極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

水環境の植物と感知機構

2013年11月18日 | 環境工学システム論

 

 

植物は水環境の感知により生命維持を行い、その応答には水不足のシグナル伝達経路と細胞
内外のカリウムなどのイオン
輸送が関わる。そこで、イオン輸送のシグナル伝達による制御
機構について考えてみた(出典:刑部祐里子「植物の水環境の感知メカニズムとカリウムイ
オン輸送」バイオサイエンスとインタストリー Vol.71 No.6,2013
)。干ばつなどの環境悪化
に対し、水資源の効率的な利用と農作物の生産性の向上は大きな課題となっている。移動す
ることができない植物にとって外界環境の感知は生命維持に重要であり、特に水環境は植物
の生存や生産性に大きく影響する。植物には体に含まれる水が90%を超えるものもあり、水
の吸収と不足のバランスが常に守られている。植物は土壌の水を根によって吸収し、維管束
内の導管によって全身に輸送。一方で体内の水は葉の表面から失われ、葉の表面に存在する
気孔の開閉によって調節(蒸散)されている。蒸散はC02  吸収も調節するので、水不足を防ぐ
ために気孔を閉鎖することは光合成を抑制することにもなり、水不足環境において生存のた
めの応答と生産性は、あちらを立てればこちらが立たないというトレードオフの関係にある
とされる。 

 
図1 気孔閉鎖のABAシグナル伝達経路

乾燥ストレスで合成されたABAは輸送体により孔辺細胞内へ
と輸送される。孔辺細胞の膨圧を調節して気孔閉鎖に関わ
るイオン輸送がABAシグナル伝達によって活性化される。

水とともに生命活動にとって必須であるカリウムイオン(K)は、水調節に重要な役割を持
っている,Kは、その細胞内外への輸送により細胞の膨圧を調節して、細胞の水状態を変
化させる。気孔を形成する孔辺細胞の膨圧の調節が気孔の開閉を制御することがわかってお
り、この調節には孔辺細胞内の種々のイオンの輸送の活性化とともに、Kの細胞内外への
輸送が役割を持っている(図1)。気孔閉鎖におけるこれらのイオン輸送は水欠乏時に蓄積さ
れる植物ホルモン、アブシジン酸(ABA)によるシグナル伝達によって制御されている(図1)。
ABAは高等植物に広く存在する植物ホルモンであり、乾燥した種子中や、水が不足してストレ
スを受けた細胞内で生介成経路が活性化され高濃度に蓄積する。ストレスが解除されるとABA
は速やかに分解される。ABAシグナル伝達によって多くのストレス応答に機能する遺伝子群の
転写が活性化することから、水欠乏ストレスのシグナルは、化合物であるABAによって増強さ
れ細胞内に伝達されていることがわかる。 ABAシグナル伝達は、プロテインキナーゼとフォ
スファターゼによるタンパク質リン酸化・脱リン酸化によって担われている,近年、ABA受容
体としてPYR/PYL/RCARタンバク質の役割が解明されている。

----------------------------------------------------------------------------------- 
※刑部祐里子(OSAKABE,Yuriko)⑩理化学研究所環境資源科学研究センター機能開発研究グ
ループ(Gene
Discovery Res. Group,RIKEN Cent. f1)r Sustainable ResourceSci.)研究
員 1992年収京n工大学大学院連合農学研究科博
士課程修了 博士(農学)専門:植物分子
生物学 連絡先:〒305-0074茨城県つくば市高野台3-1-1(勤務先)
----------------------------------------------------------------------------------- 

その経路では、受容体はABAが紹介すると、シグナルを負に制御するプロテインフォスファ
ターゼ2C(PP2C)に相互作用しPP2Cの脱リン酸化活性を抑制することが鍵となっている。PP2Cは、
ストレスのない条件ではABAシグナル伝達を正に制御するプロテインキナーゼSnRK2に結合、こ
のキナーゼの活性を抑制している。ABAの存在によって自由になったSnRK2は、ストレス下で耐
性に関わる様々な囚子をリン酸化することで機能調節し、シグナル伝達のスイッチとして働く、
以上のタンパク質リン酸化 脱リン酸化によって伝搬されるABAシグナル伝達経路のターゲ
ットとして近年明らかになってきている。気孔開閉の調節に関わるイオンとしてKの輸送体
に着目する。

