スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

漁協を訪問

2010-06-30 20:38:52 | コラム
東京湾でシャコ漁をしている漁協を訪問。親切な組合長さんから興味深い話をたくさん聞いた。東京湾の環境の変化と低酸素化、シャコ資源を回復させるために導入した自主禁漁にまつわる苦労、沖合での魚の獲りすぎ、東京湾における漁業の将来などについて話が尽きなかった。「共有地の悲劇」の問題にはこの漁協の方も頭を悩ませてきたが、地道な努力によって内外の人々を説得したという組合長さんの話は大変刺激的だった。通訳していた私も話に夢中になって声を張り上げたせいか、1時間半で声が出なくなり、通訳をバトンタッチ。




シンポジウムの再度ご案内

2010-06-29 02:18:06 | コラム
『沈黙の海』の著者であり、現在はEUの欧州議会議員であるイサベラ・ロヴィーン氏が無事来日し、都内を拠点に活動を開始しています。



2010年7月1日(木)14:00-17:30スウェーデン大使館にて開催されるシンポジウム「持続可能な水産行政に向けて

および

2010年7月3日(土)13:00~17:30慶應義塾大学・三田キャンパスにて開催される市民向けシンポジウム「魚が食べられなくなる? ~漁業と流通、消費を問い直す~

は、まだ会場に余裕がありますので、先着順で応募を受け付けております。よろしく。

6月28日付 朝日新聞「GLOBE」

2010-06-28 10:40:28 | コラム
今日6月28日付朝日新聞をご覧ください。
「GLOBE」という特集欄に、スウェーデンに関するルポタージュが掲載されています。

○ 厳しい競争と淘汰 高福祉スウェーデン、もう一つの姿
○ 全国民の課税所得を公開 公平さ徹底するスウェーデン


私の名前もどこかにあります。見つかるかな・・・?

中道右派政権のPR戦術?

2010-06-27 01:25:48 | 2010年9月総選挙
リーマンショックの影響でスウェーデンの実体経済は大きく冷え込み、2008年末から2009年初頭にかけて繰り返し大量解雇が発表され、失業率が急上昇。スウェーデン中央銀行は政策金利を相次いで引き下げたため、リーマンショック時の4.75%という水準から2008年末には2.0%へと急降下し、そして2009年夏までにはさらに下がって0.25%となったため、悲観論はどんどん強まっていった。スウェーデン・クローナの為替レートも一気に悪化し、輸入品や国外旅行の割高感が顕著になっていた。

2009年初め頃、スウェーデンの中道右派連立政権の閣僚が記者会見やメディアのインタビューで口にした発言が印象的だった。アンデシュ・ボリ財務大臣「今年は1年中、真冬だ」と言うし、スヴェン=オットー・リトリーン労働市場大臣「今年は糞まみれの年 (skitår) だ」と強調し、あたかも2009年の一年間はまったくの暗闇であるかのような悲観的見解をあちこちで展開していた。財務省が発表する経済予測でも2009年から2010年にわたってマイナス成長が続き、失業率も11%か12%くらいまで上がると見られていた。

私自身のスウェーデン経済に対する見方は、そこまで悲観的なものではなかった。スウェーデン・クローナが大きく減価したためにその分だけ国際競争力が高まることになったから、世界的に景気が回復し始めれば、需要は一気に持ち直すだろう。それに、経済力のポテンシャルはあるから通貨の下落も一時的なものに過ぎないだろう。また、日本と違い、不景気になった時点での政策金利が高く、それを下げる余地が十分にあったから、金利低下によるショック効果もあるだろう。

もちろん、世界景気の動向は予測しにくいが、スウェーデン経済もすべてが外需頼みというわけでなく、サービス業がスウェーデン経済に占める割合も相当大きい。サービス業と一口にいっても、一部のサービス業は企業向けコンサルや研究開発など製造業に依存しているものもあるが、一方で小売・流通業などの内需が維持されれば経済全体の落ち込みも抑制される。また、クローナ安のために輸入品から国産品への需要シフトも起こるだろうし、夏のバカンスを国外ではなく国内で過ごす人も増えるだろう。ドイツなどからクローナ安に惹かれてやってくる旅行客もいる。

<過去の記事>
2008-12-04:ドカーン!と利下げ
2009-02-12:またもや利下げ
2009-04-22:歴史的な低金利とスウェーデン経済の将来に対する期待


だから、与党があらわにしていた悲観的な見方は、私はあまり理解できなかった。むしろ、巧妙なPR戦術ではないかと疑っていた。それがどういうことかを示すために、その逆の場合を考えてみよう。つまり、人々に過度に大きな期待を持たせた場合、それが外れたときのショックは計り知れず、支持率の低下も必至となる。鳩山政権やオバマ政権がその良い例だろう。それに対し、人々の抱く期待を極力抑制しておいて、実際には結果がそれよりも良かった場合、人々はホッとし、支持率も上がる可能性が高い。少なくとも下がりはしないだろう。だから、保守・穏健党を中心とする中道右派政権も、実際にはそこまで悲観的な見方はしていなくても、2009年の初めには敢えてそのような見方を国民に伝えておき、実際の景気回復がその見方を上回わることを見込んでおいて、支持率の上昇につなげようと考えたのではないだろうか。

2009年の初めといえば、スウェーデン経済がリーマンショックを受けた世界経済の大波に揺さぶられて時だから、いくら悲観的な見方を表明したところで、政権党が大きな批判を受けることはない。スウェーデンの人々も政権党にできることは限られており非難しても意味がないと感じていたからだ。だから、状況をうまく利用して、国民にできるだけ低い期待を持たせておく。一方、景気回復が本格化するとすれば2010年の頃となり、総選挙の年だから、予測を上回る速さで景気が回復し支持率が上昇すれば、選挙で勝てる!

