Yoz Art Space

エッセイ・書・写真・水彩画などのワンダーランド
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一日一書 294 憂き我を

2014-02-27 16:34:05 | 一日一書

 

芭蕉

 

憂き我をさびしがらせよ閑古鳥

 

 

現在開催中(3月3日まで)の「現日春季書展」で

準同人奨励賞を受賞した作品です。

 

今日、家内に付き添ってもらい、

六本木の国立新美術館へ行って、写真を撮ってきました。

さすがに、まだ体力が十分に回復していないので疲れましたが、

「行けた!」という達成感があります。

 

作品の方は、どうなのか、自分ではよく分かりませんが

賞をいただけたことを、素直に喜びたいと思います。

 

 


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100のエッセイ・第9期・66 大きな手

2014-02-24 16:13:15 | 100のエッセイ・第9期

66 大きな手

2014.2.24


 

 手術は、1月10日に行われた。その2日前に、家族も同席のうえで詳細な説明が鈴木先生からあった。ぼくは家内が同席すればそれでいいと思ってそう鈴木先生に言うと、「いや、息子さんにも同席していただいたほうがいいと思います。やっぱり、それなりの手術ですから。」と言う。そうか、そうだよなあ、「それなりの手術」ということは、「決して安全ではない、命にかかわる大きな手術」という意味だろう。それで、長男と次男も同席して、その説明を聞いたのだった。

 詳しいことはとてもここに書き切れないが、とにかく、大動脈瘤のある部分の血管を人工血管と取り替える、そのために、胸を開き、一端心臓を停止させ、人工心肺で置き換え、体温も低くしておいて(ぼくの血液をどれくらいか分からないが抜き取って、それを冷やして再注入することで体温を下げるのだそうだ。)、その間に人工血管と本当の血管を縫い合わせる、というようなことだった。人工血管は、ゴアテックスという素材で出来ていて、大変優秀な製品だということだった。「心臓カテーテル検査」で、卒倒しかかったぼくだが、話がここまで来ると、「いったいそんなことができるのか?」とか、「心臓を一端止めるっていうけど、その間にほんとうに縫い終わるの?」とか、もう無数に出てきそうな疑問も、まるで出てくる余地もなく、ただただ他人事のように、「ほう。」とか「へえ~!」とか、ひたすら感心して聞いているだけだった。

 説明の終わりころに、鈴木先生は、最初のレントゲン写真をしげしげと見ながら「それにしても、この写真で、大動脈瘤を見つけるなんてことは、わたしにはできません。だって、ほとんど何にも見えてないんですからね。」と言った。あしかり先生のすごさを改めて実感したのだった。

 手術の前日は、麻酔科の担当医、手術室の看護師(この方は、宮城先生の知り合いで、宮城先生からもよろしくと言われていますと言っていた。ほんとうにどこまで行っても、つながる縁で、ありがたかった。)などが次々に病室に挨拶に来た。やっぱり、手術ともなればものものしく、ただならぬ緊張感が漂い始めていた。

 手術当日は、朝の8時半に手術室到着ですからと言われていた。直前にベッドで血圧を測られたが、いったいどれくらいまで上がっていることだろうと思ったら、何と130ほどしかなかった。予想に反して、ちっとも、ドキドキしていないのである。まな板の上の鯉よろしく、もう完全に観念したということなのだろうかと、自分で自分が不思議に思えるぐらいだった。

 病棟は7階、手術室は4階。手術室までは、ベッドに寝かされて、半分麻酔で朦朧としながら行くのだろうと思っていたら、あにはからんや、歩いて行くのだという。「5年ぐらい前までは、ベッドで手術室に運ばれたんですけどねえ。近ごろは、歩いて行くんですよ。」と看護師は言っていた。ぼくと家内と看護師の3人で、病室を出て、エレベータで4階まで行き、大きなガラスドアの前で家内と別れ、看護師と2人で手術室へ向かった。

 手術室は、「心臓カテーテル検査」の部屋よりは小さく感じられたが、やはり10人ほどの医師や看護師たちがにこやかに迎えてくれた。こんどはちっともジタバタしていない。冷静そのもの(?)である。名前を聞かれる。(とにかく病院では何をするにも名前を聞かれる。足の裏にも、マジックで黒々と「山本洋三」と書かされた。)「山本洋三です。よろしくお願いします。」としっかり答える。手術台に寝る。さっと何人かがぼくの周りを取り囲む。酸素マスクのようなものが口にあてがわれ、「さあ、新鮮な酸素で肺をいっぱいにしましょうね。」という女性の声がする。そしてそのあと、「じゃあ点滴を入れます。」の声。そしてそれっきり。あとは、まったく知らない。だから細かいことは書きようがない。全身麻酔はこれで2度目だが、ほんとうにすごいとしかいいようがない。

