麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

どれにする

2023-09-07 23:32:23 | 短歌

 

どれにするどれにしようかはつなつの園芸店に苗はあふれて

コンクリの歩道の右から左から会釈のようにカラスムギ寄る

風ふけば回りそうだな花ニラのつくりものめく六弁のはな

川沿いのベンチに座っていたところ犬に二度見をされてしまった

中空にきらきら回る羽根車《六月》鯉は泳いでいない

隅々まできれいにしないと叱られるああ掃除機がカーテンを吸う

夏の日の物干し竿にひっかけた靴紐は素麺に擬態する

洗濯機そのものを洗う洗剤というものありて泡立つ日本

肌色と言ってはいけない世の中のペールオレンジ色のたそがれ

ああこれは悪のかたまり真夜中のエンゼルパイをひとついただく


_/_/_/ 未来9月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦6月号

2023-09-07 23:31:09 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦6月号    鈴木麦太朗

  ゆっくりと毀されてゆく音を聞く四十年
  を暮らしし家の     篠田 理恵 
  四十年治まりてゐし霜やけの鈍き目覚め
  を老いといふらむ    森 由佳里 
 となり合う作品のシンクロニシティは楽し
い。篠田作品、家の解体を「音」にフォーカ
スして詠んだのが工夫であり成功している。
森作品、「霜やけ」の擬人化がうまい。また、
下句の落ち着いた調べがいい。
  春の陽は黄金の針枕辺に刺さって朝を教
  えてくれる       高幡めぐみ 
 絶妙な比喩だ。季節は「春」がぴたりとは
まる。むろん「夏」のほうが日差しは強く刺
さるが針という感じではないだろう。
  回忌とう同じ季節の指先に力をこめて文
  旦を?く        氏橋奈津子 
 「回忌」は「同じ季節」という把握にはっ
とさせられた。初句二句と下句で「指先」を
共有する手際が鮮やかで、ふたつの事象がよ
どみなくつながっている。
  首が先 首が先とぞ白鳥が飛んでるすが
  たぼやっと見ている   赤木  恵 
 たしかに白鳥の飛ぶ姿は首が胴体を牽引し
ているように見える。下句のややくだけた言
い回しは作者独特の「赤木調」とも言えるよ
うなもので味わいがある。
  たいていのこと台無しにしてきたな食べ
  たくもない真冬のゼリー 太代 祐一 
 「真冬のゼリー」の寒々とした印象と台無
しの人生の虚無感がよく合っている。ネガテ
ィブな内容ながら不思議と重苦しさを感じな
い。
  白玉がぽこりぽこりと浮き上がる春の暗
  さを逃れるように  しま・しましま 
 「春」を「暗さ」と把握しているところに
立ち止まった。「春」には作者の何らかの思
いが込められているのだろう。
  「幸せな人の体はよく動く」そうかわた
  くし幸せなんだ     西城 燁子 
 全肯定の歌で実に気持ちがいい。この歌を
思い起こせば多少の悩みごとはどこかに吹っ
飛んでいってしまいそうだ。
  収束つたら会はうと何度もなんども言つ
  てひとりの花を見てゐる 藤田 正代 
 コロナ禍が収束したら会おうと約束してい
る友人がいるのだろう。「ひとりの花」とい
う表現は印象的。その花は友人でもあり作者
自身でもあるのだろう。
  日曜は週の初めか終りかとたわひなきこ
  と語りてゐたり     北野 幸子 
 下句のゆったりとした調べがいい。うらら
かな日曜の午後のひとときの会話という気が
する。
  天ぷらにするわとめいめい言いながら掌
  にいただいている蕗の薹 丸山さかえ 
 春の息吹を感じられる歌。近所のどなたか
が多く採れた蕗の薹を配っているのだろうか。
蕗の薹はやはり天ぷらがいい。
  花の芽を風が撫でゆく和解とはこの世で
  もっとも気高き勇気   高田 理久 
 風にゆれる花の芽と、「気高き勇気」と定
義した「和解」。ふたつの事柄を思うと見え
てくる景色がある。あえて花の名を特定しな
いことで想像の幅が広がった。
  侘助の花を備前の壺に活け意を決したり
  何も言わぬと      服部あや子 
 静謐な印象。何を言わないのか、分からな
いがそれでいい。備前の壺に活けられた侘助
の花は作者の決意を物語っている。

