麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

工房月旦2月号

2024-05-10 10:19:36 | 短歌記事

 

未来4月号からもう1年間、工房月旦を執筆します。
担当は、紀野・高島・飯沼・江田、各選歌欄です。

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工房月旦2月号    鈴木麦太朗

  星ひとつ瞬くツリーその下にそれぞれが
  置く死者のくつした   千葉 弓子 
 クリスマスプレゼントを受け取るための靴
下を示していると思われるが、それを「死者
の」と定義することで一気に謎めいた印象が
立ち上がった。不穏な言葉を使っているのに
何となく温かみを感じるのが不思議だ。
  ストローを口腔あさく?みながら端より
  ほろんでゆく馬おもう  案納 邑二 
 この馬は競走馬と読んだ。多くの競走馬は
レース中や練習中の故障、特に脚の怪我によ
り命を断たされてしまうと聞く。ストローと
競走馬の脚の視覚的イメージが重なるととも
に、ストローの語感はどこか競走馬の名前を
思わせる響きがあって印象深い。
  穢れなき貧乳好きの左翼たち彼らの気持
  ちが少しは分かる    秋田  哲 
  豊かなる胸をボインと呼んでゐた昭和の
  かをる国会議事堂     同    
 連作の少し離れたところに置かれたこの二
首をあわせ読むとき誰もが感じ入るものがあ
るはずだ。それはノスタルジーかもしれない
し、屈曲したアイロニーかもしれない。
  予期せざる娘夫婦の電話から「今日は帰
  省」の予告受けたり   平井 軍治 
 的確な結句の収め方により娘夫婦の突然の
訪問を必ずしも歓迎していない様がよく伝わ
ってきた。この歌は五首連作の二首目。前後
の歌を読むと、そのときの様子が具体的に述
べられている。ひとつの物語を読んでいるよ
うな味わいがあった。
  生きのいい滑子、平茸、ブナカノカ並び
  ゐるなり森林組合    布宮 慈子 
 売店に色々なきのこが並んでいる様子を詠
んだ歌であるが「森林組合」という語の斡旋
がよかった。森の中にきのこたちの組合があ
ってわいわい騒いでいるような、楽しい映像
が立ち上がってきた。
  なめくじの残した糸のきらきらをキレイ
  とキライが行き来する夜 加川 未都 
 おそらく誰かを思う気持ちの喩であろう。
アンビバレントな感情を示す為になめくじの
あのキラキラを持ってきたのは、意外性があ
りながら納得させられた。
  あなたにはこの紺色が似合うだろうPEAN
  UTSの黄の文字のTシャツ 吉村 奈美
 まずパートナーに似合う紺色を提示して次
にその補色である黄色を持ってきて視覚的に
強い印象を与えている。そして最後に、それ
はTシャツであることを答え合わせのように
述べるという構造の歌。一読すると何という
ことは無さそうに感じるが、よく考えて作ら
れた歌である。
  恐竜の卵のなかに座り込みこのまま眠っ
  てみたいのですが    田丸まひる 
 恐竜の大きさにもよるだろうが、大きい恐
竜の卵であればちょうど人がひとり座り込ん
でいる位の大きさになりそうな気がする。そ
んな卵のなかで眠ってみたいという気持ちは
よくわかる。恐竜博物館に出向いたときの歌
のようなので、実際に斯様な展示物があった
のかもしれない。
  寝るまえに波打ち際の音を聞く 人工的
  な・人の手による    田島 千捺 
 波打ち際の音を下句でことさらに説明して
いるのが印象的。ざるのなかで小豆を滑らせ
ている音だろうか。CDか何かの音源と考え
るのが普通だが、枕元で誰かに音を出させて
いるようにも読めて面白い。

 

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