2009年初めのアンデシュ・ボリ財務大臣スヴェン=オットー・リトリーン労働市場大臣の発言を聞きながら、そのような隠された意図(hidden agenda)があるような気がしていた。しかし、本当にそうなのか自信はなかった。

だが、それ以降これまでの経済や世論の動きを見ていると、その筋書き通りに動いているとしか思えない。スウェーデンの景気は2009年夏から秋にかけて底を打ち、順調な回復を見せている。自動車産業や他の製造業も受注が回復し、操業テンポを戻しつつある。それに合わせて解雇された人の再雇用も少しずつではあるが始まっており、2011年まで上昇が続くと見られた失業率も今の段階でほぼ頭打ちとなっている。経済成長の予測も相次いで上方修正され、その度に「予想を上回る景気回復」という見出しが新聞やテレビのニュースを飾っている。

与党もそのような嬉しいニュースが流れるたびに「それは俺たちが適切な政策を行ってきたおかげ」という趣旨のコメントを繰り返している。そのような説明付けを世論がどこまで信じているかは分からないが、少なくとも支持率を下げる要因ではないことは確かだ。

逆に苦労しているのは、野党である社会民主党だ。もし、当初の予想通りに今年2010年に入ってからも景気が低迷し、本当にお先真っ暗であれば、世論の不満をバックに与党をとことん叩くことができたのだが、それができない。では、政権党の政策に代わる案を打ち出せるかというと、景気回復基調が濃厚で、社会全体に希望が膨らんでいる今、それも容易ではない。現在の中道右派政権が行ってきた失業保険改革や疾病保険改革などの個別分野は、確かに槍玉に挙げることもできるが、これらの争点の対立構造は当初のそれとは異なってきており、簡単に白黒付けらなくなってきた。

また、与党が財政管理をきちんとしてきたおかげで、不況の真っ只中であった2009年でも財政赤字はせいぜい2%(対GDP比)に過ぎない。野党・社民党が「不況を和らげるために、もっと財政出動して各方面の政策にお金を投じるべきだ」と言えば、「大きな財政赤字に喘いでいるギリシャやイギリスの二の舞を踏みたいのか」と逆に叩かれるし、「いやその分、税金を上げる」と言えば(実際に言っている)、負担増となり世論の支持を減少させてしまう。

与党にとって、現状は絶好のチャンスだ。こうなることを本当に予期したPR戦術なのか分からないが、もしそうなら、大したものだと思う。

スウェーデン初の海中国立公園

2010-06-23 23:27:29 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンで第29番目となる国立公園が、2009年9月に制定された。この国で一番最初の国立公園が制定されてから100年目という、節目の年に設置されたこの国立公園は、それまでの国立公園とは少し違う。なぜかというと、その大部分が海中に位置しているからだ。

この「コステル海国立公園(Kosterhavets Nationalpark)」は、スウェーデン西海岸あるコステル諸島の周りのコステル海に位置し、ノルウェー国境と接している。下の地図に引かれた黒線がスウェーデンとノルウェーの国境だが、その線がそのまま海に伸びて、両国の領海を隔てている。その南北にそれぞれ赤線で囲まれた国立公園があるのが分かるだろう。このノルウェー側とスウェーデン側の海域が、今回それぞれ同時に国立公園に指定されたのだ。

スウェーデン側のコステル海国立公園フィヨルドの一つで、一番深いところは水深200メートルくらいだ。スウェーデン西海岸の他の海域に比べて水温が低く、塩分濃度が高い。そのため、海洋生物の多様性が大きいサンゴ礁や腕足動物をはじめ、6000種類の生物がこの海域で確認されている。そして、この生物多様性を今後も維持して後世の世代へと受け継いで行くために、スウェーデン議会は2008年に国立公園に指定することを決定したのである。


しかし、一つの問題が指摘されている。国立公園に指定はされたものの、底曳きトロール漁の禁止は行われないことである。底曳きトロール漁は、通常カレイやタラなどの底魚を漁獲するために用いられる漁法であり、この海域ではこの漁法によって特にエビ漁が営まれている。ただし、底曳きトロール漁は海底を引っ掻き回し、そこにある生態系を破壊してしまう

この海域には、かつては今以上に多くのサンゴ礁が存在していたが、1970年までに大部分が死滅してしまった。盛んに行われた底曳きトロール漁が原因だと、海洋生物学の専門家は見ている。今回の国立公園指定は、まさに僅かに残された生態系を守ることを目的としていたのだった。現在、サンゴ礁が存在するのはコステル海のごく限られた部分だが、そこでは確かに底曳きトロール漁が禁止されることにはなった。しかし、保護することが求められているのはサンゴ礁の他にも様々な底生動植物があるにもかかわらず、底曳きトロール漁が禁止されるのはコステル海国立公園のわずか2%にすぎない。一方、同時期に国立公園に指定されることになったノルウェー側の海域では、その10%で底曳きトロール漁が禁止されることになった。