 

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千枚に

2023-08-02 22:00:03 | 短歌

 

千枚に迫らんとするうすき紙かさねて成れりこの国語辞書

三省堂国語辞典の第八版 表紙背表紙金箔押され

疑似革の表紙背表紙裏表紙オレンジ色の明るさがいい

「木」の語釈は「草」の語釈と響きあう 草本木本庭にさわがし

「チル」という「散る」にあらざる新しき言葉の語釈読みてなるほど

バラライカ、ギター、バンジョー、端的な語釈はありぬ挿絵とともに

まひるまに眠ってしまう病あり 鳴る神、鳴子、ナルコレプシー

何かいい言葉ないかとぺらぺらと辞書をめくりてひとときは過ぐ

三省堂国語辞典の初期の版 遠いむかしのわが家にありき

「ぼくは辞書すごく引くよ」と言いたりし岡井先生の声を思えり


_/_/_/ 未来8月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦5月号

2023-08-02 21:56:51 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦5月号    鈴木麦太朗

  焼香をおえてきて外すネックレス冬の肌
  にぬくもりていて    丸山さかえ 
 温度という表現の難しいものをうまく扱っ
ている。ていねいに詠んでおり状況がよくわ
かる。
  パーオーン象の形の坂戸市に猫と暮らし
  て三十五年       茂木 敏江 
 岩田正の《イヴ・モンタンの枯葉愛して三
十年妻を愛して三十五年》を踏まえているの
かもしれない。大胆な初句が印象的だ。
  いずこまで走る列車かコンテナは同じ高
  さに運ばれてゆく    谷口ひろみ 
  黙つてる人と会話をする人のゐる土曜日
  の美容院なり      高崎れい子 
 あたりまえのことをあえて述べる技法が冴
えている二首。谷口作品、五十両くらい続く
ようなおそろしく長い貨物列車を想像した。
高崎作品、美容院に行ったことは無いが理髪
店も同様だ。しゃべる人はしゃべるし、しゃ
べらない人はしゃべらない。
  たびたびの故障を越えて四年生・木本が
  ぐいと押し出す襷    紺野ちあき 
 箱根駅伝の襷リレーの場面を詠んだ歌。下
句の力強い表現がいい。木本選手の熱い気持
ちが伝わってくる。
  軽やかな契りのやうにお互ひの煙草を一
  本交換し合ふ      酒匂 瑞貴 
 儀式めいていて魅力的な場面だ。同姓どう
しの行為のような気がする。比喩が効いてい
て何かセクシュアルな印象もある。
  うたごえを響かせてみんなよく笑う壁が
  微かにふるえて撓む   和田 晴美 
 デイサービスの部屋の状況。みんな楽しく
歌っているのだが、下句にどこか不穏な感じ
があり考えさせられる歌となっている。
  車窓にはガラス張りの製薬会社み通しの
  よいことは良いこと   太代 祐一 
 「製薬会社」という具体がいい。製薬業界
の諸問題や錠剤の透明なパッケージなどを想
像させる効果がある。
  生まれてもだいじょうぶかと訊かれても
  答えられないかんぴょう巻きは 西村曜
 「生まれても」から、かんぴょう巻きを噛
んだときに、かんぴょうがとび出す様を想像
した。ほのぼのとした可笑しみがいい。
  山茶花が散ったり咲いたりしてるまにあ
  なたはあなたから遠ざかる 藤田正代 
 評は難しい。だがいい歌だ。上句の景の助
けを借りつつ下句の意味を咀嚼してゆく。そ
の思考の過程こそ、この歌を楽しむ醍醐味と
言えよう。
  朝焼けに向かいて歩く朝焼けの消えて朝
  日の見える丘まで    村山 寿朗 
 早朝の散歩の場面であろう。三回あらわれ
る「朝」が効果的で、丘までの道行きの軽快
な足取りがつぶさに感じられる。
  卓上のベルをチンチン鳴らすにも味を出
  さんかわが役どころ   三田村広隆 
 批評会で時間を知らせる役を仰せつかった
作者。単にベルを鳴らすだけでなく、そこに
気持ちを込めたいという心情が面白い。
  モンブランのてっぺんに乗る剥き栗の伝
  え続ける和菓子の風味  岡田 淳一 
 下句の意外性のある視点に立ち止まった。
確かにモンブランの上に乗っている栗は和菓
子的な味わいがあるような気がする。
  この酒がおれを長生させるよね思いて今
  日も笑顔であおる    先村 義之 
 大いに共感した。結句が実にいい。

