スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

SAS:「問題のボンバルディア機、もう使わない!」

2007-10-30 06:53:15 | コラム
9月以来、SAS(スカンディナヴィア航空)の所有するボンバルディア・Dash8/Q-400型機が幾たびも着陸装置の不具合を起こし、緊急着陸出発空港への引き返しをする羽目になった。その都度、同型機の飛行一時停止や一斉点検のために欠航せざるを得ない便が相次いだ(主に北欧内やバルト海諸国の各都市を結ぶ路線)。SASにとっては大きな損失だ。その上、いくら問題部分を点検、改善しても、同様の不具合が後を絶たない状況だ。SASの安全性に対する乗客の信用が失墜するだけでなく、パイロットなどの乗務員からなる組合も「もういい加減にして欲しい」と訴えるようになった。

そして、SASもついに音を上げた「SASの手元にあるボンバルディアの同型機27機は今後、一切使わない」との決定を今日、下したのだ。

27機のうち26機は実際はSASが他の航空会社からリースしているもの。そのため、SASとしてはこのリース契約をどうにか解消できればいいが、そう簡単にはいかない。できれば、別の航空会社にこの契約を売り渡したい。

ともかく、契約の処理や、今後の休航便や代替機の確保のために、莫大な損失が予想される。SASはその損失を製造元であるボンバルディア社に負担させるための交渉を行っていく。

一方、ボンバルディア社は「不具合は補強や改善で処理できるものなので、SASの決定にはがっかりだ。」と答えている。その上、「もしSASが今使っている機体に不満なのであれば、新品同様で無欠陥の同型機にアップグレードしてあげる」と妥協策を提示するものの、SAS側は「そこまでしてもらっても、利用者の信頼は回復できない」とつれない返事。

SAS側は今回の決定の理由を3つ挙げている。つまり、① 乗客の信用回復、② パイロットや乗務員への配慮、そして③ SASというトレードマークに対する信用回復だ。一方、面白いことに、「ボンバルディア機の安全性や技術面が問題だから」とは一言も口にしていない。ラジオのインタビューでこの点を追及されたSASの担当者は「いや、ボンバルディアの同型機の安全性は今でも高いと認識している。今回の決定は、あくまで当社のビジネスやマーケティングを配慮しての決定だ」と答えているのだ。この期に及んで(!)である。

この様な態度をSASが取っている理由は、私が思うに、ここで技術面の欠陥を認めてしまっては、そのような問題機を他の航空会社に引き取ってもらう際に障害となる上、その際の倫理的な責任も追及されかねないためではないだろうか・・・?

さて、なぜSASの使用機に問題が相次いだのか? その理由の一つは、SASがこのモデルDash-8/Q400の最初のお客さん(launch customer)で、開発後の第一世代の機体を入手したためだと考えられる。航空機は一つのモデルでも、使い勝手や性能を徐々に改善していくくにつれ、例えばAタイプ、Bタイプ・・・などのように様々なバージョンが生産されるのらしい。つまり、SASが使ってきたのは、生まれたての一番“粗野な”タイプのものだったのだ。この機の導入は2000年。それから7年経ち、ちょうど今、様々な欠陥が顕在化してくる時期なのだろうか?

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ちなみに、つい先日の着陸で「片脚が折れた」と書いたが、実はそもそも脚が出なかったために、パイロットが緊急着陸に踏み切ったのだということだ。翼のすぐ後ろに座っていた乗客が、“出そこないの脚”を携帯電話で撮っている。

写真の出典:Dagens Nyheter

同性の結婚 - 結婚法からの性別規定の撤廃(2)

2007-10-29 08:02:29 | スウェーデン・その他の政治
前回の続きです。
この議論に関しては、私自身は普段あまり関心がないので、いろいろ調べて分かりやすくまとめようと努力しましたが、結構複雑で、どこまで分かりやすくできたか疑問が残ります。疑問、質問等あったらコメントのほうにください。
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前回の議論をもう一度整理しなおしてみよう。

論点は、同性の“結婚”も、これまで歴史的に使われてきた『結婚』という概念に含めるのか、それとも『結婚』という概念はあくまで異性同士の“結婚”だけを今後も指すようにするのか?

キリスト教関係者の一部やキリスト教民主党(kd)などは、後者の立場を取り続けてきた。「結婚法」とは別に「パートナー法」が制定され、現在では同性のカップルも異性カップルと同等の権利と義務を持ちえているのだから、それで十分ではないか!という意見だ。

そして、たとえ「結婚」と「パートナー」の垣根を取り払い、規定する法律を統一させるとしても、「パートナー」という概念によって異性・同性の“結婚”を法的に包括するべきだ、と彼らは考えている。そうすれば「結婚」という概念を一段高いところに置いて、その歴史的・宗教的な意味合いを維持できるからだ。(これが前回の選択肢①のほう)