このように、底曳きトロール漁が今後も海域の大部分で続けられることに対しては懸念が多いが、国立公園に囲まれたコステル諸島には約320人の住民が暮らし、主に漁業(エビ漁)や遊漁、観光業で生計を立てているため、国立公園指定に向けた協議の中で底曳きトロール漁の禁止を盛り込むことは難しかったようだ。(ちなみに、夏の間はリゾート客のために島に居住・滞在する人の数は8000人に膨れ上がる)

他方、漁師の側は環境への負荷を少しでも減らす工夫をしている。例えば、底曳きトロール漁によるエビ漁では、タラやカレイなどの混獲が懸念されたが、現在は網の入り口に格子をつけることで魚が網に入るのを防ぐことが義務付けられている。そのような工夫によって、漁師の中にはマリン・エコラベルなどの認証を取得しているものもいる。では、底曳きトロール漁以外にエビを獲る方法はないかというと、現在は籠による漁法の研究が続けられているがまだ実際にはほとんど用いられていない。



このような問題があるものの、残された貴重な生態系が国立公園の指定によって保護され、回復していくならば、今後はエコツーリズムが盛んになり、また、魚の産卵場所が拡大していけば漁業にも良い効果をもたらすことが期待される。一方、底曳きトロール漁をどの海域で許可するかについては、今後も議論が続けられていくだろう。

<出典>
2009年9月6日付 日刊紙Dagens Nyheterの科学面に掲載された記事を元に作成

7月3日イベント 市民向けシンポジウム @ 慶應義塾大学 三田キャンパス

2010-06-17 02:06:56 | コラム
立て続けにイベント告知です。参加者はイサベラ・ロヴィーン氏に加えて、大学の専門家、NGOの方、漁協の方、ジャーナリストの方など、非常に多彩な顔ぶれですので、興味深い議論になることを期待しています。参加費は無料ですが、この記事の最後のほうに協賛のお願いを載せています。今回の企画は、非常に厳しい予算の中で、様々な方の協力に支えられながら行っておりますので、協賛のほうも是非ともよろしくお願い致します。

COP10 100日前緊急イベント 海の生物多様性を考える
スウェーデン環境党・欧州議会議員 / 『沈黙の海』著者
イサベラ・ロヴィーンさん来日シンポジウム


魚が食べられなくなる?
〜漁業と流通、消費を問い直す〜

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■ 日時: 2010年7月3日(土) 13:00〜17:30(会場12:30)
■ 会場: 慶應義塾大学 三田キャンパス 南館地下4階ディスタンスラーニングルーム
■ 参加費: 無料
■ お申込み方法
先着200名。(1)お名前、(2)ご所属、(3)ご連絡先(メールアドレスあるいは電話番号)を明記の上 sakana0703@gmail.com までお申し込みください。

■ 共催: EU Studies Institute in Tokyo (EUSI)、持続可能なスウェーデン協会、グリーンピース・ジャパン、アジア太平洋資料センター(PARC)
■ 協賛: パタゴニア日本支社

■ プログラム(予定)
12:30 開場
13:00 あいさつ 田中俊郎氏(慶應義塾大学教員/EUSI所長)
13:05 イサベラ・ロヴィーン氏講演(逐次通訳)
     「水産資源は急速に枯渇している〜EUの事例から」
14:05 勝川俊雄氏(三重大学)講演
     「日本の漁業管理の現状と課題」
14:20 アジア太平洋資料センター制作DVD上映
     「食べるためのマグロ、売るためのマグロ」
14:55 花岡和佳男氏(グリーンピース・ジャパン)講演
     「水産物流通の現状と問題点」
15:25 アジア太平洋資料センター制作DVD上映
     「食卓と海 水産資源を活かし、守る」
16:00 大野一敏氏(船橋市漁業協同組合)講演
     「漁業から見る海洋環境保全の必要性」
16:15 パネルディスカッション
     「いかに管理し、いかに食べるか」 モデレーター:井田徹治氏(共同通信社)

「いかに管理し」では、EU、日本、国際的な水産資源管理の現状と課題、海洋環境保全の必要性、海洋保護区などについて、「いかに食べるか」では、消費者に対してどう魚を食べるのかということ(日本の水産物輸入によってどんな影響が起きているのか、翻って地場の漁業者が獲った魚の市場が奪われてしまっているのではないかなど)を議論します。

17:15 あいさつ
17:20 終了予定

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魚や貝、海藻など、海からもたらされる恵みは、古くから私たちの食卓を支えてきました。しかし、こうした水産資源が枯渇しつつあることが世界中で懸念されています。本来、これらの資源は自然の営みの中で子孫を残し、再生産し続けます。しかし、その力を超えるほどの量が獲られ続けてきました。同様に魚や貝が生育できる環境も失われています。

国連食糧農業機関は、世界の水産資源の4分の3が限界まで獲られてしまっていると警告、2015年に不足する魚介類の量は世界でおよそ1,100万トンと予想しています。これは、日本で1年間に消費する魚介類とほぼ同量です。

実際にこれだけの魚介類が不足すれば、価格の高騰は避けられません。タンパク質を魚介類に依存する世界の貧困層への影響は深刻ですし、日本の食卓にとっても人ごとではありません。
 
2010年10月、名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催されます。私たちの暮らしを支える豊かな生態系を保全し、将来にわたって利用し続けていくために、締結国が話し合います。
 
