スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ここのブログに書いていきたいと思っていること

2004-12-16 07:00:06 | 自己紹介 (om mig sjalv)
福祉のことを議論する上で、よく引き合いにだされるスウェーデン。お年寄りが笑顔で不自由もなく老後を満喫している光景が映し出される。見ていると何もかもがバラ色でパラダイスであるかの印象を受けたことはない? もしくは、ニュース番組やワイドショーの合間に「今日はスウェーデンからこんな話題」とか言って、スウェーデンでは高税率にも関わらず、みんな不平も言わず、こぞって税金を払い、高水準の社会サービスを享受しているといった短いレポタージュが流される。

このように表面的に伝えられるスウェーデンに関する報道も、確かに正しい面は一部ある。しかし、すべてバラ色に飾り立てられ、そのすばらしい面だけが誇張されると、ホントにそうなの? と疑ってかかる人が出てきてもおかしくはない。実際、このような一方的で表面的な報道が、スウェーデンという国を一層わかりにくく、どこか遠いところにある不思議な国にしてしまっていることが往々にしてある気がする。

日本におけるスウェーデンの紹介のされ方というのは往々に極端で、肯定的すぎるほどに描くものもあれば、それに対する反動として、一部の人は極端に悪く書いていたりもする。そのいい例は、武田龍夫『戦う福祉国家』(中公新書)だろう。中公新書とは思えないほど幼稚な書き方がなされているのは頂けない。「保守的日本人男性」が色眼鏡を通して見たスウェーデン像、という程度に捉えたらいいだろう。

一方で、自分の先入観でファンタジーを膨らませ、人から聞いた二次情報をよく吟味することなく、もっともらしくスウェーデンを描きたてる研究者もいる。元東大教授で、スウェーデンに関する新書などをいくつか書いているJ氏などがいい例だ。よい評価であれ悪い評価であれ、客観性に欠ける安易な一般化は、大学「教授」や研究者を名乗る人であればなおさらのこと、そうでなくても大学教育を受け、科学的で論理的な思考力を身につけた(はずの)人であれば、避けるべき行為だと思う。

しかし、現実問題として、徹底的に褒め上げるか、徹底的にけなさないと本として売れないというのが、日本の出版業界の現状なのかもしれない。それに「教授」という肩書きであれば、すぐに信頼してしまうのも大きな問題だ。しかし、そんな書き方だけでは、全然物足りない。曲がりなりにも社会科学に携わっている身としては、もう少し冷静な目を通した、そして、客観的なデータで裏付けれた、比較分析がされるべきだと思う。

実のところ、スウェーデンもいろいろな問題を抱え、社会も荒れ、苦労している。しかし、様々な工夫とチャレンジによって、社会を良い方向に持っていくように努力している。それが可能なのは、小国だからということがもちろんできるのだが、それよりも注目したいのは、様々な社会制度と経済制度だと思う。そんなスウェーデンの実態を少しでも分かりやすく伝えたい。とくに、これまで表面的な報道や、短期滞在の研究者には描ききれなかった社会の本質や、スウェーデン人とともに生活する者、そして、そこでスウェーデン人とともに学ぶ者という視点をキーワードにしていきたいと思う。

取り上げるテーマは私が普段から関心を持っていること。例えば、

①民主主義・基本的人権の尊重の実践
②それを保障するためのシステムが社会の中にいかに埋め込まれているか
③特に批判的なメディアと専門的利益団体の果たしている役割
④建設的な議論を可能にし、実用的な知識を身につけさせてくれるスウェーデンの教育制度
⑤ドグマ的イデオロギーを嫌うスウェーデン人のプラグマティズム(現実主義)
⑥スウェーデン政治における最近の論争

⑥ヨーロッパ的、そしてスウェーデン的価値観
⑦小国主義。国連を通じた多国協調主義に力を注ぐスウェーデンの外交政策。

⑧世界中から難民・労働移民を受け入れてきたスウェーデンの社会とその努力

日々暮らしていると、完璧ではないにしろ、この国では民主主義が名実ともに発達していると実感する。でも私が思うに、それは、なにもスウェーデンの人々がみな潔癖で社会をより良くするために日々努力しているからという訳ではない。日々の生活に一生懸命でほかの事にあまり気が回らないのは、どこの国も同じか、もしくは共働きが当然のこの国では、その度合いは、ともすると日本よりも高いかもしれない。だから、民主主義実践の原因は、むしろ、それがうまく機能するための仕組みが社会制度や政治制度の中に埋め込まれていることに見出されるべきだと思う。例えば、批判的なメディアが常に権力を持つものを監視し、世論一般に議論を投げかけていること。それから、業界団体や雇用者団体、労働組合、消費者団体、そして人権団体を始めとするNGO・NPOが専門知識をしっかり身につけ、するどい現状批判や積極的な政策提言を行っていることも挙げられる。