 

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ダンボール

2023-07-05 18:47:29 | 短歌

 

ダンボール箱に収めた本たちにひかり与える一日ぞよろし

すいすいと国境線を越えたいな皇帝ペンギンのガム噛みながら

オリジナルオリジナルってつぶやいた振られたる日の遠い夜中に

きびだんごあれば与えるかもしれず産業道路に雉わたる見ゆ

風の律正しからざる規則にて届くを聞けり夜の入り口

食器棚の奥の奥には棲んでいる闇を好めるどんぶりばちが

弦楽器のfの穴からふらふらと出てくるひとの襟よれている

思い出はモノクロならず盗まれた自転車の色ことごとく青

どんな口だったか思い出せなくてただ妄想は乱れるばかり

折からの雨をたっぷり吸い込んでもう飛ぶことはない羽根布団


  ※ ルビ  一日(ひとひ)      1首目
  ※ ルビ  襟(えり)        7首目


_/_/_/ 未来7月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦4月号

2023-07-05 18:40:18 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦4月号    鈴木麦太朗

  いいなあとつぶやく今朝の陽のひかり一
  月二日の庭の山茶花   西城 燁子 
 新春の朝の清やかな陽射しが「いいなあ」
とつぶやいている、と読んだ。輝くような山
茶花の花が見えてくるようだ。
  バサバサと葉を手放して梧桐は眠りには
  いる体勢となる     藤田 正代 
 梧桐のまるく大きな葉の落ちる様はバサバ
サという擬態語がピタリとはまる。「眠りに
はいる」という認識は新鮮だった。
  みちくさをたくさん食おう笑うたび泣く
  たび青さが匂い立つように
            しま・しましま 
 こころ勇気づけられる歌だ。結句の効果に
より「みちくさを食う」という慣用句が文字
どおり食物を食べているように感じられるの
が面白い。
  デイサービスへ夫送り出し部屋の窓開け
  放ちたり掃除だ掃除   松原 槇子 
 いきいきとした生活の断片がよく伝わって
くる。言うまでもなく結句の駆り立てるよう
な台詞が効いている。
  よるべなき夢を育てる少年のこよい寡黙
  に本を見ており     立原  唯 
 三句目の格助詞「の」の使い方に注目した。
「が」や「は」の方が自然であるがいかにも
散文的になる。「の」は上句と下句の付かず
離れずの事象をやわらかくつなげる役割も果
たしている。
  用向きといふ佳きことば見つけたり「用
  向きありて」と使ひたき日よ 布宮慈子
  かがみこみ「未来」をひらく隅から隅ま
  で新しき言葉を探す   柏原惠美子 
 新しい言葉を見つけてそれを使おうとして
いる布宮さん、未来誌を隅々まで読んで新し
い言葉を探している柏原さん、ともにすばら
しい。
  僕は僕のままで良いと笑ふ時からつぽな
  んだ君の瞳は      酒匂 瑞貴 
 話者の本心を見通している作者。かみ合わ
ない言葉と心が切ない。あるいは話者イコー
ル作者なのではないかとも思った。
  肉汁っていい言葉だな牛豚の命を忘れ口
  に運べば        高幡めぐみ 
 グルメレポートなどで普通に使われている
「肉汁」という言葉も牛や豚の命を意識する
とまた違った感慨がわいてくる。
  寒いなら毛布を持って痒いなら塗り薬持
  って持ってくるから   篠田 理恵 
 入院中の父を詠んだ一連のなかの一首。具
体的な事物と入れ子になったリフレインが効
いていて胸にせまるものがある。
  三年ぶりに箱根に向かう 有観客、有観
  客とリュック揺らして  紺野ちあき 
 「有観客」をオノマトペのように使ってい
るのが面白い。箱根駅伝観覧を詠んだ一連の
なかの一首ではあるがこの一首だけでもその
目的やよろこびの感情は伝わる。
  ごく薄い桜色、でも十六本骨があるから
  じょうぶなんです    氏橋奈津子 
 「ごく薄い桜色」と三句目以降とを逆接で
つないだところに引っかかりがあっていい。
後半のひらがな表記も効いている。
  ぼくの影を車に轢かせて驚いた轢いた車
  に影乗り移る      赤木  恵 
 佐藤佐太郎の《秋分の日の電車にて床にさ
す光もともに運ばれて行く》をすこし思った。
佐太郎の歌はある意味理にかなっているがこ
の歌はその斜め上をいく発想だ。

