極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

ピラミッドの経済学Ⅰ

2012年10月26日 | 政策論

 

 

 ジョセフ・ユ-ジン・スティグリッツ

【ピラミッドの経済学Ⅰ】

   古代エジプトピラミッド

雄大な古代エジプトのピラミッドの前に立つ時、現代ならばどのくらいの年月と費用、そして労働力でこれを完成
させることができるのか、誰しもが一度は考えてみるにちがいない。4,600年の昔、膨大な労働力を動員し得た権力
への驚きに加え、この大事業を企画推進したスタッフ(頭脳集団)とこれを支えた組織力、技術力に圧倒されるに
違いない。また権力、財力の条件や組織と技術はいかにこたえてきたのか。ピラミッドの高さ、勾配、一個一個の
石の大きさを決定し、それらを積み上げる過程には、美に対する感覚と豊富な経験が必要であり、“技術とは合理
であり、原理原則の発見”であり「建設とは運搬なり」に示されるように、建設が創作の美、機能の負荷、構造の
解析、素材の選択を経て、実際に物を造るフィールド作業の段階と、最適な運搬・運送手段あるいは手順で、正し
く運ばれることが不可欠とされ、計画の良否により、建設の費用と期間は大きく左右される。また、住居跡がある
ことから技術者は年間を通してピラミッド建設現場に居住し、労働力としてナイル川が上流のサバナ気候の影響で
氾濫し、農業ができない農閑期に労働力として農民が使われていたともいわれる。このように、古代エジプトのピ
ラミッドは、巨石を四角錐状に積み上げ、中に通路や部屋を配置し、王が天に昇る階段としての役割や、その斜め
の外形が太陽光を模したものであるとも考えられていて、単体で完成したものではなく、付随する葬祭殿等との複
合体として考えるべき特徴を持っている。ピラミッド本体には基本的に北面に入口があり、玄室に至る道や「重力
分散の間」と呼ばれる謎の機構など、未解明の仕掛けから構成されている。古代エジプトピラミッドは共同社会と
共同幻想の葬祭殿と王墓が未分化な象徴的な権威の側面以外に景気対策とし
ての公共事業として、経済力あるいは
生産力の象徴としての特徴を持ってきたものと考えられる。経済的側面から
これを現代風に解釈すれば、宗教的・
政治的行事の巨大な建造物の費用便益分析を行えばどのようになるのか考えてみよう。

 Seigniorage  通貨発行益

古代エジプトの王権制から供与される信用膨張を元に、巨大ピラミッド建設が計画施工されたことにより、短期的
には近代経済でいわれるところの富すなわち剰余価値(W→W'(=W+P))は顕れ難いが、長期的にはゴールド
ラッシュのごとく人は自発的に競って金鉱を採掘する巨大なエネルギーを結集することができ、積極的なあるいは、
非略奪的な平和的な抗争が活況感を醸出し、新しい原理原則(=科学文化芸術)、新たな技術・技法・道具の創産
に繋がっていき、良循環しうることで共同社会全体の生産力が向上し、情操が高まるものと考えられる。ところで
ビラミッドの建設コストは現在風にアレンジすればどのぐらいになるのかとの疑問が湧くが「季刊大林ホーム」の
「クフ王政大ピラミッド建設計画の試み」で、現在の日本の建設中のコンクリートダムの1m3当たりの建設標準単価
を、大林組の計画した大ピラミッドと比較すると、コンクリートダムは24,000円前後、大ピラミッドは48,000円と
なり、大ピラミッドの建設単価はダム工事費の約2倍となる一方、古代エジプト人が行った工法に基づき、当時20
万人が30年かかったと単純に計算すると、現在の労賃に換算し、20万人×30年×12ヵ月×6万円/月=約4兆円とな
ると試算している。それでは本題に入ろう。 ピラミッドは公共工事だったともいわれているが、現在でも観光客を
引き寄せエジプトの経済に大きく貢献しているようにみえる(観光事業促進整備という名目の公共的側面)。ピラ
ミッドの建設当時は農閑期の公共事業として直接的な効果と前述したような間接的あるいは無形的な効果側面に効
果があったと考えられるので、大林組の試みのような、費用便益分析すれば大凡の見当はつくだろう。現代でもこ
うした経済効果をもたらす「ハコモノ」が有益なのかを考える機会となり、例えば、公務員が運営に一切関与しな
い(役員等にも天下りしない)とか、世界的に歴史的に有名な建造物という条件とか、効果試算対象項目と範囲の
明確化などの前提条件をクリアーすれば何とか計算できそうだし、このような試みの蓄積は、従来の比較的粗い社
会科学的な数値計量の精度向上に貢献するだろう。

