スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



地震や津波の恐れのないスウェーデンであるが、人的なミスによる人災の可能性はある。そのことを端的に示し、スウェーデンの原発の安全管理に大きな疑問を投げかけることになったのが2006年7月25日フォッシュマルク原発1号機で発生したトラブルであった。

この事件についてはスウェーデンのいくつかの新聞や雑誌が状況を説明しているので、まとめてみたい。

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この日はフォッシュマルク原発と外部の送電線とを結ぶ変電所においてメンテナンス作業が行われていたが、その作業中に予期せぬ放電が電線の間で生じ、ショートが起きてしまった。その結果、フォッシュマルク原発1号機と変電所の間の電線が遮断されしまった。

これだけであれば、原発ではその後も発電が行われ続けるため、炉心冷却のための電源喪失という事態に至る危険性は小さかった。しかし、このショートと電線の遮断がきっかけとなって複数のトラブルが連鎖的に発生することになった。

まず、ショートに伴って電線を流れる電流の電圧が低下を始めたため、原発のタービンの回転から電気を生み出している発電機が自動的に反応して電圧を元に戻そうした。しかし、この時の反応が急激だったために、通常の2.2倍も高い電圧パルスとして瞬間的に電線を流れ、原発施設内の電力供給システムをダウンしてしまった。

これに加えて、発電タービンの油圧系統がトラブルを起こしたため、第1タービンと第2タービンが相次いでストップしてしまった。そのストップの際に、通常よりも周波数の低い電流が電力供給システム内を流れてしまった。本来はそれを防ぐためのブレーカーがタービンの発電機に取り付けられていたものの、2005年(事故の前年)の取り付けのときに間違った設定がなされていたため、ブレーカーが作動しなかった。そのため、低い周波数の電流から機器を防護するために、別の場所のブレーカーが作動してしまった。

不幸なことに、そのブレーカーというのは原発施設と外部電源とを結ぶ電線を制御するものでもあったため、外部から電源を確保することができなくなってしまった

イラストの出典:NyTeknik

このような事態に対処するために複数の安全装置が準備されているわけだが、最初の安全装置であるバッテリー(本来は2時間持つ)が機能しなかった。高電圧のパルスが流れた際に、バッテリーがシステムから遮断されてしまったためだ。また、本来はこのような事態に起動するはずのガスタービンが動かなかった。

このように、外部電源もダメ、バッテリーもダメ、ガスタービンもダメ、ということで、中央制御室は停電し、原子炉の状況を伝えるモニターや計器がダウンしてしまった。暗くなった中央制御室内では、赤色のランプが点滅し異常事態を警告していた。

中央制御室では停電の中、職員が緊急時のチェックリストに従って作業を行っていた。しかし、停電のために原子炉の状況が分からない。トラブルに伴って原子炉の運転が停止したものの、核分裂を止めるための制御棒がきちんと炉内に挿入されたかどうかが分からない。手探りの中、原子炉が今どのような状況にあるのかについて、想像されるシナリオを頭に描きながら事態に対処していったという。

では、炉心冷却のほうはどうなったのだろうか? 電源喪失という事態に備えて、炉心冷却のためにデーゼル発電機が1炉につき4台設置されていた。しかし、そのうち2台が機能しなかったのだ。実はこの2台のディーゼル発電機に取り付けられた周波数制御装置は上記のバッテリーと同じシステムに接続されており、高圧パルスが流れた際に、電力供給システムから遮断されたためだ。周波数制御装置が機能しないため、電力を供給できなくなったのである。残る2台は作動し、炉心冷却のための電力を供給し始めたものの、必要とされる電力を十分に満たすことはできず、注水ポンプをフル稼働させることができなかった。注水量の不足のために炉心内の水位が徐々に低下し始めていた。

トラブルの発生から22分後、原発施設と外部の電線網を結ぶブレーカーを現場の作業員が手動で切り替えたおかげで、外部から電流が流れるようになった。それに伴い、中央制御室の電力も回復し、炉心冷却も外部電源で行うことが可能になり、危機を脱することができた。

この22分の間に原子炉圧力容器の内部では、それまで燃料棒の上端から上4mのところにあった水位が上2mまで低下していた。

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このように複数のトラブルが重なり、事態が深刻になっていった。非常時に備えるための安全装置は本来は独立して存在すべきなのに、このトラブルの際には、互いに依存しあっている部分が多く、一つの安全装置が動かなくなると、別の安全装置も動かなくなったり、もしくは、ある同じ要因が複数の安全装置をダメにしてしまう、という事態が発生した。

