スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

看護婦・看護士のストライキ

2008-04-30 06:44:09 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンではだいたい3年ごとに労使間の集団交渉が行われる。昨年春から各業界が順番に交渉を行っていき、そろそろ終わったかな、と思いきや、まだ交渉を始めて間もないところもあった。県の病院や市の医療部門で働く看護婦・看護士からなる労働組合のうちの一つ。対するのは、雇い主である県・市が所属するスウェーデン地方自治体連盟

しかし、賃上げ交渉が決裂し、先週から2500人の看護士・看護婦がストライキに入った。5月に入っても労使間で妥協点が見出せない場合は、さらに1000人がストライキに参加するという。(この組合の加盟者数は85000人)

写真の出展:SVT

看護士・看護婦らの主張は「人々の生活に欠かせない上に、大学教育を要する貴重な職業であるのに、それ相応の評価がなされていない」というもの。同程度の長さの大学教育を要する理工系の職業などと比べても賃金が低く、また、一般の看護士資格のほかに特別な看護士の資格を追加教育を通して取得しても、給料の上昇がそれに見合ったものではない、という。

写真の出展:SVT

ストライキの中で聞かれるスローガンは
”Våran kunskap kostar pengar”
分かりやすく意訳すれば、
「私たちの技能は、金銭的にもっと高く評価されてもいい」
ということになるだろう。

医療に関わる仕事であるだけに、ストライキが始まると社会的機能の一部が停止してしまうことになる。ただし原則として、生命に関わる救急医療や、急を要する手術は通常通り行われることになっている。一方、閉鎖された県立病院などでは、入院患者を他の病院に移送したり、病院のスペースが足りなくなるなどの混乱も出ている。ただし、この組合の加盟者数85000人に対し、スト中なのは2500人程なので、大規模なスト、というわけではないようだが。

とはいえ、わずかでも社会的な混乱は免れない。一般のスウェーデン人はこのようなストライキをどう見ているのか? と気になるところだが、驚くことに大多数の人々が労働組合側を支持している

写真の出展:Dagens Nyheter

ストが決行されてから行われた世論調査での問いは「看護士・看護婦が高い給料を求めてストライキを行っているが、これは正しいと思うか、間違いだと思うか?」。これに対し、85%の人が「正しい」と答え、「間違い」と応えたのはわずかに5%という。残りの10%は「分からない・無回答」。

これは、今回のストがまだ小規模だからだ、と思われるかもしれないが、1995年に看護士・看護婦ストがより大規模に、そして7週間も続いたときや、2003年に市の福祉・医療・清掃・育児職員や教員などが大規模なストを行ったときも、大多数の国民が労組側に理解を示したという。

ある新聞の論説によると、医療部門の職員はストライキの際に国民の支持を得やすいという。国民の多くが、社会に欠かせない職業だとしっかり認識しており、彼らの日々の努力を知っているので、他の職業よりも共感しやすいようだ。

中国の人権活動家の例

2008-04-28 04:38:21 | コラム
スウェーデンのラインフェルト首相が今月中旬に訪中したことは、以前書いた。中国主席との会談の席で、スウェーデン首相は13人の人権活動家の釈放を要求したことにも触れた。この13人の中には、アムネスティー・インターナショナルが事前に首相に提出したリストに挙げられていた4人の人権活動家も含まれていた。

その4人とは、Hu Jia、Ye Guozho、Chen Guangcheng、Yang Chunlinだったが、このうち最後の人は「楊春林」氏のことのようだ。朝日新聞は彼が不当に逮捕され、不当な裁判の下、5年にわたる懲役の判決を受けたことを伝えている。