  ジョン・メイナード・ケインズ

ところで、ベイス・オブ・ザ・ピラミッド(base of the pyramid)は、世界の中で、所得が最も低いが人口では多
数を占める層である。ボトム・オブ・ザ・ピラミッド (bottom of the pyramid) と同義で、いずれもBOPまたはBoP
と略し、未開拓の市場という意味合いで使われている。国際金融公社 (IFC) と世界資源研究所 (WRI) は2007年、
購買力平価で年間所得が3000米ドル未満をBOP(ベイス・オブ・ザ・ピラミッド)と定義し、この層の人口は約40億
人で世界人口の約72%、購買力換算での市場規模は5兆ドルで日本1国のそれにほぼ等しく(いずれも2007年当時)、
最近はボトム・オブ・ザ・ピラミッドと呼ばず、ベイス・オブ・ザ・ピラミッドを用いることが多いというこの層
を新たな顧客・ビジネスパートナーとするBOPビジネスが2009年より日本でも注目を浴び始めているというからには
ストレートに貧困を根絶し好況感を醸出する象徴的な“古代エジプトのピラミッド”と通底しているのでは改めて
感心する。 

さて、公共事業が大量の国債を発行するということで、財務官僚や日銀官僚(景況判断なら民間のシンクタンクで
充分)らがこのデフレ基調経済下で手をこまねき自滅の道を突き進んでいるような状況、つまりケインズやスティ
グリッツも言及しているセイニアリッジ政策(政府紙幣発行)や積極推進派であった高橋洋一教授、新ケインズ主
義経済学者などの提案を精度設計や政策として積極的に盛り込むことが喫緊の重要課題である。誤解があるといけ
ないのでもう少し付け加えると、国債買取、政府紙幣発行というのは「政策未来ビジョン」の「信用の裏書き」で
あって錦の旗ではない(『未来国債の創造』)。例えば、通信ケーブルや電力線の埋設化という未来社会型公共投
資として、身近で地味ながら、美しい国を構築する1つの長期事業で、間接的には国土価値を高めるものである。
インフレを心配する向きもあるが、インフレの本質は信用恐慌の連鎖リスクにあり、政策完成速度と政策劣化の多
寡を反映現象するもので、それを制御するものとして政策にかかわる総供給あるいは総需要の質量が連関するのだ。
こんなことは経済学のいろはで掲載するのも気恥ずかしいほどのものだが。




  ただ一つのことだけは確かだ。最後のベールがはがされ、そしてピラミッドがすべて知りつくされる時が
  やってきたとしても、その魅力のつきることはないだろう。エジプトの空にそびえるピラミッドの偉容は、
    時間に対する大胆な反抗と人類の不死への希求の故に、未来の人々の心をかきたて続けることであろう。


                                                     コットレル著『ピラミッドの秘密』 みすず書房

                                                                 この項つづく




【太陽電池は次世代エネルギーの本命】

 

日本航空(JAL)の稲盛和夫名誉会長が2012年10月23日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で講演し、業績回復
の背景について語った。稲盛氏は、社員の意識改革の重要性を繰り返して強調した。その上で、日本の多くの経営
者について、企業戦略を社員に説明する努力が足らない点を「心からの協力を得るのは難しい」などと批判した。
また、日本のエネルギー政策については、政府が打ち出している「原発ゼロ」については否定的な見解を示し、自
らが推進している太陽光発電についても「メジャーなエネルギーにはなり得ない」と述べと報じられた。内容の大
筋としては妥当なものだと、いいかえれば政治的配慮のある発言として受け止めている。安全に充分配慮しつつも
止めん、再生可能エネルギー(シェールガス・メタンハイドレートは含まれない)との二足の草鞋はやむなしとい
うものであろう。とはいえ、量子ドット太陽電池などの技術革新速度の速さを考慮すると、次世代エネルギーの本
命であることに疑いは、これまでの経験からわたしにはない。注文するとしたら、シャープのような経営を辿らな
いよう
にして欲しいと願うばかりだ。

 

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