麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

吹き戻す

2020-02-01 21:53:49 | 短歌

 

吹き戻す台風のかぜ受けながら青毛堀川川沿いをゆく

北からの風顔面にに受けながらすなわち北へ向かってあるく

川沿いの花壇に咲ける白い花、黄色い花の名前は知らず

知りたいという欲望のさもしさよ 白花、黄花をケータイで撮る

たて長の写真を撮ってゆくことのかすかな違和を受け入れながら

流される感じにおよぐカルガモの いや本当に流されている

ヒアルロン酸の効果はいかほどか髭剃りジェルを購い帰る

『散歩で見かける草花・雑草図鑑』よしオールカラーのちいさな図鑑

白花の名はゼフィランサス 葉は細く花との取り合わせが美しい

黄の花はメランポジウム 一年草 メキシコ原産暑さに強い


  ※ ルビ  白花(しろばな)  9首目


_/_/_/ 未来2月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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かすかにも

2020-01-06 19:08:29 | 短歌

 

かすかにも火薬の香をまといつつどうしようもなく夏が来ている

びわの葉の一葉ごとに一頭の蚊はひそみ居てまひる風なし

特急は色もかたちもよろしくてわたしのことは見向きもしない

右側を下と定めて横たわる秋刀魚の骨のかたちがみごと

ふくらんでゆく蜂の巣のたしかさは蜂のこどもを育んでいる

叱られて言い返せないわたくしの日々の眠りのやすらかなこと

十薬の横ばいの根のやわらかさ「婚は苦行」と誰が言いしか

執拗にあしのうらがわくすぐれば個人情報ながれ出るかも

火を吹けば火の属性と知るものを孤高の竜の声はおだやか

何もかもが終わった訳ではないけれど夏は終わったような気がする


_/_/_/ 未来1月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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背もたれを

2019-12-08 16:00:28 | 短歌

 

背もたれを倒せば広き車なり娘の荷物と娘をはこぶ

助手席の足元にある空間にあらんかぎりの靴を詰め込む

ブタさんの大きなぬいぐるみも乗せる 二十年来の娘の相棒

本棚の長きを積んでひだりがわ見難きままにゆく東北道

初めてのひとりぐらしはうれしいかさみしいか なんて問うこともなく

武蔵野の道ややこしやややこしやカーナビさんの言うことをきく

十年の昔に買ったカーナビがやさしい声でがんばっている

自家用車にいっぱいの荷物二往復 娘ひとりのくらしのために

今生の別れとまでは言わねども手を振る娘に手を振りかえす

月の夜はあるいは月のなき夜はひとりぐらしの娘を思う


_/_/_/ 未来12月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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ふたたびを

2019-11-04 14:02:26 | 短歌

 

ふたたびを生きるごとくに白式部芽吹けばのちの死を思わざり

黄の花のしなだれながらつく枝の奥に未熟のプチトマト生る

南天の花散り切りているところいかにも梅雨という雨がふる

眠ろうとして眠れない寝室にあした着てゆくシャツ垂れている

二度漬けは禁止の世界 二度塗りが必須の世界 にんげん界に

ひとり言、あるいは問いかけなんだろか 言葉の澱を沼に沈める

みどり濃き夏の湖畔の別荘地 仕事でなければうれしきものを

わからないことには素直にわからないと言いて帰り来 くねくねの道

五十分待って出てきたほうとうにカボチャとホタテがよく煮えている

おそるべき垂直落下コースター右手に見えて夏盛りなり


_/_/_/ 未来11月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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友を待つ

2019-10-05 19:03:11 | 短歌

 

友を待つ時のすさびに選びしは岩波少年文庫『人間の歴史』

『江戸期おんな表現者事典』に記されて一万二千人の女におい立つ

黒めがねエッジの効いた黄のめがねくもりの空の下笑いあう

すれ違うケーブルカーに手を振れば赤の他人が手を振りかえす

川中の鯉を眺めに来しゆえに橋の真中にわれはとどまる

こわされてゆく辻さんの家を見て妻と語りきその後のこと

わが庭にむかし額紫陽花ありき花の頃には花を愛でたり

立葵しずかに咲けり「種を持って行かないで」という札を掲げて

鉄塔は真正直な影をなす市営球場の外野の芝に

草色のわが少年の夏の日はライトフライを取り落とすかな


_/_/_/ 未来10月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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白エビの

