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como siempre 遊人庵的日常

見たもの聞いたもの、日常の道楽などなどについて、思いつくままつらつら書いていくblogです。

新選組血風録 第8話「臆病者」

2011-05-29 16:35:07 | 過去作倉庫11~14
 原作片手の新選組血風録、いよいよ大詰めですが、今週は、いやあ素晴らしかったです!しびれました。もう、ほとんど原作を手玉にとっているというか、原作の味を殺さずに換骨奪胎し、平成の血風録を自由に描いている…という域に達したのではないでしょうか。
 原作の相当部分は「海仙寺党異聞」になりますが、これを「臆病者」というタイトルで書き換えてきました。原作のエピソードは、どっちかというとコミカル人情ものの趣なんですが、これをドラマでは、長坂小十郎という架空の平隊士の話に託して、土方歳三が、士道とは、志とは、自分が目指した武士の美学とは……といったものを見つめなおすという、シリアスな語り口に換えています。原作より内容も一段深くなって、非常に良かったと思います。
 まあ、多少ウェットに傾いたきらいはありますが、情緒過多なとこもないと時代劇らしくないしね。そのぶんを超スタイリッシュな映像と、無駄が無いタイトなダイアローグでひき締めていたのもバランスよかったです。
 ウェットな時代劇といえば、ちょうど同じ日にやってる「仁」があるけど、あっちの激情・激昂・愛と涙の過剰な大サービスと、こっちの抑制したクールさを、比較してみるのも一興です。

 今週のあらすじです。
 新選組で、「竈(へっつい)の番人」とあだ名されるマジメな勘定方、長坂小十郎。彼は、同国の甲州人の中倉主膳の引きで入隊したのですが、その中倉が、情婦の家で何者かに斬られて重傷を負う、という事件を起こします。実はその男のほうが女の内縁の夫で、中倉が間男ということになり、恥さらしの士道不覚悟として切腹を命じられました。
 その中倉の介錯をしたのが経理係の長坂小十郎で、実は彼は居合いの達人だったんですね。その腕に目をつけた土方は、同時に、なにか反抗的で、新選組と相容れないものを長坂に見てしまいます。そして、長坂を脅かすため、必要もないのに「下手人を斬れ。武士として中倉主膳の仇をうち、男を見せろ」と命じてしまいます。
 が、調べるうちに、このお小夜という女の亭主は、水戸藩士だということがわかりました。京都守護職御預かりの新選組としては、一橋慶喜の実家でもある、水戸徳川家と問題をおこすわけにはいかない。そこで、局長判断で、長坂のあだ討ち活動は中止ということになります。ところが、それでは土方が提示した士道と武士の美学に矛盾してしまう。しかも、命じられた長坂は、もともとマジメな性格なのと、土方に「臆病者」と挑発されたせいで、本気になり、中倉の仇を討つべく水戸藩士・赤座智俊をねらうようになります。
 長坂は、実のところ新選組隊士になる気はなくて、医者を目指して上京したところ、入門先の師匠が死んでしまって路頭にまよい、とりあえずの糊口をしのぐため、バイト感覚で新選組の経理係になった、という経緯がありました。いまでも、医学への強い志は捨ててはいません。そういう者にも、「局を脱するは許されん」と新選組の鉄則を強調する土方。こうして、鬼副長の志と、経理係の志が、真っ向からぶつかり合い…

― 切腹。
 だろう、という噂が高い。平素の人徳である。同情するものがなかった。といって、主膳は悪事をはたらいたわけではなく、悪事の被害者なのだが。
 しかしこの集団にあっては、別の道徳律が支配している。主膳の生き恥は、士道悖反である。士道とは、男道のことだ。漢(おとこ)とはかくあるべきものだという勁烈な美意識である。近藤、土方は、本来烏合の衆である新選組の支配倫理をここに置き、これをもって隊法の最高のものとしてきた。
― 諸事、士道ニ背ク間敷事。

(「海仙寺党異聞」)


