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一日一書 1516 雪のうちに春は来にけり・古今和歌集・二条后

2019-01-05 15:42:11 | 一日一書

 

古今和歌集 春上

 

二条后

 

雪のうちに春は来にけり鶯のこほれる涙今やとくらむ

 

半紙

 

黒文字楊枝

 


雪の積った冬景色の中に、春がやって来てくれたよ。

 谷間で春を待つ鶯の涙も寒さに凍っていたが、

 それも今こそ解けて鳴き声を聞かせてくれることだろう。

『日本古典文学全集』

 



古今和歌集の「春上」の三番目に置かれた歌。

二条后(藤原高子)の初春のお歌、と、詞書きにあるとおり

作者は二条后と呼ばれた藤原高子(こうし・たかいこ)。

在原業平との悲恋が『伊勢物語』に伝説的に描かれています。

 

『古今和歌集』は、正岡子規の酷評以来、おもしろくない歌集と思われてしまいましたが、

昭和になって、大岡信によって、その魅力が再発見されました。

世間的にはどうか知りませんが、ぼくにとってはそういう経緯がありました。

それほどに大岡信の『紀貫之』(1971年刊)という本は衝撃的でした。

 

何事も固定観念に縛られてはダメということですね。

 

この歌は、一度読んだら忘れられない鮮烈なイメージを持っています。

なんてたって、「鶯のこほれる涙(鶯の凍った涙)」っていうんですから。

なかなか思いつかないイメージです。

もちろん、鶯が涙を流すこともないし、まして、その涙が凍ることもない。

けれども、なんという可憐なイメージでしょう。

古今集の中でもカワイイ歌ナンバーワンですね。

 

前回の寂然の歌は、「氷が解ける」イメージを、煩悩からの脱却に重ねていたのですが、

この歌は「釈教歌」ではないので、そういう比喩はないわけですが、あえて「釈教歌的」に読めば、

 

厳しい煩悩と闘いながら暮らしている最中に、突然のように希望の光が射してきた。

その暖かい光(仏の教え)に、苦難の涙も消えていくよ。

 

というように読むこともできますね。

 

こうした読み方は「正しく」はないでしょうし、

また道徳的で説教臭いとも思われるでしょうが、

ぼくらは、いつも自然から、何かを学んでいるのだとしたら、

こうした歌からも、生きる知恵を学ぶことがあってもいいのではないでしょうか。

 

 

 


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