2019-09-07 16:14:26 | 短歌

 

白エビの一尾のすがたうつくしくえびせんべいの真ん中にある

猥雑な五秒ののちに訪れて『月の光』はやさしくうねる

あさぼらけひとつの夢を終わらせてふたつ目の夢見んとし眠る

救急車二台がよぎる県道にさわだつ飛沫そののちの凪

低反発マットにごろり寝転べばわが身体どこまでも沈みゆく

お向かいの松下さんちのハナミズキ不労所得のごとくに咲けり

南天の茎のふときを切り落とす ふとき茎得てこころゆたけし

朝夕にみじかき旅を重ねては取りもどすことのできぬ月日ぞ

物欲はおそろしきかな駅ビルに売ってなければ駅前ビルへ

ことごとく桔梗のつぼみをこじ開けて幼きわれは叱られたりき


_/_/_/ 未来9月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

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六月集を読む・2

2019-09-07 16:06:56 | 短歌記事


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六月集を読む・2    鈴木麦太朗

  冷蔵庫をあければ即ち電気がつくかか
  る仕組みをなしとげし人 はや
             大島 史洋
 普段はさして便利とも思わない些細な事
柄を歌にしておられます。いわゆる発見の
歌とも言えるでしょうが、こういう歌を読
むと、短歌は些事を掬い取って詩情をかも
し出すのに適した不思議な詩形だなあと、
あらためて思います。最後の「はや」がと
ぼけた感じを出していて良いです。
  寒おすな今朝方の比叡久しぶりに雪を
  冠って真白どした   藤元 靖子
 「おすな」「どした」に一瞬戸惑いまし
たが、これは京都弁ですね。やわらかな語
調が聞こえてくるようです。私は二十年間
関西に住んでおりましたので、馴染みのあ
る言葉に懐かしさを覚えました。初句はと
なりにいる人に話しかけている感じ、それ
以降は歌の読者に語りかけている感じです。
一首のなかで語りかける対象が切り変わる
のも面白いと思いました。
  山畑の落葉の厚く湿らいて踏みゆく音
  のひそかごとめく   川井 恭子
 結句の官能的な比喩が絶妙です。湿った
落葉を踏んで歩くときのくぐもった音、や
わらかな感触、そしてこころ落ち着くよう
な土の香りまでもが感じられました。
  ヤフーから他のブログへ引越しを半年
  以内にせねばならぬぞ 三平 忠宏
 これは切実な問題ですね。「せねばなら
ぬぞ」という強い決意の表明は切迫感があ
るとともに諧謔味もあって良いです。続く
歌を読むと三平さんはFC2ブログへの移
行を決めて実行されていることがわかりま
す。ご趣味の植物のことを写真とともに記
した読み応えのあるブログ、興味深く拝見
させていただきました。
  二冊ある本減らさんと抜き出せばその
  嵩やがて一箱を占む  中津 正雄
 本が増えてくると、すでに持っている本
を知らずに買い足し、同じ本が二冊になっ
てしまうのはままあることです。そういう
重なった本を集めたら一箱を占めてしまっ
たと中津さんは述べておられます。重なっ
た本で箱ひとついっぱいになるには、相当
の蔵書が無いと起こり得ないと思います。
多くの本をお持ちであることへのうらやま
しさと同時に、書籍整理の大変なご苦労を
思いました。
  手術をば楽しむ如くこの医師は説明く
  れし笑みを絶やさず  柴田 年子
 お医者様は患者さんに心配を与えないよ
うに笑顔でお話をされているのでしょう。
しかしながら、それを聞いている柴田さん
はその笑顔に違和感を持っておられるよう
です。場合によっては人の命を左右する手
術の話を笑いながらするとは何事か、とい
う思いも少なからずあることでしょう。こ
の歌はそんな複雑な心情をうまく掬い取っ
ています。
  小松菜のひと畝ながら春風に色めき育
  つ日々となりたり   砂場  房
 うちの小松菜はひと畝しか無いけれど春
風の中がんばって青々と育っているんだよ、
というメッセージを受け取りました。さわ
やかな印象の歌です。「ながら」が良いで
すね。真似してみたくなる歌です。
  校庭に小紅と摘むちゅうりっぷ、らっ
  ぱすいせん促音教えて 佐久間佐紀
 小紅は佐久間さんが日本語を教えている
中国のお子様のお名前でしょう。掲出歌は、
校庭で花の名前を言いながら、促音の発音
を口伝えで教えているところの描写です。
教室ではなく屋外での実地学習、すばらし
いですね。校庭でのおだやかなひとときが
ありありと伝わってきました。

