ブロックは、補助金や福利厚生の大規模な切り下げを要求してくるだろうか?
-A: むしろ、その逆だろう。彼らは、より多くの公的サービスや補助金を約束するようになるだろう。
Q: 右派ブロックが政権に就けば、労働組合の強力な立場を崩そうとし、労働者の権利にも手を加えるだろうか?
-A: まず無理だろう。彼らはスウェーデン型労働市場モデルと強力な集団賃金交渉システムは維持すると約束しているのだ。
Q: 人工中絶の禁止や学校での礼拝の義務付け導入などを主張している政党はあるのか?(いかにもアメリカっぽい質問:-)[訳者注])
-A: いや、いや、いや。そのような論点は政策マニフェストでは全く扱われていない。
Q: すべての子供が公的な保育所に預けられるという社会主義的な家族政策や、費用のかかる育児休暇制度などは、右派ブロックが政権をとれば、崩してしまうのではないか?
-A: そんなことは絶対にない。むしろ逆で、右派ブロックの政党は、男女平等政策を支持しているし、その中の保守党は、より多くの父親が育児休暇を取るように更なる公的補助金制度を導入しようとしている。
Q: とはいっても、外交政策に関しては、社会民主党以外の政党が政権をとれば、スウェーデンをNATOに加盟させてしまうんじゃないの?
-A: そんなことは絶対にありえない。というのも、スウェーデンではこのような問題に関しては政党間で幅広いコンセンサスを得てから改革を行うのが伝統的だが、社会民主党はNoと言っているから、それは無理だ。

このような点を考慮すれば、アメリカやヨーロッパからの研究者仲間たちに今回の総選挙が結局のところ何を扱っているのかを説明するのが、非常に難しい気がしてきたのだ。われわれが選挙キャンペーンの中で見てきたものといえば、競合する政党間の現実政治の違いが非常に小さく、また、右派ブロックが社会民主党の社会モデルを相当程度、受け入れしまった、ということだ。とりわけ注目に値するのは、もちろん保守党の路線変更だ。長い年月といくつもの選挙敗退を経てきたが、ついに保守党の執行部は、ある単純な事実に気がついた。つまり、自分の党の支持層の多くが頼りにしている政策モデルを根本的に変えてしまおう、と主張したのでは選挙に勝つことはできないということ。それが分かったから、じゃあ、その政策モデルと一緒に歩もう、と考え始めたのだ。長年、多額の税金を納め、その見返りとして、自身には満足のいく年金、子供には質の高い教育、そして、うまく機能する医療を享受してきた中流階級には、これらのサービスが民営化されたとしても、民間市場で買ってやりくりする余裕など手元に残っていないのだ。さらに言えることは、これは個人と社会の間で結ばれた一つの契約として理解することができる、ということ。そして、将来の減税、といった“バラ色”の(人気取り的)公約では、この契約は決して解くことはできないのだ。自分が高い税金を通して既に“貸し”を作ったのだから、自分には公共部門から福祉国家の恩恵を享受する権利があるのは当然だ、と人々は考えるのだ。

右派ブロックの政策マニフェストにあるような小さな制度改革、例えば、雇用(失業)保険や住宅税における改革、が、その後の大々的なシステム変革につながり、現在の寛大な福祉国家政策が大きな脅威にさらされることになる可能性は、もちろんあるかもしれない。しかし、右派ブロックの実際の主張と、以前の右派政権の実績を見てみれば、そのような急変革を示すようなものはほとんどない。それに、政治学研究者Elin Naurinが示すように、スウェーデンの政治家は政党マニフェストの中の公約を一般に守っている。保守党の中にも、一人や二人の新自由主義論客が存在するかもしれないが、彼らがごく部分的なものを越えたインパクトを持つとは、私には考えられない。

(中略…)

