処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

任侠浴場

2021-04-20 14:24:05 | 

著者 今野 敏

出版 中公文庫

377頁

        

任侠シリーズの4作目を読む。著者は相変わらず快調に飛ばしている。それが気持ちいい。

昔気質の親分が率いる吹けば飛ぶような組の構成員の面々と現代世相とのギャップが、このシリーズの魅力。時にあんぐり口を開け、時に抱腹絶倒、時にハラハラ、時にイライラとこの組の日常に没入するひとときは、実に精神衛生上宜しいのではないかと思っている。

ここに登場する人物たちの言説は、警句に満ちている。再建依頼を持ち込んだ銭湯側の小松崎。「利益を追求するために、情けもへったくれもなく、余計なものを斬り捨てて行く。それがビジネスだと、いつの間にか思い込まされてしまっているような気がします。でもそれはおそらくアメリカのビジネスを真似しただけのことでしょう。日本の商いというのは、もっと血の通ったものだったはずです」

ノスタルジーもこのシリーズの魅力の一つだ。著者は昔の銭湯の風景を代貸・日村の思い出として次のように書いている。「いつかあの茶色がかった飲み物(コーヒー牛乳のこと)を飲んでみたい。いつもそんなことを思っていた。湯上りの火照った銭湯を出ると、町が夕焼けに染まっていた。その景色はありありと覚えていて、今まで見た度の景色よりも美しかったと、日村は思っている」

現代世情を次のように表現もしている。「飲食店でも、客がちょっとしたことで文句をつける。子供が怪我をしたら、親が学校に怒鳴り込む。今どきの親はとんでもないらしい。運動会の勝ち負けを決めるのがいけないとクレームをつけると聞いたことがある。それを受け入れる学校があるというのだからたまげる。そんなイチャモンは、昔はやくざの専売特許だった。飲食店の従業員も、学校の教師も生きづらくなっている。おそらく、営業マンもコンビニのバイトも、建設業者も、タクシーの運転手も、誰も彼もが生きづらくなっているにちがいない」

著者の小説の魅力について、〈解説〉の関口苑生が適格かつ正確に纏められている。全くの同意である。さすがである。

さて、このシリーズは、来月にも新作が上梓されるようだ。

主人公の小所帯のやくざの構成員を纏めておこう。各位の紹介内容は、上記関口「解説」のパクリである。

組長 阿岐本 雄蔵:いまどき珍しく任侠道をわきまえた、地元地域住民からの信頼も厚い正統派ヤクザ。

代貸 日村 誠司:オヤジの文化志向に困りながらも、絶対忠誠で一切の仕事の切り盛りをする。若い衆の面倒もよく見ている。

組員 三橋 健一:かつては不良世界でビッグネーム。どんな喧嘩でも三橋が駆け付ければピタリと収まった。日村も絶大の信頼を置いている。

組員 二之宮 稔 元暴走族。その族の解散で組長に拾われた組で一番の跳ねっ返り。日村も随分と手を焼いたが、今は大人しくなった。

組員 市村 徹:坊主刈りのジャージ姿。中学生の引きこもり時代にパソコンをいじり始め、いっぱしのハッカーで省庁のサーバーに侵入して補導され、阿岐本が面倒みるようになった。

組員 志村 慎一:20歳になったばかり。優男で出入りの役には立たないが、やたらと女にもてる。

 

 


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