その100日前にあたる7月3日(土)に、スウェーデンから、ヨーロッパの資源枯渇を告発したジャーナリストであり、現在は欧州議会議員として水産行政の改革に関わっているイサベラ・ロヴィーンさんをお迎えし、「魚を食べ続けていくために」という視点から海の生物多様性を考えるシンポジウムを企画しました。

クロマグロの禁輸が話題になり、水産資源の枯渇が懸念されていることは身近な話題になりつつあります。しかし、どのような生産・流通・消費構造の中でそうした状況が起こっているのかということはあまり知られていません。

本シンポジウムでは、この点にもスポットをあて、私たちの画一的な消費のあり方自体が、乱獲や環境に負荷をかけるような養殖に結びついていることを明らかにしていきます。
また、持続可能な漁業を行なう事例も紹介しながら、そうした漁業を支える「持続可能な水産物消費」についても考えます。

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■ スピーカー、モデレーター紹介
Isabella Lövin (イサベラ・ロヴィーン)
 スウェーデン環境党・欧州議会議員

1963年生まれ、ストックホルム在住。消費者・食・環境の問題を専門に扱うジャーナリストとして活躍。2007年夏にスウェーデンにて出版した『沈黙の海 − 最後の食用魚を追い求めて』では、乱獲によってスウェーデン近海やヨーロッパ・世界における水産資源が枯渇に瀕していることに警鐘をならし、人々の関心を大きく高めることとなった。2007年ジャーナリスト大賞、2007年環境ジャーナリスト賞を受賞。2009年6月の欧州議会選挙に環境党から立候補し当選。


勝川俊雄 (かつかわ・としお)
 三重大学生物資源学部准教授

1972年、東京生まれ。東京大学農学生命科学研究科にて博士号取得した後、東京大学海洋研究所助教を経て、現職。研究テーマは、水産資源を持続的に利用するための資源管理戦略の研究、希少生物保全のための持続性の評価など多岐にわたる。現在は、ノルウェー、ニュージーランド、オーストラリア、米国などの漁業の現場を周り、世界各国の資源管理制度の比較研究に力を入れている。業界紙、ブログなど様々なメディアで、日本の漁業改革の議論をリードしてきた。日本水産学会論文賞、日本水産学会奨励賞を受賞。


花岡和佳男(はなおか・わかお)
 国際環境NGO グリーンピース・ジャパン 海洋生態系問題担当

2000年から2002年までアメリカ・フロリダでマナティーやウミガメの保護活動に参加し、その後マレーシアにてマングローブを伐採しないエビの養殖施設の立ち上げに貢献。2007年よりグリーンピース・ジャパンに所属し、沖縄ジュゴン、違法漁業、捕鯨、過剰漁業といった海の生物多様性を守るキャンペーンを展開している。2008年の国際捕鯨委員会(IWC)では、約30年ぶりに会場内でのNGOに発言権が与えられ、30を超えるNGOの代表としてスピーチを行い、各国政府に実質商業捕鯨の中止を訴えた。国内では現在、太平洋クロマグロの過剰漁業を問題視し、漁港や市場などを巡り調査を行ったり、過剰漁業や漁業管理についてのシンポジウムを開催するなどして、海洋保護区の設立に向けた活動に注力している。


大野一敏(おおの・かずとし)
 船橋市漁業協同組合代表理事組合長

江戸時代から続く網元の家に生まれ、60年にわたり東京湾で漁業を営む。経済成長の中で海の環境が変化することに危機感を覚え、サンフランシスコ湾保全運動などを研究。湾はかけがえのない天然資源であるという信念のもと、埋め立て反対運動などを通し、東京湾最奧に残された干潟、三番瀬の保全に関わる。著書に『東京湾で魚を追う』。


井田徹治(いだ・てつじ)
 共同通信科学部編集委員

1959年12月東京生まれ。1983年、東京大学文学部卒、共同通信社に入社。1991年、本社科学部記者。2001年から2004年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。現在、同社編集委員。環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルグ)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。著書に「サバがトロより高くなる日 危機に立つ世界の漁業資源」(講談社現代新書)、「ウナギ 地球環境を語る魚」(岩波新書)、「生物多様性とは何か」(岩波新書)など。


■ 上映作品紹介
「食べるためのマグロ、売るためのマグロ」2008年 31分
http://parc-jp.org/video/sakuhin/maguro.html
マグロを切り口に、グローバルなフードビジネスが私たちの食卓や環境に与えている影響を探り、「マグロが食べられなくなる」ような状況が生み出された背景に迫る。

「食卓と海 水産資源を活かし、守る」2009年 34分
http://parc-jp.org/video/sakuhin/sakana.html
マグロだけでなく水産資源全体の枯渇が世界的に懸念される中、資源を利用しながら保全するコミュニティの実践を追う。「持続可能」な漁業のあり方を考えると同時に、海の恵みを長く楽しむための「食べ方」を考える。

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■ 協賛のお願い
このシンポジウムは、ご協賛いただける方/団体を募っています。
ご協賛くださる方は sakana0703@gmail.comまでご一報の上、下記口座へ協賛金をお振込みください。

【団体】 協賛金 1口 10000 円(1口以上何口でも可)
【個人】 協賛金 1口 2000 円(1口以上何口でも可)

【お振り込み先】
お振込先口座:三井住友銀行神田支店 普通預金 7962767
口座名義:特定非営利活動法人アジア太平洋資料センター

*お振り込みの際は、お名前の前に0703をつけてください。

7月1日イベント 「持続可能な水産行政に向けて」 @ スウェーデン大使館

2010-06-15 07:19:01 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデン・EU・日本
持続可能な水産行政に向けて


