麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

汚れたる

2015-07-31 23:57:00 | 短歌


汚れたる雪を抱えて谷川岳パーキングエリアよく冷えている

黒き牛運ばれてゆく関越道 晩春こそはこころさわがし

しばらくを黙しておればおすすめの山菜そばをおすすめされる

風つよき何ということ春の日にチラシも値札も吹き飛ばされて

六十番紙やすりこそよろしけれ どんどん剥がれてゆく古塗膜

厳密に言えばペンキではないが……塗り残しなく塗る木のベンチ

これは皮、見ればわかるさ、これは何、これは心臓、これは肝臓

新潟の良い日本酒は冷が良い 〆張鶴の〆がほどける


  ※ ルビ   〆張鶴(しめはりつる)


_/_/_/ 未来8月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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陽が昇る

2015-07-30 19:16:29 | 短歌


昨年参加させていた同人誌『タンカドウラク2』に載せた連作を
こちらにも載せておきます。

既発表歌を編集したものなので、このブログのどこかにある歌たち
なのですが、仮名漢字を調節してすべて26文字にしてあります。

それから、ほんのりとアクロスティックにしてあります。

 

  呪禁博士

陽が昇るころにしおれる花たちに呪禁博士は粉ふりかける

とある朝フルーツ牛乳配られて家という家とろけるようだ

なっとくのいくやりかたでわたあめをわけあう姉と妹と空

潰されて景色の中に馴染んでる午後の紅茶とのどごし生は

この世界に転がり落ちたばっかりに三本ずつに裂く刺繍糸

特大の洗濯ばさみに挟まれてふとんは昼に寝ているんだな

ハイウェイスターを口ずさみながら歩く速さで鬱期に入る

台風が残していった言葉たち違うちがうよただの落ち葉だ

地下街はどろどろの血だすれ違うまたは追い抜く人人人を

もし爪に神経細胞あったなら爪切るたびにぎゃあと叫ぶよ

どちらかの川の名前は消えてゆく川と川とが交わるところ

メガシャキと眠眠打破を見比べて暫し迷えるひと時がある

手掴みで食べるポテトの塩味よ野性を思い起こすことなく

東京のすべての家のエアコンをたたき壊せば昭和がきざす

必要にせまられて飲む正露丸念のため飲むマルチビタミン

タクラマカン沙漠今日とて晴れわたり近畿地方に降る俄雨

爪の先をやすりで削ると粉が出るまがうことなく人間の粉

穴掘ればときどき釘が現れるステンレス製の釘にさびなし

咲いてても咲き終わっても嫌われる夾竹桃の花弁ねじれて

橋桁の際の流れのとどこおり背中の乾いたあめんぼすべる

逃げだしたトラけつまずく街角の歩道と車道の段差を思う

ココナツの香りなのかな黒髪の熱帯雨林にうずもれながら

庭土のどこにあるんだ草のたね勝手に生えてくるなつ休み

効率のよい栄養のとりかたのひとつと思うひとの血吸うは

仄々と熱をまとっている肌の柔らかければ蚊はふかくさす

夜明けまで実験室にこもりおり方向音痴のアリをみつめて

 

 

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十月の

2015-07-05 00:14:08 | 短歌

 

短歌誌『うたつかい』に載せていただいた歌もこちらのブログにまとめておくこととしました。

『うたつかい』は既発表歌の掲載も可能なのでほとんどの歌はこのブログか「麦畑(題詠blog用)」に載っている歌から採っています。したがって多くはダブって載せることとなります。ただ、『うたつかい』も既に23号まで発行されており、私自身の短歌を整理する意味合いからまとめることとしたものです。

『うたつかい』には第4号(2011年12月)から欠かさず参加させていただいております。第5号、第7号、第9号、第11号では、高松紗都子さん、渡辺なおみさんと相聞の詠み合いをさせていただいております。これらはおふたりの歌がすばらしいので載せておきたい気持ちも無くは無いのですが紙面のみの思い出とさせていただきます。