テレビのインタビューや新聞の社説面では、今回の総選挙の結果は社会民主党にとっては歴史的な大敗だったとの見方が相次いでいる。政権交代の原因については、ヨーラン・パーションが選挙キャンペーンを個人的に牛耳ってしまったことや選挙キャンペーン戦略の失敗などが憶測されている。しかし、歴史的、国際的な視野に立って比較してみれば、2006年9月17日の総選挙はスウェーデンの社会民主党にとっては実に大きな勝利だったとも受け取れる。その理由は、社会民主党の掲げる社会モデルが、政敵にそれを取り込ませる形で、イデオロギー的にも現実政治の面でも勝利したからなのだ。
(中略…)
だから、今回の総選挙は、社会民主党的な政策モデルを両者が主張しあう争いだったと言ってよい。象徴的なのは、保守党の党首が選挙キャンペーンのスタッフに「医療・学校・福祉について社会民主党が何を提案してこようが、我々はより多くのことを提案していこう」と奨励した、ということだ。社会民主党は寛大な福祉国家モデルの伝統的理想をうまく実行できないでいる、と有権者の目に映った一方で、保守党にはそれができる、とくに、失業問題に関して的確な認識がある、と思われたのだ。

それぞれ個別の政策分野で実際に起きたのは、スウェーデンの社会民主主義がイデオロギーという面でも、現実政策という面でも、新自由主義的なイデオロギーを打破した、ということだ。1990年代前半に一群の経済学者らが「スウェーデンの経済問題は、徹底的な減税とそれと同規模の公的福祉システム削減によってしか、解決し得ないのだ」と言ったが、彼らは自らの学術的信頼性を揺るがす結果となった。今では、そのような声は全く聞かれず、沈黙だけが響き渡る。私は彼らの多くに「われわれスウェーデンが、例外的に高い経済成長と高税率を両立しえているのはなぜか」と問いかけてみたが、彼らは答えることができなかった。スウェーデンよりも明らかに税金が低い国々(例えば、ドイツ・フランス・イタリア)では、経済の現状はガタガタのようだ。

(中略…)

イギリスのトニー・ブレアは自身の労働党をマーガレット・サッチャーの保守党の路線に変更せざるを得なかった。それと同じように、スウェーデンでも保守党のフレデリック・ラインフェルトは、政敵である社会民主党の政策に固執せざるを得なかったのだ。社会民主党は自分たちの考え方を保守党に取り入れさせたのだ。

教育改革案に対する現場からの反応

2006-11-04 21:35:26 | スウェーデン・その他の社会
自由党(Folkpartiet)が担当する「教育省」のもとで、学校教育基本法の改革が行われようとしている話を書いた。以前のブログ

「リベラルな教育」が抱えてきた問題点をより厳しい罰則と、学校や教員の権限の強化、そして、ディシプリン(しつけ・規律)によって解決しようとしている。これらの主張を以前から繰り返してきた自由党にとっては、その念願が叶うことになったのだ。

これに対して、現場の教員はどう思っているのだろうか。

スウェーデンの教職員組合は全国レベルのものが二つある。Lärarförbundet(教職員連盟)Lärarnas riksförbund(教職員全国連盟)だ。これらの組合は、以前から『教員の権限の強化と明確化』を訴えてきていたために、自由党の改革案の中のこの点は評価している。自由党の学校教育担当大臣Jan Björklundが言うように、「今までの問題点の一つは、個々の教員が自分がどこまで生徒に対して叱ったり、強制したりできるかという限度が明確でないために、問題をあえて傍観してしまってきた。だから、それが明確化されることで、教員は確固たる態度で、問題のある生徒に対処できるようになる」という点で、意見が一致しているようだ。

ただ、『生徒に対する罰則の強化』において、自由党が各状況に応じた罰則のリストを作って「学校教育法」のなかに列記しようとしていることには否定的。「学校教育法は、学校教育の大きな枠組みを規定するものである。中央政府が上意下達で細かい詳細まで規定して、それぞれの学校や現場の教員をがんじがらめにするのはよくない。むしろ、学校や教員に権限を委譲することで、彼らが現場の状況を判断し、どのような方法で対処するのか、自分たちで決められるようにすべきだ」としている。

『問題の児童や生徒に退席を命じたり、停学処分にしたり、できるようにする』という案に対しても、「退席や停学を命じられた児童・生徒の面倒は誰が見るのか? 彼らの学習の遅れを取り戻すには、結局、教員のサポートが必要になる。とりわけ、義務教育の段階では“追い出しておしまい”では済まない。停学処分にしても、義務教育の性格に合わない。」と批判している。