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たてがみの

2019-08-06 01:27:58 | 短歌

 

たてがみの柔らかそうな馬に乗る乗り換えなしの午睡のなかで

ハムレットにあらざるわれの逡巡はシャツをズボンに入れるか否か

木下道ゆきつつ思う木洩れ日をたまごボーロに例えしひとを

笹原は風がなければ絵のごとし縁に斑をもつ笹も混じりて

絶対に押すなよという姿にて池見るひとを押さずに過ぎる

園内にクシコスポスト流れくるピストルの音を伴いながら

石亀のおよぐ不思議を見ておれば空を飛ぶかもしれぬと思う

坂東の道はうねりを持ちながら百年前にわたしをはこぶ

助手席に帽子を乗せてゆく道はカーナビが知りわが知らぬ道

時として電波事情は悪くなり映画批評はとぎれとぎれに


_/_/_/ 未来8月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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五月集を読む・2

2019-08-06 01:26:57 | 短歌記事

 

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五月集を読む・2    鈴木麦太朗

  一刷けに長く引く雲林の辺の深きにと
  どまり歩き来るに見ゆ 奥住  毅
 初句から四句までで雲の姿をダイナミッ
クに表現し、結句で自身の行動をコンパク
トに述べています。まず初句の「一刷け」
が良いです。青空にさらっと白いペンキで
描いたような雲のかたちが目に浮かんでき
ます。そして「林の辺」と述べることで地
上の景色がひろがります。最後に自身を詠
むことにより、歌全体がぐっと読む者の気
持ちに寄り添ってきます。近藤芳美調とで
も言うのでしょうか、字余りになってでも
力強く詠う姿勢に圧倒されました。
  亡き友の母は去年の秋逝きしと今夜知
  りたる世話になったのに 河村 公美
 ご友人の母君がお亡くなりになったこと、
そしてそのご友人はすでに亡き人であるこ
とをまずは端的に詠んでおられます。こう
いった人事の状況説明をわかりやすく歌に
するのは存外難しいものです。簡単そうに
見えますが、かなり表現を練られたのでは
ないかと思います。また、結句の「世話に
なったのに」という口語の詠嘆、こころの
叫びをそのまま言葉にしたような詠みは感
慨深いものがありました。
  夫に見えわれには見えぬ長の子に物言
  いており暮れてゆく部屋 原 美代子
 何とも切なくて凄まじさも感じさせる歌
です。旦那様はその場には居ない息子さん
と暮れて薄暗くなっていく部屋でお話をし
ているというのです。続く歌も拝読いたし
ました。旦那様の日々の介護は大変なこと
と思います。具体的な事実を述べることで
原さんのいたたまれないような気持ちがひ
しひしと伝わってきました。
  平成の最後の年の賀状にて切手シート
  の当りが多き     小林 永典 
 平成最後とか令和最初を詠む歌はこれか
ら目にする機会が多くなりそうですね。こ
の歌は意外性とユーモアがあって良いと思
いました。そして、ささやかな幸が良いの
です。これが一等が当たって現金三十万円
を得たなどという事になれば、たとえそれ
が事実だったとしても歌にはなりません。
ちなみに今年は私も切手シートの当たりが
多く出ました。四十枚ほどの年賀状の中に
当たりが三枚ありました。
  冷え冷えとわが死の翳の横たわる布団
  を干しぬ冬の日ざしに 龍  圭介 
 冬の日差しのなかで布団を干しながら、
龍さんはそこに自身の死を見ておられます。
布団に横たわって毎夜ひとは眠るのですが、
その姿は死と紙一重なのかもしれません。
そんなことを思いました。「冷え冷え」と
「冬の日ざし」の響き合いが効いています。
この歌に限らず、また龍さんにも限らない
のですが、五か月間「月集」を読ませてい
ただくなかで、響き合う言葉は一首の中の
なるべく離れた所に置くと効果的であるこ
とを学びました。
  ブルースターサファイア婚というがあ
  り婚六十五年 それも過ぎにき
             髭 千代子 
  ほっこりと乙女椿が咲きましたもうす
  ぐ併せて百八十歳    同    
 何という目出度い歌なのでしょうか。夫
婦ともども長生きする。これに勝る幸せは
無いのではないかと思わせる歌です。もち
ろんただ目出度いからという理由で選んだ
わけではありません。調べが良いのです。
一首目は三句と四句、二か所の軽い切れが
歌にアクセントを与えています。二首目は
上の句の語るような詠みと下の句の畳みか
けるような詠みが絶妙なバランスを保って
います。調べの良い歌はすぐに覚えること
ができ、口をついて出てくるものですね。