 今回良かったのは、原作では軽く触れられているだけの、ここの部分を掘り下げて、隊規の絶対原則と、その運用上の矛盾というものにつきつめていったことだと思います。そういう強烈な隊規を背負っている土方歳三の、生身の人間としての感情も含めて。
 会計係の長坂小十郎には、医師になり、多くの人をすくいたいという夢がある。子供のころに持ったその志を、土方に率直に語るのですが、土方は、「おれは新選組の隊規をつくり、ぜったいに妥協せず守ろうという男だ。そういう俺になんでお前はそんな夢を語るんだ」(うろおぼえだけど、そんなふうな)と反発します。小十郎は、「志を強く持てば、いつか必ず成し遂げられると信じているから」と、強い目をして言うんですね。
 このあたりが、非常に良かったですね。同じ強さの、まったく方向性の違う、ふたつの志を持つ二人の人間がいる。当然対立するんだけど、殺しあうことなく、相手を直視しつつ、じーっと対峙しているんですね。
 ここで感情に流れず、クールなまま対峙し続けている土方の強さと、それを受けて立てる長坂の強さ。二人の人間の異質な強さが、非常に高いところで交錯しつつ、ずっと崩れずにドラマを引っ張っていきます。これが、非常にスタイリッシュにまとまっているんですけども、決して見た目やカッコばかりでない、本質的な人間の強さについて、考えさせるものがありました。

 新選組の歴史でいえば、ちょっと自縄自縛っぽくなってきた…というか。草生期に、主に芹沢鴨一派を粛清する目的でつくった隊規が、大所帯を引っ張っていくには矛盾がいろいろ出てきた時期です。実際、隊士の処刑は必要以上に増えてきていたようです。
 隊規というのは、はたして、恐怖で隊士をしばるためだけのものなのか。土方の個人的な妄執なのか。それか、ある超然とした武士の美学に凡人を導くためにあるものなのか……と、そのへんのことを、土方歳三がこの時期考えたとしても不思議はないし。長坂小十郎という、自分と異質な、だけど等質な強さの意志を持つ男を「気にいらねえ…」と反発しつつ、ついつい大事にしたくなる、というあたりの心情も繊細で、良かったですね。

 で、原作と読み比べてみますと、原作のほうは、はるかに小噺的というか。まじめで純朴な田舎者の長坂小十郎が、成り行きで、なりたくもなかった新選組隊士になってしまい、意志にも反して、見ず知らずの水戸藩士を仇と狙って、大立ち回りをする羽目になってしまった。しかも相手は水戸徳川家の家中であり、いざ事がなったら土方も青ざめて、なかった事にするために、長坂には退職金をあたえて除隊させ、神聖不可侵の法度第一条「局を脱するを許さず」を、みずから曲げることになってしまいました…というお話です。

 この夜、長坂小十郎は、赤座の首をもって新選組屯所にかけ戻ったが、驚いたのは土方だったろう。
「長坂君、このこと、たれにもいうな」
 と、路銀と、三十両の餞別を渡した。赤座の首はいい。土方にとっては、まさか小十郎が水戸藩の海仙寺宿所に斬り込み、藩士四人を切ろうとは思いもしていなかったのだろう。
 あとで沖田に、
「総司、おれもすこし遊びすぎた。長坂がああいう愛嬌のある男だから、からかい半分にけしかけてやったのだが」
 といった。


 これを、法度に対する土方の思い、対立する志というもの、武士であるとはどういうことか…というようなラジカルな問題につきつめて、最終的には、新選組の終盤を引っ張っていく土方の覚悟につなげていったのは、ホントにドラマの手柄だと思いますね。

ほか、気づいたことなど。

〇 とにかく、今回の功労者は、長坂小十郎を演じた綾野剛さんです。
 って誰ですか、この方は。お初に拝見する役者さんですが、いやー、どこからみつけてきたんですかね、こういう逸材を。ホントに素晴らしかったですよ。
 何しろ、強烈な目力があり、意志を感じさせる顔つきと、声の感じも独特で雰囲気がある。なんといってもその身体能力!! 経歴はまったく存じ上げませんが、殺陣とか居合いなどに、相当の心得がおありなのではないでしょうか。こんなに気持ちのよい殺陣を見たのは久しぶりです。ここまで良い物をみせて頂くと、役者さんが有名とか無名とか、まったく関係ないですね。
 わたし、常々いってるんですけど、歴史人物を取り上げる大河ドラマ等に出演する男優さんには、殺陣、居合い、能狂言、日本舞踊、茶道、書道…などを、深くなくていいので形だけでも、常日頃から習うような心がけがあってほしいんですよね。それは姿勢とか、立ち居振る舞い、発声などに全部差がついて現れますもの。
 さらに、そういう教養がにじみ出るような俳優さんを、有名無名を問わず引き上げるのも、NHKの大事なお仕事だと思います。BS時代劇が、今回のように、「どこにこんな人がいたの!」と驚くような人材を世に出す機能を果たすなら、時代劇の今後のためにホントに喜ばしいですね。