一方、世論の大多数は選択肢②を支持しているようだ。つまり異性・同性を問わず「結婚」という概念で統一してしまおう! ということ。左党、社民党、環境党、中央党、自由党はこの路線を支持してきた。保守党は、保守的な価値観を持つ支持者を抱えているため、これまで党内で議論が続いていたが、今週末に行われた党大会で②の路線を正式に推し進めていくことが決まった。よって、同性の結婚に反対しているのは、キリスト教民主党だけとなった。

もちろん、教会関係者からの反発も予想される。「結婚式を挙げる法的権利(挙式権)(vigselrätt)」はこれまでは教会にもあったが、今後は同性の結婚式を教会で行うことを拒む神父も出てくる可能性が高い。ただ、一つ重要なことは、この「挙式権」は権利とともに義務でもあって、その教会で結婚を行いたいという人を神父が拒むことは難しい。もし、同性のカップルの挙式を教会が拒んだ場合、彼らは不当に差別されたとその教会を訴えるだろう。

そのようなイザコザを防ぐためには、これまで教会が持っていた「挙式権」を教会側が放棄するべきだ、という提案がある。結婚に伴う「法的な契約」の手続きは市役所が行い、その上で、宗教的な意味での結婚の祝福を受けたい人だけが、教会に行って儀式を行えばよい、という考えだ。そうすれば、そのような儀式を同性のカップルに対しても行うか否か、宗教的な意味での「結婚」を同性カップルにも認めるか否かは、各教会、各神父が決めればよいことになる。

教会の側から見れば、無難な選択肢だといえる。フランスやドイツでは、まさにこの方法が取られている

しかし、かつてはスウェーデンの国教会(プロテスタント派)であり、現在でも国内最大のキリスト教組織である「スウェーデン教会(Svenska Kyrkan)」は、先週の総会で「挙式権を今後も維持し、さらに、同性カップルの結婚を教会で行うことを認めようではないか!」という結論を下したのだ。教会組織の決定としては、世界的にも類を見ないという。

ただ「同性カップルの結婚を教会で行うことを認める」といっても、ここでも“結婚”が単に「法的な契約」という意味での結婚なのか、宗教的な意味を含めた結婚なのか、は未だ明確ではない。教会で同性の挙式を行うことに賛成の神父でも、それはあくまで「パートナー」としての挙式であって、本来の意味での「結婚」とは呼びたくない、という人も多い。

ともかく、教会組織というと、どの国でもたいていは保守層の集まり、と見られているが、面白いことに「スウェーデン教会」はリベラルな人が比較的多いことで知られているのだ。プロテスタントの影響かもしれないし、または、他のヨーロッパ諸国に比べかなり非宗教化(secularized)したスウェーデン社会を反映して、教会組織も現実的・理性的な視点を多く取り入れているせいかもしれない。スウェーデンでも人々の教会離れが進んでいる。その流れに歯止めを掛けるためには、教会自体が社会の流れや変革に適応して、一般の人々との接点を維持していかなければならない、と考えている教会関係者も多い。とはいえ、もちろん同性の結婚を教会で行うことには反対の人々もおり、今後も議論が続いていくものと見られている。

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政府の調査委員会は、法改正に向けた提案を今年の春に提出しているが、ここでも「教会に挙式権を残すべき」とされていた。教会側がOKを出し、さらに保守党が賛成に回ったことで、来年始めにも法改正される可能性が高い。

政府の調査委員会の報告書(スウェーデン語)

ボンバルディア機、また脚折れる

2007-10-28 19:03:37 | スウェーデン・その他の社会
ボンバルディア機が土曜日午後、また緊急着陸を行った。

SAS(スカンディナヴィア航空)のベルゲン(ノルウェー)発コペンハーゲン(デンマーク)行き。コペンハーゲンのKastrup国際空港にて緊急着陸したが、以前の事故と同じく片脚が折れた。

乗員4名と乗客40名は無事脱出。

DNのニュース映像より

ボンバルディアのDash-8/Q400型機は9月以降、たった2ヶ月の間で9回の事故、もしくは不具合を起こしてきた。製造元であるカナダのボンバルディア社は、「今回の事故は以前の事故との関連性は薄いので、他の同型機に対して特別な対策を講じる必要はない」との発表をしている。それでもSAS(スカンディナヴィア航空)は所有する同型機のうち、まだ残っている(!)22機の飛行停止を決定した。

世界中に同型機は165機あり、9月の事故を受けてしばらく飛行禁止が続いていたが、問題部分の改善をした後、149機が再び定期航路に投入されていた。これらがすべて事故でダメになるまで、飛び続けるのだろうか?