<朝日新聞より>
「五輪の囚人」中国活動家、人権訴え「国家転覆扇動罪」

中国では、これと同様の逮捕・拘束・懲役判決が数多く起きているようだ。しかし、チベットの件もそうだが、国の統制を受けた国内メディアのもと、中国の一般の人々はこのような重大な事態が自国で起きていることをどこまで知っているのだろうか? うすうす気付いてはいても「長いものに巻かれている限り、自分は大丈夫」とまるで他人事のように考えられているような印象を、ここ数日にわたって中国内外で起きている中国人のデモ行動を伝える報道を読むたびに思う。

土曜日にはストックホルムの王宮前でも、在スウェーデンの中国人や留学生が、中国の立場を擁護すべくデモを行った。「欧米は中国の実情を知らず、チベットにばかり加担している」「中国ばかりを批判するのは不当だ」などのスローガンが叫ばれたという。

写真の出展:Dagens Nyheter

上に掲載した朝日新聞の記事は、記事全体がかなり衝撃的だと思うが、中でも

「弁護士らによると、楊氏は拘置所で何日間もベッドに手足を鎖で縛りつけられたまま食事や排泄(はいせつ)を強いられた。 」

といった箇所は、警察や行政が一般の人々を不当に逮捕した上に、公権力を用いて嫌がらせとしか思えない行為を平気で行っている状況を象徴的に物語っている。

オリンピックを是が非でも政治的な大成功に導きたい中国は、自国の光の面ばかりを対外的に見せ付けようとする。しかし、このような記事を読むたびに、今年のオリンピックに対する興(きょう)はますます冷めていく気がする。それに、自国の問題から人々の目を逸らし、国民を団結させるための一つの手段として、共産党政権が「ナショナリズム」や「愛国心」を積極的に活用・推進している点が非常に気掛かりだ。

<関連記事>
Chinese Human Rights Defenders

2008年の春予算

2008-04-27 18:59:10 | スウェーデン・その他の経済
4月16日、2008年の春予算が国会に提出された。


スウェーデンの本予算は毎年秋に提出される。この春予算というのは、その年秋の本予算に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台のような役割を持つと同時に、その前年の秋に提出された本予算に若干の追加・変更を加える補正予算でもあるようだ。

細かい項目を見ていくと、

- 国家公務員の協約年金の予算の上乗せ
(協約年金は業界ごとに労使交渉で決められ、国民年金に上乗せされる。保険料はすべて雇い主負担。)
- 税関の予算の上乗せ
密輸などの増え続ける違法行為に対処するため。
- 公安警察の予算の上乗せ
要人の警護やテロ対策を強化するため。
- アフリカの紛争地 ダルフール(スーダン)とチャドにおいて国連平和維持活動に参加しているスウェーデン軍への予算の追加
予想以上に経費がかかったため。
- スウェーデン軍への予算の追加
これも困ったことに予算オーバー。
- 移民・難民受け入れ審査への予算の上乗せ
イラク難民の審査・手続きに費用が予想以上にかかっているため。
- ストックホルムオペラ、劇場などの文化予算の上乗せ

以上は、昨年秋の本予算で足りなかった分を追加するというもの。


今年秋の本予算(2009年分)に向けての優先順位や方向性としては、

- 労働所得への課税をさらに引き下げること(第3次)
- 年金受給者にも減税の恩恵を与える
(年金は一種の社会給付であるため、これまでの労働所得税減税は年金受給者を対象としてこなかった。その不満がこれまで積もりに積もってきたため、政権党も応えざるを得なくなっている。)
- 大学や研究機関の研究費の増額
- 保育所や学校教育への重点投資
- インフラ(道路・鉄道)の整備
- 温暖化対策

2006年秋の本予算と2007年秋の本予算では段階的な減税を行ってきた。ただし、好景気の真っ只中であり、熱い景気にさらに油を注ぐことになるため、国は歳出面で引き締めを行わざるを得なかった。しかし、今は当時に比べて状況が異なっている。アメリカを始めとする世界景気の減退に伴い、スウェーデン経済にも翳りが予想されるため、むしろ歳出を拡大して景気に刺激を与えたいところ。

