湯原修一の歓喜悦慶と聊かの慷慨憂愁, etc.

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♥ 009 ドイツとフランスの高校生が学ぶ共通歴史教科書

2015年04月27日 11時43分19秒 | 紫苑色の重い思い[慷慨憂愁]
             (長くなりますが、そんなに重たくはない紫苑色の思いです)

お世話になっている「プラザ図書館」へ本を返却しに行きました。
いつもそのまま手ぶらで帰ることはなく、また何冊かを借ります。

今回借りた本の中に次の1冊があります。
(書架に並んだ本の中で少し出っ張っていたので目に止まりました)

  ドイツ・フランス共通歴史教科書【現代史】
             - 1945年以後のヨーロッパと世界 -

        監修 : ペーター・ガイス
             ギョーム・ル・カントレック
        監訳 : 福井憲彦
             近藤孝弘


本のタイトルは聞いたことがありましたが、開いて見たのは初めてです。

     ※この「1945年以後のヨーロッパと世界」は全3巻あるうちの1巻で
       フランスにおいてはリセ最終学年(日本の高校3年に相当(?))
       用の教科書になっています。
 
パラパラと捲って読んでみると何か違います。
大きく違っているようです。一般的な日本の世界史教科書と

  どこが違うのか
  私には解かりやすく説明することができません。 
  
   ♥ 歴史を憶えるために記録が書き写された「日本の歴史教科書」

   ♡ 歴史に学ぶために記述された「ドイツ・フランス共通歴史教科書」

  こんな違いなんでしょうか。


   フランス語版の序文には次のことが書かれています。

    -↓序文の一部(日本語訳されたものを引用) ※青の色付けは私がしたものです
    
     (前略)
     密接なつながりを持つ史実の数々、認識を共有する記憶あるいは反対に議論を
     呼んでいる記憶、一つの現実に対するさまざまな視点からの理解、そして、それ
     ぞれの国の歴史や相互関係から見た両国の歴史はもちろん、ヨーロッパおよび
     全世界から見た両国の歴史にも踏み込んだ授業が行えることを目的とした
     類似点・相違点・相互作用の検証 ・・・ 以上が、本教科書を作成するにあたって
     の主な指針であった。     
     (中略)
     本書は、数多くの国々からなる複雑な世界の中で生きていくことを要求される
     生徒や教師に役立つことを第一義としている。こうした世界を理解するためには
     とりわけ多元的な歴史認識が必要なのである
     (中略)
     本書において生徒に、教師に、そして感心の高い読者に提示されている歴史は、
     さまざまな出来事を、さまざまな見解の一致や不一致を、さまざまな意味とその
     現れを、説明する歴史なのである。それはまた、それらの諸点を解釈しようとする
     歴史であり、それによって、両国民および両国が自らの過去と相手の過去を、
     ときに異なる方法でとらえようとしていることを示す歴史でもある。やがて、複雑で
     多元的なな歴史を共同で執筆するという世界に類例のないこの試みが広がって
     いき、他の国々で、他の文化で、世界中の他の地域で同様の試みがなされること
     になるかもしれない。
     (中略)
     歴史家の仕事の意義とその限界を生徒に伝えることができれば幸いである。
     その仕事とは、過去を振り返ることで現在に光を当て、誠実に未来を見つめること
     である。
     (後略)

    -↑(引用終わり)-


   例えば、本文には次のような記述があります。

    -↓「第10章第3課 21世紀の世界秩序は?」の一部(日本語訳されたものを引用)-     

    一極集中型の世界?

     ソ連陣営の崩壊とともに、1989年から1991年にかけて、冷戦という二極体制が
     崩壊した。1990年、アメリカのジョージ・H・W・ブッシュ大統領は「新世界秩序」を
     宣言し、「人々が協力しあう歴史的な局面であり、おこでは法治体制が弱肉強食
     の掟に取って代わる」と述べた。これは、クウェートに侵攻したイラクに対し、国連
     合意の上で多国籍軍を組織し、軍事介入を行ったアメリカを正当化しようとする
     ものであった。
     しかし、このような各国に同意を求めるようなやり方は、あっという間に消えてし
     まった。超大国アメリカに肩を並べられる国家が全くないという一極集中型の
     世界になってしまったようなのである。今や、アメリカ政府は単独で行動できる
     状態にある。国連の同意なしで2003年に開始されたイラク戦争は、一国主義の
     例として、フランスを中心に多くの人々から批判を受けた。彼らは、その他の例も
     上げている。例えば、アメリカは京都議定書を批准しなかった。それを受入れれば、
     自らの経済モデルを見直さざるを得なくなるからである。また、アメリカは国際刑事
     裁判所(ICC)にも参加しなかった。自らの政策を新たな国際刑事法の管理下に
     委ねることになるからである。しかしその一方で、ドイツには、国連がいつも民主
     主義を擁護する手段を常に持っているとは限らない、アメリカが代わりにそれを
     行っているのだと考えている人々も存在する。

    一国主義の拒否

     ジョージ・W・ブッシュ大統領(子)が行っているこのような政策は、アメリカ国内から
     も含め、世界中で批判されている。2003年のイラクに対する軍事介入は、フランス
     やドイツなど多くの国々から非難された。こうした国々は、多国間主義を維持し、
     危機に陥った国連を救いたいと考えている。
     しかし、1990年代末に生まれたオルタナティブ・グローバリズムという考え方が、
     さらに激しい論争を引き起こした。この動きは、欧米の大国が押し付けてきた
     自由主義的なグローバル化を再検討しようというもので、G7(主要国首脳会議)
     や世界貿易機関(WTO)を介した裕福な国による支配体制を非難している。
     オルタナティブ・グローバリズムが特に提案しているのは、資本の移動に対して
     課税し、そこから得られた収入を開発援助に回そうというものである。これは
     先進国で労働組合や農業組織が行っている社会闘争と、発展途上国の要求に
     基づいたもので、WTO閣僚会議が開催された時には、「社会フォーラム」やデモ
     を組織している。