結局、現場の作業員が冷静に判断して、外部電源を手動で回復させたために大事に至らなかった。しかし、たった22分で炉心内の水位が2mも減少しており、そのままの状態が続いていたならば、メルトダウン(炉心溶融)に至っていたと専門家は言う。福島原発に比べて幸いだったのは、外部電源が途絶えたものの電線は物理的に存在しており、ブレーカーを戻せば通電できたということ、それから、もしそれがダメでも、隣の2号機や3号機が健在なのでそこから何らかの形で電力を引くことができたということだろう。

しかし、スウェーデン政府および原子力業界はこの事態を重く見て、その後、安全装置の総点検と再設計を行うことになった。スウェーデンの原子力利用における最大の事故だったと認識されており、INESの深刻度レベルでは「レベル2」に分類されている。


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コメント
 
 
 
無関心だった (里の猫)
2011-05-19 17:31:22
福島の災害以前は原発に関して、無関心で過ごしていました。
フォッシュマルクの事故、やっと外郭が分かりました。ありがとう。
一瞬にして、思いもかけないことが連発する、これはどこでも起こる可能性があるし、実際今までも複数起こっているんですよね。
クリーン・エネルギーなんて何で言えるんだろう。
 
 
 
Unknown (net)
2011-05-20 00:51:10
結構思った以上に深刻な事故だったんですね
電力系がショートして一時的に全電源喪失したとしか知らなかったので驚きました
停電の暗闇の中で制御棒が入ったかどうかもわからない状況下作業するっていうのは
作業員は精神的にもかなりきつかったんだろうと思います
そのもとで冷静に対処できたのは幸いだったんでしょう

それにしてもたった20分で二メートルも水位が下がるんですね
こんなんじゃ福島原発で全電源喪失1時間40分後には炉心溶融するっていう想定も出て当然ですよね
この想定は良い方には全く生かされませんでしたが

比較的最近の2006年にスウェーデンでこういった事故があったのにもかかわらず
日本政府や電力会社は全電源喪失を想定した対策を取ってこなかった
しかも去年の国会で全電源喪失による炉心溶融の可能性を指摘された時に寺坂保安院長は
「電源喪失による炉心溶融は論理的世界おきましては可能性はゼロではないので考えうることですが
そうならないよう工学上の設計がなされてるので大丈夫です」とまで言った

そういう甘い考え方が今回の事故に至ったと思うと…
対策を取ろう思えば幾らでも余地はあったのに…
 
 
 
Unknown (Unknown)
2011-10-21 05:38:14
http://hatajinan.blog61.fc2.com/blog-entry-312.html

フォッシュマルク原発1号機の事故と全く同じ事故が311の9ヶ月前、フクイチ2号機で起こっています。界磁しゃ断器のトラブルから原子炉自動停止、発電機タービン停止、外部電源につながらずディーゼル発電機が稼動しました。

このとき、フクイチ2号機は外部電源を30分失い、原子炉水位を2メートル低下させました。全く同じ事象です。

このとき東電は全く原因解明に至らなかったものの、作業員の接触が原因だと推定(あくまで推定)。作業員に注意するよう勧告し、張り紙をして回りました。

そして、もう一つの対策が系統安定化装置の撤去でする。これは二号炉だけではなく1~4号炉で撤去されています。

全く原因解明に至っていなかったのにも関わらず、東電は2号機をひと月後に再稼働させました。このとき、ちゃんと事故の原因解明を徹底し、安全性をよりたかめた対策を取っていれば、福島第1原発事故は津波に襲撃されたとして大事に至らなかったと思っています。東電と、再稼働を承認した原子力安全・保安院の過失は極めて重大です。

電源制御システムの不具合、内外部電源切替時のインターロックは原子炉プラントには普遍的につきまといます。少なくとも、今ある原発は電源制御システムを見直す必要があるはずです。それさえしないままに原発を再稼働させるなんて気違い沙汰も甚だしいです。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2011-10-31 16:12:09
興味深い記事です。
原因解明をすることなく再稼動とは。もしものときに誰か責任を取る覚悟があるのでしょうか?
 
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