 

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手を入れて

2023-06-04 13:31:27 | 短歌

 

手を入れて手を引き抜いて手を入れて革手袋をたしかめてゆく

手を入れればひととき指は温まるワゴンセールの革手袋に

わんさかと革手袋が積まれてる冬の終わりのワゴンセールは

指先がちょっと余っているけれど何か良さげな手袋えらぶ

ぱっと見は黒なんだけど真っ黒と比べてみれば紺の手袋

指先が温かければこころまで温かくなる ような気がする

半身を土にうずめて古タイヤ 夕暮れ 子供 ひとり 座る

ただ歩くこと目的として歩くねじを巻かれたひよこのように

整骨院、二軒となりも整骨院、腰痛のひと多き町かな

候補者のひたいのしわが増えている十余年この町に暮らして


_/_/_/ 未来6月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦3月号

2023-06-04 13:28:27 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦3月号    鈴木麦太朗

  電飾の役目を解かれくろぐろと息をして
  いる桜の大樹      和田 晴美 
 気持ちのいい歌。「くろぐろ」が効いてい
て桜木の立ち姿が目にうかんでくる。ひとと
きの休息を経て桜はうす紅色の花弁をまとい、
また私たちを楽しませてくれるのだ。
  迎えたくない誕生日もあり九の付く歳は
  いつだってタイフーン  新井 きわ 
 たしかに下一桁が九の年齢はこころさわぎ
立つような感覚がある。それをおおげさに「
タイフーン」と述べたのが面白い。
  まな板で鰻が背開きされていて次のうな
  ぎがじっとっみている  赤木  恵 
 否そんなことはないだろうけれど思わず笑
ってしまう歌だ。次のうなぎはしずかに覚悟
を決めているのだろうか。
  金曜日の解放感は何ならむボリュームあ
  げてカンパネラ聴く   西城 燁子 
 よくわかる。金曜日の仕事終わりは一週間
のなかでいちばん解放感を得られるひととき
だ。「カンパネラ」という具体もいい。
  山陰の冬は雨がち湖がワニの涙のように
  かがやく      しま・しましま 
 「ワニの涙」は不思議な比喩だと思い調べ
たところ出雲神話の玉日女命の逸話によるも
のと知った。むろんその逸話を知らなかった
としても魅力的な歌だ。
  カラカラと飛翔の音の乾きいて臥して仰
  げば孤高の武者ぞ    但馬 哲哉 
 ひとつ前の歌からオニヤンマのことを詠ん
だ歌とわかる。オノマトペや漢語が活きてい
てとてもかっこいい。
  わが庭を通い路とする猫のいて蹲りおり
  躑躅の根方       野口 道子 
 調べが整っていてよくわかる歌であるが、
特に漢字に注目した。画数の多い足偏の三文
字が印象的だ。
  樟の下から遠く人が見ゆ銀杏拾うとき光
  る白シャツ       細沼三千代 
 見たままをていねいに詠んでいる。具体的
な描写はリアリティを生み、読む者はたしか
な映像を再現する。大いに勉強になった。
  いただいた牛蒡、大根、ブロッコリー 
  ジグソーパズルのように並べて
              谷口ひろみ 
 楽しい歌。具体的な野菜名の提示がいい。
ほんとうに並べたんだろうな。作者のよろこ
んでいる様が伝わる。
  五本指くつ下はけば十本の指それぞれに
  主張しはじむ      丸山さかえ 
 なるほどそんな気がする。十本の足指がそ
れぞれ自在勝手ににょきにょきと動く様が見
えてくるようだ。
  「あぢまん」をハフハフしつつ味はひぬ
  クリーム旨しあづきもさらに
              大沼 洋子 
 ネットで調べれば何でもわかる時代である
が調べなくても「あぢまん」の美味しさ素晴
らしさが余すところなく伝わってくる。
  小藤屋がつぶれてしまひ小藤屋のスタン
  プカードは師走の迷子  坂井花代子 
 たしかに使い道のなくなったスタンプカー
ドは迷子といえるだろう。店名のリフレイン
が効いている。
  はてさてさ何になったらいいのかな蝶か
  トンボか小鳥がいいか  江口マサミ 
 転倒をきっかけに大空をとぶことを夢想す
るというドラマチックな連作のなかの一首。
この歌は小気味よいリズムが楽しい。

