麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

工房月旦11月号

2024-04-04 18:58:12 | 短歌記事


未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦11月号    鈴木麦太朗

  パクチーがよけられた皿さげるときうか
  ぶあの日のビールのぬるさ 飯豊まりこ
 視覚の記憶から温度の記憶を呼び起こして
いるのが工夫であり印象深い。
  とび箱の中に隠れる夢をみてそれから数
  年間の真夜中      太代 祐一 
 ひたすらに暗い世界が続いている様を表し
た。誇張表現が活きている。
  連絡を待ちつつ直すしろくまの鼻のフェ
  ルトの小さな歪み    氏橋奈津子 
 「連絡」と「小さな歪み」が響き合ってい
て何か不穏な感じがある。
  兄さんの鷲鼻 すこし生きづらく壁にぶ
  つけたりしたでせう。好き 新井 きわ
 部分をていねいに述べることで「兄さん」
への惜しみない愛情が伝わってきた。
  友達の嘔吐物を片付けてやり平気でいた
  ら叱られたっけ     和田 晴美 
 褒められることはあっても叱られることは
なさそうに思うが……。気になる歌だ。
  ハイいいですとためらいながら返事して
  義歯填め込みはやっと終了 赤木 恵 
 「ためらいながら」にその時の感覚が集約
されていて状況がよくわかる。
  寿がきやのスープの面にネギの輪が偶然
  ハート描けば掬う    藤島 優作 
 微笑ましくこころ温まる感じの歌。結句を
言い過ぎずにまとめたのがいい。
  ゴーヤーを切ればどこからにんじんにな
  るのだろうか、みたいな天気 西村 曜
 独特な比喩。はっきりしない天気なのだろ
う。付け句の題材にすると面白そうだ。
  雨傘を開いてできた空間は雨の匂いと私
  の自由         岡田 淳一 
 結句の意外性にしびれた。世の男性の悲哀
を感じたのは私だけだろうか。
  七つある信号青に変わり行くわが越ゆる
  なき夕ぐれの道     西城 燁子 
 どこか懐かしいような風景が目にうかぶ。
「七つ」がちょうどいい塩梅だ。
  制服を着て教室に来る九月 きみはきの
  ふの雲を秘むるか    三田村広隆 
 謎めいた感じの内容も良いが、カ行の音を
巧みに使った調べの良さに注目した。
  「あにきー」と声にするときの甘やかさ
  三男坊の夫の口から   野口 道子 
 パートナーの意外な一面をみたときの感情
をうまくまとめている。
  中一で故郷離れる汽車に乗りそれからず
  っと旅をしている    さかき 傘 
 「人生は旅」という普遍的な事象を詠んだ
歌だろう。「中一」にリアリティがある。
  うごかざる水鳥の眼とわれの眼の出会い
  いたるをしずかに外す  立原  唯 
 水鳥と作者が対峙している場面。静かな緊
張感がいい。
  幸せかと夫が時おり聞いてくる多分あの
  世のあなたより幸せ   谷口ひろみ 
 皮肉めいた感じにドキリとしたが、作者の
幸せを旦那様は喜んでいることだろう。
  「見ましたか」「ええ夜遅く」「わたく
  しも」タヌキが結ぶ近所の絆     
              坂井花代子 
 なるほど、そういう事もあるだろう。台詞
を五七五にうまく収めて一首がきまった。
  それさつき言つたぢやないとは応ふまじ
  君もさういふ年齢だから 森 由佳里 
 「さういふ年齢」がどれほどの年齢なのか
述べずともよくわかる。

 

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