麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

風つよき

2015-04-30 23:16:52 | 短歌


風つよき二月の街へ出でゆけば途方にくれたるバス停ひとつ

土曜日の午後は映画をただで観る「ただ」とはなんとすてきな言葉

『キートンの蒸気船』を観る図書館の視聴覚室午後のまっくら

「この作品は無声です」と言う司書の眼に含羞のごときを見たり

サイレント映画に後付けされているピアノの調べのよそよそしさよ

蒸気船の運転席から飛び降りるバスター・キートンはゴムのごとしも

大嵐のなかで斜めに立っているマイケル・ジャクソン否バスター・キートン

大嵐にふっ飛ばされるキートンに数多のあおき痣あるならん

大嵐にぶっ壊される家々のかなしいまでのもろさを笑う

ドリフターズのどたばた劇の原点はまさにこれぞと思い至りき


  ※ ルビ   含羞(がんしゅう)  痣(あざ)


_/_/_/ 未来5月号掲載歌 _/_/_/
_/_/_/ 笹公人 選歌欄 _/_/_/

 

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黒揚羽

2015-04-30 22:58:16 | 短歌記事


『未来』2015年5月号の Loose-Leaf というコラムに
不動哲平さんの追悼朗読会のことを書かせていただきました。
会員以外の方も読めるよう、こちらにも置いておきます。


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 黒揚羽        鈴木麦太朗

 去る一月十八日、不動哲平さんの追悼朗読会に参加した。会場は世田谷区明大前のブック・カフェ槐多。比較的狭い会場ながら二十数名の参加者でいっぱいとなった。参加者の多くは見目うるわしい女性。長身で物腰がやわらかく、いつも黒を基調とした服装でダンディにきめていた不動さん。人徳だなあと思うとともに少しばかりの嫉妬も抱いたのであった。
 この会は詩人の平岡淳子さんが毎回ゲストを招いて折々に開催している「星くず朗読会」の十五回目の会。不動さんは生前にゲストとして参加される予定だったのだが、その願いかなわず追悼朗読会というかたちとなってしまったものである。
 不動さんは昨年六月に肺がんにより四十三歳という若さで惜しくも不帰の客となられた。亡くなられたことは悲しく残念でならないが、今でも私たち未来短歌会笹公人選歌欄の仲間であることに変わりはないと思っている。
 さて追悼朗読会のこと。まずは笹公人さんが不動さんの遺した歌をとりあげて語るところから始まった。未来短歌会の大先輩である上野久雄さん、石田比呂志さんを彷彿とさせる無頼とダンディズムの世界観をあらためて感じることができた。
 次は笹欄の新鋭、中山一朗さんによる不動さんの遺歌百首あまりの朗読。参加者の中でもっとも不動さんの年齢に近い中山さんの力強い朗読は、こころにじんと沁みるものがあった。
 続いては不動さんへ捧げる歌の朗読。笹欄からは須田まどかさん、酒井景二朗さん、神定克季さん、私、そして歌友である塔短歌会の高松紗都子さんが、それぞれに思いを込めた作品を朗読した。
 最後は主催者の平岡さんと、この日足をはこんでくださった不動さんのお母様のお話。おふたりのお話は私たちの知らなかった不動さんの姿を映し出してくれてたいへん興味深いものであった。お母様のお話の中で、不動さんの療養中に二日を空けずに看病に来ていた女性の存在が明かされた。案外にも堅物であった不動さんが、亡くなる間際に大切な人と過ごすことができたことに、お母様はとても喜んでおられたというお話は特に印象に残っている。
 朗読会に先立って、昨年秋に有志でお墓参りに出向いた。私は笹欄に居ながらUFOを見たこともなければ輪廻転生も信じていなかったのであるが、あのときお墓に突如あらわれた一羽の黒揚羽、あれは不動さんの化身だったに違いないと思っている。そして生前、月々の歌会を楽しみにしていた不動さんは、今も歌会が開かれるたびに会場のかたすみにあらわれて、静かに私たちを見守っているものと信じている。

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