スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

公共交通の重点投資

2008-03-05 17:08:37 | スウェーデン・その他の環境政策
(今週はずっと忙しくしており、頂いたコメントへの返事が滞っていますが、ちゃんと目を通させてもらっています! ありがとうございます)

月曜日の新聞に面白いルポが載っていた。

利用客を大幅に増やすことに成功したスコーネ地方の公共交通の話。(スコーネ地方とは、ヘルシンボリ、マルメ、ルンド、イースタドなどがあるスウェーデン南部の地域)

この地方の公共交通は、人口に対しての利用客の数が全国平均よりもはるかに低かった。ストックホルム地域やヨーテボリ地域などの都市に比べると、4分の1ほどでしかなかった。

しかし、90年代にこの地域の2つの県が1つに統合されるに伴い、この地域全体を統括する新しい地域交通公社(Skånetrafiken)が1999年に誕生。ここから大きな改革が始まった。それまでは県が二つに分かれていたため、県を跨いだ地域全体の公共交通のビジョンが立てにくかった。しかし、この新しい地域交通公社のもとで、その障壁がなくなった。

その結果、地域の各都市を結ぶ電車の利便性の改善に力が注がれ、利用者が大きく増えることになった。さらに、マルメとコペンハーゲン(デンマーク)との間に橋が架かったことによって、電車でそのままコペンハーゲンまで通勤できるようになった。そのため、鉄道の利用客は1999年時点と比べ3倍も増えたという。

上の地図は、2003年からこれまでの利用者の増加を示している。赤は25%以上の増加、青は15-25%の増加、黄色は0-15%までの増加


さらに、町の中における公共交通の利用者増にも力が入れられた。例えば、ヘルシンボリ市などは2本の市内幹線バスを日中は10分おきにし、晩から夜にかけても30分おきに走らせるようにした。それから、バス車両も一新させ、バイオガスによって動くバスを56台新規に購入し、市バスの交通システムが新しくなったことが市民に一目で分かるようにした。その結果、利用客が1年で30%も増えたという。目標は10年で利用者を倍増させることらしい。

公共交通の利用者増のカギは、まず、地域交通公社の努力だ。地域内のそれぞれの市の公共交通をうまくコーディネートし、市を跨ぐ公共交通の利用を容易にする。そして、ゾーン制の料金システムも簡潔にする。さらに、鉄道-バスやバス-バスなどの乗り換えを同じ料金システムによって行う。(それ加えて、お得な定期券制度なども)

しかしそれだけでなく、市の都市計画課が明確なビジョンを持って、その目標を達成しようとしたことも重要なようだ。つまり、市内の道路にバス専用レーンを作って、自家用車よりも公共バスが優先されるようにしたり、市内の密集地域の乗用車の最高速度を大幅に制限したり、駐車料金を高くしたりすることで、自家用車を使うよりも公共交通を使ったほうが利便性が良くなるようにした。

「市内の密集地から自家用車をなるべく外に押しやるような街づくり計画を考えた」とヘルシンボリ市の都市計画課の課長は言っている。また「市民が市内のどこかへ行こうとするときには、“公共交通を使おう”、とまず考えてもらい、それが難しい時に限って、自家用車を使ってもらえるようにしたい。自家用車よりも、歩行者、サイクリスト、公共交通を優先させたい」と説明する。

新しいしバスに乗車する、ヘルシンボリ市都市計画課の公共交通プランナー

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このルポを読んで思ったのは、日本の地方の町でも、地域の政策決定者がしっかりと長期的なビジョンを持って公共交通の促進に取り組めば、マイカーから鉄道・バスへの利用転換を進めていけるのではないか、ということ。

日本での環境税を巡る議論では、「地方ではマイカーが絶対必要だから、ガソリンは安くあるべき」との声も多いけれど、ビジョンのない、場当たり的な街づくり計画の繰り返しで現状を容認してしまうのではなく、到達したい目標をまず決めて、それを達成するためにはどうすべきかを具体的に考えていくやり方が必要ではないかと思う。そのためには、政策決定者のリーダーシップと、市民を巻き込む建設的な議論が欠かせないと思う。

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12 コメント

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遅い終電 (Kosa)
2008-03-05 23:29:47
はじめまして!
1月まで約2年半マルメに住んでたKosaと申します(現在は東京在住)。
本記事を拝読していて、去年の12月にバス車内に張ってあった値上げのお知らせを思い出しました。1月2日からスコーネ交通は値上げをしたのですが、その張り紙は「この4年間値上げをしてなかったが、この期間に乗客が増えたから、新しいバスを買わなければならないので値上げする」という趣旨でした。スコーネ交通のページにあった説明では、スウェーデンの他地方と比べた比較表で、スコーネ地方のバス代はダントツで安いことを示していました。例えばストックホルムだと割引なしにバス賃を払うと40SEK、スコーネだと半額以下、というような感じでした。私の記憶ではマルメ市内15SEK、ルンド市内12SEKでした(割引プリペイドカード使ってたので記憶が曖昧です)。
そうそう、バイオガスのバスの側面には「55av111!」のように書いてあって一目で分かりました。
2005年に転勤で東京からマルメに引っ越して驚いたのは交通の便でした。東京と比べると激しく田舎だ、と聞いていたので(私はそんなマルメが大好きですけど)。職場のあるルンドで同僚たちと飲みまくっても週末は終電が2:21マルメ行+マルメ駅から自宅(マルメ市中心部のKronprinsen付近)までのバスも3:48まで走ってました。終電遅いから、と大酒飲んでしまうという弊害はありましたが^^;(スウェーデン人と一緒に大酒飲むと凄いことになります…)。マルメとデンマークを結ぶ電車が一晩中走ってることにも驚きました(深夜は一時間に一本)。
ちょっとバスに乗って出かけるという感覚は、かつて住んでいた京都市で感じたそれに通じるところがあるような気がしてましたが、どんなもんでしょう。
一番感動したのは、車通勤をしていた上司が「環境に良くないから今日からバス通勤に変えた」と自嘲気味に話してたことでした。技術者稼業をしているとあんまりそういう話にはならなかったので。