※アブシジン酸(ABA):植物ホルモンは、比較的低濃度で作用する植物生長調節物質であり、
アブシジン酸(ABA)はその1つである。英語名abscisic acid、分子式C15H20O4で表される。
ABAの代表的な生理作用として、気孔の閉鎖、乾燥耐性の獲得、種子成熟・休眠、落葉など器
官脱離の促進などが挙げられる。また、最近では病害抵抗性にかかわっていることが示唆され
ており、ほかの植物ホルモンとの相互作用も盛んに研究されている。

※シグナル伝達経路: 生体内で、ある種のシグナルがほかのシグナルに変換され、連続して
伝わる過程のことを指す。一般的にその担い手はタンパク質であることが多く、シグナル伝達
因子と呼ばれる。シグナル伝達因子の中にはさまざまな種類があるが、タンパク質のリン酸化
にかかわる因子はそのうちの1つである。この場合、シグナルがタンパク質のリン酸基という
形に変換されて伝わることになる。

【水不足の感知とアブシジン酸(ABA)】

植物はその進化の歴史の中で、水中から高等植物へと陸上へ進出しつつ水環境に対する応答反
応を発達さ
せてきた 植物にとって水不足は生死を決める大きな環境変動であるため、水環境
の感知と防御に関わる応
答反応は41:要である。根や大気中の水分が低下しか場合に、植物は
細胞膜上で浸透圧ストレスを受け、細胞
内にその情報を伝達する。細胞膜上の浸透圧センサ
して、酵母の浸透圧センサーと同類のヒスチジンキ
ナーゼが同定されている。シロイヌナズナ
では浸透圧センサーヒスチジンキナーゼ(ATHK1)は1つのみであり、AtHK1遺伝子が欠失する
と、乾燥や高塩スト
レスに弱く生存率が低下するという。一方で、ストレス応答がAtHK17だけ
では調節しきれ
ないことから、ほかにも未同定の浸透圧センサとして機能するタンパク質が存
在すると考えられている。

根での水不足は植物体中にどのように伝わるのであろうか。植物は土壌中の水を根の表皮から
吸収し、根
の木部に存在する導管から地上部に輸送する。導管における水輸送は物理的な圧力
差によって駆動され、根
から地上部の組織に水を引き上げるのに必要な張力は、葉における蒸
散によって決定づけられる。つまり、
根の導管から地上部の葉脈の導管への連続の中で葉肉細
胞へと水が分配され、さらに最終的に気孔の開閉によって制御される蒸散と連動することで、根からの
水輸送の張力が決定されている。土壌中の水量が低下ると、導管の周囲の細胞が浸透圧ストレスの
感受に働くと考えられ、未同定の浸透圧センサはこの維管束の浸透圧ストレスの感受機構に重要な機
能を持つと推定されている。

【シグナル伝達による気孔応答の制御】

孔辺細胞に取り込まれたABAは、シグナル伝達経路により気孔の閉鎖を制御する。近年、細胞内
ABA
受容機構の詳細が明らかとなった(図1)。 ABA受容体タンパク質(PYR/PYL/RCARタンパク質
)、タンパ
ク質脱リン酸化酵素(PP2Cフォスファターゼ)、タンパク質リン酸化酵素(SnRK2キナー
ゼ)の合計3種の
タンパク質が受容体複合体を形成する。SnRK2はリン酸化によってシグナル伝
達の正の制御を行うことが
わかっているっストレスがなくABAが存在しないときには、SnRK2活
性は、結合するPP2Cフォスファ
ターゼによって抑制されている。一方、ストレスによってABAか
細脳内に蓄積すると、ABAが結合したPYR/PYL/RCARはPP2Cに結合して複合体を形成し、フリーに
なったSnRK2が活性化される(図1
,2)。現在、SnRK2によってリン酸化されるターゲットタン
パク質が明らかにされつつある。ABAや浸透圧ストレスによって、桂物のストレス耐性に関わ
る様々な機能性タンパク質の遺伝子発現が誘導されるが、それらの転写を活性化するbZIP型転
写因子はSnRK2のターゲットの1つである(図2)。


