スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「電化はイギリス鉄道の将来なのだ!」

2009-07-30 05:15:12 | コラム
ある分野において斬新的なアイデアを生かして先駆(パイオニア)的な役割を果たした国が、その後、それを見習って追いつこうと努力してきた国に先を越され、気づいてみると過去の栄光は跡形もなく消え去っていた・・・、という例は結構あるものだ。

鉄道もその一つだ。

18世紀後半に産業革命による工業化が始まったイギリスでは、1825年に蒸気機関車が実用化され、1850年前後にはほぼ全国的な鉄道網が完成した、と私の手元にある高校世界史の教科書にも書かれている。

しかし、その後の鉄道の発展は、遅れて産業化を行った国々に大きく遅れを取ったようだ。今でも、イギリスを鉄道で旅行した人からは、サービスの質の悪さがよく聞かれる。

しかも、先週の新聞で次のような見出しを目にした。
「イギリスが鉄道の電化に大規模な投資を行うことを決定」

日本やスウェーデンでも、ローカル線となれば電化が遅れており、いまだにディーゼル車が使われているところもあるから、てっきりそのようなローカル線の電化計画かと思ったがそうではない。ロンドンからウェールズ地方のSwanseaを結ぶ幹線リバープールマンチェスターを結ぶ幹線だというではないか!


この計画を発表したゴードン・ブラウン首相はこう述べている。

「電化鉄道は鉄道のこれからのあり方なのだ。環境にもよく、汚染も少なく、速く、遅れることも少ない。電化は21世紀のイギリス鉄道に必要なのだ。人々もなるべく鉄道を使うようになるだろう。」

おいおいおい・・・。

イギリスの鉄道の電化率は40%と、ヨーロッパ諸国の中で一番低いという。トップはスイスで、電化率は100%。スウェーデンは第4位で80%なのだそうだ。

しかし、今さら「電化がこれからの鉄道のあり方だ」などと言っているブラウン首相の気持ちも分かってあげたい。というのも、野党である保守党から「不況の今、さらなる歳出を増やして納税者に負担させるのか!」と批判の槍玉に挙げられているからだ。だから、国内の有権者の支持を得るために、傍から見ると大袈裟な、こんな説明を行っているのだろう。

一方、もう一つの野党である自由民主党は「これは、始まりにすぎない。イギリスは2040年までに完全電化を行うべきだ」と労働党政権のこの計画に賛意を示しているようだ。

スウェーデンでは、CO2削減の観点から、ストックホルム以南の国内航空路線を廃止すべきだという声も挙がってきた。ある調査によると鉄道で3時間程度で行ける範囲だと、乗客は飛行機よりも鉄道を選ぶ傾向にあることが分かっている。だから、例えばストックホルム―ヨーテボリ間は鉄道が善戦している。あとは、もう一つの幹線であるストックホルムとルンド・マルメ・コペンハーゲン(デンマーク)を結ぶ路線でいかに時間が短縮できるか、そして、時間短縮にはもちろん限界もあるから、運賃をいかに下げられるかが鍵となるだろう。

イギリスで、このような議論がどこまであるのかは分からないが、私も今さらとはいえ電化によって鉄道に力を入れようとするブラウン首相を応援したい。

クリエーターの作品

2009-07-28 18:42:45 | コラム
よくできた短編映画を見つけた。




「Sorry I'm Late」というタイトルが付けられ、バスに乗り遅れた男の子が何とかして目的地にたどり着こうとするストーリーだ。まるで任天堂のスーパーマリオのようで面白い。

しかし、それ以上に驚かせられるのは、最後にクレジットが流れる部分。製作過程を紹介しているのだが・・・。なるほど! だから背景が木目だったんだね。主役の彼は左腕が相当痛かったのではないだろうか?

――――――――――


ところで私がこの映像を知ったのはあるニュースで。この映像を作成した監督は、スウェーデン人の若者で、かつてはイギリスの広告代理店で働いていたものの、現在はスウェーデンに戻り独立している。

しかし、チュニジアのある広告代理店がこの作品を真似て、電話会社の広告を作ったという。驚いたのはこの監督。チュニジアの広告映像を見た複数の人から「アイデアがコピーされているぞ」というメールが寄せられたからだ。

本国チュニジアでも、模造品だという話が話題になり、電話会社はこの映像を広告キャンペーンで使うのを中止してしまった。

結局、チュニジアの広告代理店が彼に謝罪の電話を入れてきたそうだ。そして、将来的に何か共同プロジェクトができないかを相談するために、チュニジアに招待したのだそうだ。

残念ながらこの手の「盗作」は、広告業界ではよくある話なのらしい。この監督いわく「“クリーエーター”と自称している人の一部は、パソコンの前に座って斬新なアイデアを見つけてはそれをコピーして自分の作品にしているだけのようだから、本当は“リサーチャー”と呼ぶべきだと思うよ」

チュニジアの広告映像は下のリンクで見ることができます。
http://www.resume.se//nyheter/2009/07/22/mankovsky-plagierad/

具体的な政策論争で支持を勝ち取る (2)

2009-07-27 03:46:13 | コラム
選挙というのはスポーツや競馬ではない。だから、「勝ち馬は誰か?」「どの党が追い上げているか?」「誰と誰が対立しているのか?」「いよいよ政権交代か?」「●●派と××派が争っている」などといった、政局の表層だけに焦点をおいた議論や報道は、本来は二の次であるべきだ。