同性の結婚 - 結婚法からの性別規定の撤廃

2007-10-27 07:40:06 | スウェーデン・その他の社会
同性による『結婚』がスウェーデンでも近く法的に認められる見通しだ。オランダやベルギー、そしてアメリカでもニュージャージー州やマサチューセッツ州で、既に認められている。スウェーデンでは、政府の調査委員会が今年の春に改革案を提示しており、「性別規定をなくした結婚法(könsneutral äktenskapslag)」のための法改正が来年にも行われる可能性が高い。ただ、教会関係者を始め、反発も強く、これまでも大きな議論になってきた。

スウェーデンではこれまで、『結婚』できるのは異性の男女のみ、「結婚法」で定められてきた。しかし、「パートナー法」が1995年に制定され、同性であれば『パートナー』という形で、結婚した夫婦に準ずる権利と義務が認められることになった。その後、同性のパートナーにも養子を取って里親になる権利や、体外受精によって子供を持つ権利が認められたため、『結婚』も『パートナー』も法的には同等となった。

ちなみに、スウェーデンでは「結婚式を取り行う権利(vigselrätt)」教会などの宗教団体と、市役所などの行政機関に与えられていた。そのため、結婚の儀式を宗教的に行いたい人は教会などの宗教施設で行い、それを好まない人は市役所で行うことができた。一方、『パートナー』になるための手続きを行う権利は、市役所などの行政機関だけに与えられてきたため、宗教団体はこれまで関与する必要がなく、大きな議論は起きなかった。

しかし『結婚』と『パートナー』が法的に同等となった今、この区別自体をなくし、両者の概念も、それを規定する法律も統一させてはどうか、という主張も当然ながら出てくる。ただ、『パートナー』という概念が「法的な契約」に過ぎないのに対し、『結婚』という概念は「宗教上の取り決め」をも歴史的に含むものであり、ほとんどの宗教において「『結婚』は異性の男女が行うもの」という明確な、もしくは暗黙の了解がある。そのために、『結婚』と『パートナー』の垣根をはずすことに対しては、宗教界や保守勢力からの反発が挙がっている。

区別をなくす一つの方法は、①「結婚法」を撤廃し、同性・異性を問わず、すべての人に「パートナー法」を適用する、というもの。この場合、『結婚』という概念は法律によってはもはや定義されず、その概念の持つ意味合いは、それぞれの個人やその人が属する宗教に任されることになる。宗教的な意味での結婚をしたい人は、パートナーになるという法的手続きをした上で、教会で儀式を行う、という形になる。

区別をなくすもう一つの方法は、②『パートナー』という概念のほうを『結婚』という概念に包括する、というもの。もしくは言い方を変えれば、『パートナー』という概念をも包括しうるように『結婚』という概念を定義しなおす、ということだ。この場合、『結婚』は「法的な契約」に限定され、『宗教上の“結婚”』とは切り離されることになる。そうなると、教会は「結婚式を取り行う権利(vigselrätt)」をもはや持たなくなる、と考えられている。すべての人々は市役所などで「法的な結婚」を行い、そのあと、希望者だけ教会などで「宗教儀式」を行うことになる。

結局、①も②も「法的な契約」「結婚に付随する宗教的意味合い」を分けてしまうことには変わりなく、単なる言葉遊びのような気もする。しかし「『結婚』は異性間で行うもの」という考えに固執したい人(特に宗教関係者)は、“同性間の結婚”をも『結婚』と呼んでしまうことにはやはり抵抗がある。そのため、妥協したとしてもせいぜい①まで、と考えているようだ。

一番最初に挙げた国々では、①もしくは②の方法が採られてきた。

しかし、スウェーデンはさらにその先を行きそうだ。つまり、②のやり方を採用した上で、さらに、教会にも「結婚式を取り行う権利(vigselrätt)」を残す、というやり方が取られそうだ。この場合、同性結婚を教会で取り行うことを、教会関係者が認められるか? が鍵になってくる。

残りは次回!
(余談:左上の“カレンダー”が何と左右対称! 意図したわけでもないのに!)

スウェーデンの霞ヶ関 『Rosenbad』の名前の由来

2007-10-24 05:29:20 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンの政治の中心は、ガムラスタン(旧市街地)の手前にある国会議事堂と、水路を挟んだ向かい側にある首相官邸および官庁街。官庁街には様々な省が所狭しとオフィスを構えている。前を通るドロットニング通りにはレストランや土産物屋、アトリエなども並んでいて、官庁街だとは思えない雰囲気がする。

さて、首相官邸や内閣府などの官庁がある一帯は「Rosenbad(ローセンバード)」と呼ばれており、これが内閣府の別称になっている。例えば、内閣による記者会見が行われるときは、報道記者が「Rosenbadからの生中継です」と言ったりする。日本で言う「霞ヶ関」と似た使い方だ。
(首相官邸の建物自体はSagerska palatset(サーゲシュカ・パラッツェット)と呼ばれる)


「Rosenbad」とはrosen(薔薇)bad(浴場)の意。では、なぜこの様な名前が官庁街についているのか? 政治と何か関連があるのか? 15世紀のイギリスで起こった「バラ戦争」との関連は? 1520年にデンマーク王がスウェーデンの反デンマーク・独立派を粛清した「Stockholms blodbad(ストックホルムの血浴)」という惨事があるが、血 → 赤 → バラ と 血浴 → 浴場 という連想で、こんな名前になったのか?