景気循環調査庁によると、今年秋の本予算では300億クローナ(5250億円)の財政的余裕があると予測されている。これは、国家予算規模の3.8%に相当する。これを歳出に回してもよし、減税に使ってもよし、財政のバッファーとして残しておくくもよし。いずれにしろ、現時点ではスウェーデンの財政はまだ良好だといえるだろう。

<参考記事>
財政に予想以上の余裕(2008-02-15)

ちょっとだけ帰国

2008-04-23 11:03:37 | Yoshiの生活 (mitt liv)
前回のブログから分かるように、今、ちょっとの間だけ日本に戻っています。更新が遅れているのもそのため・・・。


昨日はいつもお世話になっている東京経済大学のある先生のゼミで、講義をさせていただきました。テーマは「スウェーデンの育児支援と女性の社会進出」

------
スウェーデンでは1960・70年代から「女性の社会進出」が進められてきたものの、育児・家事の負担の多くは相変わらず女性の側に押し付けられてきたので、仕事と家庭の両方を背負うことになった。これは見方を変えれば、仕事と家庭が両立できる社会である、ということでもあるので、評価できる。しかし、家庭での負担が減らされることなく、家庭外での仕事も持つようになったことが新たな問題となった。

そのため、労働時間を柔軟に変化できる職場(公的部門、パートタイム)に女性が多く雇用されるようになった。また、1990年代半ばまでは育児休暇のほとんどを女性がとっていたので、民間企業は責任ある地位に女性をあまり付けたがらなかった。

つまり、「女性の社会進出」という目標は達成したものの、次のステップとして「職場・労働市場における男女平等」「キャリア追求における男女平等」を目指す必要が出てきたのだった。

そこで、今スウェーデンで熱い議論は、いかにして男性の家事・育児負担を増やしていくべきか? つまり「男性の家庭進出」家事・育児のために生じる“キャリア上の不利”を男女で等しく分担していこう、という方向に社会を動かしていくことなのだ。

一つの方策としては育児休暇保険の一部を父親の側に固定することで、父親が取得しなければ、この分の育児休暇は活用できない、とすること。実際、1995年から育児休暇保険の給付期間の450日のうち、30日分を男性に固定した(パパの月)。2002年からは育児休暇保険が480日に延長され、そのうち60日分が父親に固定された。

男性の意識の面でも変化が見られ、家事・育児負担を積極的に分担しようとする若い世代の男性が増えつつある。男性による育児休暇の取得率も増えつつある・・・。

とはいえ、変化は遅い。「二人で稼ぐ家族モデル」から「二人で稼ぎ、二人で家事・育児をしていく家族モデル」への道のりはまだまだ長い。そのために様々な議論がスウェーデンで今、行われている。

------
というのが、趣旨でした。

25日には再びスウェーデンへ戻ります。

スウェーデン首相・環境相が訪日

2008-04-19 11:32:27 | スウェーデン・その他の政治
さて、中国を訪問したスウェーデンのラインフェルト首相カールグレン環境大臣だが、その足で今週は日本も訪れていたのだった。

ラインフェルト首相は16日に福田首相と会談。また、カールグレン環境大臣も記者会見を行ったようだ。

<毎日新聞より>
福田首相:スウェーデン首相と会談 平和構築で人材協力
スウェーデン環境相:サミットに「ポスト京都」前進期待
温室効果ガス:米大統領の声明 「ゼロでなく削減を」--スウェーデン首相

<日本経済新聞より>
温暖化ガス削減、「産業」別の日本案評価・スウェーデン首相

また17日には東京・表参道にある国連大学にて「持続可能な都市の発展」と題するスウェーデン・日本のジョイントシンポジウムが開かれ、両氏はそれにも出席。




ラインフェルト首相

カールグレン環境大臣

スウェーデン初の宇宙飛行士 クリステル・フーグレサング


私も観客席で聞くことができた。会場では日本のスウェーデン大使館でインターンシップをしているヨーテボリ大学の学生や、日本とスウェーデンの両国に関わっている日本の方などにお会いすることもでき、とても有意義だった。