具体的な政策論争をすることが必要だと前回書いたが、そうすることでまず、(1) 各政党の政治家自身が自分たちの執り行うべき政策を明確に意識することができるようになる。これは「政治主導」による行政の基本の一つだと思う。

それから、(2) 効果が高い政策が実行される可能性が高くなるという点も重要だ。つまり、ある問題を解決するための具体的な提案を、各党が提示し、それをぶつけ合いながら議論できるようになれば、様々な角度からの批判に耐えられない案は淘汰されるか、再検討を余儀なくされることになる。激しいやり取りの中から独創的で斬新な提案も出てくるかもしれない。そして、理想的に言えば、様々な政策案の中から最も説得力のあるものが選ばれて実行される確率が高まるだろう。逆に言えば、議論が十分に尽くされていない中途半端な政策が実行される可能性が低くなるということも意味する。

たとえば、後期高齢者医療制度や給付金制度などは、より優れた対案が本来ならあったかもしれない。

さらに、過去20年ほどの日本の政治を振り返った場合に最も重要な点は、(3) イメージではなく具体的な政策論争をもとに政権を選べるようになれば、有権者の失望と政治不信を少しは抑えることができるかもしれない、ということだ。細川護煕の「日本新党」、小沢一郎の「新生党」「新進党」「自由党」、小泉純一郎の「郵政民営化」キャンペーン・・・。自民党や“守旧勢力”への政治不信を背景に、無党派層を中核とする有権者の支持を受けて、どれも一度は「希望の星」にまつり上げられたものの、いざ彼らが政権を握るようになるとスキャンダルが噴出したり、改革が行き詰まったり、あるいは「そんな話じゃなかった」というような政策が実行されたりして、すぐに人気は下火になり、落胆が再び政治不信へと変わるという、悪循環が繰り返されてきた。そして、支持率の持たなくなった政権は崩壊し、新政権が誕生したり、解散総選挙が行われることが、90年代以降は日常茶飯事だった。

1993年の総選挙では「小選挙区制」が改革の旗印となって、政治改革=小選挙区制導入=二大政党制、が一つのキャッチフレーズとなったが、果たしてこのアイデアが具体的にどのような内容を持ち、その長所や短所がどのようなものなのかを理解していた有権者がどのくらいいるのだろうか?

2005年の総選挙では「郵政民営化」が争点となり、民営化反対=抵抗勢力=悪玉民営化賛成=改革派=善玉という単純な対立構造小泉の個人的な人気のみに焦点が当てられたが、郵政民営化がなぜ政治改革につながるのかを理解していた有権者はどのくらいいるのだろう? 結局、ある特定の政策領域とある特定の政治家だけを焦点にしたイメージ合戦であり、過度に煽られた期待が冷めてしまうのも時間の問題だった。

もし、税制や高齢者福祉、環境政策、子育て支援、外交etcといったそれぞれの政策分野において具体的な政策提案とその根拠が提示された上で有権者が票を投じていたのであればどうだろう。抽象的なイメージや政治家個人のカリスマだけで政治を語る余地が少しは減るだろう。そして、政権や政治家の実行力を評価する際に、約束されたそれぞれの公約が実行されているかどうかを判断基準とすることが容易になるので、中身のない空虚な期待が覚めた途端に、落胆に変わって支持率が低下する可能性も少なくなるだろう。その上、なるべく幅広い政策分野における政策議論が選挙戦で展開されていれば、聞いたこともないような新しい制度が突然導入され、実行されて、その途端に世論に反対にあって支持率が低下する、という可能性も少なくなる

もちろん、国民の代表となる政治家や政党をイメージだけで選んで、政権が誕生したあとは任期が終わるまで、具体的な政策の実行についてはすべて一任して国民は全く口を挟まないという制度も、代議制民主主義のもとでは可能かもしれない。しかし同時に、権力をもつ政治家や行政担当者を有権者が常に監視して、実行されている政治がいいものかどうかをチェックすることも、民主主義の基本の一つであろう。

だから、問題のある政治が行われようとすれば、メディアや世論が批判するし、それが背景となって政権の支持率が大きく左右することになる。しかし、どうせ口を挟むのであれば、政策が実行されるもっと前の段階で、つまり、政権が誕生する前の段階で有権者が口を挟んで、自分が望む政策を実行してくれる可能性がなるべく高い政党や政治家を選ぶようにしたほうが、賢いやり方ではないのだろうか?


具体的な政策論争で支持を勝ち取る (1)

2009-07-25 03:09:42 | コラム
「いつか?」「そろそろか?」とずっと前から囁かれてきた総選挙が迫ってきた。スウェーデンのメディアも、東京都議選での自民党の敗北が明らかになった7月13日に「日本の議会が解散し総選挙になる」との報道を伝えていたし、その後、衆議院の解散の総選挙の日程がほぼ固まったときや、21日月曜日に解散されたときにも、ニュースで取り上げていた。国際ニュースの片隅という扱いでしかないものの、日本の総選挙がこうして報道されるのは、自民党の敗北による歴史的な政権交代になるだろう、と注目されているためだ。