でも、ちょっと詮索しすぎ! 答えは実はもっと簡単なのだ。首相官邸や官庁街になる以前、ここに実際に『バラの浴場』があっただけのことだ。

ストックホルムの町は運河に囲まれており、水が豊富にあるものの、中世には清潔な街とはいえず、不衛生のために住民の死亡率、とくに幼児の死亡率が高かった。公衆浴場の数は少なく、その上、水に浸かって体を綺麗にする、という習慣があまり定着していなかった。人々は亜麻(リネン)の衣類を身につけ、定期的に洗っていたので、それで十分だと考えていたのだった。

この状況を何とかしたい、と考えたChristopher Thielという人は、今の官庁街の場所に土地を買い、大きな公共浴場を建設し1684年に完成した。この公共浴場、実は普通の浴場だけではなく、何と『癒しの浴場』も用意されていたのだった。

『癒しの浴場』は3区画に分かれ、一つはrosenbad(バラの浴場)、一つがliljebad(ユリの浴場)、もう一つがkamomillbad(カモミールの浴場)とされ、薔薇や百合、カモミールの花びらが心地よい香りを漂わせていた。ここは特に、結婚式を4日後に控えた新婦のための浴場としても使われた。新婚前の入浴をし、浴場に隣接するレストランで特別ディナーを食べるのが、ストックホルム中で人気を博し、当時のファッションになったとか。そして、特に人気のあった「薔薇の浴場」の名前を取って、この浴場全体が「Rosenbad」と呼ばれるようになった。その浴場も1780年代末に取り壊されるが、その名は、そのまま地名として残ったのだった。

現在の内閣府の建物は1902-04年にかけて建築された。

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という、隠された歴史があったのです。でも、もし「バラの浴場」ではなく「カモミールの浴場」がより有名になっていれば、今頃、内閣府はKamomillbadと呼ばれ、首相の記者会見のときも、テレビでは「記者会見の行われる『カモミール浴場』からの生中継です」と、今頃言っていたとしたら、ちょっと滑稽かも。

日本での環境税の議論

2007-10-21 18:12:08 | スウェーデン・その他の環境政策
1週間ほど前に、環境税や二酸化炭素税について取り上げました。
以前の記事:社会の望ましい発展のための経済的ツール(2007-10-11)

日本でも議論があるようです。

毎日新聞:

(2007-10-11)環境税:「効果も意味もなし」経産省事務次官が否定的見解
(2007-10-06)温暖化:環境税導入、4割「賛成」 「反対」は3割
(2007-10-12)民主党:揮発油税を環境税に…藤井会長「創設で廃止検討」

もしかしたら本当に「効果も意味もなし」なのかもしれないが、その見解に至った根拠も示さなければ説得力を持たない。新聞も見解をそのまま伝えるだけでなく、その見解の根拠も本人に追及して書いて欲しい。

ビルト外相:「最終決定は民主選挙を待ってから」

2007-10-20 06:27:55 | スウェーデン・その他の政治
多目的戦闘機Jas-39のタイへの輸出についてだが、スウェーデンのCarl Bildt(カール・ビルト)首相
「政府間の交渉は始めるものの、スウェーデン政府としての最終的な態度決定は、12月23日の民主選挙を待ってから行いたい。タイが軍政である限りは、戦闘機の輸出契約を締結するつもりはない。
と、コメントしている。

タイ側が約束している民主選挙とその後の民主制への移行を見守ってから、というのは無難な措置と言えるだろう。と同時に、この態度がタイの軍政にとって民主化移行に向けての何かしらのプレッシャーになればいいが。

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ちなみに、タイへの戦闘機の売り込みは、足掛け12年の長い準備の末の快挙という。タクシン首相はロシアのSu-30にほぼ決定しかけていたという。そこでクーデターが起こり、選定は白紙に戻った。アメリカは交渉を降りた。タイ軍幹部はロシア機よりもスウェーデン機のほうが自国の土地柄や防衛事情に合うと判断し、最終的にJas-39を選んだという。結果からすれば、クーデターのおかげといけるかもしれない。

とはいえ、タイの購入は12機(+小型偵察機2機)。実はそれよりも大きなお客さんがタイの次に待ち構えている。どこか? そうインド

インド空軍126機の戦闘機の購入を検討中で、スウェーデンのJas-39も候補の一つだ。タイでの選定結果が、インドでの選定に有利に働き、この大口注文を手中に収めることをスウェーデンは願っている。

バカンスはキャンセルしても、戦闘機輸出は・・・

2007-10-19 09:20:01 | スウェーデン・その他の政治
今朝(10/18)の朝刊DNのショート・コラムより。


「財務大臣Anders Borgは昨年の冬にタイでのバカンスを計画していたが、軍事クーデターのあと、それを取りやめた。
1年後の今、タイではクーデター首謀者がいまだに権力の座に座ったままだ。しかし、スウェーデン政府は、それでもJas-39 グリペンをその政体に売る用意がある。
タイでバカンスを取ることは、当然のことながら、戦闘機を輸出することよりも深刻なのだ。」