スウェーデンと中国の首脳会談

2008-04-14 00:55:18 | スウェーデン・その他の政治
首相フレドリック・ラインフェルト(Fredrik Reinfeldt)が中国を公式訪問している。

「アジアのダボス会議」と呼ばれる「Boao Forum for Asia」に出席するのが理由の一つ。もう一つの理由は、昨年の中国政府のスウェーデンへの公式訪問を受けて、そのお礼として。スウェーデンの首相としては12年ぶりの訪中という。中国は環境・温暖化問題への取り組みを積極的に世界にアピールし、技術協力を促進するために、スウェーデンの訪中を強く希望していたという。

2009年12月にコペンハーゲンで行われる気候変動国際会議(COP13)では、中国の動き方が交渉の行方を大きく左右する。スウェーデンとしても早い段階から中国と対話を持ち、温暖化ガス排出抑制のための国際的な取り組みに中国など途上国を引き入れたい考えだ。

写真の出展:SVT
------
「アジアのダボス会議」のあとは、スウェーデンと中国の首脳会談が行われた。

そもそも、3月のチベットでの騒乱とそれに対する中国の武力による抑えつけを受けて、この訪中自体をキャンセルすべきだ、という声も高まっていた。そのような声に対し「対話が重要」とラインフェルト首相は訪中を予定通り行うことにした。では、彼は対話の場で中国主席に対してどのような問題提起や指摘・要求を行うのかが、スウェーデンでは注目されていたのだった。

写真の出展:SVT

土曜日に行われた50分に渡る会談の中で、ラインフェルト首相はまず、中国の抱える人権問題を指摘したという。その上で彼は、13人の中国人政治犯の名前を中国に提出し、彼らの釈放を要求した。

実は、今回の訪中に先駆けて、国際人権NGOであるアムネスティー・インターナショナルのスウェーデン支部はラインフェルトに対し4人の政治犯の釈放を要求するように願っていた。それに対し、首相は「個別の事例を取り上げるつもりはない」との態度を表明していたのだったが、実際の会談の席ではこの4人を含む13人の名前を挙げて中国政府に要求したのだった。そのため、アムネスティーもスウェーデンの野党も大きく評価している。アムネスティーが当初指摘した4人はHu Jia、Ye Guozho、Chen Guangcheng、Yang Chunlin。不当な理由で逮捕や監禁をされており、国際的にも名前が知られている人権活動家だという。

また、スウェーデン首相は、中国で行われている死刑制度や問題の多い司法制度についても指摘した。

チベット問題に関しては、武力・暴力の行使をやめることダライ・ラマとの対話の道を開くこと、そして、チベットへの出入りを自由にすること、などを取り上げたという。

ただし、首脳会談のメインテーマはやはり環境問題。ラインフェルト首相は中国に対し、環境・温暖化対策に一層の力を注ぐこと、そして、環境税(二酸化炭素税)などの経済ツール(人々に需要抑制のための経済的動機付けを与えるメカニズム)をスウェーデンにならって導入するよう求めたらしい。

------
やはり、今回の注目はラインフェルト首相が中国政府に対し、チベット問題や人権問題をどこまで強く要求するか、という点だったと思う。スウェーデン政府に対し、普段は強い要求をする人権NGOアムネスティーも、今回の首脳会談での首相の態度を高く評価しているところを見ると、これらの問題がしっかりと取り上げられた、と解釈できるのだろう。

さて、問題は当の中国がスウェーデン首相の要求をどこまで真剣に受け止めたのか。さらに、スウェーデン首相が中国主席にこれらの要求をした、というニュースがスウェーデン国内だけにとどまらず、国際メディアでちゃんと伝えられたか、ということも重要になってくるだろう。

夜光雲?