 手術は4時ごろ予定どおり終了したそうだ。約7時間半ほどかかったことになる。その後、人工呼吸器をつけたままICU(集中治療室)に移された。人工呼吸器が外されたのが、夜中の3時ごろ、そして、11日の朝8時ごろぼくは麻酔から覚めた、ということらしい。

 目覚めると、ぼくの真上に、白衣を着た鈴木先生の巨大な体がそびえていた。「山本先生! 手術は成功しました。おめでとうございます!」大きな声でそういって、満面の笑みをたたえた先生は、いきなりぼくに握手を求めてきた。(この時の印象が、「宇宙船に乗って宇宙から帰還したような感じ」として心に強烈に残った。この一連の最初のエッセイで、「宇宙からの帰還?」と題したのも、実はこの感じがあったからだろうと思う。)

 ぼくは朦朧としていたが、それでも先生としっかり握手をした。その手はまるでグローブのように分厚く大きく暖かく固かった。ぼくは驚愕した。こんなに大きな手で、あの繊細きわまる手術をしたのだろうか。その驚愕の中、今度は先生は携帯で家内に電話をして、「今、ご主人が目を覚まされました。とても元気です。」と報告をし、その携帯をぼくに渡した。ぼくはもうわけもわからないままに、携帯で家内に「大丈夫だ。」とか何とか言ったように思う。携帯の向こうで、家内の喜ぶ声がはっきり聞こえた。家内は、昨日からの長時間の手術を待ち、夜、家に帰ったわけだが、心労で、朝はもうめまいがして起き上がれない状態だったという。そのためその日は病院へ来ることもできなかったのだが、ぼくの声を直接聞くことができてとても嬉しかったという。鈴木先生は、その後も、節目節目の大事なことを、いちいち家内に電話をして報告してくれたのだった。

 退院のときに、そのことについて家内がお礼を言うと、鈴木先生は「アメリカに留学していたとき、恩師の教授から教えていただいたのは、何よりも患者さんやご家族との信頼関係が大切だということでしたから。それに人間関係の大切さは、栄光学園で学びましたからね。」と言った。栄光学園の教育も、このように生かされているとしたら、素晴らしいことだが、やはり、そのように教えられたことをきちんと生かす人が素晴らしいのだといったほうがいいだろう。

 それにしても、ぼくには、どうしても確かめたいことがひとつあった。鈴木先生の手はあんなに大きいのだろうか。あれは、麻酔がまだ半分かかっていた故のぼくの錯覚ではなかろうか、ということだった。それで話が一段落した後、「先生、握手してください。」とお願いした。やっぱり大きくて分厚くて固い手だった。「先生、血管と人工血管は、やっぱり手で縫うんですか。」と聞いてみた。「そうです。」「よくそんな細かいことができますね。」「練習です。毎日練習しています。イチローだってそうですよね。とにかく練習をするんです。」

 鈴木先生は、栄光在学時代は、運動部で体を鍛えたのだそうだ。外科医になって以来、自分の病気で病院を休んだことはないんです、医者は体力が何より大事なんですよ、と言う先生の言葉を聞きながら、やっぱりこういう仕事こそ、「本当の仕事」なんだなあ、オレが今までやってきた教師の仕事なんて、舌先三寸の、まったく仕事なんていうには甘すぎる仕事だったなあとつくづく思ったのだった。

 

 


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一日一書 293 蜃気楼龍玉

2014-02-22 15:21:51 | 一日一書

 

寄席文字・蜃気楼龍玉

 

 

今度の弁天寄席のために書きました。

弁天寄席も、今度で第6回。

ということは、「めくり」も6枚目ということになります。

少しは上達しているのかどうか。

少なくとも、仕上がりがはやくなったことだけは確かです。

 

弁天寄席は、定員30名の予約制です。

今回は、もちろん蜃気楼龍玉師匠の高座をたっぷりと。

ご興味のある方は、お早くご予約を。

 

 

第6回弁天寄席のご案内

 

2014年3月29日(土)午後2時~6時

 

cafe girino

小田急片瀬江ノ島駅徒歩3分

251-0035 藤沢市片瀬海岸2-7-16

0466-52-6850

 

お食事付き・3500円

定員30名予約制

申込・問い合わせ先・0467-23-3935(藤本)

 

 


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100のエッセイ・第9期・65 とまどう確率

2014-02-20 13:01:09 | 100のエッセイ・第9期

65 とまどう確率

2014.2.20


 