    -↑(引用終わり)-

   この記述は日本と同様G7メンバーでもあるフランスとドイツの”高校生用”の共通歴史
   教科書の中に書いてあるものです。
   
   比較として、日本の”高校生向け”教科書(*)の記述を一部を引用して紹介いたします。

           * :「詳説 世界史B」 山川出版社 2007年3月5日発行

    -↓「アラブ世界の分裂とその影響」の一部(引用)-

     イラクでは、1968年以来、アラブの統一と社会主義をかかげるバース党が権力を
     にぎり、79年、党の実権をえたサダム=フセインが大統領になった。80年、フセ
     インは国境紛争からイランと88年まで続く戦争を起こし(イラン=イラク戦争)、
     90年にはクウェートに侵攻したが、翌91年1月、国際連合の決議によるアメリカ
     軍を中心とした多国籍軍の反撃をうけて撤退した(湾岸戦争)。
     アフガニスタンでは、1996年以来、イスラーム原理主義をとなえるターリバーン
     が権力をにぎっていた。2001年9月11日、4機のアメリカの旅客機が乗っ取られ、
     ニューヨークとワシントンのビルに突入する同時多発テロ事件がおこった。
     民主党のクリントンをついだ共和党のブッシュ大統領は、ターリバーンの保護下
     にあるイスラーム急進派組織アル=カーイダが事件の実行者であるとして、同年
     11月、同盟国の支援のもとにアフガニスタンに対し軍事行動をおこし、ターリバーン
     を追放した。その後、アフガニスタンには国際連合の主導で暫定政権が成立し、
     国内復興につとめている。
     アメリカはさらに2003年3月、イラクのフセイン政権が中東地域の脅威になって
     いるとの理由で、イギリスとともにイラクに武力を発動し、フセイン政権を倒した。
     イラクは米・英軍を中心にした占領統治下におかれ、日本も復興支援のため
     自衛隊を派遣した。2004年6月、暫定政権に主権が委譲されたが、外国軍の
     駐留や暫定政権に対する反対は続いており、正常化への道はなおけわしい。
     有力な産油地帯での紛争の多発は、世界経済にも不安をあたえている。

    -↑(引用終わり)-

  ”詳説”となっているこの日本の高校用教科書は、"いつどこで何が起こったか"の
  表層の事実だけを数多く詰め込んで、憶えて(暗記して)もらえさえすればそれで良し、
  と考えて作られているように思われます。
  『背景や思想、意図などは、あまり深く考えなくてもいいよ』ということでしょうか

 
  先週「バンドン会議60周年記念首脳会議」(**)が行われました。
  欧州による植民地支配の時代に終わりを告げ、第3世界を生み出すことになった
  「バンドン会議」について、参加国でもないドイツ・フランスの共通歴史教科書には
  2ページをさいて記述されていますが、参加国であるアジア日本の前記教科書では3行
  でさらりと書かれています。

     ** : 安○首相の演説のとき、始まる直前に○主席が各国首脳がいる中で席を
        立って会場を後にされたとのことですが、
        日本のTV・新聞ではそのことには触れず、5ヵ月ぶりの日中首脳会話の
        ことが大成果ででもあるかのように、好意的に報道されているようです。


   「ドイツ・フランス共通歴史教科書」を監訳された福井憲彦さんの「監訳者あとがき」
   の最後の部分を引用紹介いたします。

    -↓「監訳者あとがき」の最後の部分(引用)-

     日本の中等教育でも主題追及の学習が重視されていることは確かであるが、それが
     どこまで教科書や教育現場で実現されているかは、まったく疑問というよりほかない。
     この共通教科書の場合にも、提示されている資料が適切か、問の設定などの内容が
     これでよいのか、という議論はありうるであろう。また、教育現場においてどのよう
     に活用されていくかは、今後の課題でもあろうし、現場を担う教師の質にかかって
     いることは日本とも同様であろう。しかし生徒たちがみずから読むことのできる
     教科書において、その方向性が明示されるような内容を備えていることは、一つの
     前提として私には重要なことと思われる。
     日本の教育現場で奮闘しておられる教員の方々に、この訳書が参考と刺激になれば
     幸いである。また、次代を担うべき生徒や学生の諸君が、みずからこの共通教科書
     を読んで問いに反応してくれれば、監訳者としてこれにまさる喜びはない。

    -↑(引用終わり)-


若い頃から世界史には大変興味があった私ですが
高校の授業では、教科書を枕代わりに寝ていた時間のほうが長かったように思います。
そのとき使われていた教科書が「ドイツ・フランス共通歴史教科書」のような
面白い内容であったなら、
私は目をパッチリ開けて、先生を困らせる生徒になっていたかもしれません。


 残念なことに「ドイツ・フランス共通歴史教科書」は当初期待されたほどには実用に供されて
 いないようです。
 しかし、作成の目的が共有されただけでも第一歩を踏み出したといえるのではないでしょうか。
  

   今の日本の高校教科書やマスメディア報道に馴らされた蛙が大海に出たとき、
   悠然と泳ぐオニイトマキエイから
     『あなた、素直だけど鈍感なお馬鹿さんね』なんて言われなければよいのですが ・・・