2008-04-11 00:36:05 | Yoshiの生活 (mitt liv)
2つ前の記事のコメント欄にKosaさんから「夜光雲」についての情報をもらった。「夕暮れ後の空に目を凝らしてみるのも中々面白いです」とのこと。

頂いたWikipediaのリンクには、
「夜光雲(やこううん)は中間圏にできる特殊な雲で、日の出前や日没後に観測される気象現象である。」
と書かれている。

そういえば、以前撮った写真に心当たりがあったので見てみると・・・


これなんか、もしかしたら「夜光雲」? Wikipediaの写真と結構似ている。
ヨーテボリの自宅のアパートの窓から、北の空に向かって。日時は2006年6月2日0時20分。遅くなってから帰宅したら、窓から見える空が何とも神秘的だったので撮ったのだった。確かこの頃は22時頃に日が沈んでいたように思う。

この推測が正しければ、地上75〜85 kmにできた雲に日没後の太陽が反射して淡く光っていることになる。どうでしょう、Kosaさん?

Absolut Vodka、仏企業に売却される

2008-04-09 10:22:39 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンのお酒といえば「Absolut Vodka」(アブソルート・ヴォッカ)が有名だ。アルコール度は40%を越えるウォッカだ。


スウェーデン北部キルナの「アイスホテル」に行けば、Absolut Vodka提供の「アイスバー」があるし、同様のコンセプトで、ヨーテボリの遊園地Liseberg(リセベリ)内にも「アイスバー」がある。それから、噂によると東京にもあるとか。

ともかく、積極的なマーケティングのおかげで、Absolut Vodkaの売り上げはスウェーデン国内だけでなく、むしろ世界的に大きく伸びているそうだ。これを製造しているのが「Vin & Sprit」(ヴィーン・オ・スプリット)というスウェーデンの株式会社。アルコールの製造、特に強酒の製造メーカーとしては世界でも有数だとか。

そんなスウェーデン企業も、実はこれまでスウェーデンの国有だったのだ。もともと1917年に国営企業としてスタート。当時は、禁酒法の制定が議論されていた時代であり、アルコール産業から営利目的の民間企業を追い出すために、この国営企業が設立され、アルコール製造の独占権が与えられたのだとか。戦後は、民間の製造メーカーも登場したものの、このVin & Spritは国有の株式会社として存在し続け、Absolute Vodkaのブランドの拡大で大成功したのだった。その結果、毎年、多額の配当金を国庫に納めてくれる、国にとっては美味しい企業となっていたのだ。(昨年の国庫への配当金は7.1億クローナ、つまり125億円)

しかし、現在の中道右派政権の方針は「国有企業および国の持ち株の順次民間売却」。民間企業が競争しあう市場の中で、国が営利ベースで企業を運営する必要はない、という考えからだ。

それに、スウェーデンではアルコール依存症やアルコールによる暴力に対し、国が頭を悩ましてきている。そのため、お酒の流通は国の独占にして、自由な流通に歯止めを掛けるという政策を国が採ってきた。だから、こんな政策の一方で、国有企業が営利ベースでウォッカのような強酒をバンバン売り込んでいる現状は、矛盾をはらんでいる。このような理由から、Vin & Spritの売却を望む声も上がっていた。

そのため、2006年の新政権誕生以降、地方自治体および金融市場担当大臣に任命されたMats Odell(マッツ・オデル)大臣が、Vin & Spritを含めた国有企業の売却を担当してきた。Vin & Spritの売却に関しては、投資銀行Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)が入札プロセスを担当し、最終的に4つに絞られた候補の中から、フランス企業Pernod RicardがVin & Spritをまるまる買収することになった。

この仏企業Pernod RicardはJameson、Havana Club、Martell、Chivas Regal、Mumm、Jacob’s Creekといったお酒の銘柄を所有する大企業とのこと(私自身はよく知らないが)。実は、この企業、一番高い額を提示しただけではない。Vin & Spritを傘下に入れた後もこの本社をストックホルムに置くこと、そして、Absolut Vodkaの生産拠点をスウェーデンに維持し、この生産と販売に今後も責任を負うことをしっかり約束しているという。なので、今回の売却には労組側も賛意を示している。