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家々の

2019-07-26 23:44:48 | 短歌

 

夕景

家々の屋根の角度を見ていたり雪をとどめる突起とともに

仮免許練習中の札つけてなんとゆっくり左折してゆく

うちがわを見せてかなしき自販機の週に一回補充するひと

こわされてゆくビルディング硬そうだがんばれ遠くの黄色い重機

すべるごと東北新幹線はゆくひとを乗せてる感じなきまま


_/_/_/ 短歌総合新聞「梧葉」2019年夏号 _/_/_/
_/_/_/ 2019年夏 現代作家新作五首 _/_/_/

 

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おしぼりと

2019-07-05 23:05:51 | 短歌

 

おしぼりと水を配って待つうちに中山さんがにこにこと来る

笹さんがゆらりゆらりとあらわれる両手に謎の袋を持って

いつだって山口さんはアメリカン本条さんはいろいろなやむ

われひとり誰の歌かを知るゆえに司会をつとめる無記名歌会

かたすみに見えない椅子がひとつあり不動哲平さん座ってる

ルノアールから赤ひょうたんへゆく道のあかがね色の世界を好む

「えっ麦じゃないんですか」と問われたり芋焼酎のロックたのめば

中野駅までの歩みの五分ほど無口なわれは饒舌になる

終バスに間に合わぬことのいくたびぞ午前零時をはや足でゆく

玄関のとびら静かに開いたらなまあたたかき闇おとずれる


_/_/_/ 未来7月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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四月集を読む・2

2019-07-05 23:02:39 | 短歌記事

 