2つの事実を付き合わせた皮肉です。(注:財務大臣のバカンス取りやめの本当の理由はこの記事からは分かりません)

Aj aj aj… 軍事クーデターのタイへ戦闘機を輸出か・・・

2007-10-18 08:07:02 | スウェーデン・その他の政治
今日のトップニュースは戦闘機輸出の話。輸出するのはスウェーデンが誇る多目的戦闘機JAS-39(通称グリペン)。武器輸出もさることながら、輸出先も良くない。タイなのだ。

戦闘機の新たな購入を検討していたタイ空軍は、選定の候補であったアメリカのF-16ロシアのSu-30との比較の末、スウェーデンのJAS-39を12機購入するすることを決定した。他の戦闘機に比べ運用費が安いことに加え、購入後2年間のメンテナンスをスウェーデン側が提供してくれることが、決定の主な理由だという。周辺機器や要員の教育などを含めると、総額70億クローナ(約1300億円)の輸出になる。JAS-39を販売しているのはGripen Internationalという企業だが、彼らは武器輸出の世界市場における地位を維持できたことに加え、他のアジア諸国の市場への今後の足がかりになることが期待されるため、大喜びだ。

写真の出典:スウェーデン・ラジオ

武器の輸出自体を問題視することももちろんできる。実際に、輸出すること自体を批判する声はスウェーデン国内でもある。一方、スウェーデン政府は"一応"、輸出に際してのガイドラインを設けており、他国と戦争中の国や平和に脅威をもたらしかねない国、国内で紛争を抱える国、人権侵害が行われている国などへの輸出は禁止している。ただ、今回の取引は、このガイドラインにも反している可能性があるため、反対の声は今まで以上に強い。

理由は2点。まず、タイでは昨年、軍事クーデターが発生し、民主的に選ばれた首相がポストを追われ、現在は軍事独裁政権の支配下だ。クーデター以降、戒厳令が敷かれ、報道・言論・集会の自由や政党活動に制限が加えられたり、検閲が行われたりしている。第二に、タイの南部では国内で少数民族であるイスラム教徒とタイ政府の間で衝突が散発しており、彼らに対する人権侵害も懸念されている。これらの点を考慮すれば、ガイドラインに反していると批判されてもおかしくなさそうだ。

タイ空軍の決定を受けて、今後はタイ政府とスウェーデン政府の間で、実際の契約を締結する手続きに入る。スウェーデン・アムネスティーやSvenska Freds(スウェーデン平和協会)などは、スウェーデン政府が交渉を破談にしてくれることを願っている。

一方、スウェーデン政府はこの戦闘機の売り込みにむしろ積極的で、手続きを予定通り進めていくものと見られている。順調に行けば、来年には既に6機がタイ側に渡るという。

批判の矢面に立っているのは外務大臣Carl Bildt(カール・ビルト)だが、彼は「国際的に評価の高いアメリカやロシアの戦闘機を抑えて、スウェーデンの戦闘機が選ばれたことは、スウェーデンの最先端技術の優位性を象徴することであり、むしろ喜ぶべきこと」とのコメントをしている。

軍事政権に対する武器輸出に問題があるとは思わないのか? との質問に対しては、「タイの現軍事政権は12月23日までに民主選挙を実施し、その後、憲法に基づく民主制へ段階的に復帰していくことを決定している。彼らのこの決定は信頼できるものと判断している。タイは、今でこそ軍事独裁下だが、民主制への移行期にあると見ることができる。人権侵害の状況も改善に向かっている。残る問題も、今後の対話の中で指摘し、改善を促していきたい。」と、返答している。また「タイは過去に何度も軍事クーデターを経験しており、何も珍しいことではない。重要なのは今後、どのような道筋を目指していくのか、ということ」と発言している。

このような武器輸出の過程では、当然ながら、ジレンマも想定される。つまり、スウェーデンが戦闘機の売込みを中断しても、それはアメリカやロシアの戦闘機を選定において有利にするだけなので、状況は何も変わらなかったかもしれない、というものだ。ただ、一部の報道(スウェーデン・ラジオなど)によると、アメリカ政府は、軍事クーデターによって権力を奪取した政権とは交渉しない、というガイドラインを設けており、売り込み競争から既に降りていたという。しかし、スウェーデン外相はこの事実を否定している。

これから、スウェーデンの国会やメディアで起こるであろう議論を見守りたい。予定されている民主選挙の実施と、タイ南部の状況の改善を少なくとも待つことはできないのだろうか?

<追加>
タイのタクシン前政権は、むしろロシアのSu-30にほぼ決定していたが、クーデターにより振り出しに戻り、アメリカが降り、最終的にスウェーデンのJAS-39に決まったらしい。

クーデター以降、タイ軍事政権の軍事支出は66%上昇している。

下手な鉄砲はいくら撃っても当たらない!