この企業の売却により、スウェーデン政府は554億クローナ(1兆円)の収入を得る。これは外貨建て国債の償還に当てるのだとか。そうすれば、今でも低いレベルだといわれる債務残高がさらに減少し、毎年の利払いも20億クローナ(350億円)減少するらしい。これをこの企業の毎年の配当金(昨年7.1億クローナ)と比較すれば、売却益が売却しなかった場合に比べていかに大きいかが分かる、と担当大臣は説明する。

入札では、スウェーデンのリスクキャピタル公的年金基金なども名乗りを上げていたようだが、これらスウェーデンの資本が優遇されることはなかったようだ。

------
フランスの企業に買われても、スウェーデンに拠点を置く企業であり続けると見られているVin & Sprit。いくらフランス企業の所有になったからといって、Absolut(絶対)と中世の絶対王政との連想で、ウォッカのラベルにルイ16世の肖像画を貼ったりはしないよね!?

日本の夕焼けは短い?

2008-04-06 22:36:50 | コラム
まだ京都大学の学部生だったときに、その大学にスウェーデンから来ていた交換留学生Mattias(マティアス)と親しくなった。ある時に彼が言った。「日本の夕焼けはあっという間だ。太陽がすばやく落ちて沈んでいき、その後の黄昏(たそがれ)の時間も短く、すぐに暗くなってしまう。」

日本にいたときには、何のことかさっぱり分からなかった。太陽の沈む速さに日本でもスウェーデンでもあまり違いがあるとは思えなかったから。スウェーデンでは太陽はゆっくりゆっくり動くのか!?と疑問に思っていた。

でも、スウェーデンでしばらく生活してみると、彼の言葉が実感できるようになった。なるほど、こちらでは太陽はゆっくり低下して行き、沈んだ後も地平線付近が長い間、明るいのだ。

このからくりはこういうことではないかと思う。


つまり、太陽の沈む角度がスウェーデンでは日本よりもかなり小さい(浅い)のだ。スウェーデンの太陽はゆっくりと高度を下げて行き(ただ実際は、この間も横方向に大きく移動している)、沈んだ後も、地平線から近いところに長い間居続ける。これに対し、日本の太陽は高いところから急な角度で降下して行き、日没後はすばやく地平線付近から深く遠ざかっていく。だから、黄昏の時間も短い。

スウェーデンの太陽は、一日を通して低空飛行なのだ。下は、春分・秋分の日の太陽の動き。


スウェーデンでも日本でも、この日は太陽が真東から昇って真西に沈むのだけど、スウェーデンの太陽は低空飛行。南中高度も日本と比べて低い。だから、実際の日の入りの時間のかなり前から、夕焼けに近い状態になる。夕焼けが長く感じられるし、日没後の明かりも長く続く。

太陽の動く速度は、日本では移動距離が長い分、スウェーデンよりも若干早く感じられる。

さて、スウェーデンは真夏は日が長いから、夏だったら太陽も高いところを移動するのではないか?と思われるかもしれない。


上の図は、スウェーデンの夏至と冬至の太陽の動きだが、夏至のときは太陽が水平線上に出ている時間が長く、飛行高度も全体的に高くはなるとはいえ、真上に来るなんてことはない。日本と比べれば、夏至のときでも低空飛行と言えるだろう。(二つの曲線は本当は平行になるはずですが下手でゴメンナサイ)

ガソリン価格の内訳

2008-04-03 23:03:01 | スウェーデン・その他の環境政策
以前に「スウェーデンのガソリン価格のうち、二酸化炭素税などの税金分はどのくらいですか?」とのご質問を受けていたので、お答えしたいと思います。

スウェーデンのガソリン価格の内訳(オクタン95の場合)