〇 土方役の永井大さんがグンとよくなってきた。芹沢鴨の暗殺のころとくらべると段違いの風格。スパンの長い大河ドラマじゃなく、数話の間に役の成長や変貌を見せられるってすごいな。初期のころ、空気みたいとかいったのを申し訳なく思います。
 できれば、もうちょっと洒脱な感じがあればいうことないんだけどな…。まあ、長いドラマじゃないので、あんまり役の多面性をみせるのも散漫になって逆効果なんでしょうが。

〇 とはいっても、いまだに残念なのは他の隊員の皆さんが空気っぽいことなんだけど。あと4話くらいだけど、ほかの隊長クラスのキャラが立つようなエピソードがなにか用意されているでしょうか。されていればいいなあ。

 で、来週は「謀略の嵐」…ですか? これって、原作の巻頭を飾る「油小路の決闘」でしょうかね。伊東甲子太郎役は、鶴見辰吾さん。この方演技力あるのよね~楽しみだわー。
 とかいいながら、伊東役は、どーしても谷原章介さんが鉄板だったりするのですが、私の脳内では。
 ではではまたね。


10 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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御意! (notimetolose)
2011-05-31 13:12:33
はじめまして。お邪魔いたします。

よくぞ書いていただいたという気持ちでいっぱいです。

この回の放送の感動冷めやらず、気まぐれに「新撰組血風録 長坂小十郎」で検索したところ、こちらを発見しました。

あのどうってことない原作を膨らませて魅力的に仕立て上げた脚本や、最後まで観る者をぐいぐい引っ張りハラハラさせる演出、そして長坂小十郎役の役者さんの素晴らしかったこと、すべてわたしが感じ入ったことを、的確に表現していただき、なんだかスーっとしました!

わたしもこれをテーマにブログを書こうかと思っていましたが無用です(^^)

恥ずかしいのでURLは入力したくなかったのですが、入力しないと投稿できないようなので・・・m(_ _)m
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ありがとうございます。 (庵主)
2011-06-01 20:05:58
notimetoloseさん、コメントありがとうございます。
この回はすばらしかったですね。役者もよく、脚本もよく。血風録は回を重ねるごとに良くなっていく感じで、毎回ほんとに楽しみです。
興奮しちゃって、多少筆が滑った感じはしてましたが(^_^;)、なにか同じツボで感じてくだったのなら、とても嬉しく思います。ありがとうございました。
のこり話数もわずかになりましたが、たのしみに見届けたいですね!
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お久しぶりです! (ブガッティ)
2011-06-02 06:00:12
庵主さま、お久しぶりです! ブガッティでございます。憶えておいででしょうか?
再びコメント欄に投稿できるようになったようなので、喜び勇んで投稿させて頂きます!

ブログはいつも拝見させて頂いておりました。この『新撰組血風録』は、BSを受信していないので、残念ながら一回も観ていません。庵主さまのレビューや、予告編で辛うじて垣間見ているだけですが、それだけでも充分素晴らしさは伝わってきます。どこぞの大河とはえらい違いですね(笑)

で、その大河についてですが、私が4月1日に開設したgooブログ『テレビのツボ』において、恥ずかしながらレビューを書いております。タイトル通り、あらゆるテレビ番組の中からツボ(面白ポイント)を探し出し、好き勝手な感想を書きまくるというスタンスのブログですが、なぜか、どうしてか、あの大河が中心になってしまってるんです(苦笑)
まあ、歴史ドラマではなく、恋愛ファンタジーとして、斜に構えて観るという見方をしてるんですけどね(笑)

ケータイからだと長文の修正は面倒なので、あとから誤字脱字を見つけても放置してますが、一応、大河以外にも色々なレビューを取り揃えておりますので、よかったら覗いてみて下さい。