マルメの場合、自転車の盗難が多いのと、タクシーのぼった栗野郎がいる(私のようなハッタリのスウェーデン語だと:)、という難点はありますね^^;
長文失礼しました。ではでは。
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質問しても宜しいでしょうか (J.Walker)
2008-03-09 17:42:41
突然書き込みをして申し訳ありません。
実は、再来週、ヨーテボリにスケートの世界選手権を見に行きますが、地図はあちこちでわかるものの、
路面電車のルート図を探せずもたもしていて、こちらへたどり着きました。
とても優秀な方に、観光案内のようなことをお尋ねするのは恐縮ですが、
もし、英語版サイトをご存知でしたら教えてください。
巷のガイド本は数が少なく、ネットでもなかなか探せず、焦っております。

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横レスで失礼します (Lisa)
2008-03-10 00:01:31
こんな書き込みをするなんて、自分でも暇だな~と思うのですが、探していらっしゃるのはこんなものでしょうか?

http://www.vasttrafik.se/upload/kartor2007/spv_stombuss.pdf

http://www.goteborg.com/default.aspx?id=528
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感謝感激です (J.Walker)
2008-03-10 22:07:52
ありがとうございます。本当に助かりました。

スケート観戦で海外のあちこちへ出かけていますが、
トリノ、ミラノ、モスクワ、パリなどガイド本やネット検索の容易なところばかりでしたから、今回は苦労しました。
地球の歩き方なんて、ヨーテボリには3ページしか割いてなかったし。

今回、イースター4連休に当たって、買い物が大変そうなので、カップヌードルなど準備していきます。

わがままついでに、もう一つ教えてください。
緯度の関係上、北海道でも運がよければオーロラを見られますけれど、ヨーテボリでそれをご覧になった事はございますか?
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Unknown (Yoshi)
2008-03-12 19:05:34
>Lisaさん

横レス、ありがとうございました。

観光案内は残念ながら、受け付けておりません。悪しからず。ですので、Lisaさんに感謝しております。
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Unknown (Yoshi)
2008-03-12 19:14:36
Kosaさん

遅くなりましたが、現地での体験談を楽しく読ませて頂きました。ちょうど、この公共交通の拡大期に生活されておられたのですね。

夜遅くまでバスや鉄道が使えるというのは、本当に便利だと、私も感じますよ。金・土の夜は遅くまで飲むことができますからね。

>そうそう、バイオガスのバスの側面
>には「55av111!」のように書いて
>あって一目で分かりました。

新車導入のPRだったのでしょうね。

私も京都に住んでいたことがあるのですが、公共交通の不便さにうんざりしていました。市内の交通渋滞のために、バスに乗ってもなかなか進まないし、料金も高く、他の交通手段に比べた便益がなかなか感じられない。歴史的な街を味わうために観光客が国内外からやってくる京都であればこそ、都市計画をもっとしっかりし、市内の乗り入れ規制などを有効に使って、快適な街づくりをして欲しいものだと思います。
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Unknown (Yoshi)
2008-03-12 19:15:17
オーロラは残念ながらヨーテボリでは見たことがありません。
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Unknown (H.Usui)
2008-03-13 03:31:17
此処で県といわれているのはLaonというのですか、もともとスコーネは一つではなかったのですか。
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Unknown (Yoshi)
2008-03-13 03:39:29
日本でも、武蔵や讃岐などの昔からの地域名があり、近代になってからそれとは別に都道府県ができたように、スウェーデンの地域名にも2段階あります。この2つが必ずしも一致しているわけではないようです。

スコーネは昔からの呼び方ですが、97年半ばまでは二つの県(レーン(La:n))がありました。
・Kristianstads la:n
・Malmo:hus la:n

この二つが一緒になって、今では
・Ska'ne la:n
となっているようです。つまり、今では古い地域名と県名が一致しているのです。
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Unknown (Kosa)
2008-03-14 00:19:39
そうですよね、京都市内の渋滞は酷いもんですね。特に観光シーズン。祇園のあたりはいつでも。信じられない混み方するバスも。。。

私の京都生活は2年間ですが、1999-2001に吉田寮というところに住んでおりました。何処かですれ違っていたかもしれませんね^^;
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