2007-10-16 06:51:00 | コラム
ノーベル経済学賞の発表! (ノーベル賞のホームページで映像が見られます)

先日掲載したオッズ表は、ことごとく外れていました。

受賞者は3人もいたのに、挙げられた22人、当たりもしなければ、かすりもしない、というのも、見事なものです。(的中させるのは、それだけ難しいのでしょうが)

変化する『平和』の捉え方

2007-10-15 06:44:29 | コラム
(前の記事の続き)
前の記事:ノーベル平和賞、アル・ゴア へ(2007-10-13)

ところで、最近は平和賞が、平和とは直接かかわりのない人々や団体にも授与されるようになった、との批判がある。ノーベル賞の創設を唱ったノーベルの遺言書には、平和賞の対象「人々が流血する事態の防止や軍備の廃棄もしくは削減、さらには平和のための国際会議の実現に強く貢献した人」としている。

ただ、これは19世紀後半の時代(植民地化、欧米列強、軍備増強、大国間の戦争)から見た『平和』の概念だ。それに対し、今では紛争の局地化、内戦、自国政府による人権抑圧など『平和』を達成すべき対象も変化してきている。そのため、ノーベル平和賞の選考を担当するノルウェーのノーベル委員会は、平和賞の対象をより拡大して「紛争の根源の撲滅」にもスポットを当てるようになった、と見ることができる。そうすれば、近年の平和賞の対象もより理解できるようになるかもしれない。

アフリカなどの貧困地域での紛争の原因の一つは、限られた資源の争奪。人口増加や自然災害のために食料や水が枯渇し、それを奪い合う。貧困のために生活が成り立たず、子供までもが民兵に加わり、村々を襲い、紛争と貧困の悪循環が進む。地球の気候が変化していけば、砂漠地域の拡大や旱魃などが、伝統的な農業を困難にしていく。食料や水を求めて、人々の大規模な移住が始まり、そこで新たな対立が生まれる。地主と小作人の間でも対立が生まれ、それを地方の権力者が政治的に利用しかねない。そのような観点からすれば、環境問題戦争や紛争の主要な原因の一つとして考えられる。

実際、今年の平和賞授与の動機として、ノーベル委員会は「気候変動は世界の平和・安定にとって大きな脅威となっている」としている。

また、環境問題だけでなく、貧困そのものも紛争・戦争の原因として考えられるようになっている。

去年の受賞者であるバングラディシュのMohammad Yunusは、グラミーン銀行の貸し出す「マイクロ・ローン」によって貧困の改善や女性の地位向上に貢献した。受賞動機には
”Varaktig fred kan inte skapas utan att stora folkgrupper finner vägar till att bryta sig ut ur fattigdom. Mikrokrediter är en sådan väg. Utveckling underifrån främjar demokrati och mänskliga rättigheter”
持続的な平和は、国民の大部分が貧困から抜け出す術(すべ)を見出すことなしには成し得られない。マイクロ・ローンはその術の一つである。人々によるボトムアップの発展は、民主主義と人権保護を促進する)と書かれている。

また、その前の年は、ケニアの女性Wangari Maathaiが民主主義の促進や人権の保護、そして3000万本に及ぶ植林活動を讃えられた。これも、紛争の根源となりかねない環境問題や貧困問題の解決に貢献した、とされるためだ。

もう一度、アル・ゴアに話を戻そう。環境問題の解決は、世界規模での協力を必要とする。迫り来る問題に対して、かつては対立していた人々や国同士も、今では互いに協力しなければ、自らの生存も危機に瀕する時代となっている。だから、アル・ゴアの貢献は、なにも環境問題に対する直接的な関与だけでなく、世界規模での協力関係の土壌を準備した、という面からの平和貢献も見逃してはならない。

最後に、これは私の憶測であり、半分ジョークなのだが、自国の経済の大きな部分を石油輸出によって成り立たせているノルウェーは、アル・ゴアとIPCCに平和賞を贈ることで「罪滅ぼし」をしたかったのではないだろうか・・・?

末席を飾る「ノーベル経済学賞」の予想

2007-10-14 06:01:45 | コラム
ノーベル平和賞の続きの前に、一つだけ。

ノーベル賞各賞の末席を飾るのは経済学賞。これはノーベルの遺志とは関係なく、スウェーデン中央銀行が後から付け加えたもの(1969年)。だから正式には「Sveriges Riksbanks pris i ekonomisk vetenskap till Alfred Nobels minne(アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞)」と、とんでもなく長い名前が付いている。

それはさておき今年の受賞者の発表は月曜日に行われる。誰がとるのか気になるところ。イギリスのギャンブルサイト「Ladbrokes.com」を見ると、受賞の可能性がある経済学者にオッズが付けられている。

最初の3人の名前を見ると、今年は「経済成長と国際貿易」がテーマとして選ばれる可能性が高い、と人々が読んでいることになる。特に3人目のRomerといえば内生的経済成長理論を打ち出したスタンフォード大学の経済学者。