 

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コンビ仲

2023-05-01 19:44:03 | 短歌

 

コンビ仲よき芸人のトークよし耳に注いでゆくあたたかさ

イヤホンの穴から声は流れくるラジオの赤いボタンを押せば

真夜中の若手芸人枠五分、中堅芸人枠一時間

五分でも放送時間をもらえれば幸いならん芸能界は

話しかけられたら話すスタンスのゴウヒデキさんの声ぞよろしき

午前二時の短編小説朗読は蜜のごとしもふかく聴き入る

昭和歌謡ことに七十年代の歌はわたしの芯をゆさぶる

わが夜の寝入りのときをなぐさめる単三電池二本のパワー

オルゴールのやさしい音が止まったら夜のラジオはひととき休む

今どこでどんな暮らしをしてるのか松本伊代のオプションふたり


_/_/_/ 未来5月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦2月号

2023-05-01 19:38:12 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆しています。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦2月号    鈴木麦太朗


  右耳のイヤホンはずす内宮の社の前に手
を合わすとき      紺野ちあき 
 全日本大学駅伝のことを詠んだ連作の中の
一首。右耳のイヤホンをはずしたのはラジオ
の駅伝中継を神様にも聞いてもらうためだろ
う。むろん作者は駅伝に参加しているすべて
の選手の好走を祈っているのだ。
  薄日さす富山立山父祖の墓まう仕舞つて
  もよろしいですか    坂井花代子 
 上句の小気味よいリズムがいい。そして下
句の問いかけもいい。軽快な歌だが深い味わ
いがある。
  冬の夜の青さを説けば七月にうまれた猫
  が目をまるくする    氏橋奈津子 
 結句がかわいい。猫はひとの話す言葉がわ
かると言われている。わからなかったとして
も何かが伝わっているはずだ。
  ポシェットにそろいのチャームゆらしつ
  つやたらと濃いい牛乳をのむ
              飯豊まりこ 
 何より「濃いい」がいい。ものすごく濃い
感じが伝わってくる。そして上句の描写は現
実感があって魅力的だ。
  〈全国の感染者数〉にふる里の数をたし
  かむ立冬の朝      藤田 正代 
 ふるさとから離れて暮らしているひとに共
通する感慨である。自身の住んでいる所より
先に目がいってしまう。ふるさとに住む親族
や友人を思う気持ちがそうさせるのだ。
  マスク取り出てくる人の店の中にマスク
  を掛けて吾が入りゆく  村山 寿朗 
 屋外はマスク不要になってきているが店舗
などの屋内は未だにマスク着用を義務付けら
れているところも多い。そんな時節の状況を
うまく捉えている。
  五回目のワクチン打ちていづれにも副反
  応のなきを寂しむ    西堀 英夫 
 副反応がないのは幸いなことではあるが作
者はそれを寂しいと感じている。ワクチンを
打った証として何らかの身体的な反応を求め