それから、個人のレベルでは、一人一人が自分の考えをちゃんと持っていること。時事の問題に関して、あなたはどう思うかと、道端で聞かれても、結構多くの人がちゃんと根拠を述べた上で自分の思うところをしゃべっている。「わからない」と笑ってごまかす人が多い日本とは大違いだ。日本の場合、社会に対する関心があまりないということもあるだろうが、それよりも問題なのは、物事を批判的に考える力が育っていない、ということが決定的ではないかと思う。というわけで、私の関心は、義務教育や高校教育の段階で、スウェーデンの若者はどのような教育を受けているのかということ。特に公民や消費者教育の科目で。また、日頃の政治的な議論にしろ、学校教育の内容にしろ、プラグマティック(実用的)であることも大いに注目すべきだ。

さらに、スウェーデン社会で注目すべき点は、いくら若くても感心とやる気と技量があれば、モノを堂々と言え、社会に影響力を行使することができること。政治に携わる者も若い人を多く見かける。20代前半の国会議員もいる。結果として、社会をよりダイナミックで面白いものにしている。この点、年功序列的な日本社会とは大違いだ。この点に関しては、私は日本社会・文化にとても批判的だ。もちろん、私も日本社会で育ち、その文化がある意味好きで、誇りにするところも多分にあると思うが、やはり、現在の日本が抱える問題の根本的部分がその文化に根ざしているとすれば、社会批判や文化批判もやむをえないと思う。

過去数十年にわたる移民の受け入れのために国際社会と化したスウェーデン社会の現状と問題点。そして、それにいかに前向きに解決しようとしているのか。この点に関して私がこのブログに書くことは、もちろん、そのまま日本社会でもそうすべきだ、ということではない。外国人に対する見方など、日本人にとってはなかなか理解できない部分もスウェーデンにはたくさんある。でも、私がこのブログでスウェーデン社会の取り組み方を紹介することで、へぇ、こういう発想もあるんだ、こんな思い切ったことをしている国もあるんだ、と日本での議論の発想のヒントになればと思う。いろいろな問題を抱えながらも、それに対してシニカルになるのではなく、前向きな態度で社会全体を巻き込みながら解決を図ろうとする社会のあり方から学ぶべき点は多いと思う。

文章に隠れた私の思いもある。というのは、自由主義と民主主義の旗印と思われているアメリカ合衆国は、実は虚構ではないのか、という疑問だ。例えば、自分の生き方を自由に決められる権利というけれど、その権利は事実上、経済的基盤がある程度保障されている人々にしか行使できない虚構であること。それから、国際政治の舞台で「民主主義のために」とか「世界平和のために」などと綺麗事を言うけれど、結局はアメリカの国益にかなうことしかしない虚構であること。もちろん、私はアメリカのことを詳しく知っているわけでは無いのだけれど、国際情勢に関するニュースがふんだんに入ってくるここヨーロッパにいると、それまで日本で見聞きしていた民主主義・自由主義というアメリカの理念が、絶対的なものではなく、むしろ相対的なものに過ぎないということを実感せずにはいられない。

日本ではアメリカが西洋世界の代表であり、アメリカ人もヨーロッパ人も国民性は変わらないと思われがちだけれど、近年の「テロとの戦い」におけるアメリカの軍国主義に、ヨーロッパが反発したことが示すように、ヨーロッパ人のメンタリティーはアメリカのものとは大きく異なる。(もちろん、ヨーロッパの国々の間でも大きな違いがある。)問題は、日本ではとかくアメリカの目を通した世界観が伝わってくるばかりで、自国の国益の最優先や、一国中心主義などちょっと醜いことも、アメリカがやっているならいいじゃないと、ついつい流される傾向にあると思う。私が言いたいのは、世の中が人々にとってよりよくなるように取り組むやり方は、国によって様々だということだ。その点で日本にはもうちょっとヨーロッパのほうにも目を向けてほしいと思う。