4、5、6人目はともに労働マクロ経済学に関係する人だが、昨年の受賞者Phelpsが似たような分野だったので、今年は可能性は低いのではないかと思う。

スウェーデン人としては、Lars E O Svensson、Assar Lndbeck、Lena Edlundの名前が上っている。

ここに挙げられた人が候補者のすべてではないだろうから、予期しない展開になることもあるかもしれない。ちなみに去年の受賞者Phelpsは、去年のこの時期、この手のサイトで一番人気だったらしい。

個人的には、同郷、鳥取県米子市出身の宇沢弘文が取ってくれたら面白いのだけれど・・・。(Baumolでもいいな)

う~ん、ノーベル平和賞、アル・ゴア へ

2007-10-13 06:21:53 | コラム
今年のノーベル賞受賞者は、今週相次いで発表された。世界の注目はスウェーデンに集まった。

そして今日はノルウェーのノーベル委員会平和賞を発表。数日前から噂はされていたが、受賞者の一人は前アメリカ副大統領(民主党)のアル・ゴア。地球温暖化・気候変動の警鐘を世界的に鳴らしたドキュメンタリー映画『An Inconvenient Truth』が評価されたのだ。彼は『Live Earth』というミュージカルも企画している。受賞者のもう一人は、個人ではなく団体で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)となった。

写真の出典:SVTニュース

「アル・ゴアが受賞」のニュースを聞いたとき、正直ちょっと残念だった。何もアル・ゴアの活動や業績がノーベル賞に値しないと考えているからではない。IPCCによると「現在進んでいる温暖化は人間の活動による影響だと90%の確率で言える」との結論に達している。温暖化の速度を少しでも遅くし、人間の生活環境への影響を少なくするためには、地球規模での協力が不可欠だ。その重要性を若干の誇張を交えながらもドキュメンタリー映画という形で訴え、それまであまり関心を示さなかったアメリカを含む人々の共感を買うことに成功したアル・ゴアの業績は、それ自身として讃えられるものだと思う。(映画内での誇張や事実誤認もいろいろ批判されてはいますが、私の見解の詳細についてはこの記事のコメント部分をご覧ください

ただ、アル・ゴアは既に世界的な注目を浴びてきた。彼のドキュメンタリー映画はオスカー賞も受賞した。ヨーテボリ市の環境賞も来年1月に彼に授与されることに決まっている。
以前の記事:Al Gore、ヨーテボリ国際環境賞を受賞(2007-08-17)
それに、いまさら多額の賞金をさらにもらったところで、彼の活動にはあまり意味がないだろう。

むしろ、世界の片隅で平和の実現や不当な抑圧からの解放に努力している草の根の“無名戦士”を讃えて欲しかった。今年の平和賞に名前が挙がっていたのは、135個人、および46団体。

例えば、カナダ系イヌイット人のSheila Watt-Cloutier。地球温暖化の影響で少数民族の生活が脅かされ、また彼らの生活の拠り所であるホッキョクグマやアザラシも危機に瀕しているため、少数民族の権利を守るために闘ってきた。

他には、
・ベトナムの僧侶Thich Quang Do。自国の共産政権を批判する民主活動家。
・ポーランド人女性Irene Sendler。第二時世界大戦中に、ワルシャワのゲットーから2500人のユダヤ系の子供を救った。
・名前を忘れたけれど、中国とロシアのチェチェンで活動している人権活動家。(後で補足します)

だから、むしろこのような人に授与すべきだったと私は思う。

それから、候補に挙がっていた、もっとビッグな名前としては、貧困撲滅キャンペーンをやっていたU2のロック歌手Bonoや、フィンランドの元大統領で紛争調停役のMartti Ahtisaari。彼は、長年の懸案であったインドネシア政府とアチェのゲリラの間の調停を2005年に成功に導いた。現在は、旧ユーゴの一つの州で今はセルビア共和国に属すものの事実上、国連統治下であるコソボ自治州の将来を決める重要な役目に就いている。それから「EU」も組織として候補に挙がっていたらしい。

(続く)

社会の望ましい発展のための経済的ツール

2007-10-11 06:26:45 | スウェーデン・その他の環境政策
9月半ばに発表された「2008年予算」では、二酸化炭素税エネルギー税が来年1月1日から引き上げられることが決められた。この結果、ガソリンはリットルあたり0.29クローナ(5円)、ディーゼルは0.55クローナ(9.6円)高くなる。目的は、化石燃料の使用抑制、それから、所得税減税を補う新たな税収の確保。

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スウェーデンの政治において、税制や環境政策などを議論するときに登場する概念の一つが「ekonomiska styrmedel」だ。styrmedelとは社会の発展を操作する手段・ツール、という意味に使われるから「ekonomiska styrmedel」は「社会の発展を操作するための経済的手段・ツール」ということになるだろう。1970年代以降、使われるようになった比較的新しい概念だ。

環境政策で言うなら、二酸化炭素税がその代表例だ。社会全体にとって化石燃料の消費削減が望ましい、という方針が議会を通じて決定されたとする。しかし、我々の社会が市民や企業の自由な経済活動に基づいている以上、国が直接的に国民の消費行動を決定することはできない。しかし「価格」という操作変数を使えば、間接的に影響を与えることができる。つまり、政治的決定によって化石燃料の使用が消費者にとって割高になるように設定する一方で、化石燃料をなるべく使わないライフスタイルをとれば逆に割安になるような経済システムを導入するのだ。化石燃料に課せられる二酸化炭素税は、そのための一つのツールというわけだ。