政権獲得という絶好の機会を手にした民主党はまだ分かるが、自民党は「万歳」によって何を祝おうというのだろう!?
出典:Svenska Dagbladet

戦略的に考えれば、国民の支持を失ってしまい、野党が勝利することがほぼ明らかな状態で国会を解散し、総選挙に挑むことにした自民党の行動は理解できないが、都議選の前にそう言ってしまったならしょうがない、ということなのだろうか。総選挙後も政権を維持したければ、本来なら党首を替えて支持率の回復を待ってから総選挙に打って出るべきだったのだろうけれど、奈落の底に転げ落ちようとしている今、理性的な思考力を失い、ヤケクソになったとしか思えない。

お願いだから、選挙戦だけは各党とも理性的な戦いをして欲しい。つまり、具体的で中身のある政策論争によって有権者の支持を得ようと努力する、ということだ。政策論争なしでは、有権者はいったい「何に」票を投じているのかが分からない。政治家や政党の側も何を有権者が望んでいるかも分からないし、自分たちが何を具体的にしたいのか、彼ら自身にとっても明確ではないはずだ。

2000年代に入ってから「政治主導」という言葉が盛んに使われるようになり、官僚任せをやめて政治サイドがリーダーシップを発揮するために、たとえば副大臣などというポストを作ったりしたものの、政治家や政党の側具体的に何をしたいのか、何をすべきなのかがよく分かってなかったり、具体的な政策を立案する能力がないままであれば、「政治主導」なんて絵に描いた餅だ。「よく分かっていない」勉強不足の政治家やリーダーシップのない政治家、ビジョンのない政治家が、各省庁の仕事に今まで以上に口を挟んでくるようになったのであれば、省庁の側の仕事を余計に増やしているだけだろう。
―――――――――――


月曜日に衆議院を解散した後、麻生首相はこう言っている。「国民の皆様の生活を守るため、景気回復と安心社会の実現を約束する。今度の総選挙は『安心社会実現選挙』だ。国民に問うのは政党の責任力だ。この約束ができなければ責任を取る。」

どうやら自民党は「安心社会実現」を一つのキャッチフレーズにしたいようだが、「安心社会」という言葉によって具体的に何を意味しているのか、その実現に向けて具体的に何をしたいのかをはっきり示さなくては、単なる空虚な言葉にすぎない。

有権者が行うべき自民党の評価とは、2008年以降の不況に対する政策だけでなく、90年代から続いてきた長い経済低迷に対してどのような政策を実行してきたか、という点でもあるべきだ。そう考えると、麻生首相が国民に問いたいといっている自民党の「責任力」とは果たして評価に値するものなのだろうか?「この約束ができなければ責任を取る」とのことだが、できなかったからといって途中で投げ出されては、国民のほうが大きな迷惑だ。それに、党首としての残された時間がそう長くはないだろう人が「責任を取りたい」などと言っても、何の重みも持たない言葉だと思う。

具体的な政策論争といえば、やはり民主党に期待したいところだ。彼らがこれから発表するマニフェストがどれだけ具体性を持ち、財源などの面からみた実行可能性を本当に持ったものなのかどうかに注目したい。

しかし、たとえ中身のある具体的なマニフェストを作ったところで、それが選挙戦におけるキャンペーンや他党との論争に生かさなければ意味がない。リスクとしては「政権交代か否か」「自民か反自民か」だけが、政党のキャンペーンやそれを国民に伝える選挙報道の焦点となってしまうことだ。そういえば、小泉の総選挙のときは「郵政民営化か否か、改革か旧守か」だけが唯一の焦点となって、それ以上の突っ込んだ政策議論やなかったし、他の政策領域における政策議論もほとんどなかった。より最近では、2007年4月の東京都知事選では、現職の石原知事に対して、浅野候補が追い上げていたが、結局「反石原」だけが売り文句となってしまい、では石原知事に代わってどのような都政を行いたいかがあまり伝わらず、支持が伸ばせなかったという例もある。

だから、民主党も自民党のこれまでの政治を批判するのであれば、経済対策や雇用・労働政策にしても、どのような対案があるのかをきちんと示せなければならない。これは社民党共産党にも言える。彼らがどのような具体的なマニフェストを発表するのか、期待したい。
―――――――――――


「人柄が良さそうだから」とか「誰々に頼まれたから」で人や政党を選ぶのはやめにしよう。中身のない空虚な言葉や、うるさいだけの「連呼」で支持を集めようとするのもやめにしなければならない。日本の民主主義にとって転機となる総選挙になるだろうか?


パイレート・ベイのその後 (2)

2009-07-21 06:58:18 | スウェーデン・その他の社会
第一審で有罪判決を受けた、スウェーデンの違法ダウンロードサイト「ザ・パイレート・ベイ (The Pirate Bay)」の創設者が、新しいサービスを始めようとしていることを書きたいのだけど、その前に違法ダウンロードを取り締まるために今年の春から施行された「Ipred法」について触れておきたい。

――――――――――

スウェーデン議会は、今年2月下旬に著作権法の一連の改正案を可決した。著作権法で保護されている知的財産がネット上で違法にやり取りされている場合に、著作権の所有者や彼らの代理人(例えばレコード会社・映画会社)が、ネットプロバイダーに対して、違法行為を行っているネットユーザーのIPアドレス情報を開示するよう要求できるようにするものだ。要求はまず裁判所に行い、裁判所がその正当性を判断した上でプロバイダーに開示請求が送られる。