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四月集を読む・2    鈴木麦太朗

  道端の藪より野良猫飛び出して我はた
  じろぐ総毛をたてて  大柴 侑宏 
 「総毛を立てて」がうまいです。この結
句により歌が活き活きとした輝きを放つこ
とになりました。言うまでもなく「総毛」
と「野良猫」とが響きあって詩を成してい
る訳です。例えば「野良猫」を「縞蛇」に
変えてみると一気に歌がつまらなくなるこ
とでそれがはっきりします。大柴さんは思
わぬところで野良猫に出会って大いにたじ
ろいだようですが、野良猫のほうも大柴さ
んを見てたじろぎ、総毛を立てていたかも
しれませんね。
  お年玉くれしこの子の幼き日われは使
  いき子のお年玉    安部 洋子 
 「お年玉」にはじまり「お年玉」に終わ
る構造が印象的な歌です。意味内容は誰も
が共感できるものです。幼い子供がもらっ
たお年玉はその親が管理するほかはなく、
使ってしまうこともあるでしょう。もちろ
ん私にも経験があります。この歌が構造的
な面白さや共感だけで終わらないのは、そ
のお子様が成長し、安部さんにお年玉を差
し上げている様を、まずは述べているから
です。現在と過去を対比させることで歌に
深みが生まれています。
  サで始まる病院食の魚の名鮭・鯖・鰆
  は出たが秋刀魚・山椒魚はまだ     
             渡辺 東雄 
 サで始まるお魚の名前がずらりと並んで
います。病院食として鮭や鯖や鰆はヘルシ
ーで良さそうな気がします。秋刀魚は落語
の「目黒の秋刀魚」よろしく油抜きをすれ
ば病院食として供される可能性もありそう
です。さて山椒魚は如何に。続く歌に《山
椒魚は両生類との声がするそを食らいたる
ヒトありや否や》とあります。私の中学の
時の先生は、子供のころ沢で山椒魚を生け
捕りにして踊り食いをした、と言っており
ましたので、美味いか不味いかは知りませ
んが実際に食べた人はいらっしゃるようで
す。山椒の香りがする故、山椒魚という名
がついた由、美味いのかもしれません。
  花びらのように初雪降りかかる手のひ
  らに受く口開けて受く 亀岡 奎子 
 雪はあまりに多く降ると交通に支障をき
たしたりするので迷惑なものですが、これ
が初雪となるとなぜか心浮き立つものです。
そんな初雪を見た時の感動を具体的な行動
の描写により活き活きと表現しているとこ
ろが良いのです。まずは手のひらに受けて
確かめ、続いて口を開けて待ち構えていま
す。初雪と一体化しようとしているように
も感じられます。
  盆暮れも休まず精出す真面目の湯元旦
  壺湯に歳を忘れき   西山 数明 
 銭湯の名前として「松の湯」「鶴の湯」
などと同様に「真面目の湯」というものが
あるのかと思い調べてみましたが、そのよ
うな名前の銭湯は無さそうでした。文字通
り真面目に休みなく営業している銭湯なの
ですね。元旦に歳を忘れるとは、なんと粋
な表現なのでしょうか。「壺湯」という選
択も効果的です。西山さんが誰にも邪魔さ
れることなくただ一人で湯を楽しみ、感慨
にふけっている様がよく伝わってきます。
  夢に出でし恋しき人は義足にて真珠の
  いろの路を歩みぬ   馬淵美奈子 
 夢の中の出来事なので何でも有りと言っ
てしまえばそれまでなのですが、とても魅
力的な光景だと思いました。恋しい人がぎ
こちない歩みで真珠のようにひかる道を馬
淵さんの方に向かって歩いてくる。そんな
情景を想像してドキドキする。そういう歌
です。「義足」が効いていてドキドキ感を
増幅させています。          

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休まねば

2019-06-04 01:50:21 | 短歌

 

 

休まねばならぬひと日というものがありて休みぬ冬のひと日を

切りそろえられてまあるい生け垣をなでつつゆけりゆるき歩みで

二年分の記帳をすればカシャカシャと印字されたりわが営みは

百円のハンバーガーとコーヒーにいともたやすく誘われたり

ケチャップの甘たるい味たしかめて食めばパリリとピクルスは鳴る

背表紙をしばしながめているところ岩波文庫はこころやすらぐ

楽器屋がたしかあったと思ったがただそこにある壁のきたなさ

レターパックライトに詰め込む刺繍糸妻の母へと送らんとして

がん保険見直しませんかという電話切りて思いきわれの残生を

このゆうべの家族四人の糧となる五分搗き米の二合を研がな


  ※ ルビ  誘(いざな)  4首目


_/_/_/ 未来6月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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三月集を読む・2