タバコ税や酒税も、これらの商品の消費を抑えるための政策的ツールと見ることもできる。(嗜好品に対する課税による税収確保と所得の再配分という目的もあるが)

政府が「××を使わないように心がけよう」と努力目標を打ち出しても、誰も見向きもしないかもしれない。逆に、法律や通達によって「××を使ってはダメ」といえば、一番手っ取り早いかもしれないが、監視や罰金徴収の作業などが面倒だ。それに「××がどうしても必要」という人もいるだろうし、そういう状況もあるかもしれない。それに比べて、この「ekonomiska styrmedel(経済的ツール)」の良い点は、各個人が、ある行動を取ることの利益と損失を自分で天秤に掛けながら、意思決定をすることができることである。例えば、どうしても車に乗る必要がある、とする。二酸化炭素税のためにガソリンは高いけれど、そのコスト以上に車に乗る便益は大きい、とその人が判断すれば、割高なガソリンを買う代わりに、車に乗る権利を行使することができる。

「ekonomiska styrmedel」とは、国なり公的機関が、下部の組織や国民に対して「こうしなさい」と直接命令するのではなく、“こういう行動を取れば経済的に得になるような制度的枠組み”を設定する。各個人は、その枠組みの中で様々な選択肢を考慮しながら、自分の頭で考えて行動を決定することができるやり方なのだ。

もちろん、この方法がうまく機能するためには、そのツールが適切な所に用いられなければならない。例えば、税金などによって調整された価格が高すぎて、社会の一部の人に不当な悪影響を与えているかもしれない。もしくは目的達成のためにはまだまだ低すぎるかもしれない。だから、常に検討されなければならない。

今回のガソリン税の引き上げでも、日々の生活でどうしても車が必要な過疎地の人々に大きな負担をかけないようにするため、通勤に伴うガソリン代を所得から控除できる上限が引き上げられることになった。

さて、日本のガソリン価格はスウェーデンの6割程度。化石燃料の使用を抑制しようと思えば、まだまだガソリン税を引き上げる余地はあるのではないか・・・?

<追記>
理論という面からすると、何もスウェーデンだけに特別なものではない。経済学者のコース(Coase)などは、環境汚染の外部性を考慮し、汚染者と被害者が対等な立場で交渉することで、環境汚染の社会的被害を内部化し、汚染のマイナス面を考慮したうえで個人が消費量を決定する、そして、それが社会全体で見ると最適になる、というようなモデルを打ち立てて、ノーベル経済学賞を取っている(と思う)。

ただスウェーデンで注目すべきなのは、その考え方を社会発展の長期ビジョンの中に取り込んで、その一つのツールとして議論し、活用している点だと思う。/font>

本屋の人だかりのワケ

2007-10-09 05:34:13 | Yoshiの生活 (mitt liv)
ノルウェー語の授業に行くために、街中を通り過ぎたところ、ある本屋の前にすごい人だかりができていた。

店の後ろの裏道は警察が固めていて通行禁止。これは絶対、強盗か人質立てこもりかと思ったら、店の前に立っていた警察官の中に、以前一緒に写真を撮ってもらったことがある県警の自転車警察隊のおっちゃんがいた。「何かあったの?」と尋ねてみると「Clinton」との答えが返ってきた。

そう、その本屋にはビル・クリントンが訪ねていて、サイン会をやっていたのだ。彼は自著「Giving: How Each of Us Can Change the World」を出したばかりで、このスウェーデン語版「Att ge」もちょうど発売されたところ。それを記念してのサイン会なのだ。

もちろん、このサイン会のためだけにスウェーデンの、しかもヨーテボリの小さな本屋に来たわけではない。この晩は、彼とHans Blix(ハンス・ブリクス)(以前、国連イラク大量破壊兵器査察委員会の委員長をやっていたスウェーデン人)の二人の講演会があるためなのだ。彼は外国で仕事があるたびに、この手のサイン会を開くのだそうだ。

ちなみに1時間のサイン会で彼がサインしたのは600冊。ということは、1分間に10冊、6秒間に1冊。さすが馴れたものですね。10分くらいで腱鞘炎になりそう。さすがアメリカ人とあって、あらかじめ「ちゃんとCoca Colaを用意してくれ」と本屋側に伝えていたらしい。
写真の出典:Aftonbladet
さて来年はアメリカ史上初の「First Lady」ならぬ「First Man」になるのか? 奥さんと一緒に「失われた8年」を取り戻して欲しい。

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現職のBush君にも、大統領職を退いた後は執筆活動をしてサイン会を開いて欲しいね。本のタイトルは「Why and How am I stupid?」とかね。でも、大きな抗議活動が起こって、サイン会どころじゃないだろうけど。