 検査にも、同意書にサインを求められるものとそうでないものの2種類がある。同意書というのは、実は詳しく読んだことはないが、要するに、この検査のリスクを承知の上で、つまり同意して、検査を受けますという書類である。これは、コンピュータのソフトをインストールするときなども、必ずといっていいほど現れるもので、珍しいものではない。

 前回書いた「心臓カテーテル検査」は、ぼくだけではなく、家内のサインまで求められた。しかし、たとえば、胸や腹のレントゲン検査や、採血などは、同意書などない。そんな検査で死ぬことなんてまずないからである。しかし、採血などは、死なないまでも、血を採られている間に気分が悪くなってしまう人は結構いる。ぼくも1度だけ、気の遠くなるような気分になったことがある。でも、「採血中に気分が悪くなっても文句なんか言いません。」などという同意書など書かない。レントゲン検査なんて、ただ立っているだけだから、問題はないはずだが、しかしよく考えてみると、一定量の放射線を浴びるのだから、なんの問題がないわけではないわけだが、それでも、「私はこのレントゲン検査による被爆についてよく知っており、それによって将来なんらかの病気になるリスクをよく知ってこの検査を受けます。」なんて同意書は書かない。

 CTスキャンの検査も同意書なしだが、これが、造影剤CTスキャンになると、ちゃんと同意書にサインを求められる。その前に、検査の担当医師が説明をする。数字はよく覚えていないが、造影剤にアレルギー反応を起こす人がいて、千人に1人ぐらいが、軽いアレルギー症状(たぶん湿疹など)を起こし、1万人に1人ぐらいが、アレルギー反応で血圧が低下し、そして10万に1人ぐらいが死にます、とかいう説明を義務的に淡々とするのである。

 手術の前にこの検査を受けたときには、10万人に1人が死ぬと言われても、何とも思わなかった。そんな確率は問題にならない。何しろ、ぼくのこれから受ける手術は、20人に1人は死ぬと言われたのだ。(つまり死亡確率5パーセント)そんな手術を受ける人間が、10万人に1人死にますけどいいですか、と言われてビビるわけがないではないか。

 ところが、20人に1人が死ぬと言われる手術を無事に終えて、退院の話もチラホラ出始めたころ、血管や心臓の最終チェックとして、もう一度この造影剤CTスキャン検査を受けることになった。その前日、病室に検査の担当医がやって来て、同意書にサインしてほしいと言う。例によって、リスクの確率を機械的に説明した後、「まあ、年末に1度受けていらっしゃるのですから、たぶん大丈夫なんですけどね。ただ、ときどきいらっしゃるんですよ。前に受けた検査で、抗体ができたりすることが稀にあるんです。」なんて言う。スズメバチも、二度目に刺されると危ない、なんてことが瞬間的に思い出され、急に不安になってしまった。何もそこまで言わなくてもいいじゃないか。「たぶん大丈夫」なら、それでいいじゃないのって思ったが、まあ医療現場というものは、念には念をいれるのだろう。しかしまた、随分前の話だが、胆石の造影剤検査で亡くなった知人がいたことも思い出され、ますます嫌な気分になっていった。

 翌日、その検査を待っているときも気分は最悪だった。せっかく20人に1人は死ぬという危険な手術が成功したのに、確認のために受けた造影剤CTスキャン検査で死んじゃったらマヌケだよなあ、とつくづく思った。20人に1人だろうが、10万人に1人だろうが、患者にとっては、生きるか死ぬかの五分五分ではないか。10万人の中の1人にぼくが絶対ならないなんて保証はないんだ。そんなことを思って、思い切り落ち込んだ気分で、検査に呼ばれるのを待った。

 そんなことで落ち込むなんてオカシイと思う人も多いだろうが、しかしそれなら、10万人に1人も当たるかどうか分からないジャンボ宝くじを買って、「当たったら何を買おうか。」なんて浮かれてる人だってよっぽどオカシイではないか。ぼくは宝くじなんて絶対に当たらないと思うから1枚も買ったことはないが、こうしたケースになると、ほんのわずかな確率でも無視できず、結局宝くじを買って夢見る人と同じことになってしまう。

 それはそうと、この造影剤CTスキャン検査というのは、ちょっと怖いところがある。もちろん今回初めて経験したわけだが、普通のCTスキャン検査は、カマボコみたいな巨大な機械の中に入って写真を撮られるだけで痛くも痒くもないが、こっちの方は、その前に点滴で造影剤が注入される。その注入される速度が猛烈に速く、胸のあたりから全身にかけて、急にカアッ~と熱くなる。「急に熱く感じるので、皆さんびっくりされますが、それは正常なことで、大丈夫ですからね。」とちゃんと事前に説明があるので、ジタバタしないですむけれど、これを説明なしでやられたら、それこそ気を失うかもしれない。いずれにしても、説明は、大事である。