他の反応もまとめてみると、まず罰則や規律の強化という「ムチ」の多用については、その効果を問題にしている。そして、教員組合側からの提案としては「罰則や規律の強化ではない、別の方法による解決策のほうが有効だ」と反論している。例えば、90年代以降、教員や精神カウンセラー、学校看護婦の数が減らされてきたけれど、これらの職員の数を増やしたり、問題のある生徒にはより小さなクラスを設ける、などのほうが先決だ、としている。

それから、問題を起こす子供の背後にある問題を見つけて、対処することのほうが重要とした上で、「自由党の提案では、この点が全く抜け落ちている」と批判している。「“病気”の症状に対処することはできても、“病気”そのものを取り除くことにはなっていない」とも言っている。

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学校教育法改革は、これから少しずつ進んでいくようだ。注目すべきなのは、党や省庁だけが、自分たちだけで新しい法律を策定するのではなく、今回のような、党としての方針や、途中経過を発表することで、他の人々、つまり、現場の教員や学校関係者、教員組合などが、それに対する反応を行えること。現場をあまり知らない人間が上意下達的に物事を決めてしまうのではなく、現場の声も聞き入れていこうとする(もしくは、いかざるを得ない)点は、日本も着目してほしいと思う。

ロシア外交の切り札・・・エネルギー資源

2006-11-03 06:24:34 | コラム
ロシアが半国営の石油・天然ガス企業Gazpromを外交の強力な武器として用いていることを少し前に書いた。

ちょうど今、標的になっているのがグルジアという国。この国も旧ソ連邦内の一共和国だったのだが、90年代に独立国となり、近年では西欧、EU、NATOへの歩み寄りを始めている。その事実とともに、グルジアが4人のロシア兵をスパイ容疑で国外追放したことが、ロシアの機嫌を損ね、外交対立に発展している。800人を超えるグルジア人がロシアから国外追放を受けるだけでなく、グルジアに対する経済制裁も敷かれている。

そして、極め付けの外交カードをロシアが切った。グルジアが依存しているロシアからの天然ガス供給の価格を2倍にする、というもの。Gazpromを半ば支配下に置くプーチン政権が、Gazpromをまたもや外交の武器に使ったのだ。グルジアはもともと貧しい国だから、これは大きな痛手となる。これから始まる本格的な冬の到来を前に、これではグルジアは対立姿勢を続けることはできず、ロシアの要求に屈するのではないか、と見られている。

同じ手でやられたのが、これもロシアの隣国ウクライナ。ここでも選挙を経て成立した親EU的なウクライナ政権とロシアとの外交的摩擦が発端となり、ロシア政府はGazpromを通じて、天然ガス価格を極端に吊り上げたのだ。最近になって、親ロシアを掲げる政治家が内閣に加わったことで、やっと天然ガス価格が引き下げられる、という顛末になった。このように、エネルギー資源を武器にした外交手段には、いくらロシアを離れて民主化を進めていこうとする国でもお手上げだ。

原油や天然資源に対する世界的な需要の高まりから、世界各国はこれらエネルギー資源の安定的確保に今まで以上に力を入れるようになっている。私が思うに、世の中は第二次世界大戦後、各国の努力や国連を始めとする国際機関の活躍によって、専制・独裁・人権侵害のない自由な社会、民主主義の社会の実現、紛争のない世界に向けて、少しずつではあるが歩んで来たと思うのだけれど、これからは、むしろ昔の状態に逆行していくのではないか、と危機感を抱いてしまう。とにかくエネルギー確保のためには、怪しげな国(専制国・独裁国・非民主国・人権侵害の国・内戦を行っている国など)の政権にも頭を下げて、エネルギーを売ってもらわなければならないからだ。怪しげな政権も、それを知っているから、自分の政権や体制を批判する相手には、エネルギー資源を武器にして立ち向かう。そして、輸出収入も相まって、彼らの権力温存や拡大、内戦の継続が可能になってしまう。

雪が吹きすさぶ

2006-11-01 16:53:56 | Yoshiの生活 (mitt liv)


今年の9月~10月前半:例年にない暖かい秋。9月でもまだ海水浴ができた。10月に入っても20度近かった。
そして、11月初日:すでに雪! 気温も氷点下。

先週末から、大寒波がスウェーデンを襲っております。ヨーテボリはまだいいほう。Gävle以北の中部地方では、雪嵐のために停電、道路封鎖、鉄道不通などなど。
こんなに吹雪いています(動画)