1クローナ=17円で計算

上の表から分かるとおり、ガソリンに対しては (1)エネルギー税(2)二酸化炭素税 そして(3)消費税 の3つの税が掛けられている。
(1)のエネルギー税は、税収確保を主な目的とした税。(2)の二酸化炭素税は、この課税により価格を政策的に吊り上げることで需要を抑制することを主たる目的とした税。つまり「税収が上がらないほうが望ましい税」と言えるだろう。(3)の消費税25%は、税抜き価格にエネルギー税と二酸化炭素税を足したものに対して課せられる。

スウェーデンでは、消費税だけでなく、エネルギー税も二酸化炭素税も使途を特定しない一般財源として扱われている。

こうしてみてみると、ガソリン価格の実に60%は税金ということになる。そしてガソリン価格は215円を超える。(オクタン98は221円)

ちなみに日本のガソリン価格の内訳も紹介しておく。左は3月末までの価格、右は暫定税率が期限切れになった以降の価格。

日本のガソリン価格の内訳

日本とスウェーデンのガソリン価格を比較して「日本もスウェーデン並みにガソリン価格を引き上げるべき」とは安易に言うつもりはない。一方で、ここまでガソリン価格が高くなれば、エコ・ドライビングの奨励や公共交通の整備にも本腰を入れるようになるとも思う。

ガソリン税の切り下げ!?

2008-04-02 09:38:07 | コラム
暫定税がついに期限切れを迎え、ガソリン・軽油の価格が大幅に値下げされることになった。

この動きは、環境対策や温暖化対策のためにガソリンに対する課税をさらに強めていこうとするヨーロッパやスウェーデンの視点からすると、理解の域を超えたもので、全く論外だと思う。スウェーデン人の友人や研究者仲間に早速メールで伝えておいた。


日本の報道を追っていても、地方の財源不足を懸念する与党に対して、何が何でも暫定税の廃止を訴え、譲ろうとしない民主党の強硬な姿勢ばかりが伝えられ、では民主党は与党が懸念する問題に対してどう対処するつもりなのか、さらには、揮発油にかかる課税、地方の財政、道路建設などに対して、いかなる大きなビジョンを持ち合わせているのかが、一向に見えてこなかった。一種の「ポピュリズム」ではないかと思う。

道路建設や公共事業が無駄という主張は分かるが、その主張だけにとどまらず、では暫定税の廃止によって打撃を受ける地方の財政をどう維持していくのか、それを含めた大きな視点が欠けていたと思う。

報道も、この部分を民主党にもっと追及してほしかった。

この暫定税廃止によって、化石燃料の消費量が拡大し、二酸化炭素の排出量がさらに増えることを危惧するような声は無論、ほとんど聞かれなかった。ましてや「環境税」の議論なんて…。(与党の誰かがインタビューに対して「環境対策」という言葉をちょこっとだけ使っていたように思う)

以前もふれたように、「環境税」 (1)環境対策に使途を特定した財源としての意義と、(2)使途が何かはもはや重要ではなく、むしろ環境税課税によって環境に望ましくない商品・サービスの価格を意図的に高くすることでその消費量を抑える、という需要抑制の意義がある。(2)の場合は、税収確保のためというより、「税収がむしろ上がらないほうが望ましい税」と位置づけになる。

スウェーデンにおける「二酸化炭素税」の導入根拠は(2)のほうであり、使用目的は特定されていない一般税扱いである。

(1)、(2)のいずれの捉え方をするにしろ、これまで道路の建設・メンテナンスに使われていたガソリン税(揮発油税)をそれ以外の使途に使えるようにする、という意味で、3月末に土壇場になって福田首相の出した「一般税化する」という案は、環境税や二酸化炭素税の導入に向けた第一歩かな、という気もした。しかし、民主党は取り合う気なし。(ただし、この案は自民党内でもしっかり練られたものではなく、道路系の議員が強く反発していたようだ)