スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

The Stockholm Solution (1)

2008-09-15 05:28:06 | スウェーデン・その他の経済
アメリカのサブプライム・ローンの問題が聞かれ始めてからしばらく経つが、未だにニュースを騒がせている。信用度の低い借り手に対して貸し付けられていた大量の住宅ローンが、住宅価格下落に伴い不良債権となり、経営が破綻する住宅金融会社が出てきている。

8月にはいってからは、住宅金融大手の連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)を救うために、アメリカ政府が介入し、公的資金の投入が行われることになった。この二つの金融会社だけで、アメリカの住宅ローン市場の半分のシェア持っているそうだ。そのため、これらの破綻は金融システム全体を危うくするという認識から、政府が介入せざるを得なくなったようである。また、近日は米証券大手リーマン・ブラザーズの経営危機も騒がれ、こちらも政府が救済を行うことになるようだ。(いや、ならなかった)

今年に入ってからは、このようにアメリカの住宅金融市場の状況がさらに悪化の一途を辿ってきたが、そんな中、『The Stockholm Solution(ストックホルムのとった解決策)』という言葉がアメリカで耳にされるという。「金融システムのメルトダウンを防ぐために、ストックホルムに学べ!」ということらしいが、さて何を学べというのか?

それは、1990年代初めにスウェーデンを襲った経済・金融危機に際して、迅速に対応したスウェーデン政府の政策なのである。

------
他の先進国と同様、スウェーデンでも1980年代半ばから金融自由化が徐々に行われていく。金利規制や貸し出しの上限などの各種規制が撤廃され、より自由にお金を借りることができるようになった。経済は当時、高インフレ状態にあったため、実質金利はマイナスであり、しかも貸し出し上限が撤廃されたために、金融市場が大ブームとなり、住宅や土地への投機が横行することとなった。住宅資産や商業用物件の価格は1981年から1991年の間に2倍以上に上昇し、株価も急激に上昇するバブル経済となったのである。民間銀行側もブームに乗り遅れるな、と貸し出しに躍起になり、信用度の低い借り手にもどんどん貸して行く


未来はバラ色・・・?

しかし、実体の伴わない経済の膨張はいつかは破産する。1980年代末に行われた税制の変更によって、利払い分の所得控除ができなくなると、銀行借り入れに伴うコストが上昇し、住宅市場は徐々に冷え込んで行く。それに伴い、金融市場でもサブプライムの問題が表面化し始める。

一方、実体経済のほうも、それまで上昇してきた資産価格に支えられたバブル経済がはじけただけでなく、90年代初めの東欧市場開放などの影響を受け、大きく落ち込むことになった。GDPは1991-1993年の3年間に6%も減少し、また1990年には2%前後であった失業率が8-10%にまで急上昇した

さらに不幸なことに、この不安定な経済につけこんで、国際的な通貨投機がスウェーデン・クローナを狙ったのである。スウェーデン・クローナは当時、欧州統一通貨の前身であるECUに為替相場が固定されていたのだが、80年代のインフレのためにクローナが過大評価されていた。投機家はその弱点を突いたのだ。スウェーデン中央銀行は、固定相場を維持するために、必死にクローナを買い受け、外貨を放出していった。また公定歩合を上げざるを得なかった実体経済が冷え込んでいる真っ只中での利上げが、どれだけ恐ろしいことかは想像がつくであろう。1992年9月、当時の政策金利であった限界金利が数日間だけ500%に設定されたのは有名な話である。

この通貨危機は結局、92年11月に外国為替制度を変動相場に移行することで一段落するのだが、その後一年の間に、スウェーデン・クローナは44%も減価することになった。

前代未聞のバブルに沸いて「いっときの夢」を見たスウェーデンの金融機関だったが、この頃には返済の見込みのない不良債権を大量に抱え込み、経営が立ち行かなくなっていた。それにさらに追い討ちをかけるように、、国外から調達していた資金に対する外貨建ての債務がクローナ減価のために膨大に増え、返済が難しくなっていた。

事態は、1930年代の世界恐慌以来、スウェーデンが経験した最悪の状況だった。(続く・・・)


制御不能!

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
The Stockholm Solution (里の猫)
2008-09-16 11:33:33
思い出しますよ。あの頃のスウェーデン。
与野党が一団となって記者会見しましたね。目に見えない敵に宣戦布告されたような雰囲気で、一体どうなちゃうんだろうと不安になりました。
この後社会党が政権をとって、ヨーラン・ペアションが年金制度などを含めた「改革」を行うんですよね。
一個人の感覚としては、スウェーデンはこの辺からネオ・リベラリズム的になったなあと思います。
返信する
Unknown (Yoshi)
2008-09-17 19:23:55
「目に見えない敵に宣戦布告」という表現が、本当にしっくりくる状況だったのでしょうね。

>この後社会党が政権をとって、ヨーラン・ペアションが年金制度などを含めた「改革」を行う

そうですね。ただ、1990年代の様々な改革は、それ以前から長い間かけて委員会等で左派・右派間で政党の垣根を越えた意見調整が行われた結果、実現したものだと思いますよ。
返信する

コメントを投稿