 ※ 『うたつかい』ではツイッターで使っている「むぎたうろす」という名義で投稿しています。

 

『うたつかい』掲載歌まとめ (第4号~第23号)

 

第4号(2011年12月)

  自由詠 「幻想の八月九月」
十月の日焼けサロンの静けさよ十一月の海にあそべよ
東京の街はくだけてゆくだろう正義の味方がころげるたびに
ロッカーに突っ込んであるネクタイは夜中のたっているにあらずや
天井のヒノキの節に見つめられ手から足からあまねく緑
ぽっぽっぽポテトチップスちがいますやっやっやっやヤママユ怖い

 

第5号(2012年1・2月)

  自由詠 「静養日記」
鳩の餌まけば鳩くる雀くる檻の中なる孔雀はこない
無花果の葉っぱわいわい騒がしい髪切虫を洞に隠して
講談社文庫のならぶ書架を過ぎとぼとぼゆけば岩波文庫
楠の葉の深い緑はどうだろう夕映えの空に包まれたなら
仮名文の背中は青く光りおり当用日記静養日記

 

第6号(2012年3月)

  自由詠 「あふれるふれる」
かみの毛はほし草の香よふるえてる子には小ゆびに結んであげる
次つぎにうしなわれゆく面影におびえることも忘れてしまう
やさしさをつなげるために巡らせるうす紅色のバッハの調べ
たっぷりと含んだままで伝えあう今日と明日のさかいめあたり
いつのまにか眠ってしまったあくる朝くちうつしするたけのこの里

 

第7号(2012年4月)

  自由詠 「回文短歌レッスン1」
偽りのいびつな草よ今朝暗く咲けよ昨夏日祈りは終
寄る不安祈る婦はきゅんと午後五トン雪は降るの陰あふるよ
縞模様等奇怪なれどもと朝悔いに行くさ後戻れないか嫌う世もまし
問へ言の葉早よ成績は古語良いよ午後は帰省せよ母の所へと
逆なりとぴったりとワニ不徳説く飛ぶニワトリだっひとり鳴くヤギ

  テーマ詠 「音楽」
ショッピングモールを満たすボサノバにうすくひたってさらさらになる

 

第8号(2012年5月)

  自由詠 「マテリアル」
きみどりのボタンを押せばお茶がでる裏で誰かが頑張っている
暖房の効きすぎている理髪店エロイカのビンはなめらかに立つ
寒すぎて狂ったキャベツが踊りだす石を投げれば上手によける
買うべきか買わざるべきか古語辞典幾たび往き来する書架の前
抜かされてまた追いついて空色の同じトラック見ればよろこぶ

  テーマ詠 「動物」
何をするでもない春の休日にペット売り場の犬を見ている

 

第9号(2012年6月)

  自由詠 「缶コーヒーセレクション」
おおざっぱな青春時代のまんなかに缶コーヒーの缶は立ちおり
変わり目はいつもいきなり訪れる缶コーヒーが全部つめたい
缶コーヒーのおまけのカードに描かれた色とりどりの絶滅危惧種
飲み終えて穴があるゆえ見てしまう缶コーヒーの缶のおく底
缶コーヒーガッチャンガッチャン合体し黒い巨人となりにけるかも

  テーマ詠 「雨」
もらい泣きみたいな雨の県道を歩くおばさん車で抜いた

 

第10号(2012年7・8月)

  自由詠 「雨のうちがわ」
それ以上まゆ毛は伸びることはない四月しずかに先輩になる
四歳になったばかりの姪でさえ切取り線にしたがって切る
雑草と言ってしまうとかなしいね僕が名前を知らないせいで
終わりなき模倣のような手遊びのあねといもうと雨のうちがわ
ネコバスはいくら待っても来ないから普通のバスに乗って故郷へ

  テーマ詠 「温度」
あたためたミルクはやさしい味がする冷やした牛乳ビンはつめたい

 

第11号(2012年10月)

  自由詠 「約束」
あなたって猫みたいって言われたら月に向かって背伸びをしよう
においたつ青果市場の片すみに約束されているとうがらし
さあ一緒に歌いませんかと言うはずもなくひよどりは勝手に騒ぐ
雑貨屋はまた現れてまた消えて商店街に吹くつむじ風
もらわれて別れ別れになったって子猫は猫に子犬は犬に

  テーマ詠 「食べ物」
どーなんだゴミの袋をひき裂いて卵の殻をつっつくからすは

 

第12号(2012年12月)

  自由詠 「回文短歌レッスン2」
蜜蜂の巣穴は狭しこの春は残しませ花明日の血は罪
夜まだだ皆寝たる宵胸もむも眠い夜だね涙溜まるよ
晴れるかな惜しむらく舟売ったのだ通ねふくらむ潮流るれば
済んだらかさあ何だろか知らないなら叱ろ旦那朝からダンス
嘘ですと違法の怒り除きたきその理解脳ポイと捨てそう

  テーマ詠 「贈り物」
ていねいに開かれてゆくパッケージやがてはじける恥ずかしがりや

 

第13号(2013年2月)

  自由詠 「偽まねきねこ」
わかものの呼吸のみだれうつくしく一気に六階までかけあがる
理科室と理科準備室はとなりあうどこでもドアでつながりながら
ぬっとりと白いからだのもももももももにつきさす銀の三日月
しまむらでいちばん派手なティーシャツに描かれている偽まねきねこ
そらいろは虹にあったか木星と土星の私語はぞわぞわとくる

  テーマ詠 「告白」
もしかしてそっちですかと問われたり大野智が好きだと言えば

 

第14号(2013年4月)

  自由詠 「髪結いマツコ」
ひかりさす宮家の朝の食卓で先に食べてる侍従のマリコ
もう二度と会わないけれどこんにちは上りの人にゆずる山道
きみどりの書架ならび立つ図書館のとびらを開きとびらを閉じる
音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ
「退屈」という名の魚が棲んでいて流れのままに広いところへ

  テーマ詠 「はじまり」
左足から始まったジンクスは約束された右足を待つ

 

第15号(2013年7月)

  自由詠 「回文短歌レッスン3」
ちょっと聞け鯛すらが誘う甘い舞まあ嘘さガラス板激突予知
テレビジョンあっちだ冬夏せつないなっ刹那夕立っあんよ痺れて
よせ荒地人寄らないさ埋もれたれもうさいならよ飛び散れ汗よ
理科ばっかしくしく泣くよ二千円銭よく失くし串カツばかり
カーテンかく言う良き所ね毛羽立った化け猫と教育鑑定家

  テーマ詠 「植物」
名も知らぬ花にも名前があることは知っているんだ ゆびが冷たい

 

第16号(2013年9月)

  自由詠 「晩夏光」
はみだしたしっぽの意味を知りたくて入るゆうぐれ色美術館
なぐさめに舌にころがすカンロ飴ごめんなさいはいともたやすく
夏ごとにひとりひとつの貯金箱そのそとがわをかざる貝殻
ひとりずついなくなるからリビングに仕舞い忘れた風鈴がある
無意識はおそろしきかな駅ビルに売ってなければ駅前ビルへ

  テーマ詠 「2」
二本とも二階へ持っていったので今一階に一本もない

 

第17号(2014年1月)

  自由詠 「缶コーヒーセレクション2」
玄関に缶コーヒーを置き忘れ闇につまずく夜をおそれる
なまぬるい缶コーヒーはあるのですうつろなワルツを聞くときのため
うっすらと油が浮いているような缶コーヒーを飲んだらダメだ
さようなら左折してゆく缶コーヒー増殖してゆくコンビニ袋
坂道をころがり止まぬ缶コーヒー円筒形の宿命として

  テーマ詠 「本」
なないろの栞をつかい分けている伝わってくる色があるから

 

第18号(2014年4月)

  自由詠 「缶コーヒーセレクション3」
缶コーヒーの値段は各々同じでも気取ったやつは量が少ない
缶コーヒーただでもらった街角で超うまかったとコメントを書く
缶コーヒーとホットしるこを間違えて深く後悔するゆうまぐれ
缶コーヒー何の話をしてるのかほどよく冷えた自販機のなか
缶コーヒーぐいと一気に飲み干して少し遅れてくる南風

  テーマ詠 「色」
さみどりとみどりをつかいわけながら 三月、四月、五月、六月

 

第19号(2014年7月)

  自由詠 「自意識をかためてつくった泥団子をシルクの布に包んで捨てる」
そら豆が腐っていたらどうしようマトリョーシカの深いところで
常春のペットショップにうつくしく背伸びしている三毛猫がいる
音のない鈴をかかえてゆれている想像上のいきものなのだ
完璧なななほしてんとうあらわれて刃のあるほうへゆっくりすすむ
何もないことをほのかに喜んで夢から醒めて物にあふれる

  テーマ詠 「海」
太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

 

第20号(2014年10月)

  自由詠 「折々にちいさなハエがあらわれてバナナの皮を舐めたいと言う」
抽象画を引っかけておく応接間 途切れてしまう話のために
がっかりの世界は雨の日曜日 たどり着いたら臨時休業
ちゃぶ台に乗っていそうなものとして鮭一切れはしろく塩ふく
中央線快速そこそこ速くゆく ところどころの駅をとばして
真夜中の延長コードにけつまづきスマホスマホと言いにけるかも

  テーマ詠 「魔法」
傾(かし)げればひたすらお湯がながれ出る 魔法瓶とはそういうものだ

 

第21号(2015年1月)

  自由詠 「ひたひた」
ごろごろりごろりと喉が鳴っている 私はドラを持ちすぎている
あわあわとあわてて写真を撮るだろう迦陵頻伽が飛んでいたなら
ふらふらと県立近代美術館すいよせられてふれるべからず
ひたひたの水に浸っている豆のひたひたという語のゆたかなれ
ぬるぬるとひとさしゆびに付いたなら排水口をみがきはじめる

  テーマ詠 「毛」
掃除機のおとがはげしく迫るときおれのからだは毛羽立っている

 

第22号(2015年春号)

  自由詠 「春と地形図」
ひとときは使徒行伝にはさまれた栞であった診察カード
キャクゼンキョキャクゼンキョって鳴きながら梅の小枝でバランスをとる
チロルチョコひとりにひとつ配られて色とりどりの春はくるのだ
国土地理院二万五千分の一の地形図をただひたすらに買い足してゆく
階段の下におのずと出来ている三角形のうつろにも春

 テーマ詠 「春」
わたの実をいっぱい積んだ船を抱き春の運河はねむたくなるよ

 

第23号(2015年夏号)

  自由詠 「レストレスネス」
午後六時半にとつぜんながれだすピピピピピピという電子音
夕焼けは空と海とを分けながらはるか向こうで戦っている
かなしみのかけらくすぶる近海でおさかなたちは自由におよぐ
買い食いをすればいよいよ増えてゆくどろり悪玉コレステロール
ダイレクトメールに印刷されているわたしをこまかくちぎって捨てる

  テーマ詠 「夜」
両頬を両手ではさむようにして橋の上にて叫びたい夜

 

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目覚めれば

2015-07-02 19:38:09 | 短歌

 

目覚めれば今日はわたしの誕生日 さらりさらりと降る粉砂糖

白米を朝なあさなに詰め込んでわれはアジアのかたすみにいる

まぜこぜに水のおもてを泳ぎおり渡りの鴨と渡らない鴨

一回も雪のなかった冬を経て夏のタイヤにもどす春です!

倉庫から夏のタイヤをとりだして触れればわずかなる懐かしさ

しろがねの冬のボルトをゆるめれば壮年われもひとときゆるむ

にびいろの夏のボルトを締め上げて少年われは声変わりする

黄のボディ白くなるまでみがいたら恋なのかしら、愛なのかしら


_/_/_/ 未来7月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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