『沈黙の海』著者 イサベラ・ロヴィーン欧州議会議員を迎え

2010年10月、名古屋で開催されるCOP10(生物多様性国連会議)を視野に入れながら
恵み豊な海をよりよく管理する国際協力の可能性を探る


EUが共通漁業政策のもとで管理している海域は、いまやバルト海から黒海、地中海、北海、大西洋におよび、EU加盟国の陸地の合計よりも広い。しかし2002年、EUは自分たちが行ってきた政策を振り返り、水産資源の持続可能性を考慮しないずさんな行政によってヨーロッパの海の各地で乱獲が行われてきたことを報告書の中で指摘した。それ以降、徐々にではあるが、水産資源のよりよい管理と活用のための取り組みが試みられている。

10月に名古屋で開かれる生物多様性に関する国連会議COP10では、海洋環境も重要なテーマである。そして、多様性の維持は、多種多様な魚を季節に合わせて食べてきた日本の食文化の発展と漁業の活性化とも合致する。EUと日本はこれまでの経験の中から何をお互いに学びあうことができるだろうか?今後も魚食文化を大切にし、安心して魚を食べ続けるという共通の目標のもとで、あるべき漁業政策について論じてみたい。

会場 :スウェーデン大使館オーディトリアム http://www.sweden.or.jp/
 地下鉄南北線六本木一丁目駅、日比谷線神谷町駅歩いて10分
日時 :2010年7月1日(木) 14:00-17:30 (開場:13:30)
主催 :持続可能なスウェーデン協会(Sustainable Sweden Association)
協力 :水産庁、スウェーデン大使館、EU代表部、財団法人ハイライフ研究所
参加費:無料
申込み:先着順。、お名前、所属、当日の連絡メールアドレスあるいは電話番号を明記の上 VZQ11450@nifty.ne.jpにご連絡ください。


プログラム

開会挨拶 14:00
 ヘイス・ベレンツ(Gijs Berends )駐日欧州委員会代表部通商部一等書記官

【講演】 14:10-15:10 
 イサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)、「沈黙の海 — 最後の食用魚を求めて」著者
 欧州議会議員(スウェーデン環境党)
 「生態系の視点から見たEUとスウェーデンの漁業政策、現状と最近の動き」
 逐次通訳:佐藤吉宗(よしひろ)、「沈黙の海」訳者(英語/日本語)

【講演】 15:10-15:35
 大橋貴則(おおはし たかのり)、水産庁漁政部企画課
 「日本の漁業や資源、海洋環境の現状と政府の対応策について」

休憩・名刺交換の機会 15:30-15:50  

【対談・質疑】
 テーマ:「持続可能な社会に向けて」
 対談者:イサベラ・ロヴィーン、大橋貴則
モデレーター:佐藤吉宗

終了 17:30
  
司会:佐々木晃子

講演者のプロフィールなど詳しい情報はこのPDF文書をクリック

財政健全化を成し遂げたスウェーデンの成功例

2010-06-13 18:17:33 | スウェーデン・その他の経済
リーマン・ショックが発生する前であった2008年の春先から8月頃にかけて、アメリカの金融バブルがそろそろ弾けそうだと危惧されていたが、そんな頃、実際に金融危機に陥ったときにどう対処するかがアメリカで議論され始めていた。

その時、1990年代初めにスウェーデンを襲った金融危機にうまく対処し、比較的短期間で乗り切ったスウェーデン政府の経験が評価されて「The Stockholm Solution」という言葉が次第に使われていった。だから、危機の真っ只中で政権を担っていた中道右派連立政権の財務副大臣だったルングレン氏(穏健党)は、2008年の春にIMFに招かれ講演を行った。在ニューヨークのスウェーデン領事館も、NASDAQとの共催で「金融危機にどう対応するか-1990年代のスウェーデンの経験から」というタイトルのセミナーを開いたりもした。

「The Stockholm Solution」とは、端的に言えば、公的資金を潤沢に投入して、破綻した、もしくは破綻しかかった金融機関を救済し、金融システムのメルトダウンを防ぐことである。ちなみに「The Stockholm Solution」の経験が持ち出されて議論された際に、評価を受けたのは何も当時の政権党やルンドグレン財務副大臣だけでない。野党でありながら、自国の経済破綻を防ぐために、与党と建設的な協力を行った当時の社会民主党も賞賛されることとなった。一方、スウェーデンの成功例に対する反面教師として何度も引き合いに出されたのが、金融機関への公的資金の注入を長いあいだ決定できず、貸し渋りなどの深刻な問題を引き起こすことになった日本の例であった。

リーマン・ショック以降の世界的な金融危機では、様々な国で実際にスウェーデンの過去の経験が生かされた。スウェーデンの政治家や政策担当者は、さぞかし鼻が高かったに違いない。

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今年に入ってからは、ギリシャをはじめとする南欧諸国やアイルランドで、今度は財政危機が大きく顕在化し、国が債務不履行に陥るリスクが高まったために、ヨーロッパ全体の経済が大きく揺らいでいる。

しかし、この文脈においても、見習うべき一つの例として世界のメディアが引き合いに出しているのがスウェーデンである。1990年代初めの金融危機では財政赤字が深刻となり、政府債務残高が急速に膨張しGDP比74%となった。そのため、景気が回復基調に乗り始めていた1994年以降、財政再建の必要性が認識されることとなった。1994年9月の総選挙によって、政権は社会民主党に移ったが、彼らもその認識は同じだった。