これは、ネット上の「匿名性」を克服し、違法行為を行っているユーザーを特定して法的責任を問うことを可能にする画期的な法改正だ。この法改正は、2004年にEUの欧州委員会が発令した「知的財産権の保護に関する指令(Intellectual Property Rights Enforcement Directive)」というEU指令を受けて、スウェーデン政府が国内法を適合させるために行ったものだ。そのため、スウェーデンではこの改正された新しい著作権法が通称「Ipred(イープレッド)法」と呼ばれてきた。

「Ipred法」は早くも4月1日から施行されたが、その直後から違法ダウンロードが大幅に減ったようだ。スウェーデン国内のインターネットの「交通量」を見てみても、4月1日を境に40%も減少している。「交通量」全体のうちのどれだけの部分が違法ダウンロードによるものかは分からないが、減少のタイミングが明確であるため、減少分のほとんどが人々が違法ダウンロードを控えるようになったことによるものだ、と見られている。(詳しい調査によると、改正法適用の前後で、ネット利用者に占める違法ダウンロード者の割合が30%から23%に減少したという。特に若い男性が「Ipred法」に引っかかることを恐れて、違法ダウンロードを控えるようになったようだ)

実際の適用例もあった。最初のケースは、2000冊におよぶ朗読本(音声本)のデジタルデータをネット上に公開して、誰でも自由に違法ダウンロードできるようにしていたネット利用者のIPアドレスを、出版社5社が請求したものだった。(IPアドレスの開示を裁判所が請求することになったものの、プロバイダー側が争っている。裁判所は「開示しない場合、50万クローナの罰金を課す」という決定を行っている。)


さて、違法ダウンロードの減少は一時的なものではないか、という声もあったが、6月に入ってもインターネットの「交通量」が低水準で推移している。一方、音楽業界の売上げはこの同時期に14%上昇し、また、デジタル化された音楽製品(つまり、ネット上で購入された合法ダウンロード)の売上げだけを見てみると57%も上昇しているのだ。違法行為をやめて、合法的に購入する人が増えたということだろう。

つまり、改正法適用以降の3か月あまりを総括すれば、音楽業界や著作権(知的財産権)の所有者にとっては大きな勝利だと、判断することもできる!

しかし!

残念ながら多くの法がそうであるように、このIpred法にも大きな抜け穴があった。というのも、この法律はネットプロバイダーに加入者のネット利用履歴の保存を強制するものではなかったために、たとえ著作権所有者が裁判所の判断を経て、プロバイダーに違法行為者のIPアドレスの開示を求めたとしても、プロバイダーが「履歴がない」と言ってしまえば、それ以上の追及はできないというのだ。

実際のところ、ある中堅のプロバイダーは「うちの加入者の履歴は保存せず破棄する」と発表し、新規加入者が急増したという。これを見ていた大手の電話会社Tele2もそれに追随する騒ぎになった。

プロバイダーのこのような決断の背景には、違法ダウンロード者を「かくまう」ことで利用者を増やしたいという経済的動機のほかに、プライバシー保護の観点から「インターネット社会をはじめとする市民社会に、公権力による大規模な監視網を築きたくはない」という一見もっともな主張もあるから、話がさらに複雑になる。

しかし、利用履歴の保存は違法ダウンロードの摘発だけでなく、ハッカーなどの違法行為の特定やネットを利用した犯罪行為の捜査にも必要であるため、履歴の破棄は大きな問題をはらんでいるという声も少なからず聞かれた。

そのため、法務省「ネットプロバイダーに加入者の利用履歴を最低6ヶ月間保存すること」を義務づける法改正を行うと発表した。現在、内閣法制局で審査や公聴制度にかけられており、近いうちに可決される予定だ。

というわけで、このIpred法が施行されてから続いてきた激しい戦いには、やっと終止符が打たれたかに見えた。しかし、さらなる「イタチごっこ」が続くことになる。(続く・・・)


アイスランドがEUに加盟申請

2009-07-16 04:57:38 | コラム
一昨日から昨日にかけて、アイスランド議会ではEU加盟をめぐる激しい論戦が繰り広げられたようだ。アイスランドは、ヨーロッパ諸国とは一線を画し、自国の主権を守ろうとする傾向の強い国だったが、昨年後半の金融危機で大きな痛手を食らうことになり、通貨クローネが暴落。他のヨーロッパ諸国との経済面での協力・統合が不可欠と考える人々が増えたようで、親EU派が一気に勢いを増したようだ。

通貨が暴落してしまった今、ユーロをすぐにでも導入したいと願う声もあるようだが、そのためにはまずEU加盟というステップを踏まなければならない。今回は、EUへの加盟を申請するかどうかをめぐる激しい論戦だったのだ。

現在の政権は社会民主党環境左派政党との連立。金融危機の混乱のなかで、それまでの右派政権を倒して政権を獲得したのだが、このうち社会民主党は以前から親EU派だった。彼らの方針は、まずEUへの加盟申請を行って加盟交渉を進めた上で、どのような条件で加盟することになるかを見据えた上で、最終的に国民投票にかけて加盟を決める、というものだった。

一方、野党の独立党EUの加盟には反対してきた。しかし、長引く論戦の末に一つの妥協案を出したのだ。それは、EUへの加盟申請の是非をまず国民投票にかけた上で決め、そして、交渉を進め最終的な加盟条件が明らかになった段階でも再び国民投票にかけて加盟の是非を問う、という2段階国民投票案だった。

