42 男の日傘
2013.8.31
男の日傘はなぜ普及しないか。このことについて、哲学者の森岡正博と、ファッションデザイナーのドン小西の意見が朝日新聞デジタルに載っていた。
森岡正博は、買ってみたら使い心地がよくて、「日傘は『中高年男性の必須アイテム』と強調したいくらいです。」と言いながら、「とはいえ私自身、どこか居心地が悪いのも事実です。ひとことで言えば、恥ずかしい。理由の一つは『男らしさ』の問題にかかわっているようです。」と言う。男は強くなきゃという価値観から抜け出せていないと言うのである。「より過酷な状況下での『耐える男』という価値もあります。暑くても耐える。それが男の証明、みたいな。夏の甲子園でがんばる球児への称賛は一例です。その価値観からは、日傘は逆境に耐えるのを初めから回避することになる。」とも言う。
これを読んで、失礼ながら哲学者というのは、やっぱりどこかずれてるよなあと思った。今どき、この国のどこに「男らしさ」の価値観なんてものがあるだろうか。森岡先生は持っていらっしゃるのかもしれないが、「暑くても耐える。それが男の証明。」なんて思っている人間は、ほとんど皆無ではなかろうか。少なくともぼくなんかは、生まれてこの方、そんなふうに思ったことは一度もない。
しかし、ぼくがそんな軟弱な男だからこそ、「男らしさ」の価値観なんて絶滅していると思っているに過ぎないのだろうか。そう思って考えてみると、やっぱりいるなあ、そういう男。フンドシ一丁で神輿を担ぐ男たちとか、裸祭りでご神体だか何だか知らないが、大きな玉を奪い合う男たちとか、ああいうのが、そうなんだろうか。だから、ぼくは、ああいう祭りが大嫌いなのだろうか。
それにしても、男が日傘をさすと「逆境に耐えることのできない軟弱なヤツ」と見られるなんてことがあるだろうか。これだけは自信を持っていえるが、そんなことは絶対にない。
森岡先生は、もう一つの理由として、「男らしさとは別の背景として『周囲がしていないことはできない』というカルチャーがあります。自分だけ浮くのは嫌だ、何を言われるか分からない。そんな恐れがあります。」といっている。こっちの方がまだ納得できる。そして話は、「少数者へのバッシング」の傾向への警鐘を鳴らしている。まあ、どうしても、哲学者というのは、こういうふうな話に持って行きたがるわけである。
そこへいくと、ドン小西は、実に明快である。
男の日傘って、いまいち、さまになっていないなあ。熱中症対策として、ちょちょっと簡単に取り込んだだけで、客観的に自分を見る目に欠けているんじゃない? 使うんだったら、何か構えというか、ビジュアルってのを意識することが大事なんだよね。
男の小物ってやっぱり、『粋』が必要だと思うな。女性には絵になる曲線的な肉体美があるから、布を巻くだけでそれなりの色気が出る。男の体は丸太ん棒みたいなもので、持ち物とか革の質感とかにこだわらないといけない。たとえば、靴ひも一つでも丸いのか平たいのかにこだわって、男っぷりを上げるわけよ。そこに趣味嗜好とか考え方がにじみ出る。
結局、これに尽きる。男の日傘は「さまになってない」ということ。ぼくも何度もさしてみようかと思ったが(雨傘だけど)、どうしても恥ずかしい。ごくたまに日傘をさしているオジサンをみるけれど、やっぱりカッコ悪い。
カッコなんてどうだっていいじゃん、涼しければ、ということにはやっぱりならない。カッコつけなくなったら、人間オシマイである。もちろん、ぼくなどは、ドン小西みたいに、靴ひも一つにもこだわって「男っぷり」を上げようなんてこれっぽっちも思っていないし、ドン小西の「男っぷり」がどれだけのものなのかまるで判断できない。けれども、ドン小西のいうように、「楽なら何でもいいのか?」っていうことはいつも思う。
ドン小西は、「実用性のあるなかにもちゃんとしたスタイルのある日傘をオレにやらせりゃ1日に10種類ぐらい作れる。」って豪語してるけど、その10種類がカッコイイものであるとはとても思えない。「日傘」という概念にとらわれているうちはダメだ。何かもっと画期的なアイデアが必要だ。でも、それが何なのか分からない。
ところで、ドン小西は、こんないいことも言っている。
ファッションの歴史を見ると、1920年代とか60年代とか、それぞれスタイルに特徴があった。2000年代というのは不思議な時代でね、まだ何も生まれてないと思う。とにかく効率や売り上げといった数字ばかり見るでしょ。車だってそうだよ。燃費がいいとか静かだとか言って、データで決めた部品をつなぎ合わせていないだろうか。数字がデザインを支配しちゃってるよね。
そんなものを大量生産して薄利多売したら、もうヤバイよね。アベノミクスも「成長、成長」ってすべてが数字。いまは経済成長よりも、原発事故後のエネルギー問題などの痛みに耐えていく時期じゃないのかなあ。
幸せって、1個持っていたのを2個に増やすことじゃなくて、いま手のなかにあるものをどう楽しむかじゃない? 増えれば失われるんだよ、何か大事なことが。一つひとつのことを楽しみながら「何のために生きているのか」という問いを解いていかないと。
うん、そうだなあ。「ドンドン防虫」って言ってる(ドン小西が出演しているCMです。)だけじゃないんだ。