麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

工房月旦1月号

2024-04-04 19:05:25 | 短歌記事

未来4月号からもう1年間、工房月旦を執筆します。
担当は、紀野・高島・飯沼・江田、各選歌欄です。

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工房月旦1月号    鈴木麦太朗

  四十年庭に咲きたる木犀をわたしの義理
  のおとうとと思ふ    有村 桔梗 
 長く庭に咲いている木犀を血縁のない親族
である「義理のおとうと」と捉えたところに
立ち止まらざるを得なかった。近過ぎず遠過
ぎず、触れることの許されないもの。何か特
別な思い入れのある樹だったということだろ
うか。
  着物姿のコーヒー店のママさんのきりき
  りしやんとして桔梗さく 高田 芙美 
 言葉の斡旋が行き届いた文句なくいい歌。
的確で個性的なオノマトペは心地よく、その
音韻から「桔梗さく」を導き出しているのも
うまい。むろん桔梗の有り様はママさんの立
ち姿につながっている。
  映画観て髪を切つては昼を食べ洋服見て
  は買はずに帰る     薮内 栄子 
 行動の羅列が面白いのと同時に調子を整え
るように挟み込まれた副助詞の「は」が効い
ていて、読んで心地よい歌となっている。結
句のウイットもいい。
  いつまでも夏日は続きピーマンと茄子を
  たくさんもらう十月   黒川しゆう 
 昨今の地球沸騰化を捉えた歌と言っていい
だろう。収穫のよろこびのなかにピーマンと
茄子が限りなく増えていくイメージを孕んで
いて恐ろしさもある。
  みつしりと中身のつまつた白雲のふちを
  焦がして月あらはれる  峰  千尋 
 食べ物、具体的に言えば目玉焼きが夜空に
浮かんでいるような描写が楽しい。「みつし
りと」「ふちを焦がして」といった句がうま
く作用して歌を魅力的にしている。
  洋画家の昼寝は長く、客来れば叩き起こ
  すのも私の役目     河原美穂子
 作者はギャラリーの案内の仕事をしている
のだろう。ギャラリーと言えば清閑とした場
所という印象があるが、裏ではこういった事
も起こっているという事実をありのままに提
示している。現場を知らないと出来ない貴重
なリアリティの歌である。
  シャーベットグリーンにふくらむカーテ
  ンの菩提樹は抱くははそはの母
              千葉 弓子 
 作者の母親はたわむれにカーテンに身を包
んでみたのだろう。上句の「シャーベットグ
リーン」という色名の軽やかさと下句の重厚
な感じとの対比が印象的だ。また、菩提樹の
大きな樹形と母のイメージとの呼応も効いて
いる。
  上は横、下には縦の縞縞の珍妙なれどき
  ょうは在宅       安保のり子 
 さても面妖なる生き物かな、と思ったが最
後の「在宅」で合点がいった。たしかに上下
ちぐはぐな服装でも外出しなければ大丈夫だ。
  日曜の雨はひとしくふりそそぐ隣のあな
  たに遠くのわたしに   吉村 奈美 
 言うまでもなく下句の対句がこの歌の要諦
である。物理的にはパートナーと隣り合って
いるのだが心は離れている(と感じている)。
精神的にももっと寄り添いたいという願望が
あるのだろう。
  受け取れるトレイを持ちて店内へ睨みを
  利かせ踏み出す一歩   服部 一行 
 マクドナルドに出向いたときのことを詠ん
だ連作の三首目。静かな席を選んで作業(お
そらく作歌)をしようとしているのだろう。
「睨みを利かせ」に実感があってその情景が
ありありと目に浮かんでくる。

 

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