図2 ABAシグナル伝達による陰イオンチャネルSLACIとカリウム

イオン輸送体KUP6の細胞内ドメインのリン酸化
SRK2EはSnRK2キナーゼファミリーの1つである。

【カリウムイオン輸送体KUPファミリー】 

ABA受容体複合体のSRK2Eによって直接制御される因子は、その他にROS生産に関わるNAD
PHオ
キシダーゼ(活性化)や、気孔開口に関わるカリウムチャネルKAT1(不活性化バ図1)
があることが明らか
になってきた。どちらもABAによる気孔閉鎖に重要な反応であるが、こ
のようにABAシグナル伝達の様々
なターゲットが明らかになったため、同じく直接制御される未同
定の経路の存在が推察されている。水不足ストレスによって転写が誘導される機能未同定のK+
体に着目した。シロイヌナズナKUP6は大腸菌のK゛輸送体に類似のKUP/KT/HAKファ
ミリーに属する遺伝子であり、植物における機能は未開定で
あった。シロイヌナズナゲノムに
KUP/KT/HAK
ファミリー遺伝子は13個存在し、KUP1はK+ることが報告されていたが、KUP6に近縁
のKUP2は、その優勢変異が植物体の細胞や個体を小さくすることが
示されている。kup2変異体
の表現型
は、KUP2の働きが増強されることにより細胞内からK+がより排出し、細胞膨圧が小
さくなり生じていると推測し、
そこで、KUP6、KUPP2および近縁のKUP8の3つのサブファミリー
遺伝子部をすべて火災した3重変質体を作製し、これらの遺伝子の植物体における収複的な機
能を明らかにすることを試みたその結果、3収変異体は細胞が増大し個体のサイズが大きくな
り、さらに、側根が多く生じることがわかっている。側根の形成は、生長に収変な植物ホルモ
ンオーキシンにより誘導される。ストレスに依存してオーキシンが関わる植物の生長は負に制
御され、また、ABAや浸透圧ストレスは逆に側根形成を抑制することから、このトレードオ
フのド流でKUP6輸送体が働き、根の生長が制御されると予測。実験では、オーキシンとABAや
浸透圧ストレスに対する3重変異体の側根形成の感受性を試験した結果(図3A)、予測通り、
3重変異体はオーキシンが誘導する側根形成に感受性が強く、ABAやストレスの側根成抑制
の感受性は弱まっていることが明らかになった。K+ の細胞内外での輸送が細胞の膨圧を調節
していると考えられている。

 

図3 KUP遺伝子の根の生長と乾燥ストレス応答における機能

A:3重変質体の側根形成に与える影響、KUP6サブファミリー遺伝子が欠失するとオーキシン
を介した側根形成能
が上昇し、一方でABAを介した側根形成抑制の応答性が減少する。kup6/8
は、側根が分裂生長する内鞘細胞で強く発現する KUP6/8が欠失すると内鞘細胞に蓄積するK'
が側根の分裂伸長を誘導したと考えられる。
B:KUP6/8
遺伝子高発現植物の乾燥ストレスドでの水分損失率の変化。
C:KUP6のC末端細胞内ドメインSnRK2リン酸化ターゲット保存配列を用いたin-gel kinaseア
ッセイ 乾燥ストレス
処理をした植物に存在するキナーゼが、KUP6のC末端細胞内ドメインを
ストレス依存的にリン酸化する。(Co(野
生型)乾燥処理O~3時間)またリン酸化のバンドは
snrh2 3重変異体で消失したこと(SrK2deiレーン)から、リン
酸化がSnRK2によって行われた
ことがわかる。


ここまで端折って考察してきたが、ここでまとめてみよう。移動することができない植物は様
々な環境へ
の応答反応を発達させてきた。水不足のストレス応答に関わる植物ホルモンのシグ
ナル伝達に
よって、K+イオン輸送体が直接のターゲットとなり生長と生存のバランス調節が行
われるという。環境
応答のメカニズムの存在が示唆された。 KUP変質体は、マイルドな乾燥
ストレス条件で通常の植物に見られる水利用効率の上昇が生じないことが解明され、水不足に
対応できなくなる様々な水環境下での農業にとって、水利用効率作物の重要な指標となり、
環境条件に応じて植物内のK+の利用を調節することにより、環境耐性作物などの応用研究に結
び付けられ
ることが期待できる。細胞膜は外的因子の感受の場であり、植物には環境認識に役
割を持つと考えられているが、機能未解明のタンパク質がまだ多く存在している。膜タンパク
質の植物ホルモンによる活性化機構の解明は、植物ホルモンのアゴニストを利用した植物育種
や新規の生長調節物質開発などの発展に寄与すると期待されている。このように水辺と植物の
生態科学がまだまだ未解明な場を残しつつも進展してきていることをここで学んだ。
 

 

 

 


福島第一原発4号機の燃料取り出しが始まった。これでもう、"原発隠し"はできなくなる。な
ぜ?ここでの甚大な事故は、世界を一瞬にして恐怖に陥れてしまうからだ。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 環境細菌の最新技術 | トップ | ゲルマニウム/シリコン量子... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

環境工学システム論」カテゴリの最新記事