麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

家中の

2024-07-02 16:57:03 | 短歌

 

公園につくり物めく木蓮の咲けるを見つつ外周をゆく

家中のありとあらゆるゴムひもは明日休みと思えばゆるむ

金色の色鉛筆の奔放に日本武道館の擬宝珠ふくらむ

点描のようにたたきを染めてゆく雨の具現をしばし楽しむ

宴会の終わりのほうにあらわれてお腹を満たすうな丼ぞよし

生卵ひとつあるかもしれません重ね置かれた帽子のなかに

わが前にわがゆく道は開かれるフレアスカートはいて歩けば

どんぐりを蓄えていた秘密基地リスの属性ではないけれど

薬店と田んぼの境に翻るポイント5倍の旗うれしそう

かりんのど飴ひとつぶくれたひとのことうっすらと好き 春の長雨


_/_/_/ 未来7月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦4月号

2024-07-02 16:55:41 | 短歌記事

 

未来4月号からもう1年間、工房月旦を執筆します。
担当は、紀野・高島・飯沼・江田、各選歌欄です。

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工房月旦4月号    鈴木麦太朗

  ひと匙のクリームだけじゃ足りなくて何
  度もなんども口へ運んだ 吉村 奈美 
 クリームを食すときの様子が描かれている
が単純な情景描写ではないだろう。どこかセ
クシュアルな印象がある歌だ。
  妻の手に触れず過ぎたる年月に庭の松の
  木塀を越えゆく     原   裕 
 奥様と暮らした年月を庭の松の木の成長を
通して表現する手腕がすばらしい。長い年月
が培ったおだやかな愛情が感じられた。
  米袋を巻いた葡萄の木に宿る精霊は今朝
  雪に目覚めて      大田 成美 
 「米袋」という具体がいい。こういう細か
い描写はリアリティを支える柱となる。
  太き幹陣地となして捕虜をとる戦後の子
  どもの開戦ドンは    滝川 順子 
 「開戦ドン」は戦争をモチーフとした鬼ご
っこの様なものだろうか。斯様な遊びを思う
とき、やるせないような懐かしいような複雑
な感慨が生まれた。
  青森県産洗ひ牛蒡の三本をただの袋に縦
  に挿したり       長尾  宏 
 何ということを詠んでいる訳ではないが確
かに感じるものがある。映像が目に浮かぶし
牛蒡の過去や未来にも思いがおよぶ。
  たゆたへど沈まぬ舟を乗り継いではるの
  薄闇くらくらわたる   西谷  惠 
 ただ舟に乗るのではなく乗り継ぐところに
惹かれた。「薄闇」に呼応した「くらくら」
というオノマトペもいい。
  きんちやくに冬のひかりを閉ぢこめてお
  でんはしんと煮えてゆきたり 有村桔梗
 きんちゃくの中身はたまごかはたまた餅か、
分からないけれどそれを「冬のひかり」と美
しく表現した工夫が活きている。
  靴下を脱いだ瞬間ぴんと攣る足を笑って
  やりたい、けれど    田丸まひる 
 「けれど」がこの歌の肝である。そのあと
に続く心情をいろいろ想像した。
  だうだうとジャージの上からスカートの
  高校生の一団が来る   薮内 栄子 
 地方ではよく見られる光景だろう。「だう
だう」が効いていて高校生の集団が迫力をも
って近づいてくる様が伝わってきた。
  冬の木のあひだあひだにひかり射し無風
  のわたしそこに立ちをり 谷 とも子 
 上句のゆったりとした調べがいい。また、
下句の俯瞰的な視点も魅力的だ。
  いきおいよく座った少女に思いのほか右
  の座席は弾まなかった  案納 邑二 
 起こらなかったことをあえて詠み込むこと
で、その映像がむしろ鮮明に目に浮かんでく
るのが面白い。
  つき合いはもう長いから多くても少なす
  ぎても気になる雪よ   河原美穂子 
 雪の多い地域に住まわれている方には共通
する感慨だろう。特に「少なすぎても」に実
感がある。
  暖冬の師走の少女は川べりにトロンボー
  ン吹く脚を広げて    安保のり子 
 結句がいい。管楽器を吹くときは脚を広げ
てしっかり踏ん張らないといい音が出ないの
だろう。情景が目に見えてくる。
  からっぽの心をもって入りなさい足長蜂
  の巣くう車庫には    加川 未都 
 「からっぽの心」から蜂の巣くう車庫へ入
るときの緊張感が伝わってくる。また、「か
らっぽ」は「心」の空虚に加えて「巣」「車
庫」の空隙をも思わせて巧みだ。

 

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