2019-06-04 01:46:01 | 短歌記事


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三月集を読む・2    鈴木麦太朗

  生徒総代すでに敗戦を予言せりされど
  無言なり配属将校   稲葉 健二 
 今年で戦後七十四年。かの戦争の実体験
の歌はあと十五年も経てばほぼ詠まれるこ
とは無くなるでしょう。こういう歌は大切
に読み継いでいかなければならないものと
心より思います。掲出歌は戦争も終わりに
近づいた頃の出来事と思われます。学校の
講堂で生徒総代が敗戦を示唆する演説をす
る。本来ならば何らかの咎めを受けてもお
かしくない状況なのに配属将校は何も言わ
ない。往時の状況がありありと見えとくる
優れた記憶と記録の歌と言えましょう。
  朝の道の羊雲いつか晴れてゆきけふの
  ひと日のよき予感する 桜井登世子 
 石川啄木の《何となく、/今年はよい事
あるごとし。/元日の朝、晴れて風無し。》
という歌を想いました。啄木は元旦にその
一年のよい事を思っていますが、桜井さん
は羊雲が晴れてゆく様を見て、そのひと日
がよくなるだろうことを予感しています。
啄木の歌も好きなのですが、桜井さんの歌
は一日一日を大切に生きようという実感が
こもっていてとても素敵だと思いました。
  厚咲きの菊咲ききりて鉢にあり尊厳死
  協会の会報届く    伊吹  純 
 上の句と下の句の付かず離れずの感じが
絶妙な一首です。「菊」「咲ききり」はほ
のかに死を内包しており、それを「尊厳死
協会の会報」でゆるやかに受け止めていま
す。このような言葉から受ける印象ととも
に、完全に咲ききってあとは散る他はない
菊の花弁や、尊厳死協会会報の表紙にあり
そうな微笑む老夫婦の写真などの映像が浮
かんできて、それが歌に重層的な深みを与
えています。
  ま青なる天こうこうと渡りゆく見えぬ
  飛行機の音を目で追う 川上 重明 
 たしかにこういう事はあるなあと思わせ
る歌です。それをさらりと歌にするのは簡
単そうでなかなかに難しいものです。上の
句の堂々とした詠みから一転、四句目でお
やっと思わせて、結句でしっかりとまとめ
ています。さりげない技が効いています。
「こうこう」という擬態語も良いですね。
何か伸びやかで明るい印象があります。
  百歳は三万六千五百日。目ざして小さ
  き鏡餅買いぬ     前川 明人 
 こうして日数を具体的な数字で示される
ことで、人生百年は案外短いものかもしれ
ないなあと思わされました。感じ方は人そ
れぞれなので、この数字を見て人生は長い
なあと思う方もあるいはいらっしゃるかも
しれません。「小さき鏡餅」が良いですね。
鏡餅は鏡開きのとき食べて無くなってしま
うものなのですが、毎年毎年積み重なって
ゆき、それが百歳をめざす前川さんの人生
を反映しているようにも思えました。
  鏨もて親が彫りたる墓じるし苔生して
  尺に満たざる小石   桑田 靖之 
 幼くして亡くなった桑田さんの同級生を
偲んで詠まれた六首の、最後に置かれた歌
です。一連の中でわが子を亡くした母親の
姿がありありと描かれており、ぐっと胸に
迫るものがありました。一歳で亡くなった
私の父の姉の墓が、長きにわたり尺に満た
ざる小石だった事なども思い起こしました。
  楽しみて開く段ボールは妹より甲斐の
  富有柿ころ柿その他  押山千恵子 
 下の句の転がるようなリズムが楽しい歌
です。柿自体よく転がりますが、柿の他に
入っているものもすごく転がりそうな気が
します。かぼちゃとか栗とか、たぶん信玄
餅も入っていることでしょう。もちろん妹
さんからの手紙も入っていて、それがいち
ばんの楽しみに違いありません。

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草の葉の

2019-05-14 19:56:05 | 短歌

 

草の葉のゆるく流れる堀川はひえびえとして音のなき川

うずくまるようにとどまる川のなかカルガモたちの空白がある

左岸とは海に向かって立つときのひだりの岸を言うのだ、雲よ

万国旗に星のあまたは灯りつつ売出し中の家をいろどる

エロチックな誘惑という文字を見き捨て置かれたる『オール読物』に

つわぶきの花は希望のごとく立ちそのまるき葉はつややかにある

柑橘が枝をはなれて落ちるとき鳩はおどろき「ほ」と鳴くだろう

藁の香のうすいけむりを吸いながら野焼きの畑の傍らを過ぐ

ぼんやりとしたる視力にみる川のゆうぐれ尾羽根の白がきわ立つ

午後四時は夕焼け小焼け鳴りわたりよいこであれば家に帰らな


_/_/_/ 未来5月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ ニューアトランティス欄 _/_/_/

 

 

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