麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

花は赤

2018-02-02 00:44:52 | 短歌

 

 未来年間賞を受賞したので「抒情の奇妙な冒険」(笹公人選歌欄)から「ニューアトランティス」という欄に移ることになりました。これからは笹公人先生の選が無くなるので寄稿した歌はぜんぶ載ることになります。欄は移りますが歌は今までどおり笹先生に提出いたしますし歌会でのご指導は変わらず受けることになりますので、私は笹先生の門下生であることに何ら変わりはありません。

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花は赤 ブーゲンビリアの花ならん 花と花とが手をつなぐかな

手をつなぎ黄色いひよこが消えてゆく 横一列にならびしばかりに

五十代半ば中間管理職 落ち物ゲームにはまる夜の更け

妻も子も眠りしのちに飲む酒の酔えばよろしき夜のよあそび

むらさきのひよこ売られていたりしを思えばかなし昭和の終わり

雨ふれば雨に濡れゆくプレハブの中なるわれは乾いていたり

かりそめの胡桃の色をつくらんと赤・黒・黄を混ぜる昼すぎ

ヤギの毛の刷毛のやさしさ シナの木の木目のゆらぎ つつまれながら

石けんをよく泡だててよく洗う 胡桃の色によごれた指を

午後五時を知らせる「恋はみずいろ」が恋を忘れたわれらにひびく


  ※ ルビ  胡桃(くるみ)


_/_/_/ 未来2月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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選考経過

2018-02-02 00:31:22 | 短歌記事


未来年間賞の選考経過を記しておきます。文中、推薦者の名字のみの方は、山田富士郎さん、中沢直人さん、江田浩司さんです。森本というのは森本直樹さんで、同時受賞の方です。推薦者の人数が「八名」となっているのは「七名」の誤りと思われます。山田さんと江田さんに選んでいただいたのは意外でした。

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鈴木麦太朗

 推薦者は、山田、中沢、江田、笹公人、金尾釘男、斉木ギニ、池田はるみの八名。森本に次ぐ得点を集めた。
 鈴木麦太朗風味とでも言いたくなるような、この作者の独自の作品世界を評価する声が多かった。
  おばさんとおばさんに挟まれていて二十三時の白ぼけた空
  真逆なる効き目を持てる丸薬の正露丸毒掃丸ともども黒し
  ピーナッツのナッツは豆で良いとしてピーは何かな飲みつつ思う
といった、ユーモラスで力の抜けている歌があるなかに
  東口でバス待ちながら西口でバス待つひとをたまゆら思う
  埼玉の水は合わぬと妻言いき七年前の春の日のこと
  ぎっしりとねぎ生えているねぎ畑全部が全部ねぎのすごさよ
という、作者の住む埼玉の地をうたった作品も多くあり、底を支えていた。
  さあ目地を磨いてくれと言うように使い古しの歯ブラシがある
 家事をうたったこの歌にも、今の家族の現実感が出ていた。
 マイナス評価としては、ふつうすぎてひっかかるところ、尖るところが少ない、という意見や、
  葉桜もいいなあなーんて言いながら缶のまま飲む缶ビールかな
のように、文体の軽さが内容の軽さになってしまう歌がある、との声もあった。
 しかしながら、森本作品の繊細さとはまた違う独自の人間味がある作風がつよく支持され受賞が決まった。

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うごきがいいね

2018-02-02 00:27:22 | 短歌

 

 未来年間賞を受賞いたしました。ありがとうございました。選考対象は2016年10月号から2017年9月号までの一年間です。中沢直人さんに15首を選んでいただき連作として未来2月号誌上に編んでいただいております。

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  うごきがいいね

夕暮れの歩道に横たわる猫の色黒ければあやしかりけり (2016年12月号)

焼酎を親にかくれて舐めしこと鈴木雅之黒かりしころ (2016年12月号)

さくら葉が土の上にて濡れているやがては土になる定めにて (2017年2月号)

夕闇の自動車修理工場はわがゆく道をほのぼの照らす (2017年2月号)

借家なるいわば一世のかりそめの宿のわが家の鍵を開けたり (2017年3月号)

死に際に「けっして女を信じるな」なんて息子に言ってみたいぞ (2017年4月号)

馬に乗り自由の国へ逃げてゆくドン・ファン膝に美女を抱きつつ (2017年4月号)

パプリカの密なる種をとり去りて水のゆうべの小舟となせり (2017年5月号)

とうがらし実る畑をゆく猫のそのなめらかなうごきがいいね (2017年5月号)

あるはずのコンビニエンスストアーが更地になっている昼下がり (2017年6月号)

雅楽からジャズへと至る小道あり電子辞書にてしばしあそべば (2017年7月号)

さあ目地を磨いてくれと言うように使い古しの歯ブラシがある (2017年8月号)

言いがたき時のはざまにわれは居て夕餉の卓に箸をならべる (2017年9月号)

一匹ずつ羊が柵を越えてゆくマイナンバーを与えられつつ (2017年9月号)

旅人のごとくに夏はめぐり来てあるき疲れて湯につかるかな (2017年9月号)

                (中沢直人選)

 

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ようせいが来ている

2018-02-02 00:01:02 | 短歌

 

 未来2月号の「今月の一人」というページに作品9首と「今、私のうたは」という題のミニエッセイを載せていただきました。


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  ようせいが来ている

年上の部下を叱ればどよよんと曇れるそらが押し寄せてくる

ようせいが来ていると言う青年の頬にひかりの粒よぎりたり

あやしくも旧字体にて書かれたる麦のひと字は夢のごとしも

生ゴミはわが人生に寄り添いて放っておくとコバエがたかる

首すじのあわきかゆみを掻くほどに現実世界が近づいてくる

側溝のコンクリートのふたは鳴るわがはや足のあゆみの律に

骨二本折れてしまいしくやしさの電車にビニル傘置き捨てる

遊歩道の微妙な起伏を感じつつあゆめばわすれゆく憂いかな

むきだしのリビングルームあかるくて建築中の家はよろしき

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 月々の歌会のために題詠一首を作る。これには力を入れる。数十首作って一首を残すこともある。ひとえに出来の悪い歌を出すのが恥ずかしいからである。未来の詠草は必ず十首をそろえる。欠詠はしない。「欠詠は癖になるよ」と誰かが言っていたのが頭に残っているからである。そして間際になってあわてないように詠草は締切りの二週間前には用意しておく。つまるところ私の歌は羞恥心と強迫観念と心配性から出来ているのである。

 

 

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