社会民主党政権は、歳出削減と増税を行って財政再建に努めた。1994年から1996年まで財務大臣を務め、その後、首相となったヨーラン・パーション「Den som är satt i skuld är icke fri(負債を抱えた者に自由はない)」という有名な言葉を作り、財政再建のスローガンとした。

また、1990年代初めまでの予算決定や財政管理のあり方には問題があり、それが財政規律を緩めていると指摘されたために、予算決定のプロセスを改めたり、歳出キャップ制を導入し、各年の予算案にはその後2年間の経済予測を添付し、それぞれの年の歳出にあらかじめ上限を設けることで、財政規律を強化するなどの努力が行われた。これらの努力が効果を表し、1990年代末からは財政は黒字に転じ、2005年までに政府債務残高をGDP比50%にまで押し下げたのだった。最新の統計によると42.3%だという。


ヨーロッパ各国の政府債務残高

一昨日のFinancial Times紙では、スウェーデンの財務大臣アンデシュ・ボリが独占インタビューを受けていた。3週間ほど前のブログで、ボリ財務大臣がテレビの前で自信ありげに喋っている話を紹介したが、Financial Timesの記事でも自信満々だった。

「If the eurozone is to escape its sovereign debt crisis, south European countries must learn from Sweden’s example of spending cuts and structural reform in the 1990s」
(ユーロ圏が財政危機を克服したいのであれば、南欧諸国は1990年代にスウェーデンが行った歳出削減や構造改革の例から学ぶべきである)

と記事の冒頭で述べている。また、欧州中央銀行がギリシャなどの問題国に融資を決めたことで事態は落ち着いているが、あくまでも短期的な解決策に過ぎず、長期的な解決策はその国自身がどうするかにかかっている、と述べた上で、

「They cannot have our expenditure levels and US tax levels. That is not a viable combination」
(スウェーデンのような歳出水準を維持しながら、税率はアメリカのように低く抑えているなんて、持続可能な組み合わせとは言えない)

と、財政の構造改革が急務であることを訴えていた。でも、税収に見合わない歳出水準を長年にわたって維持してきた国が、本当に財政構造改革なんてできるのだろうか? ボリ財務大臣は、スウェーデンが財政再建に取り組んだ時の状況を振り返って、こう答えている。

「People said we were so into welfarism; that we were completely unable to take control of our public finances. The guys on Wall Street were saying, ‘you will never get your house in order’.」
(スウェーデンは「福祉国家」の考えにどっぷりと浸かっているから、公共財政の管理なんて全くできっこない、とよく言われたものさ。ウォール街の連中は「お前らは自分ちの家計の立て直しが絶対にできないだろうよ」と言ったさ。)

しかし、そのような懐疑論にもかかわらず、当時GDP比で12%の赤字を抱えていた財政は、それから5年のうちに均衡化し、現在ではヨーロッパ、いや世界の先進国の中で財政が最も健全な国の一つとなるまでに至っている。金融危機の真っ只中であった2009年も財政赤字はGDP比2%ほどに過ぎない。

財政再建を行ったのは社会民主党政権だったが、その理念はボリ蔵相の属する穏健党(保守党)も共有するところであり、また、ボリ蔵相は今回の金融危機に際して、金融機関救済パッケージを早く打ち出し国内の金融不安を抑え、さらに、財政管理をうまく行い財政赤字を極力抑えてきた。


だから、EUの蔵相会議や世界の舞台では、非常に誇らしいボリ財務大臣。Financial Times紙は「彼は、この金融危機の嵐の中で名声をむしろ高めることになった数少ない財務大臣の一人だ」と、見事に的を射た表現を使っていた。

日本の菅首相も、財政健全化に力を注ぐという。ボリ財務大臣の発言にある「They cannot have our expenditure levels and US tax levels. That is not a viable combination」という指摘は、まさに日本にも当てはまることだろう。財政を立て直すためには、歳出と歳入のアンバランスをなくさなければならない。そのために方法の一つは、歳出を減らすことだが、無駄遣いの削減だけで財政の均衡化が図れるなんて甘い考えは捨てて、もう一つの方法、つまり、増税による歳入増加を積極的に議論しなければならないだろう。

ちなみに、ボリ財務大臣は現在42歳だが、2006年秋に就任した当時は38歳だった。若くて、ポニーテールでピアスまでしている姿は、メディア受けもするが、それだけではない。大学や大学院で近代経済学をしっかり学び、実際の経済の仕組みをちゃんと理解できた上で、国の経済を管理するトップに就いている人というのは、他の国を見渡してもそれほど頻繁にいるものではないだろう。

イサベラ・ロヴィーン氏の来日イベント告知

2010-06-11 06:32:09 | コラム
ここ2ヶ月ほどのあいだ帰宅後から夜遅くまで、共同企画者たちと計画を練ってきましたが、企画の概要がだいたい固まってきました。

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『沈黙の海』著者 イサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)氏の来日イベント
2010年6月27日より7月4日まで日本滞在


来日企画全体の主催者:持続可能なスウェーデン協会


イサベラ・ロヴィーン(Isabella Lövin)
『沈黙の海―最後の食用魚を求めて』著者
EU・欧州議会議員(スウェーデン環境党所属)