拙ブログの宣伝になってしまい申し訳ありませんでした。これからも庵主さまのレビューを楽しみにしています!
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こんにちはです (ikasama4)
2011-06-02 12:54:18
お久しぶりでございます

どうも今年のNHKはBSに力をいれているようですw

綾野剛さんは若手の注目株の一人ですが
ここまで時代劇がハマってるとは予想外でした

ホント、あの居合の殺陣は見事でした

後は納刀の所作がもう少し早ければ完璧ですね

全体的に出演者の方々の殺陣のレベルが
かなり高いので見ていて実に楽しいです

それから、この作品が終了後に7月から放送される
「テンペスト」

実はこちらの作品をかなり楽しみにしております
http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/tempest/

なにせ、キャスティングと脚本が・・・ねぇ ̄∇ ̄ゞ
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お久しぶりです (SFurrow)
2011-06-03 22:31:29
わ~コメント欄、復活したんですね!
twitterはやってないので、ブログにコメントの交流があるとやっぱり嬉しいです(最近は承認制のコメントとかもあるみたいですからね)。

BSの「血風録」は私も楽しみに見てます~~
オープニング/エンディングもキレが良くてかっこいいですよね。「組!」の記憶と比べながら見るのもまた楽し。
長坂小十郎役の彼は元陸上選手だったとか…児玉清さん追悼の竜馬伝再放送を見てたときに、武市塾の塾生その他大勢の中にチラっと彼がいたような気がしたのですが目の錯覚だったかな~
だんだん大詰めに近づいてきて、レビューもますます楽しみです!

あ、そういえば廉価版のinfoseekがサービス停止してしまったので、拙宅はNinjaに引っ越しました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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再放送を! (庵主)
2011-06-03 23:33:28
ブガッティさん、お久しぶりです。
読んでいただけてて嬉しいです~。ことしは大河も挫折しちゃったし、すごい亀ペースで、半分店じまいみたいな状態になってますが、元気です。
今年は、わたし斜めに見てバカにして笑って凌ごうと思ったんですが…だめでした。ついていってる方をマジで尊敬したいですよ。
blogも読ませていただきたいです。ぜひリンク貼ってくださいませ。トラバ欄閉じてるので…すみません。
血風録は、ぜひ地上波で再放送してほしいな~、と願ってます。そういう声も多いようですので…。
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今年はBS! (庵主)
2011-06-03 23:38:20
ikasama4画伯
お久しぶりです!うれしーです。
テンペスト、楽しみなんてもんじゃないです。キャストもいいし、脚本は大森寿美男さんだし!
たぶん、BSに力を入れているのは間違いないです。BSのほうで、視聴率度外視の本当に良いドラマづくりを、積極的にやっているように見えます。春にやった「Taroの塔」もほんとうに素晴らしかったですが、視聴率5パーセントとかだったらしいんですよね。
こうなると私たちの住まう場所は裏大河に、BSに…と思うのですが、BS難民の方もいらっしゃることでもあり、地上波へ復活を期待したいですね!
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モブシーンに?? (庵主)
2011-06-03 23:45:27
SFurrowさん
おひさしぶりです~☆ 早速ありがとうございます。
そうなんです。ごくごくひっそり復活しました。(ホントにこっそりと…。だから新着コメント窓は隠してるんですけどね)。
小十郎役の彼は、走り方が本当に美しかったですね。陸上選手だったと聞き、納得です。姿勢も良いし、あれだけ殺陣が出来ればいうことなしです。
武市塾のその他大勢にいたのは、気づかなかったな~。案外、あのてのモブシーンが明日の時代劇スターの登竜門になってるのかもわかりませんね。
血風録のレビューは1週遅れというww あきれた亀ですが、とりあえずJINが終わったら(笑)、BS時代劇の当日処理も出来るようになるのではないかと踏んでいます。いまはJINでおなかいばいなので…すみませんww
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リンク (ブガッティ)
2011-06-06 21:36:50
こちらに拙ブログのリンクを貼らせて頂きます~。
『新撰組血風録』を観られる日を楽しみにしています♪

http://blog.goo.ne.jp/bugatti26230755/
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いただきました♪ (庵主)
2011-06-06 22:55:00
ブガッティさん
リンクありがとうございます。ブックマークしました。
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