ているのだろう。この感じよくわかる。
  和洋中と姿を変へて展開すミートボール
  の素朴な丸さ      北野 幸子 
 たしかにミートボールはどんな料理にも応
用できる万能選手だ。結句でその素朴な形を
端的に描写することで上句の叙述を引き立て
ることに成功している。
  湯豆腐の一句いずこに置かれしか句集た
  ぐりて探す秋の夜    さかき 傘 
 なぜ湯豆腐の句を読みたかったのだろうか。
謎めいていて興味深い。句集をたぐって湯豆
腐の句を探す作業は穴あきお玉で湯豆腐を鍋
から掬い取る行為を少し思わせる。
  生真面目な小説読んでいるときに着信音
  は木魚の音色      細沼三千代 
 こちらも興味深い謎を提示した歌。小説を
読んでいるときでなくてもいきなり木魚の音
がしたらぎょっとする。
  綿100のハンカチを愛す夫なれば熱きアイ
  ロンわが愛と知れ    高田 理久 
 結句の命令形が印象的。旦那様への愛情が
強力に伝わってくる。綿100のハンカチに嫉妬
しているようにも読めて面白い。
  秋晴れの三条大橋西詰の亀の子束子はソ
  フトな張りあり     野田まえり 
 グーグルアースで確認したところ確かに京
都三条大橋西詰にそれらしき荒物屋さんがあ
った。気持ちのいい秋晴れの日であれば店頭
の束子に触れたくなる気持ちはわかる。
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アリさんら

2023-04-09 00:29:18 | 新いろは歌

 

2023年のいろは歌の日の作品です。
題「虫」。 #kiz48 7作品、#IRH48 1作品。

 

アリさんらホットケーキも蓄えよ
ハチを飼う部屋に娘の熱帯びぬなぜそこ白い触れてみる眉

ありさんらほっとけーきもたくわえよ
はちをかうへやにむすめのねつおひぬなせそこしろいふれてみるまゆ

#kiz48 #いろは歌の日 op.87 2023/4/8

 

ユートピアふやけメロンが虫の餌
翅切れてそこに薬を塗る童波打つ頬も今タッチせよ

ゆーとひあふやけめろんかむしのえさ
はねきれてそこにくすりをぬるわらへなみうつほおもいまたっちせよ

#kiz48 #いろは歌の日 op.88 2023/4/8

 

髭濡れずエモいフナムシあせってる
念を込めボーロおやつとハチ誘うマダラカミキリ夜の庭へゆく

ひけぬれすえもいふなむしあせってる
ねんをこめほーろおやつとはちさそうまたらかみきりよのにわへゆく

#kiz48 #いろは歌の日 op.89 2023/4/8

 

末の世や歌ふ蝉こそをかしけれ
迷路経て熊蜂縁に騒ぎ居ぬ微熱あらむと思ほゆるなり

すゑのよやうたふせみこそをかしけれ
めいろへてくまはちえんにさわきゐぬひねつあらむとおもほゆるなり

#IRH48 #いろは歌の日 op.16 2023/4/8

 

祭日や御神酒に火照るコガネムシ
知恵合わせ濡れない風呂へゆくバッタ酒飲めんよとソースをもらう

まつりひやおみきにほてるこかねむし
ちえあわせぬれないふろへゆくはったさけのめんよとそーすをもらう

#kiz48 #いろは歌の日 op.90 2023/4/8

 

