A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

岡部昌生展

2005-08-08 00:21:39 | 美術
岡部昌生展
THE DARK FACE OF THE LIGHT「光のなかの影」
2005年8月1日(月)~8月14日(日)
トキ・アートスペース
東京都渋谷区神宮前3-42-5 サイオンビル1F

 岡部昌生(1942年生まれ)。彼の代表的な作品は都市の建物、地面などに紙を敷いて擦りとるフロッタージュという技法を使った作品です。子どものころ。学校の机の上に紙を敷いて鉛筆で擦ったことありませんか。机に刻まれた時間の痕跡が紙の上にかたちとなってあらわれてきました。紙を擦るだけでかたちがでてくることに、何かを捕まえたような気がして小さかった私はうれしかったものです。
 岡部昌生が近年取り組んでいたプロジェクトがあります。広島にかつて軍港として使われていた字品港。その港へとつなぐ旧字品駅のプラットホーム560メートルをすべて擦りとるという作品です。この作品は2002年~2004年に行われたようです。この駅ができたのは日清戦争の時代だそうです。それ以来武器・弾薬などの兵器を輸送するための拠点として使われていたそうです。これはつまり、広島は兵器などの工場がかなり存在したことを意味します。原爆が落とされることになったのも、そんな背景があったのでしょう。戦後、使われなくなったようですが、その字品駅も取り壊されることが決まりました。道路になるようです。歴史を留めているものが取り壊されて、風化していく。そんな時代の風化に抗するように、岡部昌生は字品駅のプラットホームを紙の上に擦りとる作業を続けたのです。

 岡部昌生の仕事はいつか論考するに値すると思いますが、いまは、建築物、地面を擦りとるという版の技法を使い、作品として仕上げることから、記録という側面へと意識されている、ということを指摘したいと思います。記憶が不確かなので申し訳ないのですが、以前の作品では紙一面、画面全部を塗りつぶしていたのです。写真ではほとんど真っ黒です。実際の作品を見れば、写し取った場所の凹凸、鉛筆の濃淡の違いなどが感じられるかもしれません。しかし、今回の「光のなかの影」では、白い紙の画面の中央にフロータッジュされた、プラットホームのコンクリートが擦られているだけなのです。失われた建築物の破片を採取するように、何十枚、何百枚もフロッタージュされています。考えてみると、昔、版画は記録として、写真の代わりに使われていたこともありました。もちろん「版画」を「記録」として見るのは危険なことですが、フロッタージュはダイレクトに物質を記録できるわけです。ひとつとして同じイメージはありません。戦争、原爆というキーワードがこの作品の背景にはありますが、それらを声高に叫ぶわけでもありません。むしろ、紙の上に擦りとられた濃淡のイメージは、静かにひっそりとその姿をさらしています。いま、私の頭のなかの紙にフロッタージュされたように、シュッシュッという鉛筆の音とともに風化せずに残りつづけています。

岡部昌生:シンクロ+シティ

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