ただし、こう意気込んでみたものの、限られた時間の中で書いているので、完璧なレポートが頻繁に書けるわけではありません。

それから、もう一つの問題はどこまで深く書くかということ。スウェーデンでの事情背景を説明することなしに、スウェーデンで流れる普通のニュースを並べ立てるだけでは、理解しにくいだけでなく、誤解を招いたり、逆に揚げ足取りに使われることもある。だから、その話題の背景については、触れなければならないと思う。ある特定の国や地域のニュースを(低俗な3面記事的なものも含めて)端的に伝えるだけのサイトも最近増えているが、情報の発信主としての責任についても考える必要があると思う。

ともかく興味を持ったことから取り上げていくつもりです。

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60 コメント

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Unknown (Mari)
2004-12-17 06:57:55
早速コメントして頂いててありがとうございます

素敵なブログですね

興味深く読ませてもらいました

これからちょくちょく見させてもらいます
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Unknown (Ai)
2004-12-17 09:41:53
まりさんのブログから遊びに来させて頂きました。佐藤さんらしい、すごく素敵で立派なページですね☆大したコメントできませんが、また見させてもらいます(^^*)

一つお願いがあります。去年関西外大に留学生として来ていた、スウェーデン人の男の子(カール)が、4月からまた京都大学に一年間留学する予定で、もしよければ佐藤さんと連絡を取りたいとの事なのですが、大丈夫でしょうか?ちなみに、日本語レベルはかなり優秀なので、会話には問題ありません。またお返事下さい
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グラッティス☆ (まりも)
2004-12-20 06:12:47
お忙しい中、こんなに立派なブログの完成おめでとうございます

経済等は個人的には興味の薄い分野ですが、尊敬する佐藤さんの書くこのブログをきっかけに、もっと視野を広げて行きたいと思います!また、スウェーデンについても見識を広げるつもりです

ps. スウェーデン語の試験の結果が火曜日に出ます。ドキドキです
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見ました (Fukawa)
2005-01-25 03:11:16
こんばんは。



ブログ、ブックマーク追加しました。

写真もありで、いい感じです。

(自分も夏以降、ブログをやってみたいなぁと思わず思いました)



また、ちょくちょくカキコもしますね。



ではではです。

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Unknown (Yoshi)
2005-01-25 05:50:10
Fukawa君、いつもお世話になっています!

リンクありがとう。それから書き込みも。



なかなか時間が限られているけど、面白そうな情報を発信していきたいと思っています。よろしく!

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初めまして (snowkoala)
2005-05-22 21:59:55
私は以前Ludvikaに住んでいました(といっても10年以上前に高校交換留学でした)。今は日本でフリーランス通訳・翻訳等をしていますが、ほぼ毎年スウェーデンの家族に会いに戻っています。スウェーデンには大人の目でもう一度社会を見たいと思い、いつかまた住もうと思っています。現在スウェーデンに住んでおられる方のブログという事で楽しみにさせてもらっています!
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こんにちは (Yoshi (Snowkoala さんへ))
2005-05-24 17:58:36
お久しぶりです。

ブログ「通訳ガイドへの道」、読ませてもらっています。



私のほうも、ブログ上でリンクを張って、整理できたらと思っています。



これからもよろしく。
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はじめまして (児玉千晶)
2006-02-24 19:12:35
スウェーデン文学の翻訳をしています。昨年はノーベル賞作家ハリー・マッティンソンの叙事詩「アニアーラ」を完訳しました。「アニアーラ」はオペラにもなっています。

延べ8年ほど、ルンド、イエテボリ、ストックホルムなどに住んでいましたので、懐かしく、また興味深く、感心しながら読ませていただいています。これからも、いろいろな情報を期待しています!がんばってくださいね!
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はじめまして (Yoshi)
2006-02-25 23:03:02
児玉さん、こちらこそ初めまして。



翻訳活動をなさっているのですね。

Harry Martinssonは、Komvux高校課程の「スウェーデン語A/B」で読みましたよ。他にもいくつか文学を指定され読まされましたが、Lagerkvistがとても印象に残っています。



普段は文学作品にはあまり接する機会はないのですが、スウェーデン国内でベストセラーになる最近の小説などはよく読んでいます。それぞれにスウェーデンらしさが出ていて面白いと思います。



これからも、よろしくお願いします。
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興味深く拝見いたしました (Ichiro)
2006-09-19 20:42:51
スウェーデンの選挙結果を検索していてyoshiさんのブログにたどり着きました。日本で緑の党をつくろうとしている者です。



たいへん興味深い内容ですね。

環境と社会福祉関連の文章を特にじっくりと読ませていただきました。
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