麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

埼玉の

2017-06-03 13:23:19 | 短歌

 

埼玉の水は合わぬと妻言いき七年前の春の日のこと

本来の意味にて妻に使われし重き言葉の「水が合わない」

スーパーに無料で汲める清き水あるとし聞かば汲みにゆくなり

寄る辺なきこころのままに歩くのはけしの花咲く川沿いの道

しなやかな耳のようにも思われて五月の空を聴くけしの花

あるはずのコンビニエンスストアーが更地になっている昼下がり

野球部の姿をしたる少年がわれを抜かして走りてゆけり

七年をほろりほろりとほぐしつつ岸辺の道をゆけば暮れゆく


_/_/_/ 未来6月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

色の記憶

2017-06-03 13:19:19 | 短歌記事


未来6月号の「梟の鏡」にエッセイを載せていただきました。
「色」に関するエッセイです。何首かの歌を引きつつ綴ってあります。
未来会員以外の方も読めるよう、ここに載せておきます。

※ ルビと傍点は()内に入れてあります。


-----

  色の記憶

 生来、記憶力はあまりよろしくない方で、気に入った歌でも細部までは正確には思い起こせないことが多い。よく「一読で覚えてしまった」などという評を目にするが、そういう人をとてもうらやましく思う。それでも歌の中に何らかの色名が入ったフレーズのみならば思い起こすことは容易い。私が色に関わる職に就いていることも少しは関係あるのかもしれない。ともあれ、そんな色名の入った歌を思いつくままに採りあげて鑑賞を試みることとする。
      ◇
  めをほそめみるものなべてあやうきか
   あやうし緋色の一脚の椅子
          村木道彦『天唇』
 四句四文字目から始まるi音の連なりが心地よいリズムを生んでいる。「緋色」にもi音がふたつ入っていて良きリズムに貢献している。リズムだけを考慮すれば「黄色」でも良さそうなものだが、それではどうも締まらない。「緋色」から喚起される血液のイメージと「あやうき」「あやうし」が呼応している為であろう。「緋色」は、これしかないという選択である。
  ラッシュアワー終りし駅のホームにて
  黄なる丸薬踏まれずにある
          奥村晃作『三齢幼虫』
 一方こちらは「黄」がピシリと決まった歌。無彩色のホームに黄の丸薬が鮮やかにある。「赤」でも悪くはないが「黄」は朝の太陽を何となく思わせるのが良い。ただごと歌を標榜する作者の歌なので、おそらくは実景なのだろうが、想像で作った歌だとしてもそれはそれでかまわない。
      ◇
  白熊(はぐま)とはヤクの尾毛にてひらりはらり
  払子(ほつす)のさきについてゐるもの
          小池光『山鳩集』
  もののふの兜をかざりしんとゐる白熊(はぐま)
  をあかく染めたる赤熊(しやぐま)   同
 「白熊赤熊」という一連から二首を引いた。広辞苑によると「白熊」「赤熊」はこの歌に詠まれている通りの物だということがわかる。むしろ広辞苑の記述にもとづいてつくられた歌のようにも思われる。
 一首目。「ひらりはらり」が無ければ単なる説明であるが、これがあることにより「白熊」のゆれ動く様がありありと目に浮かんでくる。また「ひらりはらり」は単に状態を表わすオノマトペであるにとどまらず「ひ」「は」という「は行」の連なりにより「払子」の「ほ」をスムースに引き出す役割をも担っている。
 二首目。「白熊(はぐま)」はルビが無ければ通常は「しろくま」と読む。「白熊」を擬人(・)化でもなく擬態(・)化でもなく擬熊(・)化するという超絶技巧がここにある。
      ◇
  全否定されたる黒き丸薬を土にしずめ
  て待つ 春の雨    鈴木麦太朗
 自作を載せても良いとのことなので載せさせていただく。これは今年二月の笹選歌欄の月例歌会に提出した歌。「丸薬」は先にあげた奥村さんの歌が意識にあったのかもしれない。不穏な感じは伝わったようだが、分かりにくいという評もあった。もう少しヒントがあった方が良かっただろうか。悩むところだ。

-----

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする