麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

歌集『日時計の軸』のこと

2013-03-17 01:10:13 | 歌集『日時計の軸』

歌集『日時計の軸』をつくりました。

2008年から2012年にかけてつくった歌から
210首をえらび、適当な小題をつけておおよそ
作成順にならべたものです。

ラジオ、総合誌等のメディアに投稿を始めてから
未来短歌会に入会する前までの歌にあたります。
掲載にあたっては初出に手を入れた歌もあります。

歌集といってもB5のコピー用紙に家庭用プリンタで
印刷したごく簡単な冊子です。

冊子および同縮刷版ファイルの頒布は終了いたしましたが、
掲載歌はブログで見ることができるようにしました。

本記事も含め、カテゴリ「歌集『日時計の軸』」に納めました。
3本の記事に分けて掲載してあります。

読みやすくするために、本記事、(1)、(2)、(3)は
逆順の時系列で載せてあります。

コメント (2)
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日時計の軸(1)

2013-03-17 00:50:37 | 歌集『日時計の軸』

 日時計の軸(1)    鈴木麦太朗


 微調整

横風に流されつつもハンドルを微調整してわたしは進む

境内に群れなす鳩は各々のリズムを保ち豆をついばむ

鼓笛隊ずらりならんだ縦笛はその他大勢うちの子もいる

底無しのあかるさを持つ海賊に勇気の意味を教わっている

オヤジギャグ時には受けることもある娘ふたりがちょっと笑った

草むしりしようと庭に出てみれば繰り返されるピアノの調べ

昔からよく知っている頃あいでピンクレディーは透明になる

消しゴムのとがった角で消すような守りきれない約束もある

あまりにも美しすぎる夕焼けに俺ひとりでもいいと思った


 A鉄塔・B鉄塔

わが踏みしクロオオアリをまた別のクロオオアリが運びゆくなり

現実のソメイヨシノの花びらは桜色よりはるかに淡い

止まらない哀愁でいとのリフレイン不意に気付けば止まっていたり

風ばかりひたすら強く吹きしぶき運河の水はゆるく流れる

鉄塔は空色に塗り込められて青い空とは混じることなし

孤立するA鉄塔とB鉄塔をつないでいるだけのような電線


 時代の波

いくつもの夢をあきらめてきたんだなあパスタは煮え湯にクニャンと曲がる

渋滞の長さを告げるアナウンス 年々ヒトに近づいてゆく

起きぬけにマーマレードのふた開けるとき紛うことなく父親である

砂浜の砂の一粒ひとつぶも宇宙の一部であるということ

6と8と9と0の丸のなか塗りつぶすとき満ち足りている

「時代の波に乗り遅れるな」と言っている 日本全国あちらこちらで


 ののちゃん

まっさらな私たちには戻れない修正液はあまりに白い

埼玉のつかみどころのない空を支えるように電波塔立つ

ののちゃんの意味を読み解くところから私の朝は始まるのです

温度差があるから言葉はあふれ出す冷たいだとか温かいだとか

ギラギラやモコモコたちがうごめいて渋谷の街は今日も平和だ


 白い靴下

いつからかは忘れたけれど気がつけば白い靴下一足もない

甘いものを口に入れれば泣きやむと石川達三の小説に知る


 ミツバチの蜜

あさなさなハチミツびんを温めればやわらかくなるミツバチの蜜

スプーンにからみからまりからめとるびんの底なるミツバチの蜜

焼きたての全粒粉の食パンにたらりたるらりミツバチの蜜

ミツバチの蜜のあふれる食パンを歯のうらがわと舌で味わう

ミツバチの蜜のかおりのおくそこに戦いの前の血のにおいあり


 割りばしとつまよう枝

割りばしの袋のなかで尖りたるつまよう枝ひとつ注意するべし

割りばしの袋のすみに記載ありつまよう枝ひとつの存在のこと

割りばしとつまよう枝とはセットにてつまよう枝無いと何かたりない

割りばしとつまよう枝とはセットにて割りばし無いとあきらかに変

つまよう枝を使い終えたら割りばしの袋のなかにふたたびもどす

割りばしとつまよう枝とはもと通りセットになって捨てられてゆく


 黒い巨人

何をするでもない春の休日にペット売り場の犬を見ている

冬晴れの白菜畑の白菜はけり飛ばされることを恐れよ

押入れと天井裏をへだてたる杉のうす板家々にあり

聞こえないはずなんだけどふと何か聞こえたようなそれが空耳

ゆうぐれの仏壇店のあかるさよガラスケースに鈴ふたつある

あまがさに弾ける水はかろやかに貼りつく水はしとやかになれ

缶コーヒーガッチャンガッチャン合体し黒い巨人となりにけるかも


 リーダーの条件

OKのボタンを押せば次つぎに印刷されるわたしの悩み

目を閉じていれば眠りの八割とどこかで聞いた目を閉じている

真っ黒なテレビ画面に写る僕ひとりのときは手を振っている

世の中がだんだん四角くなったので四角くなった郵便ポスト

リーダーの条件という字が目に入り古新聞をしばらくの間よむ

サラダ菜と名をつけられたものだからサラダにされてしまうのだろう


 まるいあおぞら

黒板をきれいに消しておくことは大事なことと今さら思う

朝晩に喜橋を渡らなきゃ会社に行けぬ家に帰れぬ

家々で布団をたたく音がする何ということはない日曜日

青空を四角く区切る電線をぜんぶ無視してまるいあおぞら

笑いましょうなんて言わないものだから口閉じて撮る免許の写真


 ガラスのむこう

分煙のガラスの壁のむこうがわ目線をそらすひとばかりなり

明るみと闇とがあってどちらにも私は座る夜の電車に

良い嘘をついたんだって言い聞かす鏡の自分から目をそらす


 沖 縄

淡々と沖縄戦を語りいるバスガイドの声にバス内しずか

手榴弾はひとつの家族にふたつずつ配られたという 使いみちはふたつ

手榴弾ひとつは敵をたおすためにひとつは家族で自爆するために

手榴弾ひとつを囲みまるくなるひとつの家族のななつの命

手榴弾で死にきれなかったひとたちは互いに殺しあったという、こと

洞窟のわきにぽつんと立っているひめゆりの塔はとてもちいさい

国道のわきに売られていた花が洞窟の前にたくさんならぶ

ひめゆり平和祈念資料館へぞろぞろ入る観光客われら

沖縄戦で亡くなった二二七名の教師、生徒たちその顔顔顔顔

ひとりひとりの生い立ち、趣味、性格、そしてどのように死んでいったか

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日時計の軸(2)

2013-03-17 00:30:56 | 歌集『日時計の軸』

 日時計の軸(2)    鈴木麦太朗


 庭草

えのころぐさいぬたでとてもかわゆいよコリン星から来たのだろうか

一年中そこにかしこに生えてきてすぎなどくだみやつらはにくい

今日庭の草むしりせよとわれ言われ言われたとおり草むしりする

どくだみもえのころぐさもいぬたでもすぎなも引いてひとつの袋へ

ぜにごけはなにも悪さをしないから家の北側に住まわせておく


 風に笑った

まどろみの君のまぶたのなかにある見たことのない月のうらがわ

塗りたてのあなたの椅子の傍らに僕は静かに立っているのだ

公園でシャトルコックを打ちあってわずかばかりの風に笑った

ふりそうな感じののちに雨はふり芋の葉っぱをつよく打つのだ


 ふくろうの書店

ふくろうの書店は希望に満ちているラジオ講座のテキストならんで

いつのまにか靴下の穴はつくろってあって私は恥をかかない

コピー用紙に裏と表のあった頃はもっと丁寧に仕事をしていた

どちらがわ向けて置くのが正しいか二階の窓のドナルドダックは


 水玉ふたつ

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

問屋街ゆけばほこりの匂いする華やぐ魂を鎮めるごとく

湯につかりしたたりそうでしたたらないしぶとい雫のすがたを見てる

バスタブのへりのわずかな平面の水玉ふたつ指でつないだ


 冬の日

日のあたる部屋に座っているひとが時のうつろに止まって見える

電気屋に横付けをしたトラックからテレビがいっぱい出てきてこわい

自転車のカギをなくしてしまったらかついで運ぶしかないだろう

この街の西にそびえる電波塔 塔の根元のきわどい細さ

すれちがう小学生の声は言う「かえんほうしゃじゃなくてころせる」

とたん板さびた床屋の北がわの外階段に雪 とけのこる

みあげればああおぼろ月ホテル街の坂道はまだぬれている


 未完の夢

草花の名前を知らない僕の目にとなりの家の庭の紅い実

押入れにまさかのためにたくわえてある紙箱がしめっています

ひとしきり恐怖にふるえたるのちに震度2くらいだろうとか言う

ぎこちなく日本人がしゃべるときスーパーインポーズはのけぞる感じ

笑ってはいけないけれど笑っちゃうみたいに湧くよ泉の水は

木星を味わいながら見るだろう甘くすっぱい未完の夢を


 ふたり

ひとり言みたいにあれはヒヨドリと言ったら君はそうかと言った

わずかの間横一列にならんだがばらけてしまったカルガモ四羽

牛乳はまだあるかって聞かれても君より詳しく知るはずもない

十年後あなたはどこにいるのかと聞いてる君こそどこにいるのか

くりかえし同じ話しをするだろう二十年後の君と僕とは


 無 題

余震やら余震の余震やらがきて回転椅子のうえにふるえる

自動車のエンジン音にもびびってるいつもゆれてるような気がする

むこう百年忌み嫌われてしまうだろうシーベルト氏とベクレル氏とは

がんで死ぬひとはふえてもいつか死ぬひとはふえたりへったりしない

身ひとつで生きていけると思いつつもおびえる僕は募金を惜しむ

平等にお金をくばることなんてできるはずなどないのだけれど

日本をべろんとひっくりかえしたら爽快ならんああ白昼夢

また冬はまごうことなくめぐりくる東日本に雪をふらせる

あたたかくなるなら雪はそしてまたとろりとろりと溶けるのだろう


 はなれない影

朝がたの空に見えてる白いまるそれは月です月せまりくる

せまりくる月はおおきくなってゆくとなりの星に住む僕の目に

まひるまの短い影は僕の影 僕にまとわりはなれない影

はなれない影をくっつけふらふらと芥子の花咲くひるまをあるく

冷蔵庫ぱかっと開けて永遠のつめたい風をうけていたいよ

いたいよと言えばいつでもひとりにて痛みは僕のからだの一部


 夏のかけら

扇風機にあーって声をぶつければあああああああ夏のかけらだ


 犬の記憶

信号を待ってる僕に犬は寄り足のにおいを嗅いでくれるよ

ジーンズの裾はいかなるにおいする犬に聞いたらわかるだろうか

あたたかなけもののにおいするだろう寄りくる犬のにおいを嗅げば

目が合えばしばらく見つめあう僕ら欲しがるような目をしてきみは

信号が青になったら僕はゆく白いしましまわたり向こうへ

信号が青になったらきみはゆく赤いリードに引かれるままに

やわらかな道をはだしで歩きたいしろつめくさの生えてる道を

ひややかなけもののにおいするだろう毛に包まれた僕のからだは


 おぼろ月夜

太陽に手足はないが顔はある顔はときどき渦巻いている

いちまいの葉っぱをあたまに乗せたならおぼろ月夜にやさしくなれる


 さるすべり咲く

紅よろし白もよろしのさるすべりどっちつかずのわれを笑えよ

ふる雪よもえる炎よさるすべり立ち木は花の色をえらんで

さるすべり咲くこの道の信号は急ぐわたしを長くとどめる

あわあわと花房垂れてさるすべり幹のまだらはうつくしからず

さるすべりの花のかけらはたまりおり車道と歩道を分かつところに

耐えがたき夕闇来ればこの街はこの街路樹は色をうしなう

笑いつつ小学生はゆくだろうさるすべり咲く朝の歩道を

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日時計の軸(3)

2013-03-17 00:16:13 | 歌集『日時計の軸』

 日時計の軸(3)    鈴木麦太朗


 亀は笑うよ

毒水を集める係じゃないけれど桔梗の花をこじあけている

水田の苗のならびの田植え機の軌跡のままにあるは恐ろし

プライドを拾い集めて燃やしたらときどきバチッてはじけるだろう

この街にぼんやり山があることをペダルのおもさかるさに気づく

自転車で商店街を抜けるときショーウインドーに猫背が映る

一週間山にこもるというひとの買い物はきっと楽しいだろう

「ツキデス」と呪文のようにつぶやいた君の答えを待つでもなしに

「どんぶらこ」なんてすてきなオノマトペたぶん僕らは死ぬまで子供

くつくつと餃子の皮をたたんでく変なかたちのやつは僕のだ

窓ごしに春の光はやわらかく硝子細工の亀は笑うよ


 幻想の八月九月

十月の日焼けサロンの静けさよ十一月の海にあそべよ

東京の街はくだけてゆくだろう正義の味方がころげるたびに

ロッカーに突っ込んであるネクタイは夜中のたっているにあらずや

天井のヒノキの節に見つめられ手から足からあまねく緑

ぽっぽっぽポテトチップスちがいますやっやっやっやヤママユ怖い


 年の初めに

おはようとおめでとうとが交差して年の初めはくすぐったいぞ


 日時計の軸

階段をのぼって地上に出てみれば人間たちは日時計の軸

パンクしたタイヤを直してもらったら籠のゆがみも直してあった

月ごとに捨てられてゆくカレンダー世界遺産はみな美しい

図書館の椅子にまどろむひとがいる目覚めたばかりの私の前に


 静養日記

鳩の餌まけば鳩くる雀くる檻の中なる孔雀はこない

無花果の葉っぱわいわい騒がしい髪切虫を洞に隠して

講談社文庫のならぶ書架を過ぎとぼとぼゆけば岩波文庫

楠の葉の深い緑はどうだろう夕映えの空に包まれたなら

仮名文の背中は青く光りおり当用日記静養日記


 不確かな現実

おおざっぱな青春時代のまんなかに缶コーヒーの缶は立ちおり

ライオンがあくびをすれば不確かな現実のごと牙あらわれる

東京は久しぶりでもないけれどビルの高さを見あげてしまう

けやきの木きれいさっぱり切られてていつのまにかに秋は過ぎゆく

高架橋ささえるボルト締めあげて高いところにひとは働く

ふるふるん尾をゆらしてる白い犬笑われてるのかもしれないね


 文具売場

スペードのジャックの私うす笑いふるえる指にめくられるたび

もらい泣きみたいな雨の県道を歩くおばさん車で抜いた

六階の文具売場に行くために一階貴金属売場を通る

春だからダブルソフトを食べている白いお皿のあふれる部屋で

ZOOという文字は子どもに書きやすいOから顔を出したりできる


 あふれるふれる

かみの毛はほし草の香よふるえてる子には小ゆびに結んであげる

次つぎにうしなわれゆく面影におびえることも忘れてしまう

やさしさをつなげるために巡らせるうす紅色のバッハの調べ

たっぷりと含んだままで伝えあう今日と明日のさかいめあたり

いつのまにか眠ってしまったあくる朝くちうつしするたけのこの里


 謎めきの歌

二本とも二階へ持っていったので今一階に一本もない

春ごとにかたちを変えてくれるから戸棚のなかがかさばっている

そそり立つ棒五六本見た目ではわからないから不安をさそう

ひとつでは成り立たないが非常時はたとえひとつでもありがたい

右からでもまったく支障はないけれど規則どおりに左からする

てのひらを下向きにして体重をかけて押したら少しへこんだ

痒いから掻くのであって痒くないときは絶対掻いたりしない

沿道に集まっている人たちの後ろの方でジャンプして見た

捨てるには忍びないとは思うけどオブジェとしてはお粗末である

もらった物か買ったものかは忘れたが拾ったものではないのは確か

仮定法過去を駆使するとき以外鳥になれないことを嘆くな

ハンドルを右に回せば出てくるがしばらく待っていても出てくる


 マテリアル

きみどりのボタンを押せばお茶がでる裏で誰かが頑張っている

暖房の効きすぎている理髪店エロイカのビンはなめらかに立つ

寒すぎて狂ったキャベツが踊りだす石を投げれば上手によける

買うべきか買わざるべきか古語辞典幾たび往き来する書架の前

抜かされてまた追いついて空色の同じトラック見ればよろこぶ


 雨のうちがわ

それ以上まゆ毛は伸びることはない四月しずかに先輩になる

四歳になったばかりの姪でさえ切取り線にしたがって切る

雑草と言ってしまうとかなしいね僕が名前を知らないせいで

終わりなき模倣のような手遊びのあねといもうと雨のうちがわ

ネコバスはいくら待っても来ないから普通のバスに乗って故郷へ


 とうがらし

あなたって猫みたいって言われたら月に向かって背伸びをしよう

においたつ青果市場の片すみに約束されているとうがらし

さあ一緒に歌いませんかと言うはずもなくひよどりは勝手に騒ぐ

雑貨屋はまた現れてまた消えて商店街に吹くつむじ風

もらわれて別れ別れになったって子猫は猫に子犬は犬に


 平和の記事

玄関で靴を磨けば背中から秋のようだという声がする

自転車で一気にのぼる跨線橋日々のはじめに朝があること

新聞紙は日毎ひごとに重なりて平和の記事は埋もれゆくもの


 十年を待つ

妻と子が服を選んでいるあいだ木の長椅子に十年を待つ


 日時計の軸 了

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さみどりと

2013-03-16 21:24:26 | 短歌

さみどりとみどりをつかいわけながら 三月、四月、五月、六月

 → (このままでも素敵だと思いますが…)→ 

さみどりとみどりをつかいわけながら グラデーションの五月、六月


_/_/_/ 『短歌のレシピ』刊行記念添削大会 _/_/_/
_/_/_/ 俵万智さんに添削していただきました _/_/_/
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