かすかにも火薬の香をまといつつどうしようもなく夏が来ている
びわの葉の一葉ごとに一頭の蚊はひそみ居てまひる風なし
特急は色もかたちもよろしくてわたしのことは見向きもしない
右側を下と定めて横たわる秋刀魚の骨のかたちがみごと
ふくらんでゆく蜂の巣のたしかさは蜂のこどもを育んでいる
叱られて言い返せないわたくしの日々の眠りのやすらかなこと
十薬の横ばいの根のやわらかさ「婚は苦行」と誰が言いしか
執拗にあしのうらがわくすぐれば個人情報ながれ出るかも
火を吹けば火の属性と知るものを孤高の竜の声はおだやか
何もかもが終わった訳ではないけれど夏は終わったような気がする
_/_/_/ 未来1月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/