数のうえで勝る与党だが、ここで面白いことに、社会民主党と連立を組んでいる環境左派政党の一部の議員が反EUを掲げ、独立党の提案を支持する、と言い出したのだ。そうなれば、社会民主党案は負けてしまうことになる。

ここでどのような駆け引きや裏交渉が行われたのかは分からないが、結局、33対28(棄権2)で社会民主党案が通ることになった。これから数日中に、アイスランド政府からEUへ加盟申請書が送られる。そして、その申請通りに加盟交渉を始めるかどうかは、議長国スウェーデンの首相ラインフェルトが判断することになるようだ。

スウェーデン政府はトルコのEU加盟にも賛意を表明しているくらいなので、アイスランドを拒む理由などないだろう。実際のところ、EU諸国とノルウェーやアイスランドなどは既にEESというEUとは別の協力機構に加わっているため、アイスランドの法体系もEUのそれとかなり合致しているという。だから、加盟に向けた障害はほぼないようだ。


ちょうど一年前、アイスランドに旅行に行ったときの写真。シルエットはアイスランド人の友人。


――――――――――


ただ、昨日の議決が僅差だったことを見れば、やはり反EUの声が根強いことも分かる。反EUの理由としては、もちろん、国としての主権が奪われる、というような意見も当然ながらあるが、私がそれ以上に注目したいのは「基幹産業の一つである漁業が、EU加盟によって被害を受ける」というものだ。これは、理解できない話でもない。

EUに加盟する、ということは、EUの共通漁業政策に加わる、ということを意味するが、EUの共通漁業政策は相当大きな問題を抱えているのだ。長年にわたるずさんな資源管理と漁業に対する手厚い補助金のおかげで、ヨーロッパ近海の魚が減っているにもかかわらず、漁船の漁獲能力は高まる一方なのだ。そして、ヨーロッパ近海で魚が獲れなくなった漁船は、アフリカ・アジアなどの途上国近海に繰り出して魚を獲ることで、ヨーロッパの水産業を維持しようとしてきた。そして、途上国の魚を掃除機のように吸い取り、海を空っぽにし、地元の沿岸漁業に大きな被害をもたらしてきた・・・。

アイスランドといえば、水産資源の所有権とその管理方法をめぐって1970年代にイギリスとタラ戦争を繰り広げたことで有名だ。今でも、自国近海の水産資源は自分たちできちんと管理するように努めている。

しかし、EUに入ってしまえば、共通漁業政策のもとで他のEU諸国(特にスペインなど)の漁船が大挙してやってくる恐れがある。おまけに、EUにおける水産資源管理のやり方は漁獲枠の設定によるものがほとんどだが、アイスランドはITQ(譲渡可能な個人漁獲枠)という別の管理法を適用している。だから、その管理法をめぐっても大きな対立になりそうなのだ。

だから、EUとの加盟交渉において、アイスランドがどのような条件を提示するのか、見どころだと思う。

パイレート・ベイのその後 (1)

2009-07-13 06:01:12 | スウェーデン・その他の社会
ずっと前に、スウェーデンの違法ダウンロードサイト「ザ・パイレート・ベイ (The Pirate Bay)」の裁判が始まったことを紹介した。結局どうなったかというと、地方裁判所における第一審で、起訴された4人に1年の禁固刑という有罪判決が言い渡された。そして、被害を負ったとされるレコード会社や音楽製作会社などに合計で3000万クローナ(約2億5000万円)の損害賠償を支払うことも命令された。

判決を受けた4人は現在、高等裁判所に控訴しているところだ。

<以前の記事>
2009-02-08:The Pirate Bayの裁判

しかし、この第一審判決のあとで明るみになったことがあった。実は、この裁判を担当した裁判長は、スウェーデン著作権協会の会員であるとともに、スウェーデン産業特許保護協会の幹部でもあったのだ。この両方の団体は、スウェーデンにおける著作権保護の強化を訴えている団体である上、スウェーデン著作権協会にいたっては、問題の4人を告発した人々やスウェーデンの音楽・映画の企業や業界団体なども会員になっている。そのため、裁判における中立性が損なわれ、著作権保護団体や業界団体に「ひいき」が行われたのではないか、という疑いが持たれたのだった。

ちなみに、スウェーデンの司法では参審制という制度(陪審制ではない)が用いられており、裁判の判決は裁判官・裁判長と参審員が共同で協議した上で判決が下されることになっている。しかし、裁判に先駆けては、この裁判の参審員に任命されていた男性の一人が自ら辞退した。その理由は、彼もスウェーデン作曲家協会という著作権保護を主張している団体の会員であり、非中立性の疑いが持たれることを自ら恐れたためであった。

<以前の記事>
2008-12-10:スウェーデンの裁判員制度-「参審制」

だから、この裁判長も本来なら自ら辞退すべきだった。それをしなかったのは、大きな過ちだったであろう。しかし、本人は「裁判における中立性には問題がないと判断したため、そのような団体に自らが属していることを公にする必要はないと考えた」と述べている。私としては、今回の判決自体は納得のいくものだったと思う。だからこそ、せっかくの判決にもかかわらず、その正当性にあとで疑いが投げかけられるようなリスクは、あらかじめ除去しておいて欲しかった。