「私たちが日頃好んで食べているタラはいつまで食べられるか?」スウェーデン人の女性ジャーナリスト、イサベラ・ロヴィーン氏は、3年がかりの調査の末に2007年夏に出版したドキュメンタリー本『沈黙の海』の中でこう問いかけた。人々が普段目にすることのない海の下で、乱獲のために水産資源が大きく枯渇しているという情報は、スウェーデンの人々の関心を釘付けにし、その年のベストセラーの一つとなった。

スウェーデンでは昔からタラが大衆魚として食べられてきたが、現在の漁獲量は最盛期の2割を下回っている。近海に生息するタラの総量が大きく減少したためである。また、スウェーデンに漂流してくるヨーロッパウナギの数は主に養殖を目的とした乱獲のために過去数十年で激減し、このままでは近い将来絶滅する恐れすらある。

国際海洋探査委員会(ICES)は、ヨーロッパ近海に生息する魚種の8割が乱獲にさらされていると警告を発している。EUは研究者の声を無視した過大な漁獲枠を長年にわたって設定してきたが、2002年に発行した報告書の中で、水産資源の持続可能性を考慮しないずさんな行政が行われてきたことを自ら認めた。世界の海でも、乱獲による水産資源の枯渇が危惧されている。

では、水産業界がすべて悪いのかというとそうではなく、資源の持続可能性を考慮しながら、消費者に安心して食べられる魚を提供している沿岸漁業の漁師たちもいる。一方で、近代的な技術を駆使して、魚の群れを丸ごと獲ってしまうような産業的漁業を行っている沖合・遠洋漁業の漁師たちもいる。彼らのなかには、ヨーロッパで魚が獲れなくなったためにアフリカ沖合いにはるばる出かけてまでも漁を続ける者もいる。そして、沿岸漁民の生活の糧を奪い、途上国での貧困を助長している。また、世界的に漁獲が減るなか養殖が今後の漁業を支えるという見方もあるものの、餌や稚魚を自然界に頼っている場合が多く、養殖に多大な期待をかけることは危険である。これらのことが、本書の中で明らかにされている。

問題は、漁業と水産資源、そして海洋生態系を私たちがいかに管理するか、ということである。著者イサベラ・ロヴィーン氏は著書の中で指摘したEU行政の改革に自ら携わりたいと考え、2009年6月に行われたEUの欧州議会の選挙にスウェーデン環境党から立候補し見事当選を果たした。彼女は現在、欧州議会の漁業委員会の一員として、2012年に正式決定されるEUの漁業政策改革に向けた議論を行っている。

『沈黙の海』の邦訳版2009年11月に日本で発売された。今年10月には名古屋で国連生物多様性条約の締約国会議(COP10)が開催されるが、それに先駆けて「持続可能なスウェーデン協会」は、著者イサベラ・ロヴィーン氏を6月28日から7月4日の間、日本に招待する。この期間中、ロヴィーン氏は日本の水産研究者や水産庁、環境省、NGOなどと情報交換の場を持ち、幅広い様々な意見に触れる予定である。一般市民向けのシンポジウムも企画している。

魚というと、食料源や経済資源と捉えられることはあっても、海の生態系を織りなす重要な構成要素と見なすことは普段あまりない。海洋生態系や水産資源の持続的な管理と、今後も安心して魚を食べ続けたいという目標は、日本もヨーロッパも共通である。その目標に向けて、ではCOP10において海洋環境の重要性をどう訴えていくかを考える場にしたい。


<日本滞在中の主な予定>
6月27日(日) 日本到着
  28日(月) 視察など
  29日(火) 東京大学にて日本の研究者の方々との会合
  30日(水)

7月 1日(木) スウェーデン大使館にて水産庁とのシンポジウム
テーマ「スウェーデン・EU・日本 ― 持続可能な水産行政に向けて」

   2日(金)

   3日(土) 市民向けシンポジウム(東京都内)
テーマ「魚を食べ続けるために ― 持続可能な水産物生産・流通・消費と生物多様性を考える」

   4日(日)日本出発

一般公開となるイベントは7月1日のスウェーデン大使館でのシンポジウムと、7月3日の市民向けシンポジウムです。詳細な案内はもうすぐ完成しますので、ここで紹介します。水産資源の持続可能性や水産行政について関心がある方は、時間を空けておいてくださいね。私も通訳や司会、モデレーターとして、全日程に参加します。

貧乏くじを引いたエリクソン元社長

2010-06-08 06:08:49 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンを代表するテレコム企業のエリクソン最高経営責任者を務めたのは、1952年生まれのスウェーデン人であるカール=ヘンリク・スヴァーンベリ(Carl-Henric Svanberg)だった。2003年から2009年の間このポストに就いていた彼はエリクソンの顔的な存在となり、同時期にはソニー・エリクソンの会長(取締役会の議長)も兼任していた。


ビジネスエンジニアの両方の学位を持つ彼は、その前にもスウェーデンの大手企業の幹部や経営者のポストを転々としながら、経営エリートの道を着実に歩んでいた。だから、エリクソンの最高経営責任者を7年務め、良い評価を受けていた彼は、次なるステップを歩むことにしたのだった。

2010年初日から彼が着任したポストは、世界第3位であるイギリスの石油企業BPの会長職だったのだ! この時点では、どんな不幸が待ち受けているのか、彼は知る由もなかった・・・

