答は最初から示されている。音楽学院で教えるチェリスト(クリストファー・ウォーケン!)は生徒たちに問う。
「ベートーベンの弦楽四重奏曲第14番は、楽章と楽章の間に休みがない。だから演奏を続けていると音程は狂ってくる。きみたちはどうする?一度演奏をやめて調弦するかね。それともそのまま最後までプレイし続けるか?」
25年間休みなく演奏活動をつづけてきたカルテット(原題はA Late Quartet )。第二バイオリン(フィリップ・シーモア・ホフマン)とビオラ奏者(キャスリーン・キーナー)は夫婦。完璧なテクニックをもつ第一バイオリン(マーク・イバニール)は夫婦の愛娘と関係を持ち、ビオラと第一バイオリンの間には、その昔になにかがあった様子。娘は「親が一年間に7か月もツアーに出ている子の身になって」と激高し、チェリストは愛妻を前年に失い、そしてパーキンソン病の初期症状が出始めていた……
本来、バランスが身上である弦楽四重奏がほころび、不協和音を奏で始める。さあ、もう若くない彼らはどうするか。
どうもしないんですな。関係の修復を図ろうにも、お互いに言ってはいけないセリフを投げつけてしまう。こんなことで、チェリストの引退する演奏会はどうなるのか。
「シューベルトの最後のリクエストを知ってるか?ベートーベンの14番しか聴きたくないと言ってたんだ。ぼくの理想は、シューベルトの死の床を四人が囲み、14番を演奏することだ」
「なぜソリストにならなかったかって?ソロなら、同じメンバーで演奏するのはわずか2、3回だ。違った指揮者、違ったオーケストラとやらなければならない。でも四重奏はどうだ。同じメンバーで何千回もプレイする。それが音楽の本来の姿だ」
もう名言の連発です。彼らは最後の演奏を(ここからネタバレ)、チェリストの退場で小休止し、“ほんの少し小節をもどして”演奏をつづける。四十代の人間の、それが知恵でもあるかのように。
名優たちのアンサンブルがすばらしい。というか、彼らでなければ成立しない作品。にしても、どうしてこれがR15なのかな。あ、あのベッドシーンのため?うーん、まあいいか。これはどうせオトナにしか用のない映画だから。傑作。