非中立性の問題から、この第一審のやり直しを求める声もあがったが、裁判所は結局、その必要はないという判断を下した。また、この問題については何人かの法律専門家自らの見解をメディアで発表していたが、そのうち行政オンブズマンをはじめとする多くの専門家が「裁判の一方の側とたまたま同じ団体に所属していたというだけでは、中立性の問題から裁判をやり直す根拠とはならない」と述べていた。

ここまでの前置きが長くなったが、実は有罪判決を受けた4人は新たな「ビジネス」を立ち上げようとしている。それについては、次回で。


瀬戸内海の祝島、原発の安全管理

2009-07-09 09:39:07 | スウェーデン・その他の社会
先日、日本のジャーナリストの方と話をさせていただく機会があり、その時に瀬戸内海祝島(いわいしま)について知った。山口県に属するこの島の周辺は昔から好漁場と知られており、海草や藻が豊富に生える浅瀬は魚にとって大切な産卵の場となっているようだ。そして、この浅瀬で繁殖したさまざまな魚が周囲の海域へ広がっていくことで、漁師たちの貴重な収入源となり、そして、食卓にも食糧を提供してくれた。環境汚染が進んできた瀬戸内海では残された数少ないの漁場の一つだという。

まさにその浅瀬の目と鼻の先に、中国電力上関原子力発電所の建設を計画している。そして、20数年にわたる地元の反対運動にもかかわらず、その工事がちょうど今始まろうとしているところだという。

http://www.iwaishima.jp/

http://stop-kaminoseki.net/

原発が建設されれば、埋め立てそのものや土砂の流出によって大切な漁場が被害を受けるだけでなく、原発が排出する温排水のおかげで周辺海域の環境も大きく変化することになるだろう。日本にも環境影響評価法(環境アセスメント法)が1997年に制定されたが、この原発プロジェクトに対して果たしてきちんと適用されたのかどうか、気になるところだ。

それ以上に不可解なことは、日本の報道を見ていてもこのような大きなプロジェクトについて、ほとんど報道されないことだ。原発で事故や不祥事があればニュースにはなるものの(一方で、重大な不祥事やミスにも関わらずニュースにすらならないケースもある、という声も聞く)、では、日本のエネルギー政策や原発政策がどこに向かおうとしているのか?など、普段の報道から伝わってくる情報はわずかだ。

「様々なしがらみから、一般のメディアは原発問題には触れたがらない」という声も耳にする。日本の電力需要を時系列で見てみると右肩上がりで増え続けていることが分かるが、それを支えてきたのが原発の増設や石炭・天然ガスによる火力発電だ。しかし、一部の人々が「クリーンなエネルギー」と呼ぶ原子力発電をめぐる不祥事や安全面での問題は尽きることがなく、このような重大な問題を電力業界や産業界、経済産業省だけに任せても果たしていいのか?と不安も抱く。

スウェーデンの原発に関しては、少し前にこのブログで私が書いた文章を紹介した。あの記事は1500字程度のものだったが、あの内容をより詳しく説明した13000字程度の記事を別の雑誌に書かせてもらった。発売の日程について詳しく分かり次第、追って連絡します。

――――――――――


ところで、スウェーデンの原発(現在10基)でも、事故や不祥事が絶えない。

例えば、ヨーテボリから60kmほど南位置するリングハルス(Ringhals)原発では、原発監視のための国の機関である放射能安全管理委員会(Strålsäkerhetsmyndigheten)が、この原発における安全管理の実態を抜き打ちで調査したところ、2割から3割のケースで安全管理の規則違反があることが判明した。そして、この委員会はこれらの違反がこの時だけの稀なケースではなく、常習的に行われていたと判断し、今後、この原発の操業活動を特別な監視下に置くことに決定した。

実はこの原発は、2005年にも同様の問題で放射能安全管理委員会の前身である原発監視委員会(Statens kärnkraftinspektion)から改善勧告を受けていたのに、4年経った今でも問題が残されていたのだ。

スウェーデンのエネルギー政策は、産業省環境省の両方が管轄している行政分野だが、環境省の権力も比較的大きいようで、例えば放射能安全管理委員会環境省のもとにある。そのため、今回の事件に対しては、環境大臣であるアンドレアス・カールグレーンが放射能安全管理委員会のすばやい決定を評価する発言を行っている。

安全管理をめぐる同様の不祥事は、スウェーデンの他の原発でもよく聞かれる問題だ。
2006-08-08:忘れられた論争のカムバック?

もう一つ別のケースは、今週ドイツで起きた事件だ。ただし、スウェーデンの電力会社であるヴァッテンファッル(Vattenfall)の所有している原発であったため、スウェーデンでも報道された。

クリュンメルン(Krümmeln)にある原発で、変圧器が故障し、その影響で原発自体が運転を停止することになった。ドイツの法によると、原発が運転停止をした場合は直ちに監督する行政機関に通告しなければならなかったが、それを怠ったという。

その日は原発の外で反原発団体による抗議デモが行われており、このデモを監視していた警察官が、運転停止の話を原発の職員からたまたま耳にしたことで発覚したのだという。

この原発では今年初めにも変圧器の火災のために運転がしばらくの間、停止されたことがあり、運転を再開して間もなかった。このほかにも、いくつかの事故や不祥事がこれまであったため、ドイツの行政機関の勧告をたびたび受けてきたという。

今回の出来事を受けて、この原発はしばらくの間、停止されることになった。ドイツの環境大臣は、この原発に対してより厳しい安全管理水準を求める構えだという。


風向きが変わった!