露濡れの蚊取り線香やめておけ
ハエひ弱水路洞穴クモに満ちベープをしたぞ真っ先眠る

つゆぬれのかとりせんこうやめておけ
はえひよわすいろほらあなくもにみちへーふをしたそまっさきねむる

#kiz48 #いろは歌の日 op.91 2023/4/8

 

山裾にホタルあふれてわめくかも
気をつけよ夕陽オーロラ地平線さっぱり見えぬ猫と虫なの

やますそにほたるあふれてわめくかも
きをつけよゆうひおーろらちへいせんさっはりみえぬねことむしなの

#kiz48 #いろは歌の日 op.92 2023/4/8

 

雨の沼とんぼ悲しや夕陽色
キッス経てわれ今朝蝉にラブコール其を妬む蜂つよく萌えおり

あめのぬまとんほかなしやゆうひいろ
きっすへてわれけさせみにらふこーるそをねたむはちつよくもえおり

#kiz48 #いろは歌の日 op.93 2023/4/8

 

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うつしみに

2023-04-03 19:49:36 | 短歌

 

うつしみにこころひとつを宿らせてともに歩めり川沿いの道

河原に吹き流し振る少女いてそのほそながき腕しならせる

北からの風をまともに受けとめていまびんびんに冷えまさる顔

出なくてもいいひと言がこぼれ出す段差を上るとき「よっこらしょ」

ちいさなる犬の重さを胸に抱きひとりのひとが川べりをゆく

水仙の花ざわざわと咲いているだいたい同じ方向きながら

耳穴からラジオの音を流し込む 記憶途切れるとき眠ってる

寒さより尿意まされば夜具を出る 手すり掴んで下る階段

放尿ののちやわらかくなるこころ羽毛の夜具にまたあたたまる

ひとつ目のアラーム止めてふたつ目のアラーム止めて朝が来ている


_/_/_/ 未来4月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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工房月旦1月号

2023-04-03 19:46:51 | 短歌記事

 

未来4月号から1年間、工房月旦を執筆します。
担当は、さいとう・池田・大島・田中、各選歌欄です。

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工房月旦1月号    鈴木麦太朗

  摘果終え静まりかえる桃畑落とされし桃
  残されし桃       八島 わこ 
 下句のリフレインが印象的。いいリズムを
つくり出している。摘果作業により命運を分
けられた二種類の桃の対比は物思わせる。
  手帳には弱音も吐いて良いだらう薄い紙
なら影も薄くて     酒匂 瑞貴 
 つらい仕事により吐き出したくなった弱音
を手帳に記そうとしている。たしかに文字に
すると気持ちが整理されて少しは気が楽にな
るものだ。影が薄いは印象が弱いという意味
合いがあるので手帳の薄い紙に記せば弱音も
ぐっと弱まっていくようにも思われる。
  唯一の外界のぞむ北窓に叔母はひとりの
  日時計まはす      北野 幸子 
 北窓であれば陽の光は入らない。ゆえに本
物の日時計ならば機能しないはずだ。叔母様
の日時計はこころのなかにあるのだ。「ひと
りの」をはさみ込んだ工夫が活きている。
  かたわらの夫が朝刊めくるたびわが片頬
  はふっと吹かるる    丸山さかえ 
 ユーモラスな歌。朝刊をめくるときに起こ
る風が頬にかかるという至極細かな事象を掬
い取っているのがいい。
  息を吐く間に打つと痛くないらしい、け
  れども注射は「チクン」 紺野ちあき 
 チクンはちょっとした痛みを表現するベタ
なオノマトペではあるがその字面はワクチン
を思わせるのでうまい使い方だと思う。あえ
てカッコに入れたのはそういうねらいもあっ
たのだろう。
  ビーサンを口いつぱいに頬張るごと根管
  治療のラバーダムはも  高崎れい子 
 すさまじい比喩である。ラバーダムはネッ
トの検索画像で確認はしたが実際にはどんな
物か知らない。ただこれがビーサンのような
物だとしたらとても耐えられそうにない。
  かご盛りの有機野菜に味噌つけてポリカ
  リシャクッと音たててはむ
              飯豊まりこ 
 気持ちのいい歌。オノマトペはこれしかな
いというくらいはまっている。かご盛り、有
機野菜といった具体もいい。食べたくなる。
  一万余の核弾頭を胸に抱き自爆せむとや
  水の惑星        藤田 正代 
 水の惑星はむろんこの星、地球のこと。こ
の妄想は多くの人が一度は抱いたことがある
のではないだろうか。これが現実になってし
まう可能性も否定できない世情を憂う。
  三叉路の接点の地に木造の四階アパート
  舳先の様に       山脇 俊子 
 三叉路の角のところに建つアパートを船に
見立てた歌。四階建てで窓が連なっているか
ら大型客船だろう。楽しい発想だ。
  揺らしつつ羽を運べる黒蟻が巣穴にすー
  っと引き入れるを見つ  茂木 敏江 
 細かいところをよく見て歌にしている。ま
た、すーっとがよく効いている。作者が見た
ものをそのまま映像として再現できそうだ。
  スーパーのBGMに「天国と地獄」流れ
  て秋刀魚並びをり    坂井花代子 
 この歌の状況に続く場面を想像した。天国
と地獄の軽快なリズムに乗せられて我も我も
と秋刀魚を買っていく場面である。まあそん
な事は無いだろうけれど。
  白河の関にあらねど大宮は心のスイッチ
  切り替わる駅      池田 照子 
 心のスイッチがいい。大宮駅には作者だけ
が感じる何かがあるのだろう。
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麦太朗家の植物誌

