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二月集を読む・2 鈴木麦太朗
噫 嗚呼と声出ずるのみ居たたまれぬ
己が思いに居たたまれず居る
森田 孟
ああ、ああと森田さんは嘆いていらっし
ゃいます。何に対して嘆いているのかは、
未来二月号をご覧いただくとわかります。
掲出歌は一連の最後の歌。世間の様々な事
どもに嘆き悲しみ、そんな自身の思いに居
たたまれず居るというのです。どうぞ一人
でそんなに背負い込まないで下さい、と申
し上げたいです。
樽のそばキャベツ大根たっぷりとニシ
ン漬けにぞなる運命か 深松芙士子
樽のそばに置かれているのですからキャ
ベツと大根はニシン漬けに使われるのはほ
ぼ間違いないでしょう。「たっぷりと」が
良いですね。何だかゆたかな気分になりま
す。結句の「運命か」は不遇な結末を思わ
せますが、キャベツと大根はニシン漬けに
使われて、きっと幸せだと思います。
ブティックのドアを開けたら此処はな
に濃密な香に蹂躙される 恒成美代子
ここは何なの、と思うほどに濃密な香り
のブティックに入ってしまった、という歌
です。お客様がこころよく買い物をしてく
ださるようにという思いで香りを施してい
るのでしょうが、どうやら逆効果だったよ
うです。続く歌を読むと、恒成さんは薔薇
の刺繍のワンピースを買うのを諦め、カブ
大根を買って家に帰られたことがわかりま
す。
トーストに独りの朝食わびしけれ夫の
介護を放たれし秋の日 衛藤 弘代
旦那様が入院されて介護の労からひとと
き放たれたものの、朝は一人でわびしくト
ーストを食しているという状況を素直に歌
にしています。一人居のわびしい気持ち、
介護の労から放たれて安らいだ気持ち、入
院している旦那様を心配する気持ち。複雑
な心情が伝わる歌です。
いつよりか書架のてっぺんに置かれい
て動くことなしドイツ語原書
中島里津子
「置かれていて」と他人事のように述べ
ていらっしゃいますが、過去のどこかの時
点で中島さんが置いたものに間違いないで
しょう。せっかく気付いたのですから良い
機会です。原書は読まないまでも風を通し
てあげたらいかがでしょうか。彼(彼女)
も喜んでくれると思います。
回り道なれど公園通るなり土の感触踏
みしめながら 武井 伸子
公園の土の歩道は良いですね。木もれ日
の下、やわらかな感触の土を踏みつつゆく
と心安らぎます。歌のひとつも出来そうな
気がしてきます。私も散髪の帰り道、必ず
近くの公園を周回してから帰るので、おお
いに共感いたしました。
立冬の空とはいへど青ふかく小夏日和
の那覇の街ゆく 永吉 京子
那覇の街でしたら十一月の初めであれば、
まだまだ暑い日もあることでしょう。地域
性にからめた「小夏日和」という造語がよ
く効いています。「青ふかく」にも小夏感
が表れていてさり気なく上手いです。
好きな花五つの中に山茶花を入れむと
肌寒き朝に決めたり 市川 秀樹
朝起きて雨戸を開けたら庭の山茶花のあ
ざやかな赤が目に飛び込んできて「ああ、
これは好きな花ベストファイブに入れねば」
と思ったのでしょう。ユニークな発想に思
わず笑ってしまいました。ところで、ベス
トファイブから外れてしまった花は何なの
かも気になるところです。あるいは季節に
よってランキングの入れ替えがあるのかも
しれませんね。
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