2009-07-07 09:42:39 | コラム
就任してまだ数ヶ月のオバマ大統領に寄せられた期待は非常に大きいものだが、彼はその過大な期待をトーンダウンしようと努力している一方で、その期待に応える行動を着実に行ってもいる。

ブッシュ政権時代Neo-conservatism(新保守主義)Unilateralism(単独行動主義)は姿を消し、対話や国際協調が前面に出されるようになった。少し前の「カイロ談話」によるイスラム諸国との協調に続き、今週はロシア訪問によってこれまで冷え切ってきた両国間の関係を築きなおそうとしている。

こうしてみると、ブッシュの8年間がいかに長かったことか実感する。もちろん新政権に期待しすぎるのは良くないが、長い8年が過ぎ去ったあとでこの新しい風がとても新鮮に感じられる

それにしても、あのような大統領が再選するなんてことがよくもありえたものだ。スウェーデンの日刊紙は今年初めにこんな風刺画を掲載していた。


「アメリカ国民はどうして彼を2度も選んだの?」
「アメリカン・ドリームの国だからこそ、そんなことも起こりうるのさ!」


それから、ブッシュにもぜひ見せてやりたい次の風刺画!


「新しい風が大西洋に吹く」との見出しのもとで、オバマ大統領ブラウン英首相が金融危機打開に向けた真剣な話し合いをしている様子が描かれている。そして、その前を通り過ぎるのは、ブッシュが「お猿さん仲間」と好き勝手やり放題していた時代の後片付けをしている引越し屋さん(葬儀屋さん?)


ブッシュの行った長年の過ちを大きく改めようとしているアメリカ。では、ブッシュのイラク戦争にホイホイと賛同し自衛隊まで送り込んだ日本の外交は、今頃どのような反省をしているのだろうか・・・? それとも振り返ることなく今後も追随して行くだけなのだろうか?

スウェーデンがEU議長国に

2009-07-04 23:09:41 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンがEU議長国のバトンを引き継ぎ、2009年下半期のEU政治をリードしていくことになった。議長国は今回が2回目だ。

出典:駐日欧州委員会代表部

EUの議長国は半年ごとの持ち回りだ。EU議長国といえば、スウェーデン人なら誰でも2001年6月のヨーテボリ暴動を思い起こすことだろう。2001年上半期、スウェーデンはEUの議長国を初めて経験した。この半年間に、様々なEU閣僚会議がスウェーデン各地で開催され、そのたびにデモ隊と警官隊が小競り合いを起こすという事態になった。

スウェーデン警察はそのような戦闘的なデモ隊に対処する準備があまりできてなかったようで、警備の手薄さが指摘された一方で、あるときは必要以上の暴力行使が批判されてもいた。しかし、お揃いのユニフォームにヘルメットと楯を装備した機動隊員は、誰が誰なのか第三者には分からない。そのため、警官が過剰な暴力を働いても、責任追及が難しかった。そのため、スウェーデン警察は急遽、すべての機動隊員のヘルメットに識別番号をつけることにしたのだった。警察もこの半年間に多くのことを学んだようだ。

しかし、混乱の極めつけは2001年6月ヨーテボリで開催されたEU首脳会議だった。加盟国の首脳だけでなく、アメリカ・ブッシュ大統領までもが参加したこの首脳会議には、スウェーデンやヨーロッパ中から相当数のデモ隊が駆けつけ、一部の若者が暴徒と化して、商店を破壊したために、一番の目抜き通りであるアヴェニュー通りで警官隊と対峙。そして、警官隊と投石を続ける若者との間で混乱が続くなかで、孤立した機動隊員が拳銃で若者一人を撃つという事態にもなった(弾は貫通し、命に問題はなかった)。また、警察は暴徒鎮圧のために騎馬警察を投入したものの、若者に石を投げつけられて、早々に退却するなど不手際も多かった(いろいろな面で費用のかかる騎馬警察なんて、今どき必要なのだろうか?)。


資本主義の象徴であるマクドナルドなど、沿道の飲食店から盗んだ椅子に火をつける


警官が包囲


写真はここにも:http://www.yelah.net/news/20010615160127

――――――――――

そんなEU議長国の番が、今年再び回ってきたのだった。しかし、幸いにも今回は比較的規模の小さい閣僚会議が各地で開催されるのみで、ヨーテボリで開催されたような首脳会議は予定されていない。だから、少しは安心できる。

いや、そうは言ってられない! この半年の間に解決すべき問題が山積みなのだ。

まずは、新しい欧州委員会の委員(任期5年)の選任。中でも一番重要なのが委員長ポストだが、現在のホセ・マヌエル・バローソ(José Manuel Barroso)が続投することで27の加盟国政府はすでに合意している。しかし、欧州議会の承認が必要であり、ここでゴタゴタするとその折衝に余計な労力を費やすことになる。

ちなみに、このバローソ現委員長元ポルトガル首相なのだが、若いときは自国の独裁政権に反対する立場から毛沢東主義者を名乗り、その後、保守系政党の政治家になって首相を務めたという変わった経歴の持ち主だ。一方、欧州委員会の委員長になってからは市場統合の推進だけでなく、温暖化対策にも力を入れてきた。そして、加盟国をうまくまとめ上げて2020年までに温暖化ガス排出を20%削減する、という目標を採択することに成功した。

2つ目の難題は、EUの新しい基本条約となるリスボン条約。これは27加盟国のほとんどの国が既に批准しているものの、アイルランドが国民投票で一度No!と言ってしまったために、暗礁に乗り上げ再協議が続けられてきた。そして10月にアイルランドで再び国民投票が行われるが、ここでYes!にならなければ、EUの意思決定手続きの効率化や欧州議会の権限の増強といった改革が再び座礁し、さらなる協議が必要になる。

そして、一番大きな難題は、今年12月コペンハーゲンで開催される国連の気候変動枠組条約の第15回締約国会議(COP15)だ。EU27カ国をまとめ上げて、EUとして一丸となって、国としての取り組みが遅れているアメリカや中国、日本などと交渉をし圧力をかけて、数値目標を盛り込んだ新しい議定書の採択が必要だ。

しかし、現在の金融危機のおかげで、東欧諸国やイタリアなどEUの中でも後進国が温暖化対策を後回しにし、経済を優先させるような動きを見せている。この障害を乗り越えた上で、COP15に先駆けた準備交渉では大国を相手に妥協点を見出さなければならない

ただし、この点に関しては確かに難題ではあるものの、問題解決型の思考と行動がしっかりとできるスウェーデンがきちんとリーダーシップを発揮すれば、何とか乗り切ることができるような気が私はする。ある日刊紙の社説は「スウェーデンは、経済的発展と環境対策をいかにして同時に達成するかを、他の国に提示するという教育的課題を背負っている」と書いているが、まさにその通りだ。あとはラインフェルト首相がどこまでリーダーシップを発揮してくれるかに掛かっているだろう。


300kmのサイクリング大会・ヴェッテルンルンダン (終)

2009-07-02 08:46:42 | Vatternrundan:自転車レース
これから少しはゆっくりできそうな予感・・・

――――――――――

最初の100km区間で悩まされた小雨は、ヨンショーピンを過ぎた頃から止み、その後は曇り空が続いていた。

今年は結局、ストックホルムSUB12グループに救われた。てきぱきと指示を下す隊長のボッセに従いながら、このグループについていった。私の後ろには、再び何十人もの「ただ乗り」サイクリストが連なっていた。あるカーブでは、我々の隊の先頭が最初にカーブを曲がり始めてから、それに連なっていた「尻尾」の最後がカーブを曲がり終えるまでに32秒もかかった。130人は超えていただろう・・・。

たまたま隣同士になり、しばらく話し相手になってくれたマッティンは私よりも2時間半前にスタートして、一人で走ったり、いろんな集団に引っついたりしながらかなりゆっくり走っていたが、私が一緒に走っているこのストックホルム隊を見つけてからは絶好調だと言っていた。それから別の男性は70歳近い人で、この大会には30回目の出場だということだった。「走るのと違って、自転車は歳を取ってもできるからいい。若い人につられることなく自分のペースで行くのさ」と言っていた彼も、このストックホルム隊の快調なペースが気に入ったようで「ゴールまで付いていってやるさ!」とゴール前の50kmで意気込みを語ってくれた。


ハンマルスンデット(Hammarsundet)のサービスステーションで休憩してから、いくつか丘を乗り越えて、最後のサービスステーションであるメデヴィ(Medevi)は素通りした。この先は狭い道が曲がりくねる林道に差し掛かる。他のサイクリストと入り混じってしまい、グループのまとまりがなくなりがちな区間だ。そういえば去年一緒に走ったグループは、この区間で一部が離脱して、先にゴールに行ってしまった。

今回はとにかくストックホルム隊とはぐれないようにしようと、思いっきり走った。まるでF1のレースのように、サイクリストの流れの中に隙間を見つけては追い越しを繰り返していった。結局、この区間はこれまでの出場経験の中で一番短い記録となった。

そして、ゴール直前の直線区間でストックホルム隊と合流して、猛スピードで走りながら隊列を整え、15時41分に見事ゴールインした。スタートが4時10分だったので、記録は11時間31分。途中でいろいろあったけど、結局これまでで一番早い記録となった。(昨年は11時間43分


隊長ボッセ

ゴールでは、私が一緒にスタートして途中で脱落したSUB11グループ隊長クリステルが出迎えてくれた。あのグループは私が離脱したあと、例のアンドレアスに加えて女の子が2人脱落し、3人とも途中でリタイアしてしまった。残った24人はその後も順調に前へ前へと進んで行ったものの、男性2人が遅れを取り始め、隊から離脱した。副隊長のクリスティーナもゴールの手前30kmで後輪のギアが壊れて変換ができなくなり、ゴールまで一番重いギアのみで走らざるを得なかったために彼女も離脱した。結局、28人中21人が一緒にゴールしたのだった。(クリスティーナは20分遅れでゴール)


私を拾ってくれたスサンヌ

ゴールのあとに飲むビールが最高だ。美味しい! てっきり普通のビールだと思っていたが、実はlättöl(light beer:2~3%の薄いビール)だということを去年知った。ゴール後はそれだけ喉が渇いているから、普段はまずく感じるそんなビールでも美味しく思えるのだ!


ストックホルム隊と完走を祝う

私と同じ6回目の出場である私の父も、無事ゴールしていた。今回は事故などのためにかなりトレーニング不足だったものの、11時間以内でゴールしていた。父の友人であるイギリス人のデーヴィッドは9時間15分でのゴールだった。