新しい仕事にも慣れたばかりの4月20日、メキシコ湾の沖合80kmのところで操業していたBP所有の石油プラットホームが爆発炎上し、大量の原油が海底1500mの場所から流出することとなった。牡蠣をはじめとする水産資源や生態系の宝庫であった周辺地域への汚染が日ごとに拡大している。石油流出事故としては史上最大だと言われている。

カール=ヘンリク・スヴァーンベリは本当に不運だとしか言いようがないが、そんな言い訳は通用しない。企業の会長として積極的に表に出て、批判に対応したり、企業に対する信用の失墜を少しでも抑える努力をすべきだった。

しかし、彼が取った戦略はその正反対だった。彼は事故以降、全くメディアに姿をあらわさず、企業を通じて時たまプレスリリースを流すくらいだった。一方、世界中の批判を一手に浴びながら、現場で復旧作業を指揮したのは最高経営責任者であるTony Haywardだった。確かに、日々の業務に対する責任は彼にあるものの、このような例外的・危機的な状況において、メディアの前に出て、状況や対策を報告したり、企業の株価がこれ以上下がらないように務めることが取締役会の議長である会長の役目だという声が日増しに高まっている。企業の中でも、彼の辞任を求める声が既に上がり始めている。


スウェーデン日刊紙の2010年5月19日付経済面より
『スヴァーンベリ、お前はいずこへ?』


新しい仕事からわずか半年足らずでおさらば、ということになるのだろうか? 嵐が過ぎ去るまでおとなしく隠れていよう、と考えていたのだろうか? 対応の不手際と、そもそも転職の仕事選びを間違えた責任は、自分で負うしかない。

いずれにしろ、事故が起きた際の対策を十分に講じることなく、リスクの高い海底油田掘削を行ってきたことは大きな問題であろう。技術者による技術への過信なのか、それとも対策をおこたった怠慢なのか。認可を出した行政機関の責任も大きいだろう。

フルマラソンに挑戦

2010-06-06 07:00:53 | Yoshiの生活 (mitt liv)
8年ほど前に自転車を始め、4年ほど前にハーフマラソンを始め、そして今年、ついにフルマラソンに挑戦することとなった。

今年32回目のストックホルム・マラソンは、市内を2周するコース。今年は2万人近くが応募し、1万5千人が走った。午後2時の一斉スタートだが、スタートラインの通過時間とゴール時間は個別に計測される。最後のほうでのスタートとなった私は、2時にならされた号砲からスタートラインの通過まで6分もかかった。


1週目は好調だったが、20kmを過ぎた頃から、足の水ぶくれが痛み出し、救急テントでテーピングをしてもらう。その後、全く力が出なくなってしまって、スピードを遅くしたとたんに、足の筋肉が痙攣。だから、2周目は散々だった。

3kmごとに足が痙攣するので、その度に道端で苦痛をこらえていた。おまけにお腹の調子も良くないのにトイレがなかなか見つず苦労した。足の関節と筋肉の痛みをこらえながら、歩いてでもいいから前に進んだ。


目標は完走することだったのでその達成は果たしたが、タイムはよくなかった。前半と後半の所要時間が大きく開いていた。エネルギーの配分は今回あまり考えていなかった。


風船売り、ではなく、ペースキーパーの人たち。例えば「3:30」というバルーンを持っている人についていけば、3時間半でゴールできるペースできちんと走ってくれる

フルマラソンに今年初めて参戦したものの、初戦でボコボコにやられ、ほうほうのていで逃げ帰ってきた感じだ。しかし、ストックホルム・マラソンは単なる前哨戦に過ぎない。もっと大きなものが待ち構えている。

夕方のジョギング

2010-06-04 05:55:25 | Yoshiの生活 (mitt liv)
今日は経済学部で研究発表をし、いろんなコメントをもらった後、そのままヨーテボリ中央駅に急いで特急に乗り込んだ。


夕方、と言っても午後8時過ぎだが、外に出て10kmほど軽くジョギングをした。実はここはストックホルム。











なぜ、ストックホルムにいるかって? 土曜日に大きなイベントがあるためです!

サーブの新型モデル発売間近

2010-06-02 05:56:32 | スウェーデン・その他の経済
新生サーブの新しいモデルの販売が間近に迫ってきた。今週から、世界各国から250人近くのモーター・ジャーナリストがサーブの本拠地トロルヘッタンを訪れ、試乗を行う。

新しいモデルと言っても、既にある9-5というモデルの新型バージョンだが、デザインも刷新され、すっきりと清廉な感じがする。







この新型9-5モデルは既に昨年9月、フランクフルトで行われたモーターショーで公開されているが、当時はサーブの将来が真っ暗で、本当に販売が開始されるのかが不明だった。このモデルは今月後半から実際に販売が始まるが、新生サーブが当面生き残れるかどうかは、このモデルの売れ行き次第だと言ってもよい

サーブ車の主なマーケットの一つは当然のことながらスウェーデンだが、スウェーデン国内では、一般の企業が従業員に対する福利厚生の一環として乗用車を購入したりリースして従業員に与えるときにサーブ車を選ぶことが一般的だった。そのように一般企業が従業員に買い与える(もしくはリースして供与する)サーブ車は、スウェーデン国内のサーブ車の販売数の何と8割だったという。しかし、金融危機以降のドタバタでサーブの将来が危なくなったために、一般企業は他のメーカーの車を選ぶようになり、このマーケットでのサーブの販売台数は6割も減少してしまった。だから、再びこのマーケットで信頼を勝ち取ることが当面の課題とされている。