 枕が長くなったが、本題の手術である。この大動脈瘤の手術というのは、他の手術と較べて、奇妙なところがある。手術というのは普通は、どこか痛いところ、苦しいところがあって、それを取り除くために行うものである。ところが、大動脈瘤というのは、ほとんどの場合何の症状もない。(ぼくもなかった。)これがあっても破裂さえしなければ、まったくの健康体なのである。その健康体にメスを入れ、一種の病人にしてしまうのだから、そして場合によっては死に至らしめるのだから、とても奇妙な手術なのである。医師も、この手術だけははどうも気が進まないと思う人が多いようだ。

 この奇妙さは、この手術が確率を相手にしているところからくるのだろうと思う。問題は、いつ破裂するかなのだ。最初に診察してくれた益田先生は、大動脈瘤がいつ破裂するかなんて、それこそ「神のみぞ知る」なんですよ、と言っていた。ある限度(だいたい5センチ)を超えると、破裂する確率がどんどん高くなっていく。その確率と、手術をして死ぬ確率を比較して「どっちがお得か?」という話なんですとも言っていた。昔は、ものすごく危険な手術だったので、それこそ「イチかバチか」で手術をしたらしい。耳鼻科の医者だった家内の伯父によれば、「50年程前までは、手術もできない、お薬もないという、とても怖い病気でした。」とのことだ。それがここ半世紀の間に、事情が劇的に変化したのだ。だからもちろん今回のぼくの手術も決して「イチかバチか」の手術ではなかった。

 それでも、この手術の死亡確率は5パーセント。心臓のバイパス手術の死亡確率は1パーセントというから、その5倍にもなるわけで、相変わらず危険な手術であることには変わりはないのである。今は何の痛みもなく、普通の生活をしているのに、どうしてそんな危険な手術を受けなければならないのか。それを納得するのは難しい。

 けれど、見つかった以上、そしてそれが破裂する確率が今も高く、今後も時間の経過とともに確実に高くなっていくことを知ってしまった以上、それをそのまま放置してこれから暮らすなんてことは、小心者のぼくにはとてもできない。手術を受けるしかないと思った。

 その決意を決定的にしてくれたのは、執刀医の鈴木先生の説明だった。先生は、ぼくの大動脈瘤の画像をモニターに映し、紙に絵を描き、懇切丁寧に説明してくれた。アメリカに留学していたころの手術の体験や、それ以後の日本の医療技術の驚異的な進歩についても説明してくれた。日本では、手術の前に、全身にわたってありとあらゆる検査をして、少しでも手術のリスクを減らす努力をしていること。そういうこともあって、この手術の成功率は、日本が世界のトップクラスにあること。そうした説明もあった。

 でも、やっぱり、という気持ちは残る。「それでも亡くなるというケースはやっぱりあるんですよね。」とぼくが聞いたかどうかは記憶にない。そんなことを聞きたいような顔をしたのかもしれない。それを察したのか、「私が執刀したこの手術で、亡くなった方はひとりもいませんよ。」と先生は小さな声で言った。「ま、運がよかっただけかもしれませんけどね。」そう言って照れたように笑った顔には、自信とやる気があふれていた。

 そうか、リスクが5パーセントだといっても、20人に1人が死ぬといっても、それは、この、鈴木先生が執刀した手術で、20人に1人が死んだということを意味しているわけではない。あくまで、世界全体(あるいは日本全体?)での統計的な確率なのだ。鈴木先生がそう言うなら、死亡確率は限りなくゼロに近いということだ。ぼくは、すべてをこの先生、この病院にお任せしよう、それでも命を落とすならそれはもうぼくの運命というものだ、そう思ったのだった。

 


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書展のお知らせ

2014-02-19 08:55:49 | お知らせ

 

 

今日から、「現日春季書展」が六本木の国立新美術館で開催されます。

この書展にぼくが出品した作品が、「準同人奨励賞」を受賞しました。

この作品を制作中に病気が発覚し、

そのドタバタの中で何とか仕上げて提出したので

受賞など思いもよらないことでした。それだけに、嬉しさもひとしおです。

 

こんな朗報が待っていたなんて

手術が成功してほんとによかったです。

術後の回復も割合順調なので、何とか六本木まで見に行くことができそうです。

  

案内ハガキにもあるとおり、準同人の作品は

前期と後期に分けて展示されるのですが

奨励賞をとると、全期間展示されます。

 

2013年度「同人特別賞受賞者」の、師匠越智麗川先生の

特別出品もありますので

興味のある方は、是非、お出かけください。

 

こちらにもご案内があります。

 

 

 


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