麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

たてがみの

2019-08-06 01:27:58 | 短歌

 

たてがみの柔らかそうな馬に乗る乗り換えなしの午睡のなかで

ハムレットにあらざるわれの逡巡はシャツをズボンに入れるか否か

木下道ゆきつつ思う木洩れ日をたまごボーロに例えしひとを

笹原は風がなければ絵のごとし縁に斑をもつ笹も混じりて

絶対に押すなよという姿にて池見るひとを押さずに過ぎる

園内にクシコスポスト流れくるピストルの音を伴いながら

石亀のおよぐ不思議を見ておれば空を飛ぶかもしれぬと思う

坂東の道はうねりを持ちながら百年前にわたしをはこぶ

助手席に帽子を乗せてゆく道はカーナビが知りわが知らぬ道

時として電波事情は悪くなり映画批評はとぎれとぎれに


_/_/_/ 未来8月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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五月集を読む・2

2019-08-06 01:26:57 | 短歌記事

 

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五月集を読む・2    鈴木麦太朗

  一刷けに長く引く雲林の辺の深きにと
  どまり歩き来るに見ゆ 奥住  毅
 初句から四句までで雲の姿をダイナミッ
クに表現し、結句で自身の行動をコンパク
トに述べています。まず初句の「一刷け」
が良いです。青空にさらっと白いペンキで
描いたような雲のかたちが目に浮かんでき
ます。そして「林の辺」と述べることで地
上の景色がひろがります。最後に自身を詠
むことにより、歌全体がぐっと読む者の気
持ちに寄り添ってきます。近藤芳美調とで
も言うのでしょうか、字余りになってでも
力強く詠う姿勢に圧倒されました。
  亡き友の母は去年の秋逝きしと今夜知
  りたる世話になったのに 河村 公美
 ご友人の母君がお亡くなりになったこと、
そしてそのご友人はすでに亡き人であるこ
とをまずは端的に詠んでおられます。こう
いった人事の状況説明をわかりやすく歌に
するのは存外難しいものです。簡単そうに
見えますが、かなり表現を練られたのでは
ないかと思います。また、結句の「世話に
なったのに」という口語の詠嘆、こころの
叫びをそのまま言葉にしたような詠みは感
慨深いものがありました。
  夫に見えわれには見えぬ長の子に物言
  いており暮れてゆく部屋 原 美代子
 何とも切なくて凄まじさも感じさせる歌
です。旦那様はその場には居ない息子さん
と暮れて薄暗くなっていく部屋でお話をし
ているというのです。続く歌も拝読いたし
ました。旦那様の日々の介護は大変なこと
と思います。具体的な事実を述べることで
原さんのいたたまれないような気持ちがひ
しひしと伝わってきました。
  平成の最後の年の賀状にて切手シート
  の当りが多き     小林 永典 
 平成最後とか令和最初を詠む歌はこれか
ら目にする機会が多くなりそうですね。こ
の歌は意外性とユーモアがあって良いと思
いました。そして、ささやかな幸が良いの
です。これが一等が当たって現金三十万円
を得たなどという事になれば、たとえそれ
が事実だったとしても歌にはなりません。
ちなみに今年は私も切手シートの当たりが
多く出ました。四十枚ほどの年賀状の中に
当たりが三枚ありました。
  冷え冷えとわが死の翳の横たわる布団
  を干しぬ冬の日ざしに 龍  圭介 
 冬の日差しのなかで布団を干しながら、
龍さんはそこに自身の死を見ておられます。
布団に横たわって毎夜ひとは眠るのですが、
その姿は死と紙一重なのかもしれません。
そんなことを思いました。「冷え冷え」と
「冬の日ざし」の響き合いが効いています。
この歌に限らず、また龍さんにも限らない
のですが、五か月間「月集」を読ませてい
ただくなかで、響き合う言葉は一首の中の
なるべく離れた所に置くと効果的であるこ
とを学びました。
  ブルースターサファイア婚というがあ
  り婚六十五年 それも過ぎにき
             髭 千代子 
  ほっこりと乙女椿が咲きましたもうす
  ぐ併せて百八十歳    同    
 何という目出度い歌なのでしょうか。夫
婦ともども長生きする。これに勝る幸せは
無いのではないかと思わせる歌です。もち
ろんただ目出度いからという理由で選んだ
わけではありません。調べが良いのです。
一首目は三句と四句、二か所の軽い切れが
歌にアクセントを与えています。二首目は
上の句の語るような詠みと下の句の畳みか
けるような詠みが絶妙なバランスを保って
います。調べの良い歌はすぐに覚えること
ができ、口をついて出てくるものですね。

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