▼通常国会が開催された。憲法改正論議だけをとらえると、
アベ総理は勇ましい。9条改正案で自衛隊明記が必要な根拠として「国民のために命を賭して任務を遂行する隊員の正当性を認めなければならない。今なお自衛隊に対するいわれなき批判や反対運動がある。これらに終止符を打つために、自衛隊の存在を憲法上明確に位置付けることが必要」だ、と。
▼自衛隊は国家防衛のためには、死んでもいい存在だと明言している。国民は自衛隊に対し感謝の念は抱くが、いわれなき批判などしている人などいないはずだ。アベ総理は国会での答弁前夜、大音量で「軍艦マーチ」と「海ゆかば」を聴いているのではないだろうか。
▼積極的平和主義と叫べば、消極的な人は平和主義者でないと負い目を感じる。総理得意の「アベコベすり替え論」だ。政治学者で思想史家の白井聡は、著書「日本劣化論」で、アベ総理の積極的平和主義をこう分析している。
▼それは安全保障政策の方向性を示している。自国の安全を確保するにあたって、積極的な方法と消極的な方法がある。消極的な方法とはできるだけ戦争にかかわらないようにする。あるいはそのかかわりをミニマムにするというものだ。反対に積極的な方法というのは、敵を名指しして威嚇したり、攻撃を加えることによって敵を無力化し、自国の安全を確保するというものだ。
▼今まで、できるだけ戦争に関与しないようにするのが我が国の方針だったのを、今度は積極的に戦争して敵をたたくことによって、自国の安全を確保するというというのが、積極的平和主義のもっとも簡潔な定義づけだと、白井は指摘する。
▼戦争は敵味方で多くの犠牲者が出る。そうであればより「消極的平和主義」で、9条を守る方がベストなのではないか。積極的平和主義と集団的自衛権行使が合体されれば、自衛隊の「専守防衛」は消滅し、自衛隊や家族に多大な迷惑を被らせるということにはならないか。
▼そんなアベ総理が施政方針演説で明治天皇の御製【敷島の大和心の雄々しさはことある時ぞ現れにけり】を引用したことに、志位書記長が噛みついた。
▼志位さん、少し心を鎮めてこう言ってほしかった。【この歌はプーチン大統領との首脳会談で話してほしかった。そして施政方針演説では、同じ明治天皇の御製【世の中の人の司となる人の身のおこなひよ正しからなむ】を引用してほしかった。そうであれば、与野党みんな立ち上がり、拍手の嵐はやまなかったに違いないと。
▼北方領土問題はどうやら「消極的」に交渉してきたようだ。アベ総理の掲げる積極的平和主義というのは、米国の威を借りる消極的な態度を言うのでは、大和心も女々しくはないだろうか。