2023-04-03 19:35:10 | 短歌記事

 

未来4月号の「その日その日」というコラムに短文を掲載していただきました。

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    麦太朗家の植物誌        鈴木麦太朗

 わが家の庭に生息する元気過ぎる植物たちのことを書き記しました。お読みいただけると幸いです。
【大葉】生えるままに育てている。秋になると立ち枯れて種をこぼし、春になると恐いくらいにたくさん発芽する。全部を育てる訳にはいかないので間引いて七~八本を残す。葉は虫が食うので人が食べることのできる分はさほど多くはない。
【十薬】抜いても抜いても生えてくる。恐ろしい生命力の持ち主である。根は柔らかくすぐ切れるので抜いても若干は土中に残る。そこからまた成長する。また抜く。終わりがない。
【紫蘭】よく育つ。いつのまにか生育領域が広がっていてびっくりする。五月くらいに赤紫色のかわいい花をつける。
【銭苔】いつもは裏庭に棲んでいるが雨の多い時期は表庭に進出していたりする。油断ならない。
【玉竜】増えも減りもせずしぶとく生きている。まだ一度しか見たことはないが青い真珠のような実が美しい。
【南天】成長が早く二~三年でそこそこ太い幹になる。どんどん生えてくるので折りに触れて剪定している。剪定で得た幹は強靭で、軒下の蜘蛛の巣を払ったり烏除けの柵をつくったりするのに使えて重宝する。
【茗荷】葉は毎年元気に育つが食べることのできる花穂は年によって取れ高の多い少ないがある。去年は豊作だった。
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烈風抜けて

2023-03-21 21:21:08 | 新いろは歌

 

2022年のいろは歌の日の作品です。
(記事をあげるの忘れてました)
題「そら」。 #kiz48 2作品

 

烈風抜けて雨終わり
今も空飛び月へ行く
蟹猫ナース蝉たちは
論やポエムの良さを知る

れっふうぬけてあめおわり
いまもそらとひつきへゆく
かにねこなーすせみたちは
ろんやほえむのよさをしる

#kiz48 #いろは歌の日 op.85 2022/4/8

 

抜け道へ行く群れ猫に
ひとつの冴えを褒めており
やっぱいろんな歌が好き
空もマーブル幸せよ

ぬけみちへゆくむれねこに
ひとすのさえをほめており
やっぱいろんなうたかすき
そらもまーふるしあわせよ

#kiz48 #いろは